シングルファザーローランくん 作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)
今回の話は一番書きたかったストーリーの一つです。
俺がいくら一級フィクサーで金を沢山持ってるからって、尽きないほど持ってるわけじゃない。当然何もせずに過ごしていればいつかは路頭に迷う羽目になる。だから、俺は久しぶりにフィクサーとして働いていた。
「アンジェラ〜お前はほんとに可愛いなぁ……」
もちろん、アンジェラのことは絶対に守らないといけない。だから、俺はいつでもアンジェラの様子を見れるように家の中とその周辺に監視カメラをつけた。だからこうして仕事中でもアンジェラを見れるってわけだ。
ちなみに信頼できる伝手からバトラーも雇ってるから、俺が家を空けてる間のお守りも完璧だ。…………正直バトラーにすら嫉妬してるけど、まあこれは仕方ないな。
「それで、大体この辺のはずなんだけど……」
俺が受けた依頼はとある施設への調査。この依頼を受けたのにはいくつか理由がある。一番大きな理由の一つには、なるべく危険がなさそうなものを選びたかったから。そしてもう一つの大きな理由は……。
「いなくなった子どもが最後に目撃された場所……か」
俺も親になった。依頼にそんなことが書いてあったら、まあそりゃ受けたくなるよな。
「ここだな……」
ひっそりと佇む小さな施設。どことなく不穏な気配がした。
「行くか」
そして俺は、全ての音を消して施設へと忍び込んだ。
◇◇◇
「なんなんだよこれは……」
施設の中は恐ろしいほどに不気味だった。妙に嫌な匂いがする作業室。ツギハギにされた子どもたち。どれ一つとしてまともな死体はない。全てが歪に縫合され、組み合わせられていた。それにも関わらず、縫合の跡は非常に丁寧で、慈しみと愛情を感じるほどだった。
そして何よりも異質だったのは、その死体のどれもが糸に繋がり、ぶら下がっていたことだった。まるで人形遊びでもしているかのように。
子どもを冒涜するかのような行為と、単純にそれだけでは説明のつかない丁寧な縫合跡。その矛盾が俺には悍ましかった。
「ふざけやがって……どいつもこいつもイかれ野郎ばっかりか?」
暗い炎が心の底から湧き上がる。この数多の子どもたちと、その親のことを思うとどうしようもなく怒りが込み上げる。
その時、声が聞こえた。男の声だった。俺はその声が聞こえる方へと走る。
「これでほぼ完成だ……。これで息子が助かるんだ」
「お前か……こんなふざけたことをしてんのは」
「……? 誰だ、君は……」
「答えろ。何のためにこんなことをしてる」
そいつは白い髪の男だった。どこにでもいるような、なんてことない男だった。くたびれ、生きるのに疲れた男だった。
「息子を助けるためだ……。あと少し、あと少しなんだ」
「息子だと? これがか?」
男のそばにはどんな人形よりも丁寧に、複雑に、そして執拗に縫合された人形があった。
「……これのために、お前はこんな数の子どもを殺して、こんなことをしでかしたのか?」
「違う……! ここにある人形は全部最初から死んでた子どもたちだ……。信じてくれ!」
「こんなものを見せられて、どうやってその言葉を信じればいい?」
「本当だ……本当なんだ……。この子どもたちが死んだことは俺とは関係ない」
男は俺に懇願するように、祈るように言い放った。歯を食いしばる。ギリギリと俺の奥歯が音を立てているのがわかる。
男の胸を掴み上げ、壁に押し付ける。男は苦しそうに呻いた。
「そうだとしても……何で、何でこんなことをした! お前も親なんだろ! この子どもたちの親の気持ちが痛いほどわかるはずだろ! 例え、例え死んでいたとしても、我が子をこんなふうにめちゃくちゃにされた親の気持ちが!」
「わかっている……わかっているんだ。それでも、俺の全てを注ぎ込んででも、息子を生き返らせたいんだ……」
「クソが!」
怒りのままに男を放り投げる。男は地面に這いつくばり、項垂れた。
「裁きを受ける覚悟はある……だから、今だけはどうか見逃してくれないか? お願いだ! 私の息子があそこで呼んでるんだ……」
俺はもう一度こいつが息子と呼ぶ人形を見た。精巧な技術で縫い合わされた人形……人間じゃなければ、確かに芸術的な価値があるかもしれない。だが、どうしようもなく嫌悪感が湧く。それでも……こいつにとっては唯一の希望、なんだろうな。
「お前……名前は?」
「……ゼホン。ゼホンだ」
「ゼホン……俺は、ここにいる子どもの親にここの調査を依頼されたフィクサーだ。その意味がわかるか?」
「………………」
ゼホンは、静かに涙を流していた。そして、その涙が果たして何故流れているのか本人にもわからないようだった。怒り……後悔……絶望……そして、諦観。今、目の前に見窄らしく項垂れている男は、どうしようもなく俺に見えた。
「俺は……依頼主にここで起きていたことを報告する。そのあとどうするかは、依頼主が決めることだ」
「…………!」
「消えろ。お前はもっと別の方法を取るべきだったんだ。もっと……もっといい方法を……」
俺はそう吐き捨てて、施設から飛び出した。
◇◇◇
「どうすりゃよかったんだろうな……」
俺は依頼主に全てをありのまま話した。依頼主は膝から崩れ落ち、声を上げて泣いた。そして、しばらくするとゼホンへの怒りと同情心の間で揺れ動き、話すことすらままならない状態になった。都市には珍しい、心の優しすぎる親だった。
チラリと横を見ると、アンジェラが天井に手を伸ばしていた。もがくように、泳ぐように。
俺はこの子を失った時、果たしてゼホンのようにならずにいられるのだろうか。……いや、それよりも悍ましく、残酷なことを成す。そんなことが容易に想像できてしまう。自分の痛みを押し付けるように、世界を呪うように、手当たり次第全てを破壊する自分……そんな想像を。
俺はアンジェラに人差し指を差し出た。するとその指をアンジェラは、小さな手でぎゅっと握りしめた。手は柔らかで、その力はとても弱かった。けれど、どんなものよりも重い。
「アンジェラ……君だけは、失いたくない……」
ゼホンはあり得た俺だ。アンジェリカを失い、アンジェラがいなかった俺だ。そして、アンジェラを失った俺だ。あいつは、俺のあり得た過去であり、あり得る未来だ。
「それでも、俺はああなっちゃいけないんだ。それはそれで、これはこれだから」
その日の夜、俺はゼホンと依頼主を思って、一人泣いた。