のんのんびより ― ある田舎男子の日常 ― 【ばけーしょん編更新中】   作:NIZI

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アニメ一期六話後半。肝試しその1
やりたい事詰め込んだ結果。過去最長に。
それでもまだ終わる気配がないので、二つに分けます。
視点は三人称→よしお→蛍→小鞠→三人称と変わっていきます。


第7話 おばけになってがんばった(前編)

 夏休みの夜。山間にひっそりと立つ日和神社は、静まり返っていた。

 鳥居へと続く石階段の前には、外灯の淡い光だけがぽつりと照らし、周囲の木々が風に揺れてざわめいている。

 闇は濃く、虫の声が耳に張りつくように響いていた。

 

「それじゃあ! 肝試しやっちゃうぜ!」

 

 そんな夜に似つかわしくない、越谷夏海の明るい声が神社に鳴り響く。

 彼女は腕に、何かが詰まった段ボール箱を抱えている。

 

「夜に呼ばれたから花火でもするかと思って持ってきたんですけど……」

 蛍は紙袋いっぱいの花火を胸に抱え、困惑した顔で夏海を見た。

 

「花火じゃありません。肝試しでーす!」

 にこにこと笑う夏海に、参加者たちは思わず顔を見合わせる。

 

 夏海によれば、本当は墓地で行う予定だったらしい。しかし流石に暗くて危険だと止められ、灯りがある神社に落ち着いたのだという。

 夜間行動の許可を取るため、分校教師・宮内一穂も同伴していた。縁側で昼寝していそうな、相変わらずのゆるい笑みで「許可が出ただけでも良かったじゃないか」と答える声が頼もしいやら頼りないやら。

 

 そんな中、よしおの姉・このみが蛍へと近づき、優しい笑顔で声を掛けた。

 灯りに照らされた横顔は柔らかく、穏やかな雰囲気が漂う。

 

「こんばんは蛍ちゃん、久しぶりだね」

「あ、こんばんは、このみさんも参加するんですね」

 蛍も自然と表情を緩め、丁寧に返す。

 

「なっちゃんが、皆を呼ぶって言ってたから、少し楽しみだったんだ」

 

 その会話に気付いたよしおが、少し驚いたように眉を上げた。

 

「あれ? 姉ちゃん、いつ蛍ちゃんと知り合ったのん?」

「小鞠ちゃんの部屋に行った時に少し話をしたの、よっくんが迷惑かけてないか気になって」

「おい、まさか蛍ちゃんに変な事吹き込んでないだろうな……?」

「別に? 言われて困る事でもあるのかな?」

「そんな言われて困る事なんて……、ありすぎて絞り切れるか!」

「胸を張って言うセリフじゃないでしょ……」

 姉弟の軽口の応酬に蛍は思わずクスリと笑う。

 

 そんな穏やかな空気の中、夏海は参加者へ向き直りルール説明を始めた。

 肝試しのルールは簡単。階段を上って本殿へ向かい、賽銭箱の縁に五円玉を置き、戻ってくるだけ。脅かし役は段ボールに入った道具を使って参加者を脅かす役割。

 

「ばっかじゃないの!?」

 説明を聞いた瞬間、越谷小鞠が精一杯の低い声で叫んだ。両拳を握り、肩を震わせ、必死に反抗する姿が逆に可愛らしい。

 

「なんなの? 藪から棒に」

「そんなつまらない事、私やらないから!」

「ノリ悪いなぁ、姉ちゃん。怖いの苦手だからってさぁ」

「べ、別に怖くないもん……! ただ、もしオバケが出たらビックリするじゃん……」

「いや、出ないから脅かし役を用意するんだよ」

 

 冗談か本気か分からない小鞠の言い訳に、夏海は呆れたように眉を下げながらも先を急ぐ。

「ほら、さっさと脅かし役ジャンケンで決めるよ」

 そのかけ声で、全員は自然と円になった。

 

「はい、出さなきゃ負けよ――」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 小鞠は慌てて両腕を振って制止し、呼吸を整え始める。そして自ら号令をかけた。

「よし! じゃんけーん!」

 

 ポイッ!

 

 結果は――小鞠とよしおがチョキ、他全員がパー。二人の勝利だ。

 

「勝った! これ、私とよっくんが脅かし役って事だよね!」

 小躍りする小鞠に、夏海は涼しい顔で言い放つ。

 

「いや、脅かし役は一人で十分だから、二人でもう一回ジャンケンして」

 

「えぇっ!?」

 ショックを受ける小鞠を見て、よしおが助け船を出そうと口を挟む。

 

「まぁまぁ、なっちゃん。流石にこんな夜中に一人だけになるのは危ないし、二人で良いんじゃないか?」

 

「そ、そうだよね! 一人だけじゃオバケが出た時危ないよね!」

「いや、出ないから脅かし役を決めるんだって」

 

 そこへ、このみが口元に意地悪な笑みを浮かべ、ひと言。

 

「でもさ、小鞠ちゃんは良いの?こんな暗い中でよっくんと二人きりになっても?」

 

 その言葉で小鞠はカチンと固まり、よしおをじっ……と見つめる。そして震えながらこのみの背後に隠れた。

 

「や……、やっぱり私脅かし役やめる……」

「なんでさ!?」

「日頃の行いでしょう?」

 よしおは納得できずに叫び、このみは鼻を鳴らして笑う。一穂も震える小鞠を見ながら両手をぱんと合わせて

「計らずも涼しくなれたようで何よりだねぇ」と暢気な感想を漏らした。

 

 こうして、脅かし役はよしおに決定。

 彼は夏海から仕掛けが入った段ボールと、十五分後に鳴るタイマーを受け取ると、一人、暗い神社の階段を上っていった。

 

 その後、夏海は神社へ向かう順番を決める数字入りのくじを取り出し、皆に引かせた。結果は――

 

 1 卓

 2 蛍

 3 小鞠

 4 れんげ

 5 このみ

 6 夏海

 

 薄暗い鳥居の前、静かな夜の空気が、じわりと不気味さを孕み始めていた。

 

 

 

 

 

 

 境内には、夜の湿った空気と凪いだ静寂が満ちていた。

 遠くの虫の声だけが、か細く耳を打つ。

 本殿前の灯籠の明かりは心許なく、逆に周囲の闇を濃くしていた。

 

 ――さすが夜の神社。想像していた以上に、心細いな。

 

 肝試しの脅かし役に任命されたオレは主催者から押し付けられた段ボール箱を、境内のど真ん中でそっと開けた。

 中に入っていたのは、白いシーツ。真ん中の上あたりに、黒い丸が二つだけ描かれている。たぶん――目、なのだろう。

 

「これを被って脅かせって事か? 絵にかいたようなオバケになりそうだ」

 苦笑しながらシーツを取り出し、広げて頭から被る。

 その瞬間――

 

「あれ? 何も見えん……?」

 視界は漆黒。完全に何も見えない。前も足元も、手を伸ばしても自分の指すら見えなかった。慌ててシーツをめくり、黒い丸の部分を指先で触って確かめる。

 

 ……ただのマジックペンの跡だった。

 

「これ……、マジックで黒い丸を書いただけじゃねーか!!」

 深夜の境内に、孤独なツッコミが虚しく響き渡った。

 夜の神社は、声がやたら反響する。

 

「くそっ……、この辺に枝とか落ちてっかな……?」

 焦りながら境内の外の茂みに駆け寄り、手探りでちょうど良い枝を拾う。

 月明かりの細い光が枝先を照らし、黒丸の中心へ力を込めて――

 

 ――ビリッ。

 

 雑な作業だが、なんとか視界確保成功。タイマーを見ると、残りはもう三分を切っていた。

 

 そこでふと、嫌な予感がしてくる。

 

「……これ、もしかして、なっちゃんの布団のシーツか……?」

 

 

 もしそうなら――

 毎晩、彼女の体温と……寝汗と……色々と、こう……

 直接、触れていたわけで――

 

 

「……って変態じゃあるまいし!んな事考えるか!!(少し考えたが……)そうじゃなくて……!」

 頭を振って仕切り直し。

「やべぇ……、こんな穴開けちまって……、雪子おばさんに怒られちゃう!どうしよう……!」

 

 真夜中の神社で、独り漫才のように慌てる。

 だが、冷静になれ、シーツに落書きをして使わせたのは、なっちゃんだ。

 怒られるのは自分じゃない……はず、……多分。

 

「マジックで落書きしてる時点で悪いのは、なっちゃんの方だよな。……多分、恐らく、メイビー……」

 精一杯自分に言い聞かせながら、穴の空いたシーツをもう一度頭から被る。

 小さな隙間から、月明かりが細く差し込んだ。

 

「うし、問題なく見えるぞ!」

 

 ――ピピピピピッ!!

 

 突然、手元のタイマーが鋭い音を立てた。

 

「あ、やべっ!時間切れっ!」

 

 心臓が跳ね上がり、思わず駆け出す。本殿横の茂みに身を滑り込ませ、息を殺した。

 

 夏の夜風がシーツの裾をそっと揺らす。

 木々が擦れ合う音と、遠くから階段を登る足音が静かに近づいてくる。

 

 ――いよいよ、最初の獲物が来る。俺は暗闇の中、息を潜めたままじっと待ち構えた。

 

 

 

 それから少し後の事だった。

 鳥居の向こう、薄暗い参道の闇を割るように、眼鏡のレンズが灯りを反射した。

 

 ――来た。

 

 境内へ入ってくるのは、越谷卓。

 月明かりの下で無駄に姿勢が整った、無口な幼馴染だ。

 

(一番手は卓か……、準備も碌に出来なかったけど……、やってやるさ……)

 

 握った拳に力を込める。肝試しの一番手が奴なら、練習代わりにはちょうどいい――

 そう思った矢先だった。

 

 卓は本殿の賽銭箱へ向かうはずの道をスルーして、まっすぐオレが隠れている茂みへ一直線。

 

「な!?」

 

 次の瞬間、茂みの影から引きずり出されるようにオレの頭へ軽くチョップが飛んできた。卓は無言のまま、口角だけを少し吊り上げる。

 

 "バレバレなのに隠れた気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ"とでも言いたげだ。

 

「くそったれがぁっ!」

 

 男同士だからこそ、遠慮なく汚い言葉が口をつく。女の子達の前じゃ絶対に言えないやつ。だが、今はそんな余裕なんてなかった。

 

「何だって!? 本殿の灯りで丸見えだったって!? 知るか! こちとら下見の時間すら満足に取れなかったんだ!」

 

 次々と悪態が飛び出てくるオレに対して、卓は一切口を開かない。

 ただ静かに手招きをして、本殿の方へ歩いていく。

 卓は、本殿正面にある賽銭箱の縁に五円玉をそっと置き、そこから隣の小階段を二、三段上る。

 そして本殿のふすまを静かにスライドさせて開けた。

 

「あれ? そこ開いてんのか? 不用心だな。いや、奥の扉には鍵が掛かってるし、いいのか……」

 

 建物の構造なんて全く把握していなかったオレは、卓に誘われるまま小階段を上る。

 中は薄暗いが、思っていたより広く、影になる場所も多い。

 

「お、ここなら隠れられるな……、でも外の様子は見えないし、身体を乗り出したら結局バレるんじゃ……」

 

 そこで卓が、ふすまの網目ガラスが割れた一区画を指さした。

 

「え? ここから外の様子が分かるって? どれどれ……お!」

 

 裏から網目を覗き込むと、境内全体が見渡せた。中継地点である賽銭箱の位置から目と鼻の先にある場所。そんな好立地で完全に身を隠せる所が見つかった。

 茂みに潜んでいたさっきとは比べものにならない最高の位置取り。

 

「前もってオレ一人通れる隙間を開けておけば、ふすまを開ける音を出さずに外に出られる……! 階段を下りる音は……、お、そーっと動けば音をたてずに降りられる……!」

 

 次々と問題が解決していく。脳内に驚かせる方法が次々と一気に思いついていく。

 さすが卓。頼りになる。お前には、借りを作りっぱなしだな。

 

 オレは右手を出してサムズアップをした。卓も無表情のまま、静かに親指を立てて答えた。それだけで十分通じる。こいつとはそういう関係だ。

 

 一番手が卓で良かった。これは不幸中の幸い――いや、オレにとっては神の采配と言っても過言ではなかった。

 

 

 

 

 

 

(暗くて足元が良く見えないや……)

 

 私はそっと足元を照らす灯籠の明かりを頼りに、石段を一段ずつ確かめながら登っていった。

 一番手の越谷卓先輩が戻ってきて、次は私――。一条蛍の番だ。

 

 階段を登りきって境内へ出た途端、朝とは全く違う、冷たい空気が頬を撫でた。

 夏休みに入ってからは毎朝ラジオ体操をしている、あの見慣れた広場が、今は黒く沈んで、別世界みたいに不気味に感じる。

 

 正面、本殿。鈴を鳴らすための絞め縄が、風もないのにわずかに揺れて見えた。

 そしてその下に置かれた賽銭箱――中継地点。ここに五円玉を置いて戻る。それが今回の肝試しの目標。

 

 私は迷わず賽銭箱へ向かう。卓先輩の物であろう。一枚の五円玉がすでに置かれていた。その隣へ、自分の五円玉を静かに置く。

 

「よし、後は帰るだけ……」

 口に出してみると、ほんの少しだけ気持ちが楽になる。けれど気は抜けない。

 脅かし役――富士宮よしお先輩の気配がまるでない。もし私が脅かす側なら、今、この安心した瞬間を狙うだろう。

 

 そう思い至った私はゆっくりと辺りを見渡す。

 本殿の屋根下には境内を照らす灯り。茂みは外周にしかなく、あそこで隠れられるだろうか……。賽銭箱の裏は無理。小鞠先輩やれんちゃんでもあんな低さじゃ隠れられない。

 

(あれ? あそこの扉、少し開いてる……?)

 本殿正面のふすまが、ほんの数センチ開いているのが目に入った。

 まさか、そこに……?

 

 好奇心に背中を押されるように、私はそっと近づいた。

 息を潜め、指先でそっとふすまを開いて覗き込む。

 

 中にあるのは、白い布。

 神社の器材を埃から守るために掛けてあるものだろうけど――

 よしお先輩らしき影はない。

 

「ここにはいないのかな……?」

 そう呟き、階段を下りようと足を向けた、その瞬間。

 

 ――背後から、強い腕が肩を抱いた。

 

 

「わあ!!」

「きゃっ!?」

 野太い叫び声と、思わず漏れた自分の悲鳴が境内に響いた。

 

「蛍ちゃん、どう?驚いた?」

「その声…、よしお先輩ですか……?」

 目の前には先程の白い布ーーよく見ると黒い点が二つ目の様についた布。

 その中から、いつもの教室で毎日聞く声が返ってくる。布が外され、よしお先輩の優しい笑顔が現れた。

 さっきまで話をしていた。姉であるこのみさんに良く似ている柔らかい笑み。

 

「脅かし役、成功したみたいで良かった」

「はい、ビックリしました……。とても……」

 足がまだ少し震えている。でも、嫌な感覚じゃない。

 白い布――神社の布だと思っていたそれを、よしお先輩が自分で被っていたんだ。

 

「蛍ちゃんが本殿の階段を上った時は焦ったけど、上手く誤魔化せたみたいで良かった良かった」

 自分で茶化すように言っているけれど、その表情には焦った影はまるで見えない。

 きっと、ふすまの裏を覗かれることだって全部想定していたのだろう。

 この人は、三枚目を演じているけれど――

 いつも周りを見ていて、誰かのために動ける人だ。

 

 分校に来たばかりで馴染めなかった頃、自分を下げてでも私を助けてくれた事を、私は覚えている。

 

「そうですね……、ふすまが開いてるのは賽銭箱の前に立ったら目につきますから、少し気になりました」

「そうだよなぁ……、やっぱりそこがネックになるわなぁ……何かいい方法あるかな?」

「灯りの位置を変えて目立たなくしたり出来ますでしょうか……?」

「お、なるほどね。今はオレ達以外いないから、後で元に戻しておけば灯りの向きを変える事も出来るな!」

 そう言って、よしお先輩はにこっと笑い、本殿の柱に足を掛けて照明をいじり始めた。

 

「ありがとう蛍ちゃん。お礼に次の人の悲鳴を聞かせてあげる!」

「何か悪役みたいなセリフですね……」

 そのおどけて話す横顔を見て、思わず私はクスっと笑ってしまった。

 ――なんだかんだで、やっぱりこの先輩、好きだな。"尊敬"という意味で。

 

 

 

 

 

 

 ……わ、私の番だ。

 

 三番手、越谷小鞠。肝試しなんて、ほんとは怖いのは大の苦手なのに……

 このちゃん*1に乗せられて、脅かし役をよっくんに譲っちゃったけど――

 

「ううう……、やっぱり私が脅かし役になるべきだったかな……」

 

 階段を上りながら、胸がぎゅっと縮こまる。

 後ろの暗闇が背中をつかんでくる気がして何度も振り向いた。

 どっちにしても怖いなんて……そんなの、言えるわけがない。

 

 ようやく境内の広場に辿り着く。夜の神社は、朝とはまるで違う。

 空気はひんやりして、灯籠の明かりがやけに頼りなく見える。

 あそこの賽銭箱が中継地点――二枚並んだ五円玉。きっとお兄ちゃんと蛍の物だ。

 

「あそこにコレを置けばいいんだよね……」

 震える指先で、そっと自分の五円玉を並べる。金属の触れる乾いた音が、やけに耳に残った。

 

「これで後は帰るだけか……なーんだ、案外楽勝じゃん……」

 そう言いながら振り返った瞬間だった。

 

 ――カーンッ!

 

 突如、鐘が激しく鳴り響いた。

 

「ひいっ!」

 心臓が凍る。

 喉が勝手に悲鳴を漏らした。

 何、何、何!? 誰かいるの!?本当にいるの!?

 

 視界の端で、鐘が揺れているのが見えた。誰かが鳴らしたんだ。そうとしか思えない。

 

「よ……、よっくん、そこにいるのん……?」

 

 声が震えて情けない。返事は、ない。しめ縄の方に近づくけど、そこには誰もいない。

 灯籠の光に照らされた境内は見通しが良すぎて、隠れる場所なんてどこにも――

 そうだ、脅かし役なんだから近くにいるはずなんだ。絶対。

 

「あ、あれ……脅かし役だから何処かにいるんだよね……」

 本殿のふすまは"きっちり閉まっている"。

 鍵だってかかってるはず。

 隠れようとしたら絶対気づくはずなのに――いない。どこにも、いない。

 

 胸の奥がぞわっと冷たくなる。

 

「なんで……どうして鳴ったのん? 鐘鳴らしたの誰……?」

 

 声が震えて、涙がにじむ。動揺したせいで、つい“なまり”が出てしまった。

 

 その時――

 

 ニャア――

 

 黒い影が灯籠の下に座っていて、猫が鳴いた。その声に思わず体が跳ねた。

 

「黒猫……?猫は好きだけど……、ウチ、分かってるん……」

 これは、怪談とかでよくあるやつだ。

 黒猫が出る時は、ろくなことにならない。怖いけど、怖いけど――落ち着いて対処しなきゃ。

 

「鐘を鳴らしたの、お前だろ!」

「お前! 化け猫だろ!」

 勢いで指をさした瞬間――

 

 フシャーッ!

 

 猫が大きく威嚇した。その音が鉄の爪みたいに背筋を引っかいたように感じた。

 

「ひ、ひゃああああ!ごごご、ごめんなさいぃ!」

 涙目で後ずさる。足がもつれて転びそうになって――

 

 その瞬間、本殿のふすまが突然開いた。

 更に白い布が、闇から突然飛んでくる。

 

「きゃあああ、何!? 暗いのん!? 誰か助けて! 暗いのぉん!!」

 

 飛んできた布が体に巻き付く。息ができない。視界全部が白くて、もう無理、もうダメ。

 

「えっと……」

 誰かの声がした気がする。

 

「いやあああああああ!!」

 手を振り回す。何かに当たった。ぐしゃっと嫌な感触。

 

「ぐふうぅっ!!!」

 どこか聞き覚えのある声。でも考えてる余裕なんてない。

 

「助けてぇ!!悪霊退散!悪霊退散!」

 もう怖くて、頭が真っ白で、とにかく逃げるしかなかった。

 境内を転がるように走って、階段を駆け降りた。

 

 

 

 

 

 

 よしおは茂みの中で、小鞠が全力で逃げていった階段の方を見つめながら、頭を押さえてしゃがみ込んでいた。

 額のあたりがずきずきと痛む。暴れた小鞠の拳がクリーンヒットしていた。

 

「痛てて……、少しやり過ぎたか……? 悪い事したかな? 階段から落ちてないといいけど……」

 

 思わず漏れた弱々しい声。やり切った爽快感より、申し訳なさの方が胸にのしかかっている。

 そもそも自分がしたことといえば――覗き口の隙間から慎重に石を投げて、鐘に当てただけだった。

 

 しかし、小鞠は予想以上の反応を見せた。突如現れた猫に向かって「化け猫だろ!」と言いだしたあたりで、完全に計画が狂った。

 よしおは鐘で気を引きつけた後、本殿裏の別出口から回り込み、背後を取って驚かせるつもりでいた。

 その為、息を潜めてゆっくり移動していたが――

 

(マジかよ……猫に全部持ってかれてるじゃねーか!)

 

 あのとき小鞠が猫に意識を奪われていたせいで、気配も足音も気づかれるどころか、存在すら忘れられているようだった。

 そこでよしおは、瞬時に作戦を切り替えた。得意のアドリブ力を発揮して、本殿のふすまを大きく音を立てながら開けて、真正面から一気に距離を詰めた。

 

 思わず後ずさる小鞠に、勢いよく飛び込みながら、

 自分の身体を包んでいた白いシーツを大きく広げ、そのまま彼女を包み込むように被せたのだ。

 

 ――結果は予想以上だった。

 

 叫び声をあげた小鞠の手が、勢いよく至近距離にいたよしおの額にヒット。

 布越しで見えないまま振り回された拳は容赦がなく、脅かし役であるはずのよしおが逆に悲鳴を飲み込むほどの衝撃だった。

 

 泣き叫びながら駆け出していく小鞠の背中を見ながら、

 よしおはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

 

(……やべえ。マジ泣きだったな。何か罪悪感が……)

 

 反省の色が濃く浮かぶ表情で、よしおは深くため息をつく。

 しかし、結果だけを見れば――小鞠を驚かせるという目的は達成できた。

 

 問題は、残りの面子だ。

 

 夏海、れんげ、そして姉このみ。

 夏海は主催者だし、仕掛けであるシーツを用意した張本人だから、蛍、小鞠に使ったシーツに隠れての奇襲は通じない。

 このみは普通に驚きそうでもあるが、逆に看破して反撃してきそうな底知れなさもあって、予測が立てられない。

 れんげに至ってはそもそもどういった反応が返ってくるか想像も出来ない。

 

 よしおは痛む額を押さえながら、本殿のふすまの裏へと静かに向かっていった。

 

 三人が終わり残り三人の折り返し地点。戦いは、難敵ぞろいの後半戦に入った。

*1
このみの事、よしおの存在で原作以上に付き合いが長くて深い為、あだ名で呼んでいる。




肝試し。思いつきでよしおを脅かし役にしてしまったおかげでまだ半分残ってるという……。
そして割と作者も予想が難しくて後回しにした三人。
残りの三人も各々の一人称視点で進めるか、開き直って全部三人称でまとめるかは特に決めてません。
どちらも自分で書くのは楽しいけど、読者が楽しめるかは別物というから迷いますね。
なのでアンケート機能の実験も兼ねて多数決してみる事にします。
どの項目にも一票も入らなかったらどうするかって?
PCの前に座った時の気分で決めます。


12/11アンケートは締め切ります。

肝試しの後半の話。視点はどれが良いですか? 締切は12/11。朝から昼頃。私が執筆を開始するまでにします。 一票も入らなかったら書き始める時の気分で決めます。

  • 1.れんげ、夏海、このみの一人称で
  • 2.全て三人称で
  • 3.全てよしお視点の一人称で
  • 4.何でも良い。作者の気分で
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