シングルファザーローランくん   作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)

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本日2話目の投稿です。前話を見てない方はお気をつけください。



考える自分

 

 

「やっぱり、俺の相手をしてくれるのはお前なんだね」

「他の奴に任せるわけにもいかないだろ」

 

 総記の階にて、俺とアルガリアは向き合っていた。司書補はいない。俺が他の階層を助けに向かわせたからな。

 

「それで、どうしてお前はアンジェラを守っているのかな。お前のことだから、アンジェラに復讐する機会でも伺っているものだと思っていたんだけど……」

「結局、アンジェラも被害者だった。誰よりも都市の苦痛に晒され続けた奴だったんだよ」

「だから復讐をしないって? お前らしくないね。今までのお前なら、それはそれで、これはこれだって言っていたと思うんだけど」

「そうかもな。……俺も知らないうちに変わったのかもしれない」

 

 そしてその変わったきっかけは、きっとアンジェラのおかげだろうな。2人のアンジェラ。俺の愛した人の子。そして、愛されなかった子。

 

「で、お前が俺に聞いたから俺も聞くけど。お前はなんでこんなことをしでかしてるんだ?」

「こんなことって何だろう……。正しくないこと?」

 

 アルガリアは本当に俺の言っていることが理解できないというように首を傾げた。

 

「人間という存在が正しい常識だというものを抱えているからこそ発展がなく、不幸な人生を生きるわけだろ。正しいということはどうして人間の欲望を制限しようとするんだろう?俺は疑問を抱いたけど、すぐこれに対しての答えを出した。そして……これからその事実を都市全体に知らせようと思うんだ」

「……お前と話すと頭が痛くなってくるな。ちっとも何言ってるかわからないぞ」

「不可能だ、って枠に囚われて疑うからその外に出られないってことだよ。俺たちはこの枠さえなければ果てしなく飛んでいくことが出来る。これは仮定ではなく、確信できる事実だ。それを悟って俺たちの楽団は今、この姿でお前たちの前にいるんだ」

「そういう割には、お前だけはねじれじゃないみたいだな?」

 

 俺の言葉にアルガリアは少しだけきょとんとして、笑った。

 

「ははははは! 本当に面白いことを言うんだね……。さっきのアンジェラもそうだけど、どうしてお前達は俺をこんなに笑わせてくれるんだろう。あ〜ローラン……俺、また涙が出てきたよ……」

「……お前の笑いのツボは俺と随分違うみたいだな」

「ごめんごめん。……ふう。やっと落ち着いたよ。ローラン、実は俺も、ねじれなんだよね」

 

 そう言い放った瞬間、アルガリアの身体がねじれていく。頭は青い球体へと変わり、白い煙を吐き出し続ける。その煙がまるでアルガリアの髪のように見えた。

 

「お前、その姿は……」

「ねじれも結局は人の姿の一つだ。見た目は重要じゃない。所詮、人の姿は外側の皮だけでできているんだから。そんなものに、俺は執着しないよ」

 

 ねじれたアルガリアは、今度は逆再生するかのように元の人間の姿へと戻っていく。人間とねじれを自由に行き来する……ねじれの常識が通用しないな。不可能を可能にすると言うだけはあるか。

 

「そもそも、ねじれは理性がないもんだと思ってたが……よくよく考えるとお前もお前のお友達も理性があったな」

「俺は本当にいい友達を持ったよ。……俺たちがねじれる時、声が聞こえるんだ。とても美しい声。この世で1番美しい声が。その声が俺たちを本当の姿へと導いてくれるんだ……」

 

 ……心当たりがあるな。シャオも何かと話していた。アルガリアもまた、そうなのか。

 

「最近はその声が聞こえない。でもね、その声があってもなくても関係ないんだ。重要なのは、本当の自分を自覚できるかどうかだから。殆どのねじれ達はどうしようもない現実に心が折れて、ようやく自分の欲望に気がつく。でもそれは可哀想なことだ。何かを諦めて、欲望を曝け出すだなんて、妥協みたいだろ? そんなことをする必要はないんだよ。ただ、自分に正直になる。それだけで、俺たちは枠を破って飛び立つことができるんだ」

「お前はアンジェリカが死んで、絶望したからおかしくなったわけじゃないってことか」

「そうだね。アンジェリカが死んだことをどうして悲劇という言葉で定義できるんだろう。アンジェリカの死が、そしてその死によって奏られた音楽によって俺はようやく心の穴が埋まったんだ。生きていることが存在の本質じゃないんだ。むしろ、生きていれば俺の元から離れてしまう。けれど、あの旋律はいつまでも俺の心に寄り添ってくれるんだ。わかるだろ? ローラン」

「…………」

 

 アルガリアと俺はどこまでもそりが合わない。だけど、その言葉に一定の真理があることは、認めざるを得なかった。死んでもなお、残り続けるものは確かにある。たとえ慰めにすぎなくても、それが心の穴を塞いでくれる時だってある。初めてアルガリアの言葉に共感できた気がするな。

 

「俺たちはピアニストよりも美しい旋律をこの都市中に響かせたいんだ。誰もが感動し、酔いしれるような旋律。そうやって皆が、都市が、忘れることのできない演奏をして皆の心を埋めて、ずっと寄り添い続けるんだ。きっとそれで都市も悟るはずだ。人はどこへだっていけるってね」

「大層なことでございますねえ。でも、それに俺たちを巻き込むのはやめてほしいところだな」

「仕方ないだろ? 素晴らしい楽章を作らないといけないんだ。そのためには……今、お前たちのその力を手に入れないといけないよね?」

「なら、俺が止めないとな」

「……楽しいお話はここまでにしよう」

 

 懐から黒い仮面を取り出して、顔につける。……久しぶりの感覚だな。

 

「その仮面をつけるんだ? 意外だね……もう二度とつけないと思っていたんだけど」

「俺だってそう思ってたさ。でも、アンジーに家族が殺し合うところなんて見せられないだろ」

「……一理あるね」

 

 そういうとアルガリアもまた、ねじれへと姿を変えた。

 

 お互いに武器を構える。空気が張り詰める。最初に動いたのはアルガリアだった。

 

 鎌が振るわれる。風切り音すら置き去りにするような、けれどもゆっくりであると錯覚する、青い残像を伴う一撃。

 

「ラルゴ」

 

 アルガリアが歌うように呟く。俺はデュランダルを盾にし、その重い一撃を受け止めた。衝撃が骨まで響く。前の時とは比べ物にならない一撃の重さ。ねじれになったせいで筋力も上がったのか。

 

 振動する鎌によって震え始めるデュランダル。危険だな。無理やり押し返して、距離を取る。

 

「逃がさないよ」

「離れろ」

 

 執拗に距離を詰めようとするアルガリアに、ロジックアトリエの弾丸を撃ち込む。所詮牽制にしかならないが、頭を狙ってるんだ。わざわざ服か鎌で防がないといけないから、自然と距離ができる。その隙に武器を取り出す。

 

「アレグロ」

 

 さっきよりさらに速く振るわれる鎌をアラス工房の槍で弾いた。振動で共鳴されると厄介だ。色んな武器を使うことで共鳴を防ぐ。

 

「お前ばっか攻めさせる訳にはいかないな!」

 

 ムク工房と狼牙工房の武器を取り出す。比較的振りが速く、防ぐのが難しい武器だ。大鎌は扱いが難しいし、小回りも利かない。だから……。

 

「ぐっ……」

「リズムが崩れてるぞ」

 

 無数の傷がアルガリアに刻まれる。正直、アルガリアにとって俺はかなり相性が悪い。アルガリアの振動する鎌は、相手の武器を振動させ、それと共鳴することでさらに速度と破壊力が増していく。更には相手の武器を破壊しやすくなるおまけ付き。でも、こうやって色々武器を切り替えながら戦えばそれを無力化できる。

 

 老いた少年工房とケヤキ工房の武器で、攻撃の起こりを徹底的に潰す。自由に攻撃なんてさせねえよ。

 

「それは陽動。こっちが本命だよ」

「ッ!?」

 

 アルガリアの姿が掻き消える。踊るように動き回るアルガリア。四方八方から鎌が振るわれる。……防ぎきれないか。

 

 背中を深く斬られる。……問題ない。腕も足も無傷だ。機動力に支障がなければなんとでもなる。それに……。

 

 俺の体が光り始め、青い花びらが舞う。

 

「それは……人差し指の力か」

「おお、正解だ。よくわかったな」

「流石図書館、いざ敵として戦うと、本当に厄介な力だね」

 

 解禁。俺は6種類以上の武器を使ったから既に条件は満たしてる。おかげで体が軽いし、力も漲ってきた。

 

「でも、これで終わりじゃないぞ」

 

 図書館が俺に応え始める。鼓動。二つ目の心臓が俺に宿る。

 

 雰囲気の変わった俺を危険だと思ったのか、アルガリアはねじれの人並外れた筋力と速度をもって、全力で鎌を振るう。

 

「それでも遅いな」

 

 クリスタルアトリエ製の双剣を手に取る間に、その鎌を避ける。外付けの心臓のおかげで身体が軽い。カウンター気味に双剣で袈裟斬りにする。

 

「ッ!……ローラン!」

 

 血を流し、苦痛に呻くアルガリアの苦し紛れな攻撃。そんなことをしても余計に隙を晒すだけだ。ホイールズインダストリーの大剣で叩き潰す。

 

 アルガリアも流石に分が悪いと思ったのか、距離を取る。

 

「結構しんどそうだな?」

「……流石に強いね。ずっと接待してたからかな。でも……これで決めるよ」

「なら、俺も全力でいくか」

 

 アルガリアの鎌が大きく震え、音を奏で始める。それに共鳴するかのように、今まで鎌が通った空間が振動して、青い残影が浮かび上がる。青い残響。その異名通りの光景だった。

 

「最後の旋律を刻もう」

「Furioso」

 

 震える空間がアルガリアの鎌を加速させる。その速度には、あの赤い霧を彷彿とさせるものがあった。

 

 その大鎌によって振るわれる超高速の連撃を、ありとあらゆる工房武器を用いて対処する。

 

 青と黒の軌跡。震える鎌によってアルガリアの元で響く旋律は、俺に届く頃には沈黙した。互角の攻防だった。だからこそ、この決着は必然だ。

 

「これは!?」

 

 アルガリアの足元が凍りつく。幻想体、雪の女王の力だ。

 

「残念だけど、俺は1人で戦ってるんじゃないんでな!」

 

 凍りつき、動きの止まったアルガリアをデュランダルで斬り捨てる。感触でわかる。致命傷だ。

 

 膝をつき、崩れ落ちるアルガリア。手から大鎌が落ちた。

 

「ローラン……こんな風には終わらせない……」

「…………」

 

 その言葉を最後に、アルガリアは光のページになった。

 

「ふぅ……。疲れたな……」

 

 仮面を外す。……あーやだやだ。何が嫌かって、上手くいけば本当にこれで終わりじゃないってことが嫌だ。流石にもう一回戦うのは勘弁してほしいんだけど。

 

「さてと、みんなは大丈夫かな……」

 

 そうして、俺はアルガリアの本を持って総記の階から出た。あとは、アンジェラ次第だな。

 

 

 

 

 





後書きですが、私の独自解釈というか、妄想を少し書かせていただきます。
まず、アルガリアは非常に稀有な人物です。これは特色だから、とかではなく、その精神性が稀有です。

特筆すべき点は、カルメンの声を常に聞いていながら、アルガリアは人の姿のままだったという点です。というのも、外郭に足を運んだときも、紫の涙と話していたときも、美しい声への言及をしているのに、外見は常に人の姿をしていました。彼以外は皆カルメンの声を聞いてすぐにE.G.Oを発現、あるいはねじれとなっているにも関わらずです。

また、彼は戦闘の際に揺らぎのパッシブを保有しています。この揺らぎは、E.G.O発現者かねじれが必ず持っていて、そうでないものは持っていないパッシブです。(トマリーなどの一部例外あり)

これらの情報と、次々作のLimbus Companyで明かされた、ねじれも人に戻れるということを考慮すると、アルガリアは本編前に一度ねじれた後に人の姿に戻ったのではないか、と考えました。妄想の域を出ませんが。

個人的には、カーリーが唯一光の種がなくともE.G.Oを発現できたように、アルガリアもまた、光の種がなくともねじれになれる…そんな素質を秘めた人物ではないのか、と思っています。
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