シングルファザーローランくん 作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)
与太話回です。細かい設定とかあまり考えずに読んでください笑。
その日、図書館が震撼した。
司書補達が吹き飛ぶ。まるで紙切れのように呆気なく。今、図書館は史上最大の絶望に包まれていた。
「ぱぱ! ぱぱー!」
「嬉しい、嬉しいけど、ちょっとでいいから手加減してくれよアンジー……ごばぁ!」
司書補達と同じように吹き飛ばされた俺。壁に叩きつけられる。アバラが数本と……畜生、鎖骨も逝ってるなこれ。
「ローラン、大丈夫!? すごい吹き飛び方だったけど……」
「マルクト……大丈夫じゃないけど、やるしかないから……」
「ふぅ……手に負えないな。どうしたもんか」
ゲブラーが額に手を当てた。あのゲブラーがだ。もう希望はないのか……?
こんなことになっているのは、本当に予想外の事故が原因だった。
最近のアンジェラは自分で動けるようになったから、みんなで見守りながらいろんな階層をぶらぶらさせていた。そして、言語の階。目につくもの全てに興味を持つお年頃のアンジェラが、机の上に置かれていた赤い霧の本を触っていた。
赤い霧の本は、ゲブラーにしか扱えない。だから、ある意味一番安全な本だった。そのはずだったんだけど、何故かアンジェラがその本を開いた瞬間、アンジェラが赤い霧の力を得た。小さなミミクリーとカーリーのE.G.Oを身に纏った状態でだ!
しかも、よりによってその本はミョの腕前と孤独なフィクサーを帰属させていたから……あとはお察しだ。エレキギターの音と共に文字通り、誰よりも速く、最強になったアンジェラが全てを破壊し尽くした。……流石に残像しか見えないハイハイを見た時は目を疑ったけどな。
「ローラン、お前が責任を持ってなんとかしろ」
「バカ言え! 俺の愛娘だぞ! 武器なんて向けられるわけないし、俺たちはただ受け止めるしかないんだよ!」
「そうだね。いくら強いからと言って、アンジーちゃんに武器を向けたり暴力を振るうことはできないかな……」
ホド……やっぱりホドなんだよ、俺のことを一番分かってくれるのはさ!
「アンジーの行動に悪意や敵意は見られません。ただ私たちに甘えているだけでしょう。それが赤い霧の力で振るわれているから問題なのですが」
「逆に言えば、いつものようにあやして落ち着かせればいいってことよね」
「て言っても、さっきご飯食べたばっかだし、そもそもおやつだってE.G.Oを纏ってるから食べれないぞ」
「困ったわね……」
俺たちが悩むのを尻目にキャッキャッと楽しそうにしているアンジェラ。その時、遂にアンジェラは自身の背中にある、小さなミミクリーに気がついた。
「退避! 退避だ!」
司書も司書補も関係なく、一目散に逃げ出す。赤ちゃんが長い棒のようなものを手に取ったら、次に行われることなんて分かりきっているからだ。
アンジェラが面白そうにミミクリーを振り回す。すると、ミミクリーがアンジェラの意思に応えるように蠢き、赤い残像を残しながら周りの全てを切断した。
「小切断-横、か……」
「アホなこと言ってる場合か! そもそもあんたの力だろ! なんとかする方法はないのか?」
「ない。ないから私は強かったんだ」
「ああそうですか、そうですよね!」
もう終わりだ……。このまま俺の娘が全てを破壊して、図書館は崩れ去るんだ。これも全部俺のせいだ、済まない、アンジェラ……。でも、館長様と同じ名前の俺の娘が図書館を破壊したなら、それはもう館長様が壊したも同然じゃないか? だから許してくれ。
そんなくだらないことを考えていると、後ろからいつものパチンという音が聞こえた。振り向くと、そこには館長の方のアンジェラとビナーが佇んでいた。
「あなた達、何をやっているの……」
「赤子か。見るのは久しいな」
「アンジェラ! 申し訳ないけど、今立て込んでてな」
「見ればわかるわ……どうしてこんなことになったの」
「俺にもさっぱりだ。アンジーが赤い霧の本を開いたらこうなっちまった」
「……ビナー、お願い」
その言葉に従うように、ビナーが手を挙げる。その瞬間、鎖がアンジェラにまとわりついた。見たこともない鎖にアンジェラがはしゃぐ。
はしゃぐアンジェラの力にも全く微動だにしない鎖。流石は元調律者。特異点ってやつは本当に恐ろしいな。
「赤子よ。はしゃぎ回った後はゆっくりと寝るのが道理だ。でないと、成長する事が無い故」
指を鳴らす館長様。アンジェラに帰属していた赤い霧の力が再び本の形となって分離する。アンジェラはただの赤ちゃんになった。
「御休み」
ビナーがアンジェラの目に手を当てる。すると、不思議なことに、どんどんうつらうつらとしていき、すぐに眠りに落ちた。
「……アンジェラに何をした」
「何も。ただ遊び疲れたのだよ。赤子とは其のようなものだ」
アンジェラを抱き抱える。規則正しい呼吸。すやすやとただ眠っているだけだった。……ちょっと前まではあんなに軽かったのに、今じゃこんなに重い。大きくなったなぁ。
「赤子か……懐かしい物だよ」
「なんだ、お前にも子供がいたのか?」
薄く笑うビナー。馬鹿にしてんのか?
「……嘗て、H社が禁忌を犯した事があったのだよ。都市の中で、生まれてはいけないものが産まれて仕舞った。其れを思い出したのさ。其れは、実に感心だった。綱渡りではあったが、頭を上手く使っていたな」
「それで、どうなったんだ?」
「果たして、私が其れを言う意味はあるのか。禁忌を犯した者の末路は疾うに分かっているだろうに」
……全員死んだか。頭。神の如く都市を陰から牛耳る者たち。糞食らえだな。
ビナーは階段を登って自身の居た階層へと戻っていく。
「嗚呼、ローラン。今度はその赤子を連れて来ると善い。紅茶の用意はしておこう」
その言葉を最後に、ビナーの姿は見えなくなった。
「ふぅ。とりあえず、なんとかなったから良かったか」
「ローラン。次からはアンジーに本を触らせてはいけないわ。しっかりと見張るようにしなさい」
「わかりました……」
そうして俺たち司書と司書補は一日中、荒れに荒れた図書館の整理をするのだった。