混沌より這い寄る透き通った青春   作:過負荷の後輩

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オマエもペロロ様! 最高! と言いなさい。


第七話『ペロロ様』

『ところでそれはそうとヒフミちゃん』

 

僕は『大嘘憑き(オールフィクション)』で折れた首を治してから、僕達の調査に同行する事となったヒフミちゃんに質問する。

 

『トリニティ生というお金持ちのお嬢ちゃんが』

『どうしてこんな混沌(アングラ)な場所に?』

 

こうして質問してみる僕のことだけど。

実は案外予測はついている。恐らくは護身用の為に武器の調達をしに来たのだろう。

キヴォトスの治安の悪さはもう骨身に染みているからね。

 

いやそれならどうして学校なんて休んで行ったのだろうという疑問が一つ残る訳だけども。

まあ然したる疑問ではないか。

 

ヒフミちゃんはいきなり元に戻った僕の首に仰天しながらも答えてくれた。

 

「それはですね、もう販売されていない、ペロロ様とアイス屋さんがコラボしたぬいぐるみが欲しくてですね」

 

『うん?』

 

「ペロロ様とアイス屋さんがコラボした限定生産で百体しか流通していないぬいぐるみが欲しくてブラックマーケットに探しに行っていたんです!」

 

おぅ……ジーサス。

つまるところあれかな? 

好きなキャラクターの限定グッズが欲しくて。

え。

いや……。

 

ただそれだけの為に――混沌の地(ブラックマーケット)に!?

 

もしかして中身が宝石で出来ているとかかな?

 

ヒフミちゃんは自慢気に戦利品かのようにぬいぐるみを見せて来た。

えっと……これが百体しか売られていない限定グッズ?

僕には口にチョコミントアイスを捻じ込まれて白目を剥いた鳥のぬいぐるみにしか見えないけどな。

百体しか無いのって単に人気が無いだけなんじゃないの?

 

しかしまあ僕も高校を卒業した大人だ。こんな無粋な事、意識せずとも言う訳が――

 

『えー何この口にチョコミントアイスを捻じ込まれて白目を剥いた鳥!』

 

『こんなのが限定グッズ?』

 

『百体しか無いのって、これただ単に人気が無いだけなんじゃ――』

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい?」

 

 

 

 

 

『い、いや……』

『よく見れば前衛的だけれど、うん』

『とても良く出来ている。これは百体しか作られないのも納得だ』

『こんなもんぽんぽん作ってしまえば、この世の美術品の値打ちがだだ下がりになっちまう』

『これはそのくらい希少で、素晴らしい物だってことは、僕にだって分かるよ』

 

「ですよね~!」

 

ヒフミちゃんはうんうんと頷きながら目を輝かせている。

さっきのは何だったんだ一体。

しかし適当言ったせいでヒフミちゃんがあの白目剥いた気色悪い鳥のことを説明しているし……。

 

「わあ☆ モモフレンズですね! 私も大好きです!  ペロロちゃん可愛いですよねえ! 私はミスター・ニコライが好きなんです」

 

ノノミちゃんが助け舟を出すかのように、ヒフミちゃんの胸に抱くぬいぐるみを見ながら微笑む。

 

『ん?』

『ちょっと待ってノノミちゃん』

『この白目を剥いたキモ鳥――いや芸術品、 ペロロ様じゃないのかい?』

 

「私が勝手に様付けで呼んでいるだけです! ペロロ様のお名前はペロロですけど、私にとってのペロロ様はペロロ様なので!」

 

僕にはもう理解出来ない。ホシノちゃんや黙っているアヤネちゃんの様子を見るに、彼女たちも僕と同じことを想っているのだろう。

人の推すものにケチをつける訳じゃないけれど――前言撤回だ。

ヒフミちゃんは普通(ノーマル)なんかじゃない。異常(アブノーマル)だ。

しかもとびっきりの。参ったねこれは。

 

◆

 

それからややあって、あれからチンピラ達による報復なんて事態には発展せず、僕らはヒフミちゃんの案内(悠々と歩いている。見た目が普通なだけに恐ろしささえ感じるね)によってブラックマーケットを進んでいった。

 

しかしここには何でも売っているね。露店を伺う度に売っている品々にアヤネちゃんが驚いているし、本当にここは何でもありなんだろう。

物や食品に果ては人まで。そう人身売買――ヒフミちゃん、あどけない顔して一人でそんな闇を闊歩しているだなんて、そのギャップに萌えそうだよ。

僕としてはどうしてここまで規模が拡大したのか、その資金源はどこなのか、そこが気になる所だけど――。

 

「資金源かどうかは分かりませんけど、あそこにある大きなビル。あそこはブラックマーケットの銀行です。ただし銀行といっても――」

 

『盗品蔵みたいなものか』

『ブラックマーケットに純正の銀行が出張るだなんて』

『そんなことありゃしないよね』

 

僕らは進路の少し先にある大きなビルを望む。

あれだけ大きいという事はそれだけ儲けているって訳だよな。

ここに店を出している企業はもはや開き直りの状態だし、しかしそんな状態だからこそ、これだけ隠されているって、どうも怪しいよな……。

 

「あの銀行では横領や強盗、誘拐などの犯罪で得た財貨が集まるんです。そしてそれが、ブラックマーケット内部で違法な銃器や兵器を購入するのに使われるんです」

 

『それによって新しい犯罪が増えて、銀行は更に儲かるって訳か』

『完璧な負の循環(ビジネスサイクル)だね』

『これはメスも入れられない』

 

「ええ、だから連邦生徒会も介入出来ないんです」

 

みんながブルーな表情を浮かべている。悪事は儲かりやすいって事を僕は前々から知っているけれど……まあ、それを信じたくない気持ちというのも分かる。だけれど今君たちがやるべきことは、義憤に燃えてブラックマーケットに立ち向かう事じゃないんだぜ?

 

僕が柄にもなくそう元気づけようと言葉を発した時、通信機からアヤネちゃんの声が響いた。

 

「お取込み中失礼します!そちらに武装した集団が接近中!」

 

『ん――それは、あの銀行の前にいる奴らのことかな?』

 

「うわあっ!? あれはマーケットガードです!」

 

「マーケットガード?」

 

あんまりにもヒフミちゃんが慌てふためくものなので、僕らは街角の裏に隠れて、そっと銀行の前に屯している連中らを見やった。

 

「し、失礼しました。マーケットガードとは、ここの治安機関でも最上位の組織のことで――」

 

「ん。なにか来たね」

 

「あれは現金輸送車ですね。闇銀行に入っていくようです」

 

現金輸送車と聞いてシロコちゃんの耳がピンと立った。

目がキラーン! と輝いている。以前銀行強盗しに行くって言ってたけど、あれ嘘じゃないの?

輸送車の中から出て来たのは機械人間だった。そのままマーケットガードとやり取りしているけど――あれ、どうしてみんな怒っているのかな?

 

「あいつ! 毎回うちに来て利息を受け取っている銀行員じゃん!」

 

「か、カイザーローンですか!?」

 

「ヒフミちゃん、何か知っているの?」

 

「カイザーローンと言えば、かの有名なカイザーコーポレーションが運営する高利金融業者です」

 

「有名な? マズいところなの?」

 

「あ、いえ……しかし合法と違法の間(グレーゾーン)で上手く振る舞っている多角化企業で、生徒達への悪影響を考慮しトリニティの『ティーパーティ』でも目を光らせています」

 

「ふーん。『ティーパーティ』がね」

 

「は、話を聞くに皆さんの借金は、カイザーローンのものなんですよね?」

 

「うん。といっても私たちが借りた訳じゃないんだけど――」

 

どんどんヒフミちゃんの顔色が青ざめていくにつれ、対照的にどんどん怒りを募らせる対策委員会の皆。誰もが気づいているであろうその事を、しかし誰も言わないので僕が言うことにした。

 

『――つまり、ホシノちゃん達が毎月現金払いで支払った金額が、ブラックマーケットの闇銀行に流れていたと』

 

まあ僕は実際に見かけた訳じゃないから、何とも言えないけどさ。

しかしマジに現金で払っていたのか。どうしてネットでやり取りしないのかと、気になっていた所だったけど、意外な形で答えが分かってしまった。

 

『わざわざ現金払いだったのも、足を掴ませない様にするためなんじゃないの?』

『どうする――? 今から追いかけて、事情を聞いてみる?』

 

輸送車はそうこうしている内に発進してしまった。

シロコちゃんが慌てて僕の方を見て質問する。

 

「球磨川先輩の螺子で無理やり捻じ込めたりしない?」

 

『……いやぁ無理だね』

『あの距離じゃあ射程圏外だ』

 

「ん……それじゃあしょうがない」

 

おやおや。随分と嬉しそうな声で言うじゃないか。

シロコちゃんが鞄をガサゴソ漁っている最中に、ホシノちゃんが当たりをつけたのか「うへぇ~」と声を漏らして続ける。

 

「うへ、あれしかないのか~」

 

「ええ?」

 

疑問符を浮かべるヒフミちゃん。

続けてノノミちゃんが分かりましたと続ける。

 

「そうですね。あの方法なら!」

 

「何? どういう事――まさか、あれ? まさか、私が思っているあの方法じゃないよね?」

 

「――ん」

 

「嘘! 本気で!?」

 

「あ、あのう……全然話が見えないんですけど、あの方法って何ですか?」

 

ヒフミちゃんと、あとついでに僕が首を傾げていると、シロコちゃんが質問する。

 

「ヒフミ、さっきサインしてた集金確認の書類は、証拠になりそう?」

 

「ええっ? えと、まあ確かに証拠にはなり得そうですけど――銀行の中ですよ?」

 

「ん」

 

「ブラックマーケットでも最も強固なセキュリティを誇る銀行ですよ?」

 

「ん」

 

「そ、それにあれだけの数のマーケットガードが目を光らせているんですよ!?」

 

「ん」

 

「それでも行くんですか!!?」

 

「ん!!!!」

 

有無を言わさずの勢いで、シロコちゃん達はマスクを被る。

色とりどりのマスクの額部分には番号が振られており、それを被ったシロコちゃん達は、さながら銀行強盗でも行くかの様な――

 

「銀行を襲う」

 

「だよねー。そういう展開になるよねー」

 

「わあ☆ そしたら悪い銀行をやっつけるとしましょう!」

 

「はあ……マジで? マジなんだよね……?」

 

セリカちゃんはまだマスクを被る勇気がないのか、周囲を見渡しながら、戸惑っていた。

対策委員会の最後の良心たるセリカちゃん。全ては君に託された。

 

「ふぅ……それなら――とことんまでやるしかないか!!」

 

さようなら最後の良心(ツッコミ役)。

あーもう、こうなれば僕が何言ったって止まらないか。

慌てふためくヒフミちゃんに、先ほどみんなが口にしていたたい焼きの入った茶色の紙袋を被せるノノミちゃん達。そうしてマジックで5と大きな文字で書いている。

 

それを微笑ましく見ていると――ふと、シロコちゃんが黒色のマスクを僕に手渡した。

 

「ん。これ球磨川先輩の分」

 

『ああ、僕もやる感じなのね』

『……全く、あーもうどうなっても知らないぞ僕は』

 

そう言って僕もマスクを被った。これがどうしてジャストフィット。

全くいつの間に僕の頭の寸法を計っていたんだい? 

 

「そういう球磨川先輩も楽しそう」

 

『あ、バレた?』

『バレちゃあしょうがない』

『かつて悪役で出張った頃の僕を教えてやるぜ』

 

「それじゃあ球磨川先輩。例のセリフを」

 

銀行を前にして堂々と強盗の話をする僕らは何て滑稽なのだろうか。

僕は覆面を被った皆を見据えて……ちらりとこれまで静観を貫いていた先生を横目で見やる。

先生は何も言わず、いつものにこやかな笑顔で僕にグッドサインを送って来た。

 

よーし、超法的機関(せんせい)の御許しを得たぞ。これで怖いものなしだ。

 

『先にやってきたのは?』

 

「「「「「銀行の方!」」」」

 

『悪いのは?』

 

「「「「銀行!」」」」

 

笑みを深くさせて、僕達は目の前に聳え立つ銀行を望む。

 

『そう。先にやってきた銀行が悪い。油断を見せた銀行が悪い。疑念を抱かせた銀行が悪い』

 

だから――僕は。

 

否、僕達は。

 

 

『だから僕達は悪くない』

 

 

 

『銀行を襲おう――覆面水着団! 出撃!!』

 

 

 

 




デッデッデーデッデデデデデッデデーデデデデデデデデデデデデデデーーレッツゴー!!

皆さまのコメントを糧に更新していきますので。 
何卒コメント等よろしくお願いします。 
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