のんのんびより ― ある田舎男子の日常 ― 【ばけーしょん編更新中】   作:NIZI

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肝試し後半です。いろんな意味で難産でした。

前回アンケートにご回答いただいた方にお礼申し上げます。
正直な所、一票も入らない覚悟でいましたので、拙作を読んでいる方がいる事が知れて大きな励みになりました。
書き始めた段階で、3.よしお視点一人称と4.作者の気分で良い。が同数だったので、神社の境内部分をよしお視点一人称で、階段下の待機所を三人称でかき分けてます。




第8話 おばけになってがんばった(後編)

 日和神社へ続く階段下の広場。

 この場には引率の一穂を含む、脅かし役のよしお以外の参加者全員が集まっていた。

 

「ううう……、良かった……、みんなここにいた……」

 

 さっき挑戦を終えたばかりの小鞠が、ほとんど転がる勢いで階段を駆け下りてきた所だった。

 肩で息をしながら、涙目でこのみの元にしがみつく。

 

「よっくんは、ちゃんと脅かし役やってるみたいで何よりだね!」

 夏海は姉のリアクションを見て満足そうに口元をゆるませた。

 このみは優しく小鞠の背中を撫でている。

 

「小鞠ちゃん、大丈夫? 何があったの……?」

「うう……このちゃん、あのね……」

 小鞠が、恐怖体験を語ろうとしたその瞬間――

 

「ストーップ! ネタバレは禁止です!」

 夏海が小鞠の前に割り込む。

 

「ほら、このちゃんはまだ終わってないんだから! こっちこっち!」

「あ、ちょっと……なっちゃん!?」

 このみは二つの心配――“小鞠ちゃん大丈夫かな”と“よっくん何してるの”――の狭間で揺れながら、夏海に押されてその場を離れていった。

 

(ウチの番は最後だけど、どうしよっかなー? 逆に驚かせるのもいいかも!)

 夏海がこのみの身体を押しながらイタズラっぽい顔をしていると。

 

「じゃあ次、ウチの番!」

 れんげは胸を張り、大きく息をした。

 小さい身体に似合わない頼もしい声でそう宣言すると、石段をのぼり始める。

 

「れんげは怖くないのかな……」

 小鞠が心配そうに呟く。

 

 ――その時だった。

 

「おばけ♪ おどろけ♪ おそろしげ〜♪

 おまけで おにでて おそろしげ〜♪」

 

 階段の半分ほどの地点で、れんげは突然歌いだした。よく通る声が夜気に溶け、境内の空気を一気に和ませる。

 

「あ、歌いだした」

「なんか楽しそうですね」

「れんちょんなりに満喫してるねぇ」

 一同は自然と笑みを浮かべた。

 

 れんげは気分が乗ると、その場の空気に合わせて歌を作ってしまうことがある。

 どうやら今回の肝試しも、れんげにとっては“ちょっとした冒険”くらいの感覚らしい。

 

 夜の石段を上る小さな背中は、怖がる気配などまるでなく、わくわくした子どもそのものだった。

 

 

 

 

 

 

「っし、とりあえず痛みは引いてきたな……次は誰だ?」

 

 さっき小鞠ちゃんの左ストレートをもらった額を触る。腫れてない。よかった。

 そろそろ次の参加者が来るだろうし、準備しないと。

 

 オレは本殿の襖の裏へ身を潜めて、正面の戸を閉める。照明もずらして死角を作り、横のふすまをそっと開けた。

 

「おどけ♪ おちょろけ♪ おっぴろげ〜♪」

 

 独特のメロディと、なんとも言えない歌詞。姿を見せたのは最年少にして最も底知れない宮内れんげ。

 

「おじさん♪ おそろい♪ おっぴろげ〜♪」

(……歌詞はひどいのに、なんか毎回耳に残るんだよなぁ……)

 

 れんげの歌は、妙に癖になる。

 

「おかげで♪ おにばば♪ おそろしげ〜♪」

 

 そんな調子で歌いながら、れんげは賽銭箱の縁に五円玉をパチッと置いた。その音で我に返る

 

(はっ……! しまった!)

 

 今回の歌、やけに韻を踏んでいたせいで素で聞き入ってしまった……。

 

「脅かし役やらないと……」

 俺はそーっと横の戸から身を出して、段差を下りる。境内の真ん中で、れんげは階段の方へ向かっていた。

 

(よし、気づかれてない。このまま背後から――)

 

 

「ほとけ♪ おいてけ♪ まっしろけ〜♪」

「その歌まだ続きあんのかよ!!」

 

「ハッ!?」

 

 思わずツッコんだせいで、れんげがこちらに振り向いてしまった。やばい。

 

「…………」

「…………」

 

 完全に見てる。シーツかぶって間抜けにつっ立ってる俺をガン見してる。

 

(……どうしよう。ここから驚かす方法あるか?)

 

 

「うらめしや〜、歌の続きを教えろ〜……」

(ないな! もう好きにやろ! とりあえず気になってるから歌聞かせて♪)

 

「わかったのん!」

 れんげは快くOKしてくれて、最初から丁寧に歌い直してくれた。

 

 

 そして――

 

 

「「おばけ、おどろけ、おそろしげ〜♪」」

 

 

 二人で並んで歌っていた。

 さながら “森のくまさん”ならぬ“神社のおばけさん”。

 

 なんだこれ、楽しい。童心に帰るってこういう事なんだろうな。この時ばかりは、肝試しも脅かし役も、富士宮よしおという立場も全部忘れていた。

 歌い終えると、れんげがぺこりと頭を下げた。

 

「ありがとなのん、おばけさん。いい夜でしたん!」

 

 ……胸が、くすぐったい。

 

(……なにこれ。……何かいい話みたいな空気になってんだけど!?)

 

 俺はオバケのまま軽く会釈し、本殿のふすまをギィ、と開けて奥へと戻った。

 れんげはこちらを見ながら大きく手を振っている。その表情は満足そのものだった。

 

 ふすまの裏で、俺は思わず天を仰いだ。

 

(なんか良い雰囲気でれんげと別れてしまった……。何れんげにオバケと一夏の思い出作らせてんだよ!)

 

 と、その時一つの考えが浮かんだ。

 

(……でも“オバケ”を“幽霊”に置き換えたら、ちょっとロマンチックかも……? アリか……?)

 

「いや、ねぇよ!! 何考えてんだオレ!!」

 

 自分で思って自分で思い直した。

 境内に、オレのツッコミだけが虚しく響いた。

 

 

 

 

 

 

 れんげとの感動の別れ(よしおの主観)から少し時間が経った後。

 ふすまの裏から境内を覗くと、次の挑戦者が見えた。

 姉――富士宮このみである。

 

「次は姉ちゃんか……。ここまでで“コツ”は掴んだ。絶対成功させるぞ」

 成功も失敗もあったが、結局“動かずに音で驚かす作戦”が一番安定している。

 オレは前もって本殿奥のふすまの裏に潜り込み、網目の小さい穴から外の様子を見た。

 

「何もないまま賽銭箱についちゃったな……」

 姉ちゃんは五円玉を置くと、しばらくきょろきょろしてから本殿に背を向けた。階段の方へ歩いていく。

 

(よし、今だ!)

 

 れんげの時よりも移動は最小限で済ませる。

 そっと身を乗り出して狙いをつけ――石を投げる。

 

――カーーンッ!

 

「あれ? 鐘が鳴った? よっくん、そこにいるの?」

 

 小鞠ちゃんの時と同じパターン。今回は黒猫が出るというハプニングもなく、狙い通り気を引く事に成功。

 

 と、姉ちゃんはこちらに近づいてくる。

 照明の死角とはいえ、近づかれれば、戸が開いてる場所がバレる。

 

 ならば――。

 

 ――バターン!!

 

「ッ!! 向こう!?」

 

 このパターンを想定して、近くの戸を押し倒して音による急襲戦法へ即切り替えた。

 姉ちゃんは驚いた様子だけど悲鳴までは行かない。

 

(よし、畳みかける!)

 

 俺は、近くまで来た姉ちゃんに渾身の“シーツかぶせ”を発動した。

 

「ぶはっ!? なにっ!?」

 

 シーツを顔面めがけてバサァッと被せ、そのまま壁に押しつける。

 視界ゼロの姉ちゃんがシーツの中でもがいて――

 

「よっくんなの!? ちょっと待って……! なにこれ……!? 嫌! ダメッ! そこは……!」

 

 悲鳴じゃなくて混乱。どうやら“見えない状況”がめちゃくちゃ苦手らしい。

 

(このまま押さえ続ければ勝てる……!)

 

 そう思ったのだが。

 

 ―――ガシッ!

 

「あがっ!?」

 

 シーツの向こうから手が伸び、俺の額をガッシリ掴んだ。そのまま逆に床へ叩きつけられる。

 

「その声……、やっぱりよっくんだったかぁ……。流石に焦ったよ、変質者かと思った……」

 

 いやいやいやいや、変質者扱いはやめて!?っていうか頭痛い!めちゃくちゃ痛い!

 

「ねぇ、よっくん……。これと同じ事、私より前の子達にもやらかしてる?」

 

 ……あれ?なんで体が震えてるんだろう?頭の痛みとは別の警報が鳴り響いてる……?

 今、俺の額は姉ちゃん十八番の“アイアンクロー”でしっかりホールドされている。凄く痛い。

 

「いや! 今までの経験と失敗から今回作戦を立てて勝負をかけたんだ……! どう? 驚いた……?」

「うん、すごく怖かったよ。……怖すぎて身の危険を感じたくらい♪」

 オレは現在進行形で身の危険を感じてますが……?

 

「いろんな所……、好き放題触ってくれたわけだけど……何か言う事はある?」

「……まあ暴れてる所を押さえてたから、いくつか触っちゃったかもしれないけど、シーツ越しだったし感触はよく分からなかったかなぁ……? あだだっ!」

 正直に言ったらアイアンクローを強化された。やばい。頭が割れる。

 

「言い残すことはそれだけで良いんだね?」

「すいません許してください!! なんでも……は出来ないけど、もうしませんから!!」

「でもよっくんさ、今まで散々似たような事やらかしてきたよね?

 楓ちゃんとか、ひかげちゃんとか、小鞠ちゃんとか、……私にもさ……」

 

 そう言って陰のある笑顔で、オレの肘の骨の柔らかい部分を掴む姉ちゃん。

 あ……、これ無理だ。父さん母さん、先立つ不孝をお許しください……。

 

 覚悟を決めたその瞬間――

 

 ――ぐりぐりぐりぐりっ!!

 

「あんぎゃああああああああ!!」

 

 いたいいたいいたーい!!!!

 お姉さん許してええええ!!!

 おてて壊れるううううう!!!

 

 そんな断末魔を上げたところで、俺は意識を手放した。

 

 

 

 その頃、神社の階段下では――

 

ギャアアアアアアアアアア!!!!!!!

 

「ひっ! 今度は何!?」

「怪獣なのん?」

「カラスでしょうか?」

「随分野太い鳴き声の動物だねぇ……」

「よっくん気合入ってるな! けどそんな仕掛け用意したっけ?」

(ハァ~~~ッ(クソデカため息))

 

 階段下の面々は、未知の生物の咆哮に六者六様の反応をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――くん……っくん! ……よっくんってば!!

 

 誰かがオレを呼んでいる。まぶたを開けると、心配そうに覗き込んでくる癖毛の幼馴染――越谷夏海の顔があった。

 

「……なっちゃん……?」

「あ、起きた……、どうしたの? こんな所で横になって?」

「……さぁ、何があったのかさっぱり……」

 

 上半身を起こして周りを見ると、俺は賽銭箱の上で横たえられていた。まるで、これから荼毘に付される人みたいに丁寧に置かれた状態で。……いや、何があったのかは覚えているが忘れたい。全力で。

 

 あ、そうだ。

 

「そういえば肝試し――」

「あぁ、ウチで最後だよ。けど流石にここから脅かすも何もないよね」

 なっちゃんは苦笑いした。怒っている感じも、がっかりしている感じもない。

 ただ俺を気遣うみたいに穏やかに笑ってくれている。

 

 ……今夜の肝試し。なんだかんだでいちばん楽しんでいたのは俺かもしれない。

 それもこれも、思いつきで企画してくれたコイツのおかげだ。お礼に最後に何か肝試しのオチとして脅かせるネタは――あ、そうだ。

 

「なっちゃんや、オレが今被ってるこのシーツだけど、これってなっちゃんの布団に使ってる奴?」

「そうだけど、それがどうかした?」

「マジックで黒丸が二つ書かれててさ、目のつもりだったんだろうけど、穴が開いてなかったから何も見えなかったんだよ……」

「そうだったの!? それはゴメン!」

 なっちゃんは頭を下げて心から謝った。本人からしたら予想外の盲点だったらしい。

 

 だが――俺の“最後の仕掛け”はここからだ。

「だから丁度いい穴開けたんだ。ホラ」

 黒丸の少し上。そこそこ目立つ、不格好で無理やりこじ開けた穴。枝で力づくで引き裂いた時の跡が生々しい。

 

「手間かけさせちゃったみたいだね……ゴメン」

 

 ……うん、気づいてないな、これ。

 

「これ、雪子おばさんが洗ってるんでしょ? 黒丸も油性マジックで書かれてるみたいだし。その時果たしてどんな反応が返ってくるのやら……」

 俺が言い終わった瞬間――なっちゃんの顔がスッ……と青くなった。肩が震え、目が泳ぎ、さっきより明らかに冷や汗の量が多い。

 

 ……よし、方向性はちょっと違ったけど、脅かし役としては仕事出来たな。個人的には中々いい締めになったと思う。

 

 

 

 

 

 

 最後は、神社の境内にみんなで集まって、蛍ちゃんが持ってきた花火を楽しんだ。線香花火の“ぱち、ぱち……”という小さな音が、夜の静けさに染みていく。

 

 なっちゃん。小鞠ちゃん、れんげ、蛍ちゃん――

 みんな笑いながら火をつけては嬉しそうに弾むように揺れる光を眺めている。

 水を張ったバケツのそばでは、一穂さんが缶コーヒーを飲み、小鞠ちゃんの出番に紛れ込んだ黒猫の顎を、卓がのんびり撫でていた。

 

 そんな中で、俺は少し離れた場所に座っていた。

 ……いや、“座らされていた”と言った方が正しいかもしれない。横を見ると、腕を組んだ姉ちゃんが、じとりとした目でこっちを見下ろしている。……怖い。火の粉より、心に刺さる。

 

「よっくん。さっきの、まだ覚えてるよね?」

 

 線香花火より静かで、線香花火より怖い声。

 

「……はい。覚えてます。あの……本当にすみませんでした……」

 さっきまで肝試しで散々やらかして、最後は肘へのアイアンクローで天に旅立ちかけた俺だ。花火の炎より先に心が消えそうである。

 すると姉ちゃんは、ふぅ……と少し息を吐いて、オレの隣にしゃがみ込んだ。

 

「別に、もう怒ってはいないよ? ビックリはしたけど。その……心臓に悪かっただけで」

「はい……それは……本当にその……」

「でもね、よっくん」

 

 姉ちゃんは線香花火を一本手に取り、火をつける。小さな光が揺れて―― その光が、姉ちゃんの横顔を照らした。

「怖かったって言ったでしょ? だから……、冗談でも女の子に乱暴するような、あんなやり方はしちゃ駄目だよ」

「……うん。姉ちゃん、本当にごめん……」

 

 素直に頭を下げると、姉ちゃんはちょっとだけ笑った。

「うん、それで良いの。よっくんは悪い子じゃないんだから、変な方向に頑張らないの」

 

 ……姉ちゃんってやっぱ凄い。怒ってるのに優しい所、本当にずるい。

 花火の光が消えると、姉ちゃんはぽん、と俺の肩を軽く叩いた。

 

「よし。反省したみたいだし、今日はもう怒らない。ほら、次の花火やるよ」

 

 その言葉を聞いて、胸の奥がじんわり温かくなる。

 線香花火を受け取って、火をつけると、小さな光が夜空の下で丸く膨らんだ。

 みんなの明るい声が響いてる。なっちゃんの笑い声と、小鞠ちゃんの悲鳴と、れんげのはしゃぎ声と、蛍ちゃんの穏やかな声が混ざり合う。

 俺は静かに火花を眺めながら――ああ、本当に楽しかったな……。そんなふうにしみじみと思った。

 怖いのも、すごく痛いのもあったけれど。それでも心の底から「良かった」と思える夜になった。

 

 こうして、オレの分校生活最後の夏休みは、静かで温かい余韻を残して終わったのだった。




れんちょんの歌が地味に難産でした。藪医者の歌とかカエルの歌とか本当にセンスの塊過ぎてアニメを何度もリピートしながら考えました。cv小岩井ことりさんの歌声は本当に神。
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