これからも引き続きよろしくお願いいたします。
攻略法その1―――「既に起きた出来事は変えられない」。
先生が未来をことごとく変えてしまうと言うなら、過去を利用すれば良いだけのこと。
例え先生であっても、過去を変えてしまうのは不可能でしょう。
攻略法、その2。
いくら奇跡の担い手とはいえ、肉体には物理的な限界がある。
それが先生……あなたの弱点でしょう?
攻略法3つ目――「心は予測も制御もできない」。
欲望や罪悪、恐怖、執念、悲嘆……それが衝突し生み出された混沌があなたの前にのしかかってくることでしょう。
そして、4つ目――「小さな傷が致命傷となる」。
さあ物語を加速しようか。面倒な工程は全て飛ばして。材料は揃った。
コデックスはあの方によって固定された。本来であればまだ小生が関わるべきではない事案だが、既存の物語は破却された。今小生が望むものに書き換えられる千載一遇の機会が今なのだ。さながら新たな神話を描く心持ちでお相手しよう――先生。
既に貴方の攻略法は思いついています。
幾ら上級プレイヤ―と言え所詮は盤上の駒を操ることしか出来ない存在。既に盤面を整えてしまえば挽回は不可能でしょう。小生が注意しなければならないのは――球磨川ミソギただ一人。
『
ふ、
ふざけてんのかあああぁぁぁぁぁ!!?
死を、死さえも無かったことにする!?
事実を
ふざけんなあああああ! 世界は貴様の玩具では断じて無い!!
生まれてたった十数年の子供が! 苦しみを知らないガキがぁ! 知った様な顔で世界を振り回すんじゃねェッ!!
ハァ、ハァ、ハァ…………。
………。
……。
…。
ひとまず、奴の
苦行を通じて小生が、どんな気づきを得られるか、それが重要だ。
それに策はある。どれだけ無法だろうが奴は物語の主人公では無い。
ならばそこに付け入る隙はある。早急に解決しなければいけない事が乱立すると人は正気を失う――攻略法三つ目に近しいが、こちらは予測出来たとしても制御は出来ない。
どれだけねじ曲がっていても、キャンペーンが無事であれば問題はない。
そう、そこに至るまでの過程はどうでも良い事なのだ。
例え、死者が現れようとも、もはやどうでも良い些事だ。
◆
列車砲シェマタ――かつてのアビドス高等学校の生徒会長シェマタと、ゲヘナ学園の生徒会長だった『雷帝』という人物が協賛となって造り上げた兵器らしい。スペックがとんでもなく、500キロメートルまで届く長射程に、弾は太陽と同じ温度のプラズマというトンデモ具合。一介の生徒がそんな秘密道具(あの青狸さえこんなものは持っていないだろう)めいた兵器を用意できるのかと疑ってしまうけど、最盛期のアビドスの恐ろしさの一端が分かった様な気がした。
「カイザーがキヴォトスの掌握を狙っている。もしこの情報が正しければ危ない。一日二日で隠せるほど列車砲は小さく無いから、せめて保管している位置さえ手に入れられれば……」
‘‘入れられれば?‘‘
「
『そりゃとんでもないね』
『万魔殿ってアレでしょ? 生徒会執行部みたいなものでしょ』
『全員が一騎当千の実力者って考えて良いのかな』
「最強――とは言わずとも、ゲヘナの全権力を行使出来るという点に置いては厄介ね。確かにカイザーPMCは大企業だけれどそれ以上にゲヘナの権力は強大」
『あくまでシャーレの力は使わないという訳かい?』
シャーレは超法規的組織。あらゆる制限を受けず自由に活動できる機関。
それは勿論犯罪行為に対してもそうだろう。元は生徒の悩みを解決する組織であるのだから、周囲へのアピールとして何かしらの罰は下されるかもしれないけど、命までは取られない。そんなシャーレからの許可を取ればそんな面倒な事をしなくても済む――と彼女が考えていないかどうか、僕は軽口を装って質問した。
「そうね。本当のことを言えば出来る限り協力を要請したい所だけれど……今後に控えるエデン条約に何かしらの不備が起こらない様に、今はまだシャーレの力を使うべきじゃない。それに、身内から出た不始末は後任の私達が処理するのが当然でしょ。心配はいらないわ、大変なのは覚悟の上だし、出来ない事は最初からやらない主義。面倒くさいもの」
つまるところ勝率はちゃんと高いという訳か。
しかし改めて見ると、凄く頑張っている子だ。
あれだけの信頼と裏打ちされた実績、僕を前にしても堂々と振る舞っている事からしてみて、こういう事態も慣れっこなのだろう。だけど先ほどの面倒くさいというぼやきから察するに、積極的にトラブルに介入する性格では無さそうだ。さしずめ動機は、周囲からの期待と自己の能力の高さ故の責任感かな。
「……どうして私の頭を撫でているのかしら」
『ん? 何となくさ』
『頑張っている子は須く報われるべきだと思っていてね』
『それともこんな気持ち悪い僕の手は嫌かな?』
「正直言って迷惑」
ヒナちゃんは一歩後ろに下がってから、踵を返して歩いた。
だけど少ししてから立ち止まって振り返りながら言った。
「……だけど、ありがとう。少しだけ嬉しかったわ」
◆
『僕は要するにロリに弱いって事なのかな……』
今まで交流のある人物を思い返してみて、その大多数がロリ体型……背が小さい子が多いなと改めて思いながらぼやいた。
「ん。ロリコン先輩」
『ロリコン先輩は人間失格の烙印を押されるより嫌だなぁ』
というかどんどんバリエーションが増えていないか? これじゃ僕が皆から慕われる先輩(笑)になってしまうじゃないか。是非とも括弧つけないで欲しい。
砂が混じった横風に煽られながら、僕たちは市街地を歩いていた。
お世辞にも完全に舗装されたとは言い難く、アスファルトの所々には弾痕などの破壊痕が残っている。ゲヘナの仕業かと思ったけどシロコちゃん曰くずっと前からあるそうだ。借金返済に宛がわれる金額が多いせいでこういった修復に手が回せていない状況らしい。
「だから早く今後の方針を決めないと……ホシノ先輩帰ってきているかな」
「大丈夫ですよセリカちゃん。ホシノ先輩がアビドスを見捨てる訳ないじゃないですか」
「うん……というかこれも全部球磨川先輩が悪いんだからね!」
『僕は悪くない』
『……と言いたいところだけど、うん』
『僕も言い過ぎた部分はあるかもしれない』
何にせよまずはホシノちゃんの捜索だね。流石の彼女も本気で逃げ出したわけでは無いだろう。
彼女は責任から逃げない。細い彼女が持つには少し余分な責任だと思うけれどね。
先輩だから任せて欲しいと後輩だから頼って欲しい。そんな言えない感情を彼女らは持っている。だけど言わないと人は通じ合えないし話し合わないと分かり合えないんだぜ。
ちゃんと言わないと。言ってあげないと。
全く仕方ないな……ここは皆の頼れる先輩(笑)の出番だね。
ホシノちゃんにはちょっと皆の思いを聞き受けて幸せ殺しにしてあげないとね。
そんな風に思っていた。
少なくともこの時まで僕はこの事態を楽観視していた。
あろうことかこの僕が、まだ大丈夫だと、続きがあると思い込んでいた。
水面下で蠢いていた事象は姿を現さずしかし着実にその領域を進めて行く。
その加速を止める事は出来ない。軌道に乗った列車の様に、誰かが燃料をくべている。
大火は静かに僕達の周りを囲っていた。
ホシノちゃんの退学届けの紙類を発見した。
それだけじゃない、突然アビドスの債権が債権市場(借金を受け取る権利を他の人に売るという事とらしい)が売買され、それをネフティスグループという会社が大量に購入。
未曾有の事態が連続して二つも押し寄せてきている。その事実は重く、ただでさえ皆を引っ張って来たリーダーが不在な今、彼女らにその重圧は厳しすぎるものだった。
今はホシノちゃんの退学届けに付属されていた手紙を皆が黙々と読んでいる。
そんな中で僕は彼の方へと視線を向ける。
『先生』
‘‘分かっている‘‘
『どっちに行きたい?』
‘‘ミソギが選ばなかった方かな‘‘
『そりゃ丁度良い』
『それじゃ先生には大人として、一番厄介な相手を対応して貰おうかな』
‘‘分かったよ‘‘
‘‘それでミソギはどうするの?‘‘
その精悍な表情を見て僕はにべもなく笑う。
そうだ、笑え、笑え。どんな事態に陥ろうがどんな不幸に見舞われようが、へらへら笑え。
それが僕らの抵抗で、それが
君は笑っているかい? ホシノちゃん。
皆が笑う世界に君はいるかい?
ちゃんと幸せになろうとしているかい。
――僕の
『僕は昔から物事を台無しにするのが得意でね』
『人が決心して行った行動を笑いながら
『だから――』
それにしてもホシノちゃん。君は一つ勘違いをしている。
自己犠牲で満足しながら絶望している君は、決して間違っても不幸では無い。
今頃泣き顔晒してわんわん後悔している事だろうけど、全く仕方ないな本当に。
見せてあげようか、本気になった
必ず連れて帰るから、覚悟しといてね。
『教えてやるのさ愚かで可愛い後輩に』
『君のする自己犠牲なんて――まっぴらごめんだってね』
改心後の球磨川の旦那がスパダリ過ぎる。
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