アデク宅での一泊は充実した一泊だった。バンジロウの思いもよらない料理スキルと家事スキルの高さに俺は驚愕し、メイが見習いたいと言うほどバンジロウの主夫っぷりがすごく、絶対コイツはモテるタイプの人間だと確信した。
それから就寝時にはなんとメイが添い寝を要求してきた。曰く「心配させた罰」だそうだが…寧ろご褒美では?とお約束を考えて承諾し、メイと添い寝した。もしこれがあの映像の後でなかったら役得といってぐっすり眠れたのだろうけど…それよりも誓いの林でみたあの映像が気掛かりになっていた。
俺と何かが別の敵性存在に追われ、メイの重要な事実が映し出されたいつかの瞬間…
あの体験はBW2には無かったが、あれと似た現象をゲーム内のストーリーで起こした主人公を俺は知っている。BW2の5年前…2007年に発売された名作揃いのポケダンシリーズでも最高のシナリオだと言われたポケモン不思議のダンジョン時の探険隊、闇の探険隊の主人公が持っていた能力。
未来、過去に関与する物体に触れた際に頭痛と共に発現し、その場で起こった未来、または過去を映し出す能力…通称、時空の叫び。
その能力を何故自分が持っているのか、またあの映像は未来のモノで間違いないのかという兄について謎だらけの状態でメイとの添い寝に素直に喜べず、しかも考えすぎて全く眠れなかった。
要するに今物凄く眠い。今ならミジュマルの子守唄でも眠れそうだ。周りが大爆笑でそうはさせないだろうけど。
「お兄ちゃん…だ、大丈夫……?」
「…もし何処かで寝てたら叩き起こしてくれ」
「わ、わかった…引き摺るね」
「……いや、叩き起せばそれでいいから」
「でもお兄ちゃんを叩くなんて出来ないよ…」
(引き摺るのはいいのか…)
「おう、起きてたか!メシできてっからはやくこいよなー!」
「あ、はーい!お兄ちゃん、肩貸そうか…?」
「…頼む」
メイに肩を借りて、アデク宅のリビングへ向かう。その姿はまるで二日酔いの旦那を介護する嫁…いや飲んではいないのだが。
「…どした?」
「……メイとの添い寝を堪能してた」
「お、お兄ちゃん!?」
「あーハイハイごちそーさん…」
バンジロウが手をヒラヒラとさせて呆れている。因みにメイはバラされて恥ずかしくしている。多分昨日の時点でバンジロウもやるなと気付いてたと思うけど。
「それよりも、はやく食ってくれ!冷めちまったら不味くなるからな!ほら座った座った!」
催促されて其々適当な席に座る…メイがどこに座ったのかは言わなくても分かるだろうから割愛する。
テーブルには朝の定番ともいえる料理が並んでいて朝から食欲を刺激するラインナップばかり。
「「いただきます」」
「おう!沢山食ってくれよな!」
とりあえず目の前に置かれた料理に手をつけて口に運ぶ。美味い。昨日の夕飯でバンジロウの料理スキルは把握していたがそれでもやはり美味い。
ふと思ったが、ポケモンの世界の夕飯で出る肉類はやはりポケモンの肉なのだろうか?BWシリーズの前作、DPシリーズでは食卓に関する情報がミオの図書館にあったが…そうだとしたら何だか複雑な気持ちだ。
「お兄ちゃん?食べないの?」
「…いや、食材となったポケモンの事を考えてた」
「あー…まあ、分からないことはない。だからこそ食材になったポケモンには感謝をしながら残さず異に納める。それが食べる側の役目だと思うぞ?」
「………そうだな」
「だろ?分かったら食え食え!残したらおいらがとっちめてやるからな!」
まさかバンジロウに食材への感謝を説かれるとはと思ったがまさにその通りだと思い、止まっていた手を再び動かす。メイもその光景を見て微笑みながら料理を口に運んでいた。
………………
「「ごちそうさまでした」」
「おそまつさん!」
数分後、用意された朝食を全て平らげ感謝の気持ちを伝える。全て平らげた事にバンジロウもニッコリだった。食器片付けを手伝っていると、朝方にも関わらずインターホンが鳴り響く。
「俺がいこう」
「いや客人にでさせるわけにはいかねーだろ…食器はシンクに置いといてくれ。おいらが出るよ」
そう言ってバンジロウが玄関へ向かう。言われた通りに食器を運んでいるとすぐにバンジロウが戻ってきた。
「おーい、ベルってヤツがお前ら呼んでるぞ」
「ベルさんが?…また何で」
「何か渡し忘れたんだってよ。後はおいらがやっておくから行ってこいよ」
「分かった」
「ごめん、お兄ちゃん先に行ってて!」
「ああ。ゆっくりでいいからな?」
メイの返事を背に一人で玄関へ向かう。そこにはバンジロウが言った通りベルが立っていて、何も見ていないはずなのにまた顔を手で覆って天井を仰いでいた。
「髪下ろしたメイちゃんくっそ可愛いんだろーなー…あ、やばい想像しただけで尊い」
「…聞こえてますよ」
「え?ああ君はいいの。メイちゃんには聞こえてないならそれでよし」
「……もう俺に隠す気ないでしょ?」
「隠したところでまた疑う人に隠すメリットある?」
「ない、ですけど」
「じゃーもう良いかなって。勿論私がベルなのか、って質問にはノーコメントだけど!」
「…それ自分から怪しいって公言してるようなもんですよ。そんな人にメイを近付けるとでも?」
警戒心むき出しにしてベルを睨み付ける。が、ベルは表情を崩すことなく笑顔のまま。その余裕綽々の表情が寝不足の状態と合わさって苛々を加速させる。
しかし、その苛々もベルから放たれた一言で一気に掻き消える事になった。
「時空の叫び、発現したんだって?」
「……!?」
「その反応はイエスと捉えるね。どうだった?」
「…何で、時空の叫びを」
「質問を質問で返すのは感心しないなぁ…でも分かったことがあるから許してあげるね!」
「……分かったこと?」
「キミが"お兄さんであってお兄さんでない"事」
「!!」
そこでやっと自分の犯したミスに気付く。ベルの問いについ乗ってしまって"名称を知らなくて当然な筈の"時空の叫びに反応してしまった。
「あ、大丈夫だよ?別にメイちゃんにバラそうと思ってないから!」
「…弱味を握って、言いなりにしようと?」
「もーそんなのじゃないよー!それに、私はキミの味方なんだからね?……ま、説得力ないけど!」
「じゃあ何が目的なんですか」
「え?いやメイちゃんに渡し忘れたポケモン図鑑渡しに来ただけだけど?じゃあこれ、渡しといてね!」
そう言って押し付けるように渡してきたポケモン図鑑。本当なら本物のポケモン図鑑に心を踊らせる所なのだろうけどもベルの見えない人物像に身構えてしまいそれどころではない。
「メイに会わないんですか」
「次のお楽しみに取っとくよ!今はキミの事も分かったからもうそれでいいかなって!」
「……貴方は、貴方は何者なんだ」
「前にも言ったよ?」
私はベルだって。
「それじゃーね!」
笑顔を崩すことなく自分が何者なのかを答えたベルに悪寒が走り、ベルがアデク宅を後にした瞬間張り詰めた空気に耐えられず床に座り込んでしまった。
なぜベルが時空の叫びを知っているのか、そしてベルが敵ではないという発言にどこから時空の叫びが発現した事が漏れたのか…謎しかないベルにより一層の警戒を覚えてしまう。
「お兄ちゃんお待たせ…どうしたの?」
「……眠くなってた。それよりも、ほら」
「え、これ…って」
「ポケモン図鑑だ。渡し忘れたから渡しておいてくれとベルさんから」
「そういえば、貰ってなかったかも…じゃあ今度会ったときにはお礼を言わなきゃ!」
「……だな」
最も次に会うときは細心の注意を払うことになるがと内心で思いながらも、大事そうにポケモン図鑑を持つメイに張り詰めた精神を和まされる俺だった。
………………
「順調順調…いや順調過ぎるかな?」
アデク宅を後にし、メイちゃんのお兄さんが時空の叫びを発現したことに気を良くしながら次の目的地へ歩く。こうも上手く行ってくれたのは嬉しい事だ。
しかし不可解な事もある。時空の叫びの発動条件は"信頼できるポケモンがそばにいる"ということが探険隊シリーズでは絶対条件だった。
「…あ、そういうことか」
少し考えれば分かることだった。お兄さんのポケモンはお兄さんの中の人が作ったポケモンなのだから、絶対条件は普通に成立してた。いかんいかん、メイちゃんがお兄さんを心配する姿を想像してしまって思考がそっちにいってしまっていた。反省反省。
「この調子でいけば…うん、間に合いそう」
メイちゃんのお兄さんには滅茶苦茶警戒されてるけども、上手くいけばメイちゃんとお兄さんを分離させた状態に"持っていける"。まあ確実に敵視されるかもだけど…そこは仕方ないと割り切ろう。私の推しはあくまでもメイちゃんだし。
それにヒウンのあのイベントは"してやられてる"からタチワキを越えたばかりのメイちゃんでは足手まといになるし、どうしてもお兄さんと私の共同戦線が必要になってしまった。ポケモン図鑑の渡し忘れがなければどうにかできたけど、こればっかりは私のミスだし仕方ない。
うんうん、と頷いているとライブキャスターが着信を拾う。相手は…アララギ博士。
「ハーイ!ベル、図鑑は渡した?」
「勿論ですよ!…忘れたの私ですけど」
「渡せたのならそれに関しては何も言いません」
「あ、ありがとうございます…そうだ、実はヒウンシティのある区画にですね、イーブイが生息してるみたいなんですよ!」
「イーブイが?ベル、広い場所ではあるんだけど…そのヒウンの調査お願いできる?」
「もっちろんです!寧ろさせてください!」
「そこまで意気込んでるならお願いするわ。レポート、期待してるわね?」
「はーい!あ、でも今サンギタウンだからちょっと長くなりそうですけど……いいですか?」
「オーケー!そこは気にしないでいいわよ!」
ライブキャスターの通話が切れた。よし、これでヒウンに滞在する理由は出来たから時間に関してはクリア。
後はメイちゃん達が如何に速くヒウンに辿り着いてくれるかがキーポイントとなる。まあお兄さんがいるし大丈夫だろう…タチワキのジムリーダーはホミホミのままだし対策は容易に立てられる筈。
「はぁ…この役割、やっぱり忙しいなぁ」
でもまあ、尊いメイちゃんを見れるからいいのけど。あんなに可愛いのにアレって残酷すぎるなぁとつくづく思う。だからこそ本来居ても居なくても良かったお兄さんが此処に呼ばれた訳だけど。
「どんな活躍をするのか期待してるからね…お兄さんの中の人?」
答えられることのない期待をお兄さんに向けて私は次の仕込みをするためにヒウンへと向かう。
メイちゃんのこれからはお兄さんの先導によって決まるし、時空の叫びというチートスキルを貰えたのだから是非ともバッドエンドは回避してほしい。
正直、もうこの役割が何度目かもわからないし。
……………
「こっから道なりにいけばサンギ牧場だ」
「ああ。色々ありがとう」
「気にすんなって、礼はバトルでいいからな」
「…この旅が終わったらでいいか?」
「いつ終わるかわかんねーだろ…ま、いいけどな」
それじゃ元気でやれよー、とバンジロウに送り出される。ベルの事は気掛かりのままだけども今は保留にして、本来の目的であるメイの戦力増強としてサンギ牧場へ向かうことに。
「メリープってどんなポケモンなの?」
「ん?ああ…そうだな、モコモコだ」
「モコモコ……」
説明を聞いたメイが手でモコモコを表現する。その姿が可愛らしくて頬が緩んでしまい、あわてて口を隠す。
「お兄ちゃん?」
「……いや、なんでもない。因みにメリープのモコモコは静電気を帯びてるから触れると痺れるぞ」
「えっ…そうなんだ…」
見るからに気落ちするメイ。一応ゴム手袋つければ触れないこともないが、コレじゃない感で違和感しかわかないだろう。因みに静電気がたまるとモコモコは二倍に膨れ上がり、触れただけで感電するという意外と危険な一面も。
「まぁそのあたりのケアは牧場の人がやっているだろうから、多分触れることはできると思うよ」
「ほんと?…モコモコ……!」
(分かりやすいなオイ)
「お兄ちゃん、はやくいこっ!」
「分かった分かっ…うぉっ!?」
より一層会いたいという気持ちが強くなったのか、俺の手を引いて走り出すメイ。あまりにも力強く引っ張られたのもあって変な声が出てしまった。よく千切れなかったな兄の腕。慣れてるのか?…慣れてるんだろうなぁ。
メイの怪力に耐えていた兄に同情と尊敬をしながらされるがまま、メイに引っ張られてサンギ牧場へと辿り着いた。サンギタウンについてからこんなことばっかだ。
………………
「ミィッジュジュジュジュ……」
「ミジュマル、お前電気タイプ弱点だろ…」
「ミ、ジュ、ジュゥ…」
「耐える俺カッケーと思ってるかもしれないが、どっちかというとアホかって感想が出てきたぞ」
「ミジュゥ!?」
サンギ牧場につくなりいきなりミジュマルがボールから出て来てメリープ相手に突っ込んでいき、予想通りメリープの特性である静電気に引っ掛かってマヒした。
なお、メイとツタージャはというと…
「わぁ…モコモコだぁ……!」
「タジャ~…」
「?」
メリープのモコモコに癒されていた。やはりケアはしていてくれたようで触ってもそんなに痺れないメリープをつれてきて触らせてもらっていた。メリープも嫌ではないのか、モコモコに触れるメイとツタージャに首を傾げているが逃げようとはしない。
「ありがとうございます、妹の為に…」
「いいのいいの!…それよりキミのミジュマル大丈夫?大分痺れてるみたいだけど」
「いいんです。自業自得ですから」
「ミ、ジュミージュ……!」
「本人はまだやれるそうですしね…折角ですし、他のポケモンも出していいですか?」
「勿論!」
「ありがとうございます…皆、出番だぞ!」
連れてきたポケモン達が入ったボールを投げて相棒達を呼び出した。グレイシア以外は確認してなかったし、その確認も兼ねての顔合わせ。
「グルルゥ」
「きゅー!」
「クェエェェェェェ!!!!」
(ウォーグルだけうるせえ!)
眠そうに欠伸をするガブリアスと出てきた瞬間俺の脛をすりすりするグレイシアにやたら雄叫びがうるさいウォーグル…ウォーグルだけやけにクセが強い。
で、やっぱりミジュマルは俺のポケモンに反応してガブリアスに攻撃を仕掛けるが、ガブリアスはというと「グルゥ?」と「何してんだコイツ」という感じで全くダメージを感じていなかった。
「きゅーん?」
「ああ、新しい仲間のミジュマルだ」
「グルルっ!」
「ミジュゥ……!」
「クェッ、クェエェェ!!!!」
「ウォーグル、少しボリューム下げてくれ……メリープが怯えてる」
「クェッ」
ゲームの性格と全く違うウォーグルは兎も角、ガブリアスとグレイシアは変な点がなくて良かった。これならミジュマルとも仲良くやれそうだ…ミジュマルが決闘を挑まなければ、だけど。
ミジュマルの攻撃をじゃれあいと勘違いして遊んでるガブリアスに苦笑していると、サンギ牧場のブリーダーが頭を抱えながら此方へやってくる。
「うーん、おかしいな……」
「どうかしたんですか?」
「あ、いやね…メリープの数が足りないんだ」
「数が足りない…?何頭足りないんですか?」
「うーん、二頭ほどかな…」
そして予想通りここでBW2初のプラズマ団残党との遭遇イベントが開始された。メリープの数が一頭多いのは気にしないでおくとして、ここでこなしておく手はないので捜索の手伝いを申し出る。
「分かりました、俺が探してきますよ」
「え、いいのかい?」
「ええ。触れあわせてもらってるお礼です」
「助かるよ、ありがとう!もしかしたら数え間違いかもしれないから此方でももう一度数えておくよ」
「了解です。ウォーグル、上空から牧場内のはぐれたメリープを捜索してくれ」
「クェッ」
指示を出した途端物凄い速さで上昇していったウォーグル。あまりの速さに一瞬呆気に取られてしまったが、気を取り直して残りのポケモンに指示を送る。
「ガブリアス、グレイシアは俺と一緒に」
「グルゥ!」
「きゅっ!」
「ミジュマルはメイの護衛を頼む」
「ミジュゥ…!」
「よし、行くか……!」
それぞれに役割を告げて行動を開始する。プラズマ団もきっと容赦のない組織になっていると予想してメイは人目のつく場所に置いていくことに。
場所はサンギ牧場の林の中であることは間違いないので迷わず林の中へ向かう。
(やっぱり視界が悪いか…)
ゲームとは視点が違うからというのもあるが、やはり薄暗く感じる。まだ昼前だというのにこの暗さだと誰も寄り付こうとしないだろう。そりゃプラズマ団も迷うわけだと勝手に納得する。
声を出して探すのが一番なのだろうけど、迷子ではなく盗まれたポケモンだから下手に声を出して潜伏位置を変えられたらたまったもんじゃないので草木を掻き分けながら静かに探す。
(しかし二頭だったっけ…盗まれたのって。まさか両手に抱えてここまで逃げてきたとか?)
だとしたら相当シュールな図だ。黒服が両脇にメリープ抱えて林へ走る姿……なんかプラズマ団のイメージでマヌケっぽい姿を想像してしまって笑いそうになり、ぐっと堪えていると空からウォーグルが降り立ってくる。
「ウォーグル、見つかったのか?」
「クェ!」
肯定するように一鳴きするウォーグル。案内してくれと頼むと頷いて再び俺にも見えやすいように空を飛び、メリープのいる場所へと誘導してくれた。
………………
「モコモコ……あれ?」
メリープに夢中になっていたらお兄ちゃんの姿を見失っていた。何処だろうと探していると、お兄ちゃんのミジュマルがやって来てツタージャとじゃれあう。
「ミジュマル、お兄ちゃんは?」
「ミジュ…?ミジュ、ミージュ…」
「…えっと、気にするなってこと?」
「ミジュ」
「ターッ!タジャーッ!」
「ミッジュッジュゥ……!」
「ふふ、もう…仲良いんだか悪いんだか」
そういえば、と思い出す。小さい頃にも一度、お兄ちゃんと遊んでいたときに私がお兄ちゃんを驚かそうと隠れていたら寝ちゃって、起きた時にはもう夜で…寂しくなった私はその場で泣いちゃってで…その時はお兄ちゃんのウォーグルが私を見つけてくれたのか、お兄ちゃんとお兄ちゃんのポケモンがやって来て迎えに来てくれたっけ。
(懐かしいな…)
そう、あんな風にウォーグルが飛んで…え?
「あれ…お兄ちゃんのウォーグル……?」
サンギ牧場の林を旋回しているウォーグル。お兄ちゃんが教えてくれた通りならば、この周辺にはウォーグルは生息していない筈だから、あのウォーグルは多分お兄ちゃんのウォーグルだ。
「(何であんなところに…)ツタージャ?」
「タジャーッ!」
「ミジュ!!」
「ンメリィィィィィップ!!!」
「ミィッジュジュジュジュ!!!!?」
「え、えっと…お兄ちゃんを探しにいこっか?」
「タジャッ!」
怒ったメリープに気絶させられたミジュマルを牧場の管理人さんに預け、ウォーグルを目印に私とツタージャはサンギ牧場の林へ足を踏み入れた。同じ場所をずっとぐるぐるしてるから多分お兄ちゃんはあそこにいる筈。
………………
ウォーグルの指示する場所へ向かうと、ゲームのシナリオ通りメリープと盗んだ犯人……プラズマ団の残党がいた。二匹いるということはやはり両脇に挟む感じで盗み出したのだろうかと思い、つい吹き出してしまった。
それで場所が割れてしまい、俺のいる方向を振り向く。
「み、見つけたぞメリープ泥棒…くくっ」
「何で笑ってんだよ!?」
「いや…すまない。仕事を笑うのはダメだと分かっているのだが……アンタがどうやってここまで来たかを考えると我慢できなくて…な」
「いやしょーがねーだろ!?大体持つだけで痺れるってなんだよ!ケアはちゃんとしろっての!!」
「いや、ケアする前に盗み出したのでは…」
「………………」
「………………」
「メェ?」
考えたらわかる指摘に黙るプラズマ団とそれにつられて黙る俺。被害ポケモンのメリープは首を傾げる。
「バレては仕方ない!お前には悪いが忘れてもらうぜ!プラーズマー!!」
「(はぐらかした…)メリープは返してもらう。なんの恨みもないが…倒させてもらう!」
仕切り直しを図ったプラズマ団に乗って此方も何事も無かったかのように話を進めて交戦の構えを取るが、後ろからも人の気配を感じ、振り向くとそこには二人目のプラズマ団残党が俺の逃げ場を塞ぐように立っていた。
「加勢するぜ!」
「なっ、二人!?」
「一人だって誰もいってねーだろ!」
「挟み撃ちだ、覚悟しろよ…!?」
(やっぱり二頭を一人はキツかったのか…まあ二人なら何とか対処はできるか…!)
「だったら、此方も二人だよ!」
「「「は?」」」
聞こえる筈のない四人目の声にプラズマ団と声を合わせてしまう。声の先にはツタージャを肩に乗せたメイが仁王立ちでプラズマ団その2の背後にたっていた。
「メイ!?ミジュマルはどうした!?」
「えっと…メリープに気絶させられたから、管理人さんに預けてきたよ」
「あんの無鉄砲…」
管理人の所で延びているであろうミジュマルに呆れてものも言えなくなる。やはりミジュマルにはまだ荷が重かったようだ。メイが此方へ来たのは誤算だが不幸中の幸いで2対2…ならやることはひとつだった。
「メイ、俺は目の前の男を倒すからお前はそいつの相手を……できるか?」
「大丈夫、やれるよ!」
「…なら、任せるぞ!」
「うん!!」
「子供であろうと容赦はしない!プラーズマー!!」
誤算から生じた兄妹で初めてのタッグバトルの幕が今開こうとしていた。そしてこのバトルを経て、俺は改めて知ることになる。
メイがキーパーソンと呼ばれた理由、その末端を。
………一方その頃、ミジュマルは………
「ミィッジュジュ……」
「電気タイプに挑む勇気は認めるけど、ちゃんと相手は選ばないといけないよ?」
サンギ牧場の管理人から麻痺直しと傷薬の治療を受けていたそうだ。尚俺が戻るまで本来の役目をすっぽかして何度も何度もメリープにケンカを売っていた事を引き取った時に教えられること、そしてその果てに待っていた結果を、俺はその時知るよしもなかった。