のんのんびより ― ある田舎男子の日常 ― 【ばけーしょん編更新中】 作:NIZI
皆様、お待たせいたしました。
劇場版・ばけーしょん編の更新を開始いたします。
夏の終わりに始まる、少し特別なお話です。
最後まで一緒に楽しんでいただけると嬉しいです。
第1話 沖縄へ行くことになった
夏真っ盛り――。
照りつける日差しに焼かれた土手の上で、オレは大の字になって空を見上げていた。
夏休みも、もう半分が過ぎていた。――それだけで、少し寂しい。
オレは富士宮よしお、十五歳。
どこにでもいる田舎の中学生――と言いたいところだが、最近は「受験生」という肩書きがついて回る。
だからこそ、こうして外の空気を吸う時間がやけにありがたい。
風が、ひとつ吹き抜けた。
「そろそろ家に戻るかな……」
そう思って体を起こしかけた、その時だった。
「よっくんなん! おーい! よっくーん!」
遠くから、よく通る声が飛んできた。
振り向くと、土手の向こうで小さな手をぶんぶん振っている影が見える。
――れんげだ。
その後ろには、なっちゃん、小鞠ちゃん、蛍ちゃんの姿もある。
けれど、最初に目に入るのは、やっぱりあいつだった。
……今のオレの体勢。寝転び位置。角度。
――ふむ。
オレは立ち上がるのをやめた。
代わりに、軽く欠伸をひとつして、腕を枕にして寝転び直し、目を閉じたフリをする。
「あれ? 聞こえなかったのかな?」
「よっくーん! 一緒に遊ばなーい?」
越谷姉妹の呼びかけに、わざとらしく薄く目を開けて、いかにも怠そうな声を作る。
「ちょっとこっち来てくれるかな? なんか身体が重くて起き上がれないんだ……」
「わかったのーん!」
無邪気に駆け出すれんげ。
その後を三人が追いかけようとした――その瞬間。
「みんな止まって!!」
小鞠ちゃんの鋭い声が空気を裂いた。
ぴたりと足を止める一同。
……ちっ。
「よっくん疲れてるみたいだし、無理に誘うのは可哀そうだから、寝かせといてあげようよ……」
「いやいや、大丈夫だって、手を引いてくれたら起きられるし、オレも遊びたいからさ……」
「だったら一人で起きて来なよ……」
じとっとした視線。完全に読まれているな。
「全く、すっかり警戒心がついちゃって……、成長してるみたいで、オレは嬉しいよ、小鞠ちゃん……」
「まぁ、私も大人のお姉さんだしね……。普段のよっくんの行いを考えたら、すぐにピンと来たよ……」
くっ……本当に成長しやがって……。
「一体どうしたのさ、姉ちゃん……」
「よっくん、私達のスカートの中を覗こうとして、自分の居る場所に誘導したんだよ……」
「そういえば、少し悪い顔してたん……」
「えぇ!? よしお先輩! それはあんまりだと思います!」
「うぐっ……、誤解だよ蛍ちゃん。証拠はあるの? 証拠は?」
「言い逃れしようとしてる犯人みたいなセリフを言ってるし……」
四方向から非難の声。
……詰んだ。
「スイマセンでした……」
――弱い。
オレは本当に弱い。
そんなこんなで、なぜか許されて、いつも通り一緒に遊ぶことになった。
優しい世界、万歳。
どうやら、みんなで絵を描く予定だったらしく、オレもそれに倣い、クレヨンを手に取る。
オレは適当に、ひまわりを持って笑っているなっちゃんと、それに話しかけるれんげを描いてみる。こういう何気ない瞬間が、一番“それっぽい”気がした。
そこへ、れんげがスケッチブックを抱えてやってくる。
中を覗けば、そこには夏休みの記録が詰まっていた。
海での水鉄砲合戦。ラジオ体操。肝試し――オレがオバケ役をやったやつだ。
一枚一枚に、その時の空気まで閉じ込められているようで、思わず見入ってしまう。
「れんちゃん、前からスケッチ書いてたの?」
「夏休みになってから毎日書いてたん」
「いっぱい遊んだね……」
蛍ちゃんの言葉に、どこかしみじみとした空気が流れる。
「ここに来て初めての夏休みも、もうすぐ終わっちゃうな……」
そんな蛍ちゃんの声を聴きながら、オレはれんげのスケッチを見続ける。
そして何気なく開いたページに、水車小屋が描かれていたのが目に入った。
――あの日の光景が、ふっと蘇る。
れんげとほのかちゃんが笑い合っていた、あの時間。
二人の写真を撮り続けていた自分。
ほのかちゃん、元気にしてるかな? またいつか会えるのだろうか……。
少しだけ、胸の奥が締め付けられる。
「まだ夏休みは終わらないん! みんなでもっと遊ぶのん!」
空気を吹き飛ばすような、れんげの声。
やっぱりこいつはすごい。
何も変わらないまま、全部ひっくり返してくる。
「遊ぶって何して? ボール遊びとか?」
「ふーむ……、セミ!」
「セミ取り? 虫取り網持ってくる?」
「――の抜け殻ごっこ」
「それはちょっと……」
……動けるのか、それ。
「じゃあ、かくれんぼやるん!」
「いいな! オレ、かくれんぼは得意だぜ!」
れんげの提案に反射的に胸を張って答えた――のが、まずかった。
「そういえば、よっくん、昔は更衣室のロッカーに、よく隠れてたよね……」
小鞠ちゃんの、どこか含みのある声。
嫌な予感が、背中を伝う。
「見つかって、このちゃんと駄菓子屋にボロ雑巾にされていたっけ?」
なっちゃんが追撃をかける。
オレの過去をいちいち掘り返すのはやめて欲しい……。
「よしお先輩……」
蛍ちゃんの、軽く引いたような視線が突き刺さる。
「結局見つかってるんな。得意とは言えないん」
「ソウデスネ……」
そんな中で、ただ一人。
いつも通りの顔でこちらを見ているれんげの存在だけが、ほんの少しだけ救いだった。
「じゃあジャンケンするん!」
れんげがぱっと手を上げて宣言する。流れが止まりかけていたところに、いい具合に次の遊びを放り込んできた。
「とりあえずやってみるか。最初はグーで」
「最初はグーなん」
れんげが手を構えた、その時だった。
遠くからエンジン音が近づいてくる。ふと顔を上げると、道の向こうから乗用車がこちらへ走ってきていた。
運転席には楓ちゃん、助手席には先生の姿が見える。
「あ、駄菓子屋と姉々なん! 駄菓子屋ー! 姉々ー!」
れんげもすぐに気づいたらしく、ぶんぶんと大きく手を振り始める。その声に反応したのか、車はオレたちの近くでゆっくりと止まった。
「おや、れんちょん」
「車に乗って何処いくん?」
「えっ、いやまあ、ちょっと買い物に……」
先生はどこか歯切れの悪い返事をする。
――なるほどな。
「わざわざ車で? もしかしてだけど……」
言いかけたところで、先生の視線が泳ぐ。
ああ、これは確定だ。よしおくん、わかっちゃったゾ!
「あっ! デパートに行くの!?」
「ウチも! 行きたい行きたい!!」
越谷姉妹が、ほぼ同時に食いつく。
この村で「車で買い物」と言えば、行き先はほぼ一択だ。近場は駄菓子屋か生協くらいだし、コンビニですら自転車でそこそこ時間がかかる。
だからこそ、その単語の破壊力はデカい。
「いやいや、遊びに行くんじゃねぇんだから……」
楓ちゃんが呆れたように制止をかけるが、
「ウチもウチも! ウチも行きたいん……!」
最終兵器、れんげが前に出た。
「だから……、日用品を買いに行くだけで……」
なおも抵抗する楓ちゃん。
――だが甘い。
「よいしょっと……、れんげ先生! お願いします!」
オレはれんげをひょいと抱え上げ、そのまま運転席の高さまで持ち上げる。
視線の高さを合わせる――これが重要だ。
「…………」
れんげは何も言わない。
ただ、じーっと。
ひたすらに、無言で楓ちゃんを見つめ続ける。
逃げ場のない圧。
それを正面から受け止める楓ちゃんの顔が、徐々に引きつっていく。
「うっ……、ううっ…………」
言葉にならない呻き。
それでも、れんげは瞬きすらせずに見つめ続ける。
数秒――いや、体感ではもっと長く感じた沈黙のあと。
がちゃり、と音がして、後部座席のドアが開いた。
……勝った。
こうして、オレたちはちゃっかり車に乗り込み、デパートへ向かうことになった。
走り出した車内は、外の暑さが嘘みたいに快適だ。
「うひゃー! 車の中涼しいー!」
「キンッキンに、冷えてやがる! しあわせー!」
文明の利器、最高。
シートに体を預けるだけで、さっきまでのだるさが嘘みたいに引いていく。
「お財布持ってきてて良かったー!」
「ですねー……。あはは……なんかすいません」
「はぁ……、遠足の保護者になってしまった……」
楓ちゃんのため息がバックミラー越しに聞こえる。
なんだかんだで面倒見がいいから、結局こうなるんだよな、この人。
……ほんと大好き。ハグしたい。
「遠足ってのもいいじゃん! 先生もいるし!」
なっちゃんは尚もはしゃぎ続ける。
その“先生”はというと、助手席で既にぐっすり眠っていた。
規則正しい寝息。いつも通り。平常運転だな。
「これで兄ちゃんもいたら全校生徒揃うんだけどな」
なっちゃんが何気なく呟く。
その直後だった。
「お、居たわ……」
視線の先――道の端を、のんびり歩いている人影。
……いた。
越谷卓。
あまりにもタイミングが良すぎる登場に、思わず笑いそうになる。
これで全員集合。
小さな分校の、生徒六人。
なんだろうな、この感じ。
ちょっとだけ――運命ってやつを、信じたくなった。
「デパート来たん!」
建物に入った瞬間、れんげの弾けるような声が響いた。
ガラス越しに差し込む光、人のざわめき、冷房の効いた空気――全部が、この田舎ではなかなか味わえない“特別”だ。
頻度は月に一度くらいである買い出し。それに偶然乗っかれたんだから、そりゃテンションも上がる。
……まあ、オレはれんげみたいに声に出してはしゃいだりはしないけどな。
内心は、普通に叫びたいくらいだ。
「せっかくゆっくり買い物出来ると思ったのに……」
楓ちゃんがため息混じりにぼやく。
「バレっちゃった物はしゃーない。みんなは何見たいのかな?」
「服!」
「ゲーム!」
「ウチ! 屋上のパンダ乗りたいん!」
「後でな……」
最後のれんげのおねだりに、楓ちゃんが軽く頭を抱える。
「じゃあ買い物終わったら、ここで待ち合わせな」
「「はーい!」」
こうして、自由行動がスタートした。
オレは特に目的もなく、服売り場をふらふらと歩く。
これまで服なんて、親戚の兄ちゃんのお下がりか、母さんが適当に買ってきたものを着るだけだった。
でも――東京に行くとなると、流石にそうもいかないかもしれない。
周りの目とか、そういうのもあるだろうし。
……いや、でも。
「高ぇな……」
思わず本音が漏れる。
目の前のシャツには「半額 二〇〇〇円」の札。
つまり、元は四〇〇〇円。
――ただの布だぞ?
四〇〇〇円あれば、ゲーム一本買える。
オレにはまだ早い気がしてきた。
そんなことを考えながら歩いていると――
「よっくん……、ここ、女物のコーナーなんだけど……」
横から、呆れ半分の声。
気づけば、小鞠ちゃんがすぐ隣に立っていた。
「……わざとじゃねぇって。普段、服とか見ないから、どこに何があるのか、わかんねぇんだよ……」
なので本当に、これは事故だ。
断じて下心ではない。
だが、この場に長居してもロクなことにならないのは確かだ。
オレは軽くため息をついて、その場を離れようとした――が。
「あ、お二人とも、丁度良かった! 少し良いですか?」
蛍ちゃんに呼び止められる。
「蛍ちゃん、どうしたの?」
「ちょっと、悩んでまして……」
……嫌な予感がする。
蛍ちゃんの立っている場所のすぐ隣。
そこにあったのは――色とりどりの女性用下着コーナー。
「あ!? そ、そうなんだ!?」
「どうかしました?」
蛍ちゃんはきょとんとしている。
この状況の異常さに気づいていないのが逆に怖い。
「そのっ、ごめん……! オレ、ちょっとトイレに……」
オレは即座に離脱を試みる。
「ちょっと待てコラ!!」
が、逃げる前に、小鞠ちゃんに肩をがっちり掴まれた。
いや、なんでだよ!
「トイレなんか行って、何する気だ! このスケベ!」
「何って、トイレなんだから用を足すに決まって……、あっ!」
――理解した。
小鞠ちゃんの言いたいことを。
いやいやいや、いくらなんでも発想が飛躍しすぎだろ!
……少し揶揄ってやるか♪
「なになに? 小鞠ちゃん♪ オレがトイレでナニすると思ったわけ? ちょっとオレには理解に苦しむね♪ 言葉にして詳しく教えてくれなーい?」
「へっ? いや、その……、えっと……」
みるみる顔を赤くする小鞠ちゃん。
わかりやすい。
……いいな、この表情。
「えっと、すいません。小鞠先輩、何か慌てている感じですけど大丈夫ですか?」
「あ、ごめん蛍ちゃん、こっちは大丈夫! それでえっと、何と何で迷っているのかな?」
さっと話題を戻す。
この空間での長期戦は危険だ。
「えっと、今着けてるのが子供っぽいので、黒いのと、茶色いので少し迷ってて……」
「成程、黒と茶色か……。そうだな、えっと……」
「ちょっとよっくん!? デリカシー無いにも程があるよ!! 蛍もダメだって! こんなエロ魔人にそんな事……!」
「そ、そうですか……? よしお先輩なら詳しいかと思って尋ねたんですけど……」
……は?
え、ちょっと待って?
オレ、蛍ちゃんにどういう評価されてるの?
「詳しいって……、はっ!! よっくん……、まさかとは思うけど、普段、このちゃんの着けているものを――」
「んなわけあるか!!」
小鞠ちゃんや。さすがにその誤解は看過できない。
流石のオレでも超えちゃいけないラインはあるからな?
……とはいえ。
蛍ちゃんのこの無防備さは、ちょっと危ない気もする。
オレがどうこうって話じゃなくて、世の中もっとやばい奴もいそうだからな……。
後で姉ちゃんに相談するか。
「この二つなんですけど……、どちらが良いでしょうか?」
蛍ちゃんが差し出してきたものを見る。
――そして、思考が一瞬止まった。
黒と茶色の――ベルト。
……ベルト?
「あ……、そういう事……だったんだ……」
小鞠ちゃんもようやく理解したらしい。
なんだよこれ。
こっちが勝手に勘違いしてただけじゃねぇか。
無駄に心臓バクバクさせられたんだが。
結局、蛍ちゃんには普段の服に合わせやすい茶色を勧めておいた。
オレ自身はというと――
特に欲しいものも見つからず、結局何も買わずにその場を後にした。
買い物を終え、約束していた待ち合わせ場所へ戻ると、すでに何人かが集まっていた。
「よっしゃ! 欲しかったゲーム機ゲット! 兄ちゃん! 家に帰ったら勝負ね!」
なっちゃんが戦利品を高々と掲げ、満面の笑みを浮かべる。
「…………(こくりっ)」
卓はいつも通り、軽く頷く。
「あ、夏海先輩、買い物は終わりました?」
「兄ちゃんとお年玉かき集めてゲーム機買った!」
蛍ちゃんの問いに、なっちゃんは得意げに答える。
「お、スゲェ! 新しい奴?」
「いや、それは高かったからもっと前に出た奴!」
それでも、新しいゲーム機を前にしたら、オレの物でなくとも、嫌でもテンションが上がってしまう。
「オレも一緒に遊んでいい?」
「もちろん! よっくんも一緒に勝負だ!」
即答してくれた。ありがたい。これは帰った後、確実に長期戦になるな……。
「ところで姉ちゃん、顔赤いけど、よっくん何かした?」
なっちゃんの何気ない一言に、空気が一瞬ピリッとする。
「べ、ベツニ、アカクナイモン……」
小鞠ちゃんは露骨に目を逸らしながら答えた。
「何でもない……、勝手に自爆しただけだから、気にせんといてーな……」
オレは肩をすくめてフォローする。
……いや、マジで自爆だからな?
「ふーん……、まぁいいか……」
納得したのかしてないのか、微妙な反応。
そのまま疑うような目でこちらを見るなっちゃんに、思わずため息をついてしまう。
……信用ねぇな。
「みんな揃ったみたいだし、帰るか」
先生の一言で、場がひと段落する。
「そういえば福引券。何枚か貰ったけど、みんなも貰った?」
「貰ったが、一回分も無かった気がする」
「みんなのを合わせれば、何回か引けるんじゃないでしょうか?」
「ウチも引きたいん!」
自然な流れで、福引コーナーへ向かうことになった。
こういうのは当たらないと分かっていても、なぜかちょっとワクワクする。
福引コーナーに着くなり、れんげが一歩前に出る。
「にゃんぱすぱすーん!」
元気いっぱいの挨拶に、店員さんが一瞬だけ固まった。
「あ、お嬢ちゃん、福引券を持ってきてくれたのかな?」
「持ってますん!」
「じゃあ一回引いて。当たるといいねー」
ぎこちない間をすぐに営業スマイルで埋めるあたり、さすがプロだ。
「まかせといてくださいん……。むむあー!」
気合い十分で回されたガラポンから、転がり出たのは青い玉。
「あ、青色はティッシュね。どうぞ」
まあ、そんなもんだ。
……と思ったのだが。
れんげは受け取ったポケットティッシュをじっと見つめた後――
「ティッシュ! 当たったん!!」
ぱあっと顔を輝かせた。
「これ! 貰っていいん!?」
「あ、うん、あげるよー……」
「駄菓子屋! ティッシュ当たったん!」
「おぉう……、やったな」
「やりましたん! きっと日頃の行いが良かったからなんな。毎日お風呂の掃除。手伝ってたおかげなん!」
「そうか……、偉いな、れんげは……」
……それでいいのかもな。
その後、蛍ちゃん、なっちゃん、そしてオレも回したが――
結果は全員、仲良くティッシュ。
「すごいん! みんな当たったてるん! 良かったのんなー! よっくんも、毎日勉強を頑張ってるおかげなん?」
「ま、まあな……」
れんげの無垢な言葉に、思わず曖昧に返す。
……これ、他のやつに言われたら普通に煽りだからな?
まあ、当たらないのが普通だし、別にいいんだけど。
「姉ちゃんは福引やった?」
「やってない。私こういうの絶対外れちゃうから……」
「でも確か、あと一枚残ってたような」
――その瞬間。
カランカランカラン!
場の空気を一変させる、高らかなベルの音が鳴り響いた。
「おめでとうございまーす! 特賞! 特賞でーす!!」
思わず、全員の視線が一斉に音のした方へ向く。
「改めて、おめでとうございます! お客様は見事! 特賞を引き当てました!」
店員の声がやけに大きく、そして遠く感じる。
「なのでこちら! 沖縄旅行四名様! 旅行券をプレゼントです!!」
「沖縄、旅行……だと……!?」
思考が一瞬、止まった。
「うそ……、兄ちゃんが……当てた……のか……!?」
「すごいのん!?」
視線の先。
そこには、「特賞・沖縄旅行券」と書かれた目録袋を手にした卓が、いつもと変わらない無表情で立っていた。
……マジかよ。
卓は何も言わず、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
そして、そのままなっちゃんの前に立つと――
ぽん、と。
それを手渡した。
それだけ。
それだけやって、何事もなかったかのように踵を返す。
……いや、かっこよすぎだろ。
「あ、ああ、あああ…………」
目録袋を受け取ったなっちゃんの声が震える。
次の瞬間――
「「「うわわわわわわああああ!!!」」」
爆発した。
オレの分も含めて、歓声とも悲鳴ともつかない複数の叫びが、その場に響き渡る。
四人分の沖縄旅行。
その現実を理解した瞬間、全員のテンションが一気に限界を突破した。
――夏休み、最後の週。
――きっと、この夏は、ここからが本番だ。
実は作者、沖縄に行ったことがないのん……。
あおいちゃんの沖縄弁、どうしようか悩み中です。
生温かく見守っていただけると助かります。