シングルファザーローランくん   作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)

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有り得ないレベルで筆が進んでます。ラオルが面白すぎたのが悪い。



分別することの出来る理性

 

 

 ピンポーンと玄関のチャイムが鳴る音がした。当然来客の予定はない。俺は黒い沈黙の手袋をすっと身につけ、恐る恐るドアを開けた。

 

「やあ、ローラン。久しぶりだね」

「……どなた様ですかぁ? お前のことなんて俺はこれっぽっちも知りませんねぇ? それでは!」

 

 勢いよくドアを閉めようとする、が、完全に閉まる前に青いキチガイの手が隙間にするりとねじ込まれる。

 

「ひどいじゃないか、ローラン。いくら君が愚かでも、仮にも君の義兄にとっていい態度じゃないと思わないか?」

「お前が真っ当な義兄だったら喜んでもてなすさ! そんなふざけたことを言う前にまずは自分の事を顧みるんだな!」

 

 青い残響、アルガリア。フィクサーの中じゃ頭のイカれ具合で右に出る奴はまずいないクソ野郎。そして非常に不服ながら俺の妻アンジェリカの双子の兄であり、俺の義兄。そしてアンジェラにとっては伯父にあたる。…………いやいや普通にありえないだろ。嫌すぎるんですけど?

 

「ははは……お前がそんな事を言うだなんて笑えるね。馬鹿馬鹿しすぎて涙が出そうだよ。……俺の妹を護るどころか、死に目にすら会えなかったお前が言うことか?」

「……アルガリアッ!!」

 

 衝動的に拳を振り抜く。その拳がアルガリアに当たる直前で俺はなんとか止めた。そんな俺を見て、アルガリアは微笑むのをやめ、目を細めた。

 

「……へえ? 意外だね」

「……チッ」

「やっぱり、アンジェリカの子どもが見てるからかな?」

「ッ!?!?」

 

 こいつ、なんで知ってるんだ! どうする、アンジェラを連れて今すぐに逃げるか?

 

「やっぱりそうだったんだ?」

「……お前、鎌かけやがったな」

「ほとんど確信していたけどね。どうせお前のことだ、アンジェリカを失えば何もかも見えずに暴れ回ると思ってたんだけど……嫌に大人しいからね」

「何を企んでいやがる……返答次第じゃ今ここで……」

 

 アルガリアはまたいつものように微笑み始めた。

 

「そんなに興奮しなくてもいいじゃないか。ただ世間話をしにきただけなんだ」

「へーへーそうですか。じゃあ話をしたらすぐ帰れよ」

 

 ドアを開け、俺はアルガリアと向き合った。かなり意外なことに、アルガリアは青い残響のトレードマークでもある大鎌を持っていなかった。

 

「家の中に入れてくれないんだ?」

「アポも取ってない変な伯父さんがズカズカ入ってきたら、アンジェラが泣いちまうからな」

「アンジェラ……アンジェラか。お前も随分な名前をつけたね」

 

 口調とは裏腹に、その言葉には馬鹿にするような意志は少しも感じられなかった。

 

「ローラン。一度でいい……アンジェラに会わせてくれないかい?」

「…………」

 

 こいつの話す言葉にはいつも余裕が漂っている。でも、今この瞬間だけは、こいつらしくなくどうしようもなく切実で、泣いているようにも聞こえる声だった。

 

「一度だけだ」

「……ありがとう、ローラン」

 

 部屋にいるアンジェラは穏やかな寝顔で、小さくすーすーと音を立てながら寝ていた。

 

「君が……アンジェリカの忘れ形見なんだね。本当にそっくりな寝顔だ。アンジェラ……」

 

 アルガリアの白い手袋をつけた手がアンジェラに伸びる。その手は腫れ物を触るように、宝物を磨くように、アンジェラの髪と頬を優しく撫でた。

 

「ローラン、俺はね。この都市に、誰もが二度と忘れられない演奏を響かせて、刻みつけたいんだ」

「はあ? 何言ってんだ?」

「俺がピアニストのところに着いた時には全てが終わっていた。崩れ落ちた建物、泣き叫ぶ人々、解体された人の肉と骨でできた鍵盤と音符、そしてアンジェリカの死体…………それを見た時の感情が、君ならわかるだろう?」

「絶望、執着、怒り、悲しみ…………」

「うん、そうだ。あの時俺の中から湧き出したのは深い深い闇だった。でもね、すぐに気づいたんだよ。あの演奏はこの上なく美しかった。あの演奏こそが、アンジェリカが俺に残したものだったんだ……そうわかった瞬間、本当に全てが美しく見えたんだ」

「……イカれてんのか?」

「俺とお前になんの違いがあるんだ? アンジェリカの残した子を大切に守ろうとするお前と、アンジェリカの残した演奏を大切にする俺との間に……俺はもう、アンジェリカが少しの間身にまとっていただけの皮に執着するのはやめたんだよ」

 

 ……理解ができない。どうやら俺とこいつは徹底的に分かり合えないらしい。

 

「お前が何をしようが、どんなことを思おうが知ったこっちゃない。でも、アンジェラにだけは手を出すなよ。それをしたら最後、俺はお前を地の底まで追いかけてありとあらゆる手段で、生きたまま殺してやる」

「……ははは、わかったよ」

 

 アンジェラがパチリと目を開ける。初めて見る男に不思議そうな顔をした。

 

「綺麗な目をしているね……そんなところまでアンジェリカそっくりなのか……」

 

 しばらくの間、屈みながらアンジェラを眺めていたアルガリアは、ゆっくりと立ち上がった。

 

「俺はこれで失礼するよ。……ローラン、今度はしっかり守るんだ」

「お前に言われなくとも。……じゃあな、義兄。二度と会わないことを祈るよ」

 

 アルガリアは最後にアンジェラを一瞥し、帰った。

 

「……ふう。お騒がせな奴だ。……さてと、アンジェラ〜パパだぞ〜」

 

 そして俺は、いつものように黒い沈黙の手袋からでんでん太鼓を取り出して、アンジェラをあやすのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ローラン……お前も前を見て進めるんだね。なら俺も進まないとね」

 

 ローランの家から離れたアルガリア。彼はいつも通りの笑顔でただ前を見据えた。

 

「最高の舞台の、準備をしよう」

 

 

 

 

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