転送先はBW2でした。   作:400円

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08話「ある地方の遺産と、心閉ざしたものたち」

 

 自宅についた途端、メイは嬉しそうに母さんに駆け寄ってジムの成果を報告する。

 その無邪気にはしゃぐ様に懐かしさを覚えたのか、母性に溢れた表情で母さんはメイの話を聞く。

 やがて話し終えると、労いの意味も込めているのか、優しい手つきでメイの頭を撫でていた。

 

「おめでとう、メイ。さすが私の娘ね」

「えへへ……ありがとうお母さん!」

 

 微笑ましい光景に頬を緩めていると、そういえばと母さんが思い出したように話を切り出した。

 

「そういえば、ヒュウ君も旅に出るみたいよ」

「あいつが?また突然だな……」

「どうせ今日はもう遅いし、ウチで休んでいくんでしょう?メイと夕飯の支度をしておくから、挨拶でもしてきなさい」

「ああ。そうするよ」

 

 言われるがままに自宅を出た直後、一つの問題に直面した。

 

(ヒュウの家、何処……?)

 

 大体ゲームのマップとは似ているが、俯瞰視点と実際の視点の違いと建物の外観がほぼ同じな事が相まってどれがヒュウの家なのか全く見分けがつかない。

 

「よぉ」

 

 どうするかと悩んでいると、丁度悩みのタネが向こうからやってきた。しかし彼の表情は3日前からは想像もできないほど冷たく、鋭い目をしていて、誰が見ても怒っていると思いそうな表情をしていた。

 

「……どうした、酷い面だぞ」

「……わりぃ、ちょっと色々あってな」

「そうか。旅に出るんだって?」

「ああ、お前等とは別行動にはなるけどな……ああ、あとこれ。ベルって人からお前に渡せって」

「ベルさんから?」

 

 ヒュウから手渡された封筒。厚みからして何かしらの手紙である事は間違いないが、何を書いているのかは分からない。

 もしかしたら自分の事についてかもしれないと判断した俺は封筒を受け取り、形を崩さないようにポケットにしまい込む。

 

「ありがとう。ところで妹さんは?」

「じいちゃんに任せた。会うなら好きにしろ」

 

 そう言って首で自宅の方向を示す。知り合いということもあって挨拶しに来たところだったようで、俺に伝えた事で問題ないと判断したのか「じゃあまたな」と素っ気ない態度でヒオウギの出口へと向かっていった。

 目標自体は完了したので戻ることも考えたが、ヒュウの妹が原作と何かしら違うというのも解消しておきたい事もあって、ヒュウの家へと足を運ぶことにした。

 

 

 ────────―

 

 

 本当は旅に出るつもりはなかった。

 妹が心配だったのは勿論だが、それ以前に出る理由がなかった。しかし、メイにポケモンを託したベルという人物から「プラズマ団がまた現れた」と聞いた途端、動かずにはいられなかった。

 どうやってその人がプラズマ団の動向を把握したのかは定かではないが、現れたのなら潰す以外の選択肢はない。

 

 チョロネコを奪われた2年前を昨日のことのように覚えている。

 何もできなかったあの日以来、俺の心はずっと怒りの炎で燃えていた。復讐なんて言葉では表しきれない程に、プラズマ団に、自分に怒りを抱いていた。

 

(2年前とは違う。今度こそ、取り戻すんだ)

 

 拳を強く握りしめて生まれ育った故郷を繋ぐゲートを後にする。ベルという人物いわく、奴らの操るポケモンは妙なポケモンが多いらしく、詳細こそ不明ではあるが、見た目は普通でも明らかにおかしいと感じる違和感を宿しているのだとか。

 あの封筒にも恐らく同じことが書いてある筈だ。悔しいが、アイツの従えているポケモン達は俺のポケモン達より遥かに練度が高く、強い。一体すら落とせる見込みすらないほどに。

 それほど強い奴に警戒を促すということは、そのポケモン達は相応の危険性を孕んでいるのだろう。

 

 だからといって、この歩みを止めるつもりは無い。

 

(まずは戦力の増強だ。それから情報……ヒウンに行けばそれなりに情報が転がってるかもしれないな)

 

 イッシュ最大の大都市ヒウン。近頃はヒウンの、ひいてはイッシュの新たな象徴としてリーグ施設を開発中との事だが、完成までにはこの旅を終わらせなくては。

 

 

 

 2年前の雪辱を果たし、プラズマ団を滅ぼす。

 その目標の為だけに俺の旅路は始まりを告げた。

 

 ────────―

 

(なんだあの有り様は)

 

 ヒュウの家を出た瞬間に思い浮かんだ感想だった。

 それはもう原作とはいくらか違うと思っていたら思った以上の違いぶりに一瞬家を間違えたのかとすら錯覚するほどに。

 結論から言うと、ヒュウの妹は感情を殺された人形のような存在にまで成り果ててしまっていた。

 原作同様にチョロネコが奪われたのだろうが、精神面での疲弊具合が尋常じゃないレベルだった。メイ曰く過去に彼女が原因でヒュウと大喧嘩をしたらしいが、何を口走ったのか気になる。

 

(……これも、関係しているのだろうか)

「おお、やっと見つけた……やはり都市は慣れんなぁ」

 

 回答の返ってこない疑問を抱いていると、背後からアデクの声が。振り向くと若干疲れた表情のアデクがそこにいた。

 

「お主にも渡しておくものがあったのをすっかり忘れていたわい……ほれ、受け取れ」

 

 そう言ってアデクが手渡してきたのはなんとムーンボール。ガンテツボールという非売品のボールに分類されるこのボールは特に人気度が高い。しかもガンテツボールの入手経路は殆ど存在していないのも相まってムーンボール入り+個体値厳選済は中々のレートとなる。メジャーな組み合わせだとブラッキー+ムーンボールというオシャレに振りつつも、実戦ではその高い守備能力でパーティのタンク役を担う頼れるブイズとして対戦パーティに入れているトレーナーも少なくはない。

 

「これ……ムーンボールじゃないですか。貴重なのに、いいんですか?」

「なぁに、かまわんさ。それにソイツはもうポケモンを登録済みだから道具としての価値はあまりないぞ?」

「ポケモンを?……尚更良いんですか?」

「ああ。チェレンから渡しておいてくれと預かっていたのをすっかり忘れておってなぁ」

 

 ガッハッハと笑うアデクに頬が引きつる。忘れてどうするんだと内心でツッコミをいれた直後に俺自身も忘れていたことに気付いた。人のことを言ってる場合かと自分に呆れてしまう。

 

「そうだ、チェレン……さんはどうしてこんな回りくどい事を?彼の性格上、面倒極まりない事はやりたがらないんじゃ」

「む、そなたは知らなかったか。チェレンはある人物を追っていてな。どうやら最近流行っておる違法なポケモンと関係しておるらしい」

「違法なポケモン?」

 

 また原作とは無関係な要素が追加されていた。

 アデク曰く、技のタイプが掴めない自傷技しか使わず、誰に対しても心を開かず、見た目は普通のポケモンなのにどこか禍々しさを感じさせる風貌をしているのだとか。

 普通のポケモンユーザーであれば、何のこっちゃとなるかもしれなかったが、生憎人生の四分の一位をポケモンに捧げていた俺には思い当たる要素が一つだけ思い浮かんだ。

 

(まさか、ダークポケモンだったりするのか?)

 

 ダークポケモン。ヘルガーも同じ分類になるがまた違う。

 ポケモンコロシアムという古いゲームに出現した「レベルが上がらず、ダーク〇〇といった通常の技とはかけ離れた性能を持つ技を会得している心を閉ざしたポケモン」の事をダークポケモンと作中では呼称していた。

 その有り様は生物というよりは兵器に近く、感情が昂ぶると主人にすら襲い掛かるバーサーカーの様な存在。

 余談ではあるが、ダークポケモンのほとんどは通常だと全く覚えない技を習得している場合がある為、それが災いして厳選難易度が著しく高い奴らがいる。筆頭は金属音サンダー。

 

「知り合いの刑事に聞いたところ、どうやらオーレ地方から輸入されたポケモンが殆どらしくてな。イッシュにも既に多くの違法ポケモン所持者が居てチェレンはその対処にあたっている、ということだ」

(ダークポケモンじゃねえか!!)

 

 どんどん歪になっているBW2世界に不安を抱く。

 いくらメイが崩壊の原因になりかねないとはいえ、流石にメイ単体で起こせる異変の範疇を大きく超えている気がする。

 俺に宿っている時空の叫びといい、一体どうなっているのやら。

 

「たちの悪い事に、プラズマ団もそのポケモンを所有している、という情報もあったらしい」

「プラズマ団が……じゃあやっぱり彼奴等愉快犯じゃなかったのか……」

「む?まさかもう遭遇していたのか?」

「ええ。サンギ牧場で。白い服じゃなくて、真っ黒な服になっていたのでその時は名前を借りたタダのこそ泥集団と思っていましたが(ホントは最初から知っていたけど)」

「そうか。懲りぬ奴らよなぁ」

 

 やれやれと頭を掻き、まあ気をつけろよと言ってアデクがその場を去ってゆく。

 しかしプラズマ団がダークポケモンを所有している疑いがあるというのは貴重な情報だ。どうあがいてもこの先ほぼ確実に関わる事になるので、覚えておいて損はないだろう。

 それよりも、今はこのムーンボールの中にいるポケモンが気になる。去る前に中身を聞いておけばよかったと少しの後悔を抱いた後に期待を込めてボールを放り投げる。

 

 ………………

 ……………………

 …………………………

 

 地面に転がっただけで、何も出てこない。

 とんでもない不良品か、相当頑固なポケモンのようだ。

 

「……ホントにポケモン入ってんのかな?」

 

 こういう時ゲームのメニュー欄があれば便利なのになと思うが、当然ながらそんな便利機能は存在しない。

 再トライしてみたいが、流石にそろそろいい時間なので自宅に戻る事に。帰路について数分後、自宅から空腹を促すいい匂いが漂ってきていた。

 

 自宅に帰ると、ちょうどエプロン姿のメイが夕飯の仕度を手際よく進めていた。おかえりなさいと笑顔で迎えてくれるメイにほんの少しドキッとしつつ、平静を装いながらただいまと返す。

 

「ちょうどできた所だよ」

「ベストタイミングだな。それにカレーとはなお嬉しい」

「ふふっ、ガラル地方で流行りのカレーレシピを試してみましたっ!」

「ほー……そりゃあ楽しみだ(ガラル地方……?)」

 

 知らない地方の名前に首を傾げそうになる。

 生憎とギリギリわかるのはアローラまでなのでそのガラル地方というのが後の新作に関わってくるのだろうと予想する。

 そう考えると、その新作もプレイしてみたいという欲が湧いてくるが、こうしてポケモンの世界自体に踏み込めている時点で欲張りというものだろう。

 それはそうと非常に美味しそうなカレーだ。ルーの上に添えられたチョリソーソーセージが食欲をより駆り立てるアクセントとなっており、カレーのスパイスが鼻の奥を刺激する。

 

「ちゃんと味わって食べなさいよ、メイが張り切って作ったんだから」

「お、お母さんっ!!」

「そうなのか?なら感想も適当に済ませちゃいけないな」

「お兄ちゃんまで……もうっ」

 

 怒っているように見えて実は照れているメイ。

 あざといけど可愛いので気にしない。

 

「それじゃあ、いただきます」

「いただきます、メイ」

「はい、召し上がれ!」

 

 チョリソーソーセージにカレールーを付けて、口に運ぶ。

 程よい辛さが口いっぱいにひろがり、 どんどんスプーンが進む。元いた世界でもソーセージを乗せたカレーはあったが、ここまで美味いカレーは初めて食べた。

 

「……美味い」

「ほんとっ?」

「ああ。これほど美味しいのならいくらでもおかわりできそうだ。ありがとな」

「ぁぅ……」

「ふぅ……メイの表情で飯が美味いわ」

「……おっさんみたいだぞ母さん」

「失礼ね」

 

 家族揃っての団らん。しばらく実現できない故か、母さんの表情は若干寂しそうにしていた。

 ふと、つけっぱなしのテレビを見ると、BW2のイベントで見慣れた少女が。キョウヘイであれば彼女とは知り合いだったのだろうが、果たして俺はどうなのだろうか。

 

『さて、今回はルッコちゃんと4番道路にあるラルガタワー建設予定地に来ていまーす!!』

『来ていまーす!!』

「っ!?ごほっ!!(ラルガタワー!?)」

「お、お兄ちゃんっ!?」

「き、器官に、はい……っ、た!!」

「ええっ!?は、はいお水!」

 

 原作では絶対になかった施設の建設予定に驚き、むせる。メイに渡された水を一気飲みし、呼吸を整えてテレビの情報に耳を傾ける。

 

 ラルガタワー。

 ポケモンコロシアムの最終盤に訪れるオーレ地方の象徴とも言える巨大な塔のコロシアム。その大きさはXYのカロス最大の都市であるミアレシティの象徴、プリズムタワーよりも大きく、特異な形をしている。

 遠目から見れば富裕層が暮らす天空都市のような見た目とは裏腹にその実態は作中の悪の組織「シャドー」のアジトだった。続編では本来の目的通りに運用されており、娯楽施設としての認識で人々の社会に溶け込んでいたが……まさか、プラズマ団の隠れ蓑にでもなるのだろうか?

 因みに4番道路の工事現場は本来であれば道路の舗装工事という設定で設置されていたのだが、どうやら書き換えられてしまったようだ。

 

『いやぁ、近くで見ると凄いですねぇ』

『ホントに!実はこの施設、完成次第ポケモンリーグ公認のリーグ戦用闘技場として運用されることが決まっております!』

『最上階で四天王、そしてチャンピオンとの決戦!燃える展開ですねっ!』

『たしかにっ!現在も建設が進んでおり、開発関係者からの情報によると完成も間近とのこと!完成のあかつきにはチャンピオンロードを駆け抜け、4人の四天王を制した挑戦者と現チャンピオンの決戦場として起用されることが決まっております!』

『わぁっ、これはジム制覇を目指すトレーナーの皆さんも気合が入りますねっ!』

『ええ、ええ!それではお時間も良いところで……次回はタチワキシティのポケウッド特集となります!それではまたお会いしましょう!さようならー!』

『みんな、またねー!』

『はい、ありがとうございました。続きましては──』

 

 愛嬌のあるレポーター達から画面は変わっていかにも仕事大好きですって見た目のアナウンサーが番組の進行を続ける。

 

(まさか、ラルガタワーまであるとは……もう俺の知ってるBW2とは遥かにかけ離れてるな、この世界)

 

 しかしなんだかんだ言っても実物は見てみたい。

 ヒオウギシティやサンギタウンもそうだったが、やはりゲームと実際の視点では大きく異なるというのは身を持って実感したので、朧気に覚えているラルガタワーがいかに壮大なスケールなのかが今から楽しみだ。

 

「ふぅ……ごちそうさまでした」

「お粗末様です!」

「ありがとう、毎日でもイケる味だった」

「ほんと?……えへへ、よかった」

「そこは「嫁にもらいたいくらいだった」じゃないの?」

「お母さんっ!?」

「……兄妹って分かってて言ってる?」

「あら、好き嫌いに兄妹なんて関係ないわよ?ねえ?」

 

 自身の独特の考えに同調を促す母さんと「でも、その……ええっとぉ……」と赤面であたふたするメイ。

 ベタな展開なら血が繋がってませんでしたってよくあるオチがあるのだろうが、流石にそれは出来すぎている。ギャルゲーじゃあるまいし。観覧車のギャルゲー要素だったりバトルサブウェイでは結構ブラックジョーク効かせてくるけどポケモンは健全なゲームなのだからそんな匂わせはない……無いはずだ。多分。

 

「メイを困らせないでやってくれよ……悪い、少し席を外す。用があったら部屋に来てくれ」

「あ、うん。後片付けはやっておくね」

「抜くならさっさと抜きなさいよ」

「抜く……?」

「母さん」

「あーはいはい。全く、冗談の一つも通じないのね」

「冗談の質が悪いんだよ、母さんのは……」

 

 おっさんみたいな冗談は行き過ぎると気持ち悪い。メイの教育にもよろしくないので控えてほしい所だが……これじゃどっちが親がわかったもんじゃない。

 溜め息を吐きつつ自室に戻り、整頓されたデスクに隣接した椅子に腰掛けると、ヒュウから預かったベルの封筒とアデクから渡されたムーンボールをデスクの上に置く。

 

「さて、まずは手紙だな……っと、その前に」

 

 グレイシアの入ったボールを放り投げ、彼女を呼び出す。

 ふるふると身体を震わせてから伸びる姿はまるで猫のようで非常に愛くるしい。此方の視線に気付くと慣れた足取りで膝の上に乗りかかって来た。

 

「きゅ!」

「あざといな、可愛いけど」

「きゅー」

 

 どんなもんだいと尻尾をふりふり揺らすグレイシア。ゲーム的にはひかえめな性格で厳選したつもりだったのだが、どうやら俺にはひかえめな一面はないらしい。

 頭を撫でてやりながら、空いた手でベルの封筒を開封していく。

 中には思った通りの手紙と、SDカードが1枚。

 この世界にもSDカードがあるのかと感心しつつも、本命である手紙を手に取った。

 

 ーこんにちは。元気?といっても3日程度の間隔だけど。

 多分メイちゃんが1つ目のバッジを手に入れた頃だと思ったから情報共有って形でヒュウくんにこの手紙を渡しておきました。

 多分アデクさんからも聞いてると思うけど、イッシュにダークポケモンが出回ってます。あ、ヘルガーじゃなくてね。

 国際警察……というか、ハンサムの情報だと、タチワキコンビナートで場所に似つかわしくない連中が出入りしていたって情報があるから、メイちゃんのジムチャレンジの合間にでも調べてほしい。

 分かってるとは思うけど、割と危険だからメイちゃんには内緒でね。本当なら私がやるべきなんだけど、ヒウンシティにもそういった動きがあるみたいだから先にそっちを調べなくちゃならないんだ。

 ラルガタワーの一件もあるしね。あれがプラズマ団の総本山にならないことを祈るばかりだよ。

 

 ああそうだ、一緒に入れていたSDカードは拡張データだから、ポケモン図鑑に差し込んでおいてね。

 なんの拡張データかは……まあ、ポケモン図鑑にって時点でわかるよね。

 

 それじゃあ、頑張って。

 あとメイちゃんにおめでとうって言っておいてね―

 

「……ハンサムとも知り合いなのかよ、ベル」

「きゅー?」

 

 ピコピコと耳を動かしながらこちらを眺めるグレイシアに「規格外っぽい人なんだよ」と苦笑をこぼしながら頭を撫でると、気持ち良さそうに撫でられるがままのグレイシア。

 撫でるのをやめると「もう終わり?」と言いたそうにこちらを見るのは反則だろう、やめるにやめられないじゃないか。

 

「で、こっちのSDは図鑑の拡張データと……まあ、後で差し込んでおくか。んでもって問題のコイツと……」

 

 ポケモンが登録こそされているものの、そのポケモンが全く出ようとしない置物状態のムーンボール。

 グレイシアが興味を示したのか、てしてしとムーンボールを叩いている。あざとすぎんだろ俺の嫁ポケ。

 どうしようかと思案していると、部屋の扉がノックされる。扉の先からはメイの声が。

 

「どうしたー?」

「入るねお兄ちゃん……あっ、グレイシアも!」

「きゅうっ!」

 

 メイを見るや、ぴょんと跳んでメイの足下に身体を擦り寄せるグレイシア。あざとさに負けてだらしのない表情で愛でるメイ。その気持ちマジでわかるぞ。

 

「……はっ!?わ、忘れるところだった……」

「……気持ちは分かるぞ。それでどうしたんだ?」

「あ、うん。次の目的地のタチワキシティについて聞きたくて……今大丈夫かな?」

「大丈夫。タチワキシティについてだな?彼処は……」

 

 まずタチワキシティで外せないのはポケウッドだ。

 名前からも分かるようにハリウッドのオマージュであるこの施設は数多くの映画作品を取り扱っており、ジャンルも様々。ヒーロー物からSF、ラブコメ等など……ゲームではバトルサブウェイや白の樹洞、黒の摩天楼とは少し違ったやりこみ要素の施設だ。

 特徴としてはやはり「お題に沿ったバトルをする」という台本形式のバトルがセールスポイントの一つと言える。いつも通りのバトルをしていると作品作りは失敗するので、ちゃんと台本通りにターンを進めなくてはならないのがポケウッドの醍醐味といったところだろう。

 次にタチワキコンビナート。

 海沿いの工業施設だが、出入り自体は自由なこともあってトレーナーが野生のポケモンを吟味しに来ることが多い。

 コイル、ブビィといったBWでは出なかったポケモンも出現し、特にコイルはタチワキジム戦にお誂え向きのタイプを保有しているので、お世話になったトレーナーもいるだろう。

 最後にタチワキジム。

 ジムリーダーのホミカはバンドチーム「ドガース」を組んでおり、チーム名よろしく毒タイプのジムリーダーを務めている。もちろん手持ちにはドガースがいる。そんな彼女の切り札はホイーガ、ペンドラーで特にホイーガは序盤にしてはなかなかの強さ……なのだが、タチワキコンビナートでコイルを捕まえておけば相手のダメージソースはドガースのダメ押し、体当たりにホイーガの追い討ちのみというタイプ不一致の低火力な技しかないのでほぼ封殺できてしまう。

 総じて難易度はさほど高くはないが、ホミカの人気度はそれなりにあるので記憶に残っているトレーナーは多いだろう。

 

「……と、こんなところか。どうだ?」

 

 ゲーム知識の部分は隠しつつ、メイにタチワキの魅力を伝える。どうやら満足したようで興味津々といった表情でまだ見ぬ景色への思いを馳せていた。グレイシアも目を輝かせていた。

 

「ポケウッドかぁ……」

「着いたら先に行ってみるか?ハマる作品があるかもな」

「うん、行ってみたい!」

「なら決まりだ。道中はジム戦も見据えてポケモンを鍛えておくといい。オススメはフカマルだな。戦力増強は……まあ、今のメイならヒウンシティに着いてからでいいだろう。といっても最終的に決めるのはメイだから、必要ならタチワキコンビナートや道中でポケモンを捕まえるといい」

「はーい!」

「きゅー!」

「よろしい。じゃあやる事やって寝ないとな。明日からは暫く自宅のベッドとはおさらばだから、ちゃんと寝ておくようにな」

「うん。お兄ちゃんも寝坊しないでね!」

 

 また明日!と、そう言ってメイは上機嫌で部屋を後にする。

 メイが立ち去るのを見送ると、グレイシアは俺のベッドで眠りだした。どうやらボールに戻る気はないらしい。

 

「……さて、明日からも忙しくなるぞ。気合入れろよ、俺」

 

 ムーンボールは後回しにし、明日に備えるべく俺もベッドへ倒れ込む。勿論先にポジション確保しているグレイシアを邪魔しないように。

 

 ある意味明日から本番とも言えるイッシュの旅。

 最終的なゴールも曖昧な上、課題自体は増えすぎている気がするが、メイとの旅を続けていれば少しずつ無くなっていく筈。

 

 そう信じて、眠りについてゆくのであった。

 

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