諸葛亮孔明は紅茶を嗜む   作:白石基山

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2.諸葛亮孔明はロイヤルミルクティーを嗜む

「白蓮ちゃんのお世話になろうと思うの!」

「その……どなたでしょう。今のは真名だと思うのですが」

「ああ、ごめんね? 白蓮ちゃん、性を公孫、名は賛、字が伯珪。今、幽州啄郡の領主をやってる学友なんだー!」

「なんとそのような人物が」

 

 

 公孫賛伯珪。降伏させた烏桓族から騎射のできる兵士を選りすぐって、白馬に乗せ「白馬義従」と名付け異民族から「白馬長史」と恐れられた対異民族強硬派だ。北に流れ込んできた30万もの黄巾軍残党をわずか2万で打ち破っている猛将の筈なのだが、恋姫においては何故か普通呼ばわりされる可哀想な人である。

 

 

「朱里ちゃんはどう思う?」

「桃香様の案、とてもいい案かと。ね、雛里ちゃん」

「そうですね。現状から前進出来ます」

 

 

 関羽に次いで聞かれた孔明は無難に返した。真名は交換済みである。公孫賛のことを考えるとちょっと可哀想な気もするが、この先何処かで敗れた後は劉備軍に合流するのだから別にいいかとも思えた。

 

 という訳で公孫賛の城まで来たはいいものの。

 

 

「うん、私たちとっても強いし白蓮ちゃんの助けになると思うの!」

「桃香の申し出はとても嬉しいんだが……その……なかなか今は懐事情が厳しくてな……」

 

 

 割と情に厚い公孫賛、渋る。どうやら本当に財政が厳しいらしい。

 

 

「だいたいなんで上の連中はクソ高い茶葉を献上品として毎回要求するんだ。おかげでこっちは火の車だぞ……」

 

 

 一人ぶつぶつ呟く公孫賛。どうしようかと劉備たちも悩み出すが、ここまで黙っていた孔明が「少し二人で話をさせてもらえませんか?」と公孫賛に提案する。公孫賛は少し悩むも、孔明が見た目が幼いことから二人きりでも問題は起こるまいと了承。そして劉備たちが出て行ったところで孔明は口を開いた。

 

 

「こんにちは。『諸葛茶家』の諸葛亮孔明です。先月納品した茶葉の代金、まだお支払い頂いていませんがいつお支払い頂けますか?」

「諸葛……!? 頼む、も、もう少し待ってくれ! この通りだ!」

 

 

 公孫賛伯珪、頭を地に付ける勢いで下げる。孔明はニコリと笑いながら羽扇で口元を隠す。

 

 

「もう少し、ですか。もう何度もそう言われてますよね? 前回も前々回もお支払いが遅れていると聞いておりますが」

「払う! 払うから!」

「ええ、ええ。もちろんです。ですが何度もこう、支払いが遅れるのは私共としましても少々困りまして。そうですね。私、実は洛陽のとあるお肉屋さんに知り合いがいまして。少し相談を持ち掛けるのもやぶさかではないと申しますか……」

「ちょ……」

 

 

 知り合いの大将軍何進にチクッちゃおうかなー。そんなことを言い出した孔明に公孫賛の顔が青褪める。

 

 

「ですが」

 

 

 口元を隠していた羽扇を少し下げる。

 

 

「我が主人、劉備玄徳は民から無理矢理税を取ることを由とはしません。ええ、私共『諸葛茶家』としても同様です」

「じゃ、じゃあ」

「ええ、相談に乗りますよ」

 

 

 孔明は花が咲いたような笑みを浮かべた。公孫賛はその花のような笑みを見て沼の底に落ちていくような気がした。蓮の花は泥の中こそ美しく咲く。

 

 

「桃香様、伯珪さん私たちを受け入れてくれるそうですよ」

「本当ー! ありがとう白蓮ちゃん!」

「トウゼンジャナイカ。トモダチダロウ」

「えへへ! 持つべきものは友達、だね!」

「ウンウンソウダネ」

 

「友情っていいですね」

 

 

 劉備と公孫賛のやりとりを見ながら孔明はそう言って微笑んだ。そんな孔明を見て、士元を除く全員が何をやったんだろうと孔明を見る。士元はその程度では今更驚かない。予想出来る範囲内だからだ。

 

 関羽はそんな孔明を見て、直感でこのままでは良くないことになるかも知れないと思った。だから関羽は少し時を置いて孔明と話をすることにした。

 

 

「朱里、少し良いか?」

 

 

 関羽から呼ばれた孔明は二人、城の中庭へ向かう。関羽から二人でとは随分と珍しいと孔明は思う。関羽は少し、言い淀んでいたが孔明と向き合い口を開いた。

 

 

「……私は立場上、兵たちの見本となる人物でなければならない」

 

 

 関羽の言葉にそれは当然だろうと孔明は頷いた。

 

 

「そうですね。愛紗さんは立派に努めていると思いますよ」

「だがな、朱里」

「はい?」

「私や鈴々は元々塩の密売に関わっていた、というのは知っているだろう?」

「はい。聞かせてもらいましたので。結局暴利を貪る商人を弾劾した結果、官史に追われたというのは非常に愛紗さんらしいかと」

「まぁ、そのなんだ。つまり私はそうあろうとはしてはいるが、裏が分からない人間という訳じゃない。軍を率いていれば汚いこともあるというのは百も承知している。だから朱里、お前一人、泥を被ろうとするな。桃香様はそれを由とはしないかも知れないが、私や鈴々も少しは頼れ。全ての泥を一人で被ろうなどとは私は許さんからな」

「……はい。ありがとうございます。愛紗さんは優しいですね」

「ふっ、友情とは良いもの、なんだろう?」

「ええ、そうですね。愛紗さんの言う通りです」

 

 

 というやりとりはあったりしたものの。

 

 結局というか、劉備義勇軍は幽州の地で大活躍したり王家御用達メンマで孔明が星こと趙雲子龍を早めに仲間に釣り出したり、街で呼びかけめっちゃ劉備義勇軍に立候補する者が溢れたり、借金の形に白馬以外の騎馬たちを大量にうば……もとい譲り受けたりして劉備義勇軍はホクホクで幽州の地を後にするのだった。だいたい孔明が悪い。

 

 

 まあそんなことがあったりしたものの。

 

 結局、この世界でも黄巾の乱は止められない。

 

 それは既に起きてしまっている飢饉や腐敗した漢王朝への不満が爆発したものだからだ。この『恋姫』においては、確かに張三姉妹が『太平要術の書』による妖術を行使したことによる暴走が呼び水となった結果なのだが、どのみち黄巾の乱は起こるし鎮圧もされる。今すぐ全国民に食糧を与えることが出来れば別であろうが、無い袖は振れないし結局王朝に対する不満は何処かで爆発するのだから。

 

 

「えっとぉ……、それでその、諸葛亮さんはなんで私たちを訪ねてきたのかな?」

 

 

 それは漢王朝に対して反旗を翻した黄巾党の首謀者の1人になる筈だったアイドルユニット「数え役萬☆姉妹」三姉妹の長女、張角『天和』の震える声だった。

 

 何故か急に劉備義勇軍を離れた孔明は、いきなり三姉妹を訪ねてやってきた。孔明は目の前に立つ三姉妹をよそに椅子に座り、優雅に自分で淹れたロイヤルミルクティーを啜っている。

 

 古代中国では五世紀頃に北方遊牧民から乳製品の技術が伝わったとされている為、牛乳使ってるとかどうなってんねんという突っ込みは『恋姫』の一枚絵に出てくるお菓子類やお菓子作りを見るに乳製品が無いと多分無理なのできっと普通に流通してるのでセーフ。

 

 

「そうよ、いきなり来てやっと手に入れた『太平要術の書』を破くなんてなんてことをする……ひぃっ!?」

 

 

 次女、張宝『地和』はちらっと発言した自身をちらっと孔明に見られただけですくみ上がった。見た目は本当に可愛い孔明がちらっと見ただけである。ただ、地和は妖術師としての目線から目の前の孔明を怪物だと断定した。

 孔明に何かを、地和だけでなく三姉妹とも感じていた。

 

 

「姉さんやめて」

 

 

 迂闊なことはしないでと口を挟んだのは末妹、張梁『人和』である。冷静なフリをしているが、彼女にしては珍しく冷や汗だらだらである。

 

 

「いまいち売れない旅芸人」

「はっ?」

「姉さんやめて」

「いきなりやってきて私たちの『太平要術の書』を破って暴言? 誰だか知らないけど何様よあんた!」

「姉さんやめて!」

 

 

 茶を啜りながら一言、たった一言呟いた孔明の一言に反応した地和を人和が止める。天和は孔明に対して笑顔を崩さないようにしていたが、背中が冷たく感じていた。

 

 ちなみに孔明は本当に何もしていない。ただ自分で淹れたロイヤルミルクティーを啜っているだけである。ロイヤルミルクティーは、英国と見せかけて実は日本発祥の飲み方である。紅茶花伝最高。

 

 

「えっとぉ……」

 

 

 意図が読めず混乱する天和に、孔明がスッと一枚の紙を差し出した。現代でそれを名刺という。その名刺を横から取った地和が驚いた。

 

 

「へっ? え、あの『諸葛茶家』の諸葛亮孔明さん!?」

「ええ!? ……って誰かなぁ?」

「天和姉さん、『諸葛茶家』のお茶っていえば全国の諸侯や豪族がこぞって買い求めていて、その茶葉の購入の為に信用取引っていう方式で茶券を販売、その茶券も高騰してるっていう……」

「人和ちゃん、お姉ちゃん難しいこと分かんないよぉ」

「じゃあ昨日食べた『饅頭』あるでしょ? あれ『諸葛茶家』が庶民向けに開発した飲茶よ。いま全国どこの街にも『諸葛茶家』の饅頭屋あるでしょ? その饅頭も諸葛亮さんの発案なのよ」

「色んな味があって美味しいよねー。あ、『諸葛茶家』さんかー! 若い女の子に大人気だよー! えっと……、それでその諸葛亮さんが私たちに何のようかな?」

「そうよ! それで何で私たちの『太平要」

 

「だまらっしゃい! これも全てビッグ・ファイア様の御意思なのです!!」

 

「「「ひぃ……!?」」」

 

 

 ティーカップを置きカッと目を開いた孔明は三姉妹を一喝し、孔明の持つ羽扇から炎が上がった。張三姉妹は恐怖ですくみ上がった!

 

 

「あ、ちょっと待って下さい。一番表に出しちゃいけない記憶が出てきちゃいました」

「「「……」」」

「こほん」

 

 

 可愛いらしく咳き込む孔明。まったく誤魔化せていない。

 なにびっぐふぁいあって? 何で怒鳴られたの? やっぱりこいつやばいってと三姉妹はついに逃げる算段をし出す。

 

 

「地獄の歌姫、音は揚子江の濁流のように流れ込む」

「……へ?」

「それはそれは楽しい日々の記憶があります」

「……あ、へえ、そうなんだー」

 

 

 目を瞑り、何かを懐かしむ孔明。いや何かを懐かしむ程の歳じゃないでしょと三姉妹は言いたくなるも、孔明を見ると何故か言葉にするのは憚られた。

 

 

「率直な意見、素直な感想は生きているうちに語ってこそ。貴女たちの歌は素晴らしいです。『太平要術の書』なんてモノに頼る必要なんてないんです」

「でもね、私たち、そのー」

「言いたくないけど、さっきアンタが言った通り売れてないの! キッカケが必要なの!」

「……そう。幸い私たちは妖術が使える。使えるものは何でも使わないと」

「必要ありません」

 

 

 孔明は断言した。

 

 

「いやあのね?」

「必要ありません。私が貴女たちを導きましょう。幸い、そういった経験もあります」

「何を言っているの?」

「この歳で『諸葛茶家』を築いた智謀で貴女たちのまねー……軍師となって差し上げます」

「え!? いいの!? それって『諸葛茶屋』の後ろ盾を得るってコト!?」

「如何にも」

「天和姉さん!」

「やったね地和ちゃん!」

「……ちょっと待って。見返りは何? いくら何でも虫が良すぎるわ」

「え、あ、そうだねー。あの、お金とかないよー?」

「あと身体は売らないわよ!」

「そうですね。見返りは……」

 

 

 

「というわけで、今日から劉備義勇軍に合流しました『数え役萬☆姉妹』の三人です。仲良くして下さい」

「わー、宜しくね!」

「え、あ、はい。宜しく、お願いします……?」

 

 

 ちょっと用事があると言って消えていた孔明が旅芸人を連れて帰ってきた。孔明の奇行に既に慣れつつあった劉備義勇軍一同は三姉妹を素直に歓迎した。劉備が普通に歓迎したので、むしろ三姉妹のほうが困惑したくらいである。

 

 

 

 張角という男性、が創始した太平道という道教系宗教教団による貧しい農民を中心とした、後に黄巾の乱、と呼ばれる漢王朝を揺るがすこととなる大乱が起こった。起こったのは起こったし、一応漢王朝を揺るがす規模でもあるにはあるが、そして誰も知る由もない話ではあるのだがそれは本来起こる筈ほどの規模より何故か少し規模が小さかった。

 

 黄色の布を被って参加したであろう野郎共がどこかのアイドルにうつつを抜かしていたとかなんとかかんとか。

 

 ともあれ、『太平清領書』と呼ばれる教典を手にした張角(男)をなんやかんやあってついに追い詰めた諸侯に混じる大所帯の劉備義勇軍。

 元々魅力チートな劉備に張三姉妹まで加わると人がアホほど寄ってくる模様。

 

 そしてそこで気付いてしまった孔明。

 

 

「……あれ、御主人様、何処の陣営にもいない? ってことは漢ルート?」

 

 

 好き放題しててもどうせ何らかの修正力が働いてなんやかんや丸く収まると思っていた孔明。多分その修正力とやらがあんまり働かなそうなことについに気付く。黄巾の乱は起こったけどね。

 

 

「はわわ……」

(あ、朱里ちゃんのはわわ、久しぶりに聞いたな)

 

 

 素が出た朱里を懐かしむ雛里。孔明の明日はどっちだ。

 

 そして行く先々の訪れる街で三姉妹が歌い、全国に彼女たちのファン『ビッグ・ファイア団』と呼ばれる組織が出来上がったのはまた別の話。

 

 

「「「全てはビッグ・ファイアの為にー!!!」」」

「「「「「ほわああああ!!!」」」」」

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