転送先はBW2でした。   作:400円

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10話「タチワキに蠢く闇と、ある地方の英雄達」

 

「ジャノビー、マジカルリーフ!」

「じゃー……のっ!!」

「ミギューッ!?」

 

 七色に輝く葉っぱが緩やかに宙を舞い、撃ち出された弾丸の如く相手のミネズミ目掛けて襲いかかる。

 それを見たミネズミは慌てて回避行動を取るも、必中技であるマジカルリーフの追尾性能からは逃れられず……一瞬の油断で当たってしまったと思えば、次の瞬間には無数の葉っぱの刃がミネズミを巻き込む形で通過していった。

 全てのマジカルリーフが通過した後、そこには目を回したミネズミが。大して傷がないのはジャノビーがうまく加減したのだろう。もし加減なしだった場合……考えるだけでも身の毛がよだつ。

 

「やった、また勝ったよお兄ちゃん!」

「じゃのーっ!」

「やったな(……エグいな、マジカルリーフ)」

 

 ものの見事に完封された短パン小僧が項垂れる。

 無理もない、一矢報いる間もなく瞬殺されたのだからそりゃあ項垂れても可笑しくないだろう。

 サンギタウンを越え、20番道路のトレーナーを蹂躙したメイ。鍛えるには一番手っ取り早い方法なのだが、如何せんメイのポケモン達のレベルが上がり過ぎたのか殆ど一方的な蹂躙だった。

 片っ端から勝負を挑んでは勝利を繰り返した結果、ツタージャはジャノビーへと進化し、より強力なメイのパートナーへと成長した。

 

「フッ……」

「……ボコられたのにその態度は一周回って尊敬するぞ」

「フタッ!?」

 

 ジャノビーに進化した途端、勝手にボールから出てきたフタチマルがジャノビーに喧嘩を売り、タイプ相性もあって案の定瞬殺されていた。俺より強いやつに会いに行くスタンスなのか、それともただの無鉄砲なのか。なお、俺は指示を一切出していないので一方的なフタチマルの暴走である。

 そもそも俺はもはやいじめレベルの戦力差なので戦っていない。フタチマルの事もあってフラストレーションが溜まっているのだが、タチワキシティのプラズマ団捜査で発散することにしよう。

 

 

 ──────

 

 

 あの後メイの悪名が広がったのか、20番道路でメイに挑むトレーナーはいなくなっていた。目があったら勝負の合図というトレーナーの暗黙の了解をあの道路のトレーナー達だけはその掟を破り、メイと目があっても何食わぬ顔で目をそらす。

 腑抜けどもがと言いたくなったが、自分の立場となって冷静に考えたら「勝ち目のない相手に喧嘩売って金払う行為」は非常にバカバカしいと思ったのでトレーナー達の判断は合理的と言える。

 ただ肝心のメイは少しつまらなさそうだったのでやはり腑抜けどもと心のなかで罵っておいた。妹を悲しませるやつはお兄ちゃんが許さん。厳密には違うけど。

 そんなこともありながら、20番道路を抜けると活気ある港町が眼前に広がった。

 

「着いたぞ。ここが「わぁあ……!」……お察しのとおりだ」

「ここが、タチワキシティ……!」

 

 仄かに嗅覚を刺激する潮の香りに工業地帯の排気ガス、そしてその真反対の位置にある港町のイメージとは著しく離れた煌びやかなゲート。

 丁度太陽が真上に来る時間帯に、俺達は次の目的地であるタチワキシティへと到着する。

 

「だぁかーら!仕事はどうすんのさ!!」

「止めてくれるな、娘よ……私は、ポケウッドで俳優となるのだァー!」

(おお、あれが……やっぱ実物ちっちゃいな!)

 

 見るからに船長ですと言った服を身に纏い、娘の静止を無視してポケウッドへ爆速していくおじさんとその後ろ姿に溜め息を吐きながら頭を抱える少女。

 パンク系の服装に身長ほどのギターを背負った少女……ホミカが視線に気づいたのか、ずかずかと不機嫌そうに此方へやってくる。

 初対面にしてはやけに喧嘩腰だなと思ったが、そういえばと兄の経歴を思い出してこの対応は妥当だと気付く。

 

「…………あの、何か」

「あんたさ、今失礼なこと考えなかった?」

「……いや、何も?」

「……ま。いっか。突っかかってゴメン」

「ああいや、気にしないでくれ……親父さんか?」

「まぁね……ポケウッドに夢中みたいでさ」

「それは……ご愁傷さまだな」

「はぁ……で?そっちの女の子はあんたの彼女?すっごいこっち睨んできてるけど」

 

 ホミカが顎で指し示した先には先程の無邪気さは何処へやら。親を取られた子供のように不機嫌そうな表情をしたメイが。

 

「……いや妹だ。メイ、そんなに睨むな、失礼だぞ」

「……ご、ごめんなさい」

「いやいいよ。気に障るほどじゃなかったし……アタシはホミカ。ミュージシャンが本業で……一応、タチワキのジムリーダーもやってる」

「えっと……メイ、です」

「メイね……おっけ。この街初めてでしょ。案内したげる」

「あっ、い、いいんですか?」

「バンドの練習まで時間あるし、いいよ別に。あんたはどうする?もう知ってるだろうから今更だろうけど、一緒に来る?」

 

 思ってもいない提案だった。

 ベルから伝えられていたタチワキのプラズマ団について調査を行いたかったのもあったのでホミカの機転に感謝しつつ、遠慮すると断る。メイの若干寂しそうな表情に良心が痛むが、ダークポケモンの所持疑惑があるプラズマ団を野放しにしておくわけにもいかない。

 

「悪いな。ちょっとベルさんから頼まれ事があってな……どうしても俺一人じゃないといけないみたいなんだ」

「ベルさんが?……そうなんだ」

「そうしょげるな、ポケウッドは一緒に回るって約束するから」

「……ホントだよ?」

「勿論。ああそうだホミカ、ついでにジム戦も見てやってくれないか?施設案内のついでにさ」

「はぁ?……まぁ、いいけどさ。強いの?」

「俺の妹だぞ?弱いと思うか?」

「…………それもそーか。んじゃジム終わったらポケウッドに送ればいい?」

「どっちでも。ライブキャスターで……ってそうだ。俺ライブキャスター1回潰してしまってたんだった」

「何してんの……ったく、ほら、また送っといたから登録しておいて。送るなら送るでまた伝える。それじゃメイ、行こ」

「あっ、はい!また後でね、お兄ちゃん!」

「ああ。また後で」

 

 こうしてホミカとメイ、俺単独の班分けが決まった。

 おまけにジム戦の約束も取り付けたので時間の余裕も出来たおかげで心置きなくプラズマ団を成敗しに行ける。

 20番道路で溜まっていたフラストレーション発散も兼ねて、タチワキコンビナートへと足を運んだ。

 

 

 ────────

 

 

 

「……んで、ここにポケモンセンターね」

「はい、ありがとうございます!ホミカさん!」

 

 アイツと別れてから、アイツの妹であるメイにタチワキの街並みを紹介する。

 最初こそ人見知りの激しい子なのかと思ったが、どうやらアイツが関わるとああなるらしい。話してみたらちゃんと受け答えはするし、特に嫌な感じもない。

 ごくごく普通の女の子なのだが……引っかかることが一つ。

 

「…………あのさ、なんで敬語なの?あたしら多分同い年か少し上くらいでしょ。別にいいよ、タメ口で」

「えっ、でも……」

「あたしとしては敬語で話される方がキツい」

「……わかった、じゃあそうしますね!……あっ」

「……ま、ゆっくりでいいよ」

 

 面白いやつだと思い、思わず笑みが溢れた。

 どちらが強いか弱いかは兎も角、仲良くやれそうで少し安心。

 

「……あの、ホミカさ「敬語」……ホミカちゃんは、お兄ちゃんの事が好きだったり、するの?」

「は?あたしが、アイツを?」

 

 おずおずと何を聞いてくるのかと思えば、マーイーカがひっくり返ってもあり得ない事を聞いてきて吹き出す。

 メイ自身は結構本気だったようで、あたしの反応に少しムッとしていた。なるほど、やっぱそうだったか。

 

「ああいや、ごめんごめん。あたしとアイツの会話聞いてそう思った?」

「……まあ、うん」

「なるほどね。安心していいよ、あたし"は"違うから」

 

 否定をすると今度はホッとした表情になる。忙しい子だ。

 別にアイツは嫌いではない。寧ろ好きに入るが、LOVEではなくLikeの方。友人としてはやっていけるが、男女間の関係だとどうしても無理。仮にLOVEだったとして、競争率が異常なくらい高いのだから競うだけでも疲れてしまいそうだ。それこそ勝ち取った所で満足して燃え尽き症候群になりそうな程に。

 

「よかったぁぁぁ……」

「やっぱ好きなんだ、アイツの事」

「……えっと、うん」

「告白は……ああ、やりづらいか」

「うん……」

 

 街並みをだらだらと歩きながら、メイの恋愛相談に乗る。

 二人旅で万が一断られたら地獄にしかなり得ない。お互い気を遣って共倒れみたいな事にでもなったら目も当てられない結末になるだろう。そう考えたら告白を尻込みしてしまうのも無理はないと納得する。アイツなら尚更気を遣ってより気まずくするだろう。それくらい不器用なのだ。

 

「メイとしてはどうしたいの」

「……独り占めしたい」

「直球な回答じゃん、嫌いじゃない」

「……独り占めして、独り占めされたい」

「……あのさ、聞き出したあたしが言うのもなんだけど……結構拗れてない?割と悪い方向に」

「……そ、そうかな?」

 

 それ以外に何があるというのか。要は共依存状態になりたいということだろう。メイが独り占めしたいという気持ちは否定しないが、アイツにも同じ感情を抱かせたいと思うのは病的ではなかろうか。

 

「でも、ホントのことだし……」

「……まぁ、独り占めしたい、までで留めておいたら?終いにはあなたを殺して私も死ぬみたいな事言い出しそう」

「そ、そんなことないよ!……ない、よ?」

「そこは言い切んなよ……」

「ぅ……そ、それよりも!今度はホミカちゃんとお兄ちゃんの出会いを聞かせてほしいなっ!」

 

 ……逃げたな。そう思いながらも、アイツとの馴れ初めを語る。

 といっても、大したことじゃない。

 ジムチャレンジの一環である「メンバーを黙らせる」を一纏めでやってのけた化け物がいるとメンバーから言われ、実際それをやって退けたのがアイツだった。

 曲がりなりにもジムのトレーナーとして登録されていたうちのメンバーを一瞬で退け、ジムリーダーのあたしと戦りあい、アイツが圧倒した。

 普段なら怒りに任せてギターを鳴らしていたかもしれないが、あの時はあまりにも完膚無きまでに叩き潰されて笑いが込み上げた。なんなんだお前、と笑いながら聞いたっけ。

 それからは意外とウマが合って、毒タイプの事で相談に乗ったり、逆に相談したり。流石に趣味は違ったが、ポケモンが好き同士でお互い付かず離れずの関係みたいになった。

 

「有り体に言えば、親友……ってとこかな」

「親友……いいなぁ」

「それはそうだと言えるね。彼氏彼女も良いのかもしれないけど、親友の関係も悪くない」

「……私も、ホミカちゃんとなれる?」

「なれる、かどうかは分からないかな。いつの間にかなってるもんだし、そんなすぐにはなれるようなもんじゃない」

「ぅ……そうだよね」

「だけど、こうして知り合うことは出来た。こっからどう発展させるのかは、アンタ次第ってね」

 

 そう言ってライブキャスターの番号を書いた紙を渡すと目を輝かせて此方を見てきた。この子はヨーテリーの子供か何かかとまた笑いが込み上がる。

 

「ジムやバンドが忙しいからあんま付き合えないけど、旅先の相談くらいは乗ってあげるよ」

「〜〜っ!ありがとう!ホミカちゃんっ!」

「ぬお……っ!?」

 

 嬉しさのあまり抱き着いてくるメイ……意外とあることに少しムカついたけど、コレばっかりは遺伝やら成長のスピードなので仕方ないと割り切る。

 しかし歩きづらい事には変わりないので、引き剥がしはする。アイツにもこれくらいやってるのか?と聞くと顔を赤らめてモジモジしだす。その反応で大体わかったのでまあ頑張れと適当に返しておいた。

 

「さて、着いたよ」

「……地下?」

「まーね。ちゃんとやる事やってればジムとして扱う施設はどこでも良いんだ。ヒオウギのジムも学校でしょ?そういう事」

「へぇえ……」

「そういうわけだから」

「……うん!負けないよ!」

「良いじゃん、前向きなのは好きだよ」

 

 意気込みを見せるメイに期待を込めて地下ライブハウスに足を踏み入れる。

 さて、アイツの言うとおり強いのか、はたまたそうでないのか……なにより、アタシの理性を吹っ飛ばせるのか、今から楽しみだ。

 

 

 

………………

 

 

 

 メイをホミカに任せて道なりに進むこと数分。

 タチワキコンビナートを歩く俺を道行く工事現場の人がちらちらと視線をこちらに向けては自分の仕事にとりかかっている。

 

(まあ、仕事現場に私服でうろついてたらそりゃ見られるよな)

 

 しかも見た目はギリギリ未成年に見える少年。何しに来たんだと思われてるに違いない。コンビナートの野生ポケモンを捕まえに来たトレーナーを迷惑に思われているのだろうか。

 だからといってお邪魔しましたと踵を返すつもりもないが。

 

(……しかし、本当にここにプラズマ団が?)

「あのー……ちょっとイイっすか?」

 

 首を傾げていると、背後から声をかけられる。

 振り向くと赤みがかった茶髪をバンダナでかきあげ、特徴的なゴーグルを首に下げた少年と、その後ろで腕を組みながら訝しげに此方を見る銀髪の青年。

 少年が明るめの服を着ているのに対し、青年は暗めの服を身に纏っている。まるで対照的な2人に唯一共通しているのが……左肩に装着されているであろうガントレット。

 この二人まで出るのか、と感動しつつも平静を装いながら少年の質問にしらばっくれるフリをする。

 

「……あ、俺ですか?」

「っすね、ここで何してるのかな〜って」

「……観光?」

「いや此方に聞かれましても……」

「……単刀直入に聞く。お前がハンサムから聞いた民間協力者か?」

 

 銀髪の青年が高圧的に聞いてくる。なんだコイツと思ったのも束の間、この二人に見覚えがある俺はすぐにこの二人の目的がなんなのかを察した。

 

「…………まさか、ダークポケモン?」

「……やはりか。ハンサムめ、特徴くらい伝えておけと」

「まぁまぁ、こうして見つかったんだから良いじゃないっすか!」

 

 こめかみを抑える青年に結果オーライだと伝える少年。

 あのゲームの2大主人公がこうして会話しているのは色々込み上げてくるものがある。

 

「改めて、よろしくっす協力者さん。僕はリュウト。そんでもってこっちの無愛想な人は……」

「……レオだ。実力は確かと聞いている」

 

 オーレ地方の2大主人公、レオとリュウト。

 物語開始前から悪の組織のエリートだったが、その組織を裏切って大事であろう商売道具を爆破した挙げ句退職金代わりと言わんばかりに商売道具の1つを強奪したダーティ系主人公のレオと、人当たり良く子どもにも優しい上にバトルの腕は確か。おまけに割とモテる上に明らかに難解すぎる機械の操縦を難なくこなす操縦技術を持つ歴代ポケモン主人公の中で上位に入るほどの有能主人公リュウト。

 彼等の登場する「ポケモンコロシアム」と「ポケモンXD 闇の旋風ダーク・ルギア」は従来のポケモンでは考えられないシステムが採用されていることで印象深い。

 

 それは──ー「他人の所有するポケモンをスナッチ(奪う)」という悪く言えば泥棒が出来るということ。

 いつものポケモンであれば「ひとのものを とったらどろぼう!」というメッセージと共にトレーナーからボールを弾かれたり、アニメではボールのキャプチャーレーザーが機能しなかったりと色々な表現でボールによるポケモンの強奪は出来ないと描写されているが、このゲームにおいては反則技ともいえる手段を使う事でその設定自体を無視している。

 勿論ダークポケモンのみという制約自体はあるが、泥棒行為だと諌めていたポケモン側がそういうシステムを採用したゲームを出したことが当時の俺には衝撃的だった。

 

「なるほど、イッシュ地方を一度は制覇していると……こりゃあ、頼りになる戦力っすね!」

「少なくとも、足手まといにはならなさそうで安心した」

「……はは、それはどうも」

「んじゃあ軽い挨拶は済ませたんで……早速仕事の話っすね」

 

 

 リュウトの説明によると、やはりタチワキコンビナートに怪しい人物数名が出入りしているという情報があったようで、初めてそれを確認した後に、一部トレーナーの持つポケモンに異常性が確認されたらしい。

 

「まあ、やたら強いポケモンってだけなら何処にでもいますし。僕らもまさかなと半信半疑でしたけど……コイツのおかげでクロってわかりました」

 

 トントン、と自らの左耳に付けられたスカウターを叩く。

 それがダークポケモンを感知できるオーラサーチャーとは知りつつも、敢えて知らぬふりをしてリュウトにその代物は?と尋ねた。

 

「秘密兵器っす。製造元は企業秘密ということで」

「……因みに、そのポケモンは?」

「回収済だ」

「ダブルバトルでもまさに早業!って感じでしたね」

「……ダブルバトル?2人いたのか?」

「いや1人だ……ああ、そういえばイッシュはダブルバトルが主流じゃなかったか。なら疑問に思うのも無理はない」

「完全に僕らの予想っすけど、多分ダークポケモンの奪還を防ぐ為じゃないっすかね?僕らだと何の問題もないっすけど。因みにレオさんだと秒殺できるくらいには無問題っすね」

「…………なるほど」

 

 レオの捕獲技術は相当高い。どれくらい高いかというとダブルバトル状態でポケモンに正確なボール投擲が出来るくらいに。

 コレがどれくらい凄いのかというと、リュウト以外の他作品主人公はダブルバトルでポケモンが2体以上いる場合、照準を合わせられずにボールを投げることが出来ないという共通設定がある。

 ゲーム中ではほぼ棒立ちなのに?と思われるかもだが、実際にポケモンを目にしてみるとその設定にも納得がいく。

 単体だけでもやたら不規則に動き回るのでそもそも当てづらい。鳥ポケモンや俊敏そうなポケモンは考えるだけでも頭が痛くなる。

 それが2倍になるのだ、難易度は跳ね上がるのが自明の理。

 無論レオ、リュウト以外の主人公達の捕獲技術が低いという訳でもない。寧ろ高い方に分類されるだろう。この2人が頭一つ抜けた捕獲技術を持っているだけだ。

 

「話が脱線したっす。ようはそのダークポケモンが取引されたであろう現場に今から突撃して……そこに怪しいやつがいたら捕縛。お兄さんは撃ち漏らしの処理をお願いします」

「俺が……いいのか?」

「寧ろお前が適任だ。ダークポケモンに気を向かせて犯人自身は逃走するケースも無くはない」

「そうっす。お兄さんはスナッチできる道具がないし、必然的にそうなる感じっすよ。ダークポケモンは僕らに任せるっす」

「……わかった、後方は任せてくれ」

「任せたっすよ。そんじゃ、移動開始で」

 

 リュウトが先導する形で取引されていたという現場へ。

 先程よりも従業員からの視線が増えた気もするが、あまりにも場所に似つかわしくない三人組だからそりゃそうかと納得する。

 しかし、目立ちすぎるのは大丈夫なのだろうか。

 

「問題ないっすよ。旗から見たらただのトレーナーっす」

「寧ろ、俺達を見て訝しげに思わない人物がいてくれる方がいい……あんな風にな」

 

 レオの視線の先には慌てて路地裏に去る従業員が。一般人の俺にはあの従業員が関係しているとは到底思えないのだが、どういうことなのだろうか。

 

「僕らって浮いてるでしょ。なんなら従業員からすれば仕事の邪魔にすらなる。その中で僕らを見るなりそそくさと去ったということは……後ろめたいことがあるってことっす」

「仕事を忘れていたから引き返したって線は?」

「路地裏から向う必要があるか?」

「……あー、確かに」

「取引の犯人が僕らに気をつけろとでも言ってたんでしょう。おかげさまで簡単に割り出せたっすけどね」

「にしても、まさか一般人までダークポケモンに手を出そうとしているとはな」

「それでもパイラタウンよりはマシでしょ」

「……まぁな」

 

 思うことがあるのか、パイラタウンの様相にため息を吐く二人。公式で「由緒正しきゴロツキの街」と記載されているパイラタウンはポケモンコロシアムではダークポケモンの影響をもろに受けていた街だ。

 というのも、パイラコロシアムというトーナメント形式で試合を行っている施設があり、そこの優勝者には商品としてダークポケモンを贈呈するというシャドーとズブズブな関係だった。

 そのせいか、パイラタウンのトレーナー達のほとんどはダークポケモンを所持しており、治安維持の警察もほぼ機能できていないという文字通りの無法地帯と化していた。

 シャドー撤退後はダークポケモンの贈呈という事もなくなり、本来の由緒正しき街に戻るのたが、パイラタウンの地下都市「アンダー」でも一悶着あるのはまた別の話。

 

 怪しまれないよう平静を装いながら、逃げたであろう従業員が向かった路地裏を進んてゆく。

 思っていたより入り組んでいる道を進んでいくと、倉庫に囲われた広場に辿り着く。不自然な広いスペースの中に無造作な置き方をされたコンテナ。まるで何かを隠しているかのようだ。

 

「……あからさまっすねー」

「予想通りか。先程の作業員も向こうにいる」

 

 視線の先には作業員が動揺を隠しきれずに辺りを見回していると、奥のコンテナから仮面を付けた人物が現れた。

 

「……あいつか」

「シャドーの戦闘員にしては……妙な格好っすね」

(誰だ、あのキャラ……?)

 

 道化師の笑う顔を模した仮面に、体格や性別を特定させない為のゆったりとしたフード付きコートに身を纏う謎の人物。

 出るゲーム間違えてませんか?と聞きたくなるような風貌の人物から読み取れる情報といえば、コートの胸元辺りに見えるプラズマ団のエンブレムっぽい形のみ。それすらももはや情報とすら呼べるのか怪しい。

 

「……合図で突入する。協力者は仮面と作業員が脱走した場合のバックアップの為、ここで待機」

「「了解」」

 

 意識を張り詰め、容疑者達の動向を観察する。

 慌てた様子の作業員と、あっけらかんとした様子の仮面の人物。やれやれと首を振った後、懐からモンスターボールを取り出して作業員に渡す。間違いない。そう確信した途端、レオとリュウトが突入していった。

 

「動くな!」

「国際警察っす。大人しく投降するなら手荒にはしません。そのモンスターボールの中身を見せてもらいましょうか!」

「……っ!!」

 

 二人の登場に作業員は後退るが、仮面の人物は額を抑える。

 気を付けろと言ったのにとでも言ってそうだったが、次の瞬間には懐から更にモンスターボールを2つ取り出し、放り投げる。

 ハトーボーとミルホッグ。傍から見れば本当に至って普通のポケモンではあるが、リュウトがゲームで見慣れた動きをしているのを見てあの二匹がダークポケモンであると言う事が分かった。

 それを見た仮面の人物が勢いよく前へと駆け出し、身構えた二人の頭を軽く飛び越えて真っ直ぐにこちらへ向かってくる。置き去りにされた作業員は慌てていたが、ダークポケモンの二匹に便乗して手持ちのポケモンと与えられたダークポケモンを繰り出して応戦する構えを取っていた。

 

「そっちに行ったぞ!!」

(……マジで来るのかよ!)

 

 そうして目の前に仮面の人物が適当な距離で止まると、此方を見定める様にわざとらしく顎に手を当てながら眺めだす。

 

「なるほど、君がそうか」

「…………」

「だんまり?いやあ傷つくなあ」

 

 見た目に加えて機械音声という案の定な身元特定対策に警戒を解くことなく身構える。「まあいいか」と懐からモンスターボールを取り出して新たなダークポケモンを呼び出す。

 出てきたのは、ホウエン地方のポケモンであるグラエナ。本来であれば出てくるはずのないポケモンの登場に困惑と恐怖を抱く。

 

「グルルル……ッ!!」

「グラエナ……!?(ものすごい殺気じゃないか!?)」

 

 グラエナ自体は元々獰猛な性格ではあるのたが、このグラエナに関しては獰猛さに加えて人間への憎悪が感じ取れた。

 腰が抜けそうな程の殺意が俺を襲い、今にも逃げ出したくなる。

 

「小手調べといこう。さあ、君のポケモンを出すんだ」

 

 そんな俺を気にもとめず、手で掛かってこいのハンドサインをして此方を挑発する。

 乗るのは癪だが、みすみす逃がすわけにも逃げるわけにもいかない。恐怖心を誤魔化す為にボールを構えようとするとフタチマルが何かを感じとったのか、勝手にボールから飛び出してきた。

 

「フタチマル!?」

「……!」

 

 いつものスカした態度ではなく、至って真剣な表情でグラエナと俺の合間に立つフタチマル。手に持ったホタチが僅かに震えているが、その表情が怯えているようには見えない。むしろ──ー

 

「フタチマル、お前……怒っている、のか?」

「…………!!」

 

 ギリ、と歯軋りの音が聞こえるくらいに歯をむき出しにしてグラエナを……というよりは、仮面の人物を睨みつけている。

 仮面の人物もそれが興味深いのか、前屈みになってフタチマルをまじまじと観察していた。

 

「ほうほう……まさか、あの個体かな?」

「…………シャァアッ!」

「ははは、随分とご立腹だ。そんなに吠えても仕方ないぞー?」

「……!!!」

「落ち着けフタチマル!どうした!?」

「何だっていいさ、とりあえず君らの実力を試そう。期待通りの腕前だと嬉しいなぁ」

「っ、やるしかない!フタチマル、落ち着いていけよ!」

「シャァアッ!!」

 

 ホタチを構え、グラエナに飛び掛かるフタチマル。

 悍ましいダークポケモンとの戦いが、幕を開けた。

 

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