崩壊:スターレイル Another branch   作:$ATO

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4章2話「冒険はいつも不時着から」

 

「それでは!これより跳躍を行うぞ!列車各員は席に座って揺れに備えるように!」

 

車掌であるパムの声が列車内に響き渡る。

 

「星さん……三月さんは……一体何をしているのでしょうか?」

 

着席のアナウンスがかかったにも関わらず、頑なにラウンジの中央で仁王立ちを続ける三月なのかを指差し、サンデーは訝しげな表情を浮かべている。

 

「なのは跳躍の揺れに勝ちたいんだって。なの。今のところの勝敗は?」

 

「うーんと……タイキヤンに……ヤリーロⅥに……今のところ0勝5敗かな。でもでも、今回のウチは一味違うよ!オンパロスでの開拓の旅で、とびきり成長したんだから!」

 

丹恒は自分の部屋。ヴェルトと姫子はブラックスワンと一緒にパーティー車両にいるようで、今ラウンジに居るのは自分となの、サンデーの3人だけだ。

 

列車のエンジンが起動し、車内がガタガタという大きな音と共に揺れ始めても、なのは変なポーズで踏ん張っている。あれだ。江戸星の国技とかいう「スモウ」とやらに似ていて、おかしいったらありゃしない。

 

そんななのを眺めながら、私とサンデーはソファに座って寛いでいる。

 

「オンパロスに向かったのは私と丹恒だけだったし、実際に一緒に開拓の旅に出掛けるのは初めてだね。」

 

「そうですね。前回は皆さんにとっても、色々とイレギュラーな部分が多かったのでしょうし……今回はワタシにとって、実質初めての開拓の旅と言っても良いかもしれませんね。」

 

「現地に着いたらまずは食の開拓!ご当地グルメは欠かせないからね。列車組の先輩として、『開拓』の作法をみっちり教えてあげるから。」

 

「ウチも行く!後輩に指導するのは先輩の役目だからね!」

 

「なのは食べたいだけでしょ。」

 

「星だってそうでしょ!」

 

「フフ、お手柔らかにお願いしますね。」

 

広い列車のラウンジに、笑い声が反響する。

そんな風に話しているうちに、とうとう列車が動き始めた。

 

……なんだろう、いつもより揺れが強い気がする。これは、いくら成長したなのと言っても厳しいかもしれない。というか、揺れ過ぎだ。今までにここまでの揺れは経験がない。

 

列車が最高速度に達し、跳躍が開始されると、ガタン!!という大きな音と共に、車内がとても大きく揺れた。

 

「うわあ!!」

 

叫び声を上げながら、なのがバランスを崩す。そして……あろうことか、私の座るソファの方へすっ飛んできた。

 

「ちょっ!?なの!?」

 

避けようとするのも遅く、なのの頭が私の頭に向かってストライク。

 

窓の外に星々が煌めくのが見える。アニメなどの表現で、頭をぶつけた時、星が回っているような描写は良くあるが。本物の星がぐるぐる回っているのは、前代未聞だろう。

 

そんなくだらない思考が脳内をよぎった後、私はばたりと倒れ、目の前は真っ暗になった。

 

「うう……なののバカ……」

 

そう言い残すと、星の意識は、深い水底に沈んでいった。

 

 

※※※※

 

 

睡眠とは、この世で1番心地良い行為だと思う。意識を手放すと、深い海の中を揺蕩っているような気分になる。

 

「きて……起きて……」

 

何者かに肩を揺らされている。なんだ。この至福の時間を邪魔してくるのは何者だ?

 

「起きて!星!」

 

「……はい!」

 

自分の名前を大声で呼ばれ、反射で飛び起きる。うーん……私を起こしたのは誰だろう?なの……丹恒……姫子……?

 

目を開いた先にいたのは、その誰でもなかった。

 

真っ白な空間の中に、見知らぬ女がいる。ふわりとした綺麗な金髪に、その髪に負けないくらい輝く金色の瞳。見知らぬ……知らないはずなのに。自分の口から自然とその名が紡がれる。

 

「ミスティカ……?」

 

「ええ、そうよぉ。約束通り、わたしに逢いに来てくれたのねぇ。」

 

その名前を告げた瞬間、頭の中で数々の光景がフラッシュバックする。そうだ。彼女はミスティカ。私は、彼女とずっと一緒にいたではないか。列車に乗る前。私が開拓の道を歩み始める前、私の道は、常に彼女と共にあった……はずだ。

 

「来てくれて嬉しいわぁ。さ、一緒に行きましょ?また前みたいに、わたしと一緒に暮らすのよぉ。」

 

声を聞く度に、私の心を安心感が包み込む。乾燥機から出したばかりのふわふわのタオルで包まれるような、優しく、暖かい声だ。

 

「うん。私も、嬉しい……」

 

地面に手をつき立ち上がり、彼女に近づき手を伸ばそうとする。

 

しかし、足が動かない。見ると、私の両足に、茨のような物が巻き付いているではないか。

 

「なにこれ……邪魔……!」

 

無理矢理足を引っ張り、茨を引き千切ろうとするが、中々上手く行かない。

 

「この……!やっとミスティカに逢えたのに……!なんで!」

 

一生懸命引っ張っても、茨は千切れるばかりか、どんどん力が強くなっていく。

 

「待って!やめて!」

 

ついには後ろに向かって引き摺られていってしまう。目の前にいるミスティカは、ただただ悲しそうな顔を浮かべるばかりだ。

 

「行ってしまうのぉ?」

 

ミスティカが、今にも泣きそうな顔で問いかける。嫌だ。彼女にそんな顔をさせたくない……!

 

「違う!行きたくない!あなたと……!一緒にいたいのに……!」

 

「悲しいけど、またお別れみたいねぇ。でも、大丈夫よぉ。」

 

そこまで言って、彼女の顔から表情が消えた。

 

「またすぐに逢えるわぁ。」

 

そう言う彼女の瞳は、それまでとは一転、氷のように冷たかった。背筋がゾクリと寒くなり、金縛りにあったように動けなくなる。こちらに背を向け立ち去る彼女に、もはや一言も声をかけることはできなかった。

 

足を縛る茨はより強さを増し、空から落下するようなスピードで引っ張られていく。そしてそのまま、真っ暗な闇の中に、堕ちた。

 

怖い……怖い……!最後のミスティカの表情も、当たり一面を飲み込む暗闇も!落ちていく自分の行く末も!

 

じたばたと手足を振り回してみるも、空を切るのみだ。

 

「嫌だっ!やめて!助けてえ!誰か!」

 

誰もいない。誰もいない。ここには一人。私は一人。昔はそうではなかったのに。逢いたい。逢いたい……!

 

「……さ……さん……!」

 

茨の先から、微かな声が聞こえてくる。

 

「星……きて……起きてよ!星!」

 

「起きてください!星さん!」

 

そこまで聞こえて、自分がうなされていたことにようやく気がついた。

 

「え……?あ、私……夢……?」

 

「ああ、目覚めましたか。随分うなされているようだったので。悪い夢でも見たのでしょうか?」

 

見ると、サンデーの茨が手足を縛っていた。私が目を覚ましたのを確認すると、茨はすぅっと透明になり、消えていく。

 

「まったく!星ったら急に暴れ出すんだから!びっくりしちゃったよ!」

 

なのは私が暴れている間も、手を握っていてくれたようだ。

 

「ごめん……悪い夢でも見てたみたい。内容は思い出せないけど。」

 

昨日の朝と同じだ。何か特別な夢を見た気がするのに、中身は靄がかかったように思い出すことができない。

 

確か、発車の衝撃でなのとぶつかって、それから……。そこまで考えて、強い違和感を覚える。

 

「ちょっと待って。ここは一体どこ?」

 

自分が気を失った時、ラウンジのソファに座っていたはずだ。なのに自分は今ベッドに寝かされているし、このベッドは明らかに列車のものではない。

 

サンデーを見つめると、彼は俯きながら答えた。

 

「起きがけに申し訳ないのですが……緊急事態です。列車は跳躍を終えた後、クリムトの港に着陸しようとしたのですが……謎の光帯に襲われ、気づいたらこの場所にいました。それ以外のことは、まだ何も……」

 

オンパロスの時もそうだったじゃないか。2回連続で不時着だなんて、疫病神でも憑いているのかもしれない。

 

スマホの時計は1時を指している、跳躍開始時刻が9時くらいだったので、大体4時間が経過したようだ。窓の外からは光が差し込んでいるので、時間は昼で間違いない。

 

「ウチらも今気がついたばかりなんだ。そしたら急に星がうなされ始めたから、なんとか起こして……ってところだね。」

 

3人とも気を失っていたということか。

 

「列車組の皆に連絡は取れる?」

 

「今やっています……駄目ですね。そもそも電波が届いていないようです。」

 

「とりあえず、外に出て辺りを観察するべきじゃない?ここに居たって何も始まらないし。」

 

「星さんの言う通りですね。しかし、ここは民家のようですが、住民の方はいらっしゃらないのでしょうか?」

 

そう言われればそうだ。自分達はここに寝かされていたのだから、誰かが運んできてくれたのでなければおかしい。

 

「誰かが助けてくれたならお礼を言わなくちゃ!ウチ、家の中を探してくるね。」

 

なのはそう告げると、部屋の扉を開け、廊下へと出ていった。

 

「全く……今回の旅も、順風満帆とは言えない滑り出しのようですね。」

 

「波乱万丈も開拓の旅の醍醐味だよ。これも楽しめるくらいじゃなきゃ、一人前とは言えないね。」

 

私は強がって見せるが、内心不安なのはサンデーにも見抜かれているだろう。

 

「ところで、その『光帯』ってなんなんだろう?」

 

私はサンデーに問いかける。何者かの攻撃を受けたのは間違いないのだろうが、クリムトからの攻撃……?それとも、何か別の……?

 

「すみません……。あの光帯が一体なんなのか、というのはワタシにはわかりません。しかし、あの光はクリムトの港の方向から発されていたように見えました。」

 

港から、ということは、クリムトの側からの攻撃だと推測できる……のか?

 

「港に人はいたの?」

 

「ええ、外から見るに、港自体は稼働しているように思えました。明かりもついていましたしね。しかし、出入りする船は一つもありませんでしたから、異様な雰囲気でしたが。」

 

「連絡は取れないのに、港は動いてるんだ。」

 

ますますわからない。外側からの通信が遮断されているのに、港は動いている。やはり、自分たちの目で状況を確かめる必要がありそうだ。

 

「ちょっと!星!サンデー!早く来て!」

 

階下からなのの声が聞こえた。が、かなり焦っているような声音だ。

 

「三月さん!なにかあったのですか!?」

 

「いいから早く!バケモノに襲われてる!」

 

なのの叫び声が聞こえると共に、ガタンガタンと家具が倒れる音がする。それに、バケモノだって?私とサンデーは一目散に階下へと向かう。

 

階段を降りると、かなり広々としたリビングが目に入ってきた。その中で、弓を手にしたなのと、文字通りの『バケモノ』が対峙している。

 

一見すると人のような形をしているのだが、似ているのはその形だけだ。現代アートの彫刻をねじったような体躯は2メートル程の大きさで、とても生物とは思えない極彩色で構成されている。顔は存在せず、本来あるべきところには、極彩色の渦がぐるぐると渦巻いている。その腕は刃物のように尖っており、斬りつけられれば怪我では済まないだろう。

 

「三月さん!」

 

なのに斬りかかろうとしたバケモノに、サンデーが放った茨が巻き付いた。

 

「これでも、喰らえっ!」

 

動けなくなったバケモノに対して、全力のスイングを叩き込む。吹き飛んだバケモノは、壁に激突し、動かなくなった。

 

「ありがとう〜!助かったよ。ウチがリビングに入った時、急に後ろから襲ってきたんだ。」

 

なのは礼を言うと、吹き飛んで動かなくなったバケモノを見つめる。渦を巻いていたバケモノの顔も、同じように動かなくなっている。

 

「このような生物は見たことがありませんね。この星特有の生物なのでしょうか、……待ってください!まだ動いています!」

 

サンデーがバケモノに近づくと、止まっていたバケモノの脚がビクンと動き、何事もなかったかのように起き上がった。

 

「もう一度喰らいたいみたいだ……ねっ!」

 

すかさず渾身の一撃をぶち込む。銀河打者のバットを受けて、立ち上がれる者はいない。はずなのに。

 

再び壁に打ち付けられたバケモノは、またもやけろりとした様子で起き上がる。

 

「こいつ……無敵なの!?」

 

斬りかかってくるバケモノの腕を、バットで受け止める。

 

「星さん、三月さん、一度この家から出たほうが良いでしょう。得体のしれない相手と戦うのは危険です!」

 

サンデーに手を引かれ、3人でリビングを出る。なのが去り際に扉を氷漬けにしたおかげで、バケモノの足止めは出来たようだ。

 

玄関から外に出ると、そこには不気味な街並みが広がっていた。

 

異様なのだ。高層のビルが建っていると思えば、隣には木製の小屋が建っている。さらにその隣にはまたビルがあり。その隣にはコンクリート製の民家がある……といったように、極めてアンバランスだ。そして何より、人間が一人も見当たらない。所々見えるのは……たった今、家で対峙していたバケモノのみである。

 

「ちょっと、あのバケモノだらけじゃん!早く、どこかに隠れなきゃ!」

 

なのがそう言いきる前に、民家から出てきた私たちに、バケモノ達の視線……あの渦巻く極彩色が向けられる。

 

「不味いですね……倒しても蘇生するとなれば、逃げるしか手がありません。しかし、どこへ逃げればいいやら……!」

 

バケモノ達がジリジリと近づいてくる。数体に対してなのが弓を放つが、倒れたそばから起き上がって来るようで、まるで効果がないようだ。

 

「私が道を切り開くから、真っ直ぐ走って!」

 

目の前のバケモノ2体をバットで薙ぎ払うと、先行する2人を追って全力で走る。が、しかし、不気味な街並みをどれだけ進んでも、あらゆる路地から新たなバケモノが湧いて出てくる。

 

「はぁっ……はぁっ……ちょっと、ウチ、厳しいかも……」

 

息を切らしたなのが路地の壁に倒れ込む。

しばらくの間逃げ続けていたが、同じような風景が続くばかりだった。どうせこれ以上進もうと、出口があるようには思えない。

 

「星さん!危ない!」

 

サンデーの呼びかけに振り返ると、いつの間にかバケモノに後ろを取られており、鋭利な腕を振り上げていた。

 

「うっ!?」

 

咄嗟にバットを構えようとするが……間に合わない!

思わず目を瞑ると、ダン!!という大きな音が鳴り響いた。

 

目を開くと、バケモノの横っ腹に大きな穴が開いている。

 

「ハハハ!『神秘』なぞに惑わされるなよ諸君!眼前の真実を暴くがいい!」

 

バケモノの腹を撃ち抜いたのは、奇妙な格好をした男だった。ディアストーカーを被り、インバネスコートを羽織っている。端的に言うと、某名探偵のほうな格好だ。

 

「助かった!ありがとう。」

 

道の向かいに立つ男に声をかけるが、男は自信に満ちた表情を崩さないまま、今まさに腹の穴が塞がりつつあるバケモノを指刺す。

 

「そいつはただのヴォイドレンジャーさ。ちょいと『神秘』の力を借りちゃいるがな。」

 

男はリボルバーのハンマーを落とし、バケモノに向かって構える。

 

「『知恵』の行人たるこのオレが、貴様の真実を看破してやる。『貴様の正体はただのヴォイドレンジャーだ』不死身の生物なんかじゃねぇよ。」

 

男がそう告げると共に、リボルバーに向かって光が集まっていく。

 

「さ、消えな。」

 

男が引き金を引くと、輝く光の弾丸がバケモノの体を貫く。すると、弾丸を受けた点から段々とヒビが広がり、その体は砕け散った。そしてそこに残ったのは、今までに何度も戦った壊滅の造物、ヴォイドレンジャーの残骸だった。

 

「オレの名はシェリング。この街で探偵をやっている者だ。よろしくな、星穹列車御一行さん?」

 

シェリングと名乗った男は、銃口から立ち上る煙をフッと吹き、不敵に笑った。

 




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