転送先はBW2でした。   作:400円

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07話「帰郷と、はじめてのジム戦」

 サンギから歩いて暫く。俺達は三日前に出たヒオウギシティへと帰ってきていた。三日だけだというのにまだ新鮮な気分が抜けない。

 

「結構歩いたな…メイは早速挑むのか?」

「そうしたいけど…ヒュウの妹さんが心配だから会いに行ってくるね」

「わかった。俺は一度家に戻るよ」

「家に?」

「ああ。ちょっと母さんに用があってね」

「それって…三日前の手紙のこと?」

「…まあ、そんなところだ」

 

 メイから出た助け船に遠慮なく乗っかる。三日前の手紙…「ヤるならヤれ。でも責任はとれ」という内容に文句を言いに行くと思っているのだろう。勿論メイは中身を見ていないから何のことか分からないだろうが、湖に向けて全力投球した姿から何となく察したに違いない。

 手紙の内容は兎も角として、スケープゴートになってくれた手紙を送ってくれた母に内心感謝する。

 

「また後で」

「うん。後で私も家に帰るね」

 

 一旦メイと別れて俺は三日前の記憶を頼りに家へ向かう。移動の間、ヒュウの妹について考えていた。

 ヒュウの妹はストーリー開始前…二年前にチョロネコをプラズマ団に強奪された被害者の1人で、御三家入手後に彼女に話しかけると「ポケモンを大事にしてあげて」とお願いしてくる。彼女がポケモンを好きだというのが最もな理由だろうけども、その裏側には自分が出来なかったからという想いもあるのだろうと二周目プレイでそう解釈した。

 

(此方の妹さんは、話すのも難しそうだけど)

 

 メイが家に帰るのではなく真っ先にヒュウの妹の見舞いを選んだということは、何か重い病を患っているのかもしれない。ヒュウの妹で兄とヒュウが大ケンカしたというのも聞いてるし…確認したいところだが、無理に詮索するとボロが出てバレてしまうかもしれない。かといって知らないままだと何れどこかで綻びが生じてしまうのもまた事実。

 

(…隠しながらって、神経使うなぁ)

 

 なけなしの精神を磨り減らすしかないこの先に溜め息を吐く。いっそバラしてしまおうかとすら思ってしまいそうだ。思うだけで留めておくけど。

 なんて思ってあるいているとメイの実家に辿り着いた。インターホンで母を呼び出し、扉を開けてもらう。

 

「おかえり、もう回ってきたの?」

「いやゲームじゃないんだし…忘れ物のついでに近況報告ってところかな」

「あらそう。もしかしなくてもコレでしょ?忘れ物」

 

 そう言って取り出したのは兄のトレーナーカード。どうやら本当に忘れていたみたいで安心した反面この三日間身分証明が出来なかったことに冷や汗を掻く。

 

「気を付けなさいよ?」

「ありがとう母さん」

 

 カードを確認する。予想通り其処には兄の顔と兄の名前…そして現在の所持金額がカードに記載されていた。どうやら所持金額はゲームデータを引き継いでいたみたいで莫大な量の金額が口座に入っていた。

 余談だが渡されたトレーナーカードはゲームのカードとかなり違っていて、スマートフォンを更に薄くして個人情報のデータ計測だけに集中させた薄型カードデバイスみたいな男心を擽るモノへと変わっていて、非常にカッコいい仕上がりになっている。

 

(…成る程、ね)

 

 名前欄に登録された兄の名前。これで名前を聞かれたときにどもることなく答えられる安心感と自分の名前とは違うことにやはり"転生"ではなく"憑依"という事に気付かされ、複雑な気分になる。

 

「なに?自分のトレーナーカードをまじまじと見つめて?自分に見惚れてたのかしら?」

「…俺、変わってないよな?」

「変わってないよなって……当たり前でしょ?貴方は貴方よ。産まれたときから私の息子に変わりないわ」

「…そう。ごめん母さん。変なこと聞いた」

 

 全くね。と答えて家に招き入れる母。見た目は確かに息子だが中身は全くの別人だということに今更母への罪悪感を覚えてしまう。

 言ってしまえば性格の上書き。元の兄は身体こそあれど中身は存在しない。憑依というのは言い換えれば乗っ取りであり、其処に前の宿主の意思など関係ない。

 

(……あーダメだ。ネガティブになったら余計な心配を招いてしまうな。ポジティブにいかないと)

「それで?近況報告を聞かせてもらいましょうか」

「え?あ、ああ…といっても三日間分だけども」

 

 其処からはメイの事を含めての近況報告に。

 といっても大体がメイの事ばかりで、彼女がポケモン図鑑を受け取ったことと新たなポケモンが増えたこと、そして俺にポケモンバトルで勝ったこと等々…メイが憤怒状態に陥ったこと以外は全て母に報告した。

 

「そう、まさか貴方を打ち負かすなんてね」

「うん…俺が未熟なのもあるけど、きっとメイは俺を越えるトレーナーになると思う」

「あら、それでいいの?」

「まさか。そんな簡単に俺を越えさせはしないよ」

 

 ゲームだが、ポケモントレーナーとしてのキャリアは十年以上の経験を持っているのだから一年未満のルーキーに追い付かれる訳にはいかない。とはいえポケモンゲームの主人公はプレイヤーが操作するからというのもあるが、ポケモンに関するセンスは抜群でその気になれば僅か4時間でチャンピオンになる主人公だっている。その場合だと大体がRTA(リアルタイムアタック)トレーナーが殆どだが。

 

「ただいまー!」

「あら、おかえりなさいメイ」

「ただいま、お母さん!」

「おかえりメイ」

「お兄ちゃんもおかえりなさい!」

「ああ。ただいま」

「あらー?実の親の前でいちゃつくのね?」

「ち、違うよお母さん!お、お兄ちゃんとは…まだ、そんな関係じゃないもん……」

(あー…まだって表現は…)

「まだ、なのね?」

「あ、えと、そういう訳じゃなくて…!!」

(こうなるからなぁ……)

 

 お決まりの展開に苦笑しながら親子の会話を見守る。母のからかいに顔を赤くしながら此方を見てくるメイ。目が合ったときに笑ってやると慌てて顔を逸らした。可愛い奴め。

 

「…我が息子ながら女誑しねー」

「いや、女誑して…(ラノベの主人公じゃないんだからさ…兄のスペックはラノベ感が強いけど)」

「…お兄ちゃんのいじわる」

「メイまで!?」

 

 むすー。っと赤面しながらジト目で見てくるメイ。怖いどころか寧ろ可愛いと言うとまた顔を逸らされるので心の中だけで可愛いと告げる。

 女誑しとはいっても今のところまだフラグが立ってるのが確認できているのメイだけだからそうでもないと思うが…まさか兄はよくある無自覚系女誑し(朴念人)というラノベ踏襲型イケメンなのかと頭を過った。

 

「まさか、俺他にも?」

「それは無いわね。貴方無愛想だから」

「…悪かったな、無愛想で」

(私は寧ろ無愛想の方がライバル少なくて嬉しいからいいけどなぁ…)

(どうやらフラグはメイだけか…今のところは)

 

 どうせこの先でもフラグが立つ相手はいるんだろう。テツやルリとかゲーム本編でも普通に立っててもおかしくなかったし。あと観覧車イベントのMOBとか。夏?俺の持っているBWシリーズの観覧車は夏イベ実装はされていない。ナツミとか知らない。エナツはまあ…好きな人は好きなイベントだろう。ナツミショックに関しては忘れさせてくれ。

 

「それで、メイはジム戦なんだって?」

「うん!」

「頑張りなさい。ポケモン達と一緒にね」

「勿論だよ!」

「アンタはどうするの?」

「俺はメイの試合を見守るよ」

「そっか。お兄ちゃんは全部のバッジ持ってるもんね。私もお兄ちゃんの試合見たかったなぁ…」

(え?そうなのか…ってまぁ、レベル100が3体もいればそりゃ取っててもおかしくないよな)

 

 メイの一言でこの兄は既に各地のジムリーダーとは顔見知りであり、イッシュを一度制覇しているということがわかった。これは思わぬ収穫で非常にありがたい…が、それってつまりさっきの女誑しが女性ジムリーダー相手に発動していたという可能性が。

 

(……ありえなくもないな。最悪その辺のMOBにも発動している可能性もある)

 

 BWシリーズの女性MOBは確かに可愛くデザインされたキャラクターが多く、また観覧車イベントによって一部のMOBは更にその可愛さを倍プッシュしてくる。しかも男女其々にパターンがあるのでどちらにもウケがいい。勿論ネタ方面でもウケがいい。個人的にオススメはBWのミハルがとても良い。夏の前座として送られた彼女との観覧車イベントは「おい、付き合えよ」というレベルで甘ったるく、それが夏への期待を増幅させてくれる。そしてその期待を初代~金銀時代の大爆発よろしく木っ端微塵に粉砕してくれるのがヤツなのだが。

 

「うぅ…不安になってきた」

「大丈夫、俺が傍で見守る」

「!…えへへ、なら頑張れるかも」

「そうか?なら良かった」

「ああ、ヤるならちゃんとメイの旅が落ち着いたらするのよ?今はこらえなさい?」

「ぶっとばしますよ母上様」

 

 笑顔でとんでもないことを喋った母に笑顔で返す俺と母の言った意味がわからず首を傾げる純粋なメイ。何れ知る時までそのままでいてほしいと切に願う。

 

 もしメイが意味を知ったら……

 

 

━━━━━━━━━

 

 

「…私、お兄ちゃんになら…いいよ」

 

 月明かりに照らされたメイの裸体…一糸纏わぬその身体は少女というには些か発育が良く、もしも自分が兄という立場でなければ自制心などとうの昔に破壊されていたに違いないと断言できるほど、メイは蠱惑的な雰囲気を纏っていた。

 

「め、メイ?俺達は兄妹だぞ?」

「それでもいい……私はお兄ちゃんと、一つになりたい。繋がって、愛し合って……」

 

 うわ言の様に呟きながら、俺の上に跨がる。

 そんなメイの瞳には心なしかハートが浮かんでいるように見え、蕩けた表情で俺を見つめながらゆっくりと俺の身体に自身の身体を重ねてゆく。

 どくん。どくん。と互いの鼓動が混ざりあって溶け合い、俺の理性の箍も次第に外れてゆく中…メイは更にダメ押しを掛ける。

 

「━━━、……がまん、しないで?」

「……っ!」

 

 お兄ちゃんではなく個人の名を呼び、雌の顔と重なりあった極上の裸体。後押しする様に股関に自身の濡れた股関を押し付けてアピールをしてくるメイにとうとう箍が外れた俺は━━━━━

 

 

━━━━━━━━━

 

 

(なりかねない。夜這いルート待ったなし)

 

 メイに聞かれてその意味を教えるのはせめて旅が終わったらにしよう。今教えるのは俺の貞操が危ないし…いや、危なくてもそれはそれで良いのだけれども、万が一旅の途中で身籠るなんて事になったら旅そのものを中止しなくてはならなくなる。

 それでメイがバッドエンドにならないのならいいかもしれないが、ポケモンのゲームはギャルゲでもエロゲでもなくRPGなのだからそんな展開は必要ないし、あったとしてもストーリークリア後の後日談が妥当だ。

 

「お兄ちゃん、ヤるって?」

「知らなくていいことだよ」

「そうよ。何れお兄ちゃんが文字通りその身をもって教えてくれるから、それまで待っていなさい?」

「母さん?」

「うん。お兄ちゃんが教えてくれるなら待つ」

(待ってほしくないんだがなぁ…)

 

 はっきり言って俺の知識はエロゲとエロ本に同人誌の知識だけなのでまるであてにならない。この兄はどうか知らないが、きっと俺と同じだろう。着替えるときにそれっぽいのがクローゼットに隠れてたし。

 

「…そろそろ行くか?」

 

 気まずくなってお暇しようとメイに提案すると頷く。といっても俺の感情を察したわけではなく、早くジムに挑みたいという思いがひしひしと伝わってくる。

 

「あら、もう行くの?」

「うん!」

「ヒオウギのジム報告でまた戻ってくるよ」

「そう。じゃあ二人の好きな料理をつくって待ってるわね。いい報告を待ってるわ」

「任せて!行ってきます!」

「行ってきます」

 

 母に見送られ、俺達はヒオウギジムのあるトレーナーズスクールへ走り出す。その背中を見ていた母が「本当に…私の若い頃にそっくりね」と涙目になりながら呟いていたのを俺達は知る由もなく、ヒオウギジムへと向かう。

 ヒオウギジムはトレーナーズスクール内部にあるという特殊なジムだ。BWだけに限った事ではないが、ジムリーダーの多くは兼業者が多い。分かりやすい例だとモデルとジムリーダーを兼業しているカミツレがそれだ。

 本来のジムリーダーであるチェレンも元は教師と兼業していたので、もしかしたらアデクも教師を兼業しているのかも知れない……想像したら暑苦しそうな教師像が浮かんだ。見る分にはいいけど実際に担任になったら鬱陶しい気持ちの方が上回りそうだ。

 

「お兄ちゃん?」

「……ん、どうした?」

「顔が凄く渋そうな顔してたから……もしかして、嫌だった?」

「あ……いや、違う。もしかしたらアデクさんの癖が出るかもしれないと思ったら……な」

「癖?」

「……まあ、行ってみれば分かる」

 

 適当な嘘で誤魔化したが多分新米も新米のメイがジムに行くとなればアデクがとる行動は高確率で「修行」……いや、今は教師だから「授業」になるのか。我ながら誰うまな考えにちょっと満悦。

 ただ「授業」が行われるとマズい。何がって旅の進行速度が亀どころじゃなくなる。具体的に言うとナマコ並の移動速度になる。つまりほぼ動かない。

 それだけは避けないと……プラズマ団の件もあるし、何より俺の気力がもたない。いくらポケモンの世界とはいえ代わり映えのしない日常を強要されたら向こうと同じだ。何が悲しくて異世界で学校生活を送らなきゃならないのか。

 

「あ、見えてきたよお兄ちゃん」

「変わってないな」

「ふふ、お兄ちゃんったら……いつも見てたでしょ?」

 

 クスクスとメイが隣で笑う。ゲームと変わらないって意味でつい口走ってしまったが別の解釈をしてくれたみたいで助かった。

 そうだったなと返して額から流れる冷や汗をそれとなく誤魔化しながら中へ入っていく。この調子じゃ他の街でも不用意に口走ってしまいそうだ。幸いにも兄は一度イッシュを回りきっているおかげでメイのみならその場しのぎで誤魔化せそうだけど……。

 

「ん……?おお、お主か!」

「どうも、アデクさん」

「うむ、そちらのお嬢さんは初めてだな?」

「ええ。妹の……」

「め、メイです!」

「メイか、よし覚えた!」

「わわっ」

 

 豪快に笑いながらメイの頭を撫でるアデク。

 吃驚しながらも払い除けようとはしないあたり嫌では無さそうだが、どんどんメイの髪のセットが崩れていくのでそろそろ助け船を出す。

 

「アデクさん、そろそろ……」

「おお、そうだったな。バンジロウから言伝は聞いておる! メイはワシに挑戦しにきたらしいな!」

「うぅ……あ、はい!」

「お主はその付き添いか?」

「ええ。俺は見守り役……みたいなものです」

「なんだ。折角ならオヌシもしていけばよいのに」

「今回は遠慮しておきます。あくまでもメイのジム戦がメインですから……なので修行だけはナシですよ?」

「おっと、見抜かれておったか」

 

 やっぱり修行する気だったアデクに釘を刺せた事に心底安堵した。メイは頭に疑問符を浮かべているが、今は知らなくて良いことだよと言って納得させていると、アデクがやる気に満ちた表情で拳を合わせた。

 

「よし、早速()るか!メイ!戦闘内容は入れ換えなしのシングルバトルでよいな?」

「は、はいっ!」

 

 勢いの良さに気圧されっぱなしのメイに一抹の不安を抱える。これ負けるんじゃないか……と。

 こういう対人の勝負事には何事も流れがあり、一旦流れが傾くと中々取り返しがつかない。但しフロンティアクオリティだけは別。あれだけは流れとか全く関係なく何時でも此方側に襲いかかる。メジャーなのが敵の絶対零度が全弾命中とか。

 

「メイ」

「あ……私頑張るから見ててね!」

「ああ。それとアドバイス。精神論になるが……アデクさんの勢いに呑まれちゃダメだ。お前の不安がポケモンに伝わればポケモンも本来のポテンシャルを発揮できなくなる。常に勝つという意思をアデクさんにぶつけ続けるんだ」

「……うん!」

「よし、良い返事だ」

 

 熱血指導みたいな自分の言動にらしくないと思いながらも、闘志に満ちたアデクに会場兼生徒の活動の場でもある運動場へと案内される。

 やはりゲームとは違い広く、またポケモン用の遊具も多く設置されている。流石にそこは変わっているようだ。

 対戦用のコートの周りには何処から聞き付けたのかスクールの生徒達が観戦にやって来ていた。

 アデクを応援する生徒だったり、メイの可愛いさに胸を打たれた男子生徒がメイを応援したり、新米トレーナーとなったメイの腕前を興味本意で見に来たりと理由は様々。注目の的となっているのに慣れていないのか、はたまた初のジムリーダー戦だからか、メイから緊張しているのが伝わってくる。

 

「大丈夫」

「お兄ちゃん……?」

「俺が側にいる」

「!……なら、大丈夫。そこで見てて!」

 

 落ち着かせるために声をかけると先程の緊張はどこへやら。アデクに負けず劣らずの闘志を見せるメイ。

 アデクもそれに感付いたのか、口角を上げてニヤリと笑った。

 

「では往くぞメイ!加減はせんから覚悟せい!」

「はい!!お願いします!!」

 

 その言葉を切っ掛けに、戦いの火蓋が切られた。

 お互いにボールを持ってフィールドに投げると、お互いのポケモン達が目の前の敵にトレーナーと同じく闘志をぶつけ合う。

 メイが出したのはメリープ。対するアデクは……

 

(チョボマキ……虫タイプ重視か? もしアデクの本気の手持ちがゲーム通りなら、残り1体は絞れるな)

「メリープ!電気ショック!」

「めぇ!」

 

 先制を取ったメリープがすかさず電気ショックをチョボマキにヒットさせる。当たり所が悪かったのか、チョボマキの動きが痺れによってぎこちなくなっていた。

 

(素人目から見ても分かる。麻痺ったなあのチョボマキ……でも確かチョボマキの特性は……)

「ふぅむ、ついてない!だが致し方あるまい!チョボマキ、あまごい!」

 

 ぎこちない動きでも天候は応えてくれたのか、チョボマキの雨乞いで雨が降りだした。そしてこの瞬間、メリープが幸先よく引いた電気ショックの追加効果は無意味に終わる。

 先程のぎこちなさがチョボマキから消えて明らかに麻痺の状態異常が無くなった素振りを見せていた。チョボマキ自身も雨が降ったことでメチャクチャ気持ち良さそうにしてるし。

 

(潤いボディ……天候が雨の時ターン終了時に状態異常の回復処理が行われる……引けたらラッキー程度ならまだしも、電磁波とかが無効になるとターンが無駄になる上相手に有利な場を作らせたって事になるからなぁ……)

(ぎこちなさが無くなってる……さっきの電気ショックが今のあまごいで帳消しになったのかな……? ううん、だとしても確実に倒さないと。お兄ちゃんなら、この状況をどうするんだろ……)

 

 ふと、メイが少しだけ此方に視線を向けてくる。何か意見を求めようとしているのだろうか。

 

(相性は悪くない。が良いとも言えないな。チョボマキは特殊技中心のポケモンだからメリープの静電気が死に特性になっている。かといってバックはフカマルとツタージャ……ツタージャに至っては相性が最悪だから出さない方がいいだろうな。フカマルでゴリ押すか、メリープでうまく立ち回るかの二択だろう……とアドバイスするのが良いのかもしれないが……)

 

 あくまでも俺は見るに徹した身だ。アドバイスをしてしまってはメイの成長を促せないし、何よりもメイの為にならない。

 なので俺はメイに一言「お前ならできるさ」と伝えるとメイは強く頷いて前に向き直した。

 

(そうだ。お兄ちゃんに頼ってばかりじゃ勝てない! メリープのトレーナーは私なんだから、お兄ちゃんの戦略じゃなくて私の戦略で勝たないと!)

「来ないのなら此方から仕掛けるぞ!チョボマキ、溶解液を浴びせてやれ!」

 

 チョボマキの尖った口からみるからに身体に良くない色をした液体が放たれ、メリープに直撃する。

 こうして間近で見ると、ポケモンという生物の頑丈さには感心を抱く。人間が喰らったらひとたまりも無い攻撃をなんかぶつかった程度のリアクションで済ませているのだから。

 

「っ!メリープ、大丈夫!?」

「めりぃ!」

「良かった!メリープ、体当たり!」

 

 指示に従ったメリープがカウンターでチョボマキ目掛けて自身の身体をぶつけ、チョボマキをかっ飛ばした。

 攻撃後の隙を突かれたのが決まったのか、避ける事に注意が回らずに引力に従って吹き飛ばされてアデクの足元に転がる。

 目を回したチョボマキを見てよくやったなと一言告げてボールに戻したアデクが次にメイに見せた表情はとても良い笑顔。例えるなら純粋な子供が興味を惹かれる物を見つけたときの様な屈託のない笑顔だった。

 

「良いな、お主ら!そうら次だ!」

 

 そう言ってアデクが繰り出したのはたいまつポケモンのメラルバ。もふもふした見た目と愛嬌が非常に可愛らしいが、虫タイプのポケモンでは珍しく晩成型の進化ラインとなっており、あの600族に並ぶ程の進化経験値を要求してくるのがたまに傷といったところか。

 

「か、かわいい……」

「見た目に惑わされてはいかんぞ?メラルバ、ニトロチャージ!」

 

 鈍重そうな見た目とは裏腹に、炎をまとったメラルバが勢いよくメリープに突撃する。

 種族値の差もあるとはいえ、攻撃種族値85とタイプ一致による炎の猛進には耐えきれず、突き飛ばされた先でメリープは目を回していた。

 

「メリープ!」

(一撃!?いや……メリープの防御種族値は確か40だったから……普通に吹っ飛んでもおかしくはないか。だが……)

「なら……フカマル!お願い!」

 

 メリープと入れ替わりで出てきたのはやはりフカマル。

 ツタージャでは即死はおろか黒焦げになること間違いなしなのでこの判断は当然と言えるだろう。あのメラルバがそこまで育っていないのであればニトロチャージとひのこ、あとはいとをはくの3つしか技がないので実質メイの勝利は決まったようなものだ。

 しかし、フカマルには有効打がないのも欠点といえる。岩タイプの技は基本的に技マシンでしか覚えられないし、ゲーム的には序盤も序盤なので拾えるはずもない。

 

 

(とすれば、ダメージソースは……)

「すなじごく!」

 

 メイの命令に従ったフカマルがけたたましく鳴くと、メラルバを中心に砂嵐が巻き上がる。砂嵐自体のダメージはさほどではないが、本命はその砂嵐による継続ダメージ。

 無論砂嵐のダメージとフカマル自身が与えるダメージは別なのでメラルバが倒れるのも時間の問題だろう。

 

「たいあたり!」

「フカっ!……っ!?」

(特性むしのしらせじゃないのか、あのメラルバ)

「フカマル!?」

 

 メラルバには直撃したものの、何故かフカマルの表情も僅かに歪む。運が悪いのか、それとも先程のメリープの電気ショックの帳尻合わせなのかは定かではないが、フカマルが体当たりでメラルバに接触した箇所が僅かながらに体表より色濃く腫れ上がっていた。

 

 メラルバの特性、ほのおのからだ。

 3割で接触してきたポケモンを火傷にする近接アタッカーとは相性が悪い特性の一つ。火傷状態のポケモンは継続ダメージに加えて攻撃に弱体補正が入り、本来の火力を出せなくなるという毒よりもたちの悪い状態異常だ。

 因みにタマゴ孵化厳選の特性としてはこの上なく重宝されるのだが、長くなるので割愛。

 ともあれ火傷状態になってしまったのであればフカマルのパフォーマンスに支障が出るのは間違いないし、すなじごくでメラルバが先に倒れるか、火傷の継続ダメージでフカマルが先に倒れるかのどちらかだ。もしフカマルが倒れた場合は……メイの勝利はかなり難しくなるだろう。

 

(さてどうする、メイ?)

「……ごめん、フカマル。もう少しだけ頑張って!」

「ふかぁっ!!」

「不退転か!面白い!」

「たいあたり!」

「ふむ……火の粉!」

 

 お互いがお互いをめがけてぶつかり合う。

 火の粉を真正面から受け止めながらも突撃し、次に繋ぐ為の布石を敷くフカマル。

 タイプ相性で一応は持ちこたえたフカマルも火傷のダメージが決め手となり限界だと言わんばかりに膝をついた。

 メラルバも相当ダメージを負ったようだが、あと一回くらいなら動けると言わんばかりの闘志を目の前のメイに向けている。

 

(次のターンがラストターンだな。タイプ相性はメラルバが圧倒的に有利だが、ツタージャが勝てる勝ち筋は0ではない)

「ありがとうフカマル……ゆっくり休んで。あとは頼んだよ、ツタージャ!」

「たじゃー!」

「ほう、それがお主の切り札か。タイプ相性はこちらが有利だが……さて、どうなるか」

 

 タイプ相性最悪であろうと怖気づく様子のないツタージャ。メイの諦めない意思に応えるように、ツタージャもまたしっかりとメラルバを見据えていた。

 メイもこのターンが最後だと確信しているのか、ほんの少しだけ手が震えている。

 

 だが、そんな静寂も長くは続かない。

 一瞬の刹那。睨み合いが解かれた瞬間、ほぼ同時に自身のポケモンに指示が与えられる。

 

「「たいあたり!/ニトロチャージ!!」」

 

 真っ先に駆け出したのは、ツタージャだった。

 メラルバが炎を纏うより速く、ツタージャの渾身の体当たりがメラルバを突き飛ばす。

 何故ツタージャの方が早く動けたのか。それは2匹の種族値の僅かな差が影響している。メラルバの合計種族値はツタージャより僅かに上回る360だが、素早さ種族値は実はツタージャの方が3だけ高い。たかが3と侮るなかれ、対戦ではこの僅かな差が勝負の行く末を左右するといっても過言ではない。数値が1でも負けていればそのポケモンが先制技や素早さに関係する技を持っていない限り、先制するという事象はまず起こらない。

 とはいえニトロチャージの素早さ上昇もあったのだが、単純なレベルによる能力差か、そうでなければメイと出会う前にヒオウギシティの水辺でバスラオでも漁っていたのだろうか。レベル差だとすれば納得はできなくもない。

 フカマルの残した砂嵐と蓄積されたダメージにツタージャの一撃が加わったことでとうとうが限界を迎えたのか、メラルバは目を回して気絶していた。

 

(勝負、ありだな)

「かっ、た…………?」

「なるほど!いや天晴!」

「…………っ!やったぁあっ!!」

「たじゃぁ!」

 

 年相応に喜びはしゃぐメイとツタージャに思わずこちらも頬が緩む。初めてプレイしたポケモンでチャンピオンを制したときの自分もこんな感じだったなと思いに耽っていると、メイがこちらに向かって来た。

 

「お兄ちゃん、私勝った!勝てたよ!」

「ああ。しっかり見ていたとも」

「えへへ……」

「見事だったぞ、メイ!」

「ふわぁっ!?」

 

 ご褒美の頭撫でを堪能していたメイの背後から勢いついた声で称賛を送るアデク。

 ビクリと跳ね上がって背すじを伸ばしたメイがアデクの方に向き直すと、うんうんと満足気に頷くアデクが。

 

「アデクさん、妹を脅かさないで下さい」

「うん?ああ、すまんすまん! さて、メイ。ポケモンリーグ公認のジムリーダーを制した時の決まりは知っているな?」

「は、はいっ!」

「よろしい!であればこのベーシックバッジはお主のモノだ!受け取れぃ!」

 

 そう言ってアデクがベーシックバッジを投げ渡す。

 急な事で慌てて受け取ったメイだったが、すぐに特別なものであるバッジに目を輝かせた。

 その光景を見てお馴染みのバッジ獲得BGMが脳内で再生される。

 

(こんな感じだったのかぁ)

「さて……お主ら、次はタチワキを目指すのか?」

「そうですね。唯一ヒウンシティに繋がる港町ですし、それに最近できた施設にも興味があるので……そういえば、彼処にもジムがあったんでしたっけ?」

「うむ。小娘ではあるが、腕は確かだぞ」

「だそうだぞ。メイ」

「大丈夫です!負けません!」

「たじゃっ!」

 

 次のジム挑戦にも物怖じせず意気込むメイとツタージャ。威勢よしとアデクも大笑いしていた。

 

「そうと決まれば出発の準備だな」

「うん!あ、お母さんに報告しなくちゃ」

「そうだな。今度こそしばらく会えないんだし、ちゃんと報告を済ませておこう」

「うむ。では往けい若者共よ!そなた等の旅路に幸あれ!」

 

 ばしん、とアデクが背中を叩いて送り出される。

 力任せの気付けだったせいでジンジンとした痛みが背中に広がっていた。

 

「……痛ぇ」

「だ、大丈夫?」

「なんとか。さぁ、母さんに報告に行こう」

「うんっ!」

 

 浮足立った足並みで自宅へと歩き出すメイ。

 自宅につくまでの間、もらったベーシックバッジを穴が空きそうな位にしまっては取り出しを繰り返しては眺めて満足気に微笑んでいた。

 

 

 

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