ガイアが俺に早く消えろと囁いている   作:差六

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第17話「終わりの始まり」

 突如として街中に出現したオックスレギオンは、ただ歩いていた。

 

 何かを探すかのように首を振りながら、ただただ辺りを練り歩いていた。

 

 だが世界が産んだ四メートルの巨体に社会の理は通じない。

 

 人の作りし道など考慮しない彼にとって、進路上のものは全て等しくただの障害物だ。故に何があろうと踏み砕き、邪魔であれば薙ぎ払おうと試みる。

 

 それは車も家屋も、当然人も例外ではない

 

「うあっ!?」

「ちょ、は、早く立って!」

 

 逃げ惑う人、途中転び倒れる少女など目もくれず、オックスレギオンは歩みを進める。

 

 繰り返しになるが、彼の進路上にあるものは車も家屋も、何もかもが踏み潰されている。

 

「ひ」

 

 よって影に染まる少女の瞳に映るのは黒い足裏。これが彼女の終の景色だ。

 

「せいッ!」

 

 耕太郎が間に合わなければ、の話ではあるが。

 

 正面から差し込まれた跳び蹴りはオックスレギオンのみぞおちに突き刺さり、その巨体を地面に薙ぎ倒す。

 

 アスファルトが砕け車は跳ね跳び、車両用の信号も折れて倒れた。繋がる電柱も釣られて傾く。

 

 ぼんやりと浮かんだ二次被害は頭から追い出しつつ、耕太郎は倒れる少女に手を伸ばす。

 

 そして半ば強引に立ち上がらせた後、友人のもとへ送り届けた。

 

「ここは危険だ、あっちに!」

「は、はいっ! ありがとうございます!」

 

 二人組の少女が走り去ったのを足音で確認しつつ、耕太郎は倒れたオックスレギオンのもとへ跳躍する。そしてその勢いを利用し牛の顔を、レギオンの核を踏み砕いた。

 

 黒い肉体が解け、魔力として世界に消えていく。

 

 耕太郎はそれを横目で見送った後、傍に建つビルの屋上へと跳躍した。

 

「向こうに逃げてください!」

 

 ちょうどその時何かが吹き飛ぶ音と、不慣れで不安定な大声が耕太郎の耳に届く。

 

 彼は次々と建物の屋上を伝い進み、その声の主、クリアオーシャンのすぐ隣に移動した。

 

「ガイア達に連絡取れた?」

「うん。二人とも急いで来てくれるって」

「よかった。それまでは俺達だけだけど、平気そう?」

 

 敵はそれほどでもないが、未だ結界も生じない異常事態。一般人もまだ避難を続けており、依然油断を許さない状況である。

 

 にもかかわらず仲間の数は普段の半分、最も頭の回る、魔法に詳しく頼りになるクリアガイアもいない。

 

 妹の不安を慰めようとした気遣いには、魔法の輝きすら劣るほどの笑みが返って来た。

 

「うん、兄さんと一緒なら絶対大丈夫!」

「……ありがと、俺も同じ気持ち」

 

 まっすぐな信頼を向けられて照れ笑いを浮かべながらも、耕太郎の視線は鋭いままだ。

 

 その理由は彼の見つめる先、複数体のオックスレギオンにある。 

 

「つっても数が多いな。オーシャンは何体くらい倒した?」

「私は、えっと、五体くらい」

「俺もそんくらいで、残りは」

 

 耕太郎は指を差して数えるが、何度繰り返してもはっきりとした数は分からない。

 

 四メートルという現代社会ではビルにも負ける身長は、地上からではいまいち見つけにくいからだ。

 

 やがて指で数えるのを諦めた耕太郎は、代わりに不可思議な点を確認する。

 

「十、何体かはいるな。どう見ても増えてるよね」

「……うん。戦い始めた時は六体だったと思う」

「本体がいて分身してるのか、どっかから湧いて来てるのか、それとも」

 

 古今東西における分身能力の類が耕太郎の脳裏に過ぎる。それを元に、彼はオックスレギオンのからくりについて考察した。

 

 しかし数秒後に至った結論はシンプルだった。可能性は無限大ということ、今考えたところで何も得るものはないということだ。

 

「とにかく、一旦全滅させてみてから考えるか」

「私も賛成。でも兄さん、どうすれば」

「ちょっと考えがあるんだ。オーシャン、抱っこしていい?」

「え? う、うん、どうぞ」

 

 首を傾げつつ、両腕を広げて待つクリアオーシャンを耕太郎は躊躇なく横抱きして持ち上げた。いわゆるお姫様抱っこの姿勢だ。

 

 内心少しはしゃぐ妹には気づかないまま、彼はおもむろに空を見上げる。

 

 その様子で彼女も彼の考えに察しがついた。

 

「……分かった! 私は足場出すね!」

「さっすが。よろしく」

 

 すぐさま数メートル間隔で上空にいくつも青い魔法陣が展開される。

 

 これまで何度もクリアガイアが耕太郎のために使用した魔法、用意した足場とまったく同じものだ。

 

 彼はクリアオーシャンを抱えたまま軽やかに足場を跳び上がる。その間に彼女は魔法を用意し意識を研ぎ澄ませる。

 

 およそ五十メートル近くまで昇りつめたその時、彼は腕の中の妹に声をかけた。

 

「よし、下見て!」

 

 眼下には顔も見えないほど小さくなった人、ミニチュアのような建物、そして悪目立ちする無数の黒の巨体。

 

 オックスレギオンの数、位置がこれで丸わかりとなる。

 

 耕太郎の考えた作戦はこの通り極めて単純明快なもの、上空からの観測及び狙撃だ。

 

「『ジャベリンレイン・フロスト』!」

 

 天空に広がる無数の魔法陣から青い氷の槍が生まれ、名に違わず雨のように降り注ぐ。

 

 ジャベリンレインはクリアシャインが好んで使う魔法だが、クリアオーシャンが用いる場合は一味違う。

 

 数と威力こそ親友に劣るものの、その分精度は段違いだ。乱雑にばら撒かれる火とは異なり、放たれた氷は全てがオックスレギオン達に突き刺さる。

 

 更に威力に関しては、クリアオーシャンは別の形で補っていた。

 

「『バースト』!」

 

 追加の詠唱と同時に、槍に仕込まれていた別種の魔法が起動する。

 

 氷の槍が爆発するように弾け、オックスレギオン達の身体を内部から破壊した。

 

 その壮絶な散りざまに浮かんだ冷汗を隠しつつ、耕太郎は空から街を見下ろす。

 

 強化された視界の中に、現状オックスレギオンの姿はなかった。

 

「……とりあえず、全滅した?」

「た、多分? ガイアがいないと、私だとあんまり分からないけど」

「俺も分からないからセーフ」

「どちらかと言えばアウトじゃないかな……」

 

 二人はじゃれ合いながら上りと同じように降りていく。

 

 顔が分かるような高さに辿り着いた時、大きく活気に満ちた声が彼らに届いた。

 

「おーい、二人ともー! 大丈夫―!?」

 

 末永を背負ったヴェインの横で、悠乃が大きく手を振っていた。その上途中から両手を振り始め、更にはその場で何度も跳ね始めた。

 

 わざわざ足を止めて見ながらも耕太郎は返事を、手を振り返すこともしない。

 

 普段の彼を知るクリアオーシャンがその態度に疑問を持つのも当然だった。

 

「兄さん、悠乃さん呼んでるよ?」

「……七海ちゃん抱えてるから、俺は反応出来ないってことにして」

 

 クリアオーシャンの、七海の瞳に心配の色が浮かんだことを、耕太郎は目ざとくも気づいてしまった。

 

 そのため彼は目を泳がせつつ、言い訳がましい口調でまとまりのないことを並べる。

 

「あー、やー、別に、嫌いとかじゃなくて。でもやっぱりこう、あんなべたべたした感じで来られると、俺もまだ、リアクションがね」

「……悠乃さんのことを話す時の兄さんって」

「まあ、うん、言いたいことは分かるよ。子供っぽくて恥ずかしいというか」

「なんだか、可愛いね」

「……」

 

 渋面の兄を見上げ、クリアオーシャンは母によく似た笑みを零した。

 

 だがその渋い顔も笑顔も、悠乃の背後に突如浮かび上がった黒い影にかき消される。

 

「──危ない、後ろ!」

「えっ?」

 

 悠乃の後ろで、全滅したはずのオックスレギオンが棍棒を高く振り上げようとしていた。

 

 危機を前に一瞬で切り替わった意識は、少ない言葉で現状の打破を探り合う。

 

「七海ちゃん!」

「駄目! 巻き込んじゃう!」

「じゃあもう一回足場!」

「分かった!」

 

 返事と同時に無数の魔法陣が乱雑に展開され、悠乃へと続く道筋を作り上げる。

 

 クリアオーシャンをその場に降ろした耕太郎はその内いくつかを踏み砕きながら、飛ぶ鳥よりも遥かに速く進んだ。

 

 走り始めてからオックスレギオンのもとへ辿り着くまでに、およそ一秒もかからなかっただろう。

 

「ぎり、セーフッ」

 

 そしてその速度が込められた跳び蹴りは、オックスレギオンを一撃で粉砕した。

 

 ただ、レギオンの顔面を蹴り砕いてもなお、その勢いは止まらない。受け身の要領で転がっても、まだ力を殺し切ることは出来ない。

 

 それでも母の様子を窺おうと辛うじて振り向いた耕太郎の視界に、信じがたいものが映る。

 

「な、手だけ」

 

 虚空から黒い腕だけが生じ、悠乃達に向けて振り上げられていた。

 

 それはレギオンという仮初の形すら投げ捨てた、なりふり構わない殺意の結晶。

 

 耕太郎が駆け寄る、声を出す間もなく巨大な拳が、人を肉塊に変える一撃が悠乃達に叩きつけられる。

 

「予定外ではあるが、これもまた幸運なのだろう。考え得る中で最上の機会だ」

 

 だがそれは、紫の障壁に受け止められていた。

 

「怪我はないだろうか」

「は、はい。ありがとうございます。えぇと、貴方も、こーちゃんたちと同じ……?」

「似て非なるものだが、魔法を扱うという意味では同じだ」

 

 涼しい顔で答えながらヴェインは障壁の術式を弄り、意図的に暴発させる。

 

 暴走した魔力は爆発し、黒の腕を彼方へと吹き飛ばした。

 

 末永を乱雑に地面へ落としたヴェインはそれを、崩れかけた腕を油断なく観察する。

 

 するとその右腕はみるみるうちに再生し、更には身体が生え、続いて残りの手足、頭までもが形成された。

 

 それだけではない。その個体の完成を皮切りに次々と、数十体ものオックスレギオンが新たに出現していく。

 

 まさに百鬼夜行のような光景を前にしても、ヴェインの表情は一切変わらなかった。

 

「発生の速度が高まったか。では守りを固めても意味がない。打ち払うとしよう」

「……それなら私は、ここで末永さんと一緒に待っていた方がいいですか?」

「冷静かつ理解が早い。さすがは少年の母君だ」

 

 温度の感じられない賞賛をしながら、ヴェインは紫の魔法陣を手元に展開する。

 

 そこから取り出し腕輪に嵌められたのは紫の宝玉、『悪意』の力が形となったマリススフィアクオリアだ。

 

≪Set Code『Violet』 Reading≫

 

 聞き覚えのある機械音声に、ようやく耕太郎達の時が戻る。

 

「あれは、ドクターの……!?」

 

 目を見開く耕太郎の視界に、棍棒を高くかかげるオックスレギオンの姿が映る。

 

 それは人外とは思えないほど美しいフォームで棍棒を振りかぶると、そのまま全力で投げつけた。

 

 空気を切り裂き棍棒が向かう先は当然彼らの脅威であるヴェイン、もしくはそこにいる何か、誰か。

 

 オックスレギオンの振るう棍棒は長さ一メートル、太さは三十センチほど。重さはおおよそ一トンを超えているだろう。

 

 運動エネルギーの法則からすれば、人間など掠るだけでもバラバラになりかねないほどの力が秘められている。

 

 だがこともあろうにヴェインは左手を振るい、軽々と棍棒を弾き飛ばした。

 

 その衝撃でリードブレスに嵌められたスフィアクオリアが回転する。

 

「チェンジクオリア」

≪Compleat Inspection 『Malice』≫

 

 輝きの後現れたのは、蛇の意匠を感じる紫の鎧。

 

「……ヴェインさんが、ドクター?」

 

 耕太郎達がこれまで何度も敵対し、戦っていた相手にそこに姿を現した。

 

 やっと悠乃のもとへ辿り着いた耕太郎は、呆然とその姿を見上げる。

 

 驚愕に意識が揺らぎながらも、無意識のうちに彼は母を庇う位置に立っていた。

 

「さて、少年」

「……」

「君にも積もる話はあるだろうが、ここでそれを交わすことは難しい。君は母君と、ついでに寝ている彼女も連れて離脱するといい」

「あんたはどうするんだ?」

「ここであのレギオンの対処をする」

「は? なんだその言い方。まさか、こいつらあんたが作ったものじゃないのか?」

「違う、と言ったら君は信じるのか?」

「…………………一応、半分くらいは」

 

 迷いつつ戸惑いながら、瞳を伏せながらも、耕太郎は絞り出すように答えた。

 

 よってその時、悠乃だけがそれを見た。ヴェインが大きく息を呑み、エラーを起こした機械のように一度動きを止めたことを。

 

「……さすがだ、少年。では伝えておこう」

 

 だがその異常も一度の呼吸に収まり、ヴェインは常と同じ、抑揚のない口調で語る。

 

「恐らく君達は彼女を尋問するだろうが、自然と目が覚めるまでは安静にさせておくことを勧める。その分だけ母君に残された時間は延びるだろう」

 

 耕太郎の返事を、反応を待たず、ヴェインは巨大な魔法陣を一帯に展開した。

 

 これは結界の魔法。オックスレギオンを含めた埒外の存在を全て取り込み、周囲にこれ以上の被害を出さないための魔法だ。

 

 瞬きの間に消失した、結界の中へと移動したヴェインとレギオン達に代わるように、遅れてクリアオーシャンがふわふわと上空から舞い降りて来る。

 

「兄さん、いったい何があったの?」

「……後で説明するよ。ここはあの人に任せて、俺達はまずガイア達と合流しよう」

 

 地面に寝転がる末永を拾い上げる耕太郎の声は固かった。

 

 

 

 安全な場所、とヴェインさんに言われて最初に思い浮かんだのは、らびらびが用意してくれたお母さんのホテルだった。

 

 あそこなら人目も少ないし、皆が集まってもなおやたらと余裕がある。今は家で寝泊まりしているけれど、鍵もお母さんが預かりっぱなしだ。

 

 文字通り飛んで来た朝地姉妹を窓から招き入れたのが数時間前のこと。

 

 最初の一時間くらいは緊張していた俺達も、あまりにも呑気ないびきを聞き続けていると維持するのも難しくなる。

 

 ヴェインさんがドクターだったということは、助手をしている末永さんも恐らくその仲間、リードアルファなんだろう。ちょうど三下感ある口調も一緒だし。

 

 その辺りをさっさと聞き出すため叩き起こそうとした陽香さんを止めつつ、改めてお母さんを紹介したり、部屋にあったトランプやボードゲームで時間を潰したりして。

 

 そうしてすっかり日も落ちてしまった後、ようやく末永さんは目を覚ました。

 

「……喉、乾いた」

「おはようございます。水飲みますか?」

「おぉ、ありがとう。いただきます」

 

 水差しから注いだ水を合計三杯、末永さんは一気に飲み干した。昨日の葵さんに負けない飲みっぷりだ。

 

 ついでに言えば飲んだ後の笑顔も負けず劣らず爽快感に溢れていた。

 

「はー、生き返ったー。寝起きの水ってなんでこんな美味しいんだろ」

「よかったです。じゃあ両手前に出してもらえますか?」

「もちろんもちろん、それくらいお安い御用」

 

 まだ寝ぼけているのか、末永さんはへらへら笑いながら、言われるがまま手を差し出す。

 

 横にいるガイアに合図をし、魔法で作った手枷を末永さんに付けてもらった。

 

「って、あれ?」

 

 その重みに従って落ちた腕を、末永さんは心底不思議そうに眺めていた。

 

「……酷いコント見てる気分」

「ガイアが手枷つけたんだから、ガイアも主演の一人だよ」

「……」

 

 ガイアの、朝地の仏頂面もすっかり見慣れたおかげで、このくらいの変化でも何を思っているのかくらいは分かるようになった。これは不服系の顔だ。

 

 それは苦笑いで横に流し、改めて目が覚めつつある末永さんに注意を向ける。

 

「グレイくんに、魔法少女の皆、え、ボク、どうなって」

「覚えてないんですか? 末永さんは」

「……もしかしてボク、眠っちゃってたんすか!?」

 

 寝ぼけ眼、寝起きそのものだった顔が、一気に覚醒した。

 

 ガイアが思わず一歩後ずさるほど前のめりに、俺が支えなければ顔から倒れるほどの勢いで、末永さんは俺達に詰め寄る。

 

「ぐ、グレイくん、お母さんは、悠乃さんは無事っすか!?」

「……やっぱり末永さんも、俺達の正体知ってたんですね」

「そういうの今はいいっす! とにかく、君のお母さんは!?」

「ここにいるよー?」

 

 呼ばれて飛び出て、みたいな振る舞いでお母さんが呑気に返事をした。危ないかもしれないからオーシャンとシャインと一緒に隠れてて、と言っておいたのに。

 

 末永さんは勢いよく振り向いてお母さんを上から下まで何度も眺めた後、へなへなと安心したように崩れ落ちた。

 

「よ、よかったぁ」

 

 若干震えた声とその様子に嘘の気配はない。心からお母さんの無事を喜んでいるように見える。

 

 その振る舞いに全員困惑を隠せない。

 

 俺もガイアもお母さんも、お母さんと一緒に出て来たオーシャンも。

 

 そして最初ここで見た時、誰よりも末永さんに敵愾心を抱いていたシャインですらも。

 

 シャインが眉を八の字にし、頬をかきながら問いかけてくる。

 

「なんていうか、調子狂うわ。グレイ、この人ってこんなキャラだったの?」

「うん。まあ変な人ではあるけど、割といい人、だとは思う」

「私もそう思う。アインちゃんも末永さんには懐いてたよ」

 

 今日まで何度か会った末永さんは、決して悪い人ではなかった。変ではあったけれど。

 

 七海ちゃんの言う通りアイン、子犬にも懐かれていたし、アインと遊ぶ七海ちゃんのこともよく見てくれていた。

 

 何より新田先生の友達でもあるらしいし。まあ、変な人であることは譲れないけれど。

 

 ただ、ガイアだけは今も変わらず冷たい、氷柱のような視線を向けている。

 

「……いいえ、ただの変態よ。二人とも、時枝も出来るだけ離れなさい」

「あ、あのー、先日はそのー」

「話しかけないで」

「ひぇっ」

 

 ノーコメントにしよう。

 

 こんなでもガイアに手を出す素振りはないから、どうやら尋問が拷問に変わることはないようだ。ほんの僅かに安心する。

 

 安心はして、これからどうするか迷った。君達も彼女を尋問するだろう、なんて言われたものの、いざその時間が来るとまずは何から聞けばいいのか。

 

 皆もそうらしくて、緊張に満ちた沈黙が走った室内に、一度風が吹く。

 

「随分と長く眠っていたらしい」

 

 気がつけば音もなく、ヴェインさんがいつの間にか窓辺に立っていた。

 

 いったいどこから、なんて考えるのも無駄だろう。魔法は何でもありで、ヴェインさんは間違いなくガイアよりもその道に精通している。

 

 一応敵が現れたのにここまで冷静に観察出来るのは、さっきお母さんを助けられた恩があるからだろう。

 

 その証拠に恩も何もないシャインは杖を向け、先端に魔力を集中させている。

 

「ドクター、あんた!」

「今ここで私と戦うべきではない。無知蒙昧な君でもそれは分かるだろう」

「……チッ!」

 

 一人冷静になったからこそ、今まで流していた疑問がひっそり浮かんだ。

 

 ヴェインさんはシャインにだけ、どうしてここまで当たりが強いんだろう。

 

 それを問うよりも早く、ヴェインさんが状況を確認してくる。

 

「君達の様子から察するに、尋問はまだ始まりもしていないようだ」

「ちょうど今、末永さんが起きましたから」

「であれば、私から語る方が早いだろう」

 

 末永さんが大きく目を見開いたのは、ヴェインさんの話を止めようとしたからなのか。

 

 本当のことは分からない。末永さんが止める間もなく、その後俺に考える余裕はなく、あっさりとそれは伝えられたから。

 

「結論から述べよう。少年の母君に残された時間は、あと三日だ」

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