【短編】FGO×ブルアカコラボイベント風味 作:サボテン男爵
「マスターさん、ホシノちゃんと何かあった?」
探索が終わった昼下がり。
アビドス高校校舎にてユメと二人きりになった立香は、そんな事を尋ねられた。
「分かる?」
「何となく、だけど。ホシノちゃんちょっとだけ気難しいというか、人見知りするところがあるからマスターさんとマシュちゃんにも警戒していたけど、それがなくなってたから」
「よく見てるんだね」
「これでもホシノちゃんの先輩だからね。……まあこんなことくらいしか出来ないんだけど」
ユメは力なさげに肩を落とす。
「ホシノは、ユメさんから色んなものを貰ってるよ」
「だったら嬉しいな。私もホシノちゃんからは色々と貰っているから、お相子だね」
ユメは言葉通り嬉しそうに笑い――しかしその顔は蔭る。
「私、本当に死んじゃったんだね」
「……それは」
「あ、困らせるようなこと言ってゴメンね? 死んじゃったのは、まあこの際いいんだ。……ううん、本当はあんまりよくないけど、まだ呑み込める」
ユメは近くの椅子に座り込み、「でもね」と続ける。
「私、多分ホシノちゃんにとても重いものを背負わせちゃった」
「……」
「私は鈍い方だけど、さすがにそれくらいは分かる」
溜まった澱を零すように、ユメは大きく息を吐く。
「どうしよう……」
「背負った重しがあるから、頑張れることもあるよ」
「それって実体験?」
「うん、まあ」
「そっか……うん。ちょっとは分かるよ。私もアビドスの生徒会長って立場を、望んで引き受けたから。色々大変だったしうまくいかないことばかりだったけど、うん。前に進もうっていう力にはなったと思う」
頼りになる後輩に助けられてばかりだったけどね、とユメは方をすくめた。
「でも、マスターさんはすごいね」
「自分が?」
「うん。きっと私には想像もつかないくらい大きなものを背負って、今も前に進んでいる――今の私には、ちょっと眩しいくらいかな」
純粋な賛辞を受けて、立香は――
「……痛みを伏せて足を動かすのは、うまくなったかも」
「えっ?」
ユメはビックリしたような顔をして、謝罪を口にする。
「ごめんなさい、あんまり聞かない方がいい事だったみたいだね」
「いや、こっちこそ。昨夜話したのが、ちょっと残ってたかな」
「それって、ホシノちゃんとの……」
「詳しい内容は、二人きりの秘密ってことにしてください」
立香は気分を変えるようにひとつ頷く。
「無理をしている部分もあるけど――それだけじゃないんだ。決して、苦痛や義務だけで戦っている訳じゃない。歩んだ先の光景が望んだものかは分からないけど、生きている限りは、いつか託す番になるまでは、進むって決めたから。――ホシノも多分、同じだと思う」
「ホシノちゃんも?」
「ユメさんのことは、ホシノにとって呪いになっているかもしれない。だけどホシノの歩んできた道は、ユメさんだけじゃない。後輩たちと一緒に過ごす中で、新しい道ができ始めている。今はまだ不安定で微かな道かもしれないけど、きっといつかユメさんとの思い出を背負って歩けるような道に――」
「――そっか。うん、ありがとう、マスターさん」
ユメは安堵したような笑みを浮かべる。
「ホシノちゃんがマスターさんと仲良くなってくれたの、嬉しいな。それに、私がやらなきゃいけないことも分かってきた。……アレ?」
彼女はキョトンとした顔で、窓に向かう。
「何か外が騒がしいような――アレって!?」
「アポなしで悪いが、お邪魔させてもらったよ、お客様。ああ、梔子ユメ。君には生前、一度会ったことがあったかな?」
アビドス高校近辺に展開された兵士に装甲車、戦車の数々。
それらを引き連れて現れた人物は、カイザーPMCの理事を名乗った。
「――で、何の用かな? 借金の回収にしては、物々しいにも程があると思うんだけど」
代表して尋ねるホシノに、カイザーPMC理事は大仰に手を広げて答える。
「何、今日は君たちにとてもいい話を持ってきただけだ」
「ん、怪しさしかない」
「フフ……まあまずは話を聞くと言い。君たちアビドス高校の背負う借金だが、条件次第でチャラにしてもいい」
「はあっ!? なんで急にそんな……」
「我々も別に、君たちを苦しめたい訳ではないのでね。より利益のある様に動くだけだ。――とは言え君たちにあまり難しいビジネスの話が理解できるとも思わない。なので単刀直入に言わせてもらおう」
理事は一旦溜め、条件を告げる。
「聖杯と梔子ユメ、その二つを渡してもらおう」
「…………私?」
ポカンとした表情を浮かべるユメに代わり、声のトーンを低くしたホシノが応える。
「スカウト、って訳じゃないよね?」
「簡単に言えば、彼女が蘇った仕組みを調べたい。死者が蘇るという奇跡。梔子ユメの一例だけで済ませるには惜しいとは思わないかね? その恩恵を君たちアビドスの生徒のみで独占するのは、傲慢だとは思わないかね?」
理事の不敵な笑いに、アヤネが眉尻を上げる。
「技術として確立するつもり、なんですか?」
「ああ、その通りだ。人の追い求める夢の一端、それが目の前にあるのだ。フフ……死者蘇生ビジネス。完成すれば、無限に金を産むとは思わないか?」
「そんなっ! 人の生き死にを弄ぶような――」
「知れば誰とてそうするさ。君のご実家とてそうではないかな? ネフティスのご令嬢?」
「――ッ……それ、は」
言葉を詰まらせたノノミを、理事は鼻で笑う。
「いずれ誰かがやるのなら、我々カイザーコーポレーションが率先してやる。それだけの話だよ、これは。活用法はいくらでもある。例えば古代の技術者を蘇生できるのならば、あの砂漠での宝探しとて必要なくなるだろう」
「前提として――」
マシュが一歩、前に出る。
「ユメさんは、本当の意味で蘇った訳ではありません。真の死者蘇生は魔法の領域。今のユメさんは仮初の受肉。あなたが考えているようなものでは……」
「ふむ、真か仮初か……それはそこまで重要なことかな?」
「え?」
「例え仮初だとしても、今彼女がここにいるという事実は変わらない。そうは思わないか?なあ、小鳥遊ホシノ」
「………………」
「だんまりか、まあいいだろう。君は――マシュ・キリエライトだったか。私の協力者が興味を持っていたよ」
「私に、ですか?」
「ヤツの見立てでは、人倫を無視した実験の産物。到底まっとうな生まれの生き物ではないとか――ああ、その反応を見るに正解だったか。ヤツが惨いなどと口にするのは初めて聞いた。余程恐ろしいところなのだろう、カルデアという組織は」
皮肉るように告げる理事に、息をのむアビドスの面々。
「カルデアに後ろ暗い歴史があるのは否定しません。私が禁忌の実験から生まれたということも」
正面から向けられた悪意に、盾の乙女は毅然と答える。
「――だとしても、それが全てではないと私は知っています。例えスタート地点が間違っていたとしても、今を生きる者として皆懸命に戦っている。その背中をずっと見てきて、私もそうあろうと、共に歩みたいと思っている。私たちは、生きた事に意味を見いだす為に生きている――私の先生からの教えです」
「……ふん」
その迫力に気押させるように一歩下がった理事の前に、立香が歩み出る。
「そもそもとして、聖杯はこっちの手元にはない。あったとしても渡すつもりはないし、ユメさんのことだってそうだ。――だよね、みんな?」
振り返った立香の問いかけに、理事の弁舌に呑まれつつあったアビドスの面々は当然とばかりに力強く頷いた。
「当然です! ユメ先輩を売り渡すような真似はしません!」
「当り前よ! このアビドスで好き勝手させないわ!」
「ん、そんな要求の呑むのはあり得ない」
「私も実家のことまで引き合いに出されて、ちょっとカチンときちゃいましたよ~☆」
「――ッ。小娘共が勢いづきおって……だがいくら気炎を吐いたとて、この戦力差を覆らん! 当初のプランからは少し外れるが、多少順序が変わるだけだ。このまま磨り潰して、アビドスはカイザーの支配下に置かせてもらおう!」
理事が合図を送れば、展開された舞台は一斉に戦闘態勢に入る。
一色即発の中、のんびりとした声が響く。
「いや~、正直助かったよ」
「ホシノ先輩?」
ふらりと前に進むホシノ。
いつも通りの間延びした声に、アビドスの面々は違和感を覚える。
――その中に混じる、冷たさと怒りを感じ取った故に。
「いつもみたいに回りくどいやり口じゃなくて、こっちの得意分野で仕掛けてくれてさ。みんなは校舎の防衛をよろしく~。立香は、
「ちょっとホシノ先輩!? ひとりで何を――」
「だいじょーぶだいじょーぶ、オフェンスはおじさんに任せてよ」
へらへらと笑い、ひらひらと手を振る。
気の抜けたホシノの動作ではあるが――カイザーPMCの兵士たちには嫌な緊張感が走っていた。
この場で最も小柄な人影が目を細め、兵士たちを射貫く。
「――で? ユメ先輩を、どうするって?」
キヴォトスにおいても最大級の軍隊を前に、暁のホルスは降り立った。
「バカな……」
カイザーPMCにおいて、現場指揮官を勤めるひとりが呆然と呟く。
「歩兵、砲兵、装甲車、戦闘ヘリ、戦車、最新鋭のゴリアテまで……いったいどれだけ投入したと思っている!? それが、たった一人を相手にこうも一方的に――」
アビドス高校周辺では、無数の黒煙と炎が立ち昇っていた。
その発生源は、無残にスクラップにされた兵器の数々。
そしてそれは、今尚量産されている。
「このッ!! 来るなー!!」
「来たのはそっちでしょ」
錯乱気味にばら撒かれた弾丸の群れをものともしない桃色の嵐。
幾らキヴォトスの生徒は頑強とはいえ、度を逸していた。
ホシノが戦場を駆け回り、オッドアイが残光のように軌跡を残す。
ショットガンの引き金を引くたびに、カイザーPMCの兵士が倒れる。
膨大な神秘を込められた弾丸は、戦車の装甲すら容易く食い破る。
「こんなの、どうしろってんだーー!!」
生半可な戦術ならば、簡単に磨り潰せるだけの戦力があった。
出撃前は学生数人相手に過剰だろうと、理事の判断に呆れてさえいた。
だがそんな楽観は、単純明快な一個の暴力の前に崩壊していた。
「スゴ……ホシノ先輩、こんなに強かったんだ。本物の軍隊相手なのに……」
この光景に驚いていたのはアビドスの後輩たちも同じこと。
セリカからすれば普段のんびり屋で昼寝している姿ばかり見ているだけに、そこからは想像もできない荒々しさであった。
「ああいう風に戦うホシノちゃんを見るのは初めて?」
「はい――ひょっとしてユメ先輩と一緒の時は、あんな感じだったんですか?」
「うん、私に何かあった時はいつもああやって助けてくれたんだ」
「そうだったんですか……」
開戦当初こそ校舎に向かってくる兵たちを迎撃していたものの、もはやカイザーPMCは守勢に回らざるを得ない状況に追い込まれ、攻め込む者はほとんどいなかった。
それでも稀に攻撃を仕掛けてくる者もいるのだが――
「ゴリアテがこんな石ころ一つで――!?」
立香が簡易召喚した英霊の影の投石で沈黙する鉄巨人。
「すごいですね~☆ 英霊さんって」
「ん、スクラップが大量。全部拾ってお金に変える」
「シロコ先輩――それはあとで考えましょう」
これはひょっとして戦闘後の方が大変なのでは? と冷や汗をかくアヤネ。
「カイザーももうユメ先輩を攫う余裕はないだろうから、私はホシノ先輩の援護を――ん? 地震?」
シロコは足元から伝わる微細な振動を感じ取り、そしてそれが徐々に大きくなっていることに気付く。
『違う! 巨大な魔力反応が急速接近中だ! 気を付けて――何か大きいものが来る!!』
ダ・ヴィンチからの警告が終わるや否や、その場にいた者達は目にする。
砂埃を舞い上げながら地を這いずり周り、黒い巨体を晒す大蛇を。
「あれって――まさかビナー!?」
「知ってるのユメさん!?」
「直接見るのは初めてだけど、何時からかアビドス砂漠にいるっていう機械の大蛇! でも、昔集めた情報では白色だったはずだけど……」
見る者が見れば、その大蛇をこう呼んだであろう。
“ビナー*テラー”と。
「ビナーだと!? ここはヤツの行動範囲ではないはずだが――」
闖入者に混乱するのはカイザーPMCもまた同様であった。
「あの黒い躰は、別個体――亜種か?」
「理事! どうなさいますか?」
「対デカグラマトンの戦術マニュアルは読みこんでいるな? 忌々しいが戦力の消耗が激しい。ビナーの出方を伺いつつ牽制、撤退戦に移行を――」
理事が指示を走らせる最中、大蛇が鎌首をもたげた。
その口元に瞬時に光が収束し――弾ける。
枝分かれした幾条もの光が地を撫でる様に照射され、爆音が一帯を覆う。
「こいつ、いつもと行動パターンが!?」
「おのれっ……被害を報告しろ!」
「今の攻撃で残存戦力も半壊! 先の戦闘も含め、戦力の9割を消耗しました! これ以上は――理事ッ!」
ビナー*テラーの攻撃は終わっていなかった。
先の倍に値する光が収束され、自分たちが狙われているのだと理事たちは本能的に理解する。
「こんな、ところで――」
理事の呟きを、光がかき消す。
拡散ではなく収束された光は空間も大地をも抉り取り、その軌跡にあるものすべからくを消滅させんと降り注ぎ――
「マシュ!!」
「傲りであっても、高らかに。いつか必ず、なくしたものに報いるために! ──導きの星よ、力となれ!!」
夢想の城が顕現する。
ところどころがモザイクがかり、誰の目から見ても不完全だが――決して揺るがない。
光の奔流はついに城を砕くことは無く、ビナー*テラーの砲撃を凌ぎ切った場所に立つは、盾の乙女。
「小娘……何故お前が……」
「皆さんがとても頑丈なのは知っていますが、さすがに今のは致死相当の攻撃だと判断しましたので」
「いや、そういうことを言っているのでは――」
理事は呆然となる。
助ける義務はない、助ける理由はない、助ける必然性はない。だとすれば――
(まさか、当たり前の善性で手を差し伸べたとでも? あんな攻撃を前にして、見捨てて当然の敵を庇って?)
他人を利用し蹴落とすのが当たり前の社会で生きてきた理事には、理解しがたい。
常ならばそのあまさを嗤い、世を知らぬと見下したかもしれない。
だがそのあまさに救われた以上は――
「警告します」
不思議そうに鎌首を傾げるビナー*テラーに向き合ったままマシュが告げる。
「この場は退いてください。何度も庇えるかは分かりません」
「ぬぅ……」
いつもならば皮肉のひとつも零すところだが、それを呑み込み部下たちに指示を下す。
「撤退だ! この際装備は放っておけ! 人員の回収を優先しろ!」
「はっ! 撤退準備は3分前に終えているのですぐに実施します!」
「早いな!? だがボーナスをくれてやる! それからアビドスの小娘ども!」
声を張り上げる理事に、ホシノが冷ややかに告げる。
「負け惜しみなら手短にしてほしいけど」
「ぐっ……まことに遺憾ではあるが、装備は置いていく。あとで回収にくるが、ビナーとの戦闘で紛失したものに関しては咎めたてはせん! それだけだ!」
「へっ?」
「総員、撤収!!」
慌ただしく去っていくカイザーPMCの後ろ姿に、張り詰めていた顔がポカンとなるホシノ。
そこの他のアビドス生たちも合流してくる。
「ホシノちゃん! マシュちゃん! けがはない?」
「損傷は軽微――ビナーに対する警戒を継続します」
「……ユメ先輩、私はかすり傷くらいです。でもさっきの理事の言葉は――」
「ん、好きに使っていいってこと」
カイザーPMCが放置していった装備類を早速漁り始めるシロコの言葉に、ホシノは複雑そうな表情を浮かべる。
「あの理事が、ねぇ……マシュちゃん、すごいね」
「はい? ありがとうございます」
「シロコ先輩。装備を使っていいと言われても、あくまで対ビナーに限りますからね? 勝手に持って帰っちゃだめですよ」
「………………わかってる」
窘めるアヤネに、シロコはしぶしぶと頷いた。
「でもビナーさん、動きませんね?」
ノノミがのんびりと感想を述べる余裕がある程度には、ビナー*テラーに動きはなかった。
登場した時の迫力が嘘のように、沈黙を保っている。
「エネルギー切れとかかな? あんなスゴイビーム撃ってたんだし」
『いや、それは違うよセリカくん。あのくらいじゃ、そいつの魔力は尽きない』
通信越しに、ダ・ヴィンチの険しい声が届く。
『聖杯の反応だ。そのビナーが、体内に聖杯を取り込んでいる!』
「じゃあアレが一連の異変の犯人なの!?」
『そうなる……かな? 違和感は残るけど、聖杯を回収してしまえば事態は解決する。――とは言えあの巨体だ。幸い相手に動きはないし、ピノキオみたいに体内に入り込める場所があればいいけど――』
その言葉をトリガーにするように、ビナー*テラーは蠢動し始めた。
「ダ・ヴィンチちゃんがフラグを立てるから……」
『そんなこと言うかなマスターくん!? え、ホントに私のせいだったらゴメン!』
「超巨大機械体、ヘビ系列エネミーとのモーション比較から攻撃態勢に入ったと思われます! 皆さん、あのサイズのエネミーとの戦闘経験は?」
「ない! あんなの怪獣映画でしか見たことないわよ!」
セリカの即答に、ホシノが追随する。
「立香とマシュちゃんは経験豊富そうだし、指示出しは任せてもいいかな? 戦うにせよ、一旦逃げるにせよ」
「了解! ダ・ヴィンチちゃんは解析をよろしく!」
『わかったよ! みんな、気を付けて!』
補足説明
①理事はユメの蘇りは聖杯によるものと勘違いしてます。
②ビナー*テラーはレイドボスです。
次回:「ビナー死す! 討伐戦スタンバイ!」