シングルファザーローランくん 作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)
大きな音と共に図書館が揺れた。
「な、なんだ!?」
「……どうやら、招かれざる客が来たみたい」
「招かれざる客って……」
その言葉を聞いた瞬間、脳内にとある人物が浮かんだ。
アンジェリカの兄にして、色を授かったフィクサー。青い残響のアルガリア。あいつのやけに腹の立つ爽やかな笑顔が浮かび上がってくる。
「ああ、クソ! もうめちゃくちゃ嫌な予感がするぞ……」
「とりあえず、音のしたところへ急ぎましょう」
騒音の発生源へと走っていくと、そこには予想通りアルガリアとそのお友達がいた。
「……あんたたち正気? 力ずくでこじ開けて入ってくるとか」
「こんな風に入ってくるゲストは始めてだな……それで要件は? お前たちのための本はないんだけど。招待してもないし」
「僕たちの探す答えが図書館にあると聞きました。それも最深部に……」
ねじれたフィリップがそう答える。……こいつとも随分長い付き合いだな。図書館の被害者にして、都市への加害者になった者。今は落ち着いてるみたいだけど。
「……誰が大人しく渡すって言った?」
「許しを得るとも言ってないよ」
アルガリアが前へと歩いてくる。残響楽団のリーダーにして、唯一ねじれていない男。マジで何考えてるのかわかんないな。
「……」
「あ、そうだ。ローラン……前言っただろ。すぐに会えるって」
「俺は別に会いたくなかったな」
「ほんと薄情だね。積もる話もあるだろうに」
「はぁ……お前が俺の家に来た時に言ったはずなんだけどな。アンジーにだけは手を出すなって。手を出したらありとあらゆる方法でお前を殺してやるって」
「アンジー……? ああ、アンジェリカの忘れ形見のあだ名かな? 安心して。俺たちの目的はその図書館にある一冊の本だけ。それさえ手に入ればいいんだ。アンジーを傷つけるつもりなんて……はは、欠片もないよ」
「そうかよ。……でもお前みたいな怖い伯父さんが、怖いお仲間をぞろぞろ引き連れて来たら、アンジーが泣いちまうだろ? だからお引き取り願いたいんだけどな?」
「……野獣みたいなお前に言われたくはないね」
アンジェリカと双子のくせになんでこいつはこんなにクソみたいなやつなんだ?……いや、よく考えたらアンジェリカも顔合わせの時は碌なやつじゃなかったな。やっぱり双子か。
くだらないことを考えていると、1人のねじれが俺に話しかけてきた。
「久しぶりだな、ローラン」
「お前は……ゼホンか」
「これは意外だな。まさか俺を覚えているとは」
「お前だけじゃわからなかったさ。でも、お前のそばにいる人形、それを見ればすぐに思い出した。……お前は結局選べなかったんだな。もっといい方法を……」
「もっといい方法だと? そんなものを選ぶ余地が俺にあったとでも言うのか?……都市は残酷だ。あの日お前が俺の作業室へ来た後、別のフィクサーが全てを破壊していった。ようやく再会できた息子まで……」
「……そうか」
「依頼主はフィクサー達にただ子供の遺体を取り返して欲しいと、それだけを依頼した。にも関わらず、フィクサー達は意味もなく全てを壊していったんだ! それは全てを踏みにじる行為だった。俺の全ても、依頼主が俺にかけた情けさえもな」
結局お前は救われなかったんだな、ゼホン。でも、その憎しみをどうにかして捨てなきゃいけないんだよ……じゃなきゃ結局お前も、都市の残酷さに加担しているだけじゃないか……
「それにしても、ローラン。まさかお前が図書館でアンジェラを守っているなんてな。お前の妻はピアニストに殺されたというのに」
「……ピアニスト?」
「え? ははははは……まさか、知らなかったのかい? アンジェラ……」
こいつら……余計なことを言いやがって。わざわざ俺は言葉を濁してたっていうのに。
アルガリアが笑う。この世で1番面白いものを見たかのように、腹を抱えて笑う。
「あはははは! 笑いすぎて涙が出てくるなぁ……。アンジェラ……お前があの腹黒野郎の片割れを殺したんだよ? お前が俺の妹を殺したんだ……」
「白夜、黒昼のせいでねじれが……そしてねじれのせいでピアニストが」
「そして白夜、黒昼はアンジェラ、お前のおかげで起こったことだ」
「明白な因果ですね」
「可哀想なアンジェラ様……どうしてまだ盲目でいらっしゃるのでしょうか……」
「…………」
アンジェラが動揺している。瞳は揺れ、足元はどこかおぼつかない。
「アンジェラ、あいつらの話を聞くな。別にお前のせいじゃない」
「でも、ローラン……私は……」
「へえ? 意外な答えだね。ローラン、お前はお前の妻を、そして俺の妹を殺したアンジェラを恨んでいないのかい?」
「……ああ。そうだな。俺はお前の知らないことを知ってるからな」
「それは……気になるところだね」
笑いを浮かべていたアルガリアの顔から表情が消える。
「お喋りはこのあたりにしておこうか。ここで俺たちは図書館の光を得て、ピアニストを超える美しさで都市を照らすんだ。誰も俺たちを忘れられないように! さぁ! それじゃあ準備して」
残響楽団のメンバーがアルガリアの元へと集う。
「この都市の歌がフィナーレを控えているから……お前はお前達のストーリーを守らないとね?」
パチンといつもの音が響く。……もしかしたら、これが最後の接待になるかもな。