のんのんびより ― ある田舎男子の日常 ―   作:NIZI

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皆様、大変お待たせしました。アニメ第三期のんすとっぷ編を開始します。

今回はアニメ三期一話の前半部分に当たる内容になります。


のんのんびより のんすとっぷ(アニメ第三期)
第1話 早起きして勉強をした


 この村は田舎だ。

 

 春の朝。山の向こうから昇った太陽が田んぼを照らし、まだ少し冷たい風が家々の間を通り抜けていく。聞こえてくるのは鳥の鳴き声と、どこか遠くを走る軽トラックのエンジン音くらいだ。

 

 田舎の朝は早い。窓の外から聞こえてくる鳥の鳴き声を聞きながら、オレは家の食卓で一人、トーストをかじっていた。

 

 しばらくすると、目の前にある戸が開き、高校の制服姿のこのみ姉ちゃんが姿を見せた。

 

「おはよう、姉ちゃん」

 

「おはよう、よっくん。どうしたの? 今日は早いじゃない?」

 

 姉ちゃんは、毎朝部活の朝練がある。だからこの時間に起きてくるのはいつものことだ。

 

「今年から受験生だからな。学校へ行く前に勉強しようと思ってね」

 

 そう言うと、姉ちゃんは少し目を丸くした。

 

「へぇ、偉いね♪」

 

 まあ、本当のところは少し違う。今日はたまたま早く目が覚めただけだ。二度寝したら起きられなくなりそうだったし、せっかくだから勉強でもするか――くらいの話である。

 

 でも、そこは黙っておく。たまにはカッコつけたい年頃なのだ。

 

「あ、そうだ! 朝の勉強。もし一か月続けられたら、私からごほうびをあげよう♪」

 

「あのな、子ども扱いすんなよ……」

 

 思いついたように、姉ちゃんが人差し指を立てる。そんな姉ちゃんを見て、思わず呆れた声が出る。オレはもう中学三年生だ。さすがにそんな言葉で喜ぶ歳じゃない。

 

「あ、ごめんごめん、もう中学三年だもんね」

 

 姉ちゃんは悪びれもせず笑う。だからオレは少しだけ胸を張って言った。

 

「一週間に負けてくれ!」

 

「…………」

 

 なんだその顔は? 一か月は長すぎるだろ。常識的に考えて。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

「さて、行ってきますっと……」

 

 数十分後。

 

 誰もいなくなった家で靴を履きながら、オレは小さく呟いた。

 

 父さんと母さんは朝早くから仕事へ。姉ちゃんも朝練に向かった後だ。返事をする人はいない。けれど、それもいつもの朝だった。

 

 玄関を出ると、春の柔らかな空気が頬を撫でる。

 

 オレはバスの時間に遅れないように、誰もいなくなった家を後にする。

 

 行き先はお隣の越谷家。

 

 今日もいとしのなっちゃんを起こしに行く。毎朝欠かさず起こし続けているんだ。もはやオレが行かなかったら一大事と言っても過言ではないだろう。……少なくともオレの中では。

 

 

 オレは富士宮よしお。

 

 この春から中学三年生になった。

 

 旭丘分校の最上級生。

 

 全校生徒は、たった六人。

 

 この村は田舎だ。

 

 けれど――。

 

 そんなのんびりと静かな村が、オレは好きだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 みんなで分校の廊下を歩きながら、オレ達はいつものように他愛のない話をしていた。

 

「蛍は今度の連休どっか行くの?」

 

 小鞠ちゃんの問いかけに、蛍ちゃんは少し考えてから答える。

 

「両親と買い物に。ママが――はっ!? 母が買いたい物があるみたいで」

 

 途中で慌てて言い直した。

 

 どうやら家での呼び方がうっかり出てしまったらしい。

 

 取り繕う姿がなんだか微笑ましい。

 

「姉ちゃん、ウチも買い物行きたい」

 

「夏海はお母さんに部屋の掃除しろって言われてるでしょ……」

 

 小鞠ちゃんがなっちゃんの言葉に呆れたように返す。その言葉を聞いて、オレは今朝の光景を思い出した。

 

 起こしに行った時、少し前に一緒に片付けたはずの部屋に服やお菓子の包装紙が散らばり始めていたのだ。

 

 あれを見た時はさすがに少し脱力した。数日でここまで元に戻れるものなのかと。

 

「オレは、とりあえず勉強しとくかな……」

 

「えっ!? よっくんの口からなんか聞き慣れない単語が聞こえてきたんだけど!?」

 

「失敬な……」

 

 何となく呟くと、隣を歩いていたなっちゃんが勢いよく振り返った。

 

 思わず眉をひそめる。確かに自分から進んで勉強したいとは思わないけど、そこまで言われるのは心外だ。

 

 ひか姉と同じ東京の高校を目指すなら、今のままじゃ厳しい。しかし人間急に頭が良くなったりはしない。結局は毎日の積み重ねしかないのである。

 

 そんな話をしながら教室の前まで来ると、閉まった扉の向こうからリコーダーの音色が聞こえてきた。

 

「れんちょん早いな」

「練習してたんだね」

「朝から精がでるな」

 

 ドアを開けると、教室の中にはれんげが一人、自分の席にちょこんと座り、一生懸命リコーダーを吹いていた。けれど指がまだ小さいせいか、どうも"ド"の音が上手く出せないらしい。

 

「この曲、ちゃんと吹けるようになりたいん。今度このみ姉とも練習するん」

 

「あぁ、確かこのちゃん、高校でフルートやってるからね」

 

「姉ちゃんと? いつの間にそんな約束を……」

 

 れんげに聞くと、今朝バスの中で話をしたらしい。

 

 ……いや、待て。

 

 姉ちゃん、かなり早い時間に家を出ていたはずなんだけど。れんげ、お前いったい今日は何時に起きたんだ?

 

 そんなことを考えていると、教室の扉が再び開いた。

 

「はーい、みんなおはよう」

 

 のんびりした声と共に入ってきたのは一穂先生――れんげのお姉さんだ。

 

 今日も安定の始業時間オーバーである。妹が誰よりも早く登校しているのに対し、姉は誰よりも遅くやって来る。同じ家で育って、どうしてこうなったのか。深く考えないことにした。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 国語の時間。

 

 分校の授業は、基本的に自習形式だ。指定された問題集を解き、先生に見せて採点してもらう。合格をもらえれば、その後は自由時間になる。

 

「はい、全問正解! 国語の方は完璧だね」

 

「ありがとうございます。後の時間、去年の数学を復習してても良いでしょうか?」

 

「構わんよ。がんばってね」

 

 先生の許可をもらい、オレは鞄から数学の問題集を取り出した。受験生になった以上、苦手教科から目を背けてばかりもいられない。

 

 ……とはいえ。

 

 ページをめくるたびに手が止まる。中二の内容なのに普通に分からない。いや、一部じゃないな。結構分からない。

 

 もしかして中一まで戻った方がいいんじゃないか?

 

 なんなら小学生からやり直した方がいいんじゃないか?

 

 そんな不穏な考えまで浮かび始める。

 

 そして迎えた次の数学の時間。

 

 国語とは打って変わって、オレは最後まで問題を解き終えることができなかった。

 

 斜め前の席ではなっちゃんも同じように苦戦している。そして少し経ったら諦めたのか絵をかいて遊び始めてるのが見えた。

 

 結果――二人仲良く時間切れ。

 

 よし。

 

 明日は中一の問題集を持って来よう。見栄を張っても仕方ない。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 音楽の時間。

 

 今日は実技テストとして、全員で「かえるのうた」を演奏した。

 

「れんちょん、上手になったけど、音、裏返っちゃったね。また、次の音楽の時間にこの曲やるから、がんばろう」

 

 先生の言葉に、れんげは元気よく「あい」と返事をする。

 

 最初の頃と比べれば、確かにかなり上達している。

 

 そんな光景に和んでいると、隣から聞き慣れたメロディーが流れてきた。

 

 チャルメラのテーマだ。

 

 演奏を終えたなっちゃんが両手を広げて勢いよく叫ぶ。

 

「おなかすいたあああ!!!」

 

 魂の叫びだった。

 

 ちなみに今日の給食はカレーライス。給食のカレーを見るたびに、赤ん坊だったれんげが学校へ来た日を思い出してしまうのだが――それはまた別の話である。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 気付けば放課後になっていた。帰ってもいいが、今日は少し復習をしていこうと思う。

 

 去年までそれを怠った結果が、今の壊滅的な数学力だ。とりあえず公式を覚えるために例題を書き写していると――。

 

 ふいに机の下から何かがぬっと現れた。

 

 透明な人形だった。しかも頭の横には吹き出しまで付いている。

 

 そこには、『いっしょにあそぼ!』と書かれていた。

 

「なんだ? その人形」

 

「セロハンテープで作ったん。セリフもセロハンテープで作ったん!」

 

「セロハンテープ……だと……?」

 

 よく見ると、爪楊枝にセロハンテープを巻き付けて胴体や手足を作っている。なるほど、面白い発想だ。

 

「よっくんも一緒に作るんな!」

 

 れんげにそう言われて周囲を見渡すと、隣の席でなっちゃんもテープを巻く作業をしている。後ろを向くと、卓も黙々とテープを張り合わせて巨大なお面らしきものを製作している。あいつ、こういう工作物はかなりの凝り性なんだよな。

 

「ふむ、面白そうだ。わかった、キリの良い所まで進んだらな」

 

 そう返して、再び問題集へ目を落とす。

 

 

 そして――五分後。

 

 

へいへーいよっくーん! 勉強まだ終わんないのー? トロトロしてんじゃナイヨー! サッサと終わらせて人形作りしよーぜー!

 

 陽気な声と共に現れたのは透明な熊らしき生き物。そしてそれを持ったなっちゃんだった。本当に熊なのかは分からない。多分熊だろう。

 

「…………ふんっ!」

 

 思わずイラッとした。

 

 右手のシャーペンが閃く。

 

 次の瞬間。熊らしき何かは綺麗に真っ二つになって床へ落ちていた。

 

 またつまらぬものを斬ってしまった……。

 

「あぁー! おかしい!? れんちょんと同じ事したのに対応が全然違う!?」

 

 そりゃそうだ。れんげは煽ってこなかったしな。

 

「そして胴体が取れてヤバい状態に!?」

 

 なっちゃんが慌てて破損した人形を持ち上げる。少しやり過ぎたかもしれない。そう思った時だった。

 

「なっつん、予備の胴体があるん。これで修理するん!」

 

「流石れんちょん、準備が良い!」

 

 れんげから投げ渡された新しい胴体。なっちゃんはそれをキャッチして即座に接続した。

 

 そして――。

 

 なんということでしょう! その手には、異様に胴の長い珍獣が誕生していた。

 

「…………」

 

 なっちゃんはしばらく固まった。

 

「い……、いよーしっ! よりダックスフンドっぽくなった……!」

 

 そして復活すると、自分に言い聞かせるように拳を握る。それ、熊じゃなかったんだな。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 小鞠は黒板消しをクリーナーにかけ終えると、ぱんぱんと手を払い、ペンを握って日誌とにらめっこをしてる蛍の所へ足を運んだ。

 

「よし、黒板消し終わり! 蛍、日誌の方はどこまで進んだ?」

 

「あ、小鞠先輩。えっと、授業記録の方は書いたんですけど、反省と感想欄の方がまだで……」

 

「じゃあ、そこチャチャッとやって終わらせようか」

 

「そうですね、今日の反省点って何かあります?」

 

 小鞠は顔を少し上に向けて少し考える。

 

「うーん……、音楽の時間に夏海がうるさかった。後は給食のカレーを一人で三杯食べてたし、自習時間にも勉強しないで一人で遊んでたし、後は……」

 

意義ありダックス!

 

 突如として机の下から透明な生き物が飛び出した。

 

 長い胴体に丸い顔。本人曰くダックスフンドらしい。

 

 その足元には、人形劇の裏方みたいに顔を伏せてしゃがみ込んだ夏海がいた。

 

夏海ちゃんよりも、よっくんの方がよっぽど問題行動をしてたダックス! だから夏海ちゃんだけ反省させるのはおかしいと思うダックス! よっくんの事を書くダックス!

 

 ダックスフンド(仮)は日誌の上にあるペン先にまとわりつきながら必死に主張する。蛍は困ったように視線を泳がせた。

 

「あ、あの小鞠先輩、これどうしたら……」

 

「大丈夫、別に気にせず夏海の事をじゃんじゃん書いていいから」

 

やめるダックスやめるダックス! こういう事が積もり積もって母ちゃんの耳に入るんダックス!

 

 必死である。しかし小鞠は慣れた様子だった。

 

「あーもう、うるさいな! 分かったって! よっくんの事を書いとくから静かにして! 後それ、胴体長い以外にダックスフンドと被ってないからね!」

 

 夏海は小鞠の言葉に納得したように頷くと、人形を抱えてれんげの所へ戻っていった。そして何事もなかったかのように人形遊びを再開する。

 

「ったく……。じゃあ今日の反省点の所は、『体育の時間によっくんが窓から私達の着替えを覗こうとしてたから今後はやめるようにしてください』で」

 

「はーい」

 

 蛍が小鞠の言葉に従って素直にペンを動かし始める。

 

 その時だった。

 

ちょっと待つでちゅう!

 

 再び机の下から新たな刺客が現れた。

 

 今度は耳の長いネズミらしき生物だった。耳だけ黒マジックで塗られている。

 

 そして足元には、やはりよしおが顔を伏せてしゃがみ込んでいた。

 

「また変な動物が来た……」

 

ネズミだよ! ハハっ♪

 

 小鞠は、再び絡んできた厄介者二号(よしお)を見て心底うんざりした顔になる。

 

体育の時間の事は、着替えを覗こうとしたんじゃないでちゅ! 珍しい蝶々がいたから追いかけてたら、たまたま窓に止まって――」

 

 ネズミは必死に弁解を始めた。

 

「そんなウソに騙されると思う?」

 

「いやまってホント! 反省するから書かないで! この事が姉ちゃんの耳に入ったら今度こそ殺されちゃう……! 人の命がかかってるんでちゅよ!

 

「あの……これどうしましょうか……?」

 

 蛍が再び助けを求めるように小鞠を見る。

 

「気にしないで書いちゃって良いよ。どうせ死んでも第二第三のよっくんが現れて、懲りずに似たような事をすると思うし」

 

今度はマジで反省してるんでちゅ! この目を見て! この曇りない目を!

 

 そう言いながら、よしおはネズミの顔を小鞠へぐいぐい押し付けた。

 

「いや人形じゃなくて、よっくんの目を見せなよ!」

 

 思わず小鞠がツッコむ。よしおはその言葉に伏せていた顔をパッと上げた。

 

 そして――。

 

「ほわぁ…………」

 

 なぜか恍惚とした表情になる。

 

「どうしたの?」

 

 小鞠が怪訝そうに眉をひそめた。

 

 

「ありがとう、かわいいピンクだ……」

 

 

「……っ!!」

 

 一瞬の静寂の後、小鞠はよしおの発言の意味を察して顔を真っ赤にしてスカートを押さえた。

 

「いっぺん死ね!!」

「ぐふぉっ!!」

 

 小鞠の蹴りが、しゃがんでいたよしおの鳩尾へクリーンヒットする。よしおはそのままボールみたいに床を転がった。

 

「うぐぅっ……、うぐおぉぉっ…………」

 

 床に伏したまま悶絶。完全に致命傷である。そこに、たまたま近くにいたれんげが一言。

 

「……よっくん、フケツなん」

 

「うぐっ!?」

 

 その一言がトドメになり、よしおはびくりと身体を震わせると、そのまま完全に沈黙した。

 

 

「れんげも今日はスカートだし、その汚物から距離をとった方がいいかな? 蛍も大丈夫だと思うけど、念の為に足は閉じておきなよ」

 

「あーい」

「わ、わかりました……」

 

 二人は素直に従う。

 

 床には誰にも回収されない遺体(よしお)が転がったままだった。まあ放っておいても、そのうち勝手に復活するだろう。

 

 そして日誌には当然のように、よしおの悪事がしっかりと記録されることになるのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

「ふぅ……酷い目にあったな……」

 

 痛む腹を両手で押さえながら、オレは卓と並んで帰り道を歩いていた。さっきの騒動のせいで、女子達からは見事に距離を取られてしまった。

 

「わざとじゃないんだし、あそこまで怒らなくても良いと思うんだよなぁ……。お前もそう思うだろ? 卓」

 

「…………」

 

 卓は何も言わない。ただ、じっとこちらを見ている。

 

「いや本当にわざとじゃありませんから! 小鞠ちゃんに悪いことしたと思ってますから、そんな目で見ないで下さい!」

 

 思わず背筋を伸ばして弁解する。

 

 以前似たような事をして、コイツに死ぬ寸前まで痛めつけられた事が蘇って背筋が青くなった。卓からしてみれば、オレは大事な妹にセクハラをした不届者である。自分の立場に置き換えて、もし姉ちゃんが誰かに似たような事をされたなら、オレはそいつを生かしてはおかないだろうし……。

 

 卓は相変わらず何も言わなかった。けれど、その視線は少しだけ和らいだ気がした。

 

 しばらく二人で歩く。

 

 田んぼの向こうでは風が稲を揺らし、どこからかカエルの鳴き声も聞こえてくる。

 

 見慣れた田舎の帰り道。オレは思わずため息を吐いた。

 

「はぁ……」

 

 女子達に避けられるのは地味に堪える。

 

 小鞠ちゃんは怒るし、蛍ちゃんには引かれるし、れんげには『フケツなん』と言われるし。なっちゃんにも冷たい目をされた。

 

 思い返すだけで少しへこむ。

 

 明日にはみんな普通に接してくれるだろうか。

 

 いや、たぶん大丈夫だろう。気心知れた仲だし、毎日顔を合わせるし、こんな事は今までに何度もあった。

 

 ……何度もあった時点でどうなんだという話だが。

 

 ふと横を見る。

 

 卓は黙ったまま歩いていた。

 

 相変わらず何を考えているのか分からない。

 

 けれど、嫌ならとっくに一人で帰っているはずだ。

 

 こうして隣を歩いてくれているだけで十分だった。

 

「ありがとな」

 

「…………」

 

 こいつとは生まれた時からの付き合いだ。何度も喧嘩をした。だけど、なんだかんだでいつも隣にいる。

 

 返事はない。

 

 でも卓は少しだけこちらを見て、それから前を向いて歩く。その隣を、オレも静かに並んで歩いた。

 

 コイツだけはきっと、何があっても一緒にいてくれる。そんな確信にも近い想いがあった。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

「よっくん、おかえり♪」

 

 家の前まで辿り着くと、姉ちゃんが満面の笑みで立っていた。

 

「姉ちゃん?」

 

「今日、学校どうだった?」

 

「どうって、別に普通だけど?」

 

 そう答えた瞬間。姉ちゃんの笑顔が少し深くなる。

 

「へぇー♪」

 

 …………嫌な予感がしてきた。

 

「小鞠ちゃんから聞いたんだけど、体育の時間に、みんなの着替えを覗こうとしたって本当?」

 

「んなっ!? 違う違うっ! 窓にハチが止まって! 危ないから退治しようと思って――」

 

「ふーん? 小鞠ちゃんの話では、蝶々が止まったからって事だったけど何? 小鞠ちゃんが嘘をついてるって事?」

 

「あれ……? えっと……、その……、ソウデスネ、蝶々だったような気がしないでも……ないです……多分……」

 

「へぇー♪」

 

 姉ちゃんは笑顔のまま、冷や汗でビッショリになったオレの肩に手を置いた。……怖い。笑顔なのに、物凄く怖い。

 

「後、スカートの中を覗かれたって聞いたよ♪」

 

「……あれは事故なんです!」

 

「その事も含めて、家の中でお話しよっか♪」

 

「待って! 本当に事故だから! 卓、助け――って、いねえぇぇ!?」

 

 あんにゃろ! 逃げやがったな!?

 何があっても一緒にいてくれると思ってたのに!

 

「それじゃあ中でゆっくり話そう。時間はたっぷりあるし♪」

 

「あ、ああ、ああああ…………」

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

あんぎゃあああああああっ!!

 

 田んぼ道に甲高い悲鳴が響く。

 

「あ、これよっくんの断末魔かな?」

「これで二、三日は大人しくなるかな?」

 

 隣家の姉妹がそんな他愛もない会話を交わす。

 

 こうして、特に特別な事も無い、ある春の一日が幕を閉じたのだった。




遂に最終章開幕!

アニメ第三期編は、このまま週一ペースで、のんすとっぷに更新していきたいです。週一なのにのんすとっぷとはこれいかに。

そして次回は、あの子が登場します。
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