英雄と女王の子
~Re-make~
第一話
「最初の別れ」
「それじゃあアリス、良い子にしてろよ?」
「スタン殿に迷惑を掛けるでないぞ? アリス」
「とうさん・・・かあさん・・・」
イギリスはウェールズにあるナギの生まれ育った村、その郊外に近い所に立つナギの家には村でナギが最も世話になった老人、スタン老に手を繋がれ、不安そうな視線を両親に向けるアリスと、そんなアリスに優しい笑みを向けているナギとアリカ、そして二人を厳しい視線で睨むスタン老の姿があった。
「全く、貴様という男は息子の世話すら出来んのか!」
「そう言うなよじーさん、俺だってアリスの世話はしてぇけどよ。今回はマジでヤベェ相手だから連れて行けねぇんだっての」
「スタン殿には迷惑を掛ける」
「ふん」
スタンとて解っている。ナギの、英雄が残した負の遺産も、まだ大戦が完全には終わっていない事も。
だからこそ、言っているのだ・・・、二人がアリスを残してこの世を去る事が無い様に、迷惑を掛けたと思うなら、謝りに来て、確りとアリスを向えに来い、と・・・。
「お、そうだアリス」
「?」
「お前に誕生日プレゼントをまだやってなかったからな・・・ほら」
そう言ってナギが懐から出したのは真新しい手帳だった。
受け取ったアリスが目を輝かせて中を開いてみると、そこにはびっしりと文字が書かれている。それも唯の文字ではない、ナギのアンチョコに書かれている魔法の呪文が全て書かれていたのだ。
「俺達が居ない間はそれ使って魔法の修行してろ。俺が使える魔法や、お前に適正のある魔法をいくつか見繕って書いといたからよ」
ナギに使えなくて、アリスに適正のある魔法、それはナギとアリスの属性の違いにあった。ナギの属性は雷と風、若干だが光を得意としていて、アリスは雷と炎、闇の三つに適正がある。
だからナギは手帳にナギの使える魔法全てと、炎系、闇系の魔法を全て書き込んでアリスにプレゼントしたのだ。
「んじゃ、行って来るぜアリス」
「帰ったら、三人で遊びに行こうぞ。遊園地、行きたいと言っておったからの」
「うん、やくそく・・・」
「おう!」
「約束じゃ」
帰ってきたら、目一杯アリスを甘えさせよう、遊園地にだろうと旅行にだろうと、いくらでも連れてってあげよう。だから今は、ナギとアリカは親ではなく、英雄と女王として、ウェールズの村を出る。
アリスは去って行った両親の背中をいつまでも見送り続け、見えなくなった後も数分は玄関前に立ち続け、ようやく家の中に入るのだった。
アリスがウェールズに預けられて2年が経った。一向に帰ってこないナギとアリカをよそに、アリスは既に7歳になっており、時々様子見に来てくれる詠春から神鳴流を教わりつつ、魔法もスタンやメルディアナ魔法学園で校長をやっている祖父の教えを受けながら技術を磨いていた。
そして、その日も何時もの様に魔法と神鳴流の鍛錬をしていたアリスの下に、スタンが大急ぎで走ってきたのだ。
「はぁ、はぁ・・・ゴホッ!」
「スタンさん?」
「あ、アリス・・・アリカ様が、帰ってきた」
「母さんが!?」
何故、母だけなのか、気にはなるが、とりあえずアリスは戦いの歌で身体強化を施すとスタンを抱え上げて瞬動に入った。
そして、スタンに案内されながら辿り着いたのはスタンの家、中に入るとベッドの上にはボロボロの姿で眠るアリカの姿が。
「か、母さん・・・」
「先ほどの事だった。アリカ様が村の入り口にフラフラと現れたと報告を受けたので、急いで向ってみれば、見ての通りじゃ」
ボロボロの姿で、体力なども消耗し切っていた状態、スタンが駆け寄ると直ぐに意識を失ったらしい。
「父さんは、一緒じゃなかったの?」
「うむ、近くには居なかった。念のため村の者に周辺を探させたが、まだ見つかったという報告は無い」
「そっか・・・」
「うむ・・・アリス、アリカ様が目を覚ましたら呼びに行くから、お前は修行の続きでもしておれ」
「良いの?」
「構わんよって、お主の修行の邪魔をするのは忍びないからのぅ。ナギの馬鹿とは違って勤勉じゃしな」
確かにアリスが此処に居ても仕方が無い。アリカが目を覚ますまで傍に居たいが、スタンの妻がこれから治療や着替えをさせるとの事なので、邪魔になっては本末転倒でもある。
アリスは“姫”を持って外に出ると、何があっても良い様にスタンの家の庭で鍛錬の続きをする事にした。
「アリスおにいちゃん!」
「っと・・・ネカネちゃん」
早速素振りでもと思っていた矢先、後ろからアリスを呼ぶ声が聞こえた。
振り返ってみれば金髪の髪の少女が一人、アリスの従兄妹で、同い年なのだがアリスの方が誕生日が早いので妹分となったネカネ・スプリングフィールドが心配そうな視線を向けている。
「アリカ小母様、帰ってきたの?」
「ん、そうみたい。今は疲れて寝てるけど」
「そう・・・ナギ小父様は?」
「一緒じゃなかったみたいだけど・・・」
だが、何となくだが予想は出来る。母が父を残して帰ってくるなど有り得ない。勿論、父の身に何かがあったのだとは思うが、あの父が簡単に負けるような事、有り得ないのだ。
「母さんが目を覚ましたら、聞かないと」
「そう・・・」
それから暫く、アリスが“姫”の素振りをして、ネカネがそれを眺めていたのだが、漸くアリカが目を覚ましたとスタンが呼んだので、大慌てでアリスは家の中に入る。
ベッドの上ではまだ起き上がるだけの力が無いのか、横たわったままのアリカが目を開け、入ってきたアリスを見た途端に涙を流し始めた。
「か、母さん・・・?」
「アリス……大きく、なったの。今は、7歳か?」
「う、うん」
「そう、か…2年ぶりじゃな」
「そうだね、でも会えて嬉しいよ」
手を差し伸べてきた母、その手をアリスは握り締めると、アリカの僅かに残っていた力がアリスの小さな手を握り締めた。
「ねぇ、母さん・・・父さんは?」
「っ! ・・・・・・ナギは」
そこで言いよどみ、アリカはスタンとネカネに視線を向ける。すると、スタンはその意を汲み取ったのかネカネを連れて外に出て、アリスとアリカ、二人だけが残された。
「アリス、よく聴くのじゃぞ・・・ナギは、死んだ」
「・・・え?」
「いや、死んだ、と言うには語弊があるか……正確には死んだ事になる、じゃな」
「如何いう事?」
「……そう、じゃな。まだ7歳の主に聞かせるには酷かもしれぬが、話すべきか」
そうして語られたのは嘗て魔法世界で起きた戦争の事、戦争の主犯であった「完全なる世界」の事、そして……魔法世界の秘密と始まりの魔法使いの事。
「造物主、奴は戦争の最後でフィリウス・ゼクトの身体を乗っ取った。故に妾たちはその行方を捜しておったのじゃが、2年前に行方が判明してな」
だから幼いアリスをウェールズに残し、アリカとナギはアルビレオとガトウ、ラカン、アスナと共に旅に出て、途中で麻帆良学園を卒業したタカミチと合流、そして・・・。
「ナギは戦いの末、造物主に身体を乗っ取られてしまったのじゃ……故に、妾はナギの意識が残っている内に、王家の魔法を用いて、氷の内に封印した」
その後、ナギと造物主を何とか切り離す方法を探そうとナギを封印した氷と共に魔法世界へ渡ろうとしたのだが、邪魔が入ったのだ。
「奴らめ……よほど妾を処刑し損ねた事が気に喰わないらしい」
「もしかして、メガロメセンブリア?」
「うむ……奴らはナギが封印された氷を奪い、造物主との戦いで消耗していた妾たちはバラバラになってしまった。ジャックは恐らく魔法世界で何とか逃げ切れたじゃろうが、ヴァンデンバーグとアスナ、タカミチ、アルビレオの行方が判っておらん」
そして、メガロメセンブリアに奪われたナギが封印された氷の行方も、不明のままで、アリカもメガロメセンブリア兵からの追撃を命かながら逃げ切って此処まで来たのだ。
「アリス……主は、如何する? この話を聞いて」
「僕は…父さんを助けたい」
「妾に、協力してくれるか?」
「勿論だよ母さん、だって親子だもん。僕は父さんと母さんの子供だから、きっと力になれる!」
「そうか…ありがとう」
こうして、アリスはアリカに協力してナギ救出に手を貸す事になったのだが、翌日の検査でアリカが妊娠している事が判明した為、1年以上は動けなくなってしまう。
その間に、アリスはアリカに魔法の師事をしてもらい、自身の切り札となる力を得た。アリスの内に眠る力、それをアリカが発見した為、アリカ師事の下、鍛え上げる事になったのだ。
そして数ヵ月後、アリカは男の子を産んだ。名は以前にナギが男の子に付けたいと言っていたネギと命名され、暫くは親子三人で暮らしていく……筈だった。
「見つけたぞ、災厄の魔女め!!」
メガロメセンブリア元老院直属の兵士が、アリスとアリカ、ネギの暮らす家に、アリスが留守の間に押し寄せてきたのが始まり。
後のメガロメセンブリア最大の危機を迎える最たる原因が、此処から始まる。
次回まで、アリス子供時代編は続きます。