のんのんびより ― ある田舎男子の日常 ― 【ばけーしょん編更新中】   作:NIZI

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アニメ一期十話。
れんげと駄菓子屋のエピソードだしカットしようと思ってたけど、よしおを挟む口実が浮かんだので投稿です。

流石に駄菓子屋とれんげの過去話によしおを混ぜるような無粋な事は出来なかったので、回想シーンは挟まず。初日の出を見にいって、それから軽く初詣をするだけのゆるい話です。

前半は三人称。山頂に到着後からは、よしおの一人称でお送りします。


第12話 初日の出を見た

 二学期の終業式が終わり、冬休みに入ってからというもの、時間は驚くほど早く過ぎていった。

 

 気づけば年末も終わり、年が明けて間もない深夜三時過ぎ。

 

 静まり返った田舎の夜の中で、宮内家の玄関が賑やかだった。

 

 この家の住人である宮内一穂とひかげの姉妹は、外へ初日の出を見に行く準備を進めている。

 因みに、末妹の宮内れんげはというと、まだ布団の中でぬくもりに包まれていた。

 

「えーっと、お茶を入れた水筒にカイロに……」

 

 コートを着込んだ一穂は、手荷物を前に小さく指折り数えながら、忘れ物がないかを丁寧に確認している。

 

「姉ちゃん。そろそろ駄菓子屋が来るだろうし、直ぐに出られるようにしとこうよ!」

 

 一方のひかげは、防寒具を身に着けながら、既に靴に足を通している。寒さよりも期待の方が勝っているのか、落ち着きのない様子だった。

 

「まぁまぁ、忘れ物が無いかは、しっかり確認しないとね」

 

 そんなやり取りをしている最中、玄関の戸をトントンと叩く音が、静かな家の中に響いた。

 

「開いてるから入っていいよ」

 

 ひかげが気軽な調子でそう返すと、次の瞬間――

 

 ガラガラと勢いよく戸が開き、飛び出してきたのは満面の笑みを浮かべた変態(よしお)だった。

 

「ひっか姉~! あけおめ!」

「んな!? よしヴぉっ!!」

 

 完全に想定外の登場だった。ひかげは反応する間もなく、そのままよしおに抱きつかれてしまう。

 

「ひっさしぶり―! えへへへへ……」

 

 笑顔のまま彼女にスリスリと体を擦りつけるよしお。その無遠慮な行動に対し、ひかげは反撃に出た。

 次の瞬間、よしおの視界が傾き、腕が不自然な方向に持っていかれる。

 

「あだだっ! ギブギブギブ……!」

 

 関節技がきれいに決まっていた。

 

 

「よっす……、お前ら新年早々やってんなぁ……」

 

 呆れた声とともに現れたのは、駄菓子屋の楓だった。その視線には、慣れた諦観が含まれている。

 

「コイツが仕掛けてきたからだよ……、なんでお前がここにいるんだ?」

 

 関節を決めたまま、ひかげはよしおに問いかける。

 よしおは涙目になりつつも、必死に説明をした。

 

「その……、楓ちゃんが一穂さんとひか姉と初日の出を見に行くって言ってたから、行きたいって頼んだんだ……。

 オレもひか姉と一緒に行きたかったから……、言わせんな! 恥ずかしい……」

 

 しどろもどろになりながらも、本音をはっきりと口にするよしお。

 

「いきなり抱き着いておいて、恥ずかしがる所そこか……?」

 

 ひかげは呆れたようによしおに視線を向けるが、ふと時計を見て我に返る。

 

「って、こんなバカな事してる場合じゃない! 早く出ないと初日の出が終わっちゃう……!」

「ちょいと待っててね、カイロ取りに行くから」

 

 一穂がそう言って家の中へ戻ろうとした、その時だった。

 

 廊下の奥から、ぱたぱたと小さな足音がして、パジャマ姿のれんげが姿を現した。

 

「おやおや、れんちょん。いつの間に起きてたの……?」

 

 眠そうに目を擦りながらも、れんげははっきりと口を開く。

 

「ウチも行くん……。初日の出……行くん!」

「えっと……、まだ夜も遅いし、もう少し寝てなよ……」

 

 一穂は困ったように言葉を選ぶ。

 

「もういっぱい寝たん。ウチも初日の出見に行くん!」

「れんげ、山とかも登るんだよ……? 今回は家でお留守番してなって……」

 

 その言葉にも、れんげは引き下がらない。

 

「お留守番イヤ……。駄菓子屋も初日の出行くん?」

「まぁ、先輩達誘ったの私だし、行くけど……」

 

 楓の返答を聞いた瞬間、れんげは寒さも気にせず、近くにあったサンダルを履くと、外にいる楓の元へ駆け寄っていく。

 

「ウチも初日の出行きたいん!」

「言う事もちゃんと聞くん! 嫌いな物もちゃんと食べるん!」

 

 必死に捲し立てながら、最後に初日の出……とおねだりするれんげ。その真剣さに、楓は思わず慎重に問い返す。

 

「好き嫌いしないって……、にんじんとかも食べるのか?」

「食べるん!」

「ほうれん草も?」

「食べるん!」

「じゃあ、ピーマンは?」

「……食べるん……」

「なんか間があったな……」

「食べるん!!」

 

 一番苦手なものを出され、一瞬だけ言葉に詰まったものの、れんげはきっぱりと言い直す。その様子を見て、楓は小さく息を吐いた。

 

「先輩、れんげピーマン食べるそうですよ」

「おお、マジか……! しゃあないな、服準備しておいで!」

 

 一穂のその言葉に、れんげの顔は一気に輝いた。

 

 その無邪気な喜びように、よしおの口元にも自然と笑みが浮かぶ。

 

「良かったな、れんげ」

「すぐ着替えてくるん!」

 

 そう言い残して、れんげは家の中へ駆け戻っていった。

 ほどなくして車が用意され、冷えた夜気の中、全員が乗り込む。

 

 静かな村の夜の中、初日の出へ向かう車がゆっくりと走り出した。

 

 

 

 

 初日の出が見える山の麓へ向かう車は、まだ暗い田舎道を静かに進んでいた。

 運転席には楓、助手席には一穂。後部座席には、ひかげ、れんげ、そしてよしおの三人が横並びで座っている。

 

 

「それにしても、よしお一人だけで来るのは意外だったな。このみは一緒に来なかったのか?」

 

 楓が前を向いたまま、気になったことを口にする。

 よしおは少しだけ姿勢を正し、素直に答えた。

 

「姉ちゃんは、小鞠ちゃん達と初詣に行くために始発電車に乗って隣町の大きい神社に行くから一緒には来てないよ」

 

 着物を着ていくみたいだから、着付けとか大変だろうし――と、よしおは付け加える。

 頭の中には、日が出る前から慌ただしく準備するであろう姉の姿が浮かんでいた。

 

 その説明を聞いたひかげが、少し意外そうに眉を上げる。

 

「お前はそっちに行かないのか? 合格祈願とかしたりさ……」

 

「少し考えたけど、隣町の神社は混むから、周りの目が気になって、お祈りもゆっくりと出来なさそうだから。

 初詣は、初日の出を見た帰りに、近くの神社でのんびりやる事にしたよ。卓と待ち合わせてさ。」

 

 言いながら、よしおは車窓の外をちらりと見やる。

 受験のことを考えないわけじゃない。でも、正月は少し肩の力を抜きたかった。

 

「それに、ひか姉の顔を見た方が何倍も縁起が良くなりそうだし!」

 

 よしおは隣に座るひかげの方へ顔を向けて、にっと笑う。思ったことを、そのまま口にしただけだった。

 

「……別に私は幸運の女神とかじゃないけどな……」

 

 ひかげは視線を前に向けたまま、照れとも呆れとも取れる声で返す。

 

「ひか姉は、もっと自信もって良いよ! という訳でもっと御利益ちょーうだい!」

「調子のんな」

「あだっ!」

 

 よしおはひかげの方へ身を乗り出すが即座に飛んできたツッコミと同時に、軽く拳が入った。

 

「よっくん、新年早々落ち着きないのんな……」

 

 れんげは同じ後部座席で、その一部始終を見ながら、どこか呆れたように呟く。

 

 車内に流れる空気は、相変わらず賑やかだった。

 

 やがて車は山の麓に到着し、エンジンが止まる。

 

「じゃあここからは歩きになるから。よしお、れんげを降ろしてやれ」

「了解!」

 

 

 全員が車を降り、冷たい夜気に身をさらした。

 

「真っ暗なんなー。ウチ、こんな暗い山来たの初めてなん」

「まだ朝の四時前だしね」

 

 れんげが白い息を吐きながら星が広がる空を見上げた。それによしおが優しい笑みで返事をする。

 暗闇の向こうには、もうすぐ昇る朝の気配が、微かに漂っていた。

 

「とりあえず懐中電灯二個あるけど、誰が持つ?」

「ウチ! ウチ懐中電灯持つん!」

 

 楓の提案に間髪入れず、れんげが元気よく名乗り出る。

 眠そうだった車内とは打って変わって、今は目がきらきらしていた。

 

「じゃあ一つはれんちょんが持って、もう一つはウチが持つかな?」

 

 一穂も自然に灯り役を引き受ける。

 だが、楓がその顔を向けた瞬間、思わず言葉に詰まった。

 

 一穂の頭部全体は、毛深いマスクで完全に覆われている。

 暗闇の中ではあまりにも異様で、これから銀行強盗にでも向かうかのような出で立ちだった。

 

「それじゃあ、一つはれんげ。もう一つは、よしおに持ってもらおうか……」

 

 楓は静かに判断を下す。

 おっけー、と軽く返事をしながら、よしおは懐中電灯を受け取った。

 

「良くない。スルーは良くない。駄目だぞ……」

 

 一穂がそんな楓に穏やかな口調で抗議した。

 楓は溜息を吐きつつ、正直に疑問を口にする。

 

「はぁ……、なんなんすか? そのマスク……」

「これは爺ちゃんが冬の農作業で使ってたんだ。あったかいぞぉ!」

 

 誇らしげに言われても、見た目のインパクトは消えない。

 

「とりあえず……、それ使う時は髪解いた方が良いっすよ、後頭部が盛り上がってエイリアンみたいになってるんで……」

 

 楓の指摘は、必要最低限の優しさだった。

 

「マジで!?」

 

 一穂は思わず素で驚く。

 その様子をよそに、れんげは既に自分の懐中電灯の光を確かめ終え、山を登る階段の方へと歩き出していた。

 

 暗闇の中、小さな背中が迷いなく進んでいく。

 

「おいれんげ! 一人で行こうとするなって……」

 

 よしおが慌てて声をかける。

 

「早くしないとお日様出ちゃうん!」

 

 振り返りもせず、れんげは真剣そのものだ。

 

「わかったから……、一緒に行くぞ!」

 

 その言葉を聞いても、れんげの足取りは止まらない。

 もう待ちきれない様子だった。

 

 結局、他の全員もれんげの後に続いて歩き出す。

 懐中電灯の光が揺れ、階段と木々の影が不規則に伸びていった。

 

 

 

 

 

 山道を進む一同は、懐中電灯の光を頼りに一段一段、階段を踏みしめる。

 

「ねぇ、これどれくらい登るの?」

 

 ひかげが、半ば何気なく問いかける。

 

「一時間くらいだな」

 

 即答したのは楓だった。

 

「いちっ? うわ、マジっすか……?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、一穂の動きがわずかに止まる。

 

「姉々、大丈夫なん。歌を歌って歩けば元気でるん!」

 

 場の空気を変えるように、れんげが元気よく言う。

 

「歌ですか?」

「歌ですん!」

 

 そう言うと、れんげは小さく喉を鳴らし、迷いなく歌い始めた。

 

 

「やーぶれ かーぶれの ヤブ医者が~♪ たーけやーぶの中へ すったこらさ~♪」

「やーぶからぼーに すったこらさ~♪ やーぶれたラブレター持って すったこらさ~♪」

 

 夜の山道に、やけに陽気な歌声が響いた。

 

「ひどいな……この歌……」

「けど、なんか耳に残るんだよな……、メロディといい、韻を踏んだ歌詞といい……」

 

 思わず楓が本音を漏らす。よしおも苦笑いしながらそれに続く。

 

 そんな二人のやり取りをよそに、れんげは楽しそうに歌いながら歩き続けている。

 

「……でも、頑張って歩いてるな……」

 

 ひかげのぽつりとした呟きに、一同は小さくうなずき、それぞれのペースで足を進めた。

 

 

 

 

 ――だが、それから約三十分後。

 

 流石のれんげも、肩が上下し、息が荒くなってきていた。

 

 

「あれ? 姉ちゃんがいない!」

「うそ? おいてきちゃった?」

 

 ひかげとよしおは顔を見合わせ、慌てて来た道を引き返す。

 

「はぁ、はぁ……、おかしいん……ちゃんと歌ってたんに、しんどいん……」

「まぁ、あんな歌じゃな……」

 

 必死に呼吸を整えているれんげの横で、楓がぽつりと呟く。

 

 

「うた歌ったら元気出るっていうの……、もしかして嘘だったん……?」

「大丈夫! 嘘じゃないぜ、れんげ!」

 

 不安そうな声を出すれんげに、よしおはすぐさま声をかける。

 自分も息を乱しながら、精一杯の励ましだった。

 

「歌ってない人はもっとグロッキーだからな……」

 

 ひかげもそれに続く。

 二人は今、体力切れを起こした一穂を、左右から肩を貸して支えていた。

 

 一穂は何かを言っているようだが、息が切れすぎていて、言葉になっていない。

 

 その様子を見ながら、楓は深刻さと同時に、別の感想も浮かんでしまう。

 

(なんかマスクといい、両側から支えられてる光景といい、本当に宇宙人みたいだな……)

 

 心の中でツッコミを入れつつ、楓は声をかけた。

 

「先輩……、もう少しで着くんで頑張ってください……」

「姉ちゃん、もう少しで着くんだってよ!」

 

 ひかげもすぐに後押しする。

 

「れんげも大丈夫か? しんどかったら休憩入れるが……」

「大丈夫なん……! 初日の出見るん……」

 

 確かに疲れてはいるが、れんげの目はまだ諦めていない。

 小さな体に力を込めて、再び歩き出す。

 

「やーぶれ……かーぶれの……やぶっ、医者、がー……」

 

 息を切らしながら再び歌い出したのを見て、楓は思わず声を上げた。

 

「れんげ!」

 

 楓は立ち止まり、しゃがみ込んで自分の背中を差し出す。

 

「ホラ乗れ! 帰りは歩けよ……」

 

 れんげは少し驚いた顔をした後、素直に背中に乗る。

 楓はそのまま、れんげをおんぶして山道を歩き始めた。

 

「ふぅ……、流石に重い……」

「駄菓子屋ありがと。楽ちんなん~」

「そうかい……」

 

 

 その後ろでは、ひかげとよしおが、相変わらず一穂の肩を抱えながら歩いている。

 

「ゼェ、ゼェ……よっくん……、おんぶ、してっ……!」

「流石に無理です……頑張って歩きなさい」

「あほか……、きりきり歩け」

 

 年長者の弱音を、二人は容赦なく切り捨てた。

 夜明け前の山道は、まだ続いている。だが確実に山頂には近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレ達は遂に山頂へと辿り着いた。

 

「ふぅ……ほら降りろ。帰りは歩いて貰うからな」

 

 楓ちゃんは肩で息をしながら、れんげを背中から降ろす。

 正直、本人もかなり限界のはずなのに、それを顔に出さないのが凄い。 これが保護者の意地ってやつだろうか。

 

「うん、ありがとなのん」

 

 れんげはにこっと笑って礼を言う。

 そのやり取りを見て、なんだか少しだけ空気が和らいだ。

 

「ここか……確かに見晴らしは良さそうだけど」

「少し殺風景じゃない……?」

 

 オレとひか姉は、ほぼ同時に正直な感想を口にした。

 

「別にいいだろ。殺風景でも、見るのは日の出なんだから」

 

 案内人である楓ちゃんは、ぴしゃっと言い切る。

 その言い方に反論の余地はなく、オレとひか姉はそろって口をつぐんだ。

 

「駄菓子屋! これ! これ登れるん!?」

 

 れんげは、やや年季の入った展望台を見つけてテンションが上がっている。

 

「あぁ。まあ登らなくても、日の出は十分見えるけどな」

 

 

「まだ日の出まで時間あるし、お茶でも飲むか……」

 

 ベンチに腰を下ろして一息つく。

 冷たい空気の中で飲む温かいお茶は、思っていた以上に体に染みた。

 

 その後、れんげが展望台のはしごを登ろうとしたのを見て、楓ちゃんはすぐに下から支えながら一緒に登っていった。

 さすがに、あの高さをれんげ一人で登らせるのは危ない。

 

 オレとひか姉は、二杯目のお茶をすすりながら、ベンチで完全に燃え尽きている一穂さんを眺めていた。

 

「……死んでるね」

「息はしてるからセーフだな」

 

 そんな会話をしていると、ひか姉がふとこっちを見た。

 

「よしおは展望台に登らないの?」

「ひか姉こそいいの? ここで?」

「私はパス。寒いし、疲れたから」

 

 淡々とそう言いながら、お茶を飲むひか姉。

 その横顔を見つつ、オレはなんとなく空を見上げた。

 

 空が、少しずつ明るくなってきている。

 どうやら、初日の出はもうすぐらしい。

 

(……なんか言った方がいいのかな)

 

 そんな考えが頭をよぎる。

 

(こう、詩的なやつ。新年っぽい決め台詞とか……)

 

 

 ――迎春。来光。新年開始。それはオレにとって運命の戦いが迫る合図だった―――。

 

 

(……いや、痛い! これは痛い! やめておこう……)

 

 頭の中で勝手に盛り上がったモノローグを、全力でなかったことにする。

 結局オレは、無言のままひか姉と並んで、ゆっくり昇ってくる初日の出を見ることを選んだ。

 山の向こうから差し込む光を眺めながら、すぐ隣にある体温を意識した瞬間、胸の奥に溜まっていたものが、音もなくほどけていった。

 

「ひか姉ー! よっくーん! あけましたーん!」

 

 展望台から元気よく声が飛んでくる。

 

「あけましておめでとう!」

「あけたねー」

 

 オレとひか姉は、ほぼ同時に返事をする。

 

 れんげははしごを降りると、そのまま一穂さんのところへ一直線。

 一穂さんがつけていたマスクをひょいっと外してから、顔を近づける。

 

「あけましたん!」

「あ、あけました……」

 

 一穂さんは、まだ半分夢の中みたいな声でそう返した。

 

「さて、初日の出も見たし、どうするか?」

 

 楓ちゃんの問いかけに――

 

「「お年玉ターイム!!」」

 

 オレとひか姉は、息ぴったりで声を揃えた。

 

「却下だ」

 

 一瞬で潰された。

 

 

 

「ウチ! お雑煮食べたいん!」

「そだね……早よ帰って、お雑煮にすっか……、よっくんも食べて行くかい?」

 

「モチ!!」

「餅だけに……ってか?」

「ひか姉、寒いよ……」

「……悪かったな……」

 

「ウチ、年の数だけおもち食べるん!」

「れんげって、今何歳だっけ?」

「七つになりましたん!」

 

「七歳か……って、餅七個は多すぎるだろ!」

 

 れんげは、楓ちゃんのツッコミも完全スルーして、餅七個を食べる気満々といった感じだ。

 

(正月早々、胃袋の戦いが始まりそうだな……)

 

 そんなことを思いながら、オレは冷えた手をポケットに突っ込み、山を下りる準備をした。

 

 

 

 

 

 

 そして宮内家でお雑煮をご馳走になったオレは、夏休みのラジオ体操や肝試しでも使った、すっかりお馴染みの日和神社へ初詣に来ていた。

 

 元旦ということもあって、それなりに人は集まっている。

 とはいえ、見回せば近所の顔なじみばかりで、あちこちから新年の挨拶や世間話が聞こえてくる。

 全体的にどこか馴れ合いの空気が漂っていた。

 

「よっくーん! こっちこっち!」

 

 石段を登った先で、卓の隣に立ちながら手を振るなっちゃんの姿が目に入る。

 正直、少し驚いた。姉ちゃんは小鞠ちゃんたちを誘って、隣町の神社に行くって言ってたはずだからだ。

 

「何でここに? てっきり姉ちゃんたちと一緒に、隣町の神社に行ったもんだと……」

「いやぁ、着物着るの面倒だからパスした……」

 

 なるほど。ズボラな彼女らしい、納得しかない理由だ。

 

「よう、夏海! あけおめ!」

「ひか姉! ことよろ! あれ? もしかしてお邪魔だった?」

 

 ニヤニヤした視線を向けるなっちゃん。

 慌てて否定するのも癪だったので、オレは逆に全力で乗っかることにした。  

 

「ああ全く、せっかく二人きりになれる所だったのに……」

「オイ、私はそこのメガネと待ち合わせてるって聞いたんだが?」

 

「冗談だよひか姉。さて、お参りを始めよう」

 

 特に引っ張る話題でもないので軽く受け流して足を動かす。

 

 本殿へ向かい、賽銭を入れて鈴を鳴らす。

 願い事は……欲張らず、一つに絞るべきだろう。

 

(ひか姉と同じ高校に入れますように……東京での高校生活が送れますように……神様お願いします)

 

 ……あれ?

 今、二つ言ったような気がする。

 

 まあ、意味はほぼ同じだし、セーフってことでいいだろう。

 そう自分に言い聞かせて、二礼二拍手一礼をきちんと済ませる。

 

 参拝を終えて、ひか姉たちの待つ場所へ戻る。

 

「しっかり願い事は出来たか?」

「バッチリ! これでもう、やり残したことはないかな」

 

 ひか姉と初日の出を見て、初詣も済ませて。

 我ながら、なかなか充実した元旦じゃないか。

 

 今日は受験勉強のことは一旦忘れて、こたつに潜ってのんびり過ごすのもアリだよな……なんて考えていると。

 

「ほれ、開けてみ」

 

 ひか姉が、小さな包みを差し出してきた。

 言われるまま中を開けると、そこには合格祈願のお守りが入っていた。

 

「これ……、くれるの?」

「ああ。こういうのは、自分で買うより、誰かから渡された方が御利益あるって言うだろ?」

 

 胸の奥が、じんわり熱くなる。

 うまく言葉が出てこない。

 

「ありがとう! ……一生大事にするよ!」

「いやいや! それ合格祈願だから……、受験終わったら奉納しとけや」

 

 照れ隠しみたいな言い方に、思わず笑ってしまった。

 

 冷たい冬の空気の中で、お守りをポケットにしまいながら、今年もきっと悪くない一年になる気がした。




当初は、アニメ未収録の原作エピソードである。このみちゃん、こまちゃん、ほたるんの初詣回によっくんを混ぜようと思ったけど、特におもしろいネタが浮かばなかったのでお蔵入りになりました。
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