今回はアニメ三期・第八話前半のお話になります。
全編あかねちゃん視点で進みます。
いつもとは違う視点から見た、富士宮姉弟のやり取りも楽しんでいただければ嬉しいです。
「え? 先輩、部活辞めちゃうんですか……?」
「うん、もうすぐ受験だし、部活行ってると、勉強出来ないから」
「あ、そ、そうですね……」
部活中に、よく話をしていた先輩が、今日を最後に部活を辞めるらしい。
寂しくないと言えば嘘になる。でも、受験を控えている以上、仕方のないことだ。
「お、お疲れ様でした! 受験、頑張ってください!」
「はーい! あかねちゃん、今までありがとねー」
先輩はいつものように笑顔で手を振り、その場を後にした。
……受験か。
このみ先輩が取り持ってくれたおかげで、部活には友達もできた。フルートだって、前よりずっと楽しくなった。
でも、このみ先輩も三年生なんだよね……。
もしかして、先輩もそのうち部活を辞めちゃうのかな。
そんなことを考えながら、私はいつもより少しだけ重い足取りで学校を後にした。
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部活帰り。バス通学の友達とバス停で別れた後、電車通学の私は一人で駅前を歩いていた。
「お! あかねさーん!」
「あれ、よしおくん?」
その時、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「あっかねさーん!!」
振り返ると、両手に食べ物を抱えたよしおくんが、ものすごい勢いでこちらへ向かってきていた。
嬉しそうにこちらへ向かってくる姿は、なんだか大型犬みたいだった。
そのままこっちに向かって全力で走って……って、このままじゃぶつかっちゃう!?
「わ、わわわっ……! よしおくん、ストップストーップ!」
「はいそこまで!」
「ぐふぉうっ!?」
私とぶつかる寸前に、見覚えのある制服姿が、よしおくんの顔をがしっと掴んで止めた。
「あかねちゃん、大丈夫?」
「あっ、このみ先輩……」
このみ先輩はよしおくんの顔を右手で握りしめたまま、いつもの笑顔で私の方を向いた。
「いだだだだ! 姉ちゃん、ギブギブ! アイアンクローやめて!」
「よっくん、ひかげちゃんじゃないんだから、会っていきなり抱きつきに行っちゃダメでしょ」
「確かに祭りで浮かれていた……。ひか姉じゃないんだからダメだよな……。すみません、あかねさん」
「えっと、その……うん、今度は気をつけてね……」
仲良し姉弟の気安い会話に少し気後れしながら、私は答えた。
……あれ? ひかげちゃんだったら良いの……?
……というか、この二人、こんなところで何をしてるんだろう。
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「お祭り……ですか?」
「そうそう、お祭り♪」
「部活終わって早々に帰ったのは、お祭りに行く為だったんですか?」
「いや―実はさー……」
私がこのみ先輩と話していると、よしおくんが、ぐいっと私たちの間に割り込んできた。
「今日はお祭りだって聞いて、居てもたっても居られなくなりまして!」
「こらこら、話に割り込んじゃダメでしょ」
どうやら、よしおくんはお祭りとかイベント事が好きらしい。
さっきから妙にテンションが高いのも、そのせいかな?
「それと、この後なっちゃん家に行くから、何かおみやげでも買っていこうと思ってさ!」
「よっくん、電車に乗る時間は長いから、食べ物は持って帰らないでね」
「分かってるって! 今この場で全部食べるから大丈夫!」
そう言うなり、よしおくんは手に持っているたこ焼きを一個、丸ごと口の中へ放り込んだ。
「熱っぢいぃぃぃぃ!!!」
「よ、よしおくん!?」
「食い意地を張って一気喰いをするからだよ……ほら、お水」
涙目になったよしおくんが、このみ先輩からペットボトルを受け取る。……大丈夫かな?
「どうせならあかねちゃんも一緒にお祭り回るの付き合ってよ」
「まぁ良いですけど、お土産って言っても、何を買うんです?」
「そうだねー……」
このみ先輩は楽しそうに辺りを見渡した。
よしおくんも水を飲んで、ようやく落ち着きを取り戻したようだ。
「あ、お面にしようかな?」
「でもこれは、なっちゃん達よりも、れんげの方が喜びそうだな」
「確かに、あのロボっぽいお面とか喜んでくれそう!」
「お、グレートマンじゃん、あれにすっか! すいませーん! あそこのお面くださーい!」
二人の会話で、お面を買うことが決まった。
れんげちゃんって、ああいうのが好きなんだ……。
「あ、そうだ! あと、この子に似合うお面もひとつください!」
「えっ?」
突然、このみ先輩が私の方を指さした。
何が何だか分からないまま、店の人からお面を渡される。
せっかくだから言われるがままにつけてみたけど……。
「……私、似合ってますか?」
「「…………」」
えっ、何?
「なんか、ごめんねー」
「なんで謝るんです?」
「お土産選びに付き合ってもらってるから、お礼にと思ったんだけどね……」
「はぁ……」
「まぁ、お面で顔が隠れる以上、似合うもなにもないわな……」
よしおくんのもっともな言葉に、私は何とも言えない気持ちになった。
……せっかくもらったし、私はお面を頭の上へずらして、二人と一緒に祭りを歩いた。
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「後はなっちゃん達へのおみやげなんだけど……」
「食べ物は、匂いをまき散らすからNGだったな」
「何かくじみたいので景品当たるものないかな?」
三人で屋台を眺めながら歩いていると、目の前に「かたぬき」と書かれた幟が見えた。
「じゃあ、あそこの型抜きとかはどうです?」
「お、いいねー! これ子供の頃に良くやったから得意なんだ!」
「オレは一度も出来たことないんだよなー……、久々に挑戦してみっか」
そんなわけで、私たちは三人揃ってかたぬきに挑戦することになった。
――パキッ!
「あ! やっちまった……」
「よっくん割るの早すぎ。見てて、コツはこうやって少しずつ、削るように――」
二人はすっかりかたぬきに夢中になっている。
その横で私は、手元のかたぬきを眺めながら別のことを考えていた。
……先輩に部活のこと、聞きたい。
今なら聞けるかな?
でも、本当に辞めるつもりだったら……。そんなことを聞いてしまったら、余計に寂しくなるかもしれない。
それに、何となく言い出しづらい。
――パッキッ!
「あ!」
そんなことを考えていたら、手元でかたぬきが真っ二つに割れた。
「あかねさんも割れちゃったかー」
「考え事していたらつい……」
「よーし、それじゃあ二人とも! そこで私の型抜きの技、しっかり見ときなよー!」
自信満々に言いながら、このみ先輩が手を動かす。
……そして。
――パッキャッ!
「「「…………」」」
誰も何も言わないまま、三人の視線が割れたかたぬきへ集まった。
このみ先輩は目の前で割れたかたぬきをしばらく見つめた後、何事もなかったように破片を手に取った。
「よっくん、あーん♪」
「あーむ! ふむふむ、ブドウ味だな!」
このみ先輩はそのまま、よしおくんの口へかたぬきの破片を放り込んだ。
「じゃあオレのも、ほれ、あーん」
「あーん♪ うん、ラムネ!」
今度はよしおくんが、自分の割ったかたぬきの破片をこのみ先輩の口元へ差し出した。
そしてこのみ先輩も、ごく自然にそれを食べる。
えっ? 二人とも、特に気にしてない……?
……やっぱりこの二人、仲良いな。
「結局うまく
「ほんと、恥ずかしい所見せちゃったねー。村のみんなには、内緒だよ♪」
「そんな恥ずかしい事でもないと思いますけど……」
かたぬきの失敗より、さっきの食べさせ合いの方がよっぽど恥ずかしいと思うんだけど……、姉弟だから普通なのかな……?
――――――――――――――――――――――――
「じゃあ次は、射的でもやろうよ」
「お、良いじゃん! 楽しそう!」
「えっと、私、射的とかしたことないんですけど……」
「私もしたことないけどねー」
そう言いながら、このみ先輩は射的用の銃を構えた。
「ま、こういうのはビギナーズラックで……」
――タンッ!
乾いた音と共に、福笑いの入った袋が倒れる。
「わ、当たった!」
「おー! 本当にビギナーズラックきた!」
「すげー!」
「よーし、私も……」
私も銃を構える。
的をよく狙って……。
――タンッ!
お菓子の箱が見事に倒れた。
「わ! やったー!」
「また当たったぞ!」
「おー、あかねちゃんもやるじゃん!」
思わず嬉しくなってしまった。
「よーし、オレも続くか!」
よしおくんも、負けじと銃を手に取った。
「あれ? 引き金が引けない?」
「銃の横に着いてるレバーを手前に引かないと駄目なんじゃない?」
「これか……、あれ? 動かない?」
どうやら、うまく扱えないらしい。
「どれボウズ、貸してみろ」
よしおくんが銃をあちこち触っていると、店主さんが見かねたように近づいて来る。
――パンッ!
「あ……」
よしおくんが触っていた銃から飛び出したコルクが、目の前にいたコワモテな店主さんの額に命中した。
「…………」
よしおくんの顔が、みるみる青くなっていく。
「ボウズ……、撃っていいのは……」
店主さんは低い声を響かせながら、手にしたコルク銃をよしおくんへ向けた。
「撃たれる覚悟のある奴だけだ……」
――スチャッ……
「あわわわわ! ごめんなさーい!!」
よしおくんがものすごい勢いで頭を下げる。
あまりの必死さに、さっきまで怖い顔をしていた店主さんも堪えきれなくなったらしい。
「冗談だ。鉄火場なら、今の一発でお陀仏だから気にすんな」
そんなことを言って笑っていた。
……冗談、だよね?
――――――――――――――――――――――――
その後も私たちは、スーパーボールすくいをしたり、イカ焼きを買ったり、綿飴を買ったり。
おみやげ探しのはずだったのに、いつの間にか三人揃ってお祭りを満喫していた。
「ふー、なんか普通にお祭り楽しんじゃった」
「ですねー」
「ふふん、おみやげもバッチリだ!」
「そろそろ暗くなるし、帰ろっか?」
「あ、はい」
「名残惜しいけどしゃーないか……」
気がつけば、思っていた以上に時間が経っていた。空は少しずつ夕方の色に染まり始めている。
駅へ着くと、よしおくんが突然足を止めた。
「あ、ちょっとトイレ行ってくる」
そう言い残し、近くの公衆トイレへ向かっていく。
自然と、このみ先輩と私の二人だけになった。
……聞くなら、今しかない。
「あ、あのっ! このみ先輩!」
「ん? どうしたの、あかねちゃん?」
「えと……あの……」
……ダメだ。
いざ話そうと思ったら、言葉が出てこない。
どうしよう。
人見知りは克服したと思ってたのに。
さっきまであんなに楽しく話していたのに、肝心な事になると急に怖くなる。
「あかねちゃん」
「あっ……!」
「ゆっくりで良いから♪」
「センパイ……」
このみ先輩は、いつもの柔らかい笑顔を浮かべながら、そっと私の背中を撫でてくれた。
それだけで、不思議なくらい気持ちが落ち着いていく。
大丈夫。ちゃんと言わなきゃ。
「あの……! 先輩、もうすぐ受験じゃないですか……?」
「あー、まあ、そうだね」
ここから先を口にするのは、少し怖かった。
でも、もう聞かずに帰るなんてできなかった。
「私、この部活に入ってすぐの頃は、気軽に話せる友達もいなくて、この先、本当に、やっていけるのかなって、思ってたんです……」
あの頃の自分を思い出す。
フルートは好きなのに、部活へ行くのが少し怖かった。
「でも、このみ先輩のおかげで、よしおくん達や、部活の子達とも仲良くなれて……フルートも前よりもっと楽しくなって……」
あの日、このみ先輩が声を掛けてくれたから。
私はここに居場所を見つけられたんだ。
「このみ先輩には本当に感謝してるんです……だから……」
……ダメだ。
泣いちゃダメ。
明るく送り出したいのに。
でも、涙が出そうになる。
「今まで本当にありがとうございました! 受験頑張ってください!!」
私は、これまでの感謝を全部伝えるように深々と頭を下げた。
涙を見られないように。
「……あかねちゃん……」
少しの沈黙。
そして、このみ先輩が静かに口を開いた。
「私、もう推薦で近くの大学に受かってるから、最後まで部活続けるんだけど……」
……………………えっ!?
顔を上げたまま、私はしばらく固まってしまった。
……そういえば。
このみ先輩の家へ行ったとき、よしおくんは毎回のように受験勉強に四苦八苦していた。
でも、このみ先輩が勉強しているところは、ほとんど見たことがない。
それって……。
もう、とっくに進路が決まっていたから!?
じゃあ、さっきの私の話は……。
全部、勘違い……!?
自分でも分かるくらい、顔が一気に熱くなっていく。
「あ、でもさっきの言葉、もう一回言って! 嬉しかったから♪」
「絶対嫌です!!」
「ふう、お待たせ! じゃあ帰ろっか! あれ? あかねさん、どしたの?」
「なんでもない!!」
「うおっ! すいません! ……ん? なんでオレ怒られたの……?」
「それはねー……」
「い、いいい言わないでください!!」
私が慌てて止めると、このみ先輩は楽しそうに笑った。
その横で、よしおくんが首を傾げている。
空には、いつの間にか夕焼けが広がっていた。
……今日は、いろいろ恥ずかしい一日だった。
最近私生活が忙しくて、小説を書く時間がなかなか取れない……。
次回は富士宮姉弟で越谷家へお泊まりの話になります。