のんのんびより ― ある田舎男子の日常 ―   作:NIZI

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今回はアニメ三期・第三話のお話です。
やっぱりひか姉は最高!


第5話 ひかげに植木を隠した

 ここは越谷家。

 

 昼下がりの居間には、窓から差し込む柔らかな陽射しが畳を照らしていた。外ではセミが元気よく鳴き、田舎らしい穏やかな時間が流れている。

 そんな中、夏海は畳の上にごろりと寝転がり、すっかりくつろぎモードに入っていた。

 一方、気分転換に越谷家へ遊びに来ていたよしおは、台所で冷えた麦茶を二人分用意して戻ってくる。コップをテーブルへ置くと、横たわってる夏海へ声を掛けた。

 

「なっちゃん、麦茶ここに置いとくよ」

「うん」

 

 返ってきたのは、昼寝と現実の境目をさまようような気のない返事だけだった。

 よしおは苦笑しながら、自分も麦茶を一口飲む。氷がカラン、と小さく音を立てる。

 静かな午後だ。――そう思った、その瞬間だった。

 

 ――ピンポーン! ピンポーン!

 

 家中に勢いよく呼び鈴が響く。しかも一度では終わらない。

 

 ――ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン!

 

 まるで玄関の前にいる人物が、「早く出ろ!」と言わんばかりに連打している。

 

「なっちゃん、なんかすんごい勢いでチャイム鳴ってるけど、出なくて良いん?」

「ウチ、今動きたくないからよっくんが出てー」

 

 よしおは住人である夏海に尋ねるが、当の本人はというと、ごろ寝したまま微動だにしない。完全にやる気ゼロである。

 

 ――ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン!

 

「顔見知りなら大丈夫かな? そうじゃなかったら知らんけど、うるさいから行ってくる」

 

 面倒そうに頼む夏海に代わり、よしおは重い腰を上げる。どうせこのままでは呼び鈴は鳴り止みそうにない。

 

 ――ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン!

 

「本当にうるさいな……、まともな大人ならこんな下品なチャイム連打なんかしないから子供か? れんげはもっと礼儀正しい奴だからイメージと違うし、しおりちゃん……は、まだなっちゃんとは面識ないと思うし……」

 

 よしおは尋ね人の推測をするが、答えは出てこない様子。しかし尚も呼び鈴は鳴り続ける。

 

「まあ出れば分かるな……、はいはい今出ますよっと」

 

 玄関へ向かい、勢いよく戸を開けたその瞬間。そこに立っていた人物の姿を見たよしおの目が大きく見開かれた。

 

「んな!? ひ――」

 

 

 ――ぎゃああああああああああ!!!!

 

 

「えっ!? よっくん!? なんだよこの悲鳴!?」

 

 家中どころか近所中に響き渡りそうな絶叫だった。あまりにも尋常ではない叫び声に、夏海は眠気など一瞬で吹き飛ぶ。勢いよく飛び起き、そのまま玄関へ駆け出した。

 

「よっくん大丈夫!? 一体なにが――」

 

 玄関へたどり着いた夏海が見たものは、うつ伏せのまま倒れているよしおだった。

 そして、そのすぐ前には――。

 

「……ったく、玄関を開けたらコイツが飛び掛かってくるとか、悪質すぎるトラップだな……」

 

 呆れたようにため息をつきながら服の乱れを整える少女。

 

「あ、ひか姉!」

「久しぶりだな、夏海。今さっき東京から帰ってきたんだ!」

 

 そこに立っていたのは、この春から東京の高校へ進学した分校の卒業生、宮内ひかげだった。

 久々の帰省だからか、その表情はいつも以上に明るい笑みが浮かんでいる。

 

 どうやら、玄関を開けた瞬間によしおが嬉しさのあまり飛びついて、そのまま返り討ちに遭ったらしい。よしおは床に沈んだまま、ぴくりとも動かない。

 

「夏海、遊ぼうぜ!」

 

 そんな惨状などまるで気にも留めず、ひかげは親指を立ててサムズアップ。夏海も腕を組み、少しだけ考える素振りを見せる。

 

 ……もっとも、その足元には、まだうつ伏せのよしおが転がったままなのだが。

 

「おっけー!!」

 

 夏海も満面の笑みでサムズアップを返す。どうやら答えは最初から決まっていたようだ。

 

「よっしゃ、何して遊ぶ?」

「さっきまで、新幹線乗ってたからさ! 体を動かす遊びしようぜ!」

 

 二人は意気投合すると、そのまま元気よく庭へ駆け出していく。玄関先には、再び静寂だけが残った。

 

「……はっ!? ちょっと待った! オレも遊ぶ! 仲間に入れて!」

 

 ようやく意識を取り戻したよしおは、慌てて飛び起きる。服についた土を払う暇もなく、庭へ向かう二人の背中を追いかけて走り出した。

 

――――――――――――――――――――――――

 

 ひか姉が帰ってきた。

 その姿を見ただけで胸がいっぱいになったオレは、考えるより先に体が動いていた。勢いよく飛びついて、いつものように軽くあしらわれて、その場に叩き伏せられる。

 

 うむ、この痛みだ。このやり取りだ。

 東京へ行ってしまってから、ずっと味わえなかったこの感覚。お腹は痛いけど、不思議と顔はにやけてしまう。

 

 やっぱり、ひか姉が帰ってきたんだ。

 

「よっくん、そこのボールちょうだい!」

「ボール遊びね! おっけー!」

 

 オレはなっちゃんの言葉に従って庭の隅に転がっていたバスケットボールを拾って放り投げる。

 なっちゃんはそれを片手で受け止めると、不敵な笑みを浮かべた。

 

「よし! ひか姉のいない間に編み出した、必殺確殺シュートいくぜ!」

「確殺…なんだそれ? とりあえず来いや!!」

 

 何度か一緒に遊んだオレも初めて聞く技名だ。多分この場のノリで思いついたんだろうな。

 

「いくぜ! 必殺! 確殺! シューっト!!」

「って高けぇよ!?」

 

 なっちゃんが全力で放り投げたボールは、ひか姉どころか空へ向かって一直線。完全なる暴投だった。

 

 ――ガシャーン!!

 

 嫌な音が庭中に響く。ボールは庭先に並べられていた植木鉢へ一直線。

 一つの鉢を見事に撃ち抜き、そのまま地面へ叩き落とした。陶器は無残にも砕け散り、土と花が辺りへ飛び散る。

 一瞬で場の空気が静まり返った。

 

「んな!? 必殺確殺してんじゃねーよバカ!!」

 

 ひか姉は頭を抱えながら割れた植木鉢へ近付いていく。

 しゃがみ込み、破片を一つ拾い上げる。

 

「……必殺確殺してんじゃねえよ、馬鹿……」

 

 そのまましばらく固まると、魂が抜けたような声で呟いた。

 

「二回言うほど重要な事だったん?」

「一回目のツッコミは条件反射だったんでしょ?」

「なるほろ、さすがひか姉」

「暢気に話してる場合か!? どーすんだよこれ! 私の楽しい帰省が早くも終わっちまったじゃねーか!!」

 

 ひか姉の悲痛な叫びが庭に響く。確かに気の毒な話だ。

 

「ウチの必殺確殺シュートは、全てを確殺する!」

「私の里帰りまで破壊してんじゃねーぞ! どうすんだよこれ……、おばさんに見つかったら怒られるよな……」

 

 ひか姉は割れた植木鉢と家を交互に見比べ、不安そうに呟く。

 

「まーそうだね……」

「よしおてめぇ! のんきに鼻ほじってんじゃねえよ! 危機感ゼロか!?」

 

 目の前に慌ててる人間がいるとなんとなく冷静になってしまう。正直もう割れた鉢は元には戻らないんだし、こういう時に慌てても仕方ないと思う。

 

「まぁよっくんの事は放っておいて、落ち着いて聞いてよひか姉。ウチらは過去に似たような状況を何度も経験して乗り切って来たよね?」

 

 慌ててるひか姉とは打って変わって、なっちゃんも冷静な語り口だ。

 

「あ、あぁ……、乗り切った覚えは無いけど」

「ここは過去の経験から早急に謝罪するのが吉と見た!」

「あ、案がまとも過ぎる……! お前、本当にあの夏海か!?」

「ふふん、ウチはもう今までの夏海ちゃんじゃあ無いのですよ!」

 

 オレも一瞬ひか姉と同じことを思った。とりあえず隠す事を考えるなっちゃんが謝罪を第一候補に挙げるなんて……、今日は槍でも降るんじゃないか?

 

「しかしこの案だけじゃ不安だ。緊急事態も想定して、他の案も考えた方が良い」

「た、確かにそうだな……」

「第二の案は証拠隠滅! ただこれは問題を先延ばしにするだけで根本的な解決にはならない」

「うん、それは最終手段だな……」

「そして三つ目に、クリエイティブな案が一つ!」

「クリエイティブ? なんだそりゃ? 言ってみろ」

「うむ!」 

 

 なっちゃんが再び目を瞑って息を整えた。

 

地面から粘土を採取して、一から植木鉢を作る!!

「……お前やっぱいつもの夏海じゃねぇか……」

 

 植木鉢をクリエイティブする案だった。ひか姉も当然の様に呆れている。

 

「そんなの最初の案一択だろ!? さっさと謝りに行くぞ!」

「おーけー! ただ、もしもの時は三案(植木鉢作り)で!」

二案(証拠隠滅)だよアホ!!」

 

 議論が煮詰まってきたな。ここでオレの案を一つまみしてみるか。

 

「ひか姉落ち着いて、……オレから第四案の提案をしたい!」

「なんだよしお、今まで黙ってたと思ったら、何か名案でもあんのか? あるならさっさと言えって……」

 

 よし、食いついたな。

 

「実はさ、オレ、今日この家に来てからなっちゃん以外の住人に会ってないんだ。おばさんはもちろん、卓にも小鞠ちゃんにもね! ひか姉もだろ?」

「あ、ああ、……それがどうしたんだ?」

「このまま二人で帰っちゃえばさ、オレ達は最初からこの家にいなかった事になる。つまり! 植木鉢を割ったのは、なっちゃん一人だけの責任だ!」

 

 今は隣にある自宅に姉ちゃんもいないから、この騒ぎを聞いていそうな人間もいない。オレ達がここにいた事を証明できる人は誰もいないという事。つまりこのまま黙って居なくなるだけで、オレとひか姉は難を逃れる事が出来るって訳だ。

 

「んな!? 突然何を言い出すんだよっくんは!?」

「……それもそうだな……。そもそも植木鉢はコイツが投げたボールで割れた訳だし……」

「ひか姉!? なに納得してんのさ!? そんなの後でウチが母ちゃんに訴えて阻止してやる!!」

「……コイツはこう言ってるが、大丈夫なのか?」

 

 当然の様に抗議するなっちゃんだけど、甘いな。小鞠ちゃんが砂糖を入れ過ぎたクッキーより甘い。

 

「なっちゃん、残念だけど、少し前に窓ガラスを割った事を忘れてるんじゃないか?」

「……んな!?」

「あの時、なっちゃんは無実のオレに罪を擦り付けようとしたけど、それがおばさんにバレてこっぴどく叱られてたよね? ここでオレ達の存在を言ったところで、果たして信用して貰えると思うのかい?」

 

 なっちゃんの表情がみるみる青ざめていく。さしずめ今のなっちゃんはオオカミ少年ならぬオオカミ少女だ。

 

「恨むなら自分の日頃の行いを恨むんだね!」

「んぐぐ……、よっくんに日頃の行いを指摘されるなんて……、納得いかない!」

 

「さてひか姉! 今すぐオレと山奥へ行って二人きりでデートと洒落込もうじゃないか!」

「いや、お前と二人きりで山奥とか、身の危険を感じるんだが……。とりあえずさっさとここからずらかるとするか!」

 

 ひか姉は呆れながらも踵を返す。オレもすぐにその後へ続いた。

 

「この薄情者どもー!!!」

 

 背後からなっちゃんの声が響く。……悪いな、なっちゃん。今回ばかりは自業自得ってやつだ。

 

 これで万事オーケーと思った――その時だった。

 

 

「あれ、よっくん来てたの? ひか姉も! 帰ってきてたんだね!」

 

 

 玄関の方から笑顔の小鞠ちゃんが現れた。

 

 まずい!? そう思った次の瞬間、誰が声をかけたわけでもなく、オレ達はほぼ全員同時に動きだす。なっちゃんが植木鉢の残骸の前へ立ち、オレが散らばった破片を身体で隠し、ひか姉が土を踏んで視界を遮る。まさに阿吽の呼吸。しかしこの不安定な体勢のままバランスを取るのは地味に大変だ。

 

「……何してんの?」

「うっ……、くっ……、今三人で記念写真を撮る時にする戦隊物ごっこのポーズを考えてんだ……!」

「悪いが、今は話しかけないでくれないか……!」

「そうそう、今三人で将来に係る重要な話し合いの真っ最中なんだ……!」

 

 頼む小鞠ちゃん、早くどっか行ってくれ! バレる……、バレちゃう……。あ! ひか姉のスカートの中が見えそう。もう少し……もうちょっと……。

 

「ま、まあ、三人で遊んでいるなら別にいいや……。ひか姉、よっくん、また後でね」

 

 小鞠ちゃんは少し首を傾げながらも、そのままガラガラとドアを引いて家の中へ入っていく。

 

「……行ったか?」

「……うん、行ったみたい……」

「……見えなかったか」

 

 三人同時に大きく息を吐く。そのまま隠すために固めていた体勢を一斉に解いた。なんとか乗り切った……。乗り切ったがしかし、小鞠ちゃんにオレとひか姉の姿を見られてしまった……。

 

「これで第四案は消滅しちゃったし、こうなった以上、雪子おばさんを探して謝るとしようか、ひか姉!」

「そうだな、よしお……後さっき、何が見えなかったって?」

「んん!? なんでもナイヨ……!」

 

 どうどう、ひか姉! 過ぎた事は気にすんな!

 

「あんたら、ウチを見捨てようとした事、忘れないからな?」

 

 どうどう、なっちゃん! こうなったからには運命共同体……、共に協力して危機を乗り切ろうじゃないか!

 

「なんか少し、いやかなり引っかかりを覚えるけど……、それはともかく、気づいた事がある……。もしこの惨状を姉ちゃんや兄ちゃんに見られたら、バレたから仕方なく謝罪をしたと思われるのでは?」

「確かに……誰かに見られる前におばさんを見つけて謝らないといかんな」

「でも、それなら一人がここに残って見張っていればいいんじゃ……」

 

 ひか姉の提案に、なっちゃんが大きく深呼吸をして神妙な表情に変わる。

 

「二人は謝罪をする時に、誠意ポイントというものが発生する事をご存じない?」

「初めて聞いたな……」

「存じてると思うか?」

 

 またしても聞き慣れない単語が出てきたな。なっちゃん、とりあえず説明よろしく。

 

「もし全員で謝罪に行かなかった場合、残りの人間はなぜ一緒に謝罪に来なかったのかという名目で、誠意ポイント40は減る。この40はデカいぞ!」

 

「ほう……」

 

 オレもひか姉も少し納得をしてしまった。

 

「全員で行って明確に状況を説明して謝罪! これで謝罪ポイント30は加算、そして先ほどの戦隊ポーズで謝れば100点減算だ!!」

「おぉい!? わざわざ減算するような事すんなや!」

「……ってかさ、もうここで大声出しておばさん呼べばいいんじゃね?」

「いや、それはご近所迷惑という名目で罪が増えるだけだ。とりあえず全員で早急に母ちゃんを探し出して謝罪! これで行こう!」

 

 こうして方針がまとまって、オレ達は家の中へ入り、雪子おばさんの捜索を開始した。

 

 居間。

 いない。

 台所。

 いない。

 寝室。

 やっぱりいない。

 探しても探しても、おばさんの姿はどこにも見当たらなかった。

 

「おかしい……、どこにも母ちゃんの姿が無い……」

 

 今日この家に来てからなっちゃんにしか会ってなかった時点で察するべきだったのかもしれん。もしおばさんが最初から家の中に居たのなら、ひか姉に会う前にとっくに会ってるだろうし、もしかして今はいないのかもしれない。

 

「お、丁度良かった小鞠! おばさん探してるんだけど、何処にいるか知らないか?」

「あ、ひか姉! お母さん探してんの? 確かせんべいを切らしてたから駄菓子屋に買いに行ってたような……」

 

 駄菓子屋か、道理で家にいないわけだ。

 

「二人とも、ちょっとこっちに来い! 作戦タイムだ!」

「お、おう……」

「わかった……」

 

 オレ達はここから少し離れた場所へ移動する。後ろでは小鞠ちゃんが「……さっきからなんなの?」と首を傾げていた。ごもっともである。

 

 

「おいおいどーする? 早急に謝罪するつもりだったのに、おばさんいないじゃん……これもう緊急案とるしかなくね?」

「うーん、こうなった以上そうするしかないわな……」

 

 ひか姉の言葉にオレも同意するしかないな。

 

「けど二人とも、一つ懸念事項がある……、果たして家の庭で粘土が取れるかどうか……」

「おい! だから三案(植木鉢作り)じゃねえよ! 二案(証拠隠滅)だっての!!」 

 

 卓じゃあるまいし、この短時間で植木鉢を作るのは無理だな。

 

「……とにかく小鞠達に見つかる前に植木鉢を隠す! で、おばさんが帰ってきたら謝る! これで行こう!」

「まあ、気乗りしないけど……」

「ひか姉がそこまで言うなら……」

「何やれやれみたいな表情してんだよお前ら!? あーもう! モタモタしてる時間もない! 夏海! 植木鉢の破片入れる袋持ってこい! 私とよしおで現場の片付けをしているから!」

「「了解!!」」

 

 こうしてオレ達は再び庭へ飛び出し、証拠隠滅――いや、割れてしまった植木鉢の後始末へと取り掛かった。

 

――――――――――――――――――――――――

 

 夏の日差しを浴びながら、雪子は買い物袋を提げて家までの道を歩いていた。中にはせんべいだけでなく、数多くのお菓子がぎっしり詰まっている。

 

「まったく、せんべい買いに行っただけなのに、楓ちゃんも商魂逞しいというか、いろいろ買わされちゃったね」

 

 思わず苦笑が漏れる。せんべいだけを買うつもりが、気付けば「これもどうです?」「それ安くしとくきますから」と勧められ、結局あれこれ買ってしまった。

 

「ま、うちは食べ盛りの子ばかりだし、すぐに無くなっちゃうか」

 

 そう自分に言い聞かせるように呟き、雪子は家へと戻ってきた。

 

 門をくぐった、その時だった。

 

「あら、この声は……、みんなで遊んでるのかしら?」

 

 庭の方から、夏海達の賑やかな声が聞こえてくる。

 よしおと、更にはいつの間にか東京に帰って来ていたひかげの声まで聞こえてくる。

 きっと久しぶりに三人で遊んでいるのだろう。

 そんな微笑ましい光景を思い浮かべながら、雪子は買い物袋を抱えたまま庭へ足を向ける。

 そして、庭の様子が見えた瞬間――足が止まった。

 

 

「二人とも! 袋持ってきた!」

「丁度いい! 今割れた破片集め終わった所だ!」

「おし! じゃあ急いで袋に詰めるぞ!」

 

 ……破片?

 雪子の眉がぴくりと動く。

 

「あ、植木の方はどうしよう?」

「そこの茂みにでも隠しとけ!」

「ふむ、ここなら他の木に紛れるから誤魔化せるな、お、丁度いい穴ぼこがあるからここに置いて、ついでに土もかけておこう……」

 

 雪子の視線が、三人の手元へ向く。

 

 見覚えのある植木。見覚えのある鉢。

 

 そして、粉々になった陶器の破片。

 

 それを笑顔で袋に詰めていく三人。

 

 雪子の袋を持つ手に自然と力が入った。

 

「ボールも植木鉢を割ったことがバレそうだし、隠した方が良いかもしれんな……」

「それは既に隠しておいたよ二人とも!!」

「よっしゃ! なら完全隠蔽完了だ!!」

「バレない内にずらかろうぜ!!」

 

 三人は満足そうに頷き合った。

 だが。その一部始終は買い物袋を静かに持ったまま、庭の入口に立ち尽くす雪子に、最初から最後までしっかり見届けられていた。先ほどまでの穏やかだった表情は既に消えている。

 三人を見つめる瞳だけが、静かに、そして確実に冷えていく。内側に怒りを積み重ねたその重苦しい視線の存在に、夢中になっている三人が気付くのは、もうまもなくの事であった。




このあと滅茶苦茶叱られた。
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