のんのんびより ― ある田舎男子の日常 ― 【ばけーしょん編更新中】   作:NIZI

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今回は空港回です。

田舎組、初めての空港で大暴れします。
(※小鞠とよしおが捕まります)


第3話 飛行機に乗った

 高く張り巡らされた天井。

 ごろごろと音を立てて動くカバンと、人の流れ。

 ガラス越しに差し込む光が、眩しく見える。

 

「ここが空港なん……」

 

 ぽつりと漏れた声には、隠しきれない感動が滲んでいた。視線はあちこちへと忙しく動き、目に入るもの全部を追いかけるみたいに、落ち着きなく見回している

 

 やがて、その高鳴りは抑えきれなくなる。

 

「駄菓子屋! 飛行機どこにあるん!? 探してくるん!」

 

 言うが早いか、身体が前に出る。

 

 しかし――

 

「待て、動くな! 今先輩達が荷物預けてるから、その後だ」

 

 伸びてきた楓の手が、しっかりとその動きを止めた。

 

「迷子になったら沖縄行けなくなるからな……、大人しくしてるんだぞ」

 

 続けて、今度は少しだけ声を落とす。叱るというより、言い聞かせる響きだった。

 れんげはその意味をきちんと受け取ったのだろう。

 

「んっ!」

 

 力強く頷くと、自分から楓の手をぎゅっと握り直す。そのまま離れまいとするように、ぴたりと隣へ寄り添った。

 

 小さな手の確かな感触に、楓の肩からふっと力が抜ける。

 

 これなら目を離さなければ大丈夫だ――そう判断し、周囲へと意識を向けた。

 

「お前達も、れんげの事を見ててくれよ……」

 

 軽く声をかけながら、他の面子へ視線を送る。が――次の瞬間、その表情が固まった。

 

 

うっはー! 空港でっか! エスカレーターなっが!

 

 よしおは口を開けたまま、天井へと続く長いエスカレーターを見上げている。足元もおぼつかないまま、ふらふらと歩き回る姿は完全に”おのぼりさん”だ。

 

凄い! 空港! 近未来! 自慢できる!!

 

 ひかげはスマホ片手に、視界に入るものを片っ端から追いかけるようにきょろきょろしている。すでに“誰にどう話すか”まで頭の中で組み立てていそうな勢いだ。

 

よっくん! あっちあっち! あっちでお土産売ってる!

 

 夏海は売店を見つけた瞬間、声を弾ませる。足はもう止まっていない。

 

「ほんとだ! あ、なっちゃん! あっちに良い感じのカフェがあるぜ! 一杯洒落込んじゃう!?」

 

「さんせーい! やっほーい!」

 

「あっ! ずるい! 私も連れてけー!」

 

 気づいたら、三人とも、そのまま人混みの中へと紛れ込んでいった。

 

 距離はあっという間に開き、姿はすぐに見えなくなる。

 

「おいコラッ! お前らが勝手に動いてどうする! 戻ってこい!!」

 

 楓は声を張り上げるが、ざわめきにかき消されるばかりで、届いた様子はない。人の流れに飲み込まれた三人の姿は、もうどこにも見当たらなかった。

 

 残されたのは、しっかりと繋がれた小さな手と――

 

「みんな、落ち着きなくて大変なん……」

 

 隣でぽつりとこぼされた、れんげの一言。

 

 やけに的を射たその呟きが、広いロビーの中で静かに響いた。

 

 

「待たせたね、楓」

 

 その時、ちょうどタイミングを合わせたかのように、一穂、このみ、蛍、小鞠の四人が戻ってくる。

 

 手続きの一連を終えたのだろう。一穂はいつも通り気の抜けた様子で、軽く肩を回しながら歩いていた。

 

「先輩、手続きまだですか? あいつら好き勝手動いて、手がつけられないんですけど……」

 

 楓は待ってましたと言わんばかりに声をかける。その口調には、疲労と苛立ちがはっきりと混ざっていた。

 

「おつかれ、今終わったよ」

 

 一穂はいつもの調子で、のんびりと答える。その一言に、楓はようやく一息つけたように肩の力を抜いた。

 

 だが問題は、まだ解決していない。

 

 このみはそんな状況を一目で察すると、軽く笑みを浮かべて前に出る。

 

「よっくーん! もう飛行機乗るから、戻ってきなよー!」

 

 その声は、周囲の喧騒に紛れながらも、不思議とよく通った。

 

「はーい! わかったよ姉ちゃん!」

 

 次の瞬間、離れた場所から素直な返事が響く。

 

 そして――

 

 人混みの合間を縫うように、よしおが現れた。両手にはそれぞれ夏海とひかげの手をしっかりと掴み、引きずるようにして戻ってくる。

 

 先ほどまでの自由奔放さが嘘のような、逆らうという選択肢が、最初から存在しないかのように見事な回収だった。

 

「あ、あっさり戻ってきた。流石このちゃん……」

 

 その様子を見て、小鞠がぽかんと呟く。半ば呆れ、半ば感心したような声だった。

 

「良く手懐けられてんな……」

 

 楓も思わず感想を漏らす。感心を通り越して妙な納得すら覚えてしまった。

 

 ――もはや、よしおの扱いは犬か何かである。

 

 

 

 空港ロビーの一角――検査場の入口前。

 

 ここまでの賑やかさとは少し違い、張り詰めた空気が漂っている。係員の案内の声と、機械の電子音が規則的に響く場所だった。

 

「やっと飛行機に乗れるんだね」

 

 小鞠がほっとしたように呟く。長い道のりの一区切りといったところだろう。

 

「後は検問ですね」

 

 蛍は落ち着いた様子で周囲を見渡しながら言う。その手際の良さは、すでに何度か経験があることを感じさせた。

 

「荷物はこのカゴに入れてっと……」

 

 一穂は気の抜けた調子のまま、言われた通りに手荷物をトレーへと載せていく。

 

「金属類はここに入れればいいんだよね?」

 

「はい、そうです。荷物も入れましたし、行きましょうか」

 

 このみと蛍のやり取りは実にスムーズで、流れをよく理解している様子だった。

 

「はぇー……、蛍ちゃんすごいな、手慣れてる……」

 

 よしおは感心したようにその様子を見つめる。

 

「あのゲートが金属探知機……」

 

 ひかげは興味津々といった様子で、ゲートをじっと見つめていた。

 

「服のチャックとか、大丈夫かな?」

 

 夏海が少し不安げに呟く。

 

「それくらい大丈夫じゃない?」

 

 小鞠は軽く答えるが、その根拠はあまりなさそうだ。

 

「えーまじで? 引っかかってお縄になったらどうすんのー?」

 

「大丈夫だって! 早く行ってよ」

 

 背中を押される形で、夏海はしぶしぶ前へ出る。

 

「わ、わかったよ……」

 

 そろり、と慎重に足を運び、ゲートをくぐる――

 

 ……反応はない。

 

「お、鳴らなかった!」

 

 ぱっと表情を明るくする夏海。

 

「だから言ったじゃん。時間取らせないでよね……」

 

 やれやれ、といった様子で小鞠も続いてゲートへ向かう。

 

 そのまま何事もなく通り抜ける――はずだった。

 

 

 ――ぴぴぴーー!!

 

 

「うぇっ!?」

 

 突然の警告音に、小鞠の身体がびくりと跳ねる。

 

「あ、少し失礼しまーす」

 

「あ、はい……ごめんなさい……」

 

 係員に声をかけられ、小鞠は一瞬でしゅんと肩を落とす。泣き出しそうな表情で、申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 そんな様子に、係員も思わず苦笑いを浮かべる。

 

「いえいえ、少し調べさせてもらいますね」

 

 穏やかな口調でそう言いながら、ボディチェックの準備に入る。

 

「うわっ! 姉ちゃん捕まった……」

 

 夏海は面白がるように声を上げる。

 

 小鞠は女性職員に誘導され、検査を受けることになった。

 

 その様子を見ながら、よしおは内心で呟く。

 

(大変だな、小鞠ちゃん……)

 

 ――完全に他人事だった。

 

「次の方、どうぞ」

 

「あ、はい!」

 

 呼ばれて前に出る。

 

(不安になってきたが、まぁ大丈夫だろ……)

 

 そう自分に言い聞かせながらゲートをくぐるが――

 

 

 ――ぴぴぴぴーー!!

 

 

「あっ!」

 

 盛大に鳴り響く警告音。

 

 だが、よしおは意外にも落ち着いていた。

 

(……うん、なんか、そうなりそうな気はしてた)

 

 よしおは自分でも驚くほど、あっさり受け入れていた。

 

「よっくんだし、しょうがないかな」

 

「よしお自体が危険物だと言えるしな」

 

「よっくん、将来性犯罪とかで逮捕された時の予行練習。しっかりやるんだよ♪」

 

「あんたら、言いたい放題だな!?」

 

 好き放題言われたよしおは、さすがに声を荒げる。

 

「あ、すいません係員さん。お手柔らかにお願いします」

 

 しかしその直後には外面をきっちり取り繕うあたり、変に大人びていた。

 

 

 

「みんな、検査は終わった?」

 

 少し離れた場所で、一穂がのんびりと声をかける。

 

「まだなん。向こうで、よっくんとこまちゃんが両手あげてるん」

 

「え?」

 

 れんげの指さす先を見て、一穂は目を瞬かせた。

 

 そこには――係員によって、両手を上げて検査を受ける小鞠とよしおの姿。

 

 まるで何かの現行犯のような光景だった。

 

「容疑者カップルって所だね♪」

 

「せっかくだし撮っておくか。二度と無い機会かもだし」

 

 このみとひかげはすっかり面白がっている。

 

「やめてよー、とらないでー……」

 

 小鞠は半泣きで抗議するが、

 

「いいよー、その表情。捕まった悲壮感タップリだよー」

 

 カメラを持ってない夏海も、カメラマンを気取りながら、両手でジェスチャーを行っていた。

 

「あんたら、これが終わったら覚えてろよ……」

 

「こっちは典型的な小悪党のセリフだな」

 

 よしおも低く唸るが、ひかげの一言で完全に台無しになる。

 

「二人とも、写真撮るから笑って笑ってー♪」

 

「「笑えるかっ!」」

 

 笑顔で携帯を構えて追い打ちをかけるこのみに、二人の声が見事に重なる。

 

「あいつら、なにしてんだか……」

 

 楓は、その光景を見て深いため息をついた。

 

 

 

 

 ……酷い目にあった……。

 

 検査を終え、ようやく辿り着いた搭乗待合室。

 

 大きな窓の向こうには、これから乗り込む飛行機が堂々と佇んでいる。さっきまでの慌ただしさとは打って変わって、どこか落ち着いた時間が流れていた。

 

 ――とはいえ、オレの気分は穏やかとは言い難い。

 

 係員さんによる丁寧なチェックの結果。服のサイドポケットから五百円玉が出てきた。運が良いのか悪いのか、複雑な気分にさせられたわ。

 

 因みに小鞠ちゃんは、オシャレでつけていたヘアピンが原因だったらしい。本人はめちゃくちゃ恥ずかしそうにしていた。

 

 ……小鞠ちゃんとのツーショットが、まさかあんな形で叶うとはな。

 

 あれが普通の写真だったら、手放しで喜べたんだがな。二人そろってバンザイ状態だったけど……。だからどうしたって話だ。

 

 

 

「飛行機! 飛行機なん!」

 

 そんなオレの内心なんてお構いなしに、れんげが元気よく声を上げた。

 

「近くで見ると迫力あるね……」

 

「すごいん!!」

 

「しゃ、写真! 写真撮らないと!」

 

 れんげに釣られるように、姉ちゃんとひか姉も窓際へと駆けていく。

 

 巨大な機体がすぐそこにある光景は、確かに圧巻だった。こんなデカい鉄の塊が空を飛ぶなんて、改めて考えるとすごい話だ。

 

(かがくのちからってすげーな……)

 

 ぼんやりとそんなことを思いながら、オレも少しだけ窓の方へ目をやる。

 

(カメラ、持ってくればよかったかな……)

 

 後悔が頭をよぎったところで、搭乗の案内が流れた。

 

 促されるまま、オレ達は機内へと足を運ぶ。

 

 狭い通路を進みながら、自分の座席番号を探す。

 

「D-23。席はここだな」

 

 見つけた席に腰を下ろすと、独特の機内の匂いと、少しひんやりとした空気が肌に触れた。

 

「やっば、テンション上がってきた……!」

 

「こ、これでとうとう、私も飛行機に……!」

 

 両隣に座ったなっちゃんとひか姉も、落ち着かない様子でそわそわしている。

 

 オレが真ん中で、その両脇に二人。

 

 ――いよいよ飛ぶのか。

 

 そう思うと、自然と胸の奥が高鳴ってくる。

 

「ほたるんが言ってたけど、雲の上まで飛ぶんでしょ?」

 

「そりゃそうでしょ! なんてったって雲の上だしな!」

 

 興奮気味に交わされる会話を聞きながら、オレはふと窓の外へ視線を向ける。景色、絶対いいよな。

 

 通路側じゃなくて、卓が座っている窓側の席を譲ってもらえばよかったかもしれん。

 

 今さらながら、少し惜しい気持ちが湧いてきたな。

 

「じゃあそこから落ちたら助かるかな?」

 

「そりゃあ無理っしょ?」

 

 なっちゃんの突拍子もない一言に、ひか姉が即座にツッコむ。

 その流れで、オレもつい口を挟んだ。

 

「そうそう、ミンチよりひでぇ事になるって!」

 

 一瞬の間。

 

「えっ……?」

「あれ……?」

「おおぅ……」

 

 空気が、一気に冷えた。

 

(……やっちまった)

 

 さっきまでの浮かれた雰囲気が、一気にしぼんでいく。

 

 もしやこれ――生殺与奪を握られてるってやつか……?

 

 なんとなくそんな言葉が頭をよぎる。少し怖ろしい気持ちが湧いてきたな……。

 

 

 

「よーし、お菓子食べよ!」

 

 そんな中、小鞠ちゃんの元気な一声に、思わずそちらへ目を向ける。

 

「え、もうですか?」

 

 蛍ちゃんが小鞠ちゃんに対して驚いたような声を上げる。

 

「私トランプ持ってきたよ」

 

 姉ちゃんがさらりと続ける。

 

「お、このちゃん用意いいね!」

 

「何をしましょうか?」

 

「ババ抜き? それとも大富豪にする?」

 

 三人の楽しそうな会話が、こちらまで伝わってくる。

 

 あっち楽しそうだな――なんて思っていた、その時だった。

 

 

 ――本日はご搭乗ありがとうございます。お客様に、非常用設備についてご案内いたします。

 

 

 機内に、少し落ち着いた調子のアナウンスが流れ始める。

 

「二人とも……、非常用設備だってさ……」

 

 なっちゃんが声をひそめる。

 

「非常用……、なんか息が苦しくなってきた……」

 

 オレもつられて、胸がざわつく。

 

「おい、静かにしろっ! ちゃんと聞いとこうっ!」

 

 ひか姉がぴしっと言い放つ。

 

 確かにその通りだ。こういうのは大事な話だし、ふざけて聞き流すもんじゃない。

 

 命に関わることだからな……くわばらくわばら……

 

 自然と背筋が伸びる。

 

 

『緊急の場合は、頭を低くして、身を守る姿勢を取ってください。酸素吸入器は、みなさまのお座席の下にご用意しております』

 

 

「緊急の場合……だってさ……」

 

 なっちゃんの声が、さっきよりさらに小さくなる。

 

「そんな場合がある。って事、だよね……」

 

 ひか姉も不安げに続く。

 

「息を止めたら……少しは助かる確率上がるのかな?」

 

「それ、我慢した分、後で余計に消耗するやつだ! やめとけ!」

 

 オレの疑問を、ひか姉がすかさず窘める。オレもそんなくだらないことを真剣に考えてしまうくらいには、ビビっていた。

 

 

『それでは、まもなく離陸いたしますので、シートベルトはしっかりとお締めください』

 

 

 アナウンスが締めに入ると、機内の空気もまた少し引き締まる。

 

 

「だってさ、れんげ」

 

「しめるん! ガシーンッ!」

 

 前の席から、楓ちゃんとれんげのやり取りが聞こえてくる。れんげの気合いの入った擬音に、思わず少しだけ肩の力が抜けた。

 

「準備万端ってとこか。そっちの三馬鹿も――」

 

「しめた!」

「しめてるよ!」

「それはもうカッチリと!」

 

 オレ達は自然と返事を揃えた。命に係わる事だからな。言われるまでもなく、ベルトはしっかり締めてあるぞ。

 

「もう締めてるのか。早いな……」

 

 楓ちゃんが少し意外そうに呟く。

 

 しかし楓ちゃん、今しれっとオレ達の事を”三馬鹿”って言ったよな。なんて言い草だ。こっちは品行方正を絵に描いたような優良児三人組だっていうのに。

 

 ……この前、ボール遊びで植木鉢を割って、三人揃って雪子おばさんに怒られたばっかだけど。

 

 

 

 機内に流れた非常用設備のアナウンスが、終わったあともじわじわと不安だけを残していった。

 

 飛行機に入った直後の浮かれた空気が嘘みたいに、オレ達の間には妙な緊張が漂っている。

 

「さっきのアナウンス。想定してたよね……。万が一を想定してたよね?」

 

 なっちゃんがぽつりと呟く。その声は、さっきよりも明らかに弱々しい。

 

「だ、大丈夫だ……、交通事故に会うより遥かに確率が低いって話だし……」

 

 ひか姉が自分に言い聞かせるように答えるが、語尾がかすかに揺れた。

 

「オレ……、昔から悪い意味で低い確率を引き当てちゃうことが、まれに良くあるんだよなぁ……」

 

 棒を振り回して蜂の巣を突いちゃったり、廊下の床が突然抜けて落ちたりとかね。

 

「やめてよ……、今そんなこと言うの……」

 

 なっちゃんの抗議はもっともだ。

 

 気づけば、オレ達三人は隣同士、まるで不安を押し付け合うみたいに手を握り合っている。

 

 右手にはひか姉、左手にはなっちゃん。肘掛けの上で、自然と互いの手を握り合っている。

 

 ――両手に花、なんて言えば聞こえはいいけど。

 

(手、汗でびっしょりだな……)

 

 緊張のせいか、妙に生々しい感触が伝わってきて、正直あまり落ち着かない。

 

「そうだ、こんな時はポジティブな事を考えよう!」

 

 この空気を変えようと、オレは勢いで口を開いた。

 

「ポジティブって、急に言われても……お前、何か言えよ……」

 

 ひか姉の冷静なツッコミ。

 

 ――確かにその通りだ。言い出しっぺはオレだしな。

 

(ポジティブ……ポジティブ……)

 

 頭の中で必死に探す。

 

 そして、ひとつ思いついた。

 

「ここで死んだら、未来永劫みんな一緒だよ! そう考えたら寂しくないね!」

 

「重いわ!! それに結局死んでるじゃんか……!」

 

「流石よっくん、ポジティブになりきれてない……」

 

 予想通りの反応に、オレは軽く肩をすくめる。

 

(でもまあ……)

 

 ほんの少しだけ、気が紛れた気がしないでもない。

 

 ――よし、もう一発。

 

「こういう時、誰かとくっついてた方が怖くない気がするんだけどさ……、ホラ、もっとオレの方に身を寄せてきてよ!」

 

 半分ヤケで言ってみる。

 

「するか! 勝手に怖がってろ!」

 

 即座にひか姉に一蹴された。

 

(まあ、そうなるよな……)

 

 気を取り直して、もう一人へ。

 

「いいもんいいもん。なっちゃんは、オレの味方だよね? さぁ! 思う存分その身を預けたまへー!」

 

「ごめん、流石にそんなテンションには、なれないや……」

 

 なっちゃんも、やんわりと拒否。

 

(ここには味方はいなかったか……)

 

 心の中で小さくため息をつく。

 

 それでも、さっきまでの重苦しい空気よりは、少しだけマシになった気がした。

 

 しばらくして、ふと別の疑問が頭に浮かぶ。

 

「それにしてもさ。死んだら人間ってどうなるんだろう……」

 

 口に出してみると、我ながら急な話題だと思う。

 

「急に哲学的な話になったな……」

 

 ひか姉も少し呆れたように返す。

 

「天国とかって本当にあるのかな? ひか姉は知ってる? 東京で何か知る機会とかない?」

 

 なんとなく、都会ならそういう情報にも触れられるんじゃないか、なんて発想だ。

 

「そうだな……、ルーチェ……は当てにならなそうだし、ダメ元でピコにでも聞いてみるか……」

 

「お、知ってる人いるんだ! 流石東京!」

 

「名前からして海外の人? グローバルってやつだな! 流石東京!」

 

 なっちゃんとオレが素直に感心すると、

 

「ま、まーね! 東京ともなれば、全世界から、いろんな物や人が集まるから!」

 

 ひか姉は、どこか得意げに胸を張った。

 

 東京か……来年には行くんだよな。受験勉強、ちゃんとやんねえと……。

 

 飛行機が動き出す気配を感じながら、オレはそんなことをぼんやりと思った。

 

 

 

 機体がわずかに震え、低く唸るような音が足元から伝わってくる。

 

 ――いよいよ、離陸だ。

 

 滑走路へと向かってゆっくりと動き出したかと思えば、次の瞬間には、その速度が一気に増していく。

 

「って、どわー動き出したー!!」

 

 ひか姉の声が裏返る。

 

「うおっ! 速くなってく! やべー!」

 

 なっちゃんも座席に押しつけられるような感覚に、思わず声を上げた。

 

「飛ぶん!? 飛んじゃうん!?」

 

 オレもつられて叫ぶ。少し訛ってしまった……。いや飛行機なんだから飛ぶに決まってるんだけど、頭で分かってるのと実際に体験するのは全然違う。

 

 こんなの、田んぼの上じゃ絶対味わえねえな……。

 

 ぐんぐんと加速していく機体。

 

 背中がシートに押しつけられ、視界の外では景色が一気に流れていく。

 

 心臓がドクン、と大きく脈打った。

 

 ――その瞬間。一瞬だけ、全員の会話が止まった。

 

 ふっと、重さが変わる。

 

 地面を離れた。

 

「いよいよ離陸するな!」

 

 少し離れた席から、楓ちゃんの声が聞こえる。

 

「沖縄に出発なーん!」

 

 れんげの弾んだ声が、それに続いた。

 

 離れた場所にある窓の外では、さっきまで近くにあったはずの建物や地面が、みるみる小さくなっていく。

 

 本当に――飛んでる。

 

 あんなデカい鉄の塊が、空を。

 

 さっきまでの不安も、恐怖も、どっか行った。

 

 再び、機体がわずかに揺れる。

 

 シートベルトが腰に食い込む感覚が、現実を引き戻してくる。

 

「オレ達の旅行は、これからだ!」

 

 思わず、そんな台詞が口をついて出た。

 

「縁起でもないフラグ立てるのやめろ!!」

 

 即座にひか姉のツッコミが飛んでくる。

 

 ……うん、自分でもちょっと思った。でもちゃんと飛んでる。……すげーな、これ。





よっくん、こまちゃんとの念願のツーショット達成。
(※なお撮影場所は空港の検査場。両手を上げた状態)

次回からは沖縄編、今度こそ本格スタートです。
引き続き、ゆるく騒がしい旅をお楽しみください。
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