混沌より這い寄る透き通った青春   作:過負荷の後輩

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初投稿です。右も左も分からない状態ですが、何卒宜しくお願い致します。


アビドス高等学校編
第一話『混沌より這い寄る過負荷(マイナス)』


学園って、あれだよね。

社会の縮図、なんて大人は言うけれど、

縮図にしてはずいぶん性質が悪いと思うんだ。

 

だってさ、社会はもっと広いよ。

逃げ場だってあるし、選択肢だってある。

学園ってさ、ほんとどうしようもない場所なんだよ。

僕なんかは入った瞬間から負けが確定してるような気がしたし、

廊下を歩けば自尊心は削られるし、

教室に座れば存在意義は蒸発するし、

チャイムが鳴るたびに“はい、君の価値はここまでだよ”って宣告されてるみたいでさ。

いや、ぼくの被害妄想なんだけどね。

でも、学園って被害妄想と相性のいい構造してるでしょ?

 

黒板は僕を否定するための黒で、

チョークは僕の間違いを白々しく炙り出すための骨で、

時間割は僕の自由をきれいに解体するための便利な分割表だ。

そう考えてるうちに、“あぁ、この学園ってぼくを壊すために設計されてるんだな”って自然に納得しちゃったんだよ。

惨めだよね。

惨めだけど、惨めであることに慣れると、

惨めじゃないと逆に落ち着かなくなるんだ。

そういうやつ、僕が一番詳しいよ。

 

それでも、僕らはそこで笑って、泣いて、時に失敗して、時に恋なんてしてみせる。

失敗——敗北、不幸、人生のどん底。

つまるところが過負荷。

僕がそう呼ばれそう自負していた頃、どこにも行きつく先が無かった僕を最終的に受け入れてくれたあの箱庭と、因縁の好敵手を思い出してしまう。

幾つもの学園を潰し回り、エリート抹殺を掲げていた僕を迎えてくれたのは、毛嫌いしていた才能とやらを全面に出している学園だったという訳さ。

 

え……? 今の僕からじゃ考えられないって?

それはほら、あれだよ。成長って奴さ。ジャンプと一緒だよ。

友情・努力・勝利。この三大テーマこそが人間をより人間らしく輝かせてくれるものだよ。

そういう意味じゃあ、僕はあの時の初勝利を経て、ようやく人間らしさを取り戻せたと言っても良いのかな。

 

うん……そうだね。人生で初めてちゃんと敗北(ま)けて、成り行きで生徒会に入って。

可愛い後輩に囲まれて、人外の彼女に弄ばれて。

そうして彼女を失って。

未来なんて無く先が無くて、それでも格好つけたい僕は精一杯の先輩風を吹かしてあの箱庭から去っていったのさ。

 

ちょっぴり泣いた事は内緒だぜ?

 

まあ、とにかく。言いたいことは――僕にとって学校なんて教育機関は、ただ教科書さえ読めば得る様なものではなく。

 

――人が一人にならない為に行く場所だって事さ。

 

君もそう思っているのだろう? ――先生。

思えば懐かしい話だね。あれからもう随分と経つけれど――僕は未だに忘れられないよ。僕と先生との初接触(ファーストコンタクト)。全てはここから始まったと言わんばかりの邂逅のことは。

 

そう、あれは今から三十六万……いや、三兆四千二十一億九千三百八十二万二千三百十一。

 

つまるところ、半年前のことだよね。

 

◆

 

まあおよそ、僕にとって記憶というものはあってないようなもので、毎日が酩酊状態でメーデーな感じなんだけれど、流石にいきなり砂漠のど真ん中で突っ立っていた時は驚いたよ。

 

『おや……?』

『ここは砂漠?』

 

照りつける太陽。砂の混じった風。間違いようもなくそこは砂漠であった、

箱庭学園を卒業して、僕なりの全国ツアーを決行してから早半年。

流石に海外にまで僕の被害者がいるとは考えられないので、これで僕が寝ぼけてサハラ行きの空港チケットを購入したという線は消えた。

 

『というか』

『制服が水槽学園のものに変わってるね』

『肉体も以前より少しだけ若々しくなってるし』

『これは何者かによる攻撃……能力保持者(スキルホルダー)による仕業と考えても良いのかな?』

 

恐らく相手を転移させるスキルだろうか。

かつての安心院さんを彷彿とさせるね。

僕は砂の感触や体を熱している太陽光に目を細めながら暫く歩いていくと。

 

そこで、一人の男性を発見した。

スーツ姿の男だった。片手には鞄も持っている。

仕事途中のサラリーマンという印象だ。

 

「君は……アビドスの生徒……ではないね」

 

僕の存在に気づいたのか、男の人は僕の顔を覗いて──続けて頭上の方へと見上げてから、そんな台詞を言った。

アビドス? どうしてこんな場面で生徒だなんて単語が出るのか、そんな疑問が頭を過りはしたけれど、それよりももっと重大なことに気づいた。

 

『僕の気配が戻っている……?』

 

以前、生徒会戦挙の際、僕は善吉ちゃんの思惑から外れるため自らの気配を『無かったこと』にしたはずだ。それが戻っている──確かに安心院さんが弄った『虚数大嘘憑き』は僕のこれまでの『大嘘憑き』で無かったことにしたものを、取り返しのつかなかったものを取り返しがつくようにした、人為的で人工的なスキルな訳だけど……果たして僕は自分の気配を取り戻したのだっけ?

 

うーむ。ま、いいか。今更気配の一つや二つくらい増えても減っても無くなってもさしたる問題ではないしね。

 

「私の名前は。シャーレに属する先生だよ。君の名前は?」

 

『僕の名前は球磨川禊』

『見たまんまの過負荷(おとこ)さ』

 

シャーレ……聞いたこともない単語だ。

ていうか、言語通じているし。この人も砂漠地帯に住んでいるというわりにはやけに軽装だし……。

 

『もしかして』

『君も遭難しているのかな?』

 

「ははは……恥ずかしながらね。これでも生徒たちを導く先生なはずなんだけど」

 

『へぇ……先生ね』

『既に学園を卒業した僕にとっちゃあ』

『耳の痛い単語だけど』

『それでここはどこなのかな? 少し記憶がメーデー状態でさ、前後不覚で後にも先にもこんな状況は初めてだから、すごく困ってるんだ』

 

「ここはキヴォトスのアビドス高等学校の自治区内だよ。……えっと、もしかして君も『外』から来たのかな」

 

『キヴォトス……ね』

『どうやらそうみたいだ。僕はてっきりここはサハラ砂漠やらゴビ砂漠、もしかしたら鳥取砂丘なんじゃないかなって希望的観測(思って)たんだけど』

『どうやら違うようだ』

 

そもそもこんなザ・砂漠で嘘みたいな軽装で来ている人が普通(ノーマル)な訳ないか。

 

「私からしてみればその単語に?(はてな)だよ。見たところヘイローもないようだし、連邦生徒会が新たに派遣した人かな?」

 

『……どうだろうね』

『ところで先生』

『――あそこで状況を伺っている女の子とはお知り合いなのかな?』

 

近くの電柱に隠れている狼のような耳をした女の子――僕の視線とともに隠れてしまったが、おずおずとその正体を現してくれた。

特に敵意は無かったから無視していたけど、その視線が目の前の男に向いているとなれば話は別だ。それに、今は何よりも情報が欲しいしね。

 

「えと……こんにちは。私はシャーレの先生。もしかして君が奥空アヤネかな?」

 

白髪の碧眼。目が冴えるような美人。そして――およそ人間とはいえない耳と、頭上にある青色の天使の輪(ヘイロー)に僕はなるほど、と納得した。

――どうやら、僕は違う世界に来てしまったようだ。

ジャンプ作品でも中々見ない展開に少し狼狽える僕を前に、その女の子は僕たちのほうへと向かいながら、胸に手を置いて自己紹介する。

 

「初めまして、私の名前は砂狼シロコ……」

 

『初めまして!』

『僕の名前は球磨川禊!』

『混沌よりも這いよる過負荷(マイナス)――地元の後輩からは「風」と慕われた男さ』

『よろしくね』

 

「何か、私のときよりテンション高いね……」

 

そりゃ相手が可愛い女子だからね。

僕は悪くない。

 

「……っよ、よろしく」

 

差し出した手に若干戸惑いを隠せずに、目の前の女の子――シロコちゃんは一歩身を引いてしまった。うーん。何かやっちゃったかな。

 

「それで今、シャーレって聞こえたんだけど……」

 

それから先生とシロコちゃんは互いに何か話し合っていた。

かいつまんだ話だと、どうやらシロコちゃんの通う学校――アビトス高等学校はどうやら危機的な財政難に陥っているらしい。その借金なんと九億円。僕のバイブルでもあるジャンプだとそれを有に超す借金額をしている人たちは大勢いるけれど、それでも九億円というやや現実味を帯びている、決して、払えない額ではないような金額には驚いたね。

 

もともとは奥空アヤネという人物から、学校が占拠されているから助けてほしいという依頼だったけれど……どうやら先生は事前にある程度の検索はしていたみたいだ。

 

「それで、その隣の人のことなんだけれど……」

 

「彼は――そうだね、球磨川君は私の……『補佐』といった所かな」

 

「補佐?」

 

おや。

どうやら先生は僕のことを匿おうと……居場所をくれようとしているみたいだ。

 

「副担任ということだよ。彼も私と同じく『外』の世界から来た人間だからね。そうだよね――球磨川君?」

 

その頼み込むような目に、僕は口元を歪ませる。

 

『やれやれ』

『つれないことを言うなよ先生』

『僕たちはそんな堅苦しい仲じゃあないだろう?』

『気軽にミソギちゃんでも良いんだよ?』

 

『とは言っても、僕はつい最近ここに来たばかりでね。多分歳もシロコちゃんたちとそう変わらない』

『ここは気軽に「先輩」をつけてくれると嬉しいかな』

 

「ん……分かった。球磨川先輩」

 

どうやらミソギ先輩とは呼んでくれなさそうだ。

 

◆

 

ロードバイクに跨り、先生に適度に水分補給をさせながら進むこと三十分。

シロコちゃんに連れられてきたのは、とある建物だった。

 

「アビドスの別館。私たちがいつも利用している場所だよ」

 

『別館?』

『それじゃあ本館はどこにあるんだい?』

 

「本館は砂嵐で完全に埋もれちゃったの……さ、ようこそ先生。球磨川先輩。あまりおもてなしは出来ないけれど、まずは学校案内から始めようと思う」

 

僕たちはシロコちゃんに連れられるがままに、学校を案内させてもらった。

とはいっても、大半が砂で覆われていて使えないものだったり、古びて壊れてしまった設備が多かったけれど。

 

シロコちゃんが前に出てることをいいことに、僕は隣にいる先生に話しかける。

 

『先生。これはこの世界にとって当たり前なのかな?』

 

肩にかけた銃を見る――日本ではあまり見られない光景だ。

すると先生はこくりと頷いた。さも当然かのように。

 

『おいおいそれじゃあ先生』

『君はそんな世界で、武器一つ手にしないで』

『そんな小っちゃなタブレット端末だけで戦おうと?』

 

「このタブレットは小さいけれど凄いよ。それとね、私は生徒と争うつもりなんて一切ない。私はみんなの先生だからね」

 

『ふーん……』

 

どうやら酔狂や見栄を張ってるわけでもないようだ。

自分が弱いことを知っていてもなお、その態度でいられる……ね。

まったく、とんだ過負荷殺しもいたもんだ。弱点で武装する――これほど恐ろしい武装兵器もない。

 

「そしてここがアビドス廃校対策員会の本部……さ、中に入って」

 

中に入った僕たちは、そこで十六夜ノノミちゃん、黒見セリカちゃん、奥空アカネちゃん、そして小鳥遊ホシノちゃんと出会った。

ホシノちゃんは自らのことをおじさんと表現する変わった子で、僕は一目見て彼女を気に入った。

特に、僕や先生に向けている目が最高だ。

 

「うへぇ……こんなおじさんのどこか気に入ったのさ~」

 

これは決して僕がロリにコンプレックスを抱いている……つまりロリコンというわけではない。

とりあえず何故か捨てたはずのスマホの中に入っていたモモトークで全員分のメアドを交換していたその時だった。

 

「ひゃっはーーーー!!」

 

「奪え奪え!」

 

バラバラと銃撃音を撒き散らしながら校庭に数人の生徒たちが現れた。

あまりの日本離れした光景に目を丸くさせる。改めてここが異世界であることを自覚する。

彼女たちカタカタのヘルメットを被っていた。面白集団かな?

 

「あ、あいつらです! カタカタヘルメット団!」

 

どうやら本当にその通りの名前らしい。

即座にホシノちゃんとセリカちゃん、そしてノノミちゃんがそれぞれの武器を持って突撃していく。

 

壁とかで隠れて撃ち合っているが、それにしたって前に出すぎだろう。

もしかすると銃弾ごときではそこまで痛手にならないのかもしれない。

さっきから爆発物も飛んでいるし……。

 

『それで』

『僕たちはどうすればいいのかな?』

 

「小競り合いは早く終わらせるに限る。アヤネ、私に無線機を貸してほしい。今から私の指揮に従って」

 

「は、はい!」

 

どうやら作戦があるようだ。僕としてもここで出しゃばるつもりもないし、お手並み拝見とさせて頂こう。先生は白色のタブレットを取り出すと、そこから無線機を通じてホシノちゃんたちに指示を飛ばし始めた。

 

その手腕は確かなもので、僕はそれを窓の外からぼぅっとみていた。

 

◆

 

撃退し終えたホシノちゃんたちは、そのまま追撃も行うらしい。

ここでキッチリお仕置きしなきゃね。

僕は適当なことを言って、アヤネちゃんと対策委員会本部で待つことにした。

 

『そういえばアヤネちゃん』

 

先生たちが移動している間、僕は近くにある書物を読みながらアヤネちゃんに尋ねる。

机一枚を挟んだ距離、アヤネちゃんは僕の目を見て答えた。

 

「なんですか? 球磨川先輩」

 

『まだこれは先生に伝えていないことなんだけどね』

『こう見えて僕は大人だから、君たちの借金を完済する術を持っている』

『しかも素早く、君たちが頷ければすぐにでもゼロに出来ちゃうくらい』

『君たちには何もデメリットもない。後腐れもない。先生には迷惑かけちゃうかもしれないけど』

 

『まあ君たちにとっては他人もいいところだろう』

 

『どうだいアヤネちゃん。僕は依頼主である君の意見を聞きたいな』

 

この手の問題は簡単に解決できてしまう。

いや、解決という言葉は相応しくないな。

つまるところ問題は――問題自体を無かったことにしてしまえばいい。

 

ないものはない。問題は問題にしなければそれで問題なし(オールクリア)だ。

 

僕の『過負荷(マイナス)』ならそれが可能だ。なんなら、今も問題視している砂漠化だって無かったことにしてあげようか――と、追加で僕がそう言おうとしたとき、アヤネちゃんが口を開いた。

 

「……仮に、そうだとしても。それでもこれは私の一任では決められません。今まで私たち対策委員会として頑張ってきました。ですから、ちゃんと話し合って決めたいです。私としては……その意見には反対ですけど」

 

『へえ』

『それはどうして?』

 

「私たちは今まで真っ当に、働いて返してきました。その途中でそんな邪道なやり方で返してしまったら、過去の私たちが可哀そうです。私はそれでも王道を往きたいんです」

 

アヤネちゃんの言葉の節々には迷いが感じられた。

だけど言葉を変えるつもりもないらしい。

なるほど……ね。

 

『ちなみに、王道の本当の意味は手っ取り早い道って意味ね』

『邪道でもそれが早ければそれは正道であり「王道」なんだよ』

『あーあ残念だな。これで君は楽に借金を無くせる方法を失くしてしまった』

『これで君たちは地道に借金を返すという最悪な選択を取らざるを得なくなってしまった』

『君のせいだ』

『君のその判断のせいで、友達を危険な目に合わせてしまった。君のその下らない正義ゆえに』

 

アヤネちゃんの目が丸くなって、少しだけ顔を歪ませた。

痛切そうな顔に、僕はそれでもと、机に乗り出して彼女の頭に手を置いた。

 

 

『だけどその答えは非常に――僕好みだ』

 

「球磨川先輩……?」

 

『約束しよう。僕は必ず君たちの助けになると』

『僕は愚か者と弱いものの味方だからね』

 

――ま、仮にアヤネちゃんがそういったら僕は後々の責任は彼女らに取らせるつもりだったから、僕としては反対してくれることがうれしかった。

 

そして、現場にいた先生とホシノちゃんたちによる追撃が行われ、それは無事に成功した。アヤネちゃんは僕が先ほど言ったことを他の皆に語ることは無かった。先生たちは怪我無く帰ってきた。

 

「いやぁ~まさか勝っちゃうなんてね。ヘルメット団もかなりの覚悟で仕掛けてきたみたいだったけど」

 

「これが先生の力……」

 

戦闘自体はものの十数分で終了した。

完全勝利――ってとこかな。まあ、僕はそこに助力も手伝いもしなかったから、また勝てなかったといった所だけど。

 

それよりも驚くのは彼女たちの怪我の具合だ。銃から真向に立ち向かって擦り傷程度で済むとは恐れいったね……素でめだかちゃん並みの防御性能を持つとは。いやはや恐ろしい世界だぜキヴォトス。

 

少しの談話を挟みつつ、話は借金返済の方へと戻っていった。

詳細な金額は9億6235万円――うーん、大体十億円くらいか。

 

めだかちゃんなら自分のポケットマネーで支払いかねない金額だな。

 

セリカちゃんを除く対策委員会のメンバーは、時間がある時にシャーレでアルバイトをするという先生の案に賛成していた。一応ここで明言しておくんだけど、別にセリカちゃんが子供だったとか、そういうわけではない。

 

「だから! これ以上大人の力を借りるつもりは無いって言ってるでしょ! 私はそんなの認めないから!」

 

きっと彼女は自分達の、対策委員会の力だけでアビドスの借金返済を成し遂げたいのだろう。仲間内で頑張っている時に、いきなり現れた大人にあれこれ言われたくない――とか。

アヤネちゃんと似たような感じかな。いや、きっとそれは僕もだろう。

ぬるくもあった僕の大切な仲間達――-13組の面々たちを思い返しながら、僕はセリカちゃんの後姿を見送る。

 

仲間思いで結構なことだ。

 

◆

 

さて、この世界にきてはやくも一日が経過してしまった。

元の世界に帰る案も情報もないまま、僕はつい格好つけて味方するということまで言ってしまったわけだけれど。

 

まあ過ぎたことはいいや。人との出会いはなかったことにならない――箱庭学園で学んだことだ。もともと流浪の旅だったし、ここらで少し寄り道してもいいだろう。

 

『というわけだから』

『僕とセリカちゃんが偶然出会ったのは、僕が寄り道をしていただけであって』

『決して――家の前で出会ったというのも偶然で』

『決して、僕があの後こっそり後ろで憑いて行って、セリカちゃんの家を特定していたわけじゃないんだからねっ!』

 

「いや怖いわ! なによアンタ変質者なの!?」

 

おやどうやら嫌われてしまったらしい。

 

「どうせアンタも先生に言われてここまで来ただけなんでしょ! 何があっても私は認めないから!!」

 

『いやいや僕は自分の意志でここまで来ただけだよセリカちゃん』

『それよりもどこに行こうとしてるんだい?』

『そっちは学校とは違う方向のようだけれど』

 

「バイトよ。もともと今日は休校日だし、学校がないときくらい自由にさせて」

 

セリカちゃんはどうやらバイトに行くらしい。そのまま後ろに着いていくのもありだったけれど、どうやら僕の過負荷としてのオーラが強すぎるのか、セリカちゃんに気付かれ撒かれたのであきらめることにした。

 

『……それで』

『さっきからそこでチラチラ見ている悪い子は』

『一体誰なのかな? ――ホシノちゃん』

 

「うへぇ~……一応、気を付けて後付けてきたと思ってたんだけど」

 

僕の背後にある塀の裏からホシノちゃんが出てきた。

この子は常に寝起きのような態度を取っている。それでも今だけは……いや、この子からは初めて会ったときからピリつくような雰囲気を感じ取ったんだ。

 

『全く。ホシノちゃん――君の考えていることはわかる』

 

「……」

 

『君さては僕のファンだな!』

 

「……い、いやぁ~それはどうかな~……あれ? これツッコんだほうがいい? うへぇ~参ったなぁいつもボケ側だから勝手が分からないよ~」

 

『なに、僕たちはもう親友のようなものじゃないか!』

『今日はどうやら休校日らしくてさ』

『僕はこのまま街に出て、ジャンプやらエロ本を探そうと思うんだけど』

『親交を深めるためにホシノちゃんもどうかな? ちょうど、君にピッタリな本があるんだ』

 

「……それはどんな本かな?」

 

『なにストーリー自体は大したものじゃない』

『親愛する人に非道(ひど)い言葉を言ってしまった、女の子が主人公の』

『ありふれた戯言にも等しいくらいの』

『悲(・)劇(・)だ(・)よ(・)』

『おぉっとごめんね』

『これは僕のオリジナルだった。失敬失敬。お詫びに今度ホシノちゃん似のエロ本を渡しに行くね』

 

『あそこの砂漠で待ち合わせなんてどうだい?』

 

 

 

『衣装はそうだな……喪(・)服(・)がいいかな!』

 

 

 

 

「…………」

 

冷えていく空気。怒りの感情が渦巻いている。

ここまでのものはきっと中学時代のめだかちゃんくらいかな。

 

「……どこまで知っている」

 

『僕は何も知らないよ』

『君が知っているんじゃないのかな』

 

その瞬間、背中に掛けてあった予(・)め(・)セ(・)ー(・)フ(・)テ(・)ィ(・)が(・)外(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)シ(・)ョ(・)ッ(・)ト(・)ガ(・)ン(・)が火を吹いた。弾が扇状にばらける。ある程度弾道は予測できていた。だけど想像以上に発砲が素早く、なまじ反射だよりに身を屈めて避ける。

 

「球磨川禊……やっぱりお前は危険だ」

 

橙色と青のオッドアイが僕を睨んだ。

 

『おいおい酷いなあ』

『僕たちは苦楽を共に分かち合った』

『友達じゃないか』

 

「信用できない……少なくとも今のお前は」

 

『それじゃあどうする?』

 

「殴殺(ころ)して銃殺(ころ)して吐露(ころ)して嘔吐(ころ)して尊厳破壊(ころ)してやる」

 

やれやれ仕方がない。僕は両手に太い螺子を持って彼女の前に立ち塞がる。

僕は本当はこんなことをしたくなかったのに。

出会ったときからホシノちゃんは僕のことを伺っていた。危険視していた。

だから僕もそれに対応せざるを得なかった。言わば僕は被害者だ。

 

だから――。

 

『僕は悪くないっ!』




因みに球磨川先輩はユメ先輩のことを全く知りません。

コメント等よろしくお願いいたします。
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