ガイアが俺に早く消えろと囁いている   作:差六

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第二話「マジカル説明会とマジカル脅迫」

 謎の存在から謎の誘いをかけられた俺が冷静になるのに、およそ十分は必要だった。

 

 その間らびらびは魔法少女どうこうについては話さず、出会いがしらのような雑談に付き合ってくれた。

 

 途中、敬語はくすぐったいと言われたから早速止めた。正直ぬいぐるみもどきに敬語を使うのは違和感があったから助かった。

 

 ベッドに戻って話をして、常備してあるペットボトルの水を少し口に含んで。そうしてようやく落ち着いた俺は、同じくベッドに座るらびらびに話の続きを促した。

 

「ありがとうらびらび。そろそろ大丈夫そう」

「礼はいらないぴょん。急に押しかけたこっちが悪いぴょん」

「気持ちの問題だから。それで魔法少女って、見ての通り俺男なんだけど」

「大丈夫ぴょん!」

「何が?」

「安心するぴょん!」

「何を?」

 

 噂に聞く押し売り営業を遥かに上回るゴリ押し力をらびらびは見せつけていた。このマスコット、押しがあまりにも強い。ちょっと引く。

 

 それを敏感に察知したのか、らびらびは咳払いとともに一度身を引いた。

 

「ごめんぴょん。ちょっと焦り過ぎたぴょん」

「びっくりしただけだから平気。それより、焦りって?」

「そこも含めて、改めて話させてもらってもいいぴょん?」

「うん。お願い」

 

 俺が頷いたのを満足そうに確認すると、らびらびはどこからか謎の機械類を取り出した。

 

 えっ機械? どこから出したのそれ? というかどう見てもそれ、らびらびの体積数倍はあるよね?

 

 あまりにも疑問が多く大き過ぎて、絞り出せたのはたった一言だけだった。

 

「……それは?」

「マジカルタブレットぴょん。これに入ったマジカルパワポを、このマジカルモニターに映して説明させてもらうぴょん」

「マジカル多くない?」

「魔法少女用だから当然ぴょん。あっここのコンセント使っていいぴょん?」

「いいけど。デジタルじゃん」

「助かるぴょん。あとこれがマジカル次第とマジカル資料ぴょん。参考にして欲しいぴょん」

 

 ホチキス止めの紙束を手渡される。多分これもマジカルホチキスとかだ。恐る恐るそれを捲っている間にも、らびらびはきびきびと準備を進めていく。

 

 ファンタジー系ぬいぐるみもどきとは思えない手際の良さだ、あまりにもいい動きだったから、この状況はやっぱり夢なんじゃないかと一瞬考えてしまう。

 

 瞬く間に接続やら何やらが終わり、マジカルモニターに早速光が点る。Witches XPという画面がでかでかと写された。本当に色々と大丈夫なのこれ?

 

「らびらびの準備は終わったぴょん。耕太郎は大丈夫ぴょん?」

「……多分一生出来ないから、いつ始めてもいいよ」

「ならお言葉に甘えて、さっそく始めさせてもらうぴょん」

 

 ぽんっとらびらびがマジカルタブレットを触ると、画面が移り変わる。そこには丸々とした可愛らしいフォントで、目が潰れそうなほどに鮮やかなピンクの文章が三つ並んでいた。

 

「魔法少女とは何か。活動内容。メリットデメリット」

「話したいことはもっともっとあるけれど、とりあえず三つ、今はさわりだけ話すぴょん」

「デメリットも教えてくれるんだ。隠さなくていいの?」

「そういうのはよくないぴょん。マジカル優良誤認ぴょん」

「マジカルノルマでもあるの?」

 

 ガン無視された。

 

「まずは魔法少女とは何かからぴょん。ずばり、レムナントを回収する存在のことを言うぴょん」

「レムナント?」

「魂の雫、感情の残照、記憶の欠片、その他諸々のことをそう呼ぶぴょん」

「魂、感情、記憶」

「厳密に言葉で語るのは難しいぴょん。だから適当に、心の落とし物くらいに考えていいぴょん」

「なんかふわふわしてるね」

 

 あと五分くらいで考えた設定みたいだな、とも思った。お隣の田中の兄ちゃんが貸してくれたラノベやら漫画やら、とにかくどこかで読んだことがある気がする。

 

 俺の感想を見透かしたのか、らびらびが刺すように問いかけてきた。

 

「安直って思ったぴょん?」

「うん」

「世の中そんなもんぴょん。オリジナリティなんてもう現代には存在しないぴょん」

「擦れてるなぁ」

 

 さっきのマジカル説明セットも含めて、マスコットとしてはどうかと思うほど夢が無い。

 

 その一つの象徴、マジカルタブレットをらびらびは華麗に操作して次のスライドがモニターに映る。そこにはふりふりの少女達を囲むふわふわの生き物たちが描かれていた。

 

「そんな魔法少女になり得る子を探してサポートするのが、らびらび達妖精の役目ぴょん」

「らびらびって妖精だったんだ」

「見ての通りぴょん。この愛らしさは妖精しかありえないぴょん」

「そう、だね?」

 

 若干の疑問を俺は飲み込んだ。

 

「話を戻すと、俺にその適性があったってこと?」

「その通りぴょん。ただ、魔法少女の素質を持つのは小中学生くらいの女の子が多いぴょん。男の子にあるなんて絶対ありえないこと、誰も想像すらしていないぴょん」

「はぁ」

「だからこそ、フリーのらびらびがこうして声をかけられたぴょん!」

 

 らびらびが自慢げに胸を張る。心なしか、どこか嬉しそうにも見える。妖精? にとって魔法少女の勧誘は名誉ある仕事、的なものなのかもしれない。

 

 考えようとしても無駄だな、まだ判断材料が少なすぎる。魔法少女にしても妖精にしても、一通り説明が終わってから確認しないと。

 

「フリーってことは、何というか、組織的なものがあるの?」

「あるぴょん。次はその説明をするつもりだったけど、どうやら時間切れみたいぴょん」

「え?」

 

 時間切れってと聞く前に電灯が、マジカルタブレットとマジカルモニターの電源が落ちる。

 

 再び月明かりだけが光源になった病室には、どこか寒気のする気配が漂い始めていた。

 

「停電? でも確かこの病院、緊急用の二次電源があるって言ってたような」

「さっき伝えた通り、魔法少女の使命はレムナントを回収することぴょん。このレムナント、もし放っておけばどうなるか分かるぴょん?」

「……溜まってく?」

「正解ぴょん。回収されなかったレムナントは集い、淀み、穢れ、いつか一つの大きなカタチを成すぴょん」

 

 そこで一度言葉を区切り、らびらびは強調するように続けた。

 

「妖精の間では、それをレギオンと呼んでいるぴょん」

 

 その瞬間、轟音とともにずしんと大きな揺れが走った。地震、にしては妙だ。たった一度だけの揺れで続きも無い。

 

 それに、地震ならこんな音しないはず。加えてこの音は外から聞こえた。これはそう、まるで何か重い物が落ちた時のような。

 

 外の様子を見ようと、暗い中転ばないように気をつけながらベッドを降りる。恐る恐る窓に近付いた俺は凍り付き、咄嗟にらびらびへと振り向く。

 

 訳知り顔で頷くらびらびに、俺は間抜けな顔で問いかけた。

 

「…………あれのこと?」

「あれのことぴょん」

 

 俺が指差した先には全身を黒に染めた巨大な、病院と同じ背丈の卵のような、繭のような何かが駐車場に鎮座していた。

 

 月明かりが照らす表面にはうっすらと脈が走っていて、時折何かが流れるように蠢き、その度に全身を震わせている。

 

 あれは、駄目だ。

 

 はっきり言ってらびらびの説明を俺は全て疑っていた。このぬいぐるみもどきがもし本当にファンタジー的な存在だとしても、ついさっき語ったような分かりやすい怪物が出て来るなんて信じていなかった。

 

 だけども、実際こうして目にしたら分かる。年がら年中死にかけていた俺だから分かる。

 

 あれは化物だ。

 

 何をするのかなんて分からない。何が出来るかなんて予想も出来ない。それでも、あれが軽々と人に死をもたらすことだけは本能で理解出来る。

 

 冷や汗が全身に流れ寝間着が湿る。身体を冷やすなって、先生に怒られそうだな。

 

 苦し紛れの軽口は言葉に出来ず、結局口を開いたのはらびらびの方だった。

 

「聞かれる前に言っておくぴょん。今日は満月、厄災の日。しかも今回は多重顕現のパターンだから、他の魔法少女は別の場所で戦っているぴょん。今はここも世界の抗体作用によって自然結界が生じているけれど、魔法少女が誰もいない、来れない以上、あれを破られたらおしまいぴょん」

「ごめんらびらび。今新しい用語出されても、理解がちょっと」

「……こっちこそすまない、焦っていたぴょん。現状を簡潔にまとめるぴょん」

 

 今日起きた訳の分からないことがとうとう片手に余り始めた。目を瞑ってこめかみを押さえる俺に、らびらびは容赦なく追撃する。

 

「ここに助けは来ないぴょん。そしてこのままだと耕太郎も病院の人もらびらびも、全員まとめてお陀仏ぴょん」

「絶望的じゃん」

「その通りぴょん。というわけで、耕太郎!」

 

 場違いなほど明るい声を出しながら、らびらびはまたしても俺の前に浮かび上がる。そしてその調子のまま、妖精らしからぬ言葉を突き付けた。

 

「死にたくなければ、今ここでらびらびと契約するぴょん!」

 

 そんな空元気の塊のような脅し文句を前にして、一つだけらびらびに問いを返す。

 

「らびらび」

「なにぴょん?」

「これっていわゆる、マジカル脅迫?」

「否定はしないぴょん」

「して欲しかったなぁ……」

 

 がっくり項垂れる俺の肩を、らびらびが優しく叩いた。

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