英雄と女王の子
~Re-make~
第二話
「旅立ち」
その日、アリスは生まれたばかりの弟、ネギを連れてネカネの家に来ていた。
ネギが生まれたという事で一度は顔見せにネカネと、その両親の所に挨拶をする為に向かっていたのだが、アリカは少し用意したいものがあるからと、少し遅れて来る事になったのだ。
だが、アリスがネカネの家に着いて暫く経ってもアリカが来る気配が無い。そしてアリスの中で嫌な予感が芽生え、慌ててネギをネカネの家に残して自宅に戻った時、母の姿は・・・既に無かった。
「かあ・・・さん・・・」
ただ居なかったのなら、行き違いになったと考える。だがそうではない、家の中が滅茶苦茶になっていて、微かにだが魔法を・・・それも攻撃魔法を使用した痕跡が残っていたのだ。
アリカのではない、別の人間の魔力による攻撃魔法の痕跡と、僅かにだが床に残る血痕が、この家で、アリスとネギが離れていた間に何があったのかを察するには充分なものだった。
「そこまで・・・そこまで自分達の面子に拘りたいのか!! 母さんを処刑し損ねた事で潰れた面子を回復させることが、そんなに重要なのか!!!! そこまで、母さんの存在を歴史の闇に葬り去りたいか!!!!」
床に叩き付けた拳を中心にクレーターが出来上がる。
同時に、アリスの全身から怒りによる殺気と、濃厚な魔力が滲み出て室内に黒い炎と紫電が奔り、空気を震わせた。
「許さない・・・絶対に、母さんを救って、お前達を・・・根絶やしにしてやる・・・! メガロメセンブリア元老院の老害共がっ!!」
床に落ちていたメガロメセンブリア元老院直属の騎士が身に付けていたであろう騎士団員証のバッチを睨みつけた瞬間、そのバッチは黒い炎に包まれ、跡形も無く燃え尽きる。
こうして、メガロメセンブリアは自分達の面子を守る為、そして英雄の子であるアリスとネギ二人を、両親の居ない状況で育てさせ自分達の傀儡にし易い様に成長させるという計画の為である行為が、自分達に牙を向ける修羅を生み出す結果となったのは、この時、知る者は居ない。
決意を新たに、アリスは早速だが自室に向かった。部屋に着いて直ぐに旅立ちの準備を始め、最近覚えたばかりの影の魔法を使って自分の影の中に荷物を収納していく。
「…そうだ、これも」
最後に、アリスは机の上に置いてあったナギから貰ったアンチョコと、机の横に立てかけてある“姫”を手に取り、アンチョコは懐に入れ、“姫”は影の中に入れる。
「うん…ネカネちゃんが帰ってきたら直ぐにでも、行こう……修行の旅に」
旅支度は整った。後は少しばかりの現金を持ち、非常食として保管していた乾パンや干し肉などを全て影の中に入れた所で、出かけていたネカネが帰ってきた。
「ただいまぁ……アリスおにいちゃん? どうしたの?」
「ああ、ネカネちゃん……ちょっと、ね」
「?」
「旅に、出ようと思って…これから」
「え…?」
突然、旅に出ると言われ、ネカネはアリスが何を言っているのか理解出来なかった。だが、アリスはそんな呆然としているネカネに苦笑すると、綺麗な金色の髪を梳くように頭を撫でて、ネギが寝ている寝室の方に視線を向けた。
「ネギの事、頼む」
「おにいちゃん…?」
「偶には帰るから…頼むな」
「ま、待って! と、突然だから驚いちゃったけど…旅って!?」
「魔法使いとしての修業の旅に出る、来年は魔法学校に入学予定だったけど、キャンセルするよ」
メルディアナ魔法学校入学願書を破り捨てたアリスは未だ呆然としているネカネに背を向けると玄関まで歩みを進める。
そこで漸くネカネはアリスが本気で旅立とうと、幼いネギとネカネを残して出て行こうとしている事を悟った。
「駄目! おにいちゃん、ネギを残して出て行くの!?」
「…ああ、ネギの事はネカネちゃんに頼む。僕は…私は、母さんを、父さんを助ける為に旅立つ…その為に力を得る為の修業を、戦場に求める」
その言葉でネカネはアリカがいないことに気付いた。更には、部屋の中が随分と荒らされて、アリスやネカネではない、アリカでもない誰かが魔法を使った痕跡すら感じられる。
「ネカネちゃんとネギの生活費については心配しないで、私が修業しながら稼いで生活費を送るから」
「…本当に、行くの?」
「うん、私は黙って母さんが攫われたのをそのままにしておくつもりは無い。絶対に、助け出してみせる」
「アリカ小母様を…」
「それじゃあ…ネカネちゃん、元気で」
もう何も言わなくなったネカネを残し、アリスは今度こそ家を出て行った。
家を出て目指すは魔法世界へのゲート、そこから魔法世界に行き、魔法世界を旅しながら修業をするのだ。
「アリスよ」
「…お爺様」
魔法世界へのゲートポートに向かっていたアリスに、道中で声を掛けた存在。黒い肌に白い髭と白いローブの老人、アリスやネギ、ネカネにとっては祖父に当たる人物で、翌年にアリスが本来なら入学する予定になっていたメルディアナ魔法学園の校長を務めているイギリス最強の魔法使いだ。
「ふむ…行くのか」
「はい」
「魔法学校に、通わずにか?」
「魔法学校で学ぶことの大切さは、否定しません。でも、私はそれを放棄してでも戦場で、実戦で腕を磨きたい。戦いながら実力を高めていくつもりです」
「そうか」
固い決意の篭った瞳で見上げてくる孫に、祖父として出来る事は一つしか無い。そう思って彼は手の中に握っていた物をアリスの目の前に差し出した。
その掌の上には赤い菱形の宝石が装飾された金色の指輪があって、アリスはそれが魔法発動対である事を見抜く。
「これは…」
「選別じゃ…お前が持つ“姫”やナギの杖ほどではないが、世界でも最高峰の強度を持つ高純度のオリハルコンで造られた指輪を土台に純度が高いルビーを装飾した発動体でな、魔法世界でも最高級品じゃ」
「…ありがとう、ございます」
若干サイズが合わなかったので魔法で丁度良いサイズに調節すると左手中指に填める。
「魔法世界に行き、修業をして力を得て、何をするかの方向性は見えているのかの?」
「うん、やろうと思っている事が一つあって…修業をしながら人材集めをしようかと思ってる」
「そうか…ならば何も言わん。頑張るんじゃぞ?」
「はい!」
祖父の激励と選別のおかげで俄然やる気が湧いてきた。アリスはこの先に待つ未来がどうなるのか、まだ知りようが無いが、それでも確信は出来る。
英雄と女王の子である自分なら、きっと……母を、父を、救う事が出来る。その為ならば、その為の力を得るためなら、どんな苦行であろうと、命の危機であろうと、乗り越えて実力で下す。
「見えた…あれが、魔法世界へのゲート」
一見すると巨大な石が集まったサークルにしか見えないその場所こそ、世界にいくつかある魔法世界へのゲートの一つ、イギリスとメガロメセンブリアを繋ぐ場所だ。
「ここから始まるんだ…私の旅が」
ゲート開放まで暫くの時間が掛かる。だから集まった他の人たちは時間を潰している中、アリスだけはじっとゲートを見つめていた。
この場所がスタート地点。アリスが、アリス・スプリングフィールドという一人の魔法使いの旅、戦い、人生の始まりとなる場所だ。
「先ずは修行をしながら、人材集め…そうだ、ラカンさんも探さないと」
魔法世界に行ってからやる事を整理していて、ふとアリスは視線を感じて後ろを振り向く。誰も居ない。が、アリスが感じた視線はどこか、アリスを見て試している様な、観察しているような、そんな視線だった。
「メガロメセンブリア元老院の老害共の監視か…?」
これは、魔法世界に着いてからが忙しくなりそうだ。早速、魔法世界に行ったら戦いが起こりそうな予感がして、思わず胸が高鳴る。
幼い頃から父や父の友人に魔法や剣術、体術と、戦い方を教わって、今日まで修練を欠かさず行ってきた。だから並の魔法使い相手なら負けないだけの自信はあるのだが、何分実戦は初めてなので、些か緊張する。
「まぁ、でも慣れないと駄目だよね。これから先、私は戦いの日常を生きるんだから」
アリスの呟きは誰に聞かれるでもなく、間もなくゲート開放の時間となった。
そして、ゲートが開放される時間になった瞬間、ゲートポートは眩い光に包まれ、アリスは旧世界から母の故郷である魔法世界へ転移する。
これが、後の英雄アリスの、人生最初の運命転換期。いずれは世界を救い、多くの人々を導く英雄王の旅立ちだった。
次回から原作開始…とはならないかも。
原作開始になるか、それとも少し成長してからで、麻帆良へ行く前の話か、どちらかになると思います。