のんのんびより ― ある田舎男子の日常 ― 【ばけーしょん編更新中】   作:NIZI

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アニメ一期三話の内容は、ネタが思いつかず
よしおが脇役以下の賑やかしにしかならなかったので飛ばします
思いついたら後で載せるかも
とりあえずアニメ第四話準拠ですが、冒頭以外オリジナルな内容

し、しぃんかんせぇん(ネットリ)


第3話 夏休みがはじまった

 夏真っ盛り。

 蝉の声が絶え間なく降りそそぎ、川面には朝日がきらきらと反射していた。

 今日は終業式。一学期最後の登校日。

 

 川辺の大きな岩の上に、夏海がしゃがみ込んでいた。

 裸足の足先を冷たい川の水に浸しながら、隣で水面を覗き込むれんげと、追い込みをかけるよしおを見守っている。

 

「そっちそっち! そっち行った!」

 

 夏海が指を差すと、れんげは反射的に水の中へ手を突っ込んだ。

 

「たあっ!!」

 

 水しぶきが太陽に照らされ、細かな光粒となって空へ弾けた。れんげの小さな手の中で、沢ガニがじたじたと暴れている。

 

「ナイスキャッチ!」

 

 よしおが声を上げると、れんげは右手を夏海に向けて得意げに見せつける。

 

「かにー」

 

 その表情は獲物を仕留めた猟師そのもの。夏海はその光景に呆然とする。

 

「なんか、飢えた熊みたいに獲ったな……」

 

 れんげは小さな水槽を引き寄せ、そっと沢ガニを落とした。泡を吐きながら、カニは横に滑るように動く。

 

「こいつの名前は“お塩(おしお)”にするのん」

 

 誇らしげに胸を張るれんげ。夏海は困り顔だ。

 

「……いつも思うけど、れんちょんネーミングセンス無いよね」

 

 その言葉にれんげが、えっ?と真顔になり、笑顔がぴたりと止まる。

 空気がちょっとだけ重くなる。それを変えようと、よしおが身を乗り出して言った。

 

 

 

「じゃあ、俺は“よ塩(よしお)”な!」

 

 

 

「それどうすんの?飼うの?」

 

「飼うん!」

 

 しかし二人の視線は水槽へと戻った。水の流れる音だけが静かに響く。

 

 

「……冷たいな……」

 

 

 よしおが肩を落としたその背後で、賑やかな声と足音が近づいてきた。

 

「おっそーい! 三人とも何してんの! 川で冷やしてるスイカ、持ってきてって頼んだよね!?」

 

 両手を腰に当て、小鞠が仁王立ちしていた。その後ろを担任の一穂を含めた残りのクラスメイト全員が続く。

 

「あ……忘れてた」

 

「すまん、つい……」

 

 小鞠に謝る二人をよそに、れんげは急いで川へ駆け戻りひもで結ばれた大玉スイカを全力で引き上げる。しかし勢いがつきすぎた。

 

 スイカはふわりと宙に舞い――そのまま岩場へ落下した。

 

「わっ……!」

 鈍い音が響き渡る。

 

「あ、スイカが……」

 担任の一穂がその光景に呆然とする。

 

「重いん……」

 

 肩で息をしながら言うれんげ。一穂はれんげが持っていたスイカを受け取って確認した。

 

「傷いってないかね……お、いい感じで冷えてる」

 

「じゃあ早速食べようよ!」

 

「その前に通知表配っちゃうよ」

 

 一穂の言葉に、夏海とよしおの顔から一気に血の気が引いた。

 夏海の腕の中の通知表が震える。よしおも目を逸らし、開く勇気を失う。

 

 先に開いたれんげの通知表が視界に入り――全員が固まった。

 

「……オール5!?」

 

「れんちゃんすごいな。私、算数があまり出来なかった」

 

「わーいわーい!」

 

 れんげは両手を高く上げ跳ね回る。

 

「なっつんはどうだった?」

 

「……怖くてまだ開けてない……悪かったら母ちゃんにどやされる……」

 

 震える手で開くと――夏海の表情が固まり、次の瞬間弾けた。

 

「うおおお! 5がいっぱい!!」

 

 視界が開けたように喜び爆発。

 

「なっつん頭いいのん!」

 

「あははっ、そうかな? 夏海ちゃんの時代来ちゃったかな!」

 

 絶好調の夏海。よしおは通知表を握りしめ、胃がきゅっと縮むのを感じていた。

 

「よっくん♪ よっくんもホラ、勿体ぶってないで見せなって♪」

 

 ――真実は残酷だ。夏海の笑顔は曇らせたくない。よしおは口を閉ざした。

 

「そうそう、小学生は5段階評価。中学生は10段階評価だから気をつけてね」

 

 一穂の言葉に、夏海が一瞬で石像へ変わった。れんげがそっと肩を揺すっても無反応。

 

 そんな空気の中、よしおは静かに通知表を開いた。

 

 国語と社会は10、英語9、数学8、理科7、実技系三科目はすべて9。悪くは無いが――

 

(……東京の高校へ行くなら、理数系をもっと伸ばさないとな……)

 胸の奥に静かな決意が宿る。

 

「それじゃあ皆、スイカ切るよー」

 

 合図にみんなが「はーい!」と集まる。ただ一人、まだ石化したままの夏海を除いて。

 

「き……気をつけまーす……」

 

 消え入りそうな声が、青空へ吸い込まれていった。

 

 その後、復活した夏海と一緒にみんなでスイカを思い思いに味わった。

 れんげは、沢ガニの“お塩”が夏の環境では飼育が難しいと知ると、元の場所へ放流して、二学期に、また会うことを誓ったのだった。

 

 

 

 

 ある夏の昼下がり。空気には、どこかのんびりとした蝉の声が混じっている。

 よしお、小鞠、夏海、蛍の四人は宮内家へ向かう。勝手知ったる様子で、靴を脱いで家に入っていく三人。その後ろで、都会育ちの蛍だけが律儀に挨拶をした。

 

 リビングの戸を開けると、そこにはれんげと一穂、そして――

 

「お、ひか姉帰ってたの?」

 

 夏海が手を振る。

 

「ういーす。ついさっきな」

 

 ソファにもたれかかりながら、気怠げに手を上げる宮内ひかげ。

 

 彼女は蛍に気付くと、片手を軽く上げて簡単な自己紹介をする。

 

「そっちの子は、お初だね。私は宮内ひかげ、高校一年。よろしく」

 

 宮内ひかげ――十六歳。

 東京の高校に進学し、地元を離れていた。よしおにとっては、もう一人の姉のような存在であり……それ以上、言葉にしづらい特別な感情を抱く相手。

 

 彼は、そのひかげを見つけるやいなや――

 

「ひか姉! お帰りッ! とうッ!」

 ダッシュ → そのままダイブ

 

「うらっ!」

「ぐはっ!?」

 

 ひかげに両腕でがっちり受け止められ、そのまま反転。綺麗な軌道で仰向けに倒れた。

 

「相変わらずだね、よっくん……」

「もはや条件反射だね……」

「よっくんステイ! なのん!」

 

 夏海、小鞠、れんげは、全く動じず、完全にいつもの流れ。

 一方、蛍だけは状況が理解できず、ポカンとする。

 

「えっ……?えっ……?」と目を丸くして首だけで二人を交互に見つめた。

 

「ったく……こっちは帰ってきたばっかなんだよ……」

 

 ジト目でよしおを見下ろすひかげ。

 

「やっぱりひか姉だぁ……ふふふ……」

 

 倒れたまま至福の笑みを浮かべるよしお。

 そんな二人を見ながら、夏海は肩をすくめた。

 

「恋とかそういうのじゃないんだよね……なんていうか……動物的衝動?」

 

「ペットか何かなん」

 

 宮内ひかげ十六歳。

 よしおにとって、ただの先輩や姉貴分という言葉では足りない――

 胸の奥に、説明しづらい感情渦巻く相手だった。

 

 

 

 

三年前。黒歴史の一幕――――――――――――

 

 

 新年度開始の春。富士宮よしお 十二歳。新小学六年生。

 

 旭丘分校の校庭。ひとりブランコを漕いでいたオレは目の前の桜の木

 

 ではなくその幹に寄りかかる少女に目を奪われる。

 

 一学年上の新中学生。宮内ひかげ 十三歳。

 

 その身に纏う衣装は、姉も毎日着ていて、もはや見慣れた分校中学校制服。

 

 桜の花びらに包まれるその姿は

 

 幼い頃一緒に野山を駆け回ったお転婆少女とは思えない程大人びて見えた。

 

 オレは気づけばブランコを降り

 

 校庭の真ん中でボール遊びをしている姉このみと越谷三兄妹の近くを横切り

 

 入学してから六年間慕い続けた姉貴分の元へ歩いた。

 

「どうしたよ? 真面目な顔して」

 

 キョトンとした表情でこちらを見上げる。


 

 小学校入学当初はこちらが見上げる立場だった。

 

 一体いつからだろうか。

 

 自分が見下ろすようになったのは。

 

 自然と笑みが出る。

 

 どうやら春の陽気に当てられたようだ。

 

「なんだよ……、なんか言えって」

 

 この空気……、何かカッコいいことを言えたらオレはまた一段と男が上がる気がする。

 

 そんな根拠の無い自信が溢れていた。

 

 その勢いのままーー

 

 

 

 

「ひか姉……、好きだ! 付き合ってくれ!!」

 

 

 

 

 ーーー世界が止まる。


 

 

 

 

 その場に自分達以外がいる事を忘れたようにーー


 

 

 

 

 ていうか忘れてたよ皆ガン見してるよどうかしてるよオレ耳が熱いよ頬が熱いよ。

 鏡がなくても顔が真っ赤になってるのがわかるよ。

 

 目を回しながら、やっちまったなぁ!と頭の中で現実逃避していると

 

 彼女が無言で近づいてきて。

 

 

「おい」

 

 

  その声で我に帰る。目の前に迫る拳。


 

 一瞬の迷いもなく、彼女は右手を振り上げた

 

 ——それは怒りというより咄嗟で振り抜いたような、迷いのない拳だった。

 

 

ドン!!!

 

 

「ぐはっ!」

 

 

 心の準備もお腹の準備も出来ていなかったオレは

 

 拳が腹に直撃する衝撃で地に伏して意識を失う。

 

 後に保健室で復活したオレの前で卓がグッと拳を握って

 

 あれは見事な腹パンだった。感動した。

 

 と伝えられた。

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 はっ! 知っている天井だ。

 

「久しぶりだな……この夢見たの……」

 

 全身に伝わる脂汗。夏の暑さだけでは説明できない量だ。

 

 しばらくひか姉との気安かった関係が数カ月は、ぎくしゃくしてしまう原因ともなった消し去りたい過去。

 

 時計を見る。今日も夏休みの日課である分校生全員でのラジオ体操を終えて、帰宅してから二度寝をして、もうすぐ時計の短針が"10"を指そうとしていた。

 

「汗流して歩くか……」

 

 一先ず、最早悪夢ともいえる黒歴史を頭から追い出すために洗面所へ向かうのであった。

 

 

 

 軽く汗ばむ肌を、夏の風がそっと撫でていく。

 タンクトップにハーフパンツ、大きな麦わら帽子――まさに真夏の装い。

 汗を流した後。気分転換がてら向日葵が咲き誇る道を歩いているところだった。

 

 ――そのとき。

 

「よっくん、にゃんぱすー!」

 

 目の前に現れたのは自身の黒歴史の相手の妹である宮内れんげ。

 彼女は同じ背丈の、見慣れない少女を連れて二人で歩いていた。

 とりあえずオレはすっかり馴染んだれんげ流のあいさつに返事を返す。

 

「おう、れんげ。こんな所で会うとはな。なんか運命感じるわ」

 

「よっくん、今日はテンションおかしい日なんな。足元に気をつけるのん」

 

「あはは、自覚はある……浮かれてるわ。それでそっちの子は?」

 

 オレが笑うと、隣の少女がきちんと背筋を伸ばして挨拶してくれた。

 

「こんにちは、お兄さん。私、石川ほのかっていいます」

 

「こんにちは。ご丁寧にありがとう。この辺の子じゃないよね?旅行かな?」

 

「夏休みの間だけ、おばあちゃんのところに泊まってるんです」

 

「だからウチ、今案内してるん!」

 

「それはいいな。たくさん楽しんでいってね」

 

「よっくん、キャメラ!」

 

 れんげがぱっと顔を輝かせて小さな手に収まったデジカメをこちらへ差し出す。

 

「ウチ達を撮ってほしいのん!」

 

「中々オシャレなの持ってるじゃん。よし、写真係、任された!」

 

「あの、ありがとうございます」

 

 胸を張るれんげと笑顔でお礼を言うほのかちゃん。

 それに気を良くしたオレは笑みを浮かべた。

 

「どういたしまして、どんと来いだ」

 

 そのあとオレ達は、向日葵畑から昔ながらの水車小屋などを巡る。

 ほのかちゃんは、目をきらきらさせて喜び、れんげは得意げに案内役を務める。

 二人の笑い声が、夏空に澄んで響いた。オレは黒子に徹して二人の姿を写真に収め続けた。

 

 途中、れんげが庭で指笛を吹いて狸が現れたときは度肝を抜かれた。

 どうやら命名は"具"というらしい。名前の由来はわからない。怖い。

 

 けれど――。

 

 れんげが、同い年の友達を得て嬉しそうにしている姿に、胸の奥が温かくなった。

 オレもれんげと同じ年の頃。姉ちゃんだったり、卓だったり、ひか姉だったり、なっちゃんだったり。はたまた全員一緒だったりと野山を駆け回った記憶が蘇っていた。

 

 夏ははじまったばかり。

 今日一日は、きっと二人にとって忘れられない記憶になるだろう。

 

 

 

 

 その日の夜。

 畳にごろりと横になり、疲れから転寝していたよしおの耳に、リビングの黒電話のベルが、甲高く鳴り響いた。

 受話器を取ったのは、テーブルで雑誌をめくっていた姉のこのみだった。

 

「はい、富士宮です――……え? ひかげちゃん!? 久しぶり!」

 

 その名前を耳にした瞬間、よしおの胸がきゅっと締めつけられる。

 寝転んでいた身体は、反射的に跳ね起きていた。

 

「明日? ごめん、部活があって無理なんだ……うん……あ、ちょっと待って。

 よっくん、ほら、ひかげちゃんから」

 

 このみが受話器を差し出す。よしおは汗で少し滑りそうな指でそれを掴み、表情だけは平静を装う。

 

「ほいほい、ひか姉? どしたん?」

 

『あー、明日なんだけどさ。街まで買い物に行かない? れんげは忙しいっていうし、このみにも断られて、一人で行くのは寂しいし』

 

 その一言で、よしおの脳内に祭囃子が鳴った。

 花火ドーン! 太鼓ドドン! 神輿がリフトアップ!

 

「もちおっけー! ひか姉と一緒ならどこへでも!」

 

『……あ、そ。じゃあ明日、バス停前集合で』

 

「おいっす! また明日!」

 

 ガチャンと電話が切れる音と同時に、よしおは渾身のガッツポーズ。更にジャンプ。畳がミシッと悲鳴を上げる。

 

「ひかげちゃん、帰ってたんだ……」

 雑誌を閉じながら、このみがぽつりと呟く。目の前の弟はすでに明日へ心が旅立っている。

 

「本当に好きだね、ひかげちゃんのこと……」

 

 誰が見ても浮かれ放題な弟に呆れ半分諦め半分な姉。

 

「そりゃあ、オレとひか姉はソウルブラザーってやつだからな!」

 

「ブラザーって……ひかげちゃん女の子だよ」

 

「何々? 嫉妬してんの? 姉ちゃん?」

 

 腹が立つ程ニヤつく弟に、ため息をつく姉

 

「別にー。ただ、明日は迷惑かけないようにね?」

 

「いやいや、 オレもう中三だよ? ちゃんとわきまえてますから!」

 

「よっくんの“ちゃんと”ほど信用できない言葉はないよ……」

 

 ジト目を向ける姉。うきうきで跳ねる弟。

 ――この温度差、もはや気象観測レベルである。

 

 

 

 

 翌日の遅朝

 村外れの小さなバス停。薄く色あせた時刻表。

 よしおは、古びた木のベンチに腰かけて欠伸をしながら額の汗を手で拭った。

 

「おーっす、悪ぃ寝坊した……。待ったかー」

 

 ひかげは腕を組んで立っていた。白いTシャツにショートパンツ。夏の光をそのまま形にしたような姿。

 

「ぜんっぜん!一日千秋の思いだったよ!」

 

「素直に待ちくたびれたって言えや……」

 

 呆れ顔。その表情すらよしおには尊い。

 

「あはは、それじゃ行こう!」

 

 並んでバスに乗る。一時間。決して短い時間ではないが、よしおにとって体感五分くらいに感じた。

 

 

 

 ショッピングモール・服売り場

 

 外の暑さを吹き飛ばす冷たいエアコンの風が頬を撫でる。人混みと店の賑やかな音。外の世界とはまるで違う空気である。

 

「服買いに来たの? 着替えとか持ってこなかったん?」

 

「わかってねぇな。たまたま気に入ったヤツがあるかもしれないだろ?」

 

 ひかげは、よしおの反応に得意げにしつつ、店内の服を眺めていた。

 流石に品揃えは東京のデパートには負けるな。と感慨深そうに。

 

 そこでよしおは――目に入ってしまった。

 

 ラフなパーカーに男心をそそるオシャレなミニスカートを着せたマネキン。

 その造形は、妙にリアルだった。

 よしおは好奇心と欲望のままにしゃがみ込む。

 

「……お前何やってんの?」

 

「いや! 妙に出来が良かったから気になって……!」

 

「恥ずかしいからやめろ!」

 

「だって、生身の人間にやったら危ないじゃんか……」

 

「危ないってか刑務所行きだよ!」

 

「ひか姉はオレが犯罪者になっても良いの?」

 

「もし捕まったら『いつかやると思ってた』って証言してやるよ」

 

「ひどくね!?」

 

「そもそもお前、ここ来るの初めてじゃねえだろ。このみとかと一緒に来た時もやってんの?」

 

「いや、姉ちゃんの前で出来るわけないじゃん……」

 

「私の前ならいいのかよ!?」

 

「ひか姉はその……何しても許してくれるじゃん♪」

 

「舐めんな!!」

 

 ツッコミの声が響き、周囲のお客さんがこちらを振り返る。その光景で我に返った二人はそそくさと退散した。

 

 その後、雑貨、文房具と見てフードコートで昼食を取った後、食料品コーナーでそれぞれの家族へのお土産を買って楽しい買い物は終わった。

 

 

 

 

 

 また数日後。朝日が昇り始めた田んぼ道を、よしおはゆっくり歩いていた。濡れた稲の葉から落ちる露が、光を弾いてきらきらと揺れている。

 

「よっくん……」

 

 小さな声に、足が止まった。

 

「れんげ? どうしたんだ?」

 

 振り返ると、れんげは唇をかみしめ、ぎゅっと拳を握っていた。

 

「ほのかちんが……ほのかちんが、帰っちゃったのん……」

 

 言葉は涙に溶けて崩れていく。

 石川ほのかは昨夜、親の都合で急きょ帰ったらしい。

 最後の会話も、別れのあいさつも、交わせないまま。

 小さな胸に積もった寂しさは、溢れだして止まらなくなった。

 

「……家まで送るよ。ほら、乗れ」

 

 れんげをそのままにしておけず、よしおは背中を差し出す。

 

 おんぶした肩に落ちる涙が、温度と重さを帯びて伝わってきた。

 自分がほのかと会ったのはたった一日。それでもれんげを含めた三人で笑い合ったひと時は確かで、胸に寂しさが刺さる。

 毎日会っていたれんげの喪失感は、きっと自分とは比べものにならない。

 やがて、揺られながら泣く声が小さくなり、れんげはぽつりとつぶやいた。

 

「よっくんは……ひか姉が東京行った時、いっぱい泣いてたのん」

 

「ああ……そうだな」

 

 空を見上げる。

 青が滲んで見えた気がした。

 

 ――なんで行っちゃうんだ。

 ――なんで隣町の高校じゃダメなんだ。

 毎日会えたのに、離れ離れになるのが悲しくて、悔しくて

 ただ泣きわめく事しかできなかった。

 

「どうやって元気になったのん……?」

 

 背中越しの声は震えていた。

 

「元気になれたかは、正直わからないな……」

 

 苦笑しながら草むらに視線を落とす。

 

「でも……“また会える”って思ったからかな」

 

 静かに、確かに言葉を置く。

 

「会いたい、じゃない。会うんだって思ったから、前を向けた」

 

「また……会えるん?」

 

 れんげの声は泣き跡で少し濁っていた。

 

「会えるさ。……いや、会いに行く」

 

 照れくさく笑って、けれど迷いはなかった。

 

「『会えたらいいな』じゃない。絶対会いに行く」

 

 れんげの瞳が、朝日に照らされた水面のように光った。

 よしおは背中の温もりを支えながら、まっすぐ前へ歩き出した。

 静かな覚悟だけを胸に――。

 

 

 

 

 ――数日後、ひかげの東京行き前日。宮内家にて。

 

 

 

 

「うああああああ!!!! ひがねええええええ!!!! おおおおおいおおおおいおいおいおい!!!!」

 

 

 

「うるっせぇ!! また冬休みに帰ってくるっつってんだろ!! 近所迷惑なんだよ!!」

 

「よっくん。また会えるから落ち着くん……」

 

 かつてれんげに語った言葉は、今この瞬間まったくもって役に立っていなかった。

 泣き叫び、人目を気にしないどころか、もはや奇行である。

 

「ずるるるるるるるる!!!!」

 

「鼻水すごっ!? 汚ねぇなオイ!! てかお前、東京の高校受けるんだって? 初耳なんだけど?」

 

「ひか姉の高校に行こうと思って……」

 

「大丈夫か?お前の成績って確か、数学と理科4だったろ」

 

 ひかげが一年前の通知表を思い出して、顔をしかめる。

 

「大丈夫! 今回数学8、理科7! 一気に倍になったんだ! 受験の頃には必ず合格ラインに到達して、来年ひか姉を先輩って呼んでやる!」

 

「よっくん!ファイトなん!」

 

「すげぇな……そんな宣言して大丈夫か? 引っ込みつかなくなっても知らねぇぞ」

 

 

 よしおは斜め上に視線を向ける。

 

 

「だ、大丈夫……たとえ、落ちたって、命までは、取られないし……」

 

 

「あそこまでカッコつけといてしまらねぇ奴だな……」

 

 ひかげは苦笑しながら、よしおの頭をくしゃりと撫でた。

 

「それじゃあ、今度は十二月だ」

 

「うん、十二月! また!」

 

 こうして、ひと夏の再会と出会いと別れの物語は幕を閉じた。




ひか姉大好きよしおくん
幼い頃はお互い何も考えずプロレスごっことかやってた仲
ヒロインを誰にするか、そもそも特定の誰かと結ばれるかは未定

仕事終わりに酒を入れながら1期四話を見返して、徹夜のテンションで感動と勢いのまま
よしおだったら落ち込んだれんげをどうやって慰めるか考えてたら
勝手に希望進路がひかげと同じ東京の学校になっていた
もしひかげの高校が女子高って設定があったらこの作品では共学ということでオナシャス!
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