【悲報】シャア・アズナブル(本物)に転生した件 作:むにゃ枕
また、あの悪夢だ。自身が行ったアイランド・イフィッシュへの毒ガス注入。市民が悶え苦しみ死んでいく。その中には幼い子供も、赤子を抱えた若い母親もいる。
それは、シーマ・ガラハウが守りたかったマハルの住民の姿と重なって見えた。
魘されながら、シーマは目を覚ます。シーツは寝汗でびっしょりと濡れていた。
シャワーを浴びてからブリッジへ向かう。休憩時間だが、これ以上休めそうになかった。
「アイランド・イフィッシュの亡霊を狩れと。……アタシらを追跡部隊に選ぶとは、キシリア閣下は良い趣味をしているじゃないか」
アナハイム・エレクトロニクス。そのグラナダ支社が新型の試作モビルスーツを奪われたことは、大々的に報じられた。
当初、グラナダ支社はこの事実を隠そうとしたのだ。しかし、日頃からジオンに擦り寄るグラナダ支社を、フォン・ブラウン本社はよく思っていなかった。この醜聞は彼らにとって都合の良い攻撃材料であった。
いつの間にか、グラナダ支社の失態はメディアにリークされ、トップニュースとなっていた。
「はじめまして。アナハイム社に出向しています技術本部のアイナ・サハリン中尉です」
「シーマだ。よろしく」
「アナハイム社のエンジニアのニナ・パープルトンです。よろしくお願いします」
「あんたが開発者か。若いね」
シーマ率いる突撃機動軍海兵隊は、ジオン独立戦争時から汚れ仕事を押し付けられてきた。今回の試作機回収任務は、比較的キレイな任務だった。
だが、ガンダムを奪還した連邦パイロットはアイランド・イフィッシュ出身である。自らの業が、報いとなって襲い掛ってきたのだろう。シーマの心は重い。
「ニナと言ったね。敵の目的に心当たりは有るのかい? 大体、核運用が可能な機体であって、核武装しているわけじゃないだろ?」
「ええ。その通りよ。試作機であって核は積んでいないわ。グラナダ支社に核はないもの」
「なら、極論を言ってしまえば、核運用が出来るザクC型が盗まれたのと同じということだね」
「そうだけど……私のガンダムをザクと同じにしないでくれる??」
シーマの言ったことは事実だった。ガンダム試作2号機は、単なる1機のモビルスーツであり、それ自体が特別な価値を持っているわけではない。
「アナハイム社の試作モビルスーツという点がザクとは違うわ。現に盗難がリークされてから、メディアが大騒ぎになっているもの」
ニナは自身の作り上げたガンダムに強い思い入れがあるようで、顔を若干紅潮させながらシーマに噛みつく。
「ニナの発言に付け加えるなら、
アイナ・サハリンの指摘にシーマは頷く。背後に組織があるのは明白だろう。
「ジオン独立戦争時に使われた核のうち、鹵獲されたものや行方不明になったものは数知れない。それを連邦の残党が使おうってことだろうね。おそらく狙いは、一月後に行われるコロニー共栄圏会議だ」
戦後、ジオン公国が提唱したコロニー共栄圏構想。この構想に基づき、各コロニー政府は会議に代表を送り込む。
その場を核兵器で吹き飛ばす。連邦軍残党のやりそうなことだ。
「ヤツを手引きしたアナハイム内部の人間は分かったのか?」
「いいえ。全く分からないわ。大企業だもの」
シーマは、その人物を糸にして全容を解明しようと考えていたが、その目論見は外れた。
そもそもシーマの海兵隊は荒事に向いた組織であり、こういった繊細な捜査に適しているわけではない。
「私のガンダムを使わなくても、ジーラインとか、ザクC型を使えば良かったじゃない。わざわざアナハイム内部に潜入して強奪したのはどうしてなの?」
「ニナ、連邦テロリストはパフォーマンスを重視しているんだ。ガンダムを強奪し、コロニー共栄圏会議を核で襲撃する。奴らにとって、最高の宣伝になるだろう」
シーマが立ち上がり、開いていた扇子を閉じる。
「つまり、アタシらがやることはそのテロリスト共の発見と撃滅だよ。足で稼ぐしかないね。暗礁宙域を虱潰しにしてやるよ!」
シーマ率いる突撃機動軍海兵隊は、連邦軍テロリストを潰すべくエンジンに火を入れた。
同時刻、サイド5暗礁宙域付近。ティターンズを自称する連邦軍残党が、そこかしらで武装を整えていた。茨の園と名付けられたこの宙域は、宇宙で最大の連邦軍残党の拠点である。
「よくやったアマダ大尉。我々は、これでようやく打って出ることが出来る」
「ありがとうございます。バスク・オム大佐」
バスクは異様な風体だ。禿頭と火傷により肌の色が変わった顔。そして特徴的なゴーグルが彼の印象を決めている。
「ジオンに迎合し、コロニー共栄圏会議に参加する連中を消し飛ばせば、我々の正しさを示せるだろう」
ティターンズの指揮官であるバスク。彼の立てた作戦は単純なものだった。
アナハイム社から奪還した
これは、日和見主義的なルナリアンとスペースノイドに対する強いメッセージである。
親ジオン的な態度を示しているルナリアンやスペースノイドは、このテロの恐怖に慄き、考えを改めるだろう。
ジオンに擦り寄ることは、地球連邦政府、地球連邦軍に対する裏切りである。
ジオン独立戦争で、スペースノイドの住まうコロニーには毒ガスが注入された。ジオンの破壊行為はそれだけに留まらず、コロニーへの無差別攻撃も行われた。
地球には、サイド2の首都バンチであったアイランド・イフィッシュが落とされた。このコロニー落としにより地球の海抜は上昇し、引き起こされた津波と、その後の気候変動により多大な犠牲が生じた。
スペースノイドもアースノイドも、ジオンという脅威に一致団結し徹底抗戦を行うべきであった。
だが、連邦政府も地球に住むアースノイドすらも弱腰であり、いとも簡単に降伏を許した。
だからこそ、バスクをはじめとした志のある連邦軍士官はティターンズを結成したのだ。
「バスク大佐、連邦政府からの支援はどうなっています?」
「連邦政府は我々の行いを否定した。しかし、心ある議員や連邦軍の将校が援助を行ってくれている」
シローは、バスクの答えに顔を明るくする。腐りかけた連邦政府も、完全に腐っているわけではないのだ。
「それにだ、アナハイム社も我々の志に共感している。ジーラインではないが、ジムの製造が行われている。そのジムは我々の力になるだろう」
「それは……ジオンの犬に噛まれるのでは?」
「連中は共栄圏の維持に必死だ。だからこそ、そこにつけ込む隙が生まれる」
バスク・オムは紛れもなく、本領を発揮していた。バスクの作戦が成功すれば、ジオン政府は大きな損害を被ることとなる。
「コロニー共栄圏会議はサイド2で開催される。アマダ大尉。本懐を果たしてくれ」
「はっ。連邦政府に勝利を齎しましょう」
シロー・アマダは、背筋を伸ばし敬礼をした。去っていく彼の背中からは強い決意が読み取れた。