溜め息をついてから暫くして…足が痺れ感覚が麻痺してきた頃にメイがやっと起きた。
おきた頃には既に日が暮れ始めていたので今日の宿はどうしようかと二人で相談していたら、メリープを取り戻してくれたお礼として牧場の管理人さんがサンギ牧場のペンションをなんと無償で一晩貸してくれるという提案をしてくれた。その上報酬金として大体お坊っちゃまトレーナー五人分くらいの金額まで。
流石にこれは気が引けたが、メリープが帰ってきた事に比べると全く苦にはならないと言われ、それでもと引き下がらない俺に半ば押し付ける形で渡してくれた。
「大金貰っちゃったね…」
「ああ。人のこと言えない気もするが、彼処まで頑固だとは思わなかった…」
「それほどメリープが大事なんだね、管理人さん」
「だな…じゃなきゃ宿の無償提供に報酬金もプラスとか絶対に考えられない」
ともあれ、貰ったからには旅の資金として有効活用させてもらおう……そういえば、俺のゲームに記録されていたおこづかいはどうなってるのだろうか。確かボール補充にしか使っていなかったから相当額あった筈。
……今思うと、十代前半の子供が数百万もの大金を持ち歩いてるって中々危ない気が。というか盗まれてもおかしくないし、HGSSのお母さんにお金を預かってもらうシステムって割と画期的だったのではと気付く。預けてるお金を勝手に使われるのは別として。
(ヒオウギに戻ったら確認だな…)
やるべき事が増え、ついでにその時にでもトレーナーカードの所在を訊ねようと決めたところでその日を終える。就寝時にまたメイが添い寝を所望したが流石に二日連続は俺の理性の問題で無理だと判断したので一緒の部屋で寝ることだけを承認した。
………………
翌日、やはりメイは俺の布団に侵入していた。おかげで朝から冷や汗を流すことになった。一応どちらも服を着ていたので既成事実は起きていないようだ。
安堵したところでメイを起こして、朝食を済ませているとペンションの戸を叩く音が。朝からなんだと思いながら戸を開けると、そこにいたのはバンジロウだった。
「…どうした、こんな朝から」
「起きてたな、んじゃバトルしろ!」
「いや…旅が終わったらと約束しただろう」
呆れながらやらない意思を伝えると「いつか分からんしその時お前忘れてるだろ」と最もな意見を俺にぶつけ、確かにそれもそうかと自分で納得してしまった。
「だからよー、じいちゃんに挑む前においらと戦え!もし勝ったらじいちゃんの情報教えるぜ?」
「む…」
それは欲しい。一番目のジムリーダーとなったアデクが駆使するのは何タイプなのか。それを知っているだけでもアドバンテージを取れるし、メイにもそれを共有してやることで攻略の糸口を見つけ出してもらえる。報酬としては申し分ないどころか、寧ろありがたいのでバンジロウの申し出を断る理由はなかった。
「…分かった。そのバトル受けよう」
「っしゃあ!んじゃ早速表でやろうぜ!」
「許可は取ってるのか?」
「ったりめぇよ!」
朝から眩しいくらいの笑顔でサムズアップを見せるバンジロウに準備すると伝えて寝室に戻り、俺のレギュラーメンバーの入ったボールを腰のホルダーにつける。
途中メイが様子を見てどうしたのかと訊ねてきたので玄関での内容を伝えると頑張ってと応援してくれた。それを見てメイは挑まないのかな?と思ったが、自分の実力を把握しているからこそ敢えて送り出す選択をしたのだろうと自己解釈して尚更負けられないとやる気を出す。
「待たせたな」
「気にしてねぇから大丈夫だ!」
「対戦のルールは?」
「んー…6350見せ合いなしで」
「了解」
バンジロウとルールを確認し、承認。彼の口から6350というワードが出たのは驚いたが、ルールの意味は分かっているようなので気にしない。
6350というのはシングルバトルの"6体から3体選出し、レベル50フラットで戦う"という意味で数字を取って6350と略され、所謂廃人用語の一つだ。大体この数字だとシングルルールに相当されるので両者ともに意味がわかっているとそれだけで選出に入る。
(…見せ合いなしで助かったなホント。此方は6350じゃなくて4350だし一体は技のバリエーションの問題で使うわけにもいかないので実質固定だったから対策を取られずに済む)
対して此方はバンジロウの手持ち5体は把握済み。内4体はグレイシアとの相性が最悪で此方の有利がとれる。唯一タイプ負けするウルガモスもガブリアスかウォーグルで対応可能。実質勝ちと考えてもいいが…あくまでもこれは"ゲームの"バンジロウが持っていたポケモン。
此方のバンジロウが全く同じとは考えづらいが、出すポケモンが固定な以上賭けるしかない。
(先発グレイシア、次点ウォーグル、抑えガブリアスだな…グレイシアでどこまで削れるかが勝利のカギだ)
「そっちは準備できたかー?」
「何時でも構わない!」
「おっしゃ、じゃあやるか!」
「…勝つ!」
「それは…おいらの台詞だ!」
お互いにボールを投げ合い、青空の下で試合が始まる。バンジロウが出したのはガブリアス。対面としては最高の対面状況を作り出せた。
威嚇するガブリアスに負けじと対抗するグレイシア。その後ろで初手をどうするかを考える。
(初手対面は此方がイチニアシブ取れたが、間違いなくバンジロウは交代するだろうな…妥当な点でいけばウルガモス安定だが…此方がそれを読んでいると考えて敢えて居残り剣の舞でも積まれたら一貫の終わりだ。次ターンでバカみたいな逆鱗をぶちかまされて終わる!……イチバチで居残り吹雪だな)
(対面最悪だなオイ!ここは変えるべきか?…いや、多分アイツ交代読みで交代を考えてるかもしれねえ。ここは博打打って剣の舞を指示……ダメだ!グレイシアの吹雪一発で落ちるリスクを考えるとここでガブリアスを失うのはでかすぎる。かといって後ろのウルガモスを出せば有利は取れるが…仕方ない、これでいくか…!)
「グレイシア、吹雪!」
「ガブリアス交代!カイリュー!」
(ガモスじゃなくてカイリューかよ…!対面不利なのにコイツ出したってことはガモスはゲーム通り襷持ちってことか?まぁカイリューは落とせるからよしとするか…!)
入れ替えで現れたカイリューがグレイシアの吹雪を受け止める。相性の関係でダメージ効果四倍で本来なら一撃余裕だがギリギリで耐えられた。予想はできていたがいざ落とせなかったらそれはそれで悔しい。
カイリューの特性である"マルチスケイル"は体力満タンの時にダメージを受けると一度だけそのダメージを半減するもの。当時対戦にてマルチスケイルのカイリューがよくでたという事でプレイヤーからは「マルスケデブ」という愛称とも蔑称とも取られる呼び名で知れ渡った。因みにこの特性を持つのはカイリューとルギアだけという割とレアな特性でもある。
それはそうとこのカイリュー、四倍タイプ一致の吹雪を耐えたということはそこまで攻撃力は高くないとみた。
(あっぶねぇ…居残り剣の舞してたら落とされてた!カイリューいれといて正解だったな…耐えたのは想定外だけど、多分アイツのグレイシア先制技積んでてもおかしくねぇ…カイリューには悪いがここまでか。死に出しでウルガ……いや、ガブリアスだな)
(カイリュー耐えるのかよ…まぁ氷の礫で落とせそうだから遠慮なく落とさせてもらおう。多分バンジロウも死に出しガモスを予定してんだろ)
「グレイシア、氷の礫!」
「きゅうっ!」
「リュ…ゥ!」
グレイシアの先制で倒れるカイリュー。これで3-2の相手サイクルは崩せたけども、バンジロウは敢えてそれを選択したのだろう。とすれば相手はカイリューがいなくともガブリアスとウルガモスで突破できる要素はあるという事かと解釈し、より気が引き締まる。
カイリューを戻して次のポケモンを出すバンジロウ。繰り出したのは…ウルガモスではなく、グレイシアとは対面不利なガブリアス。
(ガブリアス出してくるのかよ!?ってことは、ガモスで3タテする気か試合を諦めたか……まあバンジロウの性格を考えると間違いなく前者だろなコイツ…そういうことなら遠慮なく落とさせてもらおうじゃないか)
(さて、ガブリアスを出したから間違いなくアイツはグレイシアで落とそうと考えてる…そこにカウンターを入れてやる!…というかよく考えたらガブリアスならグレイシアの上とれるんじゃ……朝だから頭回ってねえんだろうなぁ…)
「グレイシア、吹雪!」
「きゅあー!!」
「ぐぁる…ゥ!!」
(倒れない!?ってことは……襷か!?)
「ストーンエッジ!」
「グルォォッ!!」
「きゅぅうっ!!」
「グレイシアッ!!」
落ちるはずのガブリアスが「気合いの襷」の効果で落ちず、カウンターのストーンエッジがグレイシアを撃ち上げる。タイプ不一致とはいえガチポケ筆頭のガブリアスが繰り出す技は殆ど即死級。確りと捉えられた一撃はグレイシアの意識刈り取るには十分すぎる一撃だった。
「きゅー……」
「戻ってくれグレイシア…頼むぞ、ウォーグル!」
「クゥオェアァァァァァァァァ!!!!」
((うるせえ!))
「グルォォアァァァァッ!!」
((対抗しなくていい!))
威嚇なのかグレイシアを倒したことへの怒りなのか出てくるなり喧しく叫ぶウォーグルと対抗するガブリアス。此処が住宅街とかじゃなくて良かったと心底思った。
(ウォーグルはなにも考えずにタイプ一致ブレイブバードでいいな。今ならそのまま持っていける…!)
(十中八九ブレイブバードが飛んでくるな。といってもこのままやられるつもりもない!ガブリアス、お前もそうだよな!)
「ブレイブバード!!」
「クゥオェェエェェェェェイ!!」
やっぱり喧しく鳴きながら十八番のブレイブバードでガブリアスに向かっていくウォーグル。ガブリアスの体力はほぼゼロ。反動も最小限に抑えた状態でウルガモスとの対面を迎えることに内心安堵していた…が、その考えは甘いと思い知らされる。
あくまでも想定した状況は"ゲームのルールなら"そうなるもので"ゲームじゃない"この世界では、そのルールは通用しないとバンジロウの指示で知る。
「死なば諸とも!受け止めてストーンエッジ!」
「何だと!?」
「グル…ァアッ!!!」
「クォエッシャァ!?」
「ウォーグル!!」
「ガブリアス…ナイスファイトだったぜ!」
「グル…ルゥ……」
自身も巻き込む形でストーンエッジをウォーグルに撃ち込み、そのまま共倒れになる。
これでお互い残り一体。なるべく避けたかった状況に無理矢理持っていかれたのは悔しいが、タイプ相性的に未だ此方にイチニアシブはある。
「敵を取るぞ、ガブリアス!!」
「げっ、そっちも持ってたか…だからって降参はしねぇけどな!決めるぜウルガモス!!」
「グァルゥウゥッ!!」
「ぷぴぃぃぃっぷ!!」
昨日見せた眠そうな雰囲気は何処へやら。雄々しく鳴いて仲間の敵を取らんと目の前の敵に闘争心を燃やすガブリアス。対するウルガモスも闘争心を燃やしており、メラメラと6枚の羽が燃えているようにも見える。
タイプ相性は此方の勝ち、しかし相手の道具が分からない。襷と思ってたらガブリアスがそれだったし、カイリューは直ぐに落としたから何を持っていたか分からない。候補としては命の珠か、岩四倍を軽減するヨロギ。
(技構成は多分バレてるだろうな…エッジ飛ばしたいところだけど……今だと外しそうだ。エッジだし)
(タイプ相性は最悪、あのガブリアスの技構成は恐らくおいらのガブリアスとほぼ同じだろうけど…エッジは来ないだろうな。このタイミングだと被弾はない確率の方が高い。エッジだからな)
本当ならストーンエッジをうって即試合終了にしたいが、ワロストーンエッジの別名を持ってるコイツならきっと外れる。もしこの状況に論者の友人が陥ってたら「んんwww必然力でカバーですぞwwwww」といって迷わずストーンエッジをぶちかますのだろうけど俺はそこまで勇敢じゃない。
「剣の舞!」
「蝶の舞!」
お互いにステータスを上昇させる技を行わせる。バンジロウもストーンエッジは無いと思ったのか外すと思ってやったのだろう。良かった撃たなくて。撃ってたほうが正解だったのだろうけど、こういう状況で外しまくるストーンエッジを経験しているのもあって怖じ気ついてしまった。
(このターンだな…)
(この一撃で決まる…!)
ガブリアスもこの一撃に掛かっていることが分かっているのか、俺を見て小さく頷いた。
「決めるぞガブリアス…!!」
「ウルガモス、任せたぜ!」
「グァオォォッ!!」
「ぷぴぃぃぃっ!!」
「ガブリアス!」
「ウルガモス!」
「「決めろ!!」」
その声と共にお互いへ立ち向かう二匹。俺とバンジロウはその結末をじっと見守っていた。其々が其々のポケモンが勝つと信じて。
……………
「はぁ…」
「っしゃ、おいらの勝ちだな!」
ガッツポーズをするバンジロウと落ち込む俺。結果からいうと試合に負けてしまった。敗因は「道具を持ってる」と思い込んでしまったこと。
なんとゲームで持っていた道具は丸ごと没収されていて、それに気付かないままガブリアスなら襷で耐えて落とせるタカを括っていた結果である。ようするに慢心してしまったのが俺の最もたる敗因だ。道具を持っていると思い込んだのは二の次として。
「ホレ、ポケモン回復してやるよ!」
「ああ…ありがとう」
「しっかしまさか道具なしでおいらをここまで追い込むとはなぁ…ガブリアスが襷もってたらおいらの負けだったぜ?」
「俺もそう確信したんだけどな…持ち物の確認はちゃんとしないといけないな」
「だな!ほい、回復完了っと」
ポケモンを手渡されてホルダーにしまっていると、メイがペンションからツタージャを抱えて出てきた。ツタージャの手には紙パックのモーモーミルクが。
「二人ともお疲れ様!」
「タジャ!」
「おお、サンキューな!」
「ありがとう…何処にあったんだこれ?」
「冷蔵庫に入ってたよ?」
(あれ?俺が見たときはそんなの無かった気が…あ、知らない方が良いことなのかもしれない)
「?」
少し青冷める俺に首をかしげるメイ。モーモーミルクは普通に美味しく、元いた牛乳とはまた違った新鮮な味わいをしていた。野菜類もそうだけどこの世界の食材は美味なものから変わったものが多いなと痛感する。
(ポケモンの世界の食というものにハマりそう)
「それで、どっちが勝ったの?」
「おいらだ!」
「…残念ながら」
「ええっ!?お兄ちゃん負けちゃったんだ…」
「ああ…悔しいが」
「まぁ、おいらは道具ありだったがお前の兄は道具なしのハンデ積んでたからな。無自覚で」
「なんだ、それなら仕方ないよね」
「……それだと道具ありならおいら負けてたって言い方だな。実際そーだけどさ」
「勿論!だってお兄ちゃんは最強だもん!」
えっへん!と胸を張るメイ。ツタージャを抱えているから腰に手は当てられないがその代わりにツタージャがメイの代わりに腰に手を当ててメイの真似事をしていた。負けて荒んだ心には丁度よい清涼剤だ。
「んじゃ、おいらは楽しめたしこれで…じゃねーや、メイに渡すもんあったの忘れてた!」
「私に?」
「おう!というかそっちが本題だな!」
「俺とのバトルがしたくて忘れるってお前…」
「い、いいじゃねーか!それよりも!ホレ!」
そう言ってメイに差し出されたのはモンスターボール。もしかして白の樹道と黒の摩天楼クリア後にもらえる色違いのフカマルかミニリュウのイベントかと思っているとメイがボールの中身を尋ねた。
「そん中にはフカマルが入ってる!」
「フカマル?」
「ガブリアスの2進化前だな」
「その通り。チェレン?ってヤツから預かってたの昨日思い出してな。で渡しに来たって流れだ!」
「チェレン…だって?」
「その人って二年前の英雄の…!」
「あー…確かそんな名前だったな、英雄」
興味がなかったからか、そういえばみたいな形で納得するバンジロウ。彼の発言からするとチェレンはメイが旅立つということを知っていた事になる。
いや、先輩なんだから知っていて当然か?でもそれなら態々ジムリーダーをアデクに変えたり、バンジロウにフカマルを預けさせるという遠回りな事は俺の知っているチェレンなら億劫に感じてやろうとしない。
(…ダーメだ、憶測だけでしか考えられない現状で決め付けるのはよくないよな。まだ会ってすらいないし……メイがアデクとの対決後に直接聞いてみるべきか)
「そういうわけだメイ!フカマルを育ててくれ!」
「(ガブリアスの2進化前ということは……お兄ちゃんと一緒…)うん!任せて!!」
「おー、気合い入ってるなー!」
(順調に育てていけば手持ちの一体が兄と同じになるからな…意気込むのも頷ける)
「じゃあフカマルは任せるとして…二人はじいちゃんに挑むためにヒオウギに一旦戻るのか?」
バンジロウの問いに二人して頷く。俺は挑む気無しだけどメイは挑む気満々のようだ。やる気に満ち溢れた瞳をバンジロウに向けている。
「そか。ならまあ頑張れよ!贔屓目なしでじいちゃんは強いからな。生半可な攻撃じゃすぐやられるぜ?」
「ぜ、前チャンピオンだもんね……!」
「とはいえちゃんとメイの実力に合わせてくれるからそこは安心していいと思う。トレーナー成り立てにレベル差50オーバーを差し向けるのは流石に…な」
まあ敢えてそのレベル差を維持してストーリーをクリアする猛者もいるのだが、あれはポケモンを知り尽くしたホンモノか物好きか正真正銘のマゾが挑む領域なのでメイにその枷を填める必要は全くない。というかやれと言われても首を縦に振る人はまずいないだろう。前述した条件に当てはまる人か大金でも積まれない限りは。
(そういえば、レベル1ポケモンを対戦で起用してるユーザーもいたなぁ)
それはまだ通信対戦がレベル50以下のポケモンは50に引き上げられる事なくそのままのレベルで参加できた頃。
レベル1の特性頑丈ポケモンに「貝殻の鈴」を持たせてがむしゃらを利用したコンボ。道具枠と手持ち枠を一つ使うのが難点だがやられる側はたまったもんじゃない。
レベル1が50を上回るのは先制の爪か先制技でもない限り絶対にあり得ない事を逆手に取った戦法の一つだ。
何故これが驚異なのかというと、ポケモンの世代がBW…通称「第5世代」に移った時に行われた特性の見直し。その見直しで頑丈は"一撃必殺の効果を無効にする"から"一撃必殺の効果を無効にし、且つ体力が100%の時に瀕死レベルのダメージを受けても一撃で倒されない"という効果に変わり、レベル1の頑丈持ちかつ遺伝技でがむしゃらを覚えたポケモン…要するにココドラにスポットライトが当てられた。
(対戦で当たったときは…キツかったなぁ。襷と違って"体力100%なら何度でも発動する"だから質が悪いのなんのって。しかもたべのこしと違って貝殻の鈴だからダメージ量で普通に全回復するっていう)
「お兄ちゃん?」
「ん、あ…どうした?」
「えっと、さっきから誰もいないところで頷いてたけどどうしたのかなって」
「あーいや、がむしゃらなココドラは質が悪いなと」
「がむしゃらな…ココドラ?」
「気にしなくていいよ。多分遭遇することはないから…って、バンジロウは?」
レベル1ココドラに懐かしさを懐いていたらバンジロウが居なくなっていた。その事にメイが不機嫌そうに「お兄ちゃんを気味悪がって帰った」との事。実の兄が気味悪がられて不機嫌になってくれたのなら嬉しいが、残念ながらバンジロウが正しい。
「うー…」
「まあそう唸らない唸らない。バンジロウの行動は間違っていないんだからさ」
「そうだけど…」
「いやそうだけどって…そこは同意するんだな」
「だって言わないとまたしそうなんだもん」
「…否定できないのがまた何とも。まぁそれは以後気を付けるとして……もらったフカマルを見てみないか?」
「あ、それもそうだね!」
メイがフカマルの入ったボールを投げ、ボールが開放されると同時に中から出てくるフカマル。
ぽけーっとメイを見ているフカマルは俺の持つガブリアスと比べると若干色が薄く、所謂色違いの類に分類されるポケモンだった。
「かわいい…」
「ふかー?」
(そこはゲーム基準なんだなチェレン…)
「こんにちは、あなたの親のメイだよ」
「ふかー!」
「タジャー!」
「~~~っ!」
「…メイ?」
親というフレーズに反応したツタージャとフカマルの取った行動がツボだったのか、胸を押さえて可愛さによる感情のオーバーフローをこらえているメイ。
「お、お兄ちゃん…ポケモンって、凄いね」
「…そうだな」
「ふか?」
「タジャ?」
はぁはぁと息を荒くしているメイにそれが以前知りたがっていた「尊い」という感情だと言いたかったが、ベルのように事あるごとに尊いと言うメイは見たくなかったので黙っておくことにした。
目を反らした先には二匹揃って首を傾げているツタージャと体全体でどうしたのかと表現するフカマルが。原因はお前達だといっても理解しないと思ったので苦笑してやり過ごすことに。
その数分後、漸く尊さから解放されたメイを連れてサンギ牧場の管理人さんのもとへ。尚メイの腕にはツタージャが抱かれている。ツタージャも嫌ではないみたいで、寧ろ喜んでいるようだった。
「やあ!よく眠れたかい?」
「おかげさまで…ありがとうございました」
「いやいや此方こそ!それでなんだけどね…もしよかったら生まれたばかりのメリープを貰ってくれないか?」
「え?い、いいんですか!?」
「タジャ!?」
管理人さんからの提案に身を乗り出すメイとツタージャ。その剣幕に管理人さんが驚き、目を輝かせるメイに苦笑しながらも話を続ける。
「あはは…君達になら大丈夫かなと思ってね。それにそっちの女の子は新米トレーナーだとバンジロウ君から聞いてね。ならばと思ったのだが…どうかな?」
「是非!」
「タジャ!」
「…だそうです。出来れば俺からもお願いします」
電気タイプのポケモンがいればフキヨセの攻略も大幅に楽になるし、メイもメリープのモコモコを気に入っていたから願ったり叶ったりだろう。
食い付く様に答えるメイと苦笑しながらお願いする俺に管理人さんは笑顔で了承し、メリープの入ったボールをメイに手渡した。
「この子にいろんな世界を見せてやってくれ、他のメリープ達に僕も旅の成功を祈っているよ」
「はいっ!」
「ありがとうございます」
「うん、それじゃあ頑張っ……あ、忘れるところだった!キミのミジュマルなんだけどね」
「……あ」
管理人さんに言われてミジュマルの事を思い出した。メイの監視をすっぽかして別の事をしていたことは分かっていたが手持ちに入っていなかったことをすっかり忘れていた。どうやら管理人さんのお世話になっていた様でその事も重ねて礼を言うとまた管理人さんが苦笑する。
「君達がここにくるまでにメリープと戦闘しててね…最初は痺れさせられて僕が治療するの繰り返しだったんだけど……」
「けど?」
「繰り返してるうちに麻痺を克服したみたいで…その結果が……まぁ見てもらった方が早いかな」
「?」
管理人さんがそう言って一旦席をはずし、すぐに戻ってきたと思えばその後ろにポケモンが。ドヤ顔しながら管理人さんの後ろを歩く姿がミジュマルを思い出す。
「フッ…」
「……えーと?」
「ガンガンメリープに挑んでいった結果、進化しちゃったみたいなんだ。キミのミジュマル……」
「フッ……」
その日一番の俺の叫びが轟いた瞬間だった。
………………
「じゃあ、ありがとうございました!」
「元気でー!また遊びに来てくれー!出来ればフタチマルは置いてきてからー!」
「フッ!?」
「当然だろ…全く。善処しますー!」
管理人さんに見送られてサンギ牧場を後にする俺とメイ。フタチマルは何故自分が除外されたのか分かっていないようだった。
おまけに声がダンディからイケメンのソレに若返っていた。イケメンボイスはいいとして基本ドヤ顔だから勘違い系ナルシストに見えかねない。コイツの伴侶は大変だろうなと将来を心配してしまう。
(いや、まだダイケンキが残ってる…)
「タチマッ?」
「…まぁ、よろしく頼むぞ」
「フッ……!」
「…お兄ちゃんのフタチマル、すごく癖が強いよね」
「言うな…俺もどうしてこうなってるのか分からないくらいだから……」
ガクリと項垂れて大人しく進化してしまったフタチマルを受け入れる。勝手にレベルが上がってくれていたのは嬉しいが管理人さんが出禁にするくらいメリープと交戦したのかと思うと、このフタチマルは勇敢でも何でもなく只の戦闘バカなのかと思った。
「…ヒオウギに戻るか」
「うん、初めてのジム戦だね…!」
「そうだな。だが今のままだと勝てるか怪しいから…帰りながらポケモンを鍛えようか?」
「はーいっ!」
こうして俺達はサンギタウンを後にし、初のジム戦に挑むために一旦ヒオウギへ帰るのであった。