シングルファザーローランくん 作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)
日々増えていくPV数、見たこともないお気に入り数、気づけば爛々と輝く赤色バー……身に余る評価が押し寄せてきて戦々恐々としています。皆様ここまで読んでくださり本当にありがとうございます! そしてこれからも皆様が楽しんで読んでいただけるような物語を紡げるよう頑張ります! ちなみに、感想と評価をしていただけると狂喜乱舞します。筆の速度が縛られた怒り最強腕前になります。
俺は、殺した。大勢を殺した。殺して、殺して、殺して、殺した。自ら図書館にやってきたという大義名分の下、次々とやってくるゲスト達を殺し続けた。
ネズミ、ユン事務所、鉄の兄弟、鈎事務所、イかれた食人野郎共、街灯事務所、ツヴァイ協会の連中、奥歯事務所、捨て犬、謝肉祭、終止符事務所、夜明事務所、視線事務所、黒雲会、ブレーメンの音楽隊に、楔事務所……おまけにW社の特異点の秘密を丸ごと抱えた愛の町の連中。まだガキって言えるくらいのやつから、そこそこお年を召したやつまで、それはもう嫌になる程、殺し続けた。
そんなことをやってるもんだから、図書館はトントン拍子ででっかくなって、ハナ協会に都市悪夢認定されたわけだが…………何よりも意味がわからないのは、送られてきたゲストのうちの何人かはあのアルガリアとそのお友達が差し向けてきてるってことだ。あいつ、何がしたいんだ? 流石のあいつも俺とアンジェラがここにいるだなんて知らないだろうけど。
でも、そんなことは重要じゃない。本当に重要なのは、俺がどうするべきかってことだ。
この図書館って場所は、ある意味で都市そのものだ。誰かの犠牲によって利益を得る。その利益によってまた犠牲を生み出す。そうやって生み出されたものが、ただ単に自由と幸せだけを実現するものとなるのだろうか。蒼白の館長様は、それを理解していないんだろうな。
だけど、一番罪深いのは俺だ。俺はそれを理解していながら、その行為に加担している。自分と自分の娘の為に他者を踏み躙ってるんだ……。それが、都市だから。
「はぁ……」
「やっぱりここにいたのね、ローラン」
少し考え事をして憂鬱になっていた俺に、アンジェラが後ろから声をかける。
「おっとこれは館長様ではありませんか。何か要件でも?」
「……そういう態度はやめて。苛々するわ」
「すみませんでした……。で、アンジェラ。どうしたんだ?」
アンジェラはいつもとは違って少し躊躇するような態度だった。
「あなたの子どもの様子はどう?」
「ああ……ここで静かに寝てるよ。見るか?」
俺がそう言うと、アンジェラは何も言わずにベビーベッドで眠る赤子に近づき、眺め始めた。そしてしばらくの間、すーすーと寝息を立てる赤子を眺めたアンジェラは隣で同じように眺めていた俺に話しかける。
「この子は……どうしてアンジェラって名前なのかしら」
「どうしたんだ、いきなり」
「少し気になっただけよ。私と同じ名前の赤子が、一体どんな理由でその名前になったのか」
少し気になっただけというには、アンジェラの横顔はあまりにも真剣だった。
「……どうしても言わないとダメか?」
「ええ」
「はい、はい。結構恥ずかしいんだけどな、これ」
アンジェラの寝顔を見ながら、あの日のことを思い出す。人生で一番辛かった日。人生で一番救われた日。
「もう察しはついてると思うけど、俺にはもう家族はこの子しかいないんだ。俺の妻は、この子が産まれた日に死んだ」
「それは……出産のせいで?」
「うーん……違うけど、まあ色々ややこしいから似たようなもんだと思ってくれ。それで、俺の妻の名前がアンジェリカ。だからアンジェラだ。もちろん、俺の天使って意味もあるけどな」
「…………」
「そっちはどうなんだ?」
俺がそう言うと、アンジェラの顔は酷く悲痛なものとなった。それはまるで泣きじゃくる直前の子どものようだった。
「あまり、言いたい気分ではないわ」
その拒絶の言葉は、とても重かった。
「ねえ、あなたにとってこの子はどんな存在なのかしら」
「俺の世界だ。そして、俺に唯一残されたものだ」
「そう……」
アンジェラが、俺の天使に触れる。黒い髪を優しく撫でる。
「この子は、幸せね。ただそこにいるだけで誰かの幸せになれるのだから」
「アンジェラ……」
俺たちの話し声に気づいたのか、それとも撫でられたからか、アンジェラが目を覚ました。
「……ぱっぱ! ぱっぱ!」
「おーよしよし、偉いぞ〜ちゃんとパパのことがわかって!」
実は、アンジェラはつい最近ちゃんと喋れるようになった。多分、普通の子どもと比べると少し早いはずだ。まあ、俺とアンジェリカの子どもだからな。
「アンジェラ〜この蒼白いお姉ちゃんはお前と同じ名前なんだぞ〜ほら、アンジェラ。言えるか?」
「あう……じら? あうじら!」
覚えたての言葉で、健気に自分と蒼白の館長様の名前を言うアンジェラ。そしてその言葉に、アンジェラは酷く動揺した。
「どうしたんだ、アンジェラ?」
「いえ、なんでもないわ。本当になんでもないの……。私、もう行くわ。ありがとう」
そしてアンジェラは俺の返事も聞かずに、いつものようにパチンと音を立てて消えた。
「なんだったんだ結局……」
視線をベビーベッドへと戻す。俺の娘の透き通っていて、純真無垢な青い瞳が俺を見つめている。
「なあ、アンジェラ……。俺がパパで、本当に幸せか?」
返事はない。だけど、アンジェラはただ笑った。大人の固まった笑顔ではなく、咲くような笑顔で。その笑顔が答えだった。だから、俺も笑った。大人の造り物みたいな笑顔で。
「アンジェラ……。パパ、頑張るよ。ずっとそんな風に君が笑えるように」