メイの熱っぽい視線を気付かないふりをしながらモロに受けつつも、支度を済ませた俺達は玄関へと進む。
ゲームでは簡略化されていた自宅もこちらではしっかりと家の間取りをしており、ゲームでは描写されていなかった物がたくさんあった。
その中でも目を引いたのが、おそらく俺の憑依先が成し得たであろうジム制覇のバッジケースが飾られていた事。実物をこうして目の当たりに出来て感無量の極みとはよく言ったものである。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってくるね、お母さん」
メイのお母さん…もとい、俺の母さんに挨拶をして家を出る。其処には画面でみたヒオウギシティの景色とは違った景色が広がっていて、つい立ち止まって感動してしまう。立ち止まったことに数歩進んで気付いたメイが此方へ戻ってきた。
まずい、ゲームの画面と違いすぎたからつい止まって見回してしまった…メイの疑問に満ちた顔に冷や汗を掻きそうになる。
「お兄ちゃん?どうしたの?」
「ぁ…いや、今までみたヒオウギの景色も旅立ちの日だとまた一段と変わるもんだなと…ちょっと感動してた」
「ふふ……なんだかお兄ちゃん、ロマンチストみたい。でも、そっか…暫く見れなくなるんだよね…この景色も…」
そう言うとメイも染々とヒオウギの街並みを見渡し始める。その姿を見てナイス回避だ俺と自画自賛していると、向かいの家からこれまたゲームで見慣れた少年がやって来た。
とりあえず……名前が分からないので例のあの名前で探ることにしよう。
「あ、ひひひろしおはよう」
「誰がひひひろしだ!?ヒュウだっつってんだろ!毎回毎回わざとか!?」
「
「俺は!今から!怒るぜッ!!」
キシャー!と飛び掛かろうとせんひひひろし……じゃなくてヒュウ。あれ、コイツゲームでこんなキャラしてなかったような…もしかしなくてもゲーム通りの道では無いのかもしれないと一つの予想が生まれた瞬間、メイが飛び掛かろうとするヒュウの前に立ちはだかった。
「ダメ!」
「おわぁっ!?あ、危ないだろメイ!」
「ヒュウだって!お兄ちゃんになにしようとしたの!!」
「それは!「男の語り合いだメイ。時には拳で語り合う時も男にはあるんだよ」…は?」
「え…そうなの、お兄ちゃん?」
「ああ。だから俺とヒュウは今から語り合う必要があるんだ。メイ、お前を傷付かせない為にも……下がってほしい」
「…やだ。お兄ちゃんが傷付く姿、私みたくない…「俺だって、メイが傷付くのは耐えられない!」お兄ちゃん…っ!」
「いちゃつくなァ!!!」
スパァン!とハリセンのいい音が俺の頭に響く。何処から取り出したのか聞くのは野暮だから聞かないけど何で俺だけなのだろう…あ、原因俺だったから当然だった。
「ナイスツッコミだ、ひひひろし」
「ヒュウだッ!……ったく、こんなところで油売ってる場合じゃないだろ!特にメイ!」
「……あ!そ、そうだった…お兄ちゃん!いそごっ!」
「え?あ、ちょ……ぐぇっ!?」
ヒュウに指摘されて気付いたメイが服の襟を掴んでずるずると俺を引きずる形で走り出す。何この娘、男性引きずる程のパワー持ってるとか規格外過ぎませんかね?どこにそんなパワーを隠しているのか…どうみても華奢な体つきをしているけどもしかして脱いだら凄いとか…やめよう。考えたら気分悪くなった。というか考えなくても気分が悪い!だって首根っこ引っ張られてるから!
「め、メイ…ある、けるか、ら……ひきず、るの…くび、しまって、る……!」
「あっ!?ご、ごめんお兄ちゃんっ!」
慌ててメイが手を離すと、絞まっていた気管が急に開いた事でその場にしゃがみこんで咳き込んでしまう。飛ばされて即殺されるとか洒落にならない。その相手が妹だと尚更。
そんな俺を見て申し訳なさそうにするメイ。空元気なのは明らかだけどそれでも心配させまいと呼吸を整え、立ち上がってメイを撫でる。
「ふぅ……俺は大丈夫だから、心配するな」
「ごめんなさい…お兄ちゃん、苦しかったよね」
「一瞬三途の川は見えたが問題ない。いける」
「さ、三途の川……」
「割とキレイだったぞ」
知らない老人が手を振っていたがあれはきっとお祖父さんだと思う。あと美少女が手を振っていた。どちらも妄想の中だから実際に見たわけではないけど。
………………
お兄ちゃんが気にするな、と言って私に歩幅を合わせながら待ち合わせをしている場所へと歩きだす。
ヒュウとのやり取りもお兄ちゃんなりの気遣いなのだろうと思うと嬉しさで心がいっぱいになっていく。
(お兄ちゃん、かっこいいなぁ…)
隣を見上げるとお兄ちゃんの凛々しい横顔が。何かを考える仕草で目的地に歩いてる姿がまたカッコよくて…夢中になって見ていると視線に気づいたお兄ちゃんが此方を向いて笑いかけてくれた。
その表情に胸を射たれて顔が真っ赤になってしまうと、お兄ちゃんが今度は心配そうに私を見てきた。
「…大丈夫か?」
「う、うん!大丈夫!何でもないよ!」
覗き込むように顔を近づけてきたお兄ちゃんをかわすように慌てて前を向く。お兄ちゃんがキレイで照れてしまったなんてとても言えるわけないのに、顔が近付いたらどうにかなっちゃいそうだよ…!
「ならいいが…無理はするなよ?」
「うん、お兄ちゃんが心配するもんね」
「まぁ…間違いではないが」
「えへへ…やっぱり優しいね、お兄ちゃんは」
だから好きになったのかな。うん。きっとそうだ。
優しくてカッコよくて、皆の憧れのお兄ちゃん…その気になればヒオウギのジムリーダーにもなれたみたいだけど…多分そうなったらかなりの難所になりそう。
それでもジムリーダーじゃなくて私の旅についていくと言ってくれたのは…嬉しかった。
「ここだな」
「うん。この先の高台でアララギ博士の助手さんが待ってるんだって」
「よし、じゃあ…行こうか」
「うん!」
高台で待つ助手さんと、ポケモン。
私の旅の第一歩が始まろうとしていた。
………………
三途の川の下りからばつの悪そうな顔をするメイに「気にするな」と一言言って先に進む。
(順当にいけば高台でベルに会ってポケモン渡された後に…メイがヒュウとの初バトルか)
しかしそう上手くいくのだろうか?本来のストーリーには関わらないどころか存在すらしない"メイの兄"が存在してる時点でもうストーリーが丸々別のものに置き換えられていてもおかしくはない。
もしかしたら助手がベルではなくモブ研究員であるかもしれないし、まさかのチェレンとポジション逆とかありえそうだし…考えれば考えるほど候補がでてくる。
そこでやっとメイの視線が此方に向いていることに気付いて声をかける。かっこいいと見とれていたと見るが…
「…大丈夫か?」
「う、うん!大丈夫!何でもないよ!」
慌てて視線を反らしたメイ。それと同時に確信した。
メイは兄に惚れてる。兄妹としてではなく一人の男性として兄を見ているに違いない。
羨ましい反面今の兄は俺であって兄ではないからメイには申し訳ない気持ちにもなる。兄に対しては只一言「爆発しろ」としか言わないが。
「ならいいが…無理はするなよ?」
「うん、お兄ちゃんが心配するもんね」
「(兄も兄でシスコンかー…)まぁ…間違いではないが」
「えへへ…やっぱり優しいね、お兄ちゃん」
(あざとい、でも可愛い)
嬉しそうに笑うのは卑怯だ。生まれてこの方彼女無しの俺に効果は抜群だ!くっそマジでこの兄爆発しろ。
しかしこれで兄がなぜメイの旅についていくと言ったのかは何となく分かった。シスコンだこの兄。
まあ確かに少女とは思えないプロポーションに美少女クラスの顔面偏差値だもんな。ゲームのなかならまだしもライモンとかセイガイハ辺りにいそうなの質の悪い男に捕まらないか心配で仕方がなかったのだろう。
メイ自身はそういう事情じゃなくて単純に付いてきてくれた事に喜んでそうだが。
(シスコン兄にブラコン妹…)
ベターな展開だなと思いながらも、目的地の手前である高台への階段に辿り着いた。
「ここだな」
「うん。この先の高台でアララギ博士の助手さんが待ってるんだって」
やはり"助手"としかキーワードは出てこなかった。もしここでベルじゃなくて別の誰かなら早々にBW2本編のストーリーと大きく違うのでストーリーの進め方が分からなくなるが、ここで立ち止まってても仕方ない。
「よし、じゃあ…行こうか」
「うん!」
意を決めて高台への階段を上る。
キャラがそのままである事を信じなからも、絶対に経験できなかった筈のポケモンゲームではお馴染みの最初の御三家イベントを生で見れるという期待が俺の好奇心を駆り立てていた。
メイと共に階段を駆け上がるとそこには見慣れた服を着た少女の後ろ姿が。ここまでは変わっていなくてまだ安心した……が、問題は話しかけた後。
もしベルの性格が変わってたり、後ろ姿は同じでもいざ振り向かせると全くの別人だったりとすると何か変わってると勘違いを起こしてしまいそうだ。
逸る気持ちを抑えられないのか、ベルを見つけたメイが一歩先にでる。
「あの人かな…あのー!」
(さぁ、どうくる……!!)
「あ、やっと来た!待ってたよー!」
全くの杞憂だった。
………………
「貴方がメイちゃんだよね?初めまして、アララギ博士の助手…見習いのベルです」
「よ、よろしくお願いします!それで此方が…」
「メイの兄です」
「お兄さん?服のせいかな?トウヤにそっくりだね!」
よろしく!とベルと握手を交わした所で気付く。自分がでしゃばらなければメイの口から兄の名前を聞けた事に。初めてのポケモンを渡されるイベントと生のベルにはしゃぎすぎた俺のバカと内心で自分を咎める。
「あの…ベルさん!ポケモンは…」
「おっと、そうだった!」
バッグのなかからプロモーションアニメで見たのと同じカプセルを取り出してスイッチをおすベル。プシュー!という音と共にカプセルの中が現れる。
ツタージャ、ポカブ、ミジュマルの三匹がそれぞれ入っているモンスターボール。画面越しに何度も見てきた光景を目の当たりにして感極まりそうになるがグッと堪える。その代わりと言っては何だがメイが俺の今の心境を代わりに語ってくれている。
「わぁあ…!!」
「この中に、貴方のパートナーになるポケモンが入ってます!やっぱりワクワクするよねぇ!」
「はいっ!」
「お兄さんも、そう思わない?」
「そうだな。やはりこの興奮は何にも変えられないものがあると思う。メイもその気持ちを大事にな?」
「うんっ!あ、あのっ!選んでいいですか!?」
「勿論!どーぞ!」
カプセルを手渡され、キラキラとした目でモンスターボールを見つめるメイ。年相応…よりは多少幼いがその反応はとても可愛らしく、ベルの頬が緩んでいる。母性的なものを燻られているのだろうか?
「どの子も可愛いなぁ…ねえお兄ちゃん、どの子がいいかな?」
「ん?そうだな…」
安定を図るならやはりミジュマル一択だろう。というかポケモンのストーリーは基本水タイプが安定する。その理由としてはあらゆるタイプに対応できるし、ジムリーダーの大半は水タイプと相性が普通or悪いタイプのポケモンを使ってることが多い。
BW2も同じで苦戦するのはライモン、セイガイハ、ソウリュウのジムリーダーくらいでそれさえ越えれば後はチャンピオンまでそんなに苦戦は強いられない。ツタージャだとセイガイハに有利は取れるけどそれまでの道のりは険しい事になるし、ポカブは……まあ、うん。お察しの通りでとんでもなくマゾい。有利をとれるのはヒオウギとヒウンくらいで後は殆ど弱点を突かれたり、攻撃が通らなかったりと踏んだり蹴ったりの難易度だ。
「…俺なら、ミジュマルだな」
「そうなの?じゃあミジュマルはお兄ちゃんのだね」
「「え?」」
「え?」
何の躊躇いもなくミジュマルの入ったモンスターボールを俺に手渡してきたメイに困惑する俺とベル。メイに至っては「え?何かおかしいの?」と俺達の反応に困惑しているが、多分俺達の方が正しいと思う。
提案した自分が悪いとはいえ、ストーリーを進めるのには最適のミジュマルをメイは譲ったのだ。
「メイ、お前な…」
「あ、勿論考えもなしに渡した訳じゃないよ?だって…バトルするのにお兄ちゃんのポケモンだったらこの子達が可哀想でしょ?」
「…成る程そういう事か」
確かにバトルする相手のポケモンがレベル100だったら話にならないし、秒で仕留められてポケモンがトラウマ抱えてしまうかもしれない。そういう考えで俺にミジュマルを渡したのかと理解して、引っ掛かる。
「って、俺とバトルするのか?」
「うん…初めては、お兄ちゃんがいいから」
「……」
カプセルを持って上目遣いで僅かに頬を染めてくるメイ。この妹如何わしい台詞を記念すべき初バトルに使いやがったと思った俺の方が如何わしい。エロゲのやりすぎがここで響いてくるとは。己の思考を恥ずべきと言われても何も言い返せないと肩を落とす。
ふと、視線をベルに向けると顔を両手で隠していた。
「…ベルさん、なんで顔隠してるんですか」
「ごめんね、尊い」
「尊い!?」
「うん、大丈夫…そうだよね、初めてのバトルは重要だもんね。ただのライバルじゃダメだもんね」
(…"ただのライバル"?)
「さ、メイちゃんはどの子を使うのかな?」
「じゃあ…ツタージャで」
((まぁ、そうなるな))
そりゃ譲った以上タイプが割れてるし有利属性選ぶわな普通…あれ?もしかして俺踏み台にされるんじゃないか?……まあ、初戦の勝ち負けは案外大事だしと思っているとメイが笑顔でツタージャを選んだ理由を語る。
「だって、一番可愛いから!」
「…そうか。大事にな?」
「えへへ…うんっ!」
(まってホントまってしんどい…尊い…)
可愛らしい理由につい頭を撫でてしまう。油断したら赤面してしまいそうで怖いが、それよりもバトル思考で疑って申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
後ろで手を合わせてるベルのキャラがなんか変なのはもう気にしないでおこう。というかホントにベルなのだろうかあの人。今更になって疑わしくなってきた。
「…妹だからって加減はしないからな?」
「うん。私も…負けないからね」
「威勢がいいな。流石俺の妹だ」
「えへへ…はっ!そ、その手には乗らないよ!?」
「……いや、今のは純粋に褒めたんだが」
(あーもーなんなのこの兄妹)
其々が距離を取って向かい合う様に立ってボールの待機状態を解除して構える。
何だかんだ言ってこの世界兼人生初のポケモンリアルファイトを経験する事にワクワクが止まらない。
(お兄ちゃん、嬉しそう…)
「さあメイ、初のポケモンバトルだ!俺から勝ちを奪い取って見せろ!」
「うんっ!」
「「いけっ!ツタージャ!/ミジュマル!」」
ボールを投げる。アニメで聴いた音が聞こえ、モンスターボールからポケモンが現れる。
この世界で初めてのバトルが、俺を待っていた。
「ツタージャ!体当たり!」
「ミジュマル、軌道は読めるか?」
「ミッジュゥ…」
「……なら、任せるぞ」
「ミジュゥ」
メイの簡単な指示に対して多少難解な指示をミジュマルに送る。任せとけと言わんばかりに返してきたミジュマルに任せ、向かってくるツタージャをどう対処するかをじっと観察することに。
「ミ、ジュ…!」
「タジャっ!?」
「ツタージャ!?」
「やるじゃないか、ミジュマル」
「ミジュ…」
背中でドヤ顔を語るミジュマルに若干腹が立ったがそこは我慢しよう。というかこのミジュマル鳴き声がやったらダンディなのだが。ホントにレベル5なのかと疑いたくなるが、流石にレベルは統一されているだろうと思って次の指示を出す。
「ミジュマル、鳴き声だ」
「ミッジュゥ……」
鳴き声。可愛く鳴いて対象の攻撃を一段下げる技なのだが…先程も言ったようにミジュマルの鳴き声がやたらダンディなのだ。そんなミジュマルが可愛く鳴くなんてしたらどうなるか?
…なんて事はない、トレーナー両者共に噴き出すのがオチだ。流石にミジュマルに悪いので俺は堪えたが、メイとツタージャは徐に顔を背けてヒクヒクと口が緩んでいる。
「……すまん俺が悪かった、はたいてくれ」
「つ、ツタージャ…受け流して…」
「タ、ジャー…」
「ミッジュ!?」
「っくく、笑っちゃダメ…笑っちゃダメ……」
ベルが必死に笑いを堪えているが隠しきれていない。さっきの尊い発言といい…ホントにベルなのかも怪しい。
…リスクが高いが聞いてみるのもありか?もし俺と同じ境遇の人なら…協力を促せるかもしれない。
因みに尊いという表現は現在のもので、2012年当時では尊いという表現は広まっていなかったどころか音沙汰もなかった。なのにベルは尊いという表現を用いた。
しかも"ただのライバル"という発言…まさか、ストーリーを知っている人だとしたら……俺と同じ?
「ミジュゥ!?」
「やった、当たったねツタージャ!」
「タジャタジャ!」
「あ、すまんミジュマル…」
考えすぎてミジュマルに指示がいかなかった。仰け反るミジュマルに謝ると「何て事はない。まだ続けるぞ」とアイコンタクトで伝えてきた。ベルといいダンディなミジュマルといい、微妙に違うのがもどかしい。
それはそうと初ヒットに喜ぶメイとツタージャが可愛いからまあいいかと思ってしまった。このまま負けるのもありかもしれないけどわざと負けるのはゴメンだ。
「もーメイちゃん…ほんと、尊い……」
(いやマジで"この人"誰だ…!?)
顔を押さえて天を見上げるベル?に疑問がやまない。
見た目はベルなのだが…どうも"中身がベルじゃない"気がする。というかその気しかしない。
俺と同じ憑依者なのか、或いは別の存在なのか…この対戦が終わったら問いただす必要がありそうだ。
その為にも…
「ミジュマル、決めろ!」
「ミジュマァル!!」
「ツタージャ!お兄ちゃんと"同じ"やり方を!」
「タジャ!」
俺と同じやり方。対人対戦であればミラー対面において愚策とも捉えられる相手の行動を真似する"直前"のコピー戦法。そんなの読まれるに決まってるから基本的にやらない方がいいのだが…とタカをくくり、勝利を確信した俺だったが…。
「鳴き声!」
「…何!?」
「たーじゃっ」
「ミ、ミジュゥ……」
可愛く鳴かれてすくむミジュマル。俺がとった"2つ前の"行動をとったメイに驚愕を隠せずに動揺する。
勢いの弱まったミジュマルの攻撃をツタージャは容易に耐え、大きく隙を晒すミジュマル。その隙を逃さなかったメイがトドメの追撃指示をツタージャに送る。
「今だよ!体当たりっ!」
「タジャァアッ!」
「ミィッジュゥッ!?」
「ミジュマル!」
勢いよく突撃されて吹き飛ばされるミジュマル。当たり所が悪かったのかそのまま目を回して延びてしまい、俺の負けが決まった瞬間を目の当たりにした。
「や、やった…勝った、勝ったあ!」
「負けたか…お疲れミジュマル」
「えへへ、初めてなのに勝てたよツタージャ!」
「タジャ、タージャ」
(…嬉しいのは分かるが目のやり場に困るな)
(公式よりおっきいのが揺れとる!揺れとるぞーッ!)
嬉しさが極まったのかぴょんぴょん跳び跳ねるメイ。それに連動してたゆんたゆんと揺れるおっぱい。
それをみた俺の感想としては初めて対戦で負けてよかったと思えた瞬間だった。勿論ガン見したら兄の評価を下げてしまいそうなのでチラ見程度にして視線を流すとベルがメイのおっぱいをガン見してた。
(…中身おっさんじゃないよな?)
「(おっといかん、お兄さんがこっち見てる…)初勝利だねメイちゃん!おめでとう!」
「ありがとうございます!」
「…まさか負けるとは。俺もまだまだ未熟だな」
「えへへ…お兄ちゃんのポケモンにも勝てるかな?」
「さて、どうだろうな?」
「むー…いじわる」
そんな簡単には俺の厳選したポケモンを越えさせはしない。メイのこれからの成長によっては越えられる場合もあるが…今はまだその時じゃないし、これからも越えさせる気はないが。
それはそうと…別の問題をまずは解消しなくては。ベルの正体が何なのか。とりあえずは一対一の対面状況を作り出さなくては。
「はー…もー……尊死しそう」
「…ベルさん、ちょっといいですか?」
「(やばっ)何かな?」
「メイ、新しいポケモンを母さんに見せてくるといい。きっと母さんも喜ぶ」
「お兄ちゃんは?」
「ああ、俺はベルさんに話があるからここに残る。メイが戻ってくる頃には終わらせておくよ」
「わかった。じゃあゆっくりの方がいいかな?」
「それはメイの匙加減に任せるよ」
「はーい!いこっ、ツタージャ」
「タジャ!」
ご機嫌で自宅に向かうメイ。ブラコンはブラコンでもヤンデレレベルのブラコンでは無いようで安心した。
そして残ったのは俺とベルさんのみ。この状況なら聞ける…とりあえず自分が兄であって兄では無いことを隠して話を進めよう。
「えっと、話って何かな?」
「……単刀直入に聞きます。あなた誰ですか?」
「誰って、やだなぁ…ベルだよぅ」
「…質問の内容を変えます。
「……もしかして、疑われてる?」
「ええ。ある知り合いに聞いたベルさんとは些か違う感じがしましたので」
その知り合いというのは言うまでもなく俺の事。知り合いというよりはストーリーを知っている人なのだが、こういう表現じゃないとスケープゴートを立て辛い。
因みにスケープゴートとして利用したのはチェレン。ヒオウギのジムリーダーでもあるし多少の関わりはあると予想して利用させてもらった。
「そっか。じゃあその人は私の一面を知らなかったってことだね」
「…尊いとか、よく分からない言葉を使う一面を?」
「うん。あと尊いとしか言えないのは語彙力が臨界点突破してワケわかんなくなってるからだよ」
知っとるわい。とは言わない。あくまでも知らないふりを徹底して此方のカードは明かさないようにする。
多分ベルも明かさないように立ち回っているのだろうけど尊いとか言ってるおかげで自分と同じ20XX年以降の人間だってことは把握できた。
後はこのベルが未来の人間なのか、それとも俺と同じ誰かが憑依した人間なのか…それ以外の"何か"なのか。
聞くのが若干怖じ気ついてしまいそうになるが意を決してベルにそのことを尋ねる。
「ベルさん、貴方は「お兄ちゃーん!」メイの奴…もう帰ってきたのか」
「みたいだね。じゃあこの話は今度…かな?」
「……嬉しそうですね」
「そう見えるのなら、間違いじゃないかも」
無邪気に笑っているベルに不信感を強める。その笑みの裏側で何を考えているのか分からない所がより質悪く見えてしまう。ぶっちゃけ今のベルにメイを近付けると今後ろくでもない事に巻き込まれそうで心配になる。
「お兄ちゃん、お待たせ…何話してたの?」
「それは…「旅の先輩である私にメイちゃんの旅を成功させるハウツーを聞いてたんだよ!ね?」…!?」
どういったものかと悩んでいると思いがけない助け船がベルから提示された。驚いてベルを見るとアイコンタクトで俺に何かを伝えてきた。
(ほら、合わせて!)
「…ああ。そうだ。お前の旅を成功させたいから、そのハウツーを教えてもらっていた」
「そうなんだ…私のためにありがとう、お兄ちゃん」
えへへと笑うメイにどういたしましてと頭を撫でる。
目を細めて嬉しそうに撫でられるメイに一瞬なごむも、すぐさまベルに疑問のアイコンタクトを送る。
(…どういうつもりですか)
(え?いや、尊いシーンを見たかっただけだよ?)
(………それだけ?)
(それだけ)
ホント、このベルは味方なのか敵なのか分からない。
助け船を出した理由がそんなどうでもいい理由であることに呆れながらも、メイに母の言葉がなんだったのかを尋ねると「頑張りなさいって!あとお兄ちゃんには…これを渡してって」と言って渡してきたのは一枚の手紙。メイから受け取った手紙の内容を黙読で読み上げる。
(何々…)
-確りメイを守ってやりなさい。あなたにメイの事は任せたわよ?PS.もしメイと禁断のアレをヤるならちゃんと最後まで責任持ちなさいよ?-
即座に破いて高台から見える湖に目掛けて全力投球。メイとベルがびっくりしているが気にしない。悪いのはPSに変なこと書き込んだ親が悪い。
というか親はさらっと近親相姦を認めるなと。もしメイがこれを見ていて本気にしたらどうするつもりだったんだろうか。
「な、何てかいてたの?」
「…お前を守れと書いてあったよ。言われなくてもそうするに決まっているのにな」
「お兄ちゃん…」
所謂雌の顔になるメイ。嬉しいのは分かるけどその顔はやめた方がいい。俺が賢者でなければ間違いなく路地裏コースに直行してしまうところだったからな。
その賢者モードになれた理由が第三者視点からこの光景をみてまた「尊い…」と言いながら手を合わせてるベルというのは非常に腹立たしく思えるが。このベルが知っているベルならそんなことは無かったのだろうけど知らないからこそ腹立たしく思えた。