崩壊:スターレイル Another branch 作:$ATO
「それでは!これより跳躍を行うぞ!列車各員は席に座って揺れに備えるように!」
車掌であるパムの声が列車内に響き渡る。
「星さん……三月さんは……一体何をしているのでしょうか?」
着席のアナウンスがかかったにも関わらず、頑なにラウンジの中央で仁王立ちを続ける三月なのかを指差し、サンデーは訝しげな表情を浮かべている。
「なのは跳躍の揺れに勝ちたいんだって。なの。今のところの勝敗は?」
「うーんと……タイキヤンに……ヤリーロⅥに……今のところ0勝5敗かな。でもでも、今回のウチは一味違うよ!オンパロスでの開拓の旅で、とびきり成長したんだから!」
丹恒は自分の部屋。ヴェルトと姫子はブラックスワンと一緒にパーティー車両にいるようで、今ラウンジに居るのは自分となの、サンデーの3人だけだ。
列車のエンジンが起動し、車内がガタガタという大きな音と共に揺れ始めても、なのは変なポーズで踏ん張っている。あれだ。江戸星の国技とかいう「スモウ」とやらに似ていて、おかしいったらありゃしない。
そんななのを眺めながら、私とサンデーはソファに座って寛いでいる。
「オンパロスに向かったのは私と丹恒だけだったし、実際に一緒に開拓の旅に出掛けるのは初めてだね。」
「そうですね。前回は皆さんにとっても、色々とイレギュラーな部分が多かったのでしょうし……今回はワタシにとって、実質初めての開拓の旅と言っても良いかもしれませんね。」
「現地に着いたらまずは食の開拓!ご当地グルメは欠かせないからね。列車組の先輩として、『開拓』の作法をみっちり教えてあげるから。」
「ウチも行く!後輩に指導するのは先輩の役目だからね!」
「なのは食べたいだけでしょ。」
「星だってそうでしょ!」
「フフ、お手柔らかにお願いしますね。」
広い列車のラウンジに、笑い声が反響する。
そんな風に話しているうちに、とうとう列車が動き始めた。
……なんだろう、いつもより揺れが強い気がする。これは、いくら成長したなのと言っても厳しいかもしれない。というか、揺れ過ぎだ。今までにここまでの揺れは経験がない。
列車が最高速度に達し、跳躍が開始されると、ガタン!!という大きな音と共に、車内がとても大きく揺れた。
「うわあ!!」
叫び声を上げながら、なのがバランスを崩す。そして……あろうことか、私の座るソファの方へすっ飛んできた。
「ちょっ!?なの!?」
避けようとするのも遅く、なのの頭が私の頭に向かってストライク。
窓の外に星々が煌めくのが見える。アニメなどの表現で、頭をぶつけた時、星が回っているような描写は良くあるが。本物の星がぐるぐる回っているのは、前代未聞だろう。
そんなくだらない思考が脳内をよぎった後、私はばたりと倒れ、目の前は真っ暗になった。
「うう……なののバカ……」
そう言い残すと、星の意識は、深い水底に沈んでいった。
※※※※
睡眠とは、この世で1番心地良い行為だと思う。意識を手放すと、深い海の中を揺蕩っているような気分になる。
「きて……起きて……」
何者かに肩を揺らされている。なんだ。この至福の時間を邪魔してくるのは何者だ?
「起きて!星!」
「……はい!」
自分の名前を大声で呼ばれ、反射で飛び起きる。うーん……私を起こしたのは誰だろう?なの……丹恒……姫子……?
目を開いた先にいたのは、その誰でもなかった。
真っ白な空間の中に、見知らぬ女がいる。ふわりとした綺麗な金髪に、その髪に負けないくらい輝く金色の瞳。見知らぬ……知らないはずなのに。自分の口から自然とその名が紡がれる。
「ミスティカ……?」
「ええ、そうよぉ。約束通り、わたしに逢いに来てくれたのねぇ。」
その名前を告げた瞬間、頭の中で数々の光景がフラッシュバックする。そうだ。彼女はミスティカ。私は、彼女とずっと一緒にいたではないか。列車に乗る前。私が開拓の道を歩み始める前、私の道は、常に彼女と共にあった……はずだ。
「来てくれて嬉しいわぁ。さ、一緒に行きましょ?また前みたいに、わたしと一緒に暮らすのよぉ。」
声を聞く度に、私の心を安心感が包み込む。乾燥機から出したばかりのふわふわのタオルで包まれるような、優しく、暖かい声だ。
「うん。私も、嬉しい……」
地面に手をつき立ち上がり、彼女に近づき手を伸ばそうとする。
しかし、足が動かない。見ると、私の両足に、茨のような物が巻き付いているではないか。
「なにこれ……邪魔……!」
無理矢理足を引っ張り、茨を引き千切ろうとするが、中々上手く行かない。
「この……!やっとミスティカに逢えたのに……!なんで!」
一生懸命引っ張っても、茨は千切れるばかりか、どんどん力が強くなっていく。
「待って!やめて!」
ついには後ろに向かって引き摺られていってしまう。目の前にいるミスティカは、ただただ悲しそうな顔を浮かべるばかりだ。
「行ってしまうのぉ?」
ミスティカが、今にも泣きそうな顔で問いかける。嫌だ。彼女にそんな顔をさせたくない……!
「違う!行きたくない!あなたと……!一緒にいたいのに……!」
「悲しいけど、またお別れみたいねぇ。でも、大丈夫よぉ。」
そこまで言って、彼女の顔から表情が消えた。
「またすぐに逢えるわぁ。」
そう言う彼女の瞳は、それまでとは一転、氷のように冷たかった。背筋がゾクリと寒くなり、金縛りにあったように動けなくなる。こちらに背を向け立ち去る彼女に、もはや一言も声をかけることはできなかった。
足を縛る茨はより強さを増し、空から落下するようなスピードで引っ張られていく。そしてそのまま、真っ暗な闇の中に、堕ちた。
怖い……怖い……!最後のミスティカの表情も、当たり一面を飲み込む暗闇も!落ちていく自分の行く末も!
じたばたと手足を振り回してみるも、空を切るのみだ。
「嫌だっ!やめて!助けてえ!誰か!」
誰もいない。誰もいない。ここには一人。私は一人。昔はそうではなかったのに。逢いたい。逢いたい……!
「……さ……さん……!」
茨の先から、微かな声が聞こえてくる。
「星……きて……起きてよ!星!」
「起きてください!星さん!」
そこまで聞こえて、自分がうなされていたことにようやく気がついた。
「え……?あ、私……夢……?」
「ああ、目覚めましたか。随分うなされているようだったので。悪い夢でも見たのでしょうか?」
見ると、サンデーの茨が手足を縛っていた。私が目を覚ましたのを確認すると、茨はすぅっと透明になり、消えていく。
「まったく!星ったら急に暴れ出すんだから!びっくりしちゃったよ!」
なのは私が暴れている間も、手を握っていてくれたようだ。
「ごめん……悪い夢でも見てたみたい。内容は思い出せないけど。」
昨日の朝と同じだ。何か特別な夢を見た気がするのに、中身は靄がかかったように思い出すことができない。
確か、発車の衝撃でなのとぶつかって、それから……。そこまで考えて、強い違和感を覚える。
「ちょっと待って。ここは一体どこ?」
自分が気を失った時、ラウンジのソファに座っていたはずだ。なのに自分は今ベッドに寝かされているし、このベッドは明らかに列車のものではない。
サンデーを見つめると、彼は俯きながら答えた。
「起きがけに申し訳ないのですが……緊急事態です。列車は跳躍を終えた後、クリムトの港に着陸しようとしたのですが……謎の光帯に襲われ、気づいたらこの場所にいました。それ以外のことは、まだ何も……」
オンパロスの時もそうだったじゃないか。2回連続で不時着だなんて、疫病神でも憑いているのかもしれない。
スマホの時計は1時を指している、跳躍開始時刻が9時くらいだったので、大体4時間が経過したようだ。窓の外からは光が差し込んでいるので、時間は昼で間違いない。
「ウチらも今気がついたばかりなんだ。そしたら急に星がうなされ始めたから、なんとか起こして……ってところだね。」
3人とも気を失っていたということか。
「列車組の皆に連絡は取れる?」
「今やっています……駄目ですね。そもそも電波が届いていないようです。」
「とりあえず、外に出て辺りを観察するべきじゃない?ここに居たって何も始まらないし。」
「星さんの言う通りですね。しかし、ここは民家のようですが、住民の方はいらっしゃらないのでしょうか?」
そう言われればそうだ。自分達はここに寝かされていたのだから、誰かが運んできてくれたのでなければおかしい。
「誰かが助けてくれたならお礼を言わなくちゃ!ウチ、家の中を探してくるね。」
なのはそう告げると、部屋の扉を開け、廊下へと出ていった。
「全く……今回の旅も、順風満帆とは言えない滑り出しのようですね。」
「波乱万丈も開拓の旅の醍醐味だよ。これも楽しめるくらいじゃなきゃ、一人前とは言えないね。」
私は強がって見せるが、内心不安なのはサンデーにも見抜かれているだろう。
「ところで、その『光帯』ってなんなんだろう?」
私はサンデーに問いかける。何者かの攻撃を受けたのは間違いないのだろうが、クリムトからの攻撃……?それとも、何か別の……?
「すみません……。あの光帯が一体なんなのか、というのはワタシにはわかりません。しかし、あの光はクリムトの港の方向から発されていたように見えました。」
港から、ということは、クリムトの側からの攻撃だと推測できる……のか?
「港に人はいたの?」
「ええ、外から見るに、港自体は稼働しているように思えました。明かりもついていましたしね。しかし、出入りする船は一つもありませんでしたから、異様な雰囲気でしたが。」
「連絡は取れないのに、港は動いてるんだ。」
ますますわからない。外側からの通信が遮断されているのに、港は動いている。やはり、自分たちの目で状況を確かめる必要がありそうだ。
「ちょっと!星!サンデー!早く来て!」
階下からなのの声が聞こえた。が、かなり焦っているような声音だ。
「三月さん!なにかあったのですか!?」
「いいから早く!バケモノに襲われてる!」
なのの叫び声が聞こえると共に、ガタンガタンと家具が倒れる音がする。それに、バケモノだって?私とサンデーは一目散に階下へと向かう。
階段を降りると、かなり広々としたリビングが目に入ってきた。その中で、弓を手にしたなのと、文字通りの『バケモノ』が対峙している。
一見すると人のような形をしているのだが、似ているのはその形だけだ。現代アートの彫刻をねじったような体躯は2メートル程の大きさで、とても生物とは思えない極彩色で構成されている。顔は存在せず、本来あるべきところには、極彩色の渦がぐるぐると渦巻いている。その腕は刃物のように尖っており、斬りつけられれば怪我では済まないだろう。
「三月さん!」
なのに斬りかかろうとしたバケモノに、サンデーが放った茨が巻き付いた。
「これでも、喰らえっ!」
動けなくなったバケモノに対して、全力のスイングを叩き込む。吹き飛んだバケモノは、壁に激突し、動かなくなった。
「ありがとう〜!助かったよ。ウチがリビングに入った時、急に後ろから襲ってきたんだ。」
なのは礼を言うと、吹き飛んで動かなくなったバケモノを見つめる。渦を巻いていたバケモノの顔も、同じように動かなくなっている。
「このような生物は見たことがありませんね。この星特有の生物なのでしょうか、……待ってください!まだ動いています!」
サンデーがバケモノに近づくと、止まっていたバケモノの脚がビクンと動き、何事もなかったかのように起き上がった。
「もう一度喰らいたいみたいだ……ねっ!」
すかさず渾身の一撃をぶち込む。銀河打者のバットを受けて、立ち上がれる者はいない。はずなのに。
再び壁に打ち付けられたバケモノは、またもやけろりとした様子で起き上がる。
「こいつ……無敵なの!?」
斬りかかってくるバケモノの腕を、バットで受け止める。
「星さん、三月さん、一度この家から出たほうが良いでしょう。得体のしれない相手と戦うのは危険です!」
サンデーに手を引かれ、3人でリビングを出る。なのが去り際に扉を氷漬けにしたおかげで、バケモノの足止めは出来たようだ。
玄関から外に出ると、そこには不気味な街並みが広がっていた。
異様なのだ。高層のビルが建っていると思えば、隣には木製の小屋が建っている。さらにその隣にはまたビルがあり。その隣にはコンクリート製の民家がある……といったように、極めてアンバランスだ。そして何より、人間が一人も見当たらない。所々見えるのは……たった今、家で対峙していたバケモノのみである。
「ちょっと、あのバケモノだらけじゃん!早く、どこかに隠れなきゃ!」
なのがそう言いきる前に、民家から出てきた私たちに、バケモノ達の視線……あの渦巻く極彩色が向けられる。
「不味いですね……倒しても蘇生するとなれば、逃げるしか手がありません。しかし、どこへ逃げればいいやら……!」
バケモノ達がジリジリと近づいてくる。数体に対してなのが弓を放つが、倒れたそばから起き上がって来るようで、まるで効果がないようだ。
「私が道を切り開くから、真っ直ぐ走って!」
目の前のバケモノ2体をバットで薙ぎ払うと、先行する2人を追って全力で走る。が、しかし、不気味な街並みをどれだけ進んでも、あらゆる路地から新たなバケモノが湧いて出てくる。
「はぁっ……はぁっ……ちょっと、ウチ、厳しいかも……」
息を切らしたなのが路地の壁に倒れ込む。
しばらくの間逃げ続けていたが、同じような風景が続くばかりだった。どうせこれ以上進もうと、出口があるようには思えない。
「星さん!危ない!」
サンデーの呼びかけに振り返ると、いつの間にかバケモノに後ろを取られており、鋭利な腕を振り上げていた。
「うっ!?」
咄嗟にバットを構えようとするが……間に合わない!
思わず目を瞑ると、ダン!!という大きな音が鳴り響いた。
目を開くと、バケモノの横っ腹に大きな穴が開いている。
「ハハハ!『神秘』なぞに惑わされるなよ諸君!眼前の真実を暴くがいい!」
バケモノの腹を撃ち抜いたのは、奇妙な格好をした男だった。ディアストーカーを被り、インバネスコートを羽織っている。端的に言うと、某名探偵のほうな格好だ。
「助かった!ありがとう。」
道の向かいに立つ男に声をかけるが、男は自信に満ちた表情を崩さないまま、今まさに腹の穴が塞がりつつあるバケモノを指刺す。
「そいつはただのヴォイドレンジャーさ。ちょいと『神秘』の力を借りちゃいるがな。」
男はリボルバーのハンマーを落とし、バケモノに向かって構える。
「『知恵』の行人たるこのオレが、貴様の真実を看破してやる。『貴様の正体はただのヴォイドレンジャーだ』不死身の生物なんかじゃねぇよ。」
男がそう告げると共に、リボルバーに向かって光が集まっていく。
「さ、消えな。」
男が引き金を引くと、輝く光の弾丸がバケモノの体を貫く。すると、弾丸を受けた点から段々とヒビが広がり、その体は砕け散った。そしてそこに残ったのは、今までに何度も戦った壊滅の造物、ヴォイドレンジャーの残骸だった。
「オレの名はシェリング。この街で探偵をやっている者だ。よろしくな、星穹列車御一行さん?」
シェリングと名乗った男は、銃口から立ち上る煙をフッと吹き、不敵に笑った。
誤字脱字などあれば是非教えてください!