メアリー・スーは踊りたくない 作:弐尾兎
「メアリー・スーってズルくない?」
「メアリー・スー? ポーラ・スミスの?」
「誰それ?」
「スタートレックの二次創作小説を書いた人だよ。トレッキーのおとぎ話って題名の。知らない?」
「スタートレックって?」
「そこから!? ボクもそんなに詳しくないけどスタートレックは簡単に説明するとSFモノのテレビドラマが初出のメディア・フランチャイズだったよ」
「ふーん。じゃあそれとメアリー・スーの関係は?」
「それはさっき言った小説内で出てくるオリジナルヒロイン! 弱点なんてない、皆から一目置かれた愛されヒロイン。ボクたち思春期を迎えた少年少女が、一度は憧れるであろう非現実的な理想そのものが彼女という存在かな」
「随分物知りじゃん」
「たまたまだよ。たまたま覚えておいた知識の中に入ってたに過ぎないから」
「へぇー……でも、それは元ネタじゃない? 私の想像したものとはちょっと違ったよ」
懇切丁寧なボクの説明は彼女の顔を見るに的外れなものだったみたい。
「なら、キミの想像するメアリー・スーは何なの?」
「色々な作品に現れてはしっちゃかめっちゃか掻き回す破壊者?」
「それまた随分な物言いと言うべきか、言い得て妙と言うべきか非常に明言し難いね」
それでも、言わんとしてることは分からなくもない。確かにメアリー・スーや
しかし、大人になってメアリー・スーの出る物語を読んでみるとハマる人はハマるのもまた事実。
それにさ、海外でメアリー・スーという概念が誕生しているのだから、日本だとそれを娯楽として楽しむ人は多いんじゃないかな。漫画とかアニメがあるし。
オリジナルヒロインないし、オリジナル主人公とか誰しも考えたことはあるのでは? 『ぼくのかんがえたさいきょうの〇〇』みたいなものもそうだ。それもまた、一種のメアリー・スーマニアだとボクは思う。解釈の一つだけどね。
「だってさっきの説明通りなら、メアリー・スーって生まれた時からイージーモード確定じゃん!」
「それはそうだよ。書いてる人が『こうなりたい、こうありたい、これはこうしよう』ってイメージした内容をメアリー・スーっていう仮面をつけて踊ってるだけなんだから。自分として生きてるメアリー・スーを不憫な目に遭わせたくないなんて思うのは自明の理なんだから。だから自ずと、理想的なヒロイン、主人公にグレードアップするんだよ」
もしも只管にメアリー・スーを痛め付ける書き手がいるんだったらよっぽど自分自身を罰したいのか、ただの変態かの二択だと個人的には思う。
「じゃあさ。メアリー・スーは現人神なのかな?」
「ふむ……確かに。書き手自身をメアリー・スーに憑依させるならその表現は間違ってないかもね。でも、物語の筋書きを決めるのはメアリー・スーではないよ」
「それはどうして?」
「もしもこの世界が物語……そうだね。キミとカレの恋愛模様を描いたバトル系ラブコメ小説だったとしよう」
「ふぇ!? ちょっ! ちが、違うよ!? レン君とは、そ、そんなじゃないよ!?」
誰もレンとは言ってないし好きバレで動揺し過ぎだよとは可哀想だったので胸の内に閉まっておくことにしよう。ボクは恋に一直線な女の子はとても好ましく感じるからね。
「仮定の話だから落ち着いてよ。カレには内緒にしておくから」
「うぅ……本当にレン君に言わない?」
「一度でもボクがキミに嘘を吐いたことあったかな?」
「沢山あったじゃん……」
「レン! 実はカノジョが──」
「ごめんごめんごめん!? うん! 一回もないよ! 一回もないから! 清廉潔白だから静かにして!?」
後頭部から前方へ押されて、カノジョの豊満なマシュマロに抑え込まれちゃった。
もにゅんと擬音が出そうな程に……絶対出てるよコレ。むにゅんくらいは出てそうだよね! それぐらい、すんごく柔らかい。
女の子最大の神秘を顔面で受け止めたボクはこのまま落ちてしまったら極楽浄土も夢ではないと本気で感じてしまうよ。
「……ぷはっ、冗談が過ぎたね。危うくこの世で最高峰な窒息死を迎える所だったよ。必ず死ぬと、その胸を掛けて『
「怒るよ?」
「ごめんなさい」
目が本気だったので潔く謝罪するボク。遊び過ぎるのも限度があったようだね。以後ちょっとだけ気を付けよう。
「それで……なに話してたんだっけ?」
「ボクが例え話をしようとしたところだ」
「そうじゃん! 続き続き!」
「話を脱線するキッカケになったキミに催促されるのは少々イラッとしたけど……まぁいいか。この世界が物語の世界だとして、その上、さらにメアリー・スーがいたとしよう。さて、こうなった場合、メアリー・スーであるカノジョはどんな人物になると思うかな?」
ボクは大方答えは出てるけど、カノジョは両腕で頬杖をついてしどろもどろになっていた。恥ずかしがっていたとも言うかな。
「むむむ? うーん、私が……ひ、ヒロイン? なら、主人公が……れ、れ、レン君じゃん?」
「それで?」
「あぅ。……もしメアリー・スーがいるなら、学園でもとびっきりの人気者で、私の恋のライバルポジションってことになる?」
「そして最終的に結ばれるのはメアリー・スーになるね。いやはや、そうなった場合ボクは如何様にしてキミを慰めようか」
「もしもの話だよ!? 絶対にレン君は渡さないから!」
「その気持ちを本人にぶつければ万事解決じゃないかな」
途端にカノジョの顔が真っ赤になって撃沈してしまった。美しいほどの自滅で見ていて惚れ惚れするよ。
最早様式美になりつつあるカノジョの暴走特急は一生飽きないので是非とも続けて欲しいな。
「今ものすごく失礼なこと考えたでしょ?」
「うん? いやいや、ボクにしてみれば激励の想いをキミへ贈ったつもりなんだけど」
「それ絶対に変なこと考えてんじゃん!」
「キミにとっては、じゃないか?」
のらりくらりなボクの発言に「あー言えばこー言う!」と頬を膨らませてプンスカさせるカノジョ。
そのような可愛らしいリアクションを取るから学園内にファンクラブなんてものが存在するんじゃないの? おっと、これ以上は薮蛇だったよ。
「つまるところ、少しばかり揶揄い混じりもあったけど……メアリー・スーという存在とは、先程キミが主張した通り、本来の世界の筋書きに異物を投じて滅茶苦茶にする破壊者に他ならない。最も、断罪なんて不可能だし、誰もその正体を知り得ない、という神様の御加護を持たされているからね」
「無自覚の破壊者……そう思うと、ちょっと哀れに思えてきたかも」
「哀れだって?」
「だってそうじゃない? 神様の都合で勝手に生かされて、何も知らないのに物語を壊して、それによって救われる人もいれば、その逆もいるってことでしょ? メアリー・スーって女の子ただ一人にその責任を全部押し付けるのってものすごく身勝手じゃん」
メアリー・スーは哀れで、神様は身勝手。
そう決めつけたカノジョはきっと、神様に悪感情を抱いていると誰もが思うんじゃないかな。人の機微に疎いボクがそう感じる取るのも当然。
だってカノジョの言葉はやるせなさと悲痛さで端正な面を歪ませていたんだから。
幼少の頃からの付き合いの長さも、もしかしたら納得の要素の一つかもしれないね。解釈の一つなんだけどさ。
「そうだ。ずっと聞きたかったんだけど、どうしてボクにメアリー・スーについて聞いたの?」
「ふぇ? あーえっと、その……」
「そんな悩むようなら無理に答えなくていいよ。キミの事だから特に理由とかないんじゃないの?」
「え? ……あー! うん、そうだったかもなー!」
おっと予想が外れたみたい。
相変わらず誤魔化すのが苦手なカノジョだ。純粋なカノジョにはそういった謀は出来ないのは当然の帰結だったね。
心配せずとも、話せないよと一言言ってくれたら納得するのに。まぁ、人を傷つけたくないであろう優しいカノジョらしいと言えばらしいかな。
「そ、それにしても! 勿体ないなぁ。せーちゃんものすごく可愛いのに好きな人いないじゃん?」
「露骨な話題逸らしだね。乗ってあげるよ。ボクが可愛い? キミのお世辞には涙が出るよ」
「お世辞じゃなくて本当のことだって! 私が男の子だったらせーちゃんのこと好きになっちゃってたかも!」
「冗談でもそんな発言を口走らないでよ。キミのファン達を興奮させてしまうよ」
「なんで?」
こてんと首を傾けるカノジョの行動一つ一つが愛らしいのは常識中の常識ではある。
……見せるべき相手を履き違えてるという一点に目を瞑ればその行為は完璧だったんだけどな。
こんなちんまいで幼女
「なんでもどうしてもないよ。……ついでに言うと、ボクは男性
ボクの宣言を聞き入れた数人のクラスメイトが崩れ落ちている。えぇ? それは流石に嘘って言ってほしいよ。地味にその総数が多いことにかなり恐怖を感じたよ。
「あ、あはは……あれ? でもせーちゃん今、男性とのって言った? じゃあ、女の子とのお付き合いは別ってこと?」
「…………。黙秘権を行使するよ」
やっべ。口滑らせて思わず欲望が……げふんげふん。
ボクの実質答えとも言えるアンサーに先程塵になったクラスメイトが続々とその姿を人型へと復元させて盛り上がっている。キミ達人間じゃなかったんだね。
「大丈夫だよせーちゃん。私も初めてせーちゃん見た時はレン君と同じくらい胸がドキドキしてたもん。きっとすぐに良い女の子が見つかるよ!」
「勘違いしないでね? 決して、ボクはまだ交際したいだなんて声を大にして言ってない。憶測だけで状況判断をするのは悪手だからね?」
「もー分かってるって! 恥ずかしいんだね。私も同じ気持ちだったから分かるよ!」
「何一つ理解出来てないよ?」
カノジョは稀にボクの理解に及ばない突飛な考えをひけらかす。はぁ……これもまた、解釈の一つなんだけどさ。
どう否定しようかと材料を探していると学園に設置されたチャイムが耳に届いた。
「あ、休み時間終わっちゃた。次の授業の準備で私先生に呼ばれてるから行ってくるね!」
有無を言わさず背中を向けて去っていったカノジョ。全く、もう少し人の気持ちに寄り添うことを覚えていただきたいね。
さてと……ここだけの話。蛇足ではあるけど、ボクはさっきのカノジョとの会話の中でいくつか嘘をついた。
一つ、ボクはこの世界が物語だったらと仮定の話をしたが、
この世界はとある物語が始まる前、原作前と表現した方が適切かな。
二つ、メアリー・スーには断罪が不可能だと言ったけど、それは嘘だよ。直接手を下されることはないけどね。
三つ、この物語にメアリー・スーがいたとしても、その子はきっと、仮面を被ることは絶対に望まないだろう。
それがメアリー・スーだと自覚してしまったカノジョの贖罪なんだからさ。
せーちゃんの本名は判明するまでかなり時間がかかると思いますので、どんな名前が予想しながら是非とも拙作を楽しんでください。
ウサギは評価や感想がないと弱ってしまいますが……私はウサギですので……く だ さ い (迫真)
ハーメルンは初動が大事ってばっちゃが言ってた。