英雄と女王の子
~Re-make~
第五話
「就任」
関東魔法協会会長、近衛近右衛門の孫にして関西呪術協会長、近衛詠春の娘である極東の姫君、近衛木乃香は多くの魔法関係者、呪術関係者にその身を狙われる身であった。
極東一の魔力、世界屈指の魔力の持ち主として生まれた彼女は魔法、呪術の関係者から見れば非常に魅力的な存在で、更にその生まれから政治的にも利用可能な事から様々な刺客に幼い頃から狙われている。
魔法、呪術関係では魔力タンクとして、もしくは女である身から膨大な魔力と資質を受け継がせる子を孕ませる母体として、政治関係では時期関西呪術協会長へと据えて体の良い傀儡として、人道的面を無視すれば彼女の使い道は様々なのだ。
「故に、木乃香には護衛を、生まれた時から就けているのじゃが、現在の麻帆良での護衛は桜咲刹那と言うのじゃながな…腕は良い、しかしまだまだ未熟な面も目立つ上、何より彼女はその生まれから木乃香と常に距離を置いておる」
「なるほど…直ぐに解決出来ない問題なのですね、その桜咲という娘の問題は……それで私を」
「うむ、君を教師として木乃香が中等部を卒業するまでで良い、傍に居て裏で護衛をして貰いたいのじゃよ」
その為に、現在木乃香が在籍し、アリスの弟であるネギが担任を務める2年A組の副担任にアリスを就任させたいらしい。
「どうじゃろ、受けてくれんかの?」
「……そうですね、報酬は如何程で?」
「うむ、教師としての給料と護衛としての報酬として合わせて月3000万でどうじゃ?」
「…その半分、1500万で引き受けましょう」
「良いのかの?」
現在が2月なのを考えれば木乃香の卒業まで13ヶ月の護衛、報酬として入るのは1億9500万、重要な立場にある木乃香の護衛の報酬として考えるのなら十分だろう。
「そうか、ありがとう…早速今月分は用意する、今日中に君の住む場所を決めて明日には部屋を用意して持っていくぞい」
「ええ、構いません。それで、護衛の件は良いとして、教師としての仕事ですが…」
「うむ、君には空きがある数学教師として就任してもらうが、問題無いかの?」
「ええ、一時期ですがマサチューセッツ工科大学で学生をしていた事がありますから」
「仕事で、かの?」
「ええ、仕事で」
それに、教師という点でも問題は無い。以前に仕事の都合上、教員免許を偽造していて、それが今も残っているのだ。
「教員免許の偽造…ワシが言うのも何じゃが……犯罪じゃないかのう?」
「学園長……バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」
なんとも正義を志す麻帆良の魔法使い達に反感を受けそうな言葉だと、このとき近右衛門は思ったのだが、元々偽造しようと思っていたところなので、特に何も言わなかった。
それに、この無茶苦茶な所はアリスの父親であるナギを思い起こされる点で、流石は親子だと思ってしまったのもある。
「そ、それでは明日から来てもらう事になるが、スーツはあるのかの?」
「ええ、今はカジュアルな服ですが、これ以外だと拳闘士の服とスーツがあります」
「ふむ、では明日からスーツで出勤しとくれ、朝の朝礼で教員達に紹介するから早めにの」
「わかりました」
この後、アリスは学園都市内にあるビジネスホテルに宿泊する事になり、翌日には学園で用意した部屋に住む事となった。
ホテルにチェックインし、宛がわれた部屋に入ると直ぐに影から一着のスーツを取り出してハンガーに掛けると服を脱いでシャワー室に入る。
三つ編みを解かれウェーブ掛かった長い金髪をシャワーノズルから出てくるお湯が濡らしそのまま鍛え抜かれた身体の表面を伝って浴室の床へ、そして排水溝へ流れる中、アリスは目を閉じてこれからの予定を考えていた。
「(13ヶ月は護衛で麻帆良に滞在か……まぁ、月1500万の仕事だから不満は無いけど、そうなると実戦不足が不安だ…仕事の中には実戦に出るものもあるだろうけど足りない、一人での修業にも限界はあるしダイオラマ魔法球は魔法世界のアジトに置いて来たまま…どうするかな)」
目を開けて浴室の天井を眺めながらお湯が身体に当たる心地よさを感じつつ麻帆良滞在中に実戦の勘を失くさないようにする方法を模索する。
正直、麻帆良で教師をしながら修業をして、護衛しながら実戦では、これまでのアリスの濃すぎる修業、実戦と比べて甘すぎる気がするのだ。
以前に麻帆良の噂を聞いた限り麻帆良では敵の命を奪うのは正義に反するという下らない理由からご法度らしく、命懸けの殺すか殺されるかを行ってきたアリスにとっては微温湯に浸かっている気分になってしまう。
「はぁ…ダイオラマ魔法球が欲しい…魔法世界なら今は…ああ、カレンが居るから、シルヴィアに頼んでカレンに連絡して持って来てもらうか? あ、いや…そうすると間違いなくカレンも一緒に来るか……あの非常識を日本に、麻帆良に連れてくるのは不味いな。うん、シルヴィアは兎も角、カレンは不味い、下手したら日本が沈む、つかシルヴィアが連絡した時点で魔法世界の一角が消滅しそうな気がするよ……」
普段は二代目・紅き翼最弱なのにアリスが絡むと途端に化け物クラスになる従者の存在に頭を悩ませる。
もう一人の従者は正に従者の鑑、アリスの正にパートナーと言って差し支え無いのに、同じ従者でどうして此処まで違うのか本気で疑問だった。
「ホント、どうしよう……」
選択を誤ると危険な状況、実戦でも此処まで悩んだ事が無いのに、従者の事で実戦以上に悩まされる理不尽に嘆くアリスはシャワーを止めて浴室を出るとバスタオルで身体を拭き、バスローブを身に纏うと影から取り出したワインを、同じく取り出したグラスに注ぎながら夜になりライトアップされた街並みを窓から眺めた。
「明日から考えよう、うん」
翌朝、アリスの姿は再び学園長室にあった。黒を基調としたスーツに黒いワイシャツと紅いネクタイにはワンポイントで金糸を使った翼の刺繍が施されており、ブルートパーズをあしらったプラチナのネクタイピンを装飾し、ダークグレーのロングコートを着ていたが現在は脱いで手に持っている。
「…ホストじゃな」
「言わないでください」
気にしてるのだ。
「さて、アリス君には今日から表では数学教員として、麻帆良学園女子中等部3年A組副担任として、裏では木乃香の護衛として、木乃香の住む女子寮近辺担当の警備員として仕事をしてもらうぞい」
「はい」
「この後直ぐに職員室で朝の朝礼がある、が…先に会って貰いたい者がおる」
学園長がそう言うと学園長室の扉がノックされ、学園長が入室許可を出すと年配の男性教師が一人、それからアリスがよく知る少年が一人入ってきた。
「学園長、お呼びとの事でネギ先生をお連れしましたが…」
「あの、僕に何か…」
「おお、新田先生、ネギ先生、紹介するぞ、彼は本日より2年A組の副担任に就任する事になったアリス・スプリングフィールド先生じゃ、担当は数学、色々と教師としての仕事を教えてあげて欲しい」
アリスの姿を見た2人が固まっていたが、直ぐに正気に戻った新田と呼ばれた年配教師が言葉を発するより早く、ネギと呼ばれた少年が動いた。
真っ直ぐアリスに向かって走り寄り、直前でジャンプするとその胸に飛び込む。
「兄さん!!」
「ネギ!!」
抱きついてきた弟を受け止めてアリスは優しく抱きしめると左手でネギの頭を撫でる。数年ぶりに会う弟は最後に会った時よりも大きくなり、重くなっていた。
「兄さん! どうして此処に?」
「ネギの様子を見に来たんだけど、ちょっと麻帆良で仕事をする事になってね」
「わぁ…!」
数年ぶりに会った兄と暫く一緒に居られる。普段中々一緒に過ごせない兄と一緒に過ごす事が出来るなどネギにとっては何よりも嬉しい事だった。
そして、2人の様子を微笑まし気に眺めていた学園長は事情が上手く飲み込めていない新田に事情を説明する。
「なるほど、ネギ先生のお兄さんですか…」
「うむ、偶々ネギ君の様子見に来た彼だったのだが教員免許を持っているという事で教師として採用したのじゃよ。ネギ君には丁度副担任としてサポートを付けたかったところじゃったから丁度良いと思っての」
「マサチューセッツの学生だったのであれば数学教師としてはこの上ないほどの適任ですな」
一応、アリスは書類上ではマサチューセッツ工科大学を卒業した事になっているので、その資料を学園長から貰って読んだ新田は頼もしい教師が来たと喜ぶ。
年齢はまだまだ高校生と言って差し支え無いアリスではあるが、教師暦の長い新田は10代の若者であれば目を見れば人となりが解るのだ。
「アリス先生、私は女子中等部2年生の学年主任と生徒指導を担当しています、新田と申します」
「あ、失礼しました。本日より就任する事になりましたアリス・スプリングフィールドです」
「お若い身で、これから苦労は耐えないかとは思いますが、不明点などあればいつでも頼ってください」
「はい、若輩の身ではありますが、存分に務めたいと思いますけど、何かあればお願いします」
新田が差し出してきた右手を握り返しアリスは頭を下げた。これから色々とお世話になりそうな先輩教員なので、失礼があってはならない。
礼儀も確りとしたアリスの態度に新田も気を良くし早速だが仕事について説明を始めた。最初は朝礼で職員室に行き各教員達に挨拶、その後はネギと共に担当する2年A組の教室へ行って生徒達に挨拶をする事になる。
「気をつけて頂きたいのは、2-Aの生徒が元気が有り余っている事ですかな」
「元気が、ですか…」
「ええ、基本的に皆、元気で良い子達なのです。ですが、その元気が有り余りすぎている節がありまして、私も色々と苦労させられてますよ」
「なるほど…」
「まぁ、歳が近い分、アリス先生であれば若さで対応出来るでしょう、期待してますぞ?」
随分な期待を寄せられてしまったが、やり甲斐はありそうだ。何より元気が有り余っているのなら良い運動になりそうだ。
「では学園長、そろそろ時間ですので私はアリス君とネギ君と共に職員室へ向かいます」
「うむ、ではの。ネギ君も確り勤めるんじゃぞ?」
「はい!」
「アリス君も、これからよろしくの」
「ええ、それでは」
三人が学園長室を去って足音が聞こえなくなると、学園長はデスクの引き出しを開けて中から一枚の写真を取り出す。その写真に写っているのは学園長とナギ、それからまだ赤子のアリスを抱っこしたアリカの姿が写されていた。
「本当に、良い子に育ったのうナギ、アリカ様…あの子達の未来、どうか見守ってくれている事を祈るぞい…ワシも、未来ある若き2人の歩む道に、幸あらんことを願う」
この後暫く、学園長は写真を眺め続け、生まれたばかりのアリスを連れてナギとアリカが麻帆良学園に遊びに来た日の事を思い返すのだった。
今回、リメイク版オリジナルの二人目の新キャラが名前だけ登場しました。
まだ正式に登場しないので詳細はまだ先になりますが…。