のんのんびより ― ある田舎男子の日常 ― 【ばけーしょん編更新中】   作:NIZI

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アニメ二期、第五話後編、とある休日の話です。

前半は三人称、後半はよしお視点一人称でお送りします。


第7話 焼きそばを食べた

 今日は創立記念日。

 平日ではあるが学校は休みで、朝十時ごろの越谷家の居間には、気の抜けた静けさが漂っていた。

 

 小鞠は畳にうつ伏せになり、ファッション雑誌をぱらぱらとめくっている。ページを追う視線は真剣だ。

 一方、夏海はテーブルに突っ伏し、手にしたおもちゃのおみくじを意味もなく振っては、ころころと転がる音をBGMに、のんびりと過ごしていた。

 

「姉ちゃん、なんかさぁ……、平日に、こうして休めるの特別じゃん?」

 

 間延びした夏海の声が、居間に響く。

 

「そりゃまぁ、創立記念日だからね」

 

 小鞠は雑誌から目を離さず、素っ気なく返した。

 

「でもこのままじゃ、ただの日曜日と変わらないと思うんだよ……、何かして遊ばないと勿体なくない?」

 

 そんな提案に、小鞠はわずかに眉をひそめる。

 

「はぁ? やだよ、暑いのに……」

 

 その反応を見て、夏海は何かを思いついたように顔を上げた。

 

「そうだ! 今日の姉ちゃんの運勢占ってみる! ええと……」

 

「ちょっと……! あんたまた勝手に……!」

 

 止める声が届く前に、おみくじは振られてしまった。軽い音とともに棒が飛び出し、夏海はそれを嬉しそうに掲げる。

 

「あ! 見てみて、姉ちゃん!」

 

「また凶!?」

 

 小鞠は顔をしかめ、書かれた文言を読み上げる。

 

「外にいて良し、中にいて悪し……? これって、家の中にいたらマズいって事……?」

 

 昨日のプールでの水難騒ぎが脳裏をよぎり、胸の奥がざわつく。

 偶然にしては出来すぎている。そう思い、気分は自然と沈んでいった。

 

「もうこうなったら、外に行くしかないよ! じゃあウチ、よっくん呼んでくるね!」

 

 そう言うが早いか、夏海は立ち上がり、すぐ隣の富士宮家へ向かった。

 しかし、呼び鈴を鳴らしても反応はない。

 

「あれ? 誰もいない? おかしいな? よっくん、休日は大体いつも昼頃まで部屋でダラダラしてんのに……」

 

 首を傾げつつも、いないものは仕方がない。

 夏海は気持ちを切り替え、今度は蛍の家に電話をする為に、一旦戻ることにした。

 

 

 

 

 同じ頃、駄菓子屋では、楓がいつものようにレジに座り、眠たげな目で店内を眺めていた。

 

「たのもう! 楓ちゃん! 邪魔するぜ!」

 

 そんな中、威勢のいい声とともに、よしおが現れた。

 

「邪魔すんなら帰れ……」

 

「お約束の返事ありがとう! けど、折角来たのに、手ぶらで帰るわけにはいかないな!」

 

「今日、平日だったと思うんだが、学校はどうした?」

 

「創立記念日でお休みなんだ!」

 

 楓は一瞬考え、そういえば、そんなのもあったかと記憶を掘り起こす。

 

「まったく、学生は気楽で良いな……」

 

「気楽なもんか! オレ、受験生なんだぞ!」

 

「……だったら家で勉強してればいいだろ?」

 

「それなんだけどさ……、どうも家に一人だけだと集中できなくてさ……、環境を変えたら良いって聞いたから、ここ貸して!」

 

 そう言いながら、よしおは当然のようにレジ近くのテーブルへ問題集とノートを広げる。

 

「おい、勝手に使うなよ!」

 

「いいじゃん! どうせ客なんて滅多にこないんだしさ。 そうだ! ついでに店番もするよ! そしたら楓ちゃんも、他の事出来るし!」

 

「ったく……、裏庭にいるから、客が来たらすぐに呼べよ」

 

 渋々そう言い残し、楓は店の外へ出ていった。

 よしおは笑顔のまま、それを見届けると、すぐに真剣な表情に切り替えて、カウンターに置いた問題集と向き合った。

 

 

 

 

 セミの声が降り注ぐ初夏の田んぼ道。

 夏海と小鞠は、れんげと合流し、三人で並んで歩いていた。

 蛍も誘ったが、仕事で不在の両親から荷物の受け取りを頼まれており、自宅から離れられないとの事らしい。

 

「結局外出てきちゃった……」

 

 小鞠が小さくぼやく。

 

「なっつん、何するのん?」

 

「決めてないけど……、とにかく何処か行って何かする!」

 

「大雑把な奴……」

 

 夏海は周囲を見回しながら、ふと思ったことを口にした。

 

「なんかさぁ……、普通の日にこうやって出歩いてると、不思議な感じだよね」

 

「そうなのん、いつもなら学校にいる時間なん」

 

「駐在さんに見つかったら逮捕されちゃったりして?」

 

 夏海は冗談交じりに呟く

 

「たい、ほ……!」

 

「嫌な事言わないでよ……」

 

 それを聞いてれんげの目が、きらりと輝く。それとは対照的に、小鞠は顔をしかめて息を吐いた。

 

 そのとき、向かい側からトラクターがやって来た。

 農作業中のおじさんが、何事もない様子で三人の横を通り過ぎていく。

 

 通り過ぎたあと、三人は思わず立ち止まり、その背中を見送った。

 

「いやぁ、結構緊張したね!」

 

「悪いことしてないのにドキドキしたん! 創立記念日凄いん!」

 

「姉ちゃん、ちょっとビビったんじゃない?」

 

「び、ビビッてな――!」

 

 

 言い切る前に、今度は牛を引いたおじさんが横切った。

 

「ビビった?」

 

「ビビってない!」

 

 そう言い張る小鞠とは裏腹に、胸の鼓動は正直だった。

 

 

 

 

 昼前の一条家。

 小学生には退屈なワイドショーだけが流れるテレビを消して、蛍は一人、ソファに横になっていた。

 

 約一時間前、夏海から遊びの誘いがあった。本当は自分も行きたかったが、荷物の受け取りの為に、断るしかなかった。

 

「はぁ……、今頃みんな何してるんだろう……」

 

 早く荷物来てくれたらいいのに……。そう呟いた直後、外からトラックの音が聞こえてきた。

 

 

「……! 来た!」

 

 

 蛍は荷物を受け取ると、すぐに靴を履いて玄関を開けた。

 

「これでみんなと遊べる……!」

 

 

 元気よく外へ飛び出したものの、ふと足を止める。

 

「あ、……私、先輩達がどこに行くか、聞いてない……」

 

 肩を落とし、家の中へ戻ろうとした、その時。

 

 

 

「ほたるーん!」

 

「遊びに来ちゃったよ」

 

「一人で退屈してるんじゃないなと思ってさ。留守番はもういいの?」

 

 三人の姿を確認した瞬間、蛍の表情は一気に明るくなった。

 

「はい! 大丈夫です!」

 

 駆け寄る足取りは、自然と軽くなる。

 

 

 その後、四人は川や山を巡り、木苺を摘んだり、草笛を作って吹いたり、時間を忘れて思う存分遊び回ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼時の駄菓子屋。

 

 オレはカウンター席でノートを広げ、店番を兼ねながら勉強していた――はずだった。

 

 不意に、奥からふわっとソースの香ばしい匂いが漂ってきた。

 思わず鼻が勝手に反応する。

 

「……あ、これ……?」

 

「どうした? 犬みたいな顔して」

 

 顔を上げると、エプロン姿の楓ちゃんが、奥からひょいと顔を出していた。

 

「昼メシ作った。お前も食ってけ。余ってた材料を適当に入れただけだから、文句は言うなよ?」

 

「え、ごちそうになっていいの!?」

 

「いいからこっち来い。どうせ午後も勉強してくんだろ?」

 

 促されるまま席を移動すると、どん、と大皿が置かれる。

 色とりどりの野菜と豚肉が入った焼きそば。湯気と一緒に、食欲を直撃する匂いが立ちのぼった。

 

「えっと……これ、自由に取って食べていいってこと?」

 

「一応二人で食べられるように多めには作ったが、もし足りなかったら知らん。台所使っていいから、自分で作れ」

 

「いえいえ、今日は“師匠”の料理を久々に堪能させていただきます!」

 

 そう言って、紙皿を手に取り、割りばしで焼きそばを盛り付けていく。

 

「だから、適当に材料入れて炒めただけだ。期待すんなって」

 

 楓ちゃんはぶっきらぼうに言うけど、俺は目の前の焼きそばを見て気づいてしまった。

 

 具材の大きさは揃っているし、麺と野菜、肉に対するソースの絡み具合もほぼ均一。

 これは、どう見ても“適当に作った”仕上がりじゃない。

 

 確かに具材の種類は多い。

 料理を知らない人間ならば、「適当に入れた」という言葉をそのまま信じた事だろう。

 

 自分でも料理をするようになった今なら分かる。

 この焼きそばは、しっかり手間をかけて作られている。

 

 そう思ったら、少し嬉しくなった。

 

「師匠って言われても、もうお前に教えられるメニューは何もないがな……」

 

「確かに最初は料理のレパートリーと引き換えに店の手伝いをしてたけど、今でもこうして楓ちゃんの料理を楽しめるんだから、手伝う甲斐はあるかな?」

 

「調子いい奴だな……。褒めたって賃金は出せねえぞ」

 

「その分、たくさん食べてやるから問題なし!」

 

「次から食事代取るか……?」

 

 そんな軽口を叩き合いながら、箸は止まらない。

 この焼きそばみたいに、当たり前の顔をして並んでいる時間が、俺は、嫌いじゃなかった。

 

 

 

 

 時間は過ぎ、日差しが傾き始めた午後。

 駄菓子屋のカウンターで、俺はテキストを広げ、黙々と受験勉強に取り組んでいた。

 

 店番をしながらの勉強は、普通なら気が散りそうなものだ。

 けれど今日は、妙に集中できていた。

 

 「勉強している自分」だけじゃない。

 「店を任されている自分」という意識が、自然と背筋を伸ばしてくれる。

 家で一人、机に向かうよりも頭は冴え、ページも順調に進んでいた。*1

 

 もっとも――今日は、まだ一人も客が来ていない。

 結果的に、そのおかげで、勉強は一度も中断されずに続いていた。

 

 

 

 しばらくすると、屋根を叩く激しい音が、突然響き始める。

 

 外を確認する間もなく、強い雨が降っているのが分かった。

 

「よしお! ちょっと屋根を出す! 外のベンチとか、中に避難させろ!」

 

「わかった!」

 

 楓ちゃんの声に応え、俺は慌てて外へ飛び出した。

 すでに楓ちゃんはシャッター棒を手に、慣れた手つきでフックを引っかけ、くるくると回して屋根を前へとせり出している。

 

 俺は指示通り、まずベンチを抱え上げて店内へ運び、壁際に寄せた。

 雨脚は強いが、風はそれほどでもない。

 

 とはえ、ガチャガチャも……念のため、中に入れておいた方がいいか。

 

 そう判断して、色あせたガチャガチャも抱えて店内へ運ぶ。

 床に水滴を落としながら、慎重に元の位置へ戻した。

 

「もう外には出られんし、店番は私がやるから、勉強の続きは奥でやるか?」

 

「うーん……、いいや。集中できてるし、ここで続けるよ。楓ちゃん、パソコンとかも使うんでしょ? 他の事やってて大丈夫だよ!」

 

 そんな楓ちゃんの提案に、少し迷ったが、場所を変えたら今の集中状態が崩れるかもしれない。

 それに、楓ちゃんは他にも、いろいろと作業がある事も分かっている。

 

 オレも現状、集中できている。

 このまま続ける方が良さそうだ。

 

 そう伝えると、楓ちゃんは少しだけ考えるような間を置いてから、

 

「そうか……、じゃあ頼むわ」

 

 そう言って奥へ戻っていった。

 

 俺は再び問題集に視線を落とす

 

 

 ――そんなやりとりから、十分ほど経った頃だった。

 

 

「姉ちゃん! はやくはやく!」

「もう、ここまで濡れたら急いだって一緒じゃん!」

 

 聞き慣れた騒がしい声が、雨音に混じって飛び込んでくる。

 

「っだあっ! 雨ヤバっ! 駄菓子屋に避難!」

 

 入口から、ずぶ濡れの一団が雪崩れ込んできた。

 越谷姉妹に蛍ちゃん、れんげ。

 見慣れた分校の女子達四人だった。

 

「なんだ!? どうしたみんな!?」

 

「あれ!? よっくん、ここにいたんだ! 家にいなかったから何処に行ったかと思ったよ」

「外で遊んでたら急に降られまして……」

「よっくん! ほら! 笛! 笛なん!」

「姉ちゃんの水難、まだ続いてんじゃないの!?」

「はぁ!? 私のせいなの!? ってか今日は外に行く方が良いって、おみくじ出てたじゃん!!」

 

 

「……すまん! 一人ずつ喋ってくれ……!」

 

 一気に浴びせられる言葉の洪水に、俺は思わず両手を上げる。

 聖徳太子じゃあるまいし、一気に来られても捌ききれるか!

 

 そんな騒ぎに気付いたのか、楓ちゃんが奥から顔を出す。

 

「なんだなんだ!? お前らびしょ濡れじゃんか……!」

 

「あ! 駄菓子屋!? いやぁ、服濡れたけど、良い所に無料休憩所があったもんで……」

 

「はぁ!? よしおといい、お前といい、うちをたまり場かなんかだと思ってんのか!?」

 

「駄菓子屋! 駄菓子やぁ! 笛! これ笛ぇ!」

「す、すいません、突然押し掛けてしまって……」

「いいじゃん、どうせウチら以外客来ないっしょ?」

「そうか、小鞠ちゃんの占いはまだ続いていると……」

「よっくんまで言うか!?」

「ほら! 駄菓子屋! 笛! 笛なん! すごいん!? すごいんな!?」

 

「だぁっ! もう! 全員で口を開くな! とりあえず適当に着替え用意してやるから奥行け! 奥!!」

 

 楓ちゃんの一喝で、空気がぴたりと止まった。

 全員が素直に従い、濡れた服を着替える為に、ぞろぞろと楓ちゃんの後を追って奥の部屋へ向かう。

 

 俺も、ノリでその流れに乗って一緒に奥へと付いていった――が。

 

 

「……お前は向こう行け」

 

 

「あ、バレた?」

 

 

 てへぺろ! と舌を出した次の瞬間、無言の視線が突き刺さる。

 

 結局楓ちゃんに肩を掴まれ、そのまま引き戻され――

 気付けば、店の外に放り出されていた。

 

 

 ……いや、外は無いだろ!

 

 かわいい冗談でしょうが!

 

 追い出すにしても、せめて店の中だろ!

 

 さっきより雨も風もひどくなってるんですが!

 

 屋根が全然仕事してないんですが!

 

 この扱いはあんまりだろぉ!!

 

 強くなる雨を一身に受けながら、そんな言葉が、頭の中を忙しなく駆け回るのだった。

*1
作者も自宅より職場の方が執筆作業が捗ったりする




アニメ二期を見返したら、駄菓子屋の料理上手エピソードが思った以上に多かった。

それなら、よしおが駄菓子屋を手伝う理由の一つに、
「楓に料理を教えてもらう事」を足してもいいかな、と思い、晴れて料理の師匠ポジションになりました。
我ながら行き当たりばったりですが、割としっくり来ている気もしています。

アニメ五話後半の話を一話にまとめようとしたら、例によって一万文字を超えてしまったので、今回もキリが良い所で、前後編に分割しました。
お好み焼きは後編で近いうちに、しっかり焼きます。。。
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