英雄と女王の子   作:剣の舞姫

9 / 10
アリスの戦闘シーンがありますが、正直、これって戦闘? って感じになりました。


第八話 「王の実力」

英雄と女王の子

~Re-make~

 

第八話

「王の実力」

 

 アリス就任一日目の放課後、就業日誌を書き終えたアリスの一日目の仕事は終わった。日誌を新田先生に手渡して軽くチェックをして貰い、荷物を纏めて学園長室に向かった。

 今日から住む場所はこの後で学園長から直接教えてもらう事になっているので、なるべく急ぎ足で学園長室まで辿り着くとノックをして中に入る。

 

「待っておったぞい、アリス先生」

「すいません、遅くなりました」

「うむうむ、それで、今日からアリス先生に住んでもらう場所じゃが、女子寮の隣にある管理人室じゃ」

「隣、ですか?」

「うむ、前の管理人は定年退職して今は空き家になっておる。木乃香の護衛や女子寮近辺の警備員をしてもらうのもあるのでな、丁度良かろう」

 

 近衛木乃香も女子寮に住んでいるという話なので、確かにアリスが住む場所としては最適だ。別に女子寮管理人室というだけで女子寮の中で生活をする訳ではないのだから、特別気にするような必要も無い。

 

「平行して、表では女子寮の管理人でもしておけば良いですか?」

「うむ、それで構わん」

 

 話はそれだけだ。学園長から管理人室の鍵を貰って学園長室から出ようとしたアリスだったが、学園長がそれを呼び止めた。

 

「今晩、22時頃で良いが、広場に来てくれんかの? この学園の魔法先生や魔法生徒達に君を紹介したい」

「わかりました、では今晩に」

 

 今度こそ学園長室を出たアリスは一路、本日からの住まいになる女子寮管理人室へ向かった。

 道中、女子しか居ない道を特に気にした様子も無く堂々と歩き、女子寮へ辿り着き、その隣にある一軒家を見つける。表札の所を見れば管理人室と書かれてあったので、間違いなくこの一軒家がアリスの住む場所らしい。

 

「ふむ」

 

 鍵を開けて中に入ると既に電気が通っていたのかスイッチを入れて明かりが点くようになっていた。

 中は普通の一軒家と大差無い造りになっており、2階にも部屋が3部屋ほど、一階にはリビングにダイニング、キッチン、洗面所に脱衣所、風呂やトイレも確りと備え付けられている上、家具も全て必要な物は揃っている。

 

「テレビに冷蔵庫、エアコンまで…至りに尽くせりだな」

 

 住む場所としては文句の付け所が無い。早速だが二階の一室を寝室として利用する事にして、隣の部屋はアリスの魔法関係の品を置く物置にする事にした。

 魔法関係と言っても、アリスの愛用の剣である“姫”やローブ、拳闘士の服や魔法薬、魔導書や魔法具関連だけなので、部屋を埋め尽くすほどではない。

 全て置き終えた後、部屋には一応だが結界を張り、一般人は部屋の存在を認識出来ない様にした。

 

「これで良し」

 

 自分の部屋にも着替えなどの荷物を置いて引越しは終わり、後は夕飯の準備なのだが、予想通り冷蔵庫の中身は空だった。

 

「買い物…確か近くにコンビニがあったな」

 

 此処に来る途中でコンビニがあったのを思い出し、買い出しに出る事にする。とりあえず本日はコンビニ弁当で済ませて翌日からは何か作るのにスーパーへ行く必要があった。

 

「…紹介、ね」

 

 ふと、今夜の事を思い出す。学園長に言われて22時に広場へ行く事になっているのだ。そこで、この学園に在籍するという魔法使い達に紹介される。

 

「変な期待を持たれなければ良いけど…無理か、父さんの名前もあるし」

 

 父は基本的に尊敬しているし、大好きだ。だが、こういう場面では父の偉大な名前が厄介になって来ることが多くあるのは少し困っていた。

 アリスにはアリスの目的があるので、父の名に誇れる様になれなんていう声は無視しているが、それが魔法使いの多くから言われ続けると流石に滅入ってしまう。

 

「まぁ、今まで通りで良いか…所詮は数年程度の仕事の間柄でしかない、妙に馴れ馴れしいのを無視するのは慣れている」

 

 次期立派な魔法使い(マギステル・マギ)最有力候補なんて関係ない、なるつもりも無いものを押し付けられても無視するか突っぱねるだけ。

 妙な期待を寄せられても関係ない、自分は自分の道を行くだけだ。ナギ・スプリングフィールドと同じではない、アリス・スプリングフィールドの道を。

 

「む」

 

 そこでお腹が空いているのを思い出したので財布を持って管理人室を出た。向かうはコンビニ、品揃えを期待しながら夕暮れの黄昏に染まった道を歩むのでった。

 

 

 夜になり、夕飯を終えた後にテレビでバラエティー番組を見ながら日本の芸人は中々面白いと評価しつつ、紅茶を楽しんでいたアリスは時計が21時40分を指しているのに気付いた。

 

「そろそろ出るか」

 

 カップに残っていた紅茶を飲み干し、ジャケットに袖を通したアリスは相変わらずスーツ姿のままの自分に少しは私服を増やすべきかと考えながらテレビの電源を消してリビングの明かりを消灯すると管理人室を出た。

 既に影の中には“姫”も収納してあるので、おそらくあるであろう腕試しへの備えも整っているため、特に慌てる様子も無く約束の場所へと向かう。

 22時になる5分前に広場に着くと、そこには既に人払いと防音の結界が張られており、多くの魔法先生や魔法生徒が集まっていた。当然だが学園長やタカミチ、それにエヴァンジェリンの姿もある。

 

「おお、アリス君、来てくれたか」

「こんばんは学園長、タカミチ」

「うむ、待っておったぞ」

「久しぶりアリス君、元気そうで何よりだよ」

「ああ、そっちは変わりない?」

「勿論だとも」

 

 高畑・T・タカミチ、父であるナギ・スプリングフィールドがリーダーを務めていた初代・紅き翼の一員であり、現在は悠久の翼という麻帆良学園が資金出資をしているNGO団体にも所属する麻帆良学園女子中等部の教師だ。

 勿論、それは表向きのものであり、裏ではアリスがリーダーを務める二代目・紅き翼に所属するアリスの仲間でもある。

 久しぶりに会う仲間の元気そうな姿に安心して、改めてアリスは集まっている魔法先生や魔法生徒達に目を向けた。

 

「へぇ、やっぱり桜咲や龍宮、春日も来てる…長瀬や古は違うのか」

「うん、長瀬君と古君は違うよ、2年A組の魔法生徒はあの三人と、エヴァに茶々丸君だけ」

「そう」

 

 それにしても、周囲の魔法先生や魔法生徒の目は如何にかならないものか、皆一様に羨望の眼差しを向けてきている。

 

「さて諸君、早速だが紹介させてもらいたい。彼が本日より警備員として参加してもらう事になったアリス・スプリングフィールド君じゃ、皆も良く知っているように魔法世界で二代目・紅き翼のリーダーを務めておるので、3年契約という形で麻帆良学園に在籍する事となった」

「アリス・スプリングフィールドです、よろしくお願いします」

 

 やはり魔法使いの組織というのは嫌いだ。特に、メガロメセンブリア元老院の下位組織である麻帆良学園は余計にアリスが嫌う傾向も強い。

 

「あの英雄の子…」

「二代目・紅き翼の…」

「次期立派な魔法使い(マギステル・マギ)最有力候補と名高いあの…」

 

 本当に迷惑極まりない。そう思いながらも表には出さないでアリスは続きを促す視線を学園長に向けた。

 

「うむ、では早速じゃが、アリス君の実力を実際に見たいのでな…模擬戦をやってもらおう、相手はタカミチ君で良いかの?」

「あ、いえ…僕は何度もアリス君と模擬戦した事がありますが、勝った事が無いので…此処はまだアリス君の実力を知らない人から選出するべきでは?」

「ほう? タカミチ君でも勝った事が無いのか、それでは誰かおるかの? アリス君の模擬戦の相手を務めてくれる者は」

 

 学園ナンバー2の実力者であるタカミチが一度も勝った事が無い。それだけで誰もが尻込みしてしまった。

 あの悠久の風のタカミチが勝てない相手、そんな相手に勝てる自信など無い。だから模擬戦の相手をするのは尻込みしてしまう、そういったところだろう。

 

「はい」

 

 そんな中、一人だけ手を挙げる者が居た。

 

「ほう、刹那君がやってくれるのかの?」

「はい、僭越ながら」

 

 桜咲刹那、アリスが副担任を務める2年A組の生徒であり、アリスと同じく近衛木乃香の護衛であり、神鳴流の剣士、退魔師だ。

 その手に持つ野太刀はアリスにも見覚えがある。夕凪、アリスの師の一人であり、父の仲間でもあった男の刀だった筈である。

 

「アリス先生、よろしいでしょうか?」

「ん、ああ…そうだね、私としては誰でも良かったから、君でも構わない」

 

 影から“姫”を取り出しながら答えると刹那はアリスの回答にムッとした表情を浮かべていた。この程度の挑発で感情を表に出すとはまだまだ未熟の証だ。

 

「では、アリス君と刹那君の模擬戦を行う、両者どちらかが降参するか気絶した段階で終了とする、よいか?」

「いつでも」

「構いません」

 

 刹那が夕凪を鞘から抜いて、鞘を投げ捨てて構えたのを確認したアリスは、“姫”を構えると誰もが思っていたのだが、特に構えた様子は無い。

 

「構えないのですか?」

「必要があれば、ね」

 

 今の段階で刹那を相手に構える必要性すら無い。アリスの態度がそれを物語っている。

 

「(本当に、この程度の挑発に乗るとは…実力よりも精神修業をもう少しするべきだな)」

「では、はじめ!」

 

 アリスの中で刹那の評価が中の下だと判断を下したところで模擬戦が始まった。

 刹那は夕凪を構えたまま瞬動で一気にアリスの背後を取ると横一閃に斬りかかって来る。しかし、刃がアリスの身体に届く前に既にアリスの姿は刹那の目の前から消えていた。

 

「なっ!? ど、何処に!?」

「入りも抜きも中々だけど、まだ速度がイマイチかな」

「っ!?」

 

 背後からアリスの声が聞こえて驚愕する。いつの間にかアリスは刹那の背後に立って“姫”を月明かりに照らしながら刀身を眺めていたのだ。

 

「この!」

 

 振り向き様に一閃するが、やはり刃がアリスの身体を捉えるよりも早くアリスの姿は消える。今度は刹那から少し離れた所に立って何処から取り出したのか油布で“姫”の刀身を磨いていた。

 

「くっ! 舐めるなぁ!! 斬空閃!!」

 

 あまりにやる気の見せないアリスに激昂した刹那が神鳴流の、斬空閃と呼ばれる気を使って空気の刃を飛ばす技を使用、空気の刃がアリスに迫る。

 

「へぇ」

 

 見事な技の精度だと関心するが、アリスの知る神鳴流剣士には遠く及ばない。手を手刀の形にして魔力で強化すると、迫り来る刃を両断して霧散させた。

 

「そ、そんな…くっ、なら!!」

 

 再び刹那が瞬動でアリスの背後に移動すると、桜吹雪が舞う。

 

「百列桜花斬!!」

「ふむふむ」

 

 無数の刃がアリスを襲う。しかし、その刃は全てアリスに届く前にアリスが消えて空を斬り、当のアリスは再び刹那の背後で技の精度に関心していた。

 

「ば、馬鹿にしているのですか!? 先ほどから!!」

「いや、君の腕を評価していた、なるほど確かに剣の腕は高いけど…まだ精神修業が足りないね」

「なにっ!?」

「ほら、足元が見えてない」

「っ!?」

 

 簡単にアリスの足払いで転ばされてしまう。そして、尻餅を付いた刹那の眼前に“姫”の切っ先が突き付けられた事で勝負あり。

 

「……参りました」

「そこまで!」

 

 格の違い、それを見せ付けられた刹那や、他の魔法先生や魔法生徒達はアリス・スプリングフィールドという最強クラスの一角の遠さに、言葉を無くしてしまう。

 タカミチや学園長、エヴァンジェリンも属する最強クラス、それは麻帆良学園に在籍する魔法使い達にとっては、触れる事すら許されない遥か彼方の存在だと、思い知らされた。




次回から原作で言う所の学年末試験、図書館島にネギたちが行く話になるかもです。
それでは、感想をお待ちしてます。
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