【短編】FGO×ブルアカコラボイベント風味   作:サボテン男爵

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アビドス探索/月夜の語らい

 

 

 

 

 

 

「はい、お二人の学生証です☆」

 

仮入学という形ですけどね、と続けるノノミから、立香とマシュは手渡された学生証を首から下げる。

 

「キヴォトスは学園都市ですから、立香さんとマシュさんの年頃だと学生の身分が一番怪しまれません」

 

アヤネからの補足に、シロコが目を輝かせる。

 

「ん、新入生確保。ユメ先輩も合わせてアビドスも8人体制」

 

「シロコ先輩、あくまで一時的なものだからね? まあ協力していくことになった訳だし、あらためてよろしく。あっ、これ二人の制服だから」

 

「はっ――先輩! 私、学生をやるのは初めてです!」

 

「ええっ!? ホントにっ!?」

 

「はい、一身上の都合で――」

 

学園都市たるキヴォトスの生徒たちからすれば、何らかの原因で学籍を失う者はあれども、一度も学校に通ったことがない人物というのはツチノコよりも希少であった。

 

だが立香は知っている。

もう一人のマシュとでも言うべき人物が、制服に身を包み学校に通っていた光景を。

フラッシュバックした疑似東京における彼女の最後を心に沈め、はしゃぐ後輩に微笑みかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異変の中核であろう聖杯を探し、アビドス自治区の探索や治安維持をこなす一行。

様々なトラブルに遭遇しながらも何とか対応を続けること数日。

 

「それにしても二人とも、結構多芸よね。長く旅を続けて来たって聞いたけど、どんな事やってきたの?」

 

探索の合間の休憩中、一息ついたセリカからの問いかけに、マシュは瞳を閉じてこれまでの旅を思い馳せる。

 

「大変な事件も多くありましたが、どれもこれも貴重な体験でした」

 

――立香が大型特殊車両の免許をとった話にはアヤネが興味を示し。

――借金まみれの旅館を復興させた話にはセリカが身を乗り出し。

――妖精女王監修の大アスレチックにはシロコがスポーツ少女の血を刺激され。

――アイドルとしてライブバトルにはノノミが目を輝かせ。

――海賊たちの海での宝探しと海中散歩にはホシノが興味と歓心を隠しきれず。

――ユメはそんな後輩たちを、微笑まし気に見守っていた。

 

 

 

 

 

 

若人たちが交流と絆を深める一方で、蠢きだす影たち。

 

「あらゆる願いが叶う万能の聖杯、か」

 

「クックックッ……どうなさいますか、理事?」

 

「眉唾物の与太話――と言いたいところではあるが、昨今の黄金騒動。加えてアビドスの生徒会長が蘇ったのはこちらでも確認している。もし本物だというのなら、あのようなバカな子供に持たせておくにはあまりにも惜しい」

 

「なるほど。では――」

 

「部隊を動かす価値はある。フフフ……世に混乱を齎しかねない万能の奇跡。そのような代物は、私のようなしっかりとした大人が管理せねばな」

 

 

 

 

 

 

D.U.地区、サンクトゥムタワーにて――

 

「例の来訪者たちは、アビドス高校の生徒たちと組んで活動を継続中です」

 

不知火カヤは報告書に目を落として眉を顰める。

 

「治安が悪化しているアビドス自治区の見回りや武力衝突の鎮圧、はまだいいのですが……不良相手に人生相談。レッドウィンターの生徒の同人誌制作活動の手伝い。ゲヘナとトリニティの飲食系部活同士のトラブルの仲裁。露出過多のミレニアム生への対処。百鬼夜行の生徒には忍術を伝授? ……一体何がしたいのやら」

 

上げられてきた報告書を何度も見返しつつ、半信半疑のカヤ。

 

「アビドスには、多くの生徒たちが集まっているようね」

 

「寂れた地区ですが、黄金の誘惑で活気づいていますからね。副次的に人が向かい出したのでしょう。しかし――」

 

カヤはこの学園都市群の実質的な支配者に、質問を投げかける。

 

「せっかく現地入りさせたFOX小隊を、こんな情報収集でいつまで使うつもりでしょうか?」

 

連邦生徒会長は、ニッコリと微笑む。

 

「あら、カヤちゃんは私の決定に不服があるのかしら」

 

「――ッ! いえいえそんなことは。連邦生徒会長のご意向に逆らおうなんて思いませんよ。ただ場合によっては、武力行使も含めた事態の平定も在り得る、という話でしたので」

 

「フフッ、そんなに焦らなくてもいいわよ。SRTの娘たちは優秀だけど、今回の事態は極めて特異的な事象。専門家が来訪してくれた以上は、私たちは情報収集と後詰めに努めましょう」

 

「……何者なんですか、カルデアとは? FOX小隊からの戦力評価では、マシュ・キリエライトは各学園の特記戦力と同等以上。藤丸立香は評価保留ながらも得体が知れない、と。防衛室としては、未確認の強大な戦力は頭が痛い問題なのですが」

 

「防衛室の長としての意識があるようで嬉しいわ。最近は部下に仕事を任せ気味で、悪いお友達との火遊びに夢中かと思っていたのだけど」

 

「あ、アハハハハ……外部とのやり取りも大事な仕事でして……急ぎの案件があるのを思い出したので、本日はこのあたりで失礼します」

 

ひきつった笑いを浮かべながら退室するカヤを笑顔で見送り、連邦生徒会長はデスクに設置された電話を手に取り、内線のボタンを押す。

 

「私にも、あまり時間があるとは言えないけど――あ、リンちゃん? うん、今からちょっと用事が出来たから、しばらくこっちの仕事を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜のパトロールをしない日は、継ぎ接ぎのポスターを眺めながら眠れぬ夜を過ごす――

ホシノの悪癖ともいえるそんな日々は、ユメが戻ってきてからと成りを潜めていた。

 

「ん――」

 

それでも眠れぬ夜が1年以上続いていたせいか、夜中は時折目を覚ます。

 

「すー、すー」

 

ベッドの横に敷いた布団が上下し、小さな寝息が聞こえる。

布団にくるまる様に中で眠るのはユメ。

最初はベッドを譲ろうとしたが、断られたのでこのような構図になっている

 

初日こそヘイローが消えて横たわる姿に心臓が凍りそうになったが、もちろん眠っているだけだ。

サーヴァント、と呼ばれる今のユメには生理的活動は必須ではないというが、死人という自覚の薄い彼女は生前通りの生活を送っていた。

 

(ユメ先輩は、あの日の前後のことを覚えていなかった)

 

サーヴァントという存在にとって、生前の記憶が曖昧になっていることは珍しいことではないらしい。

一方的な喧嘩別れも、継ぎ接ぎのポスターも、その後どういった経緯で砂漠に向かい、終わりを迎えることになったのかも。

ホシノとの思い出の大部分が失われていなかったことには、心底安堵したものだが。

 

(のど、乾いたな)

 

音を立てないよう、静かに部屋を出るホシノ。

飲み物を求めてリビングに向かえば、月明かりのみが照らす室内で、ソファーで眠る人影がひとつ。

 

(藤丸、立香)

 

数日前にアビドス自治区に現れ、行動を共にしている人物。

曰く、世界を救う旅の途中、その一環としてこの地に訪れたと言う。

 

(アビドスが特異点化している、って話だけど)

 

世界がどうの、人理がどうのと言われても、スケールが大きすぎてうまく処理しきれないというのがホシノの本音だった。

 

(こちとら学校ひとつ救えない程度の人間だからね。世界なんて、とてもとても)

 

マシュ・キリエライトと藤丸立香。

バックにいるカルデアという組織に対してはともかく、二人の異分子に対して向けていた警戒は、共に過ごした数日で解けつつある。

ホシノの目から見て、二人は掛け値なしの善人だった。

 

赤の他人の為に真剣に悩み、必要とあれば手助けし、自分とは関係のないはずの人生に歩みよる。

 

(ユメ先輩に、ちょっと似てるかな)

 

眠る立香を起こさぬように、静かに冷蔵庫へと向かおうとし――

 

「――ッ ――」

 

微かな声を、耳が捉えた。

 

(今のは――)

 

ホシノは冷蔵庫に向かう足を反転させ、立香に近づく。

月明かりに照らされたその顔を覗き込み――

 

「立香」

 

半ば反射的に、その肩を揺すっていた。

 

「……ん? ホシノ?」

 

寝起き故かあどけなさが目立つその額には、汗が垂れている。

 

「えっと、朝――じゃないよね?」

 

「いやぁ~、変な格好で寝てたからね。ダメだよ~、あんな寝方じゃ体を痛めちゃう。睡眠のプロであるおじさんが言うんだから間違いないよ」

 

真相は告げず、深刻さを感じさせない口調で偽りの注意を告げる。

 

「あ、そうだ。ホットミルク、飲む?」

 

「いただきます」

 

「おっけ~、ちょっと待っててね」

 

手早くミルクを温め、二人分のマグカップを持ってソファーに並び、腰を下ろす。

二人してホットミルクを口に運び――沈黙。

静寂の中、時計が時を刻む音のみが響く。

 

不思議なものだと、ホシノは思う。

出会って僅か数日の相手と、こうして夜中に二人きり。

1年の頃の自分からすれば、信じられない話だろう。

 

「マシュちゃんたちも、そろそろ寝た頃かな」

 

旅人の片割れであるマシュは、ホシノの後輩たちに誘われお泊り会をしている。

最初は任務中ということもあり断ろうとしていたが、立香の勧めもあって参加した形だ。

 

「ゴメンね? ホントは二人が離れるのは、あんまりよくないんでしょ?」

 

キヴォトスの外からの来訪者である立香とマシュには、ヘイローがない。

デミ・サーヴァントという存在らしいマシュはともかく、立香は銃弾一発で死ぬ存在。

だからこそ護衛役でもあるマシュは、すぐ駆け付けられるくらい傍にいた方がいいというのは道理だ。

 

「――いや」

 

立香は首を横に振るう。

 

「マシュにとっても同年代の女の子たちと普通にお泊り会っていうのは、貴重な経験で、大事な思い出になると思うから」

 

「貴重な経験、かぁ」

 

ホシノはマシュの言動を思い返す

 

「学校に通ったことがないって言っていたけど、あんまり聞かない方がいい話?」

 

「ちょっと難しい境遇の子、とだけ。知っていればカルデアなんて組織、解体していたっていう人もいるくらいだし」

 

「うへ~、怖いなぁ」

 

「マシュ自身は、自分の境遇を嘆いたことは見たことがないけどね。うん、だからマシュのことを、不幸な人生を歩んできた女の子、っていう風には見ないであげてほしい」

 

「そっか、強い子なんだね」

 

「自慢の後輩だよ」

 

「ふふん、でもおじさんだって後輩自慢じゃ負けないよ。思い切りの良過ぎるシロコちゃん、包容力満点なノノミちゃん、いつも頑張り屋さんなセリカちゃん、しっかり者のアヤネちゃん。ちょっと心配な部分もあるけど、それもまた可愛くってねぇ~」

 

ホシノは両手で持っていたマグカップを、コトンとテーブルに置く。

 

「ホントはさ――私がひとりで、アビドスの終わりを看取ることになると思っていたんだけど」

 

気が付けば、ホシノはそんなことを話し始めていた。

大事な先輩が戻ってきて以来、どこか夢見心地のままだったせいか。

それとも、月明かりに酔ってしまったのか。

 

「ユメ先輩がいなくなった空っぽの学校で私ひとり、未練がましくしがみついて。校舎をユメ先輩の墓標代わりに、墓守の真似事。何もなくなった毎日をただ過ごしていたら、いつの間にかノノミちゃんが顔を出すようになってさ」

 

初対面での印象は、苦労なんてひとつもしたことがなさそうなお嬢様。

随分と邪険な対応をしてしまったものだと、懐かしむ。

 

「そのあとちょっとしてから野生のシロコちゃんを拾って、まあ最初は随分と手を焼かされたよ。生粋の狩人気質というか、常識がぶっ飛んでいたからね」

 

流石にこれは拙いとノノミと二人、あれやこれやと常識を教え込む日々。

突如訪れた忙しさに、寂寥感から目を逸らすことが出来た。

 

「ノノミちゃんとシロコちゃんが入学して、対策委員会を作って、次の年にはセリカちゃんとアヤネちゃんが入学してきた」

 

いつだったかユメ先輩と話した奇跡が実現するなんて、当時は驚いたものだ。

 

「知ってる? 人がいなくなった学校ってさ、死体みたいなものなんだ。でもみんなが来てくれて、一緒に過ごしていたらいつの間にか色づいて、華やかで賑やかな場所になっていた」

 

血が通った、とでも言うべきか。

たった5人きりの学校だが、今のアビドスは確かに生きていた。

 

「後輩たちは、みんないい子だよ。ホント、おじさんなんかにはもったいないくらいに。でもね――考えたことがないと言えば、嘘になるんだ。私がきちんとアビドスを終わらせておけば、みんなは普通の学校で、借金なんか気にすることなく自分の青春に過ごせたんじゃないか。……なんてさ」

 

――ふとした瞬間我に返るように、脳裏に浮かぶことのある“もしも”の情景。

 

「アヤネちゃんは大人しく見えて根が凄く強いから、どの学校でもやっていけると思う。セリカちゃんはムードメーカーだし、きっとクラスの人気者になれた。ノノミちゃんは……今頃他の学校の生徒会長だったかもね。シロコちゃんだけはちょっと事情が違うけど――私の未練がみんなを底なし沼に引きずり込んだんじゃないかって……」

 

アビドスだったら底なし沼よりも砂地獄の方が相応しいかな?

そんな風にホシノは茶化してみせ、立香はただ静かに聞いていた。

 

「ゴメンね? おじさんなんかの愚痴につき合わせちゃって。うへ~……こんなこと、誰にも言うつもりはなかったんだけど。不思議とお口のチャックが緩くなっちゃったよ」

 

立香は首を軽く振りながら応える。

 

「仮初とはいえ、自分も今はホシノの後輩だから。愚痴くらい付き合うのはかまわないよ」

 

「……ありゃ、それもそっか。これは一本取られたね~」

 

ホシノは目を丸くした後軽く笑って、丸めていた背筋をポスンとソファーに落とし込む。

そのまましばし沈黙が流れ――

 

「何も、言わないんだね」

 

「……何か言おうとも思ったけど――ホシノは多分、聞いてほしかっただけだよね?」

 

「あー、うん。確かにそうかも」

 

照れ隠しするように頬を掻き、ポツリポツリとホシノは零す。

 

「シロコちゃんたちには、ちょっと話せないかな。先輩としてカッコ悪いし――絶対に『そんなことない!』って否定してくれるだろうから」

 

「うん」

 

「ユメ先輩は……優しく叱ってくれるんだろうね。そうなったら私、また甘えちゃいそう」

 

「うん」

 

「――ユメ先輩が死んだ時もさ。私がつまらない癇癪を起こして、一方的に喧嘩別れして、それでも次の日にはいつも通りの明日が来るんだと思ってた。一緒にいるのが当たり前すぎて、当たり前の日々が奇跡だなんて考えもしなかった」

 

「……うん」

 

「客観的に見ればさ、単なる不幸な事故ってことは分かっている。私も完全に他人事としてだったら、間違いなくそう思う。――でも、さ」

 

あの日以来、ずっと胸の奥底に抱え込んでいるもの。

でも、でも、でも、でも、でも……自身を苛む、いくつもの“もしも”。

 

「たった一つ、選択が違えば。私がもう少しだけ大人だったら、きっとユメ先輩は死なずに済んだ」

 

全部終わった事なのだ。

あの時ああしていれば、なんて考えても時間は巻き戻らない。

 

「マシュちゃんは私のことを、『能ある鷹は爪を隠す』なんて言ってたけどさ、逆なんだよね。実際のところ爪ばっかり鋭くて、能がない」

 

「………………」

 

「私のことをキヴォトス最高の神秘なんて呼ぶ大人もいるけど、本当に買い被りが過ぎるというか。結局私は大事な人ひとりも守れない、人より暴力が得意なだけの子供でしかないのにさ」

 

だからこそ、仮面(おじさん)を被ったのかもしれない。

後輩たちから、少しは頼れる先輩に見えるように。

弱さと瑕を、覆い隠すように。

 

「きっとこの罪悪感は一生消えないんだろうと、そう思ってた。だから私の中に仕舞い込んでいたんだけど――」

 

奇跡は旅人によってもたらされた。

 

「ユメ先輩が、戻ってきた。立香とマシュちゃんが連れ戻してくれた。仮初だって言うけど、あの温もりは――うん。間違いなく本物。……だけどね、そしたら今度は怖くなってきた」

 

「――それは」

 

「ユメ先輩はきっと、私のことを赦してくれる。――赦されて、しまう。変な話だよね……赦されることにすら、罪悪感を感じるなんて」

 

「ホシノは――」

 

立香は一旦そこで言葉を止め、そして静かに告げた。

 

「自分のことを、赦せないんだね」

 

「……うん」

 

結局はそこに終始する。

例え誰が赦したとしても――自分で自分を、赦せない。

 

「我ながら、面倒くさい性分だとは思うけどね……自分でも、どうしようもないんだ。どうやったら割り切れるのか分からないし、割り切っていいものなのかも分からない」

 

ユメの遺品を見る度に、空っぽになった生徒会室を見る度に、突きつけられる。

自分は罪人だという、自認と自覚を。

 

「うん……自分を赦すっていうのは、本当に難しい」

 

消え入りそうな返答を耳にしたホシノは、ふと気づく。

上っ面だけの言葉ではなく、そこに昏い共感と実感が込められていることに。

 

「その、さ。立香も、ひょっとして大事な人を――」

 

「……うん。何度も」

 

皆まで言う前に、返事があった。

 

(ユメ先輩に少し似ているって思ったけど、むしろ私に――)

 

そこまで考えて、いや、そうじゃないと否定する。

 

(立香は多分、誰にでも似ているんだ)

 

人類最後のマスター。数多の英霊英傑と共に在るヒト。

一度は世界を救い、再び世界を救える唯一の人材。

言葉を並べるとさぞかし特別な人間に思えるが――

 

(本人も言うように、立香自身はどこにでもいる人間なんだろう)

 

――その上で、あまりにも多くの傷を負ってきた。

世界を救うという戦いの中で、想像もできないくらい多くの傷を。

立香を見た人間はその傷口のいずれかに、自分や近しい誰かの姿を見るのだろう。

同じ痛みを抱える者として、共感を覚えてしまう。

その共感が自己愛になるか、同族嫌悪になるかはケースバイケースだろうが……

そこまで考えて、ホシノは目の前のテーブルに突っ伏した。

 

「ホシノ?」

 

「あ~、ゴメン。ちょっと待って。頭、冷やしたいから」

 

自覚してしまえば、今更ながらに顔が熱くなってきた。

 

(会って間もない同世代の子に? 身勝手に自己投影して? 自分語りしちゃうとかさ~!!)

 

急上昇した頬の熱さを、冷たいガラステーブルが下げていく。

みっともないやら、恥ずかしいやら、引かれてないかとの心配やら、何も言わず最後まで話を聞いてくれたことへの安堵感やら。

情緒的にはぐっちゃぐちゃである。

 

「う~~~、話しやす過ぎる立香が悪い」

 

「えぇ……」

 

「責任転嫁は先輩の特権だよ」

 

「そうかな……? そうかも」

 

「納得しちゃうんだ」

 

「ちょっとパイセンを思い出したんで」

 

ホシノにはよく分からなかったが、とても苦労していることは分かった。

その苦労をさして苦にしていないであろうことも。

 

「よし――散々愚痴を聞いてもらったお礼に、今度はおじさんも愚痴を聞いちゃおうか。この際だから、お互い普段言えない弱音とかも吐き出しちゃお」

 

ホシノは自分の小さな手を、立香の手の甲に重ねる。

 

「どうせ行きずりの関係、だからさ。今夜限りの傷の舐め合いとか、しちゃおっか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ:イベントショップ店員の皆様

 

その①梔子ユメ

 

「いらっしゃい、マスターさん! 今日は何を交換する? えっ、スマイルひとつ? はい、どうぞ~」

 

「ショップ店員には慣れたかって? ふふん、やり方はこの手帳にメモしてるから大丈夫だよ!」

 

「オーパーツとも違う不思議な商品……何に使うんだろう?」

 

「マスターさんは頑張り屋さんだね。でもアビドスは暑いから、休むのと水分補給は忘れずに!」

 

 

 

 

その②サングラスをかけた水色の髪の女生徒

 

「キヴォトスへようこそ。一生徒として歓迎します。慣れぬ文化も多いでしょうし、大変な仕事を抱えているとは思いますが、良ければこの地の思い出を刻んでいってください」

 

「はい、こちらの商品ですね。フフ……なんだか新鮮な気持ちです、この手の仕事をするのは。遠くない未来での予行練習にもなりますし、ちょうどよかったですが」

 

「はい、ではこの青封筒10枚をどうぞ」

 

「世界を背負ったあなた。本来は全人類で責任を負うべき人類悪に、ただひとりのマスターとして向かい合うことになったあなた。先生が見たら、何と言うのでしょうか……」

 

「お菓子の差し入れ、ですか? わぁい……ハッ――!? コホン、ありがとうございます。あとでいただきますね」

 

 

 

 

その③黒服

 

「かつてゴールドラッシュでは、黄金を求めた炭鉱夫よりも彼らを相手に商売をした者たちが、一番儲けたと聞きます。先人に倣い私も此度は一歩引いての観察に努めていますが、まったく関わらないのも惜しいというもの。故に、このような役回りを引き受けたのです」

 

「小鳥遊ホシノとの関係性? 契約相手……と言いたいところですが、色よい返事は未だ貰えず。そうですね。今のところ一番大きな関係性は、彼女はキヴォトスにおける私の名付け親、といったところでしょうか」

 

「サーヴァント。ミメシスの亜種かとも思いましたが、なるほど……興味深いものです」

 

「ほう、こちらではなくその品にすると。なぜ? なぜ? なぜ?」

 

「クックック……温めますか?」

 

 

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