初撃。フタチマルのホタチがグラエナを斬る。
避ける事はせず、攻撃されたことの怒りと剥き出しの殺意が篭ったグラエナの突進がフタチマルを俺の近くまで弾き飛ばす。
「フタチマル!」
「……タッ!」
すぐに立ち上がり、ホタチを構え直す。
それを見たグラエナが唸り声をあげながら姿勢を低く取った。威嚇しているようにも見えるが、あの構えは……
「来るぞ、フタチマル!攻撃に注意しろ!」
「……おや、知っていたのか。グラエナ、ダークラッシュ」
「グゥルァアァァッ!!!」
血走った目と涎をダラダラとこぼしながら飛び掛かるグラエナ。黒紫に染まった牙がグラエナの悍ましさをより増している。その牙がフタチマルに食い込む直前で咄嗟に防御目的で突き出したホタチが牙を代わりに受け止めた。
ギリギリとまるで万力に挟み込まれたかのような軋む音がホタチから漏れ出す。もしもフタチマルにコレが食い込まれていたと思うとゾッとする力を有しているのかと、ダークポケモンの異常さを思い知らされる。
「得物を盾代わりに。やるねぇ」
「…………!!!」
「だけど」と仮面の人物がつぶやくと、炸裂音と共にホタチが弾け飛んだ。歯を剥き出しにして唸り声をあげながら、尚も殺意を垂れ流している。
「さて、グラエナの習性を当てた君にクイズだ」
パチン、と奴が指を鳴らすと遠吠えをしだすグラエナ。それに反応するように至る所から別個体のグラエナの遠吠えがこだまする。その事態に嘘だろ、と頭を抱えたくなった。
グラエナの習性の一つに「リーダー個体が吠えた時、周囲に散開した部下個体も吠えることで遠くの個体に情報を伝達する」という習性がある。その後、十匹程度の群れを形成したグラエナがチームワークを駆使して獲物を仕留めるのだ。
そして、この場合の獲物は……俺達。
「何も考えずにあの広場にいるとでも?」
「まさか、他の個体もダークポケモンなのか……!?」
「それもいいと考えたけど、身内争いされると面倒だからさ。ダークポケモンはリーダーであるこの個体だけだ。嬉しいニュースだろ?」
いや、今から起きる状況を考えたらむしろ悪いニュースか?と他人事だからと煽りに煽る仮面。間もなくして部下のグラエナ達がやってきて俺とフタチマルを逃がすまいと取り囲む。
おおよそ十匹程度とはいったが、普通に二十匹くらいいてリーダー個体のグラエナが如何に強いかを表している。お互いがお互いの死角をカバー出来る位置なあたり、危機的状況にも関わらずグラエナに感心してしまった。
「さてどうする?多勢に無勢だけど」
「……先にルールを破ったのはそっちだからな」
ボールを無造作に掴み取り、ばら撒く。
俺が今用意できる最強の戦力達が俺を守るようにグラエナ達を威嚇する。得物を構えるソウブレイズとガブリアスに、可愛らしく威嚇するグレイシア。そしてけたたましく鳴くウォーグル。
「……ま、そりゃそうか」
「みんな、グラエナ達を攻略するぞ!」
その合図を皮切りに、各々が一斉に戦いを挑みだす。
先陣を切ったのはソウブレイズ。グラエナ達の合間を縫うように駆け抜けていき、最後のグラエナを目前に大きく跳躍。紫炎の車輪となって一撃を負わせ、華麗に着地。
すると合間を抜けられたグラエナ達が一斉に倒れた。
続く形でウォーグルが脚力で引き摺り出した岩を力任せにぶん投げる。当然グラエナ達はそれをよけるのだが、ウォーグルの本命は自身の放つブレイブバード。避けきれずに視界を遮られたグラエナ数体を岩石もろともぶち抜き、見事ノックダウンを取る。
ガブリアスに関しては言わずもがな。噛み付いてくるグラエナ達をものともせず放り投げ、倉庫の壁に激突させたかと思うと、次の瞬間には狙いを定めた標的に向けて飛び掛かり、力任せにぶん殴る。何体かポケモンでやるとマズイのではと言いたくなるような状態で伸びており、敵ではあるが心配だ。
グレイシアはというと……
「きゅー……ぅっ!!」
足場を凍り付かせることで自身の機動力を上げ、小さく軽い身体を駆使してグラエナ達を翻弄する。そうして死角に潜り込み、氷の礫を生成しては尻尾で弾き飛ばし、グラエナ達の意識を刈り取っていく。
まさに無双。配下のグラエナ達が全員伸びるまでそう時間は掛からず、瞬く間にリーダー個体のグラエナだけとなった。
グラエナを一掃した俺のポケモン達が再び俺を守るように取り囲む。その中でグレイシアはふるふると身体を震わせてホタチに似た氷細工を創り出すと、それを咥えてフタチマルに渡す。
「きゅうっ!」
「フタッ?」
「きゅー、きゅうきゅう!」
あれはお前の相手だからお前がやって来い。とグレイシアがフタチマルの背中を押している気がした。フタチマルも後ろを見ると、俺のポケモン達全員うんうんと頷いている。
どうやら手を出す気は無いらしい。そこはちゃんとしてるんだなと苦笑しながらも、フタチマルと視線を合わせる。
「やれるな?」
「…………フッ!」
「友情かな?あついねぇ……ダークラッシュ」
「ガルゥァァア!」
再び同じ体勢を取って飛び掛かるグラエナ。不敵に笑い、それを避けるフタチマル。それも織り込み済みだったのか、外してもそのまま避けた方向へ強引に身体を突き出してタックルの要領でフタチマルを弾き飛ばすも、フタチマルの顔は余裕の表情。
手に構えた氷のホタチで定点のみにガードを行うという離れ業をやってのけた。ドヤ顔が少し腹立つが、普通に凄い。
(瞬時にグラエナの力が最もかかる箇所を割り出したのか……)
「……フッ」
「グルルル……!!」
「今度はこっちからだ!フタチマル、シェルブレード!」
「かみくだく」
振りかざされる氷のホタチに噛みつき、攻撃の無力化を測るグラエナ。先程までならこれで無力化はされていただろうが、フタチマルのホタチは1枚ではない。
「……シャァッ!!」
「キャウンッ!!」
わざと手放し、遠心力を加えた蹴りで咥えられた氷のホタチごと蹴りつけ、さらにもう1回転して使っていなかったもう1枚のホタチで斬りつける。
ダメージに耐えきれず咥えていた氷のホタチを放した瞬間を見逃さなかったフタチマルは飛び上がってそれを回収。そのまま自由落下でグラエナの脳天に膝蹴りを浴びせた。
それがトドメとなったのか、グラエナがだらしなく口を開いたまま目を回している。
「あーあ、負けちゃったかぁ」
「……よし、よくやったフタチマル!」
「フッ……」
ドヤ顔はやはり腹が立つが、今回ばかりは彼の活躍に免じてぐっと堪える。
それよりも問題は目の前の人物だ。
「はぁーあ。これじゃ商売上がったりだなあ。今日だけで4つも商品ダメにしちゃってるし」
「……ポケモンの事を、商品だと?」
「ああそうさ。我々にとってはポケモンは商品。それも最高の品質をそろえた高級ブランドだぜ?ひとつどう?」
全く悪びれずに言い切る奴に対して素直に殺意が沸いた。
ポケモンだろうがなんだろうが聞き捨てならないし、あまつさえダークポケモンにしてそれを取引する度し難い行為を何の罪悪感も抱かずにやっている奴が非常に腹が立つ。
「ふざけるな、ポケモンだって生きてるんだぞ!」
「そりゃそうだ。じゃなきゃ商品価値がない」
「命を軽視しておいて何言ってんだ……!」
「ははは、君のものさしで此方を測るのはやめてもらいたい。君の考えでは悪だろうが、我々からしたらこれが正義だ」
「屁理屈を!」
今にも殴りかかろうとした瞬間に仮面の人物が指を鳴らす。
するとさっきまで伸びていたグラエナから赤黒い電流が走り、無理やり意識を叩き起こされる。
先程よりも凶暴性の増した様子で見るもの全て敵と言わんばかりにけたたましく吠えだす。さっきの情報伝達を目的としたものではなく、ただただ威嚇するためだけに吠える。
「飼い主のピンチだ、命を削ってでも守れ」
「グルゥアァァァァァアッ!!!!」
「こいつ……っ!!フタチマル、来るぞ!」
「ッ…………!!」
フタチマルが来る攻撃に身構えようとした瞬間、グラエナは既に"そこに"いた。隙を与えぬままフタチマルに喰らいつき、力任せに倉庫の壁へと放り投げる。
ダメージが大きすぎたのか、明らかにぐったりとした様子でフタチマルは気を失っていた。
「……!!!!」
「フタチマルッ!(なんてパワーだ、さっきまでの比じゃないぞ……!?)」
「おーおー、流石ハイパー状態……いや、リバース状態か?まぁどっちでもいいか。殆ど同じだし。いい火力してるなあ」
「なっ……まさか、今の電流は……!!」
「まあ、そうなるよねー」
こちらの神経を逆撫でするように肩を竦めてヘラヘラと嗤う仮面野郎。グラエナがいなかったら間違いなく全力疾走からのぶん殴りをやっていただろう。
厳密には違うもの扱いのハイパー状態かリバース状態になっているグラエナからは怒りと同時に苦しんでいそうにも見えた。
「グルルル……!」
「ガブリアス、フタチマルを頼む!ソウブレイズ、攻撃を挟みつつ動いてグラエナの体力を消耗させてくれ!ウォーグルとグレイシアは増援が来ないか警戒!なるべく俺から離れないように!」
「!」
「ピェッ!!」
「きゅー!」
各々が指示された動きを取る。ソウブレイズは時々峰打ちを挟みながら、倒さないように疲労を蓄積させている。グラエナも何とか喰らいつこうとはしているものの、レベル差が開いているせいか中々攻撃が当たっていない。
そうして翻弄しているうちに、ガブリアスがフタチマルを抱えて戻ってきた。
「くそ、すまないフタチマル……!」
「あーあ、伸びちゃってるねー」
「……ッ!!!」
「おっと……そろそろ時間切れだし、お暇かなぁ」
ソウブレイズが何かに気づき、大きく後退する。
次の瞬間、視覚外から手のようなエフェクトがグラエナを奪い取るように包み込み、そのままモンスターボールへと吸い込まれる。ボールが複数回左右に振れた後、やがて動かなくなった。
「スナッチ完了……さて、後はお前だ」
頼り甲斐のある声。
なるほど、危機的状況に颯爽と現れるヒーローというのはこういうものなのかと、レオとリュウトの登場に胸を撫で下ろした。
…………場面は少し遡り、レオたちの視点では。
「そっちに行ったぞ!」
後方で待機する協力者に務めを果たせという意味合いも込めて首謀者の足止めを要請する。
本来であれば俺かリュウトが行くべきなのだろうが、目の前のポケモンと作業員がそれを阻んでいた。
「行かせねぇぞ!」
「ここで足止めするメリットもないのに……まぁいいっす。レオさん、コイツは僕がやります。レオさんはあの二匹を」
頷いて作業員の対処をリュウトに任せ、憎悪に満ちた表情のミルホッグとハトーボーの前に立ちはだかる。
人を最初から信用しないのは野生ポケモンと同じだが、ダークポケモンの場合は一度人に裏切られたようなもの。人との信頼関係は野生ポケモンよりも築くのは難しい。
それ故に、ある程度の実力がないトレーナーにダークポケモンを渡すのは危険行為とも見なされる。
ポケモンは確かに俺達の生活に順応しているが、本来は恐ろしさを秘めていると思われてもおかしくない生き物。最悪のケースが発生してからでは遅いのだ。
「「…………!!」」
「恨みはないが、これも仕事だ。悪いが保護させてもらう。ゆけっ!ブラッキーとエーフィ!」
相棒達の入ったボールを放り投げ、呼び出す。
スナッチ団よりも前からの付き合いであるブラッキーとエーフィ。いつもどおりの仕事場にあくびをするブラッキーと、侮らずに冷静に相手を見据えているエーフィ。
そして現れた刺客により一層の警戒と憎悪を強めるミルホッグとハトーボー。見慣れた光景である。
「ブラッキーはハトーボーに怪しい光。エーフィ、ミルホッグにサイケ光線」
「……ガゥッ!」
「……きゅっ!」
指示に従い、其々が技を放つ。
ブラッキーの発光箇所から放たれた不気味な光はハトーボーを包み込み、警戒と焦りから正常な判断を下せなくなったハトーボー。これでほぼ無力化にはできたが、スナッチにはまだ程遠い。
そしてエーフィの額の宝石から放たれるサイケ光線もミルホッグの眉間に当たり、その衝撃で脳が揺れたのか分かりやすく目を回していた。うまく混乱を引けたのはイチニアシブが此方に傾いていると言える。
「シャァアッ!!」
それでもしっかりと攻撃対象は見据えていたのか、ミルホッグが鬱憤を晴らすかの如くエーフィに向かって攻撃を仕掛けるが……相棒のピンチにブラッキーがソレを見逃すはずもない。
「……!!」
「きゅ」
「……がう」
「信じてた」と言わんばかりに微笑むエーフィと、「当たり前」といった照れ隠し気味の表情でミルホッグのやつあたりを受け止めるブラッキー。
長年の付き合いとはいえ、こうも息が合っているイーブイ種は滅多に見掛けない。主人ながら見事なものだと毎度思う。
「ブラッキー、電磁波」
反撃とばかりの至近距離から放たれた電磁波を避けれるはずもなく、微弱な電流がミルホッグを襲い、痺れた事で動きを鈍る。
そのままダメ押しの追撃で力いっぱいミルホッグを突き飛ばし、バランスを崩したミルホッグがバタリと倒れ込んだ。
「……今だな。ブラッキーとエーフィはハトーボーを牽制。俺はスナッチに移る」
「「がう!/きゅう!」」
ブラッキーの黒い眼差し、エーフィの重力がハトーボーの機動力を削ぎ落とす。邪魔があっても出来なくはないが、余計な心労は避けるべきだとオーレの旅路で学んだ。主に元シャドー幹部のダキムが使役していたメタングのせいで。
「さて」
左肩のスナッチマシンにモンスターボールを装填し、構える。
狙いを定められたミルホッグはまだ思うように動けないのか、倒れた体勢のまま此方を睨み続けている。
「…………慣れるもんじゃないな」
ダークポケモンだったマクノシタを初めて見た時は「本当にポケモンが出す敵意か?」と冷や汗が流れたが、今となっては何も思わない。それどころか、そう思われても仕方がないとすら納得してしまう自分がいる。
このミルホッグの背景に家族がいて、もしトレーナーに奪われたとしたら?そうならば、ミルホッグが俺に向ける怒りも妥当といえる。お門違いもいいところではあるが、俺達が野生ポケモンの見分けがほとんどつかないように、野生ポケモン側も人間なんてほぼ同じものと見えているのだろう。
恨むなら恨めよと、装填の完了したスナッチボールをミルホッグに向けて投擲する。奪い取るような手のエフェクトがミルホッグを包み込み、収監するようにボールの中へと吸い込まれる。
抵抗するように左右に激しく振れるも、しばらくするとシン……と静まり返った。捕縛完了だ。
「……残るは」
「キェェエェェッ!!」
「…………暴走したか」
2匹の牽制に苛立ったのか、興奮した様子のハトーボー。
ダークポケモンが危険たる所以の1つであるハイパー状態。ボルグの監修したとされる第1世代型のダークポケモンはこの状態に陥りやすいとされている。ラブリナ監修の第2世代型はこのハイパー状態を調整したリバース状態に陥りやすい。
しかし妙ではある。俺やリュウトがシャドーを壊滅させたのは今よりもずっと前。その際にボルグ、ラブリナ等のダークポケモンに関わった主要人物は捕らえた筈。
だというのに、こうしてイッシュにダークポケモンが流行り始めたのは何故なのか。
「がう」
「!……すまん、ブラッキー」
余計な思考をやめろと言わんばかりにこつん、と頭突いてくるブラッキー。これじゃどっちがトレーナーか分からないなと内心苦笑をこぼしながら、暴走気味のハトーボーに意識を向ける。
「クルルルル……!!」
「ブラッキー、鬼火で火力を削ぎ落とせ。エーフィはサイコショックでハトーボーの行動に制限をかけろ」
指示の直後にブラッキーの周囲をゆらゆらと紫炎が現れ、ハトーボーにまとわりつく。鬱陶しそうにばたばたと暴れている様子から効果自体はちゃんと現れているようだ。
とすれば……奴の暴走状態はハイパー状態。リバース状態ではこういったダークポケモンのメリットを潰しかねない状態異常はかかる事はないとリュウトから聞いていた。こうして見ると第1世代型より第2世代型の方が厄介ではある。
やがて効果を終えた鬼火が消えると、反撃とばかりにハトーボーがブラッキーに襲いかかろうとするも、エーフィの設置したサイコショックの機雷がそれを許そうとはしない。
ハトーボーの動きに感知したサイコショックが一斉にハトーボーに向けて放たれる。小粒の塊といえど、それが無数かつ矢継ぎ早に襲い掛かられたらたまったもんじゃないだろう。
「捕縛開始」
再びボールを装填し、投擲。掠め取る様にハトーボーを捕縛し、ミルホッグと同じ結末を辿った。
「制圧完了……ブラッキー、エーフィ。ご苦労だったな」
「がう」
「きゅう」
「ゆっくり休んでくれ」
「おつかれっすー」
2匹に労いの言葉を投げかけ、ボールに戻すと背後からリュウトの声が。その後ろではアリアドスの糸でぐるぐる巻きにされた作業員が目を回していた。
特に苦戦した様子も見られないあたり流石の腕前だ。
「ダークポケモンは?」
「バッチリ捕獲完了。第2世代型っすね。時期に作業員も回収されますよ……そっちは、言うまでもないっすね」
「無論だ。こちらは第1世代型だった」
「……どちらの世代も持っていると。シャドーの残党にしてはラインナップ豊富すぎやしません?」
「…………オーレの警察がボルグとラブリナを逃さなければ、この被害もなかったのだがな」
2年前にシャドー幹部奪還を狙った警察への襲撃。
当時収監していたシャドーの幹部殆どが脱獄したと聞いた時は思わず頭を抱えたが、何故か主犯はワルダック、デスコルドの首領2名は奪還されることなく、今も収監されたままなのがせめてもの救いではある。
しかしボルグとラブリナが脱獄したのはかなりの痛手だ。
ダークポケモン研究の主要人物であり、特に後者はXD-001というダークポケモン化した黒いルギアを作り出した怪物だ。あのリュウトですら「クソアマ」と包み隠さず非難する位にはイカれている。
「まあ、2年前のことを今言っても仕方ないっす。切り替えて…………んん?」
リュウトが言い切る前に、イッシュでは聞き慣れないポケモンの遠吠えが聴こえる。場所も場所なだけあって明らかに場違いな最初の遠吠えを皮切りにこだまするようにあちこちから聴こえてくる。
「グラエナの遠吠え……イッシュにグラエナは」
「いないっすね。ということは……」
協力者の所で戦闘が開始された可能性がある。
そう結論付けた俺達は足早に協力者のもとへと駆け出した。実力はあれど今のグラエナの遠吠えを聴くに仲間の招集を目的とした遠吠えに違いない。
理由を裏付けるように最初の遠吠えの後から続々とグラエナの遠吠えが続いたのがいい証拠である。
やがてたどり着くと、暴走気味のグラエナが協力者のポケモンに翻弄されている最中だった。案の定ダークポケモンで先程のハトーボーやミルホッグと比べるとかなり強力そうな個体に見える。
「……暴走中か」
「都合がいいっすね。にしてもあのポケモンは……見たことないな、新種っすかね?」
「パルデアのポケモンだ。イッシュで見ることになるとはな」
「あー、そういえばレオさん行ってましたね。新婚旅行みたいな感じで」
「連行されただけだ。無駄話は後にして、捕縛に移るぞ」
「了解っす」
協力者のポケモンがいい具合に削ってくれていたおかげで、グラエナの注意が完全に此方に向いていない。
捕縛するチャンスとしてはこの上ない状況を逃す筈もなく、再度ボールを装填して身構える。
すると協力者のポケモンは気付いたのか、協力者のもとへ大きく後退っていった。
(優秀なポケモンだ)
感心を覚えながらも、スナッチボールを投げる。
不意打ちに対応しきれなかったのか、グラエナは然程抵抗することなくボールに収まった。
「スナッチ完了。次はお前だ」
さて、次の仕事に移らねば。
────―
「漸く追い付いたっすよ……首謀者さん」
「レオさん、リュウトさん!」
「遅くなった、足止めご苦労」
「おかげさまで捕縛できたっす。感謝っすよ!」
仮面野郎の背後から目的を達成して此方に追い付いたレオとリュウトが。先程とは打って変わって形勢が逆転する。
しかし仮面野郎は狼狽える事なく、懐からボールを取り出してまたポケモンを召喚した。
「グァォオゥ!!」
「……あれもダークポケモンか?」
「反応なしっす。どうやらアイツの手持ちっすね」
(メガボーマンダ……?いや、ちがう、見覚えがあるはずだ……!なのに、どうして思い出せない!!)
見たことがあるのに、思い出せない仮面野郎から繰り出されたメガボーマンダに似た姿をしているボーマンダ?らしきポケモン。そのポケモンの首に仮面野郎がまたがると、ボーマンダもどきが空に舞い上がる。
「さてさて、今回はここまでだ。僕には次のスケジュールがあるんでね、油を売ってる場合じゃないのさ」
「逃がすとでも?アリアドス、糸を吐いて拘束!」
「逃さないのは当たり前の考えだね。だからこそ対策は打っているものだろう?」
パチン、と奴が指を鳴らすとどこからともなく煙幕が放たれ、視界が白一色の煙に覆われた。
「それでは失礼だ諸君。まだ首を突っ込む気なら、すぐにまた会えるかもしれないけどね」
「ち……っ!!鬱陶しい!」
「ウォーグル、霧払い!」
「キョェェッ!!!」
「うるさっ!?あっ、すみませんっす」
「……いや、気にしないでくれ」
喧しく鳴きながら翼をはためかせたウォーグルの活躍によって周囲の煙幕が晴れるも、そこに奴の姿は居ない。
「……くそっ」
「あの方角は……ヒウンか」
「っすね、骨が折れそうっすけど……泣き事言ってても仕方ないか」
逃げられたことを特に意に介する事もなく次の行動に移ろうとする二人。冷静すぎやしないかと疑問を問うと、リュウトが苦笑しながら問に応えてくれた。
「これで捕まるとは思ってなかったっすからね……悔しいっすけど」
「彼奴の現れる場所=ダークポケモンの所有者がいる。所有者も検挙できると考えればそう悪い状況でもない」
「そ。だから悪いことばっかってわけでもないっす……ああそうだ、お兄さんにコレを」
リュウトからスカウターと小型ガントレットを手渡される。まさかと思い聞いてみると、思った通りの解答を得て内心舞い上がってしまった。
「スナッチマシンと、ダークポケモンを見分けるための装置っす。多分お兄さんもこれから先ダークポケモンと遭遇する機会が多いでしょうし、持つべきかと」
「分かってはいるだろうが、ダークポケモン以外に使うな。使った時点で俺達に通知が行くようになっているからすぐにバレるぞ。陽の目とおさらばしたいなら話は別だがな」
「勿論。捕獲したダークポケモンはどうすればいい?」
「僕のパソコンアドレスを送っておくっす。そこに突っ込んでくれれば、僕の方で手配するんで。使役したいのであれば無理強いはしないっすけど……あまり推奨はしないっすよ?」
ダークポケモンはかなり危険っすからと釘を刺すリュウト。グラエナを見る前であれば楽観視して使役していたかもしれないが、あの様子を見てとても使おうとは思えない。
ゲーム内の事しか知らないとは言え、よくもまあダークポケモンを何匹も使いこなしていたなと二人に尊敬すら覚える。
にしても、パソコンにダークポケモンを突っ込むということはやはりリライブホールを使うのだろうか?と興味本位で聞いてみる。するとリュウトから意外な手配先の名前が飛び出した。
「エーテル財団っすよ。聞いたことはあります?」
「エーテル財団……ああ、名前だけは(もうエーテル財団出てくるのか!?BW2ってSMよりずっと前だぞ!)」
「凶暴なポケモンの扱いに慣れてると支援を立候補してくれまして。ダークポケモンだけど大丈夫か?と思って試しに僕同伴を条件にダークポケモンを預けてみたんっすよ。そしたら順調にダークポケモンの改善化が見込めたんで、じゃあって事で」
なるほど、と納得する。
エーテル財団はBW2よりずっと後の最後のDSポケモン作品である「サン・ムーン(SM)」とそのマイナーチェンジ版「ウルトラサン・ウルトラムーン(USUM)」に登場する団体組織。表向きはポケモンの保護などを行う慈善団体なのだが、裏では怪しげな研究を行っているという……蓋を開けてみたらやっぱりなという感じの典型的な悪の組織ポジション。
組織のトップであるルザミーネがSMとUSUMではかなり印象が変わるのがSMとUSUMの面白さの違いの一つだと個人的に思う。
余談ではあるがエーテル財団の職員は2パターン用意されており、どちらも甲乙つけがたい良さがある。ストーリーで戦う職員の顔グラフィックはいかにも悪そうな男職員、ダウナーな感じ女職員と悪役寄りなのだが、バトルツリーで戦う職員は好青年とクソナルシ、超陽キャとクールいった感じでとても良い。特にツリーの女性職員ヒアポは推せる。マジで。
…………閑話休題。
よくよく考えればあくまでもゲームの歴史であってこの世界ではエーテル財団がBW2の時間軸に存在していてもおかしくはないと解釈することにし、情報を教えてくれたリュウトに礼をすると、いえいえと返ってきた。
「それじゃ、僕らはこれで。ご協力感謝っす!」
「じきに会いそうな気もするが、また頼むぞ」
「ああ。また」
礼儀正しいお辞儀でその場を去るリュウトと、適当に手をひらひらと振って去るレオ。
二人が去ったあと、上機嫌でスナッチマシンとスカウターを装着する。少し周囲から浮いている気もしなくはないが、いずれ動作することに期待を抱きながらタチワキコンビナートを後にするのだった。