混沌より這い寄る透き通った青春   作:過負荷の後輩

2 / 18
投稿時間を夜の八時に固定します。


第二話『僕は悪くない』

あれ? 随分驚いた顔しているけど――先生には言ってなかったっけ。

ああ、ごめんごめん。あんまりにもどうでも良い些事だったからさ、皆にも言ってなかったんだ。

今ではすっかり仲良しさ。この間も二人で水族館デートに行ってたし。

それでも確かに、あの時僕は――皆と合流する前に一度、ホシノちゃんと戦闘(バト)ッてたね。

 

いやああれは凄かった。僕もこの世界に慣れてきて、様々な生徒達に出会ったけれど――ヒナちゃん――空﨑ヒナちゃんとホシノちゃん。僕の中ではあの二人が最強格の筆頭候補だよ。他にも各学校ごとに最低一人はいるんだけどさ、生憎、僕はまだ彼女らと一戦交えた事が無いから。そうなればホシノちゃんとヒナちゃん、果たしてどちらが強いのだろうか。

 

あの時は、ヒナちゃんじゃなくて僕が戦ったしさ。

 

僕の意見? んー黙秘で。強いて言うならヒナちゃんかな。別にホシノちゃんが弱いって事は無いんだけど、総合的に――審判役が僕であった時のお話だよ。

 

潜在能力の差で言えば、間違いなくホシノちゃんに軍配が上がるだろうね。

そもそもホシノちゃんの強みはね、圧倒的な継戦能力なんだよ。どんな状況になったとしても今一番出来ることを全力でやっている。迷いも隙もありゃしない。相性の良し悪しという言葉が無い。

 

ヒナちゃんもヒナちゃんで、あの子もあの子で対外、何でも出来るし。

二人とも意志の強さが半端ないからね。多分、先生がどっちかに肩入れするとしたらそれがそのまま勝敗に決してしまうだろう。二人とも一度折れてしまえば、立ち直るのに時間を要するタイプだと思うし。

 

だから多分、どっちつかずの状況になるんじゃ無いのかな。二人ともタフだから、肉体的な強さじゃなくてその時その状況下での精神的強度が勝敗の決め手となると思う。

そんでもってホシノちゃんは、あの時のホシノちゃんは大きな爆弾を抱えていた。強迫観念に囚われているという点では、両者は一緒だけれど、ヒナちゃんの過労(ストレス)は解消出来るのに対して、ホシノちゃんの罪悪(トラウマ)は無かった事には出来ない。

 

言ったでしょ? 審判役が僕ならばって――もしも仮に、もう二度と無いかもしれないけれど、もう一度反転現象(あんな事)が起こってしまえば、それに対処できるのは僕ぐらいしかいない。

 

まあ勿論今までの話は全部、机上の空論に過ぎないんだけどね。あの二人は戦う理由さえあればそれが誰であろうと戦うけれど、戦う理由さえ無ければむやみやたらに傷つけようとしてこない、いい娘達だからさ。

 

僕との最初の戦闘だって、結局はうやむやになっちゃったしね。

 

◆

 

そう――うやむやになってしまった。結局、ホシノちゃんは僕を軽蔑したと思うし、僕は相変わらずへらへら笑うばかりだった。

 

ああ、因みに。

ホシノちゃんは本気で殺しにきてはいなかったよ。

多分ちょっと怪我さえさせてしまえば、僕が逃げ帰っていくと思っていたんだろう。

 

そんな些細で微細で語るには短すぎる戦いが終わり、僕たちはホシノちゃんに連れられてとあるラーメン屋の前に来ていた。

 

「うへぇ~球磨川先輩には迷惑かけちゃったからね。少しくらいなら奢るよ~?」

 

『いやいやホシノちゃん』

『さっきは僕も大人げなかったから、ここは僕が払うよ』

 

どうやらラーメン屋の名前は紫関ラーメンというらしい。

店からは美味しそうな匂いが漂っていた。

そういえば僕、ラーメンなんて食べるの久しぶりだな……。

 

「球磨川先輩じゃないですか」

 

「おはようございます球磨川先輩」

 

「ん……おはよう」

 

「おはよう、ミソギ」

 

そんなことを考えていたら、おーいと声が掛かり振り向くと、ノノミちゃん、アヤネちゃん、シロコちゃん、そして先生が現れた。どうやら先生たちもここのラーメンを食べに来たみたいだった。

 

「あ、ホシノ先輩! いないと思ったら球磨川先輩のところに行ってたんですね」

 

『そうそう。ホシノちゃんってばここのラーメンが食べたいってうるさくて』

『君たちもここに食べにきたのかい?』

 

「それもありますけど……」

 

「ま、入ってみたら分かるよ~球磨川先輩」

 

ホシノちゃんに急かされるままに僕たちは柴関ラーメンの戸を開けた。

そこにいたのは――。

 

「いらっしゃいませ!柴関ラーメンで……わわっ!?」

 

「あの〜★ 5人なんですけど〜!」

 

「あ、あはは……セリカちゃん、お疲れ……」

 

「お疲れ」

 

「み、みんな……どうしてここを……!」

 

「うへ〜やっぱここだと思った」

 

「どうも」

 

『おやおや』

『へえなるほど』

『よく似合ってるねセリカちゃん』

 

そこにいたのは。

アビドス高等学校とはまた違う、黒色の制服に身を包んだセリカちゃんだった。

なるほど、確かにバイトとは聞いたもののまさか飲食店だとは思わなかった。

 

「せっ、先生と球磨川先輩まで……やっぱストーカー!?」

 

「うへ、球磨川先輩は悪くないよー。セリカちゃんのバイト先といえば、やっぱここしかないじゃん? だから来てみたの」

 

「ホシノ先輩かっ……!!ううっ……!」

 

ホシノちゃんを恨めしそうに睨むセリカちゃん。

すると厨房のほうから柴犬の造形をした人が声を掛けてきた。

めだかちゃん辺りなら抱き着きに行ってそうだな。

 

「おやアビドスの生徒さんか。セリカちゃん、おしゃべりはそれぐらいにして、注文受けてくれな」

 

どうやらお店にはセリカちゃん以外の従業員はいないそうだ。

流石の大将にはセリカちゃんも強気にはなれないだろう。

少しだけ口をへの字に曲げながら、顔を赤くする。

 

「あ、うう……はい、大将。それでは、広い席にご案内します……こちらへどうぞ……」

 

少し奥のほうにある団体向けのソファ席に通された。

ノノミちゃんとホシノちゃんが左側、アヤネちゃんとシロコちゃんが右側の席に座った。

 

「うへぇ~先生、私の隣空いてるよ~」

 

「……ん、私の隣も空いてる」

 

おやおや先生。どうやら僕がいない間にずいぶんと距離を縮めたようだね。

先生は少しの間考えるそぶりを見せて、僕とホシノちゃんを交互に見た。

 

「それじゃあ私はシロコの隣へ」

 

「ん……」

 

『それじゃあ僕はホシノちゃんの隣に座ろうかな』

『それでいいかな? ホシノちゃん』

 

「うへぇ~全然いいよぉ~」

 

ホシノちゃんはぽんぽんと隣の空いている部分をたたいた。

僕が腰を下ろすと、セリカちゃんがお盆とメニュー表を持ってやってきた。

 

「狭過ぎ! シロコ先輩、そんなにくっついてたら先生が窮屈でしょ!もっとこっちに寄って!」

 

「いや、私は平気。ね、先生?」

 

「何でそこで遠慮するの!? 空いてる席たくさんあるじゃん! ちゃんと座ってよ!」

 

「わ、分かった……」

 

セリカちゃんの迫力に、少し先生にもたれかかっていたシロコちゃんが拳一つ分、距離を取った。

 

「セリカちゃん。バイトのユニフォーム、とってもカワイイです★」

 

「いやぁー、セリカちゃんってそっち系か。ユニフォームでバイト決めちゃうタイプ?」

 

ノノミちゃんとホシノちゃんがセリカちゃんのユニフォームを見ながら笑みを浮かべる。

 

『ホント、とても良く似合ってるぜ』

『まるでこの制服が決め手でここで働こうと思うくらいに』

 

「ち、ち、ち、違うって! 関係ないし! こ、ここは行きつけのお店だったし……」

 

「『本当かなぁ?』」

 

「ふ、二人してからかわないで!」

 

やっぱりセリカちゃんの反応は面白いな。

弄りがいがあるってもんだよ。

むしろ弄らなければそれこそ苛めだ。

 

「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真撮っとけば一儲けできそうだねー。どう? 一枚買わない、先生?」

 

「い、いや……私はいいよ」

 

『え!』

『セリカちゃんのユニフォーム姿の写真!?』

『買わせてくれるの?』

『買いたい買いたい!』

 

「変な副業はやめてください、先輩……球磨川先輩もっ! 万札握らせながらホシノ先輩に貰おうとしないでください!」

 

『ちぇー』

『最近の僕のトレンドはパツパツユニフォームなんだ』

『少し小さいサイズのユニフォームを着ることによって浮き出る身体のラインが好きでね』

『ユニフォームというのはつまるところ公式の衣服。制服と同じさ。何も恥ずかしがることはない効率性重視の衣服が――意識したその瞬間に破廉恥になってしまう』

『その転換が溜まらなく好きなのさ』

『ところでセリカちゃん』

『その下に履いているパンツは何色か――ぶっ!!?』

 

「変態! 死ね!」

 

バコンと思い切りアルミのお盆で頭を叩かれてしまった。

おーよしよしとホシノちゃんが頭を摩ってくれる。

いてて……全く、やっぱりセリカちゃんは可愛いなぁ。

 

「それで……バイトはいつから始めたの?」

 

「い、一週間ぐらい前から……」

 

「そうだったんですね★ 時々姿を消していたのは、バイトだったということですか!」

 

「も、もういいでしょ! ご注文はっ!?」

 

「そこは『ご注文はお決まりですか』でしょー? セリカちゃーん、お客様には笑顔で親切に接客しなくちゃー」

 

『そうだよ笑顔笑顔』

『セリカちゃんは笑顔が素敵なんだから』

『いつも怒りっぽい顔してちゃモテないぜ?』

 

「うっさい! う、うぅ……ご、ご注文は、お決まりですか……」

 

恥ずかしそうに悶えるセリカちゃんを後目に、僕たちは手渡されたメニュー表を見て、注文をすることにした。

 

「私は、チャーシュー麺をお願いします!」

 

「私は塩」

 

「えっと……私は味噌で……」

 

「私はねー、特製味噌ラーメン! 炙りチャーシュートッピングで! 先生も球磨川先輩も遠慮しないで、ジャンジャン頼んでねー。この店、めちゃくちゃ美味しいんだよー! アビドス名物、柴関ラーメン!」

 

ホシノちゃんはメニュー表の一番最初に書かれてあった一番人気のものにしたようだ。さて……僕はどうしようかな。お腹は減ってるけど、お金も少しだけ残しておきたいし……。

 

「……ところで、みんなお金は大丈夫なの?もしかして、またノノミ先輩に奢ってもらうつもり?」

 

「はい、私はそれでも大丈夫ですよ★ このカードなら、限度額までまだ余裕ありますし」

 

そういいながら黒く光るカードを取り出すノノミちゃん。

おお、学校側に借金があるからてっきり皆も苦労していると思ったけど、どうやらノノミちゃんは違うらしい。いいねブルジョワ。

 

「いやいや、またご馳走になるわけにはいかないよー。そういえばさっき球磨川先輩が奢ってくれるって言ってたよね? だよね、球磨川先輩?」

 

『あ、いや~……』

『確かに奢るとは言ったけれど』

『さすがにこの人数は僕もな~……』

 

僕が椅子から離れようと少し体制をずらすと、逃がさないとばかりにホシノちゃんが笑顔のまま僕の手をつかむ。

 

「そうはさせないよー」

 

むむ、謀ったねホシノちゃん。この時のために僕を隣の席に案内したのか。

うーむ……参ったな。しかしさすがにここで逃げるわけにはいかないし。

仕方がない。さようなら僕の(買う予定だった)エロ本たち……。

 

「いやここは私が払うよ」

 

一部始終を楽しそうに見ていた先生がそんなことを言った。

懐から黒色のカードを取り出す。

 

「うへ~大人のカードがあるじゃん。これは出番だねー!」

 

『いいのかい? 先生』

 

「いいよ。これでも私は年長者なんだ」

 

『それじゃあ僕もホシノちゃんと同じ特製味噌ラーメン超大盛! 炙りチャーシュートッピングとご飯もつけてね! あとコーラ頂戴!』

 

「先生が払うって分かった瞬間に一番高いの注文した! しかもドリンクまで!」

 

「球磨川先輩……」

 

「うへぇ~流石の私もびっくりだよ~」

 

「あはは……★」

 

周りのみんながドン引きしているのが分かるけど僕は悪くない。

むしろこういうのは下手に安いのを食べるほうがマナー違反だ。

ここは清々しく頼もうじゃないか。

 

◆

 

「いやあー! ゴチでしたー、先生!」

 

しばらくして、ラーメンを食べ終えた僕たちは店前で先生を待っていた。

支払いを終えた先生が出てくる。

 

「ご馳走様でした」

 

「うん、お陰様でお腹いっぱい」

 

『……うん』

『ご馳走様でした……先生、一つ借りを作らせちゃったね』

『この借りは……うぷ、いつか、返す……から』

 

「やっぱりあの量食べきるのは無理あったって~」

 

僕が頼んだものは、なまじ悪ふざけで頼んだものは、悪ふざけじゃすませないくらい大きかった。

 

「そんなに無理でしたら残しておけば……」

 

『いやいやノノミちゃん』

『ついノリで頼んじゃったけれど』

『僕は悪ふざけで残したりはしないよ』

 

ちゃんと食うべきだ。それすらも出来なければそれはもう過負荷(マイナス)でも何でもない。ただの屑野郎だからね。いくら最低最悪(負完全)を名乗ってる僕だけど、そこらへんはちゃんと守るのさ。

 

「うん。それでこそミソギだ」

 

先生はグロッキーになってホシノちゃんに背中を摩られている僕を見守るように眺めていた。

 

「ちょっといつまでそこで屯ってるの! 早く出てって! 二度と来ないで! 仕事の邪魔だから!」

 

立腹顔で登場するセリカちゃんに、アヤネちゃんが苦笑しながら答える。

 

「あ、あはは……セリカちゃん、また明日ね」

「ホント嫌い!! みんな死んじゃえー!!」

 

「あはは、元気そうで何よりだー」

 

そんな感じで別れた。

その翌日のことだった。

 

――セリカちゃんは行方不明になった。

 

◆

 

銃撃戦が日常茶飯事であることからつい失念していた訳だけど、どうやら誘拐はこの世界においてもれっきとした『やってはいけない事』らしい。

 

どうやらセリカちゃんはあのカタカタヘルメット団に捕まったそうだ。

どうやって判明したかというと、どうやら先生が連邦生徒会が管理するセントラルネットワークにアクセスして分かったことらしい。だいぶ危ない賭けをしたそうで、バレたら反省文だけじゃ済まされないのだとか。

 

つまるところそれだけの事をカタカタヘルメット団はやったという訳だ。

はあ……それにしてもいやだよね反省文。僕は反省文というものが夏休みに出てくる読書感想文以上に苦手だよ。

 

あのめだかちゃんでさえ謝罪を要求するときは『ごめんなさい』で済ませるんだ。

自分を如何に戒めたって、後悔したって、それを伝えるにあたって言葉を尽くしちゃその時点で嘘になる。深く頭を下げてごめんなさいといえば、本当にそれだけで十分なんだと思うんだけれどね。まあ生まれてから親にでさえ、過負荷であるこの僕が、誤ったことをしても謝った試しがないこの僕が言えた義理じゃないんだろうけどさ。

 

『それならその責任は僕が払うよ』

『なにせ十九年生きた男がする初めての土下座だ』

『これは価値に置けば九億円にも下らないと自負してるぜ』

 

「それってただ普通に謝れない人では……?」

 

生徒会室にて。砂漠へと向かった先生たちをいつものように見送った僕は、昨日の夜買った雑誌を読みながら事の経過を待とうとしていた。

アヤネちゃんが真剣な眼差しでモニターを眺めている。

 

「球磨川先輩! セリカちゃん無事に保護しました!」

 

『おー良かったねー』

『めでたいめでたい』

『お祝いは柴関ラーメンでいいかな?』

 

無事にセリカちゃんが保護され一件落着……というわけではいかないようで。

結構派手にやったらしく、カタカタヘルメット団が怒って出てきたのだ。

まあその程度なら大丈夫だろう。ノノミちゃんやシロコちゃんも強いし。

 

何よりあそこにはホシノちゃんがいる。

文字通り三、四回くらい殺されそうになった僕がいうのもなんだけど、ホシノちゃんってなんであんなに強いんだろうね?』

 

「――あれ、おかしいです! どうしてここに重戦車が?」

 

アヤネちゃんは信じられないという風な様子でぼやいた。

 

『重戦車……ねぇ』

『重火器を持ってる生徒がいる時点で僕は自分が持ってる「常識」を疑っているわけだけれど』

『やっぱり重戦車を保有しているのっておかしなことかな?』

 

「いえ……力ある組織ならあり得なくはないのですが、カタカタヘルメット団の組織力といいますか、資金はそんなに無いように思えます。だってそれが理由で私たちの学校を襲っていますから」

 

『そうだよね。おかしいなー』

『どうしてだろうなー』

『ね、アヤネちゃん』

『ちょっと通信機貸して?』

 

「あっ、はい……どうぞ」

 

『ん、ありがと』

 

僕は通信機だけを受け取ると、先生へと口を開く。

 

『先生』

 

「なんだいミソギ?」

 

『少し嫌な気配がしてね』

『戦闘が終わったらヘルメット団らの武器を回収&調べてみたほうがいいよ』

『多分なにか新しい発見があると思うからね』

 

「分かったよ」

 

それから暫く経過し、どうやらやはり僕の睨んだ通りに、何者かがカタカタヘルメット団に武器を流していたらしい。中にはキヴォトスでは禁止にされている銃器までも。

今後の借金返済の会議は明日行うという事で、今日は解散となった。

 

僕としてはカタカタヘルメット団がどうしてまたアビドスを襲ったのか、その真意を知りたい訳だけど……先生の前だとそれは少し難しいか。

別に焦る必要は無い——とは分かっているんだけど。

だけど、どうにも長すぎるな。

遠回りすぎる。遠回りこそが最短の道だったとはよく言うけれど、馬みたいな速さで駆け抜けるほど僕の足は長くないし。

 

まあそれに。

僕たちのセリカちゃんを泣かせた奴らにも会ってみたいしね。

 

「……ミソギ? どこにいくの?」

 

『なに』

『ちょっと散歩にね』

『明日の会議には必ず出席するからさ』

 

僕は先生と別れて、一人砂漠地帯へと足を向けた。

 

◆

 

その日、珍しく便利屋68に依頼が舞い込んできた。

話の内容としてはヘルメット団の殲滅……とは便利屋68の社長である陸八魔アルの思い込みだが、実際は鞍替えだ。アビドス襲撃が本来の依頼だった。そのため今いるヘルメット団の存在が邪魔だと思ったらしい。いつの世も代替品がいるとはいえその始末は悲しいものだ。

 

「パパっとやってパパっと終わらせましょう」

 

「わ、私にもできますか……?」

 

「いっそバーンって爆破しない?」

 

「いやダメに決まってるでしょ」

 

奇襲こそが悪党。アルたちはカタカタヘルメット団の制圧へと向かっていた。敗北の可能性は頭になく、勝利への確信だけがあった。

 

そんな感じで意気揚々とアジトへと向かったアル達だったが。

 

しかし。

 

「何よ……これ」

 

そこにいたのは無数のヘルメット団ではなかった。

積み上げられた死体の山ではないが、いや、これはむしろこちらのほうが悍ましい。

ヘルメット団の団員が全員――螺子によって壁に貼り付けられていたのだ。

 

「アルちゃん、何かまずいよこれ」

 

「なに……アビドスの奴らがやったの?」

 

流石に執行する前に対象が死んでる……いや、生きているが戦意喪失していることなど初めてだったアルたちは固まっていた。

その中でカツン、カツンと靴音がする。

 

カツン、カツン。カツン、カツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツンカツン――。

 

『いいや幾ら銃器が蔓延しているこの世界で、螺子一本で戦う様な酔狂なキャラなんてそうそういない』

 

『ここにいる全員が同じように串刺しにされている』

 

『どんな生徒であろうと、同じ学友を串刺しにするなんて不可能だ』

 

『これは明らかに第三者──外から来た存在の仕業に違いない』

 

『一体どう言う目的があって、こんな面白半分の惨状を演出したのかはさっぱり分からないけれど──』

 

アル達の前方――磔にされた生徒達で作られた血染めの廊下の角から、一人の少年が現れた。

 

「っ! 誰っ!?」

 

カヨコとハルカがアルを守るように前へと出る。

ムツキはその後ろで爆弾の入った鞄を持ち構えていた。

 

『おおっと! 早とちりしないでおくれ』

 

その少年は太い螺子を両手に持ち構えていた。

どの学園かは判別し難い学生服を着用し、ニヤニヤと薄ら笑みを浮かべている。

空気が歪むような感覚に全身が粟立つ。あの最強と謳われたゲヘナの生徒会長と似たような、全てを捩じ伏せてしまうようなオーラさえ感じてしまう。

 

『僕が来た時にはもうこうなっていたんだよ』

 

『だから』

 

全身に返り血を浴びながら、その少年の口元が三日月のように歪んだ。

 

『僕は悪くない』

 

『だって』

 

 

 

 

 

『僕は悪くないんだから』

 

 

 

 

 

 

 

それから約四時間五十三分間、便利屋68の連絡は途絶えている。

ミソギが何食わぬ顔で先生の元へと戻って来たのは、昼の頃だった。




毎度話の締めが『僕は悪くない』で終わってしまうのは球磨川先輩が悪いです。

コメント等よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。