のんのんびより ― ある田舎男子の日常 ― 【ばけーしょん編更新中】   作:NIZI

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アニメ一期第六話前半です。
後半の肝試しもネタが思いついて長くなりそうなので後日投稿です。


第6話 女の子の部屋にお邪魔した

 夏休みも終わりが見え始めた、蒸し暑い午後。

 蝉の声がじりじりと響き、じっとしているだけでも汗が滲む。

 しかし、その暑さ以上に――越谷家の居間には、重たい空気が漂っていた。

 

 テーブルを挟んで向かい合うのは、越谷家の母・雪子と娘・夏海。

 夏海は畳の上に正座する格好で、肩を震わせている。

 

「夏休みだから遊ぶなとは言わんけどね。何なの?この成績は?」

「それは…えーっとその…それはどこで見つけたのでしょうか……?」

「アンタの部屋。掃除してたら、机の裏から落ちてきたよ」

 雪子はじわりと「もしかして隠してたんじゃないよね?」と圧を込めた声で言う。

 夏海は引きつった笑みを浮かべながら首を振った。まだまだ暑い夏の午後。越谷家の母の温度も急上昇中である。

 

「で?この成績はどういう事?怒らんから、黙ってないで言ってみ?」

「えっと……だってテスト範囲広くて難しい問題ばかりだったし……」

 

 その瞬間、雪子が両手でテーブルを叩きつけた。

 

「言い訳しなさんな!」

「オッマイガッ! 今怒らないって言ったのに!!」

「夏休みの宿題も! まだ終わってないよね!!」

「い、いろいろ忙しくて……その……」

「言い訳しなさんな! 全くアンタは口ごたえばっかりして! その態度がアカンのよ!」

 

 そこから説教モードに突入。

 "もっと人の言うことに耳を傾けて……くどくどくどくど"

 "アンタはやればできる子なのよ!……くどくどくどくど"

 

 終わりの見えない雨あられに、夏海は完全に上の空。表情は真面目だが、内心は外部からの音声をシャットアウトしている。

 

 ……と、不意に視界の端でふすまが少し開き、顔だけのぞかせる影が見えた。夏海の姉、小鞠である。

 

(居間で、テレビ、見たいんだけど、まだ、終わりそうに、ない?)

 

 口を一切動かさず、身振りだけで訴える小鞠。

 説教は今正に居間で行われている為、テレビを使う事が出来ない。良い迷惑である。

 夏海も小鞠を確認し、こちらも無言ジェスチャーで返す。

 

(そんなこと、より、ウチの、テスト、隠しといて!あの、忌まわしき、プライスレス、テスツ……)

(そんなの、知らないし、自分が、悪いんじゃん……)

(んな事、言ってると、テレビ、より、とんでもないもの、見ちまうよ、我が家の、アルマゲドン!、てヤツをさ……)

 

「……人が真面目な話してるのに……アンタ何やってんの?」

 ジェスチャーの最中、正面から母の視線が突き刺さる。

 夏海は両手を耳の横に広げたポーズのまま、ぴたりと固まった。

 

「い、いやぁ……これは、その……」

 

「うさぎさんだぴょーん♪ ぴょこぴょこぴょーのぴょんぴょんぴょーん♪」

 

 言葉に窮し、開き直ってふざけ始める夏海。

 

 ――その瞬間、アルマゲドンが落ちた。

 

 その後、隠そうとしていたテストまで発掘され、万事休す。

 ふすまの向こうで覗いていた姉・小鞠と兄・卓も巻き込まれて、

 全員爆心地から避難する事となったのである。

 

 

 

 

 蝉の声が絶え間なく響く田舎道を、越谷姉妹は並んで歩いていた。二人とも、どこか魂が抜けたような表情を浮かべている。

 

「本当、この果てしないアルマゲドンはいつ終わるの……」

「敵が戦いを挑んでくる限り終わらない……」

「いや! アンタが反省しない限り終わらないから!」

 

 小鞠の鋭いツッコミに、夏海は「そう?」と生返事を返した。自分は悪くないとでも言いたげな顔で、まるで反省していない。

 

 そのとき、反対側から散歩中のよしおが歩いてくる。

 

「あれ、二人ともこんな所で珍しいじゃん。どしたの?」

「ちょーっと我が家で起きたアルマゲドンから避難中」

「どゆこと?」

 

 夏海の言葉に意味が分からず首を傾げるよしお

 

「夏海の成績表がお母さんに見つかってさ……夏海も素直に謝ればいいのに言い訳するもんだから……」

「ああ、つまり雪子おばさんはカンカンだと」

「いや、問題が難しいのが悪いんじゃん! ウチ何も悪い事してないし!」

 子どものようにむきになって手を振り回す夏海。

 その必死さが少し切なくもある。

 

「まぁ、確かにイタズラとかしたわけじゃないし言い分は分かるな。なっちゃんが馬鹿だってだけだし」

「言ってくれんじゃん……イタズラの常習犯がさ……」

「よっくんも夏海と一緒になって、障子とか屋根の瓦とか壊してたよね……」

「オレも昔、散々怒られたからもう反省してんだろ……」

 

 小鞠の相槌に、よしおは遠い目をする。

 

(なっちゃんと一緒に瓦投げ競争とかやってたっけな……あの時は尻が真っ赤になるまで叩かれたっけ。今思えば怪我人が出るかもしれなかったし……そりゃ怒られて当然だわ……)

 思い出すほどに、よしおの背中を汗が伝っていく。

 

 静かな空気が三人を包む。

 その沈黙を破るように、蝉の声だけが、まるで何事もなかったかのように、けたたましく響き続けていた。

 

 

「やっほーい!」

 そんな中勢いよく走ってくる声と共に、れんげが全力で手を振りながら近づいてくる。

 

「お、れんちょん!」

「どこあそびにいくのーん?」

「とりあえず、ほたるんの家にでも行こうかな? よっくんはどうする?一緒に来る?」

「そうだな……邪魔じゃなければ行ってみるか」

 夏海の誘いに、よしおは快くうなずいた。初めて行く蛍の家に内心胸を躍らせながら、四人は蛍の家へ向かって歩き出した。

 

 

 

 

 一条家の二階。蛍の自室。

 その一室で、一条蛍は今日もまた針と糸を器用に操っていた。膝の上には、越谷小鞠を模した小さなぬいぐるみ――通称「こまぐるみ」。蛍は最後の糸を一気に引き締めると、そっと針を置き、胸の前で完成したぬいぐるみを抱きしめる。

 

「うん!今回のこまぐるみ、今までで一番いいかも!」

 

「いいなぁ、こまぐるみいいなぁ……」と頬をほんのり赤らめ、うっとりと目を細める。

 部屋の棚や机、ベッドの周囲……視界を動かせば、至るところにこまぐるみが並んでいた。その数はもう、ちょっとした展示会のようである。

 

(流石にこの部屋は、先輩達には見せられないなぁ……)

 

「ま、作っちゃったものは仕方ないし。どこに飾ろうか?」蛍はこまぐるみをそっと抱き寄せた。

 

 その時、突然、家のチャイムが鳴り響いた。

 階下から母の声と、聞き慣れたクラスメイト達の会話が続いて聞こえる。

 

「あら、蛍ちゃんのお友達?」

「はい、初めまして、すいません、こんな急に来てしまって……」

 遠慮がちなよしおの声。そしてその後ろ、蛍が慕う小鞠の姿が見えた瞬間――蛍の心臓は跳ね上がった。

 

「いいのよ、さ、上がって上がって」

 会話もそこそこに母は、にこやかに皆を家に招き入れる。

 初めての訪問に、一同は「おじゃまします」と丁寧に挨拶をして、少し緊張した面持ちで靴を脱いだ。

 

「ほたるん家綺麗だなぁ、さぞかし部屋も綺麗に――」

 

 夏海を先頭に、階段を上って蛍の部屋へ向かう足音。

 蛍はハッとし、弾かれたようにドアの前に立ちはだかった。

 

「あ、あの! ちょっと待ってください!」

「ん? どしたの?」

「そ、その、今部屋は汚れてて……」

「あぁ、ウチの部屋も散らかってるし。別に気にしないよ」

「その……、散らかってるというより、じ…地雷とかがあるかもですし……」

「なぜ部屋に地雷が……?」

 

 夏海が眉をひそめる中、蛍はどんどん肩が震えていく。

(ダメだ……今入られたら、全部終わっちゃう……!)

 そんな蛍の表情を見て、よしおは何かを察したように顎へ手を当てた。

 

「あー…やっぱりそうだよな……。蛍ちゃんくらいの年頃の女の子なら、オレみたいな男に部屋に入られるのは抵抗あるわな……」

「私達の部屋には遠慮なく入ってくる癖によく言うわ……」

 小鞠はじとっとした目で抗議する。

 しかし蛍は必死だ。首を横に振りながらかすれた声を絞り出す。

 

「いえその……、別によしお先輩に問題があるわけじゃなくて……、と、とにかく今掃除しますんで、ちょっと待っててください!」

 

 そう叫ぶと同時に部屋へ駆け込み、視界に入るこまぐるみを次々と抱え込む。

 まるで大切な宝物を守るように、慌ててクローゼットの中へ押し込んだ。

 心臓はまだぱくぱくと落ち着かない。

 

(絶対に見られちゃいけない……!)

 

 数分後、息を整え、笑顔を作る。

 

「すみません、お待たせしました」

 

 やっと部屋の扉が開かれる。

 蛍はぎこちなくもやわらかな笑顔で、一同を自室へ迎え入れた。

 

 

 蛍に招かれて、四人は静かに彼女の部屋へ足を踏み入れた。

 

「お、邪魔~」

「なんだ、普通に綺麗じゃん」

「今片付けましたから……」

 夏海の部屋より全然きれいだよ。と言いつつ部屋を見渡す小鞠。

 ふと、本棚に並べられたアルバムが目に留まった。

「これ、蛍のアルバム? 見て良い?」

「あ、どうぞ」

「どれどれ……、あれ? この写真。小さい頃のみたいだけど、この近くの風景じゃない?」

 問いかけるようにアルバムを覗き込む小鞠の肩に、蛍がそっと顔を寄せる。

「あ、親戚が近くに住んでるので、何回か遊びに来たことがあるんです」

「ふーん、これ小一くらいの時?」

「えっと、それは去年の写真ですね」

(去年……!?)

 小鞠の目が大きく見開かれる。

 小さくて、細くて、小鞠と変わらないくらいの身長――。

 それが、たった一年で今の蛍に……?

 

 

「お!おああああ……!」

「こ、これは……!」

 部屋の隅、テレビ台の上で見つけたものに夏海とよしおが震え上がる。

 

「最新のゲーム機!」

「すげぇ! 今テレビのCMで流れてる奴じゃん!」

 

 富士宮家にゲーム機は無い。

 越谷家のゲームは、古すぎて、もはやレトロを超えた骨董品の領域。

 発売されたばかりの最新ハードの存在に、二人の体は歓喜で震えた。

 

「す、少しばかり! ゲームを嗜ませて貰ってもよろしいでしょうか!?」

「いや! なっちゃん!! 流石に悪いよ!! こんな汚い手で人様の持つ最先端機器様に触るなんて!! ほ、蛍ちゃん!! その……あの……!!」

 

 興奮を抑えきれないまま、夏海はケーブルを接続し始めている。そんな夏海をよしおは、なけなしの良識で止めようとするが、言葉とは裏腹に鼻息が荒い。

 

「あの、かまいませんのでどうぞ……」

「ありがとうございます! この御恩は一生忘れません!!」

 

 よしおは、食い気味に礼をすると、秒でゲームする夏海の所へ混ざる。二人は勢いのまま協力プレイを始めて、頭の中はゲームの世界一色になった。

 

(よかった……これなら、バレずに済みそう……)

 

 蛍が胸をなでおろしたその瞬間――視界の端で、れんげがクローゼットの取っ手に手を伸ばしていた。蛍は光の速さでれんげを持ち上げて、クローゼットから離した。

 

「? ウチ浮いてるのん?」

「浮いてるねー!アハハハ……」

 

(マズい……、クローゼットの中にはこまぐるみが……!)

 れんげはそんな蛍の焦りなど気にも留めない。

「おもちゃないのん? ないなら鬼ごっこするのん!」と提案。

「部屋で鬼ごっこは無理だよ……」

「のんのん、ウチの鬼ごっこは部屋でも出来るん」

 

「ウチが作った新鬼ごっこ! ルールは簡単! より鬼になり切った方が勝ちなのん!

 両手の人差し指を角のように立てて、れんげは説明する。

 

「まずウチがお手本見せますのん」

 深呼吸ひとつ、両手を交互に突き出す正拳突き。

 そして――

 

「"天パ"ではございません!!」

 

(なにコレ……)

 蛍は呆然。逆にれんげは首をかしげている。

 

「なんでこんなにスベった感じなのん?」

「ちょっと分かりにくかったから……」

「虎柄を舐めるんじゃないのん!!とかの方が良かったん?」

「そっちの方がまだ鬼っぽいかなぁ……」

「おっちゃん、粉大根負けてーなー!とかもあったのん」

「あれ……? れんちゃん私と違うもの想像してない……?」

 

「じゃあ次はほたるんの番なのん」

「鬼の真似って言われても……恥ずかしくて出来ないよ……」

 

「じゃあおもちゃ探すのん」

「あ! 待って待って! ストップストーップ!!」

 

 再びクローゼットへ伸びる小さな手。蛍は覚悟を決めた――恥を捨ててでも。

 

 ――その頃。

 

「たった一年でこの変化……何か秘訣があるんじゃ……?」

「あれぇ? この面クリア出来ないなぁ……?」

「うーん、何か見落としてるのか……?」

 三人は三人で、自分の疑問に没頭していた。

 

「蛍、何かここ一年で背が伸びるような事したん?」

「「ほたるん(蛍ちゃん)?ここどうやって進めるん?」」

 

 だが当の蛍は。

 

「おにおにー! 食べちゃうよー!」

「もっと! もっと大きな声だすのん!」

 顔を真っ赤にしながら、今にも泣きそうなほど羞恥に震え、鬼の真似をし続けていた。

 

「「「どういう事!?」」」

 

「やっぱり食べないと大きくならないの!?」

「食べるってコマンドがあんの!?」

「鬼の敵キャラを利用したギミックがあるって事!?」

 

 完全に話が噛み合っていない。

 

「何がですか!?」

「「「聞こえなかったからもう一回お願い!」」」

 

「お、おに~……」

「顔が赤くて鬼っぽいん!」

 蛍の声はか細く、顔は茹でダコのように真っ赤。れんげは満足そうだ。

 

 全員の視線が一斉に注がれて、蛍の恥ずかしさは限界を突破した。

 

「も、もう勘弁してくださ~い!!」

 彼女はそのままよろめき、肘がクローゼットの取っ手に当たり――

 

 ガチャッ。

 

 ーーパンドラの箱が開かれた。

 

 

 雪崩のようにこぼれ落ちた大量のぬいぐるみが床に散らばる。

 絨毯の上に広がったのは、どれも“小鞠そっくり”の顔と髪型、制服姿のぬいぐるみたち。

 

 部屋の空気は、ぴたりと止まった。全員が固まり、誰も言葉を発せず、ただ散乱した"こまぐるみ"を見つめる。

 

 

「なんで姉ちゃんのぬいぐるみが?」

「なんでこんな一杯?」

 

 床に散らばった無数の“こまぐるみ”が、全員の視線を一斉に集めていた。

 越谷姉妹は当然の疑問をこぼす。

 

「いや、これは……練習とかしてて……」

 蛍は顔色を変え、両手をぶんぶん振って弁解しようとするが、言葉はうまくまとまらない。まるでこの世の終わりみたいな表情だ。

 

 そんな中よしおは、落ちていたぬいぐるみをそっと拾い上げる。

 丁寧に縫われたステッチを眺め、指先で触りながら感心したように呟いた。

 

「凄いな……これ全部手作りかい? どれどれ……お、白だ」

「ちょっと!? 何スカートの中見てんのさ!?」

「いや、ぬいぐるみのを見てただけだろ?」

「それでも何かいやだよ! 私そっくりのだし!」

 小鞠は顔を真っ赤にして抗議し、よしおは慌ててぬいぐるみを床に戻す。

 

 そのやりとりを尻目に、れんげは腕を組んだ。まるで名探偵のように、鋭い目つきをして、ゆっくり口を開く。

「なるほど……全てわかったのん」

「わ、わかったって、何……?」

 蛍は背筋を固くし、目を泳がせる。胸がドキドキと暴れ出し、心臓が喉までせり上がる。

 

「この沢山のぬいぐるみ――。今の練習という言葉――」

「れんちゃん……何を……」

 

 そして、れんげは人差し指を掲げ、堂々と言い放った。

 

「つまり――!夏休みの自由研究なのん――!!」

「………………へ?」

 蛍は完全に固まる。予想の斜め上すぎる結論に、思考が追いつかない。

 

「そうだ、ほたるんに自由研究を写させてもらおうと思って来たんだった」

「実は私もまだやってない」

「ウチもです!」

 さっきまでの凍った空気はどこへ消えたのか、三人の顔はぱっと明るくなる。

 

「せっかくだし、蛍に教えてもらって、ぬいぐるみを自由研究にしよう!」

「賛成!ウチれんちょん作ろうっと!」

「オレも適当に新作料理のレシピにしようと思ってたけど、こっちの方がおもしろそうだな。蛍ちゃん、良いかな?」

「あ、はい……大丈夫です」

 蛍はほっと肩から力を抜き、安心したように微笑んだ。

(なに一人で騒いでたんだろう……)

 ついさっきまで“人生の終わり”を覚悟していた自分が滑稽に思えて、思わず苦笑が漏れたのだった。

 

 

 その後――

 材料を広げ、みんなでわいわいと、ぬいぐるみ作りが始まる。針を落として悲鳴を上げたり、フェルトを切りすぎて笑ったり、部屋の空気が一気に賑やかになった。

 

 やがて日が傾き始め、部屋に柔らかな橙色の光が差し込む頃。

 よしおは改めて一体のこまぐるみを手に取り、蛍へ声をかけた。

 

「けど本当に良く出来てるな、コレ。蛍ちゃん、一個貰ってもいいかい?」

ダメです

 

 即答だった。

 空気が再びぴんと張る。

 

「え……その……、こんだけあるし一個くらい……」

ダメです

 

 迷いのない拒絶。よしおの手が空を切る。

 

「その……」

ダメです

 

 有無を言わさない三度目の完全拒否。

 よしおは頭を下げて降参のポーズ。

 

「スイマセン……」

 よしおの肩がしょんぼりと落ちた。

 

「なんで貰えると思ったのさ……」

 小鞠が深いため息を吐く。先ほどの“スカート覗き事件”を思い出し、断られて当然でしょ……と呆れたように眉を下げた。

 

 よしおも内心で顔を青くする。

(しまった……蛍ちゃんに気持ち悪いって思われたかもしれない……)

 と自身の迂闊な行動を後悔する。

 

 しかし蛍は――全く違う世界にいた。こまぐるみを抱える腕に、ぎゅっと力がこもる.

瞳は真剣で、静かに燃えている。

 

(どれも全部、思いを込めて作った子達……誰かに渡すなんて、とんでもない!)

 

 よしおへの嫌悪は特にない。ただ、大切な宝物を守りたかっただけだった。

 

 その後部屋では笑い声が満ちていく。手元にはそれぞれ不格好だけれど出来立ての誇らしいぬいぐるみ達。

 楽しい夏の一日が今日も過ぎていった。




64ですら来年で発売30周年になるという事実に震える。
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