ライブの後日譚のお話
ツヴァイウィングのライブの一件は、世間にあまりに大き過ぎる爪痕を残す結果となった。
多くの負傷者、死者を出すことになったが、その実害のほとんどは、ノイズによるものではなかったのだ。
我先にと逃げる観客同士の諍い、狭い通路内での接触による怪我、場合によっては、転んでしまい、そのまま逃げる人々の下敷きに。
ノイズよりも、人によってもたらされた被害が甚大になるという、場所が場所故に起こった、稀有な一例。
結果、ソレは人の内に秘める悲しみや憎しみといった悪意に、一定の方向性を与えることとなった。
生存者狩り
あのライブで生き残った人間は、他人を踏み台にして生き残った人でなしだと、根も葉もない陰謀論が、瞬く間に広がる結果をもたらし、迫害という愚行へと転じた。
「……くだらねぇ」
店番を任されたシキが、テレビの報道を見ながら吐き捨てる。
今日もまた、行き過ぎた人の悪意が、誰かを傷付ける。
「……本当に、くだらねぇ」
『お父さん、いなくなっちゃった……』
沈んだ表情で、痛々しく絆創膏を貼った響。
それを抱いて、静かに涙を流す未来。
悪意の矛先は、響にも向いていた。
学校の生徒が、決して癒えない傷を負ったらしい。
ソイツが傷付いて、何故お前は無事なんだ、と。
理由と言えない理由でソレは響に牙を剥いた。
そんな響を子として持つ父親もまた、仕事を奪われ、人が変わってしまったと。
そしてついに先日、行方をくらましたと。
傷付いた娘を、家族を見捨てて、逃げ出したと。
何故、あの地獄を生き残った響がまだ苦しまなければいけない?
何故あの場にいなかった赤の他人が、響を苦しめる?
偶に現れるノイズにぶつけても、この怒りは晴れない。
ここ最近の響は、笑顔が減った。
笑っても、その表情には何処か影が常に残る。
学校では、未来が出来るだけ側にいるようにしてはいるみたいだが、それでも限度があるし、その牙が未来に向かないとも限らない。
だから────
「シキ君……!」
「未来って、響⁉︎……待ってろ、風呂沸かす」
「アハハ…………ごめんね……」
だから、それ以外の時間は、許す限りこの店で共に居るようにと、俺が勧めた。
おばちゃんも、話を聞いて快諾した。
せめて、心許せる場所がなければ、響の心が壊れてしまうと。
全身ずぶ濡れになった響を連れて、未来が悲壮な表情を浮かべ駆け込んで来た。
今日の天気は、晴れだ。
つまりは、そういうことなんだろう。
「響、着替えは置いてる。俺ので悪いがな。風呂が溜まるまで、シャワーでもいいから温まっとけ」
「……うん、ありがとう」
一先ず響を風呂に送り出す。
「……未来、悪いが」
「うん、分かってるよ」
響が風呂場に入ったのを確認して、未来が脱衣所に入って、響に声をかける。
俺は、ドアを閉めて、扉越しの二人きりにしてやる。
どの道、今の響のそばには、誰かが居てやらねばならない。
それぐらい、今の彼女は、傷付いているのだ。
再び、店の中に静寂が訪れた。
テレビから流れる雑音と、くぐもったシャワーと二人の僅かな話声、啜り泣くようなそれだけが、俺の鼓膜を揺らす。
「……クソが」
こうしてやることしか出来ない自分の無力さが腹立たしい。
俺が持つ力は、ノイズを打ち払えても、アイツらの涙を払ってやることが出来ない。
「飯、作ってやるか」
泣いたら腹も減るだろう。
火を入れ鉄板を温めながら、慣れた作業をこなし、生地を焼き始める。
そろそろ上がってくる頃合いだろう。
「ん〜いい匂い」
「シキ君、ありがとう」
「構わねぇよ、俺には、コレぐらいしかしてやれねぇから。ほら、腹減ってるだろ?」
少しはマシな
少し腫れたその目元には、触れてやらずに。
「いつもありがとうね」
「いいんだよ、俺がしたくてやったことだ」
久方ぶりに明るく笑う響。
今の俺の、シキのたった2人の友人なのだ。
出来ることは、してやりたかった。
「くどいようだが、無理に学校に行かなくても……」
「ううん、大丈夫。へいき、へっちゃらだよ」
「響…………」
「ったく、あのザマじゃ説得力ねぇぞ」
「ちょっと、シキ君……⁉︎」
「あっははは……面目ないです」
「んもう、響まで……」
少し揶揄って、空気が少し和らぐ。
「未来は、大丈夫なのか?」
「うん、前にシキ君が教えてくれた通り、証拠を握っておけば、一先ずは大人しくするっていうのは、上手くいってるみたい。尤も、私も避けられてはいるみたいだけど……」
「いつもありがとう未来〜!」
「わっ……!もう、まだ食べてる途中でしょ?」
最近は響につきっきりで、陸上部にも顔出し出来てないようだが、響のためならと動けるのは、未来らしいといえばらしいのだが。
抱き合う2人を見守るシキの口元も僅かに緩む。
「それで、今日はどうする?」
「あー…………えっと、その……」
ぎこちなく響の視線が右へ左へと泳ぐ。
僅かにだが、頬は染まり、耳も赤い。
「え……と、そのぉ……うぅ……オネガイシマス」
「分かった、未来は?」
「うん、今日は私もお願いしてもいい?」
「一応家に連絡は入れとけよ」
暫く前、まだ響への迫害が酷かった頃。
家ですら気が休まらないと弱音を溢していた響が、弱りに弱りきった際に放った「帰りたくない」というセリフ。
それが引き起こした、シキの居住スペースでの「お泊まり会」。*1
響を挟んで川の字になって、最初こそ落ち着かないと言っていたが、横になって数刻もすれば寝入り、翌朝までぐっすり快眠。
結果、どハマりしてしまった響。
以降こうして響が落ち込んだ際に行われるメンタルケアと化していた。
部屋を軽く掃除して、布団を用意して。
店に戻れば、既におばちゃんが買い物から戻ってきていた。
「おかえり」
「ただいま、響ちゃん達泊まってくって?」
「あぁ、迷惑かける」
「良いんだよ、それであの娘が笑えるんなら安いもんさその程度」
そうやって笑うおばちゃんには、やはり頭が上がらない。
「あ、でもちゃんと
「
シキ:力があっても、どうしようもないから歯痒い系オリ主。
もしイジメの現場に遭遇した場合、主犯生徒共が血祭りダァ…。
ビッキー:ごはん&ごはんガール。心の拠り所が出来た事で原作より心身のダメージはマシ。
元気系ガールがなんかしっとりしてますね。
393:我らがビッキー大守護神。悪い虫は許せないけど、オリ主の事は信頼してる。謎が多いのにも目を瞑るぐらいには信頼してる。
しっとりした響も可愛いな〜とか考えてる。