のんのんびより ― ある田舎男子の日常 ― 【ばけーしょん編更新中】 作:NIZI
ここで早々に、このみと蛍の初対面を行います
主人公未登場の小話なのでカットしても良かったけど
よしお絡みで会話も変化してるから番外編扱いで
春のやわらかな陽射しが差し込む午後の越谷家。
小鞠と蛍の二人が過ごす部屋には、穏やかな空気が流れている。
富士宮このみ十八歳。高校三年生。
彼女は慣れた足取りで越谷家の玄関を開けて目的の部屋へと向かう。
そのまま遠慮なく障子をカラリと開けて、顔をのぞいた。
「小鞠ちゃん、頼まれてた雑誌持ってきたよ」
その声に蛍が少し緊張したように視線を向ける。
このみも、初めて見る少女の姿に一瞬驚いたものの、すぐに人懐っこい笑顔を向けた。
「もしかして、噂の転校生ちゃん? 初めまして、私、富士宮このみ!」
「初めまして、一条蛍です。……あの、富士宮って、もしかして——」
「そうそう、よしおの姉だよ。弟がお世話になってるみたいで、ありがとうね」
このみの明るさに、蛍の表情もふんわりと緩む。
自己紹介が一段落したところで、このみが小鞠へ視線を向けた。
「で、小鞠ちゃんは何してたの?」
待ってましたとばかりに、小鞠はヘッドホンを外し胸を張る。
「実はさ、ポータブルCDプレイヤー買っちゃったんだ。大人っぽい曲も聴いちゃったりして……」
「MP3プレイヤーじゃなくて?」
このみが目を丸くする。もはや嵩張るCDは時代遅れとも考えている。
「えむ……ぴー? すりー? なにそれ、ゲームの話? MPがたった3じゃ魔法全然使えないじゃん……」
「いや、マジックポイントじゃなくて……まぁ知らないならいいや」
このみは苦笑いし、部屋にくすりと笑い声が広がった。小鞠は得意げに胸を張る。
「とりあえず、一番人気の曲を買ってきたんだ。大人っぽくてセンチメンタルでさ。蛍は音楽とか聴く?」
蛍は少し困ったように眉を下げる。
「私、流行りの曲にはあまり詳しくなくて……」
「まぁ、小学五年生には、まだJ-POPは早いかな?」
小鞠は余裕の笑みを浮かべるが——
「小鞠ちゃんが小五のときなんて、いつもぬいぐるみ抱えて田んぼ走り回ってたもんね♪」
このみがさらりと暴露し、小鞠の身体がビクッと震える。
蛍は思わず吹き出しそうになるが、話題を戻す。
「でも、お父さんがCDやレコードを持っているので、クラシックや洋楽は聴きますけど……」
その言葉に、小鞠は一瞬固まる。背伸びしたつもりが、むしろ自分の方が子供っぽく見えてしまった、と痛感。
「蛍ちゃんもクラシック聴くんだ!」
「このみさんもですか?」
「うん、洋楽も好きでね」
話題は蛍とこのみの間で自然と弾みだしていく。
「小鞠先輩は、クラシック聴きます?」
急に話を振られ、小鞠は顔をひきつらせながら必死に考える。
「知ってるよ、クラシック……?あれでしょ、いっぱい人がいて、前のほうのおじさんが、棒を両手で振り回すやつだよね……」
「まぁ……だいたい合ってますけど……大掴みですね」
蛍は微笑みながらも、優しく言った。
そこからこのみと蛍の間で曲名や作曲家の具体的な話が始まり——
クラシックから始まった濃厚な洋楽トークが展開される。
ついていけない小鞠は、堪らず声を上げた。
「おしゃれ! おしゃれの話をしよう! 音楽よりさ! おしゃれの話しようよ!」
「お、オシャレですか…?」
焦ったように突然の話題転換。
二人の空気に入れない苦しさが滲み出ていた。
「だってさ、ほら、ね?」
そう言って、小鞠は自慢気に自分の服をつまむ。
淡いピンクのオーバーオールがひらり。
「見ての通り。最近私、色気に溢れてるの。だからおしゃれの話ししなきゃ」
その言葉に、二人の視線が微妙に揺れた。
((色気…?))
「な、何その反応は!? よっくんにも言われてるもん! "最近色気が出てきたね"って!」
「……へ? よしお先輩が?」
蛍の笑顔がぴきり、ひび割れる。
「あー、そういえば。ひかげちゃんが東京行ってすぐの頃、よく小鞠ちゃんに絡んでたっけ……」
「よしお先輩が……小鞠先輩を……」
(※握っていた雑誌がミシッと音を立てる)
「あ、あの、蛍? なんか怖いよ……?」
突然張り詰めた雰囲気を纏わせた蛍にアワアワする小鞠。
それを見て顎に手を当てて思案するこのみ。
(蛍ちゃん、もしやよっくんに気が……?いや、これ以上踏み込むと爆発する予感……)
尚、蛍の頭の中は、小鞠100%。よしおは悪い虫扱い。誤解にも程がある。
場の空気を変えるように、このみはファッション誌を小鞠へ差し出した。
「ま、まぁよっくんの事は置いといて。ほら小鞠ちゃん、頼まれてた雑誌」
「あっ、ありがとう!大人のオシャレだ。あ、そうだ、ちょっと待ってて」
雑誌を受け取った小鞠は、何かを思いついたようにタンスへ走っていく。
「じゃーん!新しい髪留めを買ったのでした。どう?似合う?」
ウキウキしながら蛍へ迫る小鞠。
「あっ、シュシュですね。かわいいです……」
蛍は目を輝かせて答えるが、小鞠はその単語に聞き覚えがなく、ぽかんとした。
「……急に何言ってんの?機関車の真似?」
「えっ!? いや、それシュシュですよね……?」
二人のやり取りを聞きながら、このみは服について語り出す。
「私、今はディストレストのデニムが欲しいな」
「このみさんが今履いてるの、スキニーデニムですよね」
「そうそう。これにもうちょいダメージ入ったやつ欲しくてさ。蛍ちゃん、デニムとか履かないの?」
「お出かけの時はあまりパンツスタイルはしないので……チュニックにレギンスとか――」
蛍とこのみは楽しそうに話を続ける。
一方の小鞠は――
(でぃすと……すきに……ダメージ……ちゅに……れぎ……なにそれ……?)
頭に入ってくる横文字が理解を超えて、ついに限界が訪れる。
「ストーップ!もうダメ!全然わかんない!日本語話して!」
あまりの剣幕に困惑する蛍と「やっぱりシュシュとか分からず買っていたか…」と呆れるこのみ。
「オシャレの話もやめ!もっと大人っぽい話をしよう!」
強引に話題を変える小鞠。
「ついて来れなかったのに、さらに難易度上げちゃうの……?」
このみは呆れたように眉を上げる。
「え、えっと……じゃあ、何の話をしましょう……?」
蛍は気を遣い、そっと問い返す。
「オトナの話……恋バナとか?」
このみが提案した瞬間、小鞠は勢いよく立ち上がった。
「それだっ!!私が話す!!私の恋の話はね――」
胸を張った小鞠。しかし数秒後、口が止まる。
「…………だめだ。よっくんが絡んだくだらない話しか浮かばない……全然大人じゃない……」
「まぁ、あの子、その日の気分で“好き”とか“付き合おう”とか言うしね。
それ以外の男の子だと、すーくんしかいないし」
このみは肩をすくめる。
そして空気を変えるように蛍へ顔を向けた。
「その点、蛍ちゃんは東京に住んでたじゃない? どうなのぉ? 好きな人とかいたのぉ?」
このみは肘で蛍を小突き、ニヤニヤする。
蛍は苦笑しながら、困った様に視線を下げた。
「ええっと……好きな人っていうか……その……」
蛍はちらりと、小鞠へ視線を向ける。
(あれ……?今の蛍の目……)
その目には、幻視するほど甘い色が宿る。
(恋してる目だ!!)
「だぁーーっ!!やめ!!言わなくても分かった!!蛍、恋してる顔してる!!」
「ええっ!?私、そんな顔してました!?」
小鞠は叫び、蛍は慌てて自分の頬を触る。
そして小鞠はついにベッドへ倒れ込み、駄々をこねる。
「なんでなんでぇ!?私の方が年上なのになんで蛍の方が大人っぽいの!?やだやだやだ!!」
「駄々こねながら言うセリフじゃないでしょ……」
呆れきったこのみ。
蛍はあわあわしながら手を振る。
「あ、あのっ!先輩!!私ぜんっぜん大人っぽくないですから!!」
布団に顔を埋めたまま、小鞠がくぐもった声で聞く。
「ほたる……恋しちゃってるの……?」
蛍は目を泳がせ、涙目で上目遣いな小鞠の視線を避けながら
「コ、コイナンテ……シテルワケナイジャナイデスカ……」
と、棒読みで誤魔化す。
「だよね!!してないよね!!やった、これで引き分け!!」
いつ勝負になったのか分からず、このみは頭を抱える。
(どう見ても誤魔化してたけど……こんなにしっかりした可愛い子だし……東京でモテそうだなぁ……)
蛍の視線の意味に気づく筈もなく、ため息混じりに笑った。
(まぁ、少なくとも、よっくんには荷が勝ちすぎるし脈は無さそうね)
このみはニヤッとしながら満足そうに息を吐いた。
今後も、よしおは登場しないけど原作と会話内容が変化しそうな話は閑話として載せていこうと思います。