メアリー・スーは踊りたくない 作:弐尾兎
初めまして、かな? いや、きっとそうだ。そうじゃないなんて、考えたくない。
考えることを放棄したボクは思考を燃やして暖を取りたいから結論は早くつけたいんだ。……はい、キミ達とボクは初対面の人だね。
それならボクを知らない人が多いよね。
だから、急ではあるけど簡単な自己紹介をしようかな。
最初はオーソドックスに名前から……と、言いたいところだったけど名前については割愛しようかな。これといって特に省くことに理由は無い。強いて言うなら気分が乗らなかったってとこかな。
とはいえ、それじゃあ呼び名が分からないよ。みたいな、話し始めてから数秒にも満たないのにボクのことに興味を持ってくれた人が……いると思いたいから、呼び名を考えたいな。
とはいえ、既に呼ばれ慣れた名前というものが存在しているボクからしてみれば、それを思考の海から引き揚げるだけの労力なので思考時間としては刹那にも及ばないんだ。一緒になって考えてくれた人はごめんね。
とはいえ、最初からこれを名乗れば良かったと気づいたところで後の祭り。無駄に時間を浪費してしまったことに軽いショックを受けたけど、致命的なミスって程でもないし、ヨシとしようかな。
さっきから同じような語り出しで飽き飽きする人が続出してると思うけど、人間なんて会話を続けていくと『だって』とか『あー』みたいな無意識で発してしまうフレーズだらけになるよね。それと同じ要領で受け取ってほしいな。ボクは意識して連呼してたけど。
そうそう。肝心の名前だったけど、ボクを取り巻く環境に、共に身を置いているクラスメイト達からは親しみもへったくれもあったものじゃないけど、気軽に『せーちゃん』と呼ばれているよ。
こういうのはそう呼ばれるようになったキッカケだったり名前の簡略化だったりするパターンが多いらしいけど、ボクにはそのどちらも心当たりがないんだよね。
クラスメイトであり、ボクの友人の肩書きを
キッカケと言っていいのか判断しかねるけど、発端となったのはカノジョであることに間違いはないね。だからと言ってどうもしないけどさ。
年齢は十二歳。性別は女の子。俗な表現をするなら今年からJCの身分になったよ。
……別段年齢や性別とかは秘匿することでもないからさ。ここら辺はパパっと済ませちゃおうね。
十二歳といえば思春期だったり、恋に恋するお年頃……とのことらしい。
けどまぁご縁どころか、恋愛に対してのスタンスは特に考えていないボクからしてみると『ふーん、そうかい』で軽く流してしまうくらい、ぶっちゃけてしまうと興味がない訳さ。
さて、と。
次に語ろうと思うのはこの世界についてかな。
結論から言ってしまうと、この世界はとある物語を主軸として構成されているのさ。
そして、ボクみたいな存在はその世界では本来登場しない人物で、サブカルに毒された表現に言い換えるならオリジナルキャラクターの立ち位置にあたる存在なんだ。
冷静になって考えてみるとこんなことを
しかし残念ながら……今言ったことは純然たる事実で、この世界は現実ではあるけど架空でもあるという矛盾した世界なんだ。
これを証明する手立てはあるにはあるけど今は時期が悪いので、またの機会にしておいて欲しいね。具体的には二日後の夕方ぐらいかな。
現実的な要素を挙げるなら、ボクのみならず、こうして生活を営む人類の姿がその証明に他ならないよね。
じゃあ架空的な要素……絵空事と鼻で笑ってしまえるような要素を挙げるなら、この世界では誰かの願いを救う為の戦いが日夜、水面下で繰り広げられていることだね。
このカミングアウトについてキミ達はこう思ったよね。それは一体全体どういうことだろう、と。
そんな疑問が尽きないとは思うけど、うん。話し始めるとキリがないから二度目の割愛をしよう。
何を今更と怒られそうだけど、ボクは説明や解説をするのが苦手なんだよね。
今でこそ、こうやって喋り続けてるけどね。ボクは基本的に少ない手間で物事をこなしたいからさ。こうして長々と場繋ぎみたいに話すのは今回限りにしたいな。
さてと、苦手なことに向き合い続けるのは一先ずこれくらいにして。
「そろそろ通してもらえないかな。キミの無駄に大きい図体が進行の妨げになっているからさ」
『あァ!? お前が行く道は冥途だけなんだよォ!』
俺こそが上位存在! と、息巻いている凡そ人外と言っても差し支えない生物がボクの家へのゴールを邪魔していた。
うーん。コレについて説明するのもまた次の機会で構わないかな。多分すぐにやってくるからさ。
「どうやらキミは日本人が備わっているであろう譲り合いの精神とやらが欠落しているどころか、人が人たらんとする意思の疎通すらまともに取れない可哀想な生物なんだね」
『──死ね』
いつもの帰路に着いていたのに気付けば絶体絶命な瞬間。この場合、『キャアアア!?』って悲鳴をあげるべき場面かな?
でも、そんな叫んでる暇あったらとっとと回避行動を取るのが吉なんじゃないのかなって、しみじみ思うよ。
ボクがこうして落ち着いていられるのは、別に迫り来る死を悟ったわけじゃないよ。
もしも一般人が喰らえばスプラッタ待った無しになるような凄絶な最期を迎えてしまう、圧倒的物量による攻撃。
質量保存の法則なんてクソ喰らえとばかりに肥大化したその拳は常識の範疇に収まらない超常現象で驚くべきことだよ。
もう、いいか。そろそろ当たってしまうしね。
じゃあ終わりを待ってるのではないのなら考えられる理由は絞られるよね。
「答えは、そう。対処法を既に施行済みだったからさ」
『ッ!? グッ!? ギャアアアア!? 俺の腕がァァァァ!?』
「おやおや? 痛みは感じないハズだけど。どうしてそんな風に悶え苦しんでいるのかな? おかしいね。確かに、キミの怒り任せに振るわれた一撃はボクが恒常的に展開している魔法防壁に接触して、
目の前の生物は痛覚が既に無いことを把握したのかボロボロと崩れ落ちる腕とボクを交互に見ていた。
ボクの言った言葉をどのように解釈したのか知らないけど、顔を青褪めさせてガタガタと歯を鳴らしている。
そこにはさっきまでボクに『死ね』とか嘯いていた威勢の良さは見る影も無かった。
『ひ、ひっ!? ゆ、許してくれ! 悪気があった訳じゃないんだよ!』
「それはボクだって同じさ。悪意を持ってキミを
『い、嫌だ、嫌だぁあぁ!? こんな、こんな終わりなんて……あんまりじゃ──』
腕から始まった形状崩壊は肩に到達した途端、唐突にその勢いを加速させた。
みるみるうちにその立派だった巨躯を消失させてなくなってしまったよ。
……加速するようにセッティングしたのは遥か過去のボクなんだけどどういう意図でこんな性格が悪い仕様にしたんだろうね。
「あ、バイバイし忘れちゃったな……まぁいっか、ちゃっちゃと帰ろう帰ろう」
とんでもない非日常に巻き込まれたと思われそうだけど、ボクからしてみれば見慣れた……とは言わずとも、初めてじゃない光景なので取り乱すような痴態はしないよ。
かと言って、毎度毎度こんなイベントが発生するわけでもないも事実ではあるけどさ。今日は偶々、道端に一円玉が落ちてたぐらいのちょっとしたハプニングだね。
おっと、もう手遅れかもしれないけど自己紹介を上手くまとめられそうだよ。長ったらしいのじゃなくて、簡潔にね。
ボクはせーちゃん。【
こんなボクだけど、これから長い時間付き合っていく仲だからさ。
ね、よろしくしろよね。
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