のんのんびより ― ある田舎男子の日常 ― 【ばけーしょん編更新中】   作:NIZI

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今回は沖縄上陸から旅館でのあれこれをお届けします。


第4話 旅の空気に浮かれていた

 

 沖縄に着いてから、オレ達は空港を出てすぐにバスに乗った。

 

 窓の外には、これまで見たことのない色の景色が広がっている。空はやけに高く、光は強く、そして――海が、異様なほどに青い。

 

「ほぉー……」

 

 れんげが、ぺたりと窓に張りついていた。小さな手でガラスを押さえ、目をきらきらさせている。

 

「海! 真っ青なん! 駄菓子屋も見てみるん!!」

 

「お、ほんとだな!」

 

「えっ? なになに? グミ真っ青?」

 

「海だ海」

 

「あー、ダメだ。飛行機の気圧のせいで耳が変……」

 

 楓ちゃんもれんげにつられて窓の外を覗き込む。その後ろの席のひか姉がヒョコっと顔を出すが、ひか姉はまだ耳の違和感が抜けきっていないらしく、周囲の声が良く聞こえないようだ。

 

「ひか姉、耳が弱点?」

 

「イカAミミがじゃこ天? なにそれ、今日の晩メシ?」

 

「ひ、か、姉ー!」

「行、か、ねえ?」

 

 なっちゃんも話しかけてるけど、会話が成立していない。

 

 ……これ、今なら何言っても聞き間違いで誤魔化せそうじゃないか?

 

 ちょっとくらい試してみても良いかな?

 よし! 行ってみるか。

 

「ひか姉、抱きしめて良い?」

 

「着替え、カギ閉めて良い? いや、聞くまでもなく閉めろよ!」

 

「す、スイマセン……」

 

 ……失敗した。

 

「よっくん……」

「いでで! ごめんなさい!」

 

 そして隣の席の姉ちゃんに腿をつねられた。地味に痛い……。

 

「なにしてんだか……」

 

 おまけに小鞠ちゃんにも冷たい目で見られた。心が痛い……。 

 

 そんなオレが散々な状況下でも、れんげの興味は尽きず。窓の外を眺め続けている。

 

「なーなー、このままホテルまで行くん?」

 

「いや、一回船に乗り換える」

 

「船って言っても、十分くらいで着くって」

 

「なっちゃんが雑誌で見つけてくれた民宿。素敵だったし、早く行きたいな」

 

 姉ちゃんの声も、どこか浮き立っていた。オレも楽しみだし、失敗は引きずらずに切り替えていこう。

 

 

 途中で船に乗り換えた。

 

 バス越しではなく、直接目の前に広がる海は、さっきよりもずっと近くて、ずっと鮮やかだった。太陽の光を受けて、きらきらと反射する水面。潮の匂いが、風に乗って鼻をくすぐる。

 

 十分なんて、あっという間だ。

 

 正直、もっと乗っていたかったと思うくらいには気に入ってしまった。

 

 誰も、しばらく喋らなかった。

 

 波の音と、エンジンの低い振動だけが、ゆっくりと体に伝わってくる。

 

「……きれいなん」

 

 ぽつりと、れんげが呟いた。

 

 その一言だけで、なんとなく十分な気がした。

 

 

 船を降りてからは、全員で民宿まで歩く。

 

「ふぉー! 沖縄! 沖縄なのん!!」

 

「まぁさっきから沖縄なんだけどね……」

 

 はしゃぐれんげに対して小鞠ちゃんの指摘も、どこか優しい。

 

 道の脇には、見たことのない植物が並んでいる。小さなバナナみたいな実。やたらと大きな葉っぱ。屋根の上には、口を開けたシーサーがこちらを睨んでいた。

 

 瓦屋根の家々も、自分達が住んでる田舎とは違う雰囲気を醸し出していて、どこか異国の街に迷い込んだみたいだ。

 

「すっげー雰囲気あるなぁ!」

 

 なっちゃんが声を上げるのも無理はない。

 

「なっつん! よっくん! 探検! 探検するん!」

 

 れんげが、今にも駆け出しそうな勢いで振り返る。

 

「お、れんちょん、威勢がいいね!」

 

 なっちゃんもそれに乗っかって、すっかりいつもの調子だ。

 

「ふっふっふ……、それじゃあ、あっちの角がどうなってるか、見に行くぞ!」

 

 オレもついつい調子に乗ってしまう。

 

 三人で顔を見合わせ――よーい!

 

「「おおー!!」」

 

 スタートでそのまま飛び出した瞬間。

 

「おい待て待て、勝手に行くな……テンション上がるのは分かるが、まず宿に行ってからだ」

 

 楓ちゃんの一声で、ぴたりと止められた。

 

「「「はーい!」」」

 

 ……さすがに逆らえない。

 

 素直に引き下がりつつも、内心ちょっとだけ残念に思う。あの角の先、絶対何か面白そうだったのに。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、道の脇に目を引くものを見つけた。

 

 草を食む、大きな牛。

 

 茶色い体に、やけに立派な角。のんびりとした動きで、周りの空気までゆるくしているみたいだった。

 

 この南国の風景の中にいても、妙に馴染んでいる。

 

「ここも田舎なのん?」

 

「沖縄だぞ」

 

 れんげの呟きに、なっちゃんのツッコミが、間髪入れずに入った。

 

「つまり……南の田舎なん?」

 

 よりややこしくなったな……。

 

 

 話を続けてる間に、目的の民宿にたどり着いた。

 

 入り口には「やど家。にいざと」と書かれた、丸みのある柔らかい字の看板。赤瓦の屋根が夕陽に照らされて、じんわりと温かい色に染まっている。いかにも“沖縄の宿”って感じで、雰囲気は上々だ。

 

「ここが宿なんだね」

 

「瓦が綺麗ですね」

 

「早く入ろう……疲れた……」

 

 小鞠ちゃんと蛍ちゃんが感心している横で、オレは正直な感想を口にした。さっきまで、はしゃぎ過ぎたせいか、足が重い。

 

 代表して先生が戸を開ける。

 

「すいませーん、予約してた宮内ですけど」

 

 そのまま中へ入ると――

 

 ひんやりとした空気が、全身を包み込んだ。

 

 外の熱気とは別世界みたいな涼しさが、火照った体にじわっと染みていく。

 

 ……生き返る。

 

「はーい! メンソーレ! 中へどうぞ!」

 

 女将さんの明るい声に迎えられて、オレたちは奥へと案内される。

 

 涼しい空気と、どこか落ち着く匂い。さっきまでの暑さが嘘みたいだ。

 

「えんぽーる?」

 

「ん? 突然何言ってんの、ひか姉?」

 

「いや、今"えんぽーる"って言ってたじゃん。沖縄の挨拶ってめんそーれだと思ってたけど、えんぽーるってのもあるんだなって」

 

 耳をいじりながら真顔で言うひか姉に、思わずツッコミそうになるのを堪える。

 

 イントネーションが少し違って聞こえたのは分かるけど、なんだよ“えんぽーる”って。ギャンブルで負けた後に強制労働させられそうな響きだな。

 

「えんぽーる、えんぽーる」

 

 ……しかも気に入ったのか、繰り返してるし。

 

 

「あおいー! お客様、お部屋に案内して差し上げて!」

 

「はーい! お暑い所お疲れ様です!」

 

 元気な声とともに、ひとりの女の子が現れた。

 

「お部屋、奥の方になりますので、ご案内いたしますね!」

 

「はぁ、なんか若い店員さんだ」

 

 先生が感心したように呟く。

 

 確かに“若い”どころじゃない。オレ達と同年代に見える。

 

「うちの娘でして」

 

「へぇ、おいくつなんですか?」

 

「今年、中一です」

 

「中、一……」

 

 なっちゃんがぽつりと呟く。

 

 ――同い年。

 

 その事実に、オレは内心ちょっと驚いた。

 

 言葉遣いも立ち居振る舞いも、まるで大人みたいにしっかりしている。初めて駄菓子屋で接客をしたとき、丁寧に話そうとして噛みかけた自分を思い出して、少しだけ気まずくなった。

 

 それにしてもなっちゃんと同い年かぁ……。

 

「何? その表情……」

 

「いや、なんでもないぞ……」

 

 なっちゃんにジト目で見られて、慌てて目を逸らす。

 

 別に比べたわけじゃない。……いや、ちょっとは比べたかもしれないけど。

 

「あ、そちらの荷物! お持ちしますか?」

 

「あ、いえその、大丈夫、です……」

 

「わかりました! ではこちらです! 足元、お気をつけ下さいね!」

 

 丁寧に案内するその様子に、思わず背筋が伸びる。

 

「夏海、同い年なのに敬語で返事してる♪」

 

「うっさいな……」

 

 小鞠ちゃんにからかわれて、なっちゃんがむくれる。

 

 でも正直、その気持ちは分かる。あそこまでしっかり対応されたら、こっちもつい畏まっちゃうよな。

 

 ――なんて思っていたら、またなっちゃんと目が合った。

 

 今度は何も言わずに、すっと視線を逸らす。

 

 ……余計なことは考えないに限る。

 

 案内された部屋の名は、それぞれデイゴ、サンダンカ、ブーゲンビリア。

 

 聞き慣れない名前なので、気軽にあおいさんに尋ねた所、どうやら南国由来の花の名前らしい。

 

 そういう一つ一つが、「沖縄に来たんだな」と実感させてくれる。

 

 

「では、お部屋に浴衣とタオルが置いてありますので、他に何かありましたら、お呼びください」

 

 食事時間や部屋の説明をひと通り終えると、あおいさんは丁寧に一礼して、そのまま奥へと下がっていった。

 

 最後まで隙のない対応だった。

 

「ほおー、夏海と同い年とは思えないくらいしっかりしてるねー……」

 

「えぇ……」

 

 小鞠ちゃんが感心したようにその背中を見送ると、なっちゃんはどこか納得いかない顔でため息をつく。

 

 ……分かる。

 

 オレもさっきから、心の中でずっと“あおいさん”って呼んでるし。年下って分かってるけど、あの対応見せられたら、仕方ない。

 

「それで、部屋はどうする? 四人部屋が二つと、二人部屋が一つあるんだが……」

 

 楓ちゃんが仕切り直すように口を開く。

 

「そうだね、私の案としては、まず越谷兄妹。宮内姉妹。富士宮姉弟(わたしたち)の三つに分かれた後、二人部屋は富士宮姉弟(わたしたち)が。後の二組が四人部屋で、楓ちゃんと蛍ちゃんがそれぞれに入る形にするのは、どうかな?」

 

 姉ちゃんがすぐに案を出した。

 

 肉親同士で固める、自然な構成だ。さらに言うなら、れんげが懐いてる楓ちゃんは宮内側、小鞠ちゃんと特に仲の良い蛍ちゃんが越谷側に入るのが無難か。

 

「いやいや! 四人部屋の一つは、よっくんと私達子供だけで使わせて貰いたいです!」

 

 オレが心の中で納得しかけた所で、なっちゃんが勢いよく手を挙げて割り込んできた。

 

 なっちゃんの言う子供とは、なっちゃんと小鞠ちゃん。蛍ちゃんにれんげの四人になるのかな?

 

 そこにオレを入れるとすると――

 

 ……あれ、五人じゃないか?

 

「それだと部屋のベッドが足りなくないか?」

 

 楓ちゃんも同じことに気づいたらしく、冷静にツッコむ。

 

「大丈夫です! 旅行を当ててくれた兄ちゃんには、二人部屋をひとりで広く使って貰います!」

 

 なるほど、そう来たか。

 

 ……確かに一人部屋なら、色々と捗りそうではある。うん、色々と。

 

「よっくんは、二人部屋の布団を持って来て地べたで寝て貰います! よっくん! 地べたでも大丈夫だよね!」

 

「……まあ、別に構わんよ」

 

 ……うん、まあそうなるよな。

 

 ベッドじゃなきゃ嫌ってほどでもないし、せっかくの提案だ。ここでゴネるのも勿体ない。

 

「という事です!」

 

「まあ、よしおが良いなら別に良いが……」

 

 楓ちゃんはそう言って、部屋の鍵をなっちゃんに渡した。必然的に、もう一つの四人部屋は先生、楓ちゃん、姉ちゃん、ひか姉で使うことになった。

 

 オレたちは一旦それぞれ分かれて、後で合流することになった。

 

 

 

 なっちゃんが四人部屋を開けた瞬間だった。

 

「ベッド! とうっ!」

 

 扉が開いてすぐに、れんげが一直線にベッドへダイブしていた。

 

「れんげ、危ないからベッドに飛び乗らない!」

 

 小鞠ちゃんの注意も虚しく、勢いよく跳ねたベッドがぎしっと音を立てる。

 

 

 ……惜しい!

 

 何がとは言わないが、非常に惜しい……。

 

「よっくん、今れんげのスカートの中、覗いてたでしょ……」

 

「言うなよ小鞠ちゃん。見えなかったんだから別にいいじゃんか……」

 

「よっくん……、れんちょんまで対象にするなんて、見境なくなってきてんなぁ」

 

「なっちゃん、それは誤解だ。見えそうなら見たくなるのが人情だろ!」

 

「一体どこが誤解なんですか……?」

 

「オレは別にれんげで興奮するロリコンじゃないって事だよ、蛍ちゃん!」

 

「……夏海、本当に"これ"を同じ部屋にして良かったの?」

 

「実は少し後悔し始めてる……」

 

 小鞠ちゃん、さすがに"これ"扱いは傷つく。

 

 オレの低反発枕みたいなメンタルが、ボコッと凹むぞ。そして泣いちゃうぞ?

 

 そんな会話もどこ吹く風で、れんげはマイペースに、カバンからスケッチブックを取り出していた。

 

「あ、れんちゃん。そのスケッチブック持ってきたんだ」

 

「そうなん、ウチが書いた田舎の絵に、沖縄を見せてあげるん! こんな感じで!」

 

 蛍ちゃんの問いかけに答えつつ、窓の外にスケッチブックをかざす。

 

 外には、さっきまで歩いてきた南国の景色。強い光に照らされた木々と、見慣れない色の空。

 

「それで、帰ったら、沖縄で描いた絵に、ウチの田舎見せてあげるん!」

 

「じゃあ、沖縄の絵も描くんだね!」

 

 蛍ちゃんが嬉しそうに頷く。

 

 ……なんていうか。

 

 れんげの中では、きっと当たり前のことなんだろうけど。

 

 “ここ”と“あそこ”を、同じ一枚の中に並べるみたいな――

 

 そんな発想が、少しだけ羨ましく思えた。

 

 

「沖縄で描きたい絵が三つあるん!」

 

「三つ?」

 

 蛍ちゃんが興味深そうに聞き返すと、れんげは少し考えるような顔をする。

 

「それは……海と、灯台と、そして後一つは……」

 

 ――一瞬の間。

 

「とうっ! イルカっ! ざぶんっ!」

 

 からの、再びベッドへダイブ。

 

 その勢いで、端に座っていた小鞠ちゃんが見事に吹き飛ばされた。

 

「痛っ! もう! だからベッドに飛びのっちゃダメでしょ!」

 

「でもイルカって、そう簡単には見れないんじゃ……」

 

「そうなん……?」

 

 現実的な疑問に、れんげがきょとんとする。

 

 くっ、惜しい!

 

 またしても立ち位置が悪い!

 

 さっきからタイミングも位置取りも最悪だ。こういう時に限って、ことごとくチャンスを逃している気がする。

 

 確かに蛍ちゃんの言う通り、そう簡単には見れそうにない……。

 

 ……イルカの事ダヨ?

 

 

 

 

「入るぞ」

 

「おっじゃまー!」

 

 ノックもそこそこに、楓ちゃんと姉ちゃんが部屋へ入ってくる。それに続いて、ひか姉、卓、先生と全員が部屋の中に集まる。さっきまでの騒がしさに、さらに拍車がかかった。

 

 話は、今後の予定に関する話題となり、楓ちゃん曰く、明日は海で遊んで、昼はタコライスを食べて……夕方頃には灯台に着くように目指すつもりらしい。

 

「一秒たりとも無駄には出来ん! 一銭でも多く元を取って帰るぞ!」

 

 出た。楓ちゃんの“元を取る精神”。その気持ちは分からなくもないけど。

 

「私カヤックに乗ってみたい!」

 

「あ、私も乗ってみたいです!」

 

 小鞠ちゃんと蛍ちゃんは意気投合する。

 

「ウチはシュノーケリングが良い」

 

「あ、オレもシュノーケリングで」

 

 オレはなっちゃんの案に賛成。海に来たなら、やっぱり潜りたい。魚とかサンゴとか、間近で見てみたいしな。

 

「流石に二つは時間的に無理だな。どっちかに絞らないと……」

 

 楓ちゃんが現実的な問題を突きつける。

 

「ひか姉はシュノーケリング派だよね?」

 

「んあ? 良く聞こえないけど、それでおっけー!」

 

 なっちゃんがさりげなくひか姉をシュノーケリングに誘って見事成功した。

 

 ひか姉……聞こえてないのに了承したぞ。

 

 これ、今なら何言っても通りそうじゃないか?

 

 ……やろう!

 

「ひか姉、今晩、同じベッドで寝よう!」

 

「んあ? 何言ってるか分からんが、答えはノーだ!」

 

「なんでさ……」

 

「日頃の行いでしょ……」

 

 姉ちゃんが呆れた様子でツッコミを入れてきた。最近受験勉強したり、割と真面目に過ごしてると思うのに……。

 

「れんちょんも、イルカ見れるかもだし、シュノーケリングで良いよね?」

 

「それで良いん!」

 

「私はカヤック派かな?」

 

 オレが少し落ち込んでる間にも話は進んでいき、れんげはシュノーケリング。姉ちゃんはカヤック。

 

「兄ちゃんもシュノーk――」

 

 ×!

 

 なっちゃんの言葉を遮るように、卓が無言で大きくバツ印を作った。

 

「えぇ……、カヤック派ぁ……?」

 

 なっちゃんが露骨に不満そうな顔をする。

 

 ……妙だな。

 

 いつもなら、なっちゃんの言う事は二つ返事で了承するのに、ここで拒否るとは。

 

 これは――何かあるな。

 

 そう思いつつも、結局はシュノーケリング派とカヤック派で綺麗に四対四に分かれた。

 

「シュノーケリング組とカヤック組に分かれて動けば良いんじゃない?」

 

「確かに……、明日は車を二台借りて、それぞれに電話してみますか?」

 

 先生と楓ちゃんの大人二人の一言で、明日の方針は決まったようだ。

 

 

 

 

「決まったんなら、海に行ってきて良い!?」

 

「いいよー、行っといでー」

 

「海! 海行くん!!」

 

「あ、私も行きます!」

 

 話がまとまった途端、みんなのテンションが一気に跳ね上がる。

 

「よーっし早速水着に着替えるぞー!」

 

「じゃあ私も着替えよーっと! あっ…………」

 

 ――その一言で、空気が止まった。

 

 ぴたり、と。

 

 さっきまでの賑やかさが嘘みたいに消えて、全員の視線が、ゆっくりとこちらへ向く。

 

 ……なるほど。理解した。

 

「おい卓、みんな着替えるんだから、外に出なくちゃダメじゃないか」

 

 オレは、すぐ隣にいた卓の肩を掴み、そのまま迷いなく部屋の外へ押し出す。

 

 よし、完璧な判断。

 

「さぁ皆さん! 邪魔者もいなくなったし! 心置きなく着替えて下さいな!」

 

 満面の笑みで言い切る――が。

 

「「お前も出てけ!!」」

 

「ぐはっ!!」

 

 次の瞬間、楓ちゃんとひか姉の連携技で、オレ自身も廊下へと放り出された。

 

 二人分の力で背中から床に叩きつけられて、二倍痛かった……。

 

「夏海……。やっぱり"これ"を同じ部屋にするのやめない?」

 

「そうだね……、ごめん兄ちゃん。"それ"、引き取ってくれない?」

 

 そんなこんなで、最終的にオレは卓との二人部屋になった。

 

 まあ、冷静に考えればだ。

 

 変な意味じゃなくても、女の子と同じ空間で寝るのは落ち着かないし、これはこれで妥当な流れなのかもしれない。

 

 ……うん、そういうことにしておこう。

 

 

 ――それはそれとして。

 

 なっちゃんにまで“それ”扱いされたのは、普通にへこむ。

 

 ……もう泣いちゃおう。ぐすん。




祝! ひか姉、地べた回避。

沖縄の空気に当てられて、いつもより少し開放的になっていたよっくん。
れんげがベッドに飛び乗るシーンであんな見えそうなカットを入れるのが悪いと思います。

地味に悩んだ部屋割りですが、結局は男二人が自然かなと。

そして割とよく言われている、お兄ちゃんがなっつんの意思に反してカヤックを選んだのは、このみちゃんと一緒に行きたかったから説。
……真相はどうなんでしょうかね。


それから、登場人物紹介ページを活動記録の方に移しました。
気が向いたときにでも、のぞいてもらえたら嬉しいです。
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