混沌より這い寄る透き通った青春   作:過負荷の後輩

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前置きに不定期更新を掲げているとは言え遅くなるのも忍びなく思う今日この頃。
公募用に出すやつ×2と別アカの連載×2の執筆でそろそろ指が死にます。誰か僕の代わりに書いてくれる分身体いないかな。それかせめて腕を増やしたい。

そしてなんかタイムリーな十二話です……アコちゃんのトレス難しいって。


第十二話『後輩を可愛がるのは先輩の特権だろ?』

 

僕はメールを読んでいた。

先生から伝えられた内容(メッセージ)――つまるところ、カイザーローンは間違いなく黒で悪ということ。そしてこれはアヤネちゃんが調べたことだけど、何でもこのアビドスの土地所有権を有しているらしい。アビドス高校が有しているのは体育館や校庭などの敷地とちょっとの広さしかない土地しかない。一体カイザーは何を企んでいるのだろうか。高価な資源などはこの地帯にはなく、あり得るとすれば僕が最初に転移したあの砂漠しか無いとのこと。

 

あと、奪取した一億円はそのまま置いてきたらしい。

 

『その行方がこっち……と』

 

僕は拠点に置かれていたアルちゃんの置き手紙を続けて読む。

長かったので要約すると、汚いお金を使って私腹を肥やすのは三流以下のアウトローだから、この金は格好良く慈善団体に寄付します――との事だ。彼女たちらしい行動で微笑ましくなる。

 

さてそれじゃあどうしようか。ここで待つという選択もあるけれど、流石にアビドス高校に戻った方が良いよね……と、立ち上がったその時だ。

爆音と振動、そして遠くの方から立ち昇る黒煙が見えた。

 

 

ゲヘナ学園風紀委員会はアビドス領地内にて便利屋68を発見したという報告を受け、銀鏡イオリ、火宮チナツの二名を筆頭に小隊を組んで大規模の行動を開始、便利屋68の拘束に乗り切った。

それが事のあらましであり便利屋68は本人たちの気概はともかくれっきとしたアウトロー組織であり本人が意図しなくとも他者に迷惑を掛け被害を与えているのは確かだ。

彼女らの行為は一般的にみれば正義足りえるのだろう。

 

しかしこの世に正義と名を付いた暴挙は様々ある。自分達が正義だと思い込んでいても傍から見れば悪行と何ら変わらない行為だと見做される可能性があるのだ。巻き込まれる第三者はそれを悪と罵ることも出来るしそこに悪感情を抱くこともあるだろう。では正義と悪をどう区別すれば良いのか――この場合は至極簡単なことをすれば良かった。事前報告――要するに許可取りである。たったそれだけをすれば彼女は誰にも邪魔されず罷免被る事も無く正義を執行出来ていたはずだ。

 

正義の旗印の下にいる彼女たちには理解が出来ない。突如自分の街に攻撃された少女たちの怒りを。

故に対策委員会と風紀委員会が衝突するのはどうしようもなく定められたことなのだ。

 

「ちょっと! ゲヘナの風紀委員会とか何だか知らないけどさ、どうして理由も無く私たちの街を攻撃するわけ!?」

 

いの一番に前に出たのはセリカであった。彼女は勇ましくも武器を構えながら行進を進める小隊の前に躍り出て、声を張り上げた。イオリとチナツは小隊の前へと向かい、そこでチナツはセリカの奥にいる民間人に目を丸くさせる。

 

「シャーレの先生……!?」

 

「シャーレ? なんだそれ」

 

「ちょ、ちょっと待ってください……シャーレの先生があっちにいるのであれば、何がなんでもあのアビドスの生徒達とは戦ってはいけません!」

 

「戦ってはいけない……って、もうあいつら銃をこちらに向けているんだぞ!?」

 

「それでもです!」

 

目の前にいる大人の凄さを知っている。こちらの戦力が中隊一個分だとしてもあの者に掛かれば少数人数でも突破は可能だ。突破出来てしまう。それはまるで魔法でも掛かったかのように、先生の指揮下にいる生徒は強くなる。強くなるというべきか――手強くなるというべきか。

 

チナツは前へと出て、セリカでは無くその奥にいる先生に視線をやった。

直ぐに気づいてくれたのか、先生は頷きながら前へと出て、セリカの横に立ち並ぶ。

 

‘‘久しぶり、チナツ‘‘

 

「先生……こんな形でお目にかかるとは……」

 

旧友までとはいかないが、先生とチナツは初対面では無い。それがこの暴挙をどう決着付けるのかセリカが黙ったまま後ろへと下がると、ドローンが入れ替わりにやってきた。

 

「アビドス対策委員会の奥空アヤネです。所属をお願いします」

 

「それは……」

 

「――それは私から答えさせていただきます」

 

「アコ行政官……?」

 

通信越しから聞こえたのはどこか軽侮するような声色をした少女の声だった。

 

「こんにちはアビドスの皆さま。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します。今の状況について少し説明させて頂きたいと思いますが、よろしいでしょうか」

 

「ア、アコちゃん……その」

 

「イオリ、反省文のテンプレートは私の机の、左の引き出しにあります。ご存じですよね?」

 

イオリが言いにくそうに口ごもっていると、それを見越したアコから声が掛かる。

音声だけだというのに凄い圧だった。

 

「行政官という言う事は、風紀委員会のナンバー2……」

 

「あら、実際はそんな大したものではありません。あくまで風紀委員会長を補佐する秘書みたいなものでして――まあこんな状態では話せるものも話せませんね。失礼、全員武器を下ろしてください」

 

アコの呼び声と共に背後に控えていた隊の全員が銃器を下ろした。

 

「先ほどまでの愚行は私の方から謝罪させていただきます。私達ゲヘナの風紀委員会はあくまで、私達の学園の校則違反をした方々を逮捕するために来ました。あまり望ましくない出来事となってしまいましたが、まだ違反行為とは言い切れないでしょうし、まだ互いに直接戦闘には発展しておりません。やむを得なかったという事でご理解いただけますと幸いです」

 

「校則違反をした方々というと……便利屋68の方たちですか?」

 

「あら。ご存じでしたか」

 

「ええ少し色々とありまして……」

 

「もしかしてその人達を匿っていたりとかはしていないでしょうね?」

 

「まさか! でもそれが理由でこんな街中で爆発させる必要はないと思います」

 

「うーん……見解の相違ですね。それではご協力頂けない――寧ろ敵になると、そう思っても宜しいでしょうか」

 

「ん。少なくともここで暴れるなら容赦しない」

 

それが総意だとばかりに後ろに控えていたアビドスの連中が武器を構える。

それに合わせ反射的に先ほど武器を下ろす様言われていた小隊の何人かが銃口を覗く。

正に一触即発の中、くつくつと通信機越しに堪えきれず漏れ出た笑い声が聞こえた。

 

「イオリ、背後に先生が付いているとなればこの場にいる部隊だけでは心許ないでしょう。奥に控えている戦力を全部隊投入しなさい」

 

「や、やるのかよアコちゃん……」

 

確かに今ここにいる部隊が全てという訳では無い。

敵の脅威度を把握し都度部隊を投入、それが戦術の基本であり鉄則だ。

故にイオリ達が行進して来た大通りの奥には追加戦力の部隊がきちんと配備されている。

 

「先に仕掛けて来たのはアビドスの方ですよ。私達は火の粉を払うに過ぎません。私は話し合いで場を納めようとしましたが、そちらがその道を選ぶというのであればもうヤるしか――」

 

その時、イオリとチナツの間からぬるりとその男は現れた。

 

『僕の可愛い後輩たちに堂々と不埒なお誘いをするとは』

『随分とゲヘナの風紀は変わっているね』

『生徒会長選の時、不純異性交遊の努力義務化を掲げていた僕としては』

『是非とも参加したい所だぜ』

 

「えっちな提案ではありません! ――というか、誰ですか貴方は!?」

 

「あ、裸エプロン先輩☆」

 

「ん。風邪引いて早退した裸エプロン先輩」

 

「ホシノ先輩を泣かせた極悪非道の裸エプロン先輩じゃない」

 

「いや、なんでそんな変態を仲間にしているんだよ……」

 

そう言ってから、イオリは慌ててその場から離れ手に持っていた銃器を卑猥な言葉を言いながら乱入してきた男に向ける。男は両手を空へと上げてへらへらと笑っていた。

 

『おおっと自己紹介が遅れちゃったね』

『僕の名前は球磨川禊。後輩たちからは「風」と慕われている男さ』

 

「いやさっき裸エプロン先輩って言われていただろ!」

 

イオリはハッとなって、気を張りなおした。

ついツッコミに回ってしまったが、目の前の男は間違いなく脅威だと感じた。

不気味なのは一切の気配が無いこと。

そして何よりも――嫌な予感にチナツが青い表情を浮かべながら、アコに伝わる様に口を開いた。

 

「銃器は持ってないんですか? 球磨川禊さん――貴方はまるで昼下がりのコーヒーブレイクかの様な気分で()()()()()()()気軽に声を掛けました。……これを意味する事が分かりますか?」

 

チナツ達の背後には今この場にいる約二百人の一個中隊分よりも大きな部隊を控えさせていた。

それらがこんな見るからに怪しい不気味な男を素通りさせるとは思えない。

何よりも恐ろしいのは背後からの発砲音が無かった事。巧みな話術で懐柔させたのか――否、二百人全員を言葉で捻じ伏せることなんて出来ない。ならどうやって――。

 

『最初は会話で分かり合おうと思ったんだけどね』

『誰だって銃口覗かせて会話なんて出来やしない』

『向こうが先にやったんだ』

 

『――僕は悪くない

 

「戯言ですね。銃器を持たない貴方があの数を相手に全員をほぼ一瞬で捻じ伏せたなど、嘘を吐くならもっとマシな嘘の方が良くて?」

 

アコが一笑しながら、その裏で後方部隊のリーダーに連絡を掛ける。一応、念のためだ。

しかし応答はない。何度連絡を掛けても一向に繋がらない。

 

一方でチナツとイオリは今しがた吐いた虚言に近しい言葉を真実と受け止めた。

通信機越し故にアコは気づけない。否、とっくの当に乱入して来た男が気持ち悪い、正に混沌より這い寄る者と認識しているが、実際に出会っているのと話し声を聞いたのではその印象の強烈さが段違いだ。

 

滲み出る圧倒的な負。

全てを捻じ曲げ屈服し得る圧倒的な負完全。

その圧は自分達のボスと同格か或いはそれ以上か――圧倒的な強さから来るものではない事だけは確かだ。関わるだけでも危険だと、本能が警鐘を鳴らす。

 

『ところで、アコちゃんと言ったかな』

『人を揶揄うのが楽しいのは僕も知っているけど止めて欲しいんだよね』

『後輩たちを可愛がるのは先輩の特権なんだ。邪魔しないで貰おうかな』

『それに君の狙いは大方分かっているからさ』

『大人しく尻尾巻いて逃げてしまいなよ』

 

「狙い……ですか。失礼な男ですね、私はただ――」

 

『たった四人しかいない連中を相手にこんな大勢で仕向ける指揮官は』

『愚か者を通り越して能無しだ』

『これは明らかに第三者に向けてのアピール』

『つまるところ、僕達を刺激させて攻撃してきたところを』

『それを楯にシャーレに色々と付け込むのが狙いだろう?』

『超法規的組織の失態を握って何を揺さぶるつもりなのかは分からないけど』

『――アコちゃん、君の欲しがっている男はそんな簡単にやれる相手じゃないんだぜ』

 

「……」

 

『あ、今のは別にやれるとヤれるを掛けた訳じゃ無くてね――』

 

「いえ分かってますので口を慎んでください汚らわしい犬畜生以下の過負荷(マイナス)の分際で」

 

早口で伝えられる罵詈雑言の嵐。それは先ほどの禊の言っていた内容の答え合わせだった。

もしもここで何食わぬ顔で否定すれば最悪の事態にはならなかったものの、しかし禊の煽り冗句の方が一枚上手であった。

 

『……ふふふ』

『聞いたかい先生』

『彼女、僕に気があるんだってさ』

 

「誰がいつそんな事を言いましたか!?」

 

完全に手玉に取られている事は流石に自覚している。しかしここで何を言ってもこの男には通じないだろう。この男が現れてから、悉く計画が狂い始めている。捻じ曲げられている。もはや軌道修正が不可能だ。このままでは撤退の潮時すら見失いそうになる――いやもしかすると既に見逃しているのかもしれない。そうなれば非常にマズい。何しろこの行動は上の許可を頂いていないのだから。

 

もしもこれが自分の上司たる存在に知られれば――アコが静かに怒りを募らせ、爪を噛みながらこの状況を打破しようと思案していると。

 

 

 

 

 

風紀委員の子たちが螺子で貫かれているんだけど、君のせい?

 

 

 

 

 

 

双方にとっても一番聞きたくない声が上空から響いた。

 




やめて! 誰々ヒナの圧倒的武力と可愛さで球磨川先輩を圧倒しちゃったら、通信機で繋がっているアコの精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでアコちゃん!
あんたが今ここで倒れたら、誰がツッコみ役になるというの?
ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、反省文が待っているんだから!

次回「天雨アコ死す」 デュエルスタンバイ!

高評価&コメントもよろしくね。


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