混沌より這い寄る透き通った青春   作:過負荷の後輩

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明けましておめでとうございます。(大遅刻)
吾輩は大晦日に風邪を引いてしまったので寝正月になってしまいました。
更新が遅くなり申し訳ございません。
大学入試が終わったのでようやく活動に着手できそうです。



第十五話『手紙』

 

球磨川先輩へ、実は貴方の事が大嫌いでした。

 

 

いや、実はなんて今更付けてもおかしいよね。

きっと球磨川先輩は最初から気づいていそうだし。

 

実を言うと球磨川先輩の事は前々から知っていたんだよね。

あの黒服という男から伝えられていて。といってもそれは途方もない出鱈目なスキルを使う男という事だけしか伝えられて無かったから、だから最初こそはゲマトリアに所属していると勘違いしていた。

 

そう、最初こそは。

 

だけど球磨川先輩は私の期待以上に先輩だった。

最初は信用出来なかった大人も今は少しだけマシに見えた。

裏切られ続けた私だけれど、最後は希望を胸に抱いたまま終わる事が出来た。

先生と球磨川先輩ならアビドスの皆をちゃんと導いてくれる。黒服が私の身柄を借金の半分で買ったから、残る半分の借金を……多分今までの調子でいけば返済不可能では無いはず。

 

だけどそれは契約が満了したら、の話。

 

アビドス砂漠は今、カイザーがお宝を発見して忙しい状況にあるっぽい。

私を使っての研究はアビドスでは出来ないってアイツは言っていた。

だからそれまで私はアビドス内にいる。どうしてこれを皆に言わないのかと言うと――もう分かっているよね。

 

余計なことしないで。

間違っても誤っても。

――邪魔しないで。

 

私は自分の意思でここにいるから……きっとシロコちゃん辺りは直ぐに動きだそうとすると思う。

 

その時は球磨川先輩が止めてね。

――って言ってもきっと球磨川先輩の事だから、私がお願いするまでも無くやってそうなんだけど。

 

だって私が球磨川先輩の事が嫌いなのと同じ様に、球磨川先輩も私のこと嫌ってそうだから。

だから、ここまで付き合ってくれてありがとね。仲良くなれなかったけど、最後に銀行強盗しに行ったのはいい思い出だったよ。

 

 何度も消しゴムで消した痕  何度も消しゴムで消した痕  何度も消しゴムで消した痕  何度も消しゴムで消した痕  何度も消しゴムで消した痕 

 何度も消しゴムで消した痕  何度も消しゴムで消した痕  何度も消しゴムで消した痕  何度も消しゴムで消した痕  何度も消しゴムで消した痕 

 何度も消しゴムで消した痕  何度も消しゴムで消した痕  何度も消しゴムで消した痕 

 何度も消しゴムで消した痕  何度も消しゴムで消した痕  何度も消しゴムで消した痕  何度も消しゴムで消した痕  何度も消しゴムで消した痕 

 何度も消しゴムで消した痕  涙で滲んで良く見えない 

 

あとそれと、最後に一つだけ言い事があったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時、私を叱ってくれてありがとう。

 

 

僕は先ほど読み終えた手紙を折りたたみ、小さく小さくしたそれを両手で隠した。

そうして両手を離して、空手となった両手をポケットの中に戻してから、皆の方へと振り向く。

 

『――それで、ホシノちゃんはこう言っているようだけど』

『みんなの意見はどうかな?』

 

「ん。ホシノ先輩には後でお仕置きする」

 

「これは明らかにお仕置きコースですね☆」

 

「絶対許しませんっ」

 

「ホントそう! あれだけ言っていたのに、自分は自己犠牲(それ)だなんて許せない!」

 

みんなの熱い、熱すぎる怒りの気持ちを一身に受けながら、僕はその笑みを更に深くさせる。

全くホシノちゃんったらさ、そんな手紙僕に寄越しちゃ駄目だろう? 本当は一人で助けに行ってホシノちゃんに格好つけようと思ったけど、こんな手紙を見ちゃ考えを改めずにはいられない。

 

「でもまずはこの黒服っていう人を探さないといけないよね……」

 

『それなら心配いらない』

 

僕は携帯を取り出して慣れない手付きで番号を入力する。

相変わらずこのスマホというやつは使いにくいな。

僕はガラケーのボタンを押す感触が好きなのに。

 

コールは一回、その電話は直ぐに出た。

 

『おっひさー、うんうんそうそう。そう言うことだから、え? 僕は行かないよ面倒くさい。シャーレの先生が向かう予定だから丁重にもてなしてよ。ん、それじゃバイバーイ』

 

会話が終わり僕は通話を切ってから無造作にポケットの中に突っ込んだ。

 

「あ、あの……球磨川先輩」

 

『ん?』

 

「さっきの電話相手って……」

 

『そんなの黒服ちゃんに決まってるじゃないか』

『早速今日の午後四時にアポ取っておいたから、よろしくね先生』

 

「なんで敵と電話番号交換してんのよ!?」

 

なんでって言われても、気付けば僕のアドレス帳に登録してあったからどうしようも無いじゃないか。僕は悪くない。

因みに彼の第一声は「本当に連絡するとは……流石私の見込んだ人ですね」だった。

人の予想を裏切ることに定評があるナイスガイだからね、僕は。

 

黒服ちゃんから送られてきた位置情報をそのまま先生に伝えて、先生はそのまま出て行ってしまった。やれやれどうするのかね。随分と張り切っていたけれど相手は一筋縄ではいかないよ。

まあでも大丈夫か、あれはあれで一本筋の通った無骨な人だし。好きにやらせてあげよう。僕は人の怒りをおちょくるのが好きだけど、あの青い炎みたいな静かな怒りだけは正当だ。

 

だから頑張ってね先生。ホシノちゃんを助けられるのは君次第なんだから。

 

 

――私はミソギから送られてきた位置情報を元にとある建造物の中に入った。

 

そして目の前にいる黒服と名乗る人物の前まで来た。

この人が……本当に人間なのだろうか。第一印象で決めつけてはいけないと思ってはいるが、ここまで人間離れしているとは思わなかった。ミソギ、少しは教えてくれたって良かったのでは?

 

しかし泣き言は言ってられない。それにミソギが敢えて言及しなかったのはもしかすると黒服を、大して脅威と感じていないからかもしれない。

それは要するにそれは非力な私でも会話で何とか出来る人物であるという事だ。

その点について私は胸を撫で下ろさずにはいられない。生徒達と違って私は銃弾のかすり傷一つでも致命傷になり得る。一応、護身用の武器は携えているけど、しかし私はここに会話しに来たのだ。武器を握り込んでは平和的な話し合いには持ち込めない。

 

「――貴方が 認識不能 先生ですか。お待ちしておりました」

 

‘‘貴方が黒服だね‘‘

 

「ええ。どうやら私の説明は省略しても宜しいようで。お互いに時間が惜しい身でしょう」

 

氷解(アイスブレイク)の言葉も、雪解け(スノウメルト)の合図もなくただ名前を交換する。

ただそれだけで十分だった。それ以上の交流や会話はきっと意味がないと思うから。

私は確信した。

目の前にいる男は決して大人では無いと。

ただし生徒という訳では無い。

大人や子供の概念を超越した存在――私はこの男とは一生分かり合えない。

 

「そう警戒しないでください。私は貴方を高く評価しています。どうですか先生。一応お聞きしますが我々に協力する気は――」

 

‘‘無い。ホシノを返して‘‘

 

「クックックッ……残念です。残念です――が、貴方が毅然と私の提案に断るだろうという事を、この私はあらかじめ予測していました」

 

面白おかしそうに笑う黒服は、椅子に座る足を組み替えて伽藍洞の瞳をこちらに寄越した。

 

「しかしただ返せと言われても困りますね。何の権利があって貴方が出張るのか。既に私と彼女が結んだ契約は受理しました。この場所を案内したのは球磨川様のその無謀とも言える交渉術に感銘したからです。ここから先の手腕を是非楽しみにしていますよ」

 

黒服は微動だにせずに私を見つめる。

ただでは返さない、か。それとも返すに値するくらいの納得いく理論を持ち出せという事なのか。

私がここでシャーレの権力を使う事も出来るけど、そもそもゲマトリアはその存在からして反政府組織に近しい。向こうが交渉の卓についている事自体が幸運だ。

 

‘‘私にはホシノ以上に交換できるものは持っていないよ‘‘

 

私には何もない。

彼女たちが有する神秘性も、身体の頑丈さも、銃器の取り扱いだってままならない。

彼のような立ち振る舞いも、異能力の有無も、私には持っていない。

 

「クックックッ……交渉の材料を有していないと自白するのは貴方の美徳ですが、しかしそうでなくとも出さざるを得ない場合、貴方には二つ、出せるものがある事をお忘れなく」

 

‘‘ミソギとこのタブレットは渡せないよ‘‘

 

「ミソギ様の事に関しては、私達の手には負えないと判断しました。アレは味方にするにはあまりにも爆弾過ぎる。ただ敵に回すのもいただけない。その一点だけ、ゲマトリアは貴方の事を買っています――『よくもあの人間失格を手懐けたものだと』」

 

‘‘それは違うよ、黒服‘‘

 

ミソギはそんな生徒ではない。

確かに彼には困らせられたこともあるけれど、ここまで言われる様な人間じゃない。

それに手懐けたって? 

 

――私と生徒の関係を、そんなもので揶揄するな。

 

‘‘ミソギはとっても良い子だよ。それに、そんな汚いやり口に乗っかるつもりもない‘‘

 

「汚いやり口……?」

 

‘‘大方、ホシノとミソギを比べて決断を出させようとしているのだろうけれど――‘‘

 

少しだけ私は皮肉るように、気取った言い方をする。

 

‘‘『私はそこまで強くはないよ、黒服』‘‘

 

人を使うというしたたかさなんて、私には要らない。

生徒を比較するなんて傲慢な思考は必要ない。

そんな強さは欲しくない。だからこそ私は彼らとは相いれない。

 

‘‘私には何も差し出すものがない。だから私はホシノを返してもらうという正当性を示すしかない‘‘

 

「あなたの行動のどこに正当性があるのですか先生? 今のあなたに何の権利があってそんな要求をされているのでしょう? 『暁のホルス(ホシノ)』はもうアビドスの生徒ではありません。届け出を確認されていない訳では無いのでしょう?」

 

‘‘……まだだよ‘‘

 

私はホシノの手紙を思い出す。確かにその方法であれば私からはどうする事も出来ない。

だけどそれは。

あの退学届けがきちんと受理されていれば――の話だ。

 

‘‘『顧問』である私がまだサインをしていない‘‘

 

「……」

 

‘‘だからホシノはまだ対策委員会の所属だし‘‘

 

‘‘まだアビドスの副生徒会長だし‘‘

 

‘‘今でも私の生徒だから‘‘

 

「あなたが先生である以上、担当生徒の去就にはあなたのサインが必要……『先生』と『生徒』ですか。中々に厄介な概念ですね。しかし――」

 

黒服は表情を変えずにさして平静として言う。

 

「それで本当に良いのですか? 確かに正しさというのはあなた方にありますが、何も正しさばかりでこの世界は動いていません。何事も必要なのは説得力のある建前。そんなキャプションは幾らでも描けます。むしろ私達はあの子に手を差し伸べただけですよ? 善か悪かと問われれば恐らく悪でしょうが、しかしルールの範疇です」

 

黒服は背後にあるシャッターを開け、私に街の風景を見せた。

砂で覆われた街の一部分を――。

 

「アビドスに降りかかった災難は私たちのせいではありません。あの砂嵐は大変珍しいこととはいえ、一定の確率で起こり得る現象――つまり予測可能であり、裏を返せば対処可能だった。天変地異に善悪は存在しない。あるのはただ起こってしまったという結果だけ。そして、私達はその機会を利用しただけ。それは、砂漠で水を求めて死にゆく者に高額な水を売りつける様なことですがね」

 

‘‘それが許されるような行いとでも?‘‘

 

「さして珍しくもない、世の中にはありふれた話でしょう。寧ろ大抵の経済が目に見えない第三者の不幸で成り立っています。そのサイクルは、私達が初めて作ったものでもなければ、私達がそれをしなかった所で消えるものでもない。持つ者が持たざる者から摂取する。知識の多い者が、そうでない者から摂取する。厳然たる世の中の事実ではありませんか?」

 

私は答えない。

世界のルール、経済のサイクル、不幸の循環。

どれもが個人で解決するには難しい問題で、そこに善悪の判別を付ける事なんて出来ない。

だけど私から言えることがあるとすれば、一つだけ――。

 

‘‘話を壮大にさせて、目の前の話題から目を逸らすな‘‘

 

‘‘ホシノを返して‘‘

 

「ええ、ですから。アビドスから手を引いていただけないでしょうか、先生」

 

‘‘断る‘‘

 

「……『暁のホルス(ホシノ)』さんさえ諦めて頂ければ、あの学校については守って差し上げましょう。カイザーPMCのことについても、私たちの方で解決致します。あの子達にもどうにか、アビドス高等学校に通い続けることが出来るはずです。そしてそれは、彼女が望んでいることのはず。いかがですか?」

 

‘‘断る‘‘

 

そうして私は胸元から大人のカードを取りだした。

それを見た途端、黒服がピタリと身体の動きを止めた。

 

「……大人のカード。ええ存じていますよ多少ながら。なるほど確かに、それは貴方だけの武器だ。しかし勿論リスクもある」

 

視線が私の持つカードに吸い寄る。

 

「使えば使うほど、あなたの時間が削られていく――全くもって、本当に。理解が出来ない」

 

緩やかに首を横に振りながら歎息される。

 

「あなたは何故そこまで生徒達に肩入れをするのですか。それもまだ数日しか関係を持っていない者達の為に、どうして命を張るまで助けようと……球磨川様の様な異能を持たず、生徒の様な神秘性を保有せず、我々の様に逸脱とせず、生身の人間でありながら、どうしてあなたは――」

 

‘‘あの子達の苦しみに対して、責任を取るべき大人が誰もいなかった‘‘

 

「だから何ですか? だから、それだけの理由で? 大人と生徒という関係があるからこそ? そんなもので――」

 

私はアビドスのみんなの事を思い出した。最初に出会ってから今の今まで。

彼女たちは誰一人として、他人を宛てにした事が無かった。

時に助け合い時に励ましながら、自分のやるべき事に常に全力で……だからみんなアビドスが大好きだと第三者の私にでも伝わるくらい、その想いは本物だった。

 

だからこそ、私は『大人』として、生徒達の前に立ってその脅威から身を挺してでも守り抜く。

 

だって――

 

 

‘‘だってそれが『大人』のやるべき事だから‘‘

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とても理解出来ません。常人の思考では無い」

 

数秒の咀嚼の後に黒服はそう結論づけた。私は無表情でその解答を承諾する。

別に理解を求めたつもりでもない。これは言わば私の決意表明であり、私の人生における軸だ。

だからといって何も得られない訳でも無い。報酬とまではいかないけど、やりがいはある。

 

貴方には分からないだろう。黒服。

誰もが主人公になれる様な青春の物語(ブルーアーカイブ)

あの世界の中で生きていく彼女たちとの交流が、どんなに私にとって幸せな事か。

論理や合理ばかりの貴方には理解できないだろう。

 

だからこれ以上の会話は意味が無い。

私が何を言っても目の前の男の思想を変える事が出来ないのと同じように、またこの男も私を変える事など出来ないのだから。

 

黒服が観念したかのように言った。

 

「……『暁のホルス』は今現在、アビドス砂漠内にあるカイザーPMC基地地下に匿われています。本来であればそこの実験室を用いて『ミメシス』での実験をしたかったのですが――少々トラブルが起こってしまいましてね。いえ、この場合トラブルというよりも『情報伝達ミス』と言った方が正しいのでしょうか。どちらにせよまだ彼女はそこにいますよ」

 

トラブル――情報伝達ミス。幾つかのワードが口から出て私はふと先ほどの出来事を思い出す。

確かヒナが言っていた――。

 

‘‘アビドス砂漠内で発掘された二つのものに関係するの?‘‘

 

「おや……その情報は厳重に規制が貼られていたはずですが。ええそうです。本来であれば見つかるかどうかも分からない宝と言っても過言では無い程のものでしたが『あの方』の力によって発掘されました。一方は列車砲シェマタ。もう一つの方を――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウトナピシュティムの本船、と言います」




因みにこれ書いている途中に結果届きました。
オラァ大学生になれるど。
何かの拍子に特待生枠で合格できたので学費免除です。浮いたお金はワイの小遣いって事で良いよなぁ!?

次回の更新はまた少しお待ちください。
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