のんのんびより ― ある田舎男子の日常 ―   作:NIZI

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 今回はアニメ三期・第七話後半の話です。


第12話 カニのおうちをつくった

 稲穂が実って、木々の葉が色づいてきた秋の日。

 今日は学校が休みなので、久しぶりにしおりちゃんに会いに行くことにした。

 

「よっくーん!」

「お、なっちゃん!」

 

 道を歩いていたら途中でなっちゃんに出会った。

 

「よっくんは、また散歩?」

「いやいや、今日はしおりちゃんに会いに行くんだ」

「しおりちゃんって確か駐在さんの所の子だっけ?」

 

 最近は受験勉強ばかりで、机に向かっている時間が増えている。

 そんな中、何も考えずに遊べるしおりちゃんとの時間は、すっかりオレの癒やしになっていた。

 

「よっくん……なんか怪しい顔してんな……」

「む、別にやましいことは何もないぞ?」

 

 どうやら思わず頬が緩んでいたらしい。

 何も考えず童心に帰って、しおりちゃんのペースで遊ぶ。受験勉強で荒んだ心が浄化されるような、そんな時間を想像していただけだ。

 断じてやましい気持ちはないからな!

 

「ねぇ、ウチもついていって良い?」

「お、良いよ良いよ」

 

 なっちゃんも特に目的があって歩いていたわけではなかったらしく、そのまま、しおりちゃんのいる警察署まで一緒に行くことになった。

 せっかくだし、みんなで遊んだ方がしおりちゃんも楽しそうだ。

 

――――――――――――――――――――――――

 

 しばらく歩いていると川が見えてきた。その川辺で見覚えのある小さな姿が、水面に向かって網を振りまわしていた。

 

「れんちょん、なにやってんの?」

「カニ! 捕まえてたん!」

 

 れんげが網の中から捕まえた沢ガニを取り出す。そういえば一学期の終業式でもカニを捕まえていたっけ。あの時は暑くて世話が大変だから逃がしたはずだが、涼しくなった今なら飼えると思ったらしい。

 

「そういえば、あの時カニに名前つけてたよね?」

「あ、覚えてる! 確か……"よしお"だったっけ?」

「いや違うって、"よ"じゃなくて"お"から始まる名前だったよ。お、お……、あ!"おクスリ"だ!」

"お塩"なん!!

 

 オレとなっちゃんの答えに食い気味でツッコミを入れてくるれんげ。

 おクスリ……おしお……。……うん、これ以上考えるのは止めた方がいいな……。

 

「この"お塩"夏まで飼って、暑くなったら逃がしてあげるん」

 

 名前は既に"お塩"で決定しているようだ。

 

「じゃあウチが使ってた水槽貸してあげるよ」

「いいのん!?」

「いいよいいよ、じゃあウチの家に行こっか?」

「いくのーん!」

「あ、ちょっと待って! しおりちゃんも一緒に行くか確認してからで!」

 

 

 せっかくだし、しおりちゃんも一緒に誘うとしよう。今日は何をして遊ぶかまだ決めていなかったので、水槽作りをみんなでやれば丁度良いかも。

 

「そうだ、警察署に向かってた事を忘れてた……行こう行こう!」

「しおりちゃんも呼ぶん? 賛成なーん!」

 

 なっちゃんもれんげも快く賛同してくれた。後はしおりちゃんの気持ち次第だな。

 

――――――――――――――――――――――――

 

 警察署に着くと、入り口近くでしおりちゃんがボールを転がして遊んでいた。

 

「あ、お兄ちゃーん!」

 

 しおりちゃんはこちらに気づくとぱっと顔を輝かせて駆け寄ってくる。

 

 しおりちゃんにオレ達が、これかられんげの捕まえたカニの水槽作りをする事を伝えると、しおりちゃんはすぐに、お母さんへ遊びに行っていいか尋ねた。

 

「カニさんのお家を作るの? 行きたい行きたい! ママ、遊んできて良い?」

「はいはい、また迷子にならないように、お兄ちゃん達から離れないようにするのよ?」

 

 許可を得られて「やったー!」と嬉しそうにするしおりちゃんを見て一安心。

 もし、しおりちゃんが水槽作りに興味がなければ、なっちゃん達と別行動することも考えていた。けれど、そんな心配は必要なかったようだ。

 

 そしてしおりちゃんのお母さんから、しおりちゃんの面倒を見てくれるようにお願いをされた。

 そういえば、しおりちゃんのお母さんは今、赤ちゃんがお腹にいるらしい。最近は体調を崩すことも増えているそうだ。

 今日はなるべく心配をかけないよう、しっかりしおりちゃんを見ておこう。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「しおりちゃん、急な話でごめんね」

「大丈夫! 丁度お散歩に行こうと思ってたから!」

「そうか、だけどボールは家に置いていった方が良かったんじゃないかな?」

 

「いや、しおりじゃなくて、この子の散歩!」

「えっ?」

 

 この子って、一体どの子? 

 

「この子のさんぽー!」

 

 しおりちゃんは満面の笑みで、持っていたボールをズイっと前に出して見せてきた。ごめん、意味わかんない……。

 

「あ、"お団子"なん!」

「れんげ? "おだんご"? って、何なん……?」

 

 れんげが、しおりちゃんの持つボールを見て突然"お団子"と言い出した。ごめん、やっぱり意味わかんない……。

 

「この子の名前ー!」

「しおりちゃんの大事なペットなん」

「あ、そ、そうなんだ……」

 

 ボールを掲げて嬉しそうに説明してくれるしおりちゃん。れんげも補足してくれた。だけどごめん、オレにはまだ早すぎるみたいだ……。

 

「ウチらにはレベルが高すぎて付いていけないな……」

 

 なっちゃんもオレと同意見だったようで助かった。ひとりぼっちは寂しいもんな……。

 

 どうやら、しおりちゃんの家ではペットが飼えないので、その代わりにこの子(ボール)を飼っているらしい。

 れんげがそれを見て、「ペットなら名前を付けてあげるん!」と提案して自ら「お団子」と命名したようだ。

 お人形遊びみたいなものか。そう考えたら微笑ましいかも……。絵面はゴツいけどな……。

 

 

「わあ、カニさん!」

 

 道中、しおりちゃんが興味津々でカニへ手を伸ばす。

 

「あっ、待つん!」

「え?」

「ハサミが危ないから、触ったらダメなん」

 

 れんげはしおりちゃんの代わりにカニを持ち上げた。

 

「ウチが持つから、しおりちゃんは近くで見るん」

「ほんと!?」

「ほんとなん」

「わー……カニさんだぁ」

 

 しおりちゃんが嬉しそうにカニを眺める。

 その横で、れんげは満足そうに頷いていた。

 

――――――――――――――――――――――――

 

 そんな話をしてるうち越谷家に到着。我が家の隣だから、結果的に戻ってきてしまったな。

 

「えーっと、確かこの下に……お、あったあった!」

「デッカいな……」

 

 なっちゃんが軒下をのぞき込み、しばらくしてから引っ張り出された大きな水槽を見て思わず声が漏れる。これを運ぶのは大変そうだ……。

 

「そうだ、せっかくだから変わった濾過器を使って本格的なのにしよっか?」

「濾過器って、金魚のぶくぶくしてるやつなん?」

「そうそう」

 

 なっちゃんが目を輝かせて生き生きと提案をした。

 

「濾材は池のヤツを少し貰っていくか……、ちょっと待っててー」

 

 なっちゃんはそう言って場を離れた。

 

 

「あ、おっきい魚!!」

 

 なっちゃんを待っている最中、しおりちゃんが池にいる大きい鯉を見つけて駆け寄っていく。れんげもそれについていった。

 

「しおりちゃん、コレは"ヒカリモノ親方"なん」

「へー、そうなんだ」

 

 しおりちゃんが池の目の前に座り込むと、鯉は水面から顔を出して、パクパクと口を動かしている。れんげもまた嬉しそうに鯉を指さした。この鯉にも既に名前をつけていたようだ。毎度の事ながられんげのネーミングセンスは独特だ。

 

「懐かしいな……、コイツはオレとなっちゃんの二人がかりで捕まえたんだ」

「すごーい!」

 

 素直に感動するしおりちゃんを見て、少し誇らしい気持ちになる。

 

 この鯉は、なっちゃんとオレの二人で池に飛び込んで、取っ組み合いの末に捕まえた。

 今思い返しても、あれはまさに死闘だった。

 

「そんな懐かしむほど昔の話じゃないと思うんだけど……」

「そうだったか? なんか随分昔のことのように感じたんだが*1

 

 過去を振り返ってしみじみとしていると、濾材を入れた袋を持ったなっちゃんが戻ってきた。

 

「鯉を見てたの?」

「ああ。この鯉、オレとなっちゃんで捕まえたんだって話してた」

「あー、あったあった。あの時は大変だったなー。服もびしょ濡れになって、時計も壊して……」

「二人揃って雪子おばさんに怒られたよな……」

「そうそう……」

 

 なっちゃんは少し遠い目をしながら、池の鯉を眺めている。

 

「で、でも……今となっては良い思い出だよな!」

「ま、まあねー……」

 

 二人でそんなことを話していると、しおりちゃんが鯉を指さした。

 

「"ヒカリモノ親方"が口開けてプアーってやってたの!」

「きっと"ヒカリモノ親方"、にらめっこしたかったんなー」

 

 れんげもしおりちゃんの言葉に応える。

 

「いつの間にかそんな名前になってたんだ、うちの鯉……」

 

 どうやらなっちゃんも今初めてコイツの名前を知ったようだ。

 

――――――――――――――――――――――――

 

 濾材も用意できたところで、いよいよ水槽作りのために、れんげの家へ向かうことになった。

 

「おー、いよいよ水槽作りなんなー! ウチ燃えてきたん!」

「それじゃあ早くいこー!」

 

 しおりちゃんが嬉しそうに駆け出していく。

 

 今日はずっと元気いっぱいだ。カニを見た時もそうだったけど、しおりちゃんを見ていると、こっちまで楽しくなってくる。

 

「しおりちゃん、そんなに走るとこけちゃうん!」

「大丈夫です! しおりはこけません」

「それは慢心なん、しおりちゃん。ウチも若いころはそう思ってたん、でも人間こけるときはこけるん」

「そうなんだー」

 

 れんげは腕を組み、神妙な顔をして語り出す。……七歳児から「若いころ」という言葉が出てくるとは。

 いや、れんげの場合、年齢の割に妙に達観しているところがあるから、今さら驚くことでもないか。

 

「ちゃんと周りを見て、気をつけて歩くんなー」

「わかりましたー」

 

 しおりちゃんは素直に返事をすると、今度はちゃんと歩き始めた。こうして年下の子をしっかり諭している姿を見ると、れんげも以前よりずっとお姉ちゃんらしくなったものだ。

 そんな二人を眺めていると、前の方から声が飛んできた。

 

「なっつん、よっくん! はやく! はやく!」

「はいはい、あまり急がなーい」

 

 どうやらオレ達の方が置いていかれていたらしい。急いで後を追う。

 

「しおりちゃん、また迷子になるとマズいから手を繋いで歩くぞ」

「うん! わかった!」

 

 しおりちゃんは素直にオレの手を握った。小さな手だ。

 以前も迷子になったことがあるから、今日はちゃんと目を離さないようにしておかないとな。

 そう思ってたら、反対側からもう一つ小さな手が伸びてきた。

 

「あ、ウチともつなぐーん!」

「うん!」

 

 れんげもオレとは反対側からしおりちゃんの手を握る。そのまましおりちゃんを真ん中にして三人並んで歩き始めた。

 ふと後ろを見ると、なっちゃんが大きな水槽を抱えて歩いている。

 

「なっちゃん、それ重くないか?」

「んー、まあちょっと重いかな……」

 

 見ているだけでも大変そうだったので、途中で持つのを交代してやることにした。

 水槽を受け取った瞬間、ずしりと腕に重さがかかる。

 

「……これ、結構重いな……」

「でしょー?」

 

 なっちゃんがしおりちゃんと手をつなぎながら、ちょっと得意げに笑う。

 

「がんばれ、お兄ちゃーん!」

「おうよ! がんばるぜい!」

 

 しおりちゃんの応援を受けたオレは、結局宮内家まで水槽を抱えて歩く事になった。……すごく疲れた。

 

――――――――――――――――――――――――

 

 宮内家に着くと、さっそくオレ達四人は水槽作りの段取りをする。

 

「水槽の設置場所はここの下駄箱の所で良いか?」

「おっけーなのん!」

「じゃあバケツに水を汲んで、あとは水槽に敷く石を集めよう」

「ウチとよっくんでバケツに水を汲んでくるから、れんちょんとしおりちゃんで水槽に敷く石を探してきてくれる?」

「りょうかーい!」

「おっけーなん!」

 

 オレとなっちゃんはバケツに水を汲む役。れんげとしおりちゃんは、石を探す役になった。

 

「むむ、この石はウチの求めてるやつとは違うん……」

「あ、この石まんまるだ!」

 

 庭では、二人が仲良く石を探している。時折、れんげがしおりちゃんの世話を焼いているのも見えた。

 

「カルキ抜きっと……」

「こぼさないように慎重に慎重に……」

 

 その様子を見ながらオレとなっちゃんは二人で水の用意をした。

 

――――――――――――――――――――――――

 

 そんなこんなで材料は集まり、改めてみんなで玄関に集まる。

 

「おーし、準備完了!」

「石集めるの大変だったん」

「おつかれ」

「これで水槽をつくれるの?」

 

 しおりちゃんが尋ねると、なっちゃんは腕を組み、「んふふ」と企むように笑った。

 そして、右手を高々と掲げる。

 

「よーし、それではー? 準備もできたことだしー? れんちょん待望のー?」

 

 なっちゃんが語りかけるように声を伸ばす。

 すると、れんげが「はっ!」と何かに気づいたように姿勢を正した。

 

水槽作り! はじめます!!

「らじゃー!!」

「やー!!」

「イー!!」

 

 なっちゃんの掛け声に、れんげとしおりちゃんが元気よく返事をする。オレも負けじと戦闘員のような掛け声を上げておいた。

 こういう時はノリが大事なのだ。

 

 

「まず水槽に池で取ってきた濾材を入れて、この板状の濾過器を置きます」

「金魚のぶくぶくするヤツじゃないのん?」

「この濾過器は細いホースをつけて、そこから水が出るようになってるの」

「おー、水出るん?」

 

 なっちゃんは慣れた手つきで濾過器にホースを取り付けていく。

 見た目は少し複雑そうだが、なっちゃんは迷う様子もなく、手際よく作業を進めていった。

 

「よし、これでオッケー。じゃあ次は小石を敷き詰めて、ヒーターを入れます」

「「はーい!」」

 

 なっちゃんの指示を受け、れんげとしおりちゃんが集めた小石を水槽の中へパラパラと入れていく。

 

「もうちょっとこっちにも入れてみて」

「こうなん?」

「そうそう。そこにもう少し」

「こんなかんじ?」

「うん、良い感じ良い感じ!」

 

 れんげとしおりちゃんが石を並べる横で、なっちゃんは全体の様子を確認している。

 オレも言われた通りにヒーターを設置し、用意していた石を渡した。

 

「よし、じゃあ大きい石はここに置いて……」

 

 なっちゃんが水槽の隅に大きめの石をいくつか積み重ねていく。いくつかの石を組み合わせると、水面から顔を出す小さな山のようになった。

 

「カニが登れるように、もう少し水から出るようにしておこう」

「これなら"お塩"も登れるかな?」

「たぶん大丈夫!」

 

 水槽の隅にはカニが水から上がれる石の山。その周りには小さな石が敷き詰められ、水を入れると、ちょっとした川辺のような景色になった。

 

「で、水を入れたら……」

 

 最後にホースの位置を調整して、オレがバケツに汲んでおいた水を慎重に注いでいく。

 水が少しずつ水槽を満たしていくにつれて、底に敷き詰めた小石や石の山が水の中に浮かび上がってくる。

 

「はい! 水槽の飾り付け終わり!」

 

 なっちゃんが最後に全体を確認して宣言。

 

「おー! 山みたいなん!」

「すごーい!」

 

 れんげとしおりちゃんは水槽を覗き込み、嬉しそうに声を上げる。

 

「じゃあれんちょん、最後にこれ。このコンセントを刺してくれる?」

「了解なのーん!」

 

 れんげがコンセントを受け取る。

 

「えいっ!」

 

 ――カチッ。

 

 直後、水槽の中から小さな機械音が聞こえてきた。

 

「音が聞こえてきたん!」

「ポンプが動き始めたんだよ」

 

 なっちゃんは少し得意げな顔をしながら、水槽の横かられんげに手招きした。

 

「れんちょん、ちょっとこっち来て水槽見てみ」

「なんなのん?」

 

 れんげが不思議そうに近づき、水槽の中を覗き込む。

 

「――なっ!? これは!」

 

 れんげが目を見開いた。

 

「山の所から水が出てるん!」

「うん、壮観だな……」

 

 ブーンという小さな音を響かせながら、山のように積んだ石の間から水が吹き出している。

 吹き出した水は石の斜面を伝い、さらさらと流れ落ちていく。

 まるで小さな滝のようだ。

 

「お水がずっと流れてるー!」

 その隣では、しおりちゃんも水槽を覗き込み、水の動きを目で追っていた。

 

「そう! これがこの水槽のギミック! 濾過器を使った滝が流れる水槽だ!」

マーライオンなーん!!

 

「えっ? マーライオン違う! 滝だよ!!」

「そ、そっちなん! でも滝でも凄いのん!」

「っていうか、よくマーライオンなんて知ってたね……」

「昨日テレビでやってたん」

 

 れんげは滝を眺めながら、満足そうに頷いている。

 

「それより、もう"お塩"入れて良いのん?」

「まあ、本当はもう少し水が出来てから入れた方がいいけど、濾材も入れてるし大丈夫だよ」

「わかったのん!」

 

 なっちゃんの許可が出ると、れんげは待ってましたとばかりにカニを掴み上げる。

 

「じゃあ最後の仕上げにー、"お塩"をひとつまみ入れますーん」

「料理じゃないんだから……」

 

 れんげがそっと水槽の中へカニを入れる。

 "お塩"は、水中でしばらく脚を動かしたあと、さっそく石の山へ向かって歩き始めた。

 

「おー! 凄いん凄いん! 水槽に川が出来たのん!」

「凄いねー!」

「喜んでくれてなにより!」

 

 れんげとしおりちゃんが水槽の前ではしゃぐ。

 なっちゃんも二人の反応を見て、満足そうに胸を張った。

 

「でも、これ本当に凄いな。流石なっちゃん!」

「ふふん! まあ、ウチにかかればこんなもんよ!」

 

 オレが素直に賞賛すると、なっちゃんはさらに胸を張った。

 どうやら相当嬉しかったらしい。

 

――――――――――――――――――――――――

 

 しばらくみんなで完成した水槽を眺めていると、奥の部屋から先生が顔を出してきた。

 

「おや、みんなで何やってんの? お! なにこの水槽! 凄いじゃん」

「あんなー、なっつんが作ってくれたん!」

「へー、夏海、勉強は出来ないのに、こういう事は凄いなぁ」

「かず姉、一言多いよ……」

 

 なっちゃんの良い所は、テストでは評価されない項目だからな、仕方ない。

 

「こんな凄い水槽作ってくれた事だし、今日はみんなでご飯食べていかない? ご馳走するよ?」

「ほんと? 食べてく食べてく!」

「同じく! ゴチになります! ……とその前に、しおりちゃんを布団で寝かせたいんですけど?」

 

 オレは今、完成した水槽を見てひとしきりはしゃいだ後、疲れからか、寝ているしおりちゃんをおんぶしている。

 

「ふむ、駐在さんの所の子だね。わかったよ」

「じゃあウチ! お布団用意してくるーん!」

「悪いな」

 

 今日一日、しおりちゃんと一緒に石を探したり、危ないことをしようとしたら注意したりしていたれんげ。こうして見ていると、すっかりお姉ちゃんらしくなったものだ。

 

 オレは、すやすやと眠るしおりちゃんを布団に寝かせる。

 

 今日はずっと楽しそうにしていたな。なんだかんだで、オレも楽しかった。受験勉強のことも、今日はすっかり忘れていた。

 

 

 その後、しおりちゃんが目を覚ますまで、オレ達は水槽を眺めたり、庭で遊んだりして時間を潰した。

 

 結局、夕食までみんなで遊び倒すことになった。

 

「ところで、今日の夕食の献立は何ですか?」

「今日の晩ご飯はカニクリームコロッケだよ」

「へっ……?」

 

 人の心とかないのん?

*1
この小説の話数で言うと丁度三十話前だったりする。




今回は、しおりちゃんの話とカニの水槽作りを一つのお話として繋げてみました。

元々はそれぞれ独立したエピソードとして考えていて、よしおを絡めた会話やネタもいくつか考えていたのですが、いざ書いてみると原作の流れが好きだったこともあり、どちらも大きく変える部分が少なく、「このまま一話にするにはちょっと短いかな……」という状態に。

とはいえ、ここを飛ばしてしまうと、しおりちゃんを登場させられる機会が次は最終話付近になってしまいそうだったので、今回は思い切って二つのエピソードを繋げてみました。

その分、登場人物の動きや話の流れに無理が出ないようにするのが大変で、個人的にはかなりの難産だった回です。

ただ、そのおかげで今回は、れんげとしおりちゃんが一緒に遊ぶ場面をしっかり描けたので、結果的にはこの形にして良かったかなと思っています。

原作では別々だった二つのお話が、よしおが加わることでどんな一日になるのか。楽しんでもらえたら嬉しいです。
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