のんのんびより ― ある田舎男子の日常 ― 【ばけーしょん編更新中】 作:NIZI
このみちゃんの弟になって越谷姉妹とお隣さんになりたいだけの人生だった…
第1話 転校生が来た
オレの名前は富士宮よしお 十五歳。
中学三年生で今年受験生。思春期ど真ん中の、どこにでもいる田舎の男子だ。
家族はオレと両親と三つ年上の姉の四人家族――
都会に憧れる、極めて普通の毎日を送っている。
朝はいつもオレ一人。姉は部活の朝練、両親は共働きで早く出て行くため、家の中は静まり返っている。
顔を洗い、髪を整えて制服に着替え、鞄を持って外へ出る。そして今朝も“日課”として 隣の家 へ向かう。
越谷家。ほぼ毎日来ているのでチャイムは押さない。どうせ開いている。
「なっちゃん、入るぞー」
靴を脱いで上がり、部屋へ向かう。
案の定――いや、確信していた通り、訪ねた部屋から小さな寝息が聞こえる。登校日の朝とは思えないほど平和な音だ。
越谷夏海、十三歳。
家が隣同士の幼馴染で今年から中学一年生。元気で雑で大雑把。そして朝に弱い。
俺は静かに扉を開ける。布団の山。そこから飛び出した豪快な寝癖。放っとけば一時間後も同じ姿勢だろう。
「なっちゃん、もう起きないと遅刻するぞ」
声をかけると布団がもぞもぞ動き、くぐもった声が返ってくる。
「……よっくん、あと十分だけ……」
まるで子犬。いや、犬のほうがまだ素直かもしれない。
「雪子おばさんに叩き起こされたいならご自由に」
――ババッ!
布団が跳ね、夏海が寝癖のまま飛び起きた。
「お、おはよっ! 起きた起きた! 今起きました! よっくん!」
「……最初からそうしろよ」
なんだかんだ言いながら、こうして彼女を布団から引っ張り出して一緒に登校するのがオレのルーティン。
このやり取りは、オレも毎回少しだけ楽しみにしてる朝の“儀式”だ。
目的を果たした俺は台所へと向かう。越谷家の空気は、自分の家より落ち着く気がする。産まれた頃から世話になってきたからだろう。
その台所で、越谷家の母・雪子おばさんが丁度ご飯をよそっていた。
「いつも悪いねぇ、よっくん。朝ごはん食べてく?すぐに出すから」
優しい笑顔を向けられると、自然と背筋が伸びる。
「いただきます。おばさんの料理大好きなんで」
「まぁ、嬉しいこと言ってくれるねぇ。好きなの何でも食べんさい」
漬物と味噌の香りが広がり、思わず腹が鳴る。
その背後から、まだ寝癖の夏海がぶつぶつ言いながら現れた。
「ウチ、身だしなみ整える時間欲しいんだけど……」
「顔洗って寝癖直すだけなら三分とかからないだろ。朝ごはん抜くほうがキツいぞ」
「男のよっくんにはわかんないかな? 女の子の身だしなみは時間かかるんだよ」
すると雪子おばさんが即座に入ってくる。
「なら、間に合うように自分で起きなさいな。全く、普段からだらしない癖に身嗜みとかよく言えたもんだよ……」
「お、怒らんでよ、母ちゃーん……」
彼女がしぼんでいく姿に、思わず笑ってしまう。越谷家の朝は、元気で、騒がしくて、そして温かい。
――俺にとって、この味噌汁はただの味じゃない。
小さい頃からずっと変わらない、安心する味だ。血は繋がっていなくても、この家の人たちは俺の生活の大切な一部。箸を持ちながら思う。
こんな朝が、ずっと続けばいいのに、と。
朝食を終えたよしおと夏海は、息を弾ませながらバス停までの道を急いでいた。ひんやりとした朝の空気が、ようやく目覚めた頭をすっきりさせてくれる。
「バス来るまであと五分くらいだよ! よっくん急いで!」
「だから言ったろ!もっと早く起きろって!
文句を言い合える余裕がある辺り、まだ本気で焦ってはいない二人。
田んぼ道の真ん中を並んで走っていると、前方に赤いランドセルを揺らしながらリコーダーを吹いて歩く小さな影が見えた。
宮内れんげ。七歳。分校へ入学したばかりの小学一年生だ。
「あっ、おーい! れんちょーん!」
夏海が大きく手を振る。二人で駆け寄ると、れんげはくるっと振り向く。
そしてツインテールを揺らして元気いっぱいに声を張った。
「にゃんぱすー!」
風が田んぼを揺らし、稲がさわさわと波立つ。
その真ん中で、よしおはぴたりと動きを止めた。
「……にゃん、ぱす……?」
まるで意味が分からず反射的にオウム返しする。
隣の夏海が堪えきれず吹き出した。
「よっくん、それ“おはよう”って意味だよ」
「お、おう……おは、よう……? にゃんぱすー……?」
よしおはぎこちなく返すと、れんげは満足げにこくんと頷いた。
「うむ!」
「通じたんだ!?」
よしおが素でツッコむと、夏海は腹を抱えて笑い出す。
「なーに、れんちょん語わかんなかったのー? もう村の標準語だよ?」
「んなバカな!どこの世界の標準だよ!」
田んぼの真ん中で響いたよしおの叫びが、カエルの合唱に混ざって遠くまでこだました。
れんげはそんな二人をのんびり見つめながら、再びリコーダーを口へ運ぶ。
「ふたりとも、朝から元気いっぱいなんな」
ピィ、と柔らかい音が青空へ溶けていく。よしおは苦笑しながら、笑い転げる夏海の頭を軽く小突いた。
「お前なー、れんげの言葉を方言みたいに言うなよ」
「えー、でも“にゃんぱすー”って便利じゃん。街でも言ったらびっくりされるよ?」
「それ村の恥さらしだろ……」
れんげと合流した二人。バスが来るまで余裕があるわけではない。しかし走る必要もなさそうだった。歩幅をれんげに合わせた一向は、ゆっくりと田んぼ道を進み始める。
「はぁ〜……こんなに天気いいのに、今日も学校かぁ……」
夏海が両腕を伸ばして空を仰ぐ。朝の時点で彼女は既に“やる気スイッチ行方不明”だった。
「ウチはピカピカの一年生だから楽しいのん!」
れんげが胸を張って宣言する。その声は澄んだ空気をひときれ切り取るように爽やかだった。
「楽しいのは今のうちだけだよ〜」
夏海はため息混じりに、れんげの頭を軽くぽんぽんと叩く。
「学校生活ってのはね、大変なんだよ。宿題とか、テストとか、宿題とか……」
その言葉に、よしおが苦笑いを浮かべながら口を挟んだ。
「オレは成績表配られる時の緊張感が未だにダメだわ。判決待ちの囚人って、きっとあんな気分なんだろうな……」
遠い目をするよしおに、夏海も「分かる!」と力強く頷く。
やがて、村のバス停が見えてくる坂道に差しかかる。遠くで牛が鳴き、どこからか鶏の声が混じった。
時間の流れはゆったりと遅く、世界ごとまどろんでいるようだ。
そのとき、れんげがふと振り返って言った。
「でもウチ、こうしてみんなで歩くの好きなん。毎日冒険みたいでワクワクするん」
夏海とよしおは思わず顔を見合わせ、照れくさそうに、でも嬉しそうに笑った。
「……そっか。なら今日も行きますか、学校探検隊!」
夏海が勢いよく言い、先頭へ歩き出す。よしおが「探検隊て」と笑いながら続く。れんげが小さく「ぱすー」と返した。
朝の光が三人の背中をやわらかく包みこむ。
どこにでもありそうで、だけどかけがえのない――春の朝だった。
坂を登りきった先に、村のバス停が見えた。白い車体のコミュニティバスが、エンジンを低く唸らせながら停まっている。
「やばっ、もう来てる!」
夏海の声と同時に、三人の足が一斉に駆け出した。
「捕まれ、れんげ!」
よしおは迷いなくれんげの身体を抱え上げ、背中へひょいと乗せる。
「おおっ!? 高いのん!」
れんげが嬉しそうに声を弾ませた。田んぼの上を渡る朝の風が三人の髪を揺らし、差し込む陽光が背中を押すように輝く。
バス停の前では、夏海の姉――越谷小鞠が両手を大きく振っていた。
越谷小鞠。十四歳、中学二年生。
小柄な体格にコンプレックスを持ち、からかわれるのは大の苦手。
よしおも親しみのつもりで“こまちゃん”と呼んで怒られた事がある。
「三人とも、早くー! バス出ちゃうよー!」
小鞠の声に押されるように、よしおは最後のスパートをかけた。
そして――ぎりぎり、飛び乗る。
「ぜぇ…ぜぇ……セーフ……」
「お疲れ様でしたん」
満足げに頷いたれんげが、息を切らすよしおの肩にそっと手を置く。
「姉ちゃん、一人で先に行くなんて酷いよ……。ウチらと一緒に家出たらよかったじゃん」
「はぁ? 嫌だよ。夏海達と付き合ってたら、いつも遅刻ギリギリになるし……」
「小鞠ちゃんや、"達"ってオレも含まれてる?」
夏海が息を切らして苦笑し、よしおは納得がいかない様子で眉を寄せる。全員無事に間に合った安堵からか、小鞠はほっと息をついた。
こうして四人は、いつもの朝のバスへと乗り込んだ。
朝の学校。気温は低く、まだ冬の名残を感じる。白い息が揺れるたび、校庭の山桜がゆるく風に揺れた。
古びた木造校舎の教室。
一早く登校していたよしおと同い年の男子生徒・越谷卓は、自分の席に座って読書をしている。
越谷卓。十五歳、中学三年生。
越谷三兄妹の長男で、よしおとは赤ん坊の頃から兄弟同然の付き合い。
やんちゃなよしおとは正反対で、物静かで冷静沈着。村で唯一の同年代の男同士、お互い気安い仲だ。
教壇の横ではストーブが赤々と燃え、木がはぜる音が静かな朝に溶け込む。
「まだちょっと寒いね」
夏海がマフラーを外しながら呟く。
「今日の教室、昨日と何か違うのん」
れんげが首をかしげると、小鞠が「何が?」と訊ねた。
よしおも教室内を見渡して違和感を覚えた。そのとき、木の軋む音とともに扉が開く。
混合クラスの担任で、れんげの姉・宮内一穂先生(二十五歳) が顔を出した。
彼女は宮内家の長女で分校の卒業生。
東京の大学で教員免許を取得後、一年前に母校に赴任している。性格は一言で言うならマイペースだ。
「おはよう。ちょっと早いけど、みんな揃ってるみたいで何より……、諸君、席についてー」
眠たげな声で微笑みながら教室に入る先生の後ろに、見慣れない影があった。
肩までまっすぐ伸びた黒髪、整った顔立ち。上品な雰囲気の“お姉さん”が、少し緊張した様子で立っている。
「あの……」
お姉さんが先生の袖を軽く引く。
「自己紹介してくれる?」
「あ、はい」
彼女は小さく頷くと、黒板の前に立ち白いチョークを手に取った。そしてきれいな字で書く。
《一条 蛍》
「えっと……
「東京!?」
小鞠が目を丸くする。
「ほたるって読むの?」
夏海も興味津々。
「初めて見たのん」
れんげも感心したように呟いた。
「何年生?」
「小五です」
「下!? 私より年下!?」
小鞠の声が少し裏返る。
よしおは思わず息を呑む。
(――小学生……だと……?いや、身長デカッ……それ以外もデカッ!)
背丈だけで見ても高校生くらい。何なら大学生だと言われても信じる。
そんな容姿に似合った大人びた雰囲気に、思考が一瞬止まる。そしてすぐに目を輝かせた。
(……やべぇ。東京ってすごい……)
クラスメイトからの質問攻めが続く中、先生は蛍に席へ着くよう促した。
そのとき、れんげは気づいた。違和感の正体――机が一つ増えていたのだ。
そんな空気の中、一時間目開始の合図として、先生は教卓の鉄琴を鳴らした。
旭丘分校の生徒は、富士宮よしお(中三)越谷卓(中三)越谷小鞠(中二)越谷夏海(中一)宮内れんげ(小一)そして今日転入してきた一条蛍(小五)の六人だけ。
全校生徒が六人しかいないため、学年はバラバラでも教室は全員一緒。授業は問題集を解く自習が基本だ。
転入生の蛍は、東京の学校との違いに戸惑いながらも、初日を過ごしている。
学生にとって一番長い昼休みの時間。
夏海、れんげ、小鞠の女子三人は蛍を連れてボールを持って校庭へ行く。
自然と教室には、男子二人――よしおと卓だけが残った。
沈黙。虫の声だけが響く。
「……なあ、卓」
よしおが小声で切り出す。卓は顔だけこちらに向けた。
「……見たか、あの子。東京から来た転校生……。いや、正直言ってな……」
よしおは胸に手を当て、遠い目をした。
「オレ、ちょっと震えたわ」
卓は首をかしげる。
「だって……あの感じ! あれで小学生なのか!? 年齢詐称もいいところだろ!」
卓は首をすくめる。
「大きくて、落ち着いてて……数学とかも『えっ?因数分解?わざわざ分解するんですか?』とか言いそうだぞ!」
よしおは思わず卓を見返す。
「東京ってすげぇな……。小五であれだぞ? こりゃもう東京の中学生とかどんな次元だよ! インフレしてるよ!」
机に手をつき、よしおはまるで世界の理を悟ったかのように真顔になる。
卓はそんなよしおを尻目に、自分の鞄から本を取り出し、読み始めた。
「そう、インフレだ。小五であの完成度なら、中学生はもう“神”だろう。高校生になれば、“概念”になってるかもしれない」
よしおは卓の読んでいる本に手を伸ばして、ぐっと詰め寄った。
「卓! 東京の女子高校生! 多分髪サラッサラで、歩くたびに背景のBGMが変わるぞ! "トゥルルル〜♪"って感じで! ひか姉は無事なのかな……?」
卓は呆れた顔でよしおを見つめる。
彼が話題にしてる"ひか姉"こと宮内ひかげは現在東京の高校在学中で、よしおと卓の一学年上の先輩だ。
れんげの年の離れた姉で、担任・一穂の妹でもある。
「ひか姉、東京に行ってるんだぞ!? 今頃都会のインフレ女子に囲まれて、きっと雑魚キャラみたいに『アイツら……一体どんな会話をしてるんだ……?』って途方に暮れてるに違いない!」
卓は呆れ顔で頬杖をついた。
「……止めるべきだったのかもな、あの時……!」
よしおは机の端を握りしめ、まるで過去を悔いる戦士のように呟く。
「俺が『行くな、ひか姉! そこから先は別次元だ!』って言えていたら……!」
卓は表情を変えず、ヒートアップするよしおの頭を軽くチョップ。
「落ち着けって!? 無理だろ!あの蛍ちゃんを見たろ!? 東京はもうオレ達を置き去りにしてるんだぞ!」
卓はよしおの肩を叩き、黒板上の時計を指さす。
よしおが振り向くと、昼休みがそろそろ終わる時間だった。女子たちも校庭から戻ってくる。
「続きは帰ってからだな……今日は家で作戦会議だ!」
卓は、めんどくさ……と言いたげな表情で溜息をつく。
よしおはそんな卓に、必殺の誘い文句をぶつけた。
「実は昨日、姉ちゃんと街に行ってオシャレなスイーツ買ったんだ。家に来たらご馳走してやるから」
学校が終わり、夕焼けが町を茜色に染め始めた頃。
校門で女子たちと別れたよしおは、卓と並んで帰り道を歩き、そのまま富士宮家の玄関をくぐった。
卓にとっても、幼い頃から何度も訪れている家で、もはや我が家同然。靴を脱ぐなり何の遠慮もなく上がり込む。
リビングのテーブルには、よしおがどこかで入手したらしい高級感のあるスイーツが並べられていた。
二人はテーブルに向かい合って座り、よしおだけが真剣な表情で身を乗り出す。
「卓、つまりオレはこの中学生活、最後の一年で――蛍ちゃんとお近づきになりたい!!」
力強い宣言。しかし卓はフォークをくるくる指先で回しながら、また始まった……とうんざりした目でよしおを見る。
「できたら……そう、カップルって呼べるレベルで!」
卓の目がさらに細くなる。お前、現実見えてる?と言わんばかりだ
「わかってる! 皆まで言うな!」
よしおは勢いよくテーブルに手をついて前のめりになった。
「この勢いで突っ走ったら、楓ちゃんやひか姉の時みたいにボコボコにされて終わりだ。
小鞠ちゃんなんて、今でも微妙に警戒されてる。あんな失敗、もう二度と繰り返さない!」
卓は眉をひそめる。
「まず振り返って整理しよう! “駄菓子屋のスカートめくり事件”。」
卓の視線が鋭くなる。
「オレもあの時は若かった! いや、幼かった! 目の前に制服で雑巾がけしてた楓ちゃんがいて、その……、スカートの中が気になっちゃって……」
卓、さらに目を細める。
「――結果、げんこつ! 漫画みたいに巨大なコブが出来た!」
よしおは痛みを思い出したように頭を押さえ、遠い目をする。
「で、次! “ひか姉に突発的告白事件”!」
卓が鼻で笑う。あれは、お笑いだったという顔。
「言いたかったのは『その服かわいい』だけだったんだ! なのに、なんか無駄にカッコつけようとして……なぜか『好きだ!』って言っちゃったんだよ!」
よしおは机に突っ伏す。
「無言で腹パンされた! あの時の記憶は、ひか姉の分も含めて今でも消し去りたい!」
気を取り直すように深呼吸すると、よしおは真剣な顔で指を立てた。
「そして最後! “小鞠ちゃんに変質者一歩手前事件”。」
卓、完全に顔をしかめる。
「いや!ほんと違うんだ! 身長差が予想外すぎて、しゃがんだら顔の位置がちょうど……その……!」
言葉に詰まるよしお。
卓はフォークを持つ手を強くして重く頷く。被害者の兄として、次やったらあの時以上にボコボコにしてやるという決意を秘めた顔だ。
「いや、反省してるんだよ! だから、なっちゃんには慎重に接してるだろ!? 距離感! 空気! 暴走禁止!」
卓の目は、お前の言う慎重は信用ならんと物語っていた。
「だから今回こそは違うんだ! 前に進むんだ! なぁ卓、お前はオレの親友だろ!? 竹馬の友だろ!? 半身だろ!? だから作戦考えてくれ!」
同い年。産まれてすぐ、乳児の頃からの付き合いである2人。
卓は顎に手を当てて、考えるふりをする。
「最低ラインでいい。蛍ちゃんに軽蔑されず、普通に笑って話せるくらいでいいんだ!頼む!」
卓は人差し指でテーブルをとん、とん、とゆっくりと叩いて息を吐く。
「そ、そうだよな! 落ち着いてアプローチだよな! わかってる! オレ、落ち着いてるさ!!」
そう言いながらも、落ち着きなくリビングを歩き回るよしお。
「贅沢は言わない。姉ちゃんとの会話ぐらいの他愛ない話が出来ればいいんだよ……」
卓はそんな幼馴染を見かねて口を開こうとするその瞬間――
ガチャリ。玄関の扉が開く音。
「ただいまー! あれ?見慣れない靴だ! よっくーん! 誰か来てるの?」
「む、姉ちゃんか……今日は早いな」
「あ! すーくん*1来てたんだ! いらっしゃい。お、昨日買ったドライフルーツ! ちゃんとお客さんに出したじゃん、えらいぞよっくん」
富士宮このみ、十八歳。高校三年生。よしおの姉。
卓にとっても姉同然の存在で、今も変わらず、お世話になっている。
「今日部活休みだったん?」
「うん、新入生テストがあるから幹部以外はオフ。自主連しようか迷ったけど帰ってきちゃった。あ、ドライフルーツ食べていい?」
「どうぞどうぞ」
このみはドライフルーツを一つ摘まみ、口に運ぶ。
「……なんか今日、機嫌いいね。よっくん」
「は? 別に普通だろ」
「そう?」
くすっと笑いながら、じっと顔を覗き込む。
「そういう顔してる時ってさ。大体、女の子関係だよね」
「なっ――!?」
よしおが思いきり動揺する。
「図星?」
「ち、違うって!」
「ふーん」
一瞬だけ、このみの視線がよしおに向いた。
「よっくん。今度こそ、変なことしないようにね?」
笑っているのに、なぜか少しだけ怖いと感じるよしおであった。
結局作戦は決まらなかったが、姉を含めた三人で食べたドライフルーツは、男二人で食べた時よりも甘く感じられた。
この日、分校に新しいクラスメイトが加わった。
富士宮よしおの、いつもと同じようで少しだけ新しい最後の一年が、静かに始まったのだった。
その時はまだ、 誰も気づいていなかった。
この出会いが、これまでの日常を少しずつ変えていくことに。
アマプラで1期を見たら意図せず徹夜して最後まで見てしまった
とりあえず熱が冷めない内にアニメ1話をベースにして原作沿いで1話を書いてみたら、それだけで連休が潰れた。
毎日のように更新してる人はバケモノか!