のんのんびより ― ある田舎男子の日常 ― 【ばけーしょん編更新中】   作:NIZI

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アニメ二期・第五話後編、その二にあたる駄菓子屋での一幕。
全編よしお視点の一人称でお送りします。

前話から続くお話になりますので、
よろしければ前話も合わせてどうぞ。


第8話 お好み焼きを食べた

「よっくん、もう入って良いよ!」

 

 雨が降りしきる中、しばらくして駄菓子屋のドアが開き、着替えを終えた様子のなっちゃんが顔を出した。軽く手招きされ、オレは言われるままに中へ入る。

 

 まず目に飛び込んできたのは、彼女の服装だった。

 

 肩口が大きく開き、さらりと肌をのぞかせる臙脂色を基調としたトップス。その上に重ねられた細い縞模様の長袖が、少し癖のある印象を残している。

 

 楓ちゃんが昔の服を貸しているだけあって、懐かしさが湧いた。

 

「それ、確か七年くらい前に着てた服だったっけ? あの時の楓ちゃん、あるバンドにハマってて、そのメンバーの服装に近い服を見つけたって自慢していたっけ?」

 

 記憶を辿るように言うと、夏海は少し意外そうに目を瞬かせた。

 

「へぇ、そうなんだ。よく覚えてるね、よっくん」

 

「まぁね! 楓ちゃんの事だし!」

 

「なんか気色悪いな……」

 

 胸を張って答えた途端、横から冷ややかな声が飛んでくる。

 

 ――気色悪いとはひどくね?と、心の中で小さく突っ込む。

 

 

 視線をずらすと、次に目に入ったのは蛍ちゃんだった。

 

 蛍ちゃんが着てるのは、黒地一色のジャージ。その背中には、これでもかというほど大きく「一攫千金」と書かれた文字が主張している。

 それを見た瞬間、思わずため息が漏れた。

 

「蛍ちゃんの着てる服は、……確か七日くらい前に来てたジャージかな? 最近の楓ちゃん、カネの話が多くて、いい加減うんざりなんだよなぁ……」

 

「へぇ……、そうなんですね……」

 

「最後の方、お前の愚痴じゃねえか! 後、蛍ちゃんのサイズの服が無かったから、今着てるのしかなかったんだよ!」

 

 即座に楓ちゃんのツッコミが飛んできた。

 

 

 気を取り直して、小鞠ちゃんの方へ視線を向けた。

 

「小鞠ちゃんの服は……、うん、見覚えが無いな!」

 

 水色基調の布地に青の斑模様が見られ、頭には大きな牙を模したフード。背中には立派な尻尾までついている。

 どう見ても怪獣の着ぐるみだった。

 

「まぁ、人前でこんなの着ないし。見せてもいないからな……」

 

 その直後、奥の方から「こんなの!?」と、ショックを受けたような抗議の声が聞こえてくる。

 だが、ここで拾うと余計にややこしくなりそうだったので、オレはあえて何も言わずにやり過ごした。

 

 

 そして――最後に、れんげ。

 

 

「あと、れんげの服だが……」

 

 言葉を続けようとした瞬間、ほんの一瞬、息が詰まった。

 

 澄んだ水色を基調としたワンピースドレス。

 胸元はすっきりと仕立てられ、中央には小さなハート型の飾りが並んでいる。

 

 肩には白に近い薄桃色のボレロが軽く羽織られ、短い袖口のフリルが、動くたびにかすかに揺れる。

 ウエストをきゅっと結ぶ濃紺の大きなリボンが、全体を引き締めていた。

 

 幾重にも重なった段フリルのスカートは、裾に向かって少しずつ色を深めていく。

 

 前に卓から借りた漫画のキャラが、確かこんな服を着ていた気がする。

 ……「ゴスロリファッション」てやつか? 凄くかわいいな!

 こういうのを"絵本から飛び出した"って言うのだろう。

 

「よっくん? どうしたのん?」

 

 オレは、キョトンとした表情で首を傾げるれんげを、思わず抱きしめようとした所で、流石に冗談でも、それをやってしまったら楓ちゃんに○される……! と息を呑み思いとどまる。

 

そんな葛藤を抱えながら、ある一つの仮説を思いついた。

 

 

「……楓ちゃん、もしかしてれんげに着せる為に、新しい服買ったの?」

 

 

「は!? 違――」

 

 思わず口をついて出た言葉に、楓ちゃんが慌てて否定しかける。

 

 だがその途中で、なっちゃんが顎に手を当て、いかにも納得したような顔をした。

 

「そうか、確かにこんなフリフリした服、駄菓子屋には似合わないし、そう考えると納得かも……」

 

 冗談に冗談を重ねられ、れんげが不安そうに楓ちゃんを見る。

 

「そうなん……? 駄菓子屋、貧乏なのに、ウチの為にそこまで……」

 

「違ぇよ! 親が昔、勝手に買ってきたヤツだよ! お前ら適当な事言うな! れんげが信じちまったじゃねーか! あと、貧乏は余計だ!」

 

 楓ちゃんの声が、部屋にきっぱりと響いた。

 

 

 

 

 テレビ近くにある時計を見て三時になっているのに気づいたなっちゃんが、ぽつりと呟く。

 

「もう三時か……、特別な時間も、もう終わりか……」

 

 名残惜しそうなその声に、蛍ちゃんも現実を思い出したように頷いた。

 

「確かに、いつもなら授業が終わって帰る時間ですね……」

 

「特別な時間?」

 

 首を傾げるオレに、小鞠ちゃんが少し困ったように説明してくれる。

 

「夏海がさ、折角の特別な日だから何かしたいって言いだしてさ。それで外に出たらこんな目に……」

 

 なるほど。

 受験生の身としては、正直うらやましい話だ。

 

 

「そんな事よりお腹減ってきたん……」

 

 そんな空気を、れんげの一言が一気に崩した。

 

「そういえばお昼ご飯食べてないね」

 

 蛍ちゃんが続けると、楓ちゃんが腕を組んでため息をつく。

 

「なんだ、お前ら飯まだか?」

 

「だって、ずっと外で遊んでたし……」

 

 ……本当に気楽でうらやましい。ちくせう。

 

「しゃーない! 何かメシでも作ってやるよ!」

 

「よ! 太っ腹!」

「ごはんなのーん!」

 

 楓ちゃんの宣言に歓声が上がる中、オレは思い出したように口を挟む。

 

「楓ちゃん、粉一杯残ってたし、お好み焼きなんてどうかな? 良かったらオレが作るよ!」

 

 一瞬考えた後、楓ちゃんはあっさり頷いた。

 

「そうか、なら任せた。私はホットプレートの用意をするわ」

 

 

 ――そして、台所。

 

 冷蔵庫の前で、オレとなっちゃんは肩を並べ、中身を覗き込んでいた。

 

「なっちゃん、冷蔵庫に豚肉、餅、チーズ、エビがあるけど何入れたい?」

「え? 全部入れるに決まってんじゃん!」

 

 即答だった。オレも同意。

 

「だよね! あ、明太子発見! お! ちくわもある! これも入れよっと! お好み焼きは何入れても美味いからな! よし、この納豆も入れてやる!」

 

「よっしゃあ! まとめて入れちゃえ入れちゃえ!」

 

「お前ら冷蔵庫を"カラ"にする気か!? やっぱりよしおには任せられん! 私が台所に立つ! お前らは食器の準備しとけ!」

 

 こうしてオレ達は、雷のような声と共に、仲良く揃ってキッチンから追い出された。

 

 スペシャルなお好み焼きを作ろうとしただけなのに……。

 

 

 

 

 仕方なく、オレは小鞠ちゃんが丁寧に拭いてくれたテーブルの上にホットプレートを置いた。

 続けて紙皿とコップを並べていき、食べる準備も万端と言った所だ。

 

 その様子を眺めていたれんげが、ふと紙皿を手に取り、じっと見つめたまま呟いた。

 

「そういえばこの前な……、ウチがてるてる坊主のお面作った時、よっくんとこまちゃん、全然気づいてくれなかったん……」

 

「ああ! 二人がれんちょんに泣かされたってヤツ?」

 

「そうなん」

 

「「泣いてない!」」

 

 声が見事に重なり、オレと小鞠ちゃんは同時に言い返した。

 れんげは、そんな反応を気にも留めず、紙皿をくるりと裏返す。

 

「これなんな!」

 

 そう言って、紙皿の裏に描かれた顔をこちらに向け、そのまま手で持って自分の顔に当てた。

 

「これ普通に、れんちょんってわかるでしょ……。なんで二人して泣いちゃったの?」

 

 なっちゃんは半眼になりながら、呆れたように言う。

 

「あの時はレインコート着てたからわかんなかったの!」

 

 小鞠ちゃんが必死に弁解すると、オレも勢いで続いた。

 

「ああ、正に白装束の怪物! って感じの風貌だった……。なっちゃんも見たら絶対狼狽えてたね! 断言してやる!」

 

「でも……、それ、てるてる坊主だって、すぐには分からないかも……」

 

 蛍ちゃんが控えめに口を挟むと、れんげの動きがぴたりと止まる。

 

「そうなん……?」

 

「だって、私達わかんなかったし……」

 

 小鞠ちゃんの追い打ちに、れんげは紙皿を顔から外し、じっと見つめた。

 

「でも、レインコート着たらそれっぽいのかも……」

 

 蛍ちゃんは慌ててフォローを入れるが、れんげの表情はどこか釈然としない。

 紙皿を両手で持ったまま、少し考え込むように視線を落とす。

 

 ――そして、何かを決めたように、くるりと踵を返した。

 

 意を決して台所へ向かうその背中を見て、オレとなっちゃんも顔を見合わせる。

 なんとなく放っておけず、二人揃って後を追うことにした。

 

 台所では、楓ちゃんがまな板の上でキャベツを刻んでいた。

 規則正しい包丁の音が、小気味よく響いている。

 

 そこへ、れんげが紙皿のお面をつけたまま、ひょっこりと顔を出す。

 じっと無言で見つめられ、楓ちゃんは一瞬だけ手を止めた。

 

「なんだ? そのてるてる坊主のお面……、もうすぐ出来るから、そろそろよしおにプレート温めておくように言ってこい」

 

 

 

「ふっふっふ……」

 

 楓ちゃんが迷いなく言い当てた瞬間、れんげはくるりと振り返り、こちらを見て得意げな顔をする。

 さっきまでの不満げな様子はどこへやらだ。

 

「うわ、凄いドヤ顔……」

 

「楓ちゃん、よくわかったな……」

 

 なっちゃんが思わず漏らし、オレも小さく頷いて感心していた。

 ……あ、プレートの電源いれておかなきゃ。

 

 

 

 

 楓ちゃんがお好み焼きの生地をボウルごと運んできた。

 その後に、豚肉、餅、ちくわ、チーズ、エビと、さっき冷蔵庫で見たほぼ全部の具材が並んだ皿が続く。流石に納豆と明太子は無かったが……。

 

(……結局ほとんど持ってきてくれてるじゃん)

 

 あれだけ止められたのに、なんだかんだで全部使ってくれるらしい。

 そういう優しい所大好き♪

 

「出来たぞ」

 

「きたきた!」と小鞠ちゃんが身を乗り出し、

「早く焼こうよ!」となっちゃんが待ちきれない様子で言う。

 

「まて夏海、お前焼き方わかってんのか?」

 

「焼き方って……、普通に材料入れればいいんでしょ?」

 

 何言ってんの? とでも言いたげな顔。

 案の定、楓ちゃんは軽くため息をついて腕を組んだ。

 

「まったく……、わかってねぇな。しょうがない! 今日は特別に、私がお前らに美味しいお好み焼きの焼き方を見せてやるよ!」

 

「何この鍋奉行ならぬお好み焼き奉行……」

 

「よっ! 待ってました師匠! やっちゃってくだせぇ!」

 

「こっちは手下みたいになってる……」

 

 オレが茶化すと、小鞠ちゃんが横で小さく呟く。

 

 楓ちゃんはそんなやり取りを気にも留めず、ホットプレートの前に立った。

 

「まずホットプレートに油をガッツリ引く! それも“ひったひた”に!」

 

 ジュワッ、と油が広がる音がして、鉄板が一気に光を帯びる。

 

「油いっぱいなん?」

「こうした方がカラッと焼けるんだ」

 

 生地を流し込むと、すぐに表面がぷつぷつと泡立ち始めた。

 キャベツの甘い匂いが、じわっと空気に広がる。

 

「で、生地を焼く」

「で、肉とか具材を乗せた後に、真ん中に窪みをつけて、そこに出汁をかける」

 

 楓ちゃんは迷いなく、ヘラで生地の中央を軽く押した。

 そこに出汁を回しかけると、ジュッという音とともに、香ばしい匂いが立ち上がる。

 

「そうすると、こぼれた出汁がお焦げになるから、それをヘラで集めて、生地に戻す!」

 

 ヘラでカリカリと焦げを寄せる手つきがやたらと手慣れている。

 見ているだけで涎が出そうだ。

 

「お好み焼きにお焦げとかあるんだ?」

「そうそう、これが旨いんだ!」

 

「で、後はひっくり返してしばらく焼くと……、出来上がりだ!」

 

 勢いよくひっくり返された瞬間、全員の視線が一斉に鉄板へ集まった。

 

「「「「うおぉ~!」」」」

 

 こんがり焼けた表面に、湯気がふわっと立ち上る。

 オレは思わずゴクリと喉を鳴らした。

 

 

「お箸二刀流! 完了なん! いただきますん!」

 

「いやいや、まだソース塗ってないから、落ち着け……」

 

 楓ちゃんが両手に箸をかまえたれんげを優しく諭す。

 

「あ、マヨネーズも持ってくる!」

 

 オレが立ち上がる間にも、楓ちゃんは淡々と仕上げに入る。

 ソースを塗り、ヘラで手早く切り分ける。その動きには一切の無駄がない。

 

 皿に盛られ、かつお節が踊った瞬間――

 これはもう、勝ちが確定した見た目だった。

 後はお好みでマヨネーズをかけよっと!

 

「それでは!」

 

「「「「「いただきまーす!」」」」」

 

 

「うめぇ! 外パリッとしてるのに中はトロトロで、タコ焼きみたい!」

「そうだろう! ありがたく食えよ」

 

「おいしい!」

「ねぇ~!」

 

「うんうん! 流石、楓師匠!」

「そろそろ、その師匠呼びやめろ……、だんだんムカついてきた。あと、れんげは顔にソースついてる」

 

 そう言って楓ちゃんは、れんげの頬をさっと拭いた。

 

 鉄板の上で立ち上る湯気と、おいしく食べるみんなの笑い声が食卓にひろがっていった。

 

 

 

 

 満腹感に背中を預けるように、なっちゃんが大きく息を吐いた。

 

「はぁ~、食べた食べた! ごちそうさま!」

 

 ホットプレートの余熱がまだほんのり残り、部屋にはソースと出汁の混じった匂いが漂っている。

 腹も心も満たされた、静かな時間だった。

 

「どうだ? ちっとは、特別な気分になれたか?」

 

 楓ちゃんが腕を組んだまま、どこか得意げに尋ねる。

 

「なったなった! 大満足っす! 先輩!」

 

 なっちゃんは即答だった。

 さっきまでの騒がしさが嘘みたいに、みんなそれぞれ余韻に浸っている。

 

 その時、蛍ちゃんがふと、窓の外へ視線を向けた。

 

「雨も上がりましたよ!」

 

 つられてオレも外を見る。

 さっきまで曇っていた空は、いつの間にか明るさを取り戻していた。

 

「姉ちゃんの呪いも解けたかな?」

 

「まだ言うか……、呪いとかじゃないし……」

 

 小鞠ちゃんが疲れたように返すと、楓ちゃんが首を傾げる。

 

「なんだ? 呪いって……?」

 

「夏海が勝手に私の運勢占ってさ……、悪いのばっかり出すの……」

 

「前にここで買ったおみくじだよ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、楓ちゃんは、思い当たったように棚へ向かう。

 

「おみくじって……、ひょっとして、このドッキリアイテムの事か?」

 

 取り出されたのは、派手な文字で

 ――“びっくり凶占い!”

 と書かれたパッケージ。

 

「あ! それだ! このおみくじ、ドッキリアイテムだったんだ……」

 

「買った本人が忘れるなよ……」

 

「いやぁ、良かったじゃん姉ちゃん! これイタズラ用で、凶しか出ないんだって!」

 

「……」

 

 一瞬、小鞠ちゃんの顔が固まって――

 次の瞬間、ぱっと明るくなる。

 

「あっ、じゃあ今までのは、災難じゃなかったんだ! 良かった~……」

「オレも! "口は災いの元"って出たけど、何も問題はなかったって事だな!」

 

 オレ達の言葉を境に、部屋の空気がすっと止まった様に感じた。

 ……なんだ? みんなしてその視線は?

 

「いや、姉ちゃんのアレは、紛れもない災難かな……」

「その、よしお先輩は、純粋に反省すべきだと思います……」

 

 なっちゃんと蛍ちゃん。二人呟きが、やけに耳に残った。

 

 窓の外では、すっかり晴れた空が、何事もなかったみたいに広がっていた。

 




地味に、てるてる坊主から、おみくじ、プール掃除と続いてきた流れが回収される回になりました。
最近こまちゃんを書いてて、「可哀想は可愛い」て感情が湧いてきて楽しい。
尚よっくんも、こまちゃんを笑えないくらいのドジだったりする。
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