英雄と女王の子
~Re-make~
プロローグ
亡国となりしウェスペルタティア王国の元女王、アリカ・アナルキア・エンテオフュシアがメガロメセンブリア元老院に処刑されてから一年、旧世界の日本は京都、そこに建てられた紅き翼の隠れ家でありリーダーであるナギ・スプリングフィールドの別荘に産声が響き渡った。
「ナギはん、産まれたえ」
「あ、ほ、ホントか・・・?」
「やったなナギ! これでお前も父親だ」
先ほど産声が聞こえてきた部屋の前、そこでウロウロしていた大戦の英雄ナギは、分娩室を兼ねた部屋から出てきた女性、近衛木乃美の言葉に一瞬呆然とし、続いて彼女の夫であり戦友でもあり、親友でもある青山・・・近衛詠春の言葉で我に返った。
「は、入っても、良いか?」
「はい、ほんならウチと詠春はんはラカンはん達んとこに行ってますんで、何かあったら呼んでおくれやす」
二人が立ち去るよりも早く、ナギは部屋に入る。すると、そこにはベッドの上で横になり、先ほど産まれてきた我が子を腕に抱く妻・・・アリカの姿があった。
「ナギ・・・見よ、妾と主の子じゃ」
「お、おう!」
ギクシャクしながらベッドに近づいたナギは、アリカの腕に抱かれる我が子を覗き込む。今は寝ている小さな命は、確かに自分と、愛する妻の子である証が見て取れた。
「髪の色は妾と主の色が混ざっておるが、眉は妾と同じじゃな」
「目元なんか俺ソックリじゃねぇか! うわっ、マジで俺、親父になったんだなぁ」
「そうじゃ、だから・・・抱いてみよ」
「お、俺がか? よ、よし!」
ゆっくりと、アリカから受け取った我が子を抱き上げる。まだまだ小さいのに、何故か両腕にずっしりと重みを感じ、確かな温もりが腕に伝わってくるのは、そこに命がある証だ。
「へへ・・・俺の子供か」
「うむ、息子じゃ・・・きっと将来は主に似て強い男子《おのこ》に育つじゃろう」
「いや、お前に似て堅物になるかもな」
両親のどちらに似るのか、どんな人間に育つのか、それが本当に楽しみになって、ナギもアリカも、息子の寝顔を覗き込む。
スヤスヤと、父の腕の中で両親に見守られながら眠る小さな命が、そのあどけない愛らしい寝顔が、何よりも可愛く、愛おしかった。
「名前、如何する? 男だし、ネギってのはどうだ? ネギ・スプリングフィールド」
「ふむ、それでも良いが・・・。ナギよ、この子の名、妾に付けさせてくれぬか? ネギという名はもしも次ぎに息子を生む機会があれば、その時に付けようぞ」
「ん? そうか、別に構わねぇぜ」
ならばと、アリカはずっと考えていた名前を、口にする。自分と、そして今はラカン達と共に近衛本家で待っている妹の名が込められた名を。
「アリス、アリス・スプリングフィールドじゃ。この子の名はアリスにしよう」
「アリス? おいおい、それって女の名前じゃねぇか」
「本来なら、そうなんじゃがな・・・妾と、アスナの名から、付けてやりたい。そう思うて付けたのじゃが・・・」
アリス、アリカから“アリ”、アスナから“ス”、その二つを足してアリスという名にした。本来なら女の名であり、男の子に付ける名ではないのだが、どうしても、これ以上の名が思いつかったのだ。
「そっか、アリカと、姫子ちゃんからか・・・なら決定だな! 今日からコイツは、ナギ・スプリングフィールドとアリカ・アナルキア・エンテオフュシアの息子、アリス・スプリングフィールドだ!!」
こうして、父からは膨大な魔力を受け継ぎ、母からは容姿と名を受け継いだ赤子、アリス・スプリングフィールドは、両親と、その仲間達に祝福されながらこの世に生を受けた。
英雄である父が残した名声と負の遺産、その二つだけでなく、母が受けた冤罪すらも背負う事になるであろう我が子を、そんな未来が待ち受けている事を知りながらも、今この時だけは、精一杯の愛情を注ぐ。
きっとアリスに、幸せな未来が訪れる事を祈って。
アリスがこの世に生を受けて5年、5歳になったアリスは父であるナギから魔法を、ナギの仲間だったラカンからは気を使った格闘を、同じく仲間だった詠春からは神鳴流を、アルビレオからは重力魔法、ガトウからは無音拳や咸卦法を習っていた。
最も、アリスには無音拳の基礎は出来ても咸卦法には才能が無かったのか魔力と気の合一は出来ず、精々同時運用くらいしか出来なかったので、基本的に魔法、格闘、剣、この三つをメインにした戦いをする魔法剣士として教育を受けている。
「アリス」
「あ、かあさん」
アリスがいつもの様に修行をしていた時だった。普段はあまり外に出てこないアリカが出てきて、詠春から貰った練習用の野太刀で素振りをしているアリスに歩み寄ってきたのだ。
「どうしたの?」
「うむ、主ももう5歳、そろそろ本格的に魔法発動体が欲しいじゃろうと思うてな・・・今日はそなたの誕生日でもあるから、これをプレゼントしよう」
「え・・・? これって“姫”?」
「うむ」
アリカが手渡してきたのは一本の剣、アリカが故郷から唯一持ち出せた剣であり、ウェスペルタティア王国の王家に代々伝わってきた宝剣、黄昏の剣“姫”だ。
黄昏色の刀身と、飾りの一切無い無駄を排した柄と鍔、一見すると宝剣には見えないが、代々の王が受け継いできた剣なので、間違いなく歴史的価値のある代物であるのは間違いない。
「“姫”は発動体としても優秀な剣じゃからな、アリスに誕生日プレゼントじゃ」
「いいの?」
「うむ」
「わぁっ!!」
アリカから“姫”を受け取って大はしゃぎするアリス、そんな我が子を優しい眼差しで見つめるアリカの横に、いつの間にかナギが立っていた。
「良いのか?」
「何がじゃ?」
「“姫”をアリスにやっても」
「・・・あの子には、この先の人生で必ず必要になるじゃろうからな」
「そっか・・・んじゃあ俺の杖はアリスには邪魔かな」
本当ならナギの杖もアリスにプレゼントしようと思っていたのだが、“姫”がアリスに受け継がれた以上、杖の方は次に生まれた子にでも譲る事にした。
「それより、そっちはどうじゃった?」
「ああ、見つけたぜ。もう少ししたら俺達も出発しねぇとな」
「そうか・・・アリスは、如何する?」
「今のあいつじゃ実戦は無理だ。俺の故郷にでも預けとくさ」
これから、愛する息子と暫しの別れとなる。それを思うと少し寂しくなるが、息子の未来の為に、行かねばならない。
「あ、とうさん!!」
「おう! アリス~! 元気にしてたか?」
「うん!!」
抱きついてきたアリスの頭を撫でると、満面の笑みが返ってきたので、ナギも同じように満面の笑みを浮かべる。
仲睦まじい父と息子の姿、母であるアリカも笑みを浮かべながら、愛する夫と息子の姿を、目に焼き付けるのであった。
リメイク版なので、原作の台詞などそのまま使うなどということが無いようになるかと…っていうか、原作を万代に売ったため、原作が手元に無いという…。